説明

燃料電池

【課題】カソード出口側で生じた水分を、アノードガス流路を介してカソード入口側へ効率的に運搬・供給して循環させることができ、電解質膜の湿潤状態を良好に維持して出力低下を抑止することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック200に備わるカソードセパレータ226において、カソードガス流路230が画成される領域は、2×2のマトリックス状に4つの領域2261,2262,2263,2264に分画されている。また、領域2261におけるリブRBの間隔は、領域2262におけるリブRBの間隔よりも狭くされており、これにより、領域2261の圧損が領域2262の圧損よりも大きくされている。同様にして、領域2263の圧損が領域2264の圧損よりも小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、燃料電池の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜がカソード及びアノードの両電極間に挟持された構造を有しており、空気等の酸素を含むカソードガス(酸化ガス)がカソードに接触する一方、水素を含むアノードガス(燃料ガス)がアノードに接触することにより、両電極で電気化学反応が生じ、その結果、両電極間に電圧が生起されるように構成されている。
【0003】
かかる燃料電池の構造としては、種々のものが提案されており、例えば、特許文献1には、カソードガスの入口部の開口面積がカソードガスの出口部より大きく形成されており、これにより、カソードガス流路における入口部でのガス流速が出口部でのガス流速よりも遅くなり、カソードガスの入口部における水分持ち去り量を減少させて乾燥を防止することを企図した燃料電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−266632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池においては、一般に、カソード出口(カソードガスが流出する部位)側にアノード入口(アノードガスが流入する部位)を配置し、且つ、アノード出口(アノードガスが流出する部位)側にカソード入口(カソードガスが流入する部位)を配置し、カソード側で生じる水を、カソード出口(アノード入口)からアノード出口(カソード入口)へ運搬することにより、電解質膜の湿潤状態、すなわち、燃料電池における水バランスを保持する方法が広く採用されている。
【0006】
しかし、例えば、高温無加湿運転と呼ばれるような高温条件で燃料電池の運転を続けると、アノード入口付近でカソード出口付近の水分を奪っても、アノード出口付近にその水分を運搬する過程でカソード側に水分を奪われてたり、発電の進行によるアノードガス中の水素消費に伴って水素自体が水分を保持できる量が減少したりするため、カソード入口近傍の特にアノード出口近傍では、電解質膜が局所的に乾燥してしまい、その結果、その部位で発電ができなくなって出力が低下するといった問題が起こり得る。一方、低温運転時においては、カソード出口側でアノード入口から遠い部位(領域)では、アノードガス中の水分が飽和に達しているため、カソード側から水分を奪うことができなくなってフラッディングが生じ、この場合にも、局所的な発電性能の低下して出力が低下する可能性がある。これらは、上記特許文献1に記載された燃料電池においても懸念される事象であり、また、アノードガス流路がサーペンタイン流路であり且つカソードガス流路がストレート流路であって、両者が直交する構成において、特に顕著となる場合がある。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を抑止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による燃料電池は、電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路とを備え、カソードガス流路において、カソード入口近傍で且つアノード出口に比較的近い領域における圧損が、カソード入口近傍で且つアノード出口から比較的遠い領域における圧損よりも大きくされており、カソード出口近傍で且つアノード入口から比較的遠い領域における圧損が、カソード出口近傍で且つアノード入口に比較的近い領域における圧損よりも小さくされている。
【0009】
このように、カソードガス流路及びアノードガス流路が互いに直交又は略直交するように設けられており、且つ、アノード入口及びアノード出口がそれぞれカソード出口近傍及びカソード入口近傍に配置されている場合、カソード入口近傍における特にアノード出口に比較的近い領域が乾燥し易く、カソード出口近傍における特にアノード入口から比較的遠い領域がフラッディングし易い傾向にある。
【0010】
これに対し、本発明による燃料電池では、上述の如く、カソードガス流路において、乾燥し易い領域、つまりカソード入口近傍で且つアノード出口に比較的近い領域における圧損が、カソード入口近傍で且つアノード出口から比較的遠い領域における圧損よりも大きくされているので、その乾燥し易い領域におけるガス流量が相対的に減少する。同時に、カソードガス流路において、フラッディングし易い領域、つまりカソード出口近傍で且つアノード入口から比較的遠い領域における圧損が、カソード出口近傍で且つアノード入口に比較的近い領域における圧損よりも小さくされているので、そのフラッディングし易い領域におけるガス流量が相対的に増大する。
【0011】
