説明

燃焼機関および一般鋳造物用高耐性ねずみ鋳鉄合金を得るための方法

本願の対象は、ねずみ鋳鉄合金の機械的特性および物性、すなわち、優れた被削性、制振、熱伝導率、低い鋳引け傾向および良好な微細構造安定性を、CGI引張強さの幅広い界面範囲と一緒に、同時に示す新しい合金を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削性条件を従来のねずみ鋳鉄合金と適合するように保ちつつ、より高い引張強さを得るための新しい方法によって製造される新しい種類のねずみ鋳鉄合金を定める。より具体的には、この方法により製造される材料は、高圧縮率の燃焼機関、または一般鋳造物、および軽量化が目的とされる従来の燃焼機関のいずれかにおいて使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ねずみ鋳鉄合金は、19世紀の末以来知られており、主に燃焼機関が要求するその際立った特性のため、自動車産業において絶対的な成功を収めてきた。これらのねずみ鋳鉄合金の特徴のうちのいくつかは、下記のものを提供するとして、長い間、認識されてきた:
・優れた熱伝導率
・優れた制振能
・優れた被削性レベル
・比較的小さい鋳引け率(鋳造物において内部気泡の傾向が低いこと)
・良好な熱疲労レベル(モリブデン系合金を使用する場合)。
【0003】
しかしながら、より大きい出力、より低い燃費および環境目的のためのより低い排出量といった燃焼機関の要求が増してきたため、より高い圧縮率の燃焼機関が要求する最小限の引張強さを、従来のねずみ鋳鉄合金が達成することはほとんどない。一般に、簡単な参照として、このような引張強さの要求は、シリンダーブロック上の主軸受の場所またはシリンダーヘッド上の点火面(fire face)の場所で、最小300MPaに始まる。
【0004】
正確に言えば、現在のねずみ鋳鉄合金の大きな制約は、より高い張力が必要とされるとき、現在のねずみ鋳鉄合金は被削性の大幅な減少を呈するということである。
【0005】
かくして、このような問題を解決するために、一部の冶金学者および材料の専門家は、コンパクト黒鉛系の、通常はコンパクト黒鉛鉄(CGI)として知られる、異なる合金に焦点を当てるべきだと考えた。多くの論文がCGI特性を論じている:
・非特許文献1(AFSの許可を得て転載)、
・非特許文献2、
・非特許文献3、
・非特許文献4、
・非特許文献5、
・非特許文献6。
【0006】
実際、いくつかの特許出願がCGIプロセスに関してなされた:
・1987年5月26日の特許文献1、特許権者Sinter−Cast AB(Viken、SE)。「A method for producing castings from cast−iron containing structure−modifying additives」。溶鉄の槽からの試料は、凝固するのに0.5〜10分間かかる。
・1992年4月30日の特許文献2、特許権者SINTERCAST LTD。「A method for controlling and correcting the composition of cast iron melt and securing the necessary amount of structure modifying agent」。
【0007】
このCGI合金は際立った引張強さを提供するが、このCGI合金は、その特性または工業化に関して他の重大な制約も呈する。これらの制約の中でも、本発明者らは、以下のものを強調することができる:
・より低い熱伝導率;
・より低い制振能;
・より低い被削性レベル(従って、より高い機械加工コスト);
・より高い鋳引け率(従って、内部気泡に向かうより高い傾向);および
・より低い微細構造安定性(鋳造品の肉厚に強く依存する)。
【0008】
この状況において、課題は、CGI合金の幅広い引張強さ界面と同時に、上記ねずみ鋳鉄合金の同様の際立った特性を保つ合金を創出することであった。これが本発明の範囲である。
【0009】
現在、鋳造所においてねずみ鋳鉄鋳造品を得るための方法は、以下の工程を有する:
・溶融段階:投入物(スクラップ、銑鉄、鋼鉄など)が溶銑炉、誘導炉またはアーク炉によって溶融される、
・化学的均衡:要求される仕様に従って化学元素(C、Si、Mn、Cu、Sなど)を調整するために、誘導炉内部の液体バッチに対して通常行われる、
・接種段階:十分な核を促進して、望ましくない炭化物の生成を回避するために、一般に鋳込み取鍋で、または型鋳込み操作(鋳込み炉を使用する場合)で行われる、
・鋳込み段階:鋳巣、砂内での燃焼および鋳造凝固後の鋳引けを防止するための範囲の中で通常定められる鋳込み温度で、鋳造ラインで行われる。換言すれば、鋳込み温度は、鋳造される物質の健全性の関数として実際に定められる。
・砂落とし段階:通常は、型内部での鋳造物の温度が、共析温度(約700℃)よりも低く、十分に下がったときに行われる。
【0010】
このようなプロセスが世界中の鋳造所で適用されており、多くの書籍、学術論文および技術論文の対象であった:
・非特許文献7、
・非特許文献8、
・非特許文献9、
・非特許文献10、
・非特許文献11、
・非特許文献12、
・非特許文献13、
・非特許文献14。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,667,725号明細書
【特許文献2】国際公開第9206809(A1)号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.D.Grffin、H.G.Li、E.Eleftheriou、C.E.Bates、「Machinability of Gray Cast Iron」、Atlas Foundry Company
【非特許文献2】F.KoppkaおよびA.Ellermeier、「O Ferro Fundido de Grafita Vermicular ajuda a dominar altas pressoes de combustao」、Revista MM、2005年1月
【非特許文献3】Marquard,RおよびSorger,H.、「Modern Engine Design」、CGI Design and Machining Workshop,Sintercast − PTW Darmstadt、ドイツ、バート・ホンブルク(Bad Homburg)、1997年11月
【非特許文献4】Palmer,K.B.、「Mechanical properties of compacted graphite iron」、BCIRA Report 1213、1976年、31−37頁
【非特許文献5】ASM.Speciality handbook:cast irons、United States:ASM International、1996年、33−267頁
【非特許文献6】Dawson,Steveら、Design and Machining Workshop − CGIにおける「The effect of metallurgical variables on the machinability of compacted graphite iron」、1999年
【非特許文献7】Gray Iron Founders’ Society:Casting Design,Volume II:Taking Advantage of the Experience of Patternmaker and Foundryman to Simplify the Designing of Castings、クリーブランド、1962年
【非特許文献8】Straight Line to Production:The Eight Casting Processes Used to Produce Gray Iron Castings、クリーブランド、1962年
【非特許文献9】Henderson,G.E.およびRoberts、「Metals Handbook」、第8版、第1、2および5巻、American Society for Metals、オハイオ州、メタルズパーク(Metals Park)
【非特許文献10】Gray & Ductile iron Castings Handbook、Gray and Ductile Iron Founders Society、1971年、オハイオ州、クリーブランド
【非特許文献11】Gray,DuctileおよびMalleable、「Iron Castings Current Capabilities」、ASTM STP 455、1969年
【非特許文献12】Hans Berns、Werner Theisen、G.Scheibelein、「Ferrous Materials:Steel and Cast Iron」、Springer;第1版、2008年10月24日
【非特許文献13】Microstructure of Steels and Cast Irons Madeleine Durand−Charre Springer;第1版、2004年4月15日
【非特許文献14】Cast Irons(Asm Specialty Handbook)、ASM International、1996年9月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願の対象は、CGIの引張強さの幅広い界面範囲を有する、ねずみ鋳鉄合金の機械的特性および物性を与える、新しい方法を通して得られる合金を定めることである。片状黒鉛に基づくこの新しい合金は、高性能鉄(HPI)合金である。それゆえ、その高引張強さのほかに、当該HPI合金は、(ねずみ鋳鉄合金と適合する)優れた被削性、制振、熱伝導率、低鋳引け傾向および良好な微細構造安定性を与える。
【0014】
上記HPIの特徴は、5つの冶金学の基本項目である化学分析;液体金属の酸化;液体金属の核形成;共晶凝固および共析的凝固、の間の特定の相互作用を定める方法によって得られる。
【0015】