その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持したまま、アノード出口側における乾燥し易い領域を流れるカソードガス流量が相対的に少なくされ、これにより、その部位からの水分の持ち去りを減少させて、カソード入口近傍における局所的な乾燥を抑制することができる。また、カソードガス全体の流量を一定に保持したまま、カソード出口側におけるフラッディングし易い領域を流れるカソードガス流量が相対的に多くされ、これにより、その部位からより多くの水分を奪い去って、カソード出口近傍における局所的なフラッディングの発生をも防止することができる。
【0012】
具体的には、カソードガス流路が多孔体流路であり、そのカソードガス流路において、カソード入口近傍で且つアノード出口に比較的近い領域における気孔率が、カソード入口近傍で且つアノード出口から比較的遠い領域における気孔率よりも小さくされており、カソード出口近傍で且つアノード入口から比較的遠い領域における気孔率が、カソード出口近傍で且つアノード入口に比較的近い領域における気孔率よりも大きくされるように構成してもよい。
【0013】
また、カソード入口の幅が、アノード出口から遠ざかるにしたがって徐々に大きくされており、且つ、カソード出口の幅が、アノード入口から遠ざかるにしたがって徐々に大きくされていても好適である。
【0014】
或いは、カソードガス流路には複数のリブが配設されており、カソードガス流路において、カソード入口近傍で且つアノード出口に比較的近い領域におけるリブの間隔が、カソード入口近傍で且つアノード出口から比較的遠い領域におけるリブの間隔よりも狭くされており、カソード出口近傍で且つアノード入口から比較的遠い領域におけるリブの間隔が、カソード出口近傍で且つアノード入口に比較的近い領域におけるリブの間隔よりも広くされていても好適である。
【0015】
また、本発明による燃料電池は、電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路とを備え、カソードガス流路において、カソード入口近傍で且つアノード出口に比較的近い領域におけるカソードガス流量が、カソード入口近傍で且つアノード出口から比較的遠い領域におけるカソードガス流量よりも少なくされており、カソード出口近傍で且つアノード入口から比較的遠い領域におけるカソードガス流量が、カソード出口近傍で且つアノード入口に比較的近い領域におけるカソードガス流量よりも多くされているものでも有用である。
【発明の効果】
【0016】
以上のことから、本発明の燃料電池によれば、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を効果的に抑止ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による燃料電池の第1実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図である。
【図2】本発明による燃料電池の第2実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図である。
【図3】本発明による燃料電池の第3実施形態に備わるカソードセパレータの構造を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明による燃料電池に係る参考例の構造を概略的に示す斜視図である。
【図5】図1に示す燃料電池スタック10における単位セル20の一断面を示す模式図である。
【図6】実施例1の燃料電池における符号A,B,C,D,E,Fで示す領域の水分量を測定した結果を示すグラフである。
【図7】比較例1の燃料電池における符号A,B,C,D,E,Fで示す領域の水分量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池の第1実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図(一点透視図法による)である。燃料電池スタック10は、固体高分子分離膜を備えた固体高分子型の燃料電池(PEMFC)であり、主として燃料電池自動車等に搭載されるものである。この燃料電池スタック10は、単位セル20を複数積層したスタック構造を有している(なお、図示においては一単位のみ示す)。また、単位セル20は、電解質膜を挟んでアノードとカソードが配置されたMEA21(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)の両面外側に、ガス拡散層22がシールガスケット(図示せず)によって一体に形成された発電体23、及び、隣接する発電体23,23を隔離する例えばステンレス鋼やチタン等の導電性金属材料からなるカソードセパレータ26及びアノードセパレータ28から構成されている。
【0020】
なお、隣接する発電体23,23を隔離するセパレータは、上記のカソードセパレータ26、中間プレート(図示せず;主として冷却水の流路となる)、及び、上記のアノードセパレータ28が積層された三層積層型のユニットをなしており、図示との整合をとるべく、ここでは、単位セル20を上述の如く定義した。
【0021】