本願は、以下の限定を意図しない図面に基づいて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】当該HPI合金の微細構造(エッチングされていないもの)を示す。
【図2】当該HPI合金の微細構造(エッチングされたもの)を示す。
【図3】従来のねずみ鋳鉄合金の微細構造(エッチングされていないもの)を示す。
【図4】従来のねずみ鋳鉄合金の微細構造(エッチングされたもの)を示す。
【図5】脱酸素プロセス前のチル試験プローブを示す。
【図6】脱酸素プロセス後のチル試験プローブを示す。
【図7】当該HPI合金についての冷却曲線およびその導関数を示す。
【図8】従来のねずみ鋳鉄合金についての冷却曲線およびその導関数を示す。
【図9】ねずみ鋳鉄合金および当該HPI合金を比較する冶金学的ダイアグラムを示す。
【図10】境界に分けたFe−CおよびFe−Fe3Cの平衡状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、片状黒鉛ベースの、従来のねずみ鋳鉄の同じ優れた工業的な特性を有し、より高い引張強さ(最高370Mpa)を有する新しい合金を得るための方法を定める。このより高い引張強さのため、この合金は、CGI合金と比較した場合、有利な代替物となる。
【0018】
分析的で実用的な手段によって、当該方法は、5つの冶金学の基本項目である化学分析;液体バッチの酸化レベル;液体バッチの核形成レベル;共晶凝固および共析的凝固、の間の相互作用を促進することができる。本発明の方法によって、この新しい高性能鉄合金(本願明細書ではHPIと呼ぶ)を製造するために、これらの基本項目の各1つからの最良の条件の取得が可能になる。
【0019】
化学分析:
化学的補正は、誘導炉で従来のやり方で行われ、当該化学元素は、市場ですでに公知の元素、C、Si、Mn、Cu、Sn、Cr、Mo、PおよびSと同じ元素である。
【0020】
しかしながら、望ましい片状黒鉛モルホロジー(タイプA、サイズ4〜7、尖った端部をもたない薄片)、望ましい微細構造マトリクス(100% パーライト、最大2% 炭化物)および望ましい材料特性を得ることができるように、いくつかの化学元素のバランスについての以下の基準が保たれなければならない:
・炭素当量(CE)は、3.6重量%〜4.0重量%の範囲で定められるが、同時に2.8%〜3.2%のC含有量を保つ。当該HPI合金は、従来のねずみ鋳鉄合金と比較した場合、より高い亜共晶の傾向を有する。
・Cr含有量は最大0.4%として定められ、Moに関連付けると、以下の基準に従う必要がある:%Cr+%Mo≦0.65%。これで、適正なパーライト微細化が可能になることになる。
・CuおよびSnは、以下の基準に従って関連付けられる必要がある:0.010%≦[%Cu/10+%Sn]≦0.021%。
・SおよびMn含有量は、特定の範囲の比%Mn/%Sの中で定められ、これは、硫化マンガンMnSの平衡温度が常に「液相温度」の下で起こる(共晶開始温度付近が好ましい)ことを保証するように算出される。材料の機械的特性を改善することのほかに、この基準は、液体バッチ内部での核形成を促す。表1は、%Mnが0.4%〜0.5%の間で定められたディーゼルシリンダーブロックについての、このような基準の適用を提示する。
【0021】
【表1】

・Si含有量範囲は、2.0%〜2.40%で定められる。
・「P」含有量は、%P≦0.10%として定められる。
【0022】
図1、2、3および4は、従来のねずみ鋳鉄とHPI合金との間で比較した微細構造を示し、これらの図で、マトリクス状に広がった黒鉛モルホロジーおよび黒鉛「密度」を観察することができる。
【0023】
液体バッチの酸化
当該HPI合金を得るために、誘導炉の中にある液体バッチは、核を促進しない合体した酸化物がないものである必要がある。さらに、それらは液体バッチの中で均一である必要もある。そこで、このような基準を満たすために、以下の工程に従う脱酸素のためのプロセスが開発された:
・二酸化ケイ素(SiO2)の平衡温度を超えて加熱炉温度を上昇させること;
・加熱炉の電力を少なくとも5分間停止して、合体した酸化物および他の不純物の浮揚を促進すること;
・液体バッチの表面上に凝集剤を広げること;および
・合体した酸化物ですでに飽和したこのような凝集剤物質を除去して、より清浄な液体金属を加熱炉の中に残すこと。
【0024】
この操作は核形成レベルを低下させる(脱酸素プロセスの前後でのチル試験プローブを提示する図5および6を参照)という事実にもかかわらず、上記工程は、核のプロモーターである活性な酸化物だけが液体バッチの中に留まるということを確実にする。このような操作は、後に付与されることになる接種剤の有効性を高めもする。
【0025】
液体バッチの核形成
従来のねずみ鋳鉄合金と比較したときのHPI合金の別の重要な特徴は、はっきりと高まった共晶のセル数である。当該HPI合金は、現在のねずみ鋳鉄合金で行われた同じ鋳造と比較した場合、20%〜100%多いセルを与える。このより高いセル数は、より小さい黒鉛サイズを直接的に促進し、従ってHPI材料の引張強さの上昇に直接寄与する。加えて、より多くのセル数は、各々の核のまさにコアで形成されるより多くのMnSをも暗示する。このような現象が、HPI材料が機械加工されるときの工具の寿命を延ばすことは明らかである。