また、カソードセパレータ26と発電体23との間には、カソードガスが流通する白抜矢印で示すカソードガス流路30(ストレート流路)が画成されている。さらに、アノードセパレータ28と発電体23との間には、図示水平方向に延在する複数のリブRAによって画成され且つアノードガスが流通する白抜矢印で示すアノードガス流路40(サーペンタイン流路)が画成されている。そして、発電体23、カソードセパレータ26、及びアノードセパレータ28の縁周部には、カソードガス流路30に連通するカソード入口31、及び、同カソード出口32、並びに、アノードガス流路40に連通するアノード入口41、及び、同アノード出口42が設けられている。
【0022】
このように、カソード入口31は、空気等のカソードガスをMEA21のカソード側へ供給するためのカソードガス入口マニホールドとして、また、カソード出口32は、カソードガスを排出するためのカソードガス出口マニホールドとして機能する。同様に、アノード入口41は、水素を含む燃料ガスであるアノードガスをMEA21のアノード側へ供給するためのアノードガス入口マニホールドとして、また、アノード出口42は、アノードガスを排出するためのアノードガス出口マニホールドとして機能する。
【0023】
ここで、カソードセパレータ26におけるカソードガス流路30が画成される領域は、図1において模式的に示すように、2×2のマトリックス状に長辺及び短辺のそれぞれの中央において4つの領域261,262,263,264に分画されている。これらの領域は何れも多孔体流路であって、領域261の気孔率が領域262の気孔率より小さく、これにより、領域261(すなわちカソード入口31近傍で且つアノード出口42に比較的近い領域)の圧損が領域262(すなわちカソード入口31近傍で且つアノード出口42から比較的遠い領域)の圧損よりも大きくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持した状態で、領域261(カソード入口31近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域)のカソードガス流路301におけるガス流量が、領域261のカソードガス流路302におけるガス流量よりも相対的に減少する。これにより、領域261からの水分の持ち去りを減少させて、カソード入口31近傍における局所的な乾燥を抑制することができる。
【0024】
また、領域263の気孔率が領域264の気孔率より大きく、これにより、領域263(すなわちカソード出口32近傍で且つアノード入口41から比較的遠い領域)の圧損が領域264(すなわちカソード出口32近傍で且つアノード入口41に比較的近い領域)の圧損よりも小さくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持したまま、領域263(カソード出口32近傍の領域のなかでもフラッディングし易い領域)のカソードガス流路303におけるガス流量が、領域264におけるカソードガス流路304のガス流量よりも相対的に増大する。これにより、領域263からより多くの水分を奪い去って、カソード出口32近傍における局所的なフラッディングの発生をも防止することができる。
【0025】
したがって、かかる構成を有する燃料電池スタック10によれば、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を効果的に抑止することが可能となる。
【0026】
(第2実施形態)
図2は、本発明による燃料電池の第2実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図(一点透視図法による)である。燃料電池スタック100は、単位セル20に替えて単位セル120を備えること以外は図1に示す燃料電池スタック10と同様に構成されたものである。この単位セル120は、燃料電池スタック10の単位セル20における発電体23、カソードセパレータ26、及びアノードセパレータ28に替えて、それぞれ、発電体123、カソードセパレータ126、及びアノードセパレータ128を備えている。
【0027】
また、カソードセパレータ126と発電体123との間には、カソードガスが流通する白抜矢印で示すカソードガス流路130(ストレート流路)が画成されている。なお、カソードガス流路130は、一定の気孔率を有する領域1260を備える多孔体流路である。さらに、アノードセパレータ128と発電体123との間には、燃料電池スタック1と同様に、図示水平方向に延在する複数のリブRAによって画成され且つアノードガスが流通する白抜矢印で示すアノードガス流路40(サーペンタイン流路)が画成されている。そして、発電体123、カソードセパレータ126、及びアノードセパレータ128の縁周部には、カソードガス流路130に連通するカソード入口131、及び、同カソード出口132、並びに、アノードガス流路40に連通するアノード入口41、及び、同アノード出口42が設けられている。
【0028】
このように、カソード入口131は、空気等のカソードガスをMEA21のカソード側へ供給するためのカソードガス入口マニホールドとして、また、カソード出口132は、カソードガスを排出するためのカソードガス出口マニホールドとして機能する。同様に、アノード入口41は、水素を含む燃料ガスであるアノードガスをMEA21のアノード側へ供給するためのアノードガス入口マニホールドとして、また、アノード出口42は、アノードガスを排出するためのアノードガス出口マニホールドとして機能する。
【0029】
ここで、燃料電池スタック100においては、カソードガス入口マニホールドであるカソード入口131の幅W1ひいては断面積が、アノード出口42から遠ざかる(離れる)にしたがって徐々に大きくされている。これにより、カソード入口131近傍で且つアノード出口42に比較的近い領域の圧損が、カソード入口131近傍で且つアノード出口42から比較的遠い領域の圧損よりも大きくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持した状態で、カソード入口131近傍で且つアノード出口42に比較的近い領域(カソード入口131近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域)のカソードガス流路1301におけるガス流量が、カソード入口131近傍で且つアノード出口42から比較的遠い領域のカソードガス流路1302におけるガス流量よりも相対的に減少する。これにより、カソード入口131近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域からの水分の持ち去りを減少させて、カソード入口131近傍における局所的な乾燥を抑制することができる。
【0030】
また、カソードガス出口マニホールドであるカソード出口132の幅W2ひいては断面積が、アノード入口41から遠ざかる(離れる)にしたがって徐々に大きくされている。これにより、カソード出口132近傍で且つアノード入口41から比較的遠い領域の圧損が、カソード出口132近傍で且つアノード入口41に比較的近い領域の圧損よりも小さくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持したまま、カソード出口132近傍で且つアノード入口41から比較的遠い領域(カソード出口32近傍の領域のなかでもフラッディングし易い領域)のカソードガス流路1301におけるガス流量が、カソード出口132近傍で且つアノード入口41に比較的近い領域のカソードガス流路1302におけるガス流量よりも相対的に増大する。これにより、カソード出口132近傍の領域のなかでもフラッディングし易い領域からより多くの水分を奪い去って、カソード出口132近傍における局所的なフラッディングの発生をも防止することができる。
【0031】
したがって、かかる構成を有する燃料電池スタック100によれば、カソードセパレータ126の領域1260の気孔率を一定にしても、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を効果的に抑止することが可能となる。
【0032】
よって、カソード出口132側で生じた水分を、アノードガス流路40を介してカソード入口131側へ極めて効率的に運搬・供給して循環させることができ(カウンターフロー効果の促進)、これにより、通常運転時だけではなく高温運転時においても、発電体123のMEA21における電解質膜の湿潤状態を、従来に比して格段に良好に維持して燃料電池スタック100の出力低下を効果的に防止することが可能となる。
(第3実施形態)
【0033】
図3は、本発明による燃料電池の第3実施形態に備わるカソードセパレータの構造を概略的に示す斜視図である。燃料電池スタック200に備わるカソードセパレータ226におけるカソードガス流路230が画成される領域は、図3において模式的に示すように、2×2のマトリックス状に長辺及び短辺のそれぞれの中央において4つの領域2261,2262,2263,2264に分画されている。
【0034】
これらの領域には、カソード入口31及びカソード出口32間に延在する複数のリブRBが設けられており、領域2261におけるリブRBの間隔が、領域2262におけるリブRBの間隔よりも狭くされており、これにより、領域2261(すなわちカソード入口31近傍で且つアノード出口42に比較的近い領域)の圧損が領域2262(すなわちカソード入口31近傍で且つアノード出口42から比較的遠い領域)の圧損よりも大きくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持した状態で、領域2261(カソード入口31近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域)のカソードガス流路2301におけるガス流量が、領域2261のカソードガス流路2302におけるガス流量よりも相対的に減少する。これにより、領域2261からの水分の持ち去りを減少させて、カソード入口31近傍における局所的な乾燥を抑制することができる。
【0035】
また、領域2263におけるリブRBの間隔が、領域2264におけるリブRBの間隔よりも広くされており、これにより、領域2263(すなわちカソード出口32近傍で且つアノード入口41から比較的遠い領域)の圧損が領域2264(すなわちカソード出口32近傍で且つアノード入口41に比較的近い領域)の圧損よりも小さくされている。その結果、カソードガス全体の流量を一定に保持したまま、領域2263(カソード出口32近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域)のカソードガス流路2303におけるガス流量が、領域2264のカソードガス流路2304におけるガス流量よりも相対的に増大する。これにより、領域2263からより多くの水分を奪い去って、カソード出口32近傍における局所的なフラッディングの発生をも防止することができる。
【0036】
したがって、かかる構成のカソードセパレータ226を有する燃料電池スタックによっても、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を効果的に抑止することが可能となる。
【0037】