【0026】
化学的補正および脱酸素プロセスの後に、加熱炉の中にある液体バッチは、以下の方法に従って核形成される必要がある:
・加熱炉液体バッチの15%〜30%を特定の取鍋に鋳込むこと、
・この操作の間に、まさに液体金属の流れに対して0.45重量%〜0.60%重量%の粒状のFe−Si−Sr合金またはFe−Si−Ba−La合金を接種すること、
・接種した液体金属を取鍋から加熱炉へと戻すこと(この操作を強い金属フローに保つ)、
・このような操作の間、加熱炉は、「作動した」状態に保たれる必要がある。
【0027】
新しい核を作り出すことのほかに、この方法では、加熱炉の中にある液体金属の活性酸化物数も増加する。
【0028】
次に、通常の接種段階が、鋳造所ではかなり以前から公知である従来のやり方で行われる。しかしながら、HPI合金についての差異は、まさに、鋳込み操作の直前に鋳込み用取鍋または鋳込み用加熱炉で加えられる接種剤の重量%の範囲である:0.45%〜0.60%。これは、従来のねずみ鋳鉄合金を行うためにこの工程で現在加えられる接種剤の約2倍のパーセントになる。
【0029】
以下の工程は、熱分析による液体金属の核形成を特定することである。本願の目的である当該方法は、冷却曲線からの2つの熱的パラメータを、望ましい核形成レベルを保証するためにより有効であると規定する:
1)共晶過冷度(Eutectic Under−Cooling Temperature)「Tse」および、
2)共晶再輝温度(Eutectic Recalescence Temperature)の範囲「ΔT」。
【0030】
液体金属がHPIの要求と適合するのに十分に核形成されるかどうかを規定するために、両方のパラメータは、一緒に考慮される必要がある。
【0031】
当該HPI合金の望ましい核形成は、以下の値を与える必要がある:
Tse→最低1115℃;および
ΔT→最大6℃。
【0032】
図7は、HPI合金で鋳造されたディーゼルの6シリンダーブロックから得た冷却曲線およびその導関数を示しており、この図では、両方の熱的パラメータは、上記基準によって要求されるとおりに満たされている。このブロックは、軸受位置で362Mpaの引張強さ値および240HBの硬度を示した。
【0033】
図8は、通常のねずみ鋳鉄で鋳造された同じブロックの冷却曲線を示しており、この図では、ΔT=約2℃であると判明した(上記HPI核形成の要求に合致する)が、Tse値は1105℃であった(HPI核形成の要求に合致しない)。この従来のねずみ鋳鉄のブロックは、軸受位置で249Mpaの引張強さ値および235HBの硬度を示した。
【0034】
参照として、下記の表2は、2つの異なる接種剤を使用したHPI熱データの比較を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
Ba−La接種剤を用いて行われた鋳造物では、Ts=346Mpaおよび2%の炭化物を示した。他方、Sr接種剤を用いて行われたブロックでは、Ts=361Mpaを示し、炭化物はなかった。これは、液体バッチの核形成レベルに対する関連する熱的パラメータの感度を示す。
【0037】
共晶凝固:
目立った凝固現象として、共晶相は、後者の材料特性を特徴付ける起源となる。多くの書籍および学術論文は、金属と型との間の熱交換、化学、黒鉛結晶化、再輝、安定温度および順安定温度などのいくつかのパラメータに注目して、多くの方法で共晶相にアプローチしてきた。
【0038】
しかしながら、当該HPI合金およびその方法は、共晶相において、鋳造所でのプロセスおよび鋳造物の形状に直接関連する以下の2つの非常に重要なパラメータの間の特定の相互作用を規定する:
・鋳込み温度「Tp」;および
・鋳造物の全体凝固係数(global solidification modulus)「Mc」。
【0039】
従って、具体的な算出を行って、HPI法は、全体鋳造係数(global cast modulus)「Mc」を規定する:最適の算出された鋳込み温度「Tp」(±10℃許容)の関数として、1.38≦「Mc」≦1.52の範囲。
【0040】
このような基準は、共晶セルが成長して望ましい機械的特性および物性を達成するため、加えて主にHPI鋳造物が固体になったときの鋳引けの生成を大幅に低減させるための有効な速度を可能にする。換言すれば、この方法は、全体鋳造係数の関数としての算出された鋳込み温度を必要とする。これは、鋳造物の健全性を得るために鋳込み温度が経験的なものであることが通常である一般的な実務とはまったく異なる。
【0041】
共析的凝固:
固−固変態として、この共析相は、鋳造物の最終の微細構造を形作る。そのとき、片状黒鉛合金であるにもかかわらず、当該HPIの微細構造は、そのマトリクス上でわずかに減少した黒鉛含有量を示す:≦2.3%(図10に示される平衡状態図Fe−Fe3Cを参照として取り上げて、「てこの原理(lever rule