図4は、本発明による燃料電池に係る参考例の構造を概略的に示す斜視図である。燃料電池スタック300は、単位セル320が複数積層されたものであり、カソードガス流路及びアノードガス流路は、それらの方向が、先述した燃料電池スタック10,100,200と同様に形成されている。燃料電池スタック300においては、カソードガス入口マニホールドにカソードガス供給配管331が接続されており、カソードガス出口マニホールドにカソードガス排出配管332が接続されている。また、アノードガス入口マニホールドにアノードガス供給配管341が接続されており、アノードガス出口マニホールドにアノードガス排出配管342が接続されている。
【0038】
そして、カソードガス供給配管331は、カソードガス入口マニホールドの前段で枝管3301,3302に分岐されており、カソードガス入口マニホールドにおけるアノードガス出口マニホールドに比較的近い領域に接続された枝管3301の管径が、カソードガス入口マニホールドにおけるアノードガス出口マニホールドから比較的遠い領域に接続された枝管3302の管径よりも小さくされている。その結果、カソードガス入口マニホールド近傍で且つアノードガス出口マニホールドに比較的近い領域(カソードガス入口マニホールド近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域)のカソードガス流量が、カソードガス入口マニホールド近傍で且つアノードガス出口マニホールドから比較的遠い領域のカソードガス流量よりも相対的に減少する。これにより、カソードガス入口マニホールド近傍の領域のなかでも乾燥し易い領域からの水分の持ち去りを減少させて、カソードガス入口マニホールド近傍における局所的な乾燥を抑制することができる。
【0039】
また、カソードガス排出配管332は、カソードガス出口マニホールドの前段で枝管3303,3304に分岐されており、カソードガス出口マニホールドにおけるアノードガス入口マニホールドから比較的遠い領域に接続された枝管3303の管径が、カソードガス出口マニホールドにおけるアノードガス入口マニホールドから比較的遠い領域に接続された枝管3304の管径よりも大きくされている。その結果、カソードガス出口マニホールド近傍で且つアノードガス入口マニホールドから比較的遠い領域(カソードガス出口マニホールド近傍の領域のなかでもフラッディングし易い領域)のカソードガス流量が、カソードガス出口マニホールド近傍で且つアノードガス入口マニホールドに比較的近い領域のカソードガス流量よりも相対的に増大する。これにより、カソードガス出口マニホールド近傍の領域のなかでもフラッディングし易い領域からより多くの水分を奪い去って、カソードガス出口マニホールド近傍における局所的なフラッディングの発生をも防止することができる。
【0040】
したがって、このように構成された燃料電池スタック300においても、カソード側での局所的な乾燥及び局所的なフラッディングの発生に起因する発電性能及び出力の低下を効果的に抑止することが可能となる。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図1に示す燃料電池スタック10と同等の構成を有する燃料電池を用意した。図5は、その燃料電池(便宜的に燃料電池スタック10にいう)における単位セル20の一断面を示す模式図である。図示においては、カソードガス流路及びアノードガス流路において、アノードガス流路の上流側から下流側に向かって、領域を示す符号A,B,C,D,E,Fを付記した。図1に示すのと同様に、カソードガスの流量は、カソードガス流路301<カソードガス流路302、及び、カソードガス流路303>カソードガス流路304で表される関係が満たされている。
【0043】
(比較例1)
図1における領域261,262,263,264の気孔率が全て同じに形成されたこと以外は、図1及び図5に示す燃料電池スタック10と同様の構成を有する燃料電池を用意した。この燃料電池においては、カソードガス流路301,302,303,304におけるカソードガスの流量が同一とされている。
【0044】
(評価試験)
実施例1及び比較例1の燃料電池において、符号A,B,C,D,E,Fで示す領域の水分量を測定した。図6及び図7に、それぞれ実施例1及び比較例1の結果を示す。同図において、白抜三角印のプロットは、カソードガス中の水分量(任意単位)を示し、黒塗丸印のプロットは、カソードガス中の水分量(任意単位)を示す。これらの結果より、実施例1及び比較例1ともに、領域Bにおける水分量が相対的に最も高く、この領域Bにおいてフラッディングが最も生じ易いことが理解され、また、領域Fにおける水分量が相対的に最も低く、この領域Fにおいて乾燥が最も生じ易いことが理解される。
【0045】
また、実施例1では、領域Bにおけるカソードガス中の水分量(図6において一点鎖線で示す範囲E1)が、比較例1のそれ(図7において一点鎖線で示す範囲C1)に比して有意に低下し、且つ、領域Fにおけるアノードガス中の水分量(図6において一点鎖線で示す範囲E2)が、比較例1のそれ(図7において一点鎖線で示す範囲C2)に比して有意に増大することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したとおり、本発明は、燃料電池における電解質膜の湿潤状態を良好に維持して燃料電池の出力低下を有効に防止することができるので、燃料電池全般、燃料電池を備える機器、システム、設備等、及び、それらの製造に広く且つ有効に利用することができる。なお、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において、種々の用途に応じて様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10,100,200,300…燃料電池スタック(燃料電池)、20,120,320…単位セル、21…MEA、22…ガス拡散層、23,123…発電体、26,126,226…カソードセパレータ、28,128…アノードセパレータ、30,130,301,302,303,304,1301,1302,2301,2302,2303,2304…カソードガス流路、40…アノードガス流路、31,131…カソード入口、32,132…カソード出口、41…アノード入口、42…アノード出口、261,262,263,264,1260,2261,2262,2263,2264…領域、331…カソードガス供給配管、332…カソードガス排出配管、341…アノードガス供給配管、342…アノードガス排出配管、3301,3302,3303,3304…枝管、RA,RB…リブ、W1,W2…幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、
互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路と、
を備え、
前記カソードガス流路において、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口に比較的近い領域における圧損が、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口から比較的遠い領域における圧損よりも大きくされており、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口から比較的遠い領域における圧損が、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口に比較的近い領域における圧損よりも小さくされている、
燃料電池。
【請求項2】
前記カソードガス流路が多孔体流路であり、
前記カソードガス流路において、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口に比較的近い領域における気孔率が、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口から比較的遠い領域における気孔率よりも小さくされており、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口から比較的遠い領域における気孔率が、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口に比較的近い領域における気孔率よりも大きくされている、
請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カソード入口の幅が、前記アノード出口から遠ざかるにしたがって徐々に大きくされており、
前記カソード出口の幅が、前記アノード入口から遠ざかるにしたがって徐々に大きくされている、
請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記カソードガス流路には複数のリブが配設されており、
前記カソードガス流路において、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口に比較的近い領域における前記リブの間隔が、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口から比較的遠い領域における前記リブの間隔よりも狭くされており、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口から比較的遠い領域における前記リブの間隔が、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口に比較的近い領域における前記リブの間隔よりも広くされている、
前記請求項1記載の燃料電池。
【請求項5】
電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、
互いに直交又は略直交するように設けられており、アノード入口がカソード出口近傍に配置され、且つ、アノード出口がカソード入口近傍に配置されるように構成されたカソードガス流路及びアノードガス流路と、
を備え、
前記カソードガス流路において、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口に比較的近い領域におけるカソードガス流量が、前記カソード入口近傍で且つ前記アノード出口から比較的遠い領域におけるカソードガス流量よりも少なくされており、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口から比較的遠い領域におけるカソードガス流量が、前記カソード出口近傍で且つ前記アノード入口に比較的近い領域におけるカソードガス流量よりも多くされている、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69647(P2013−69647A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209344(P2011−209344)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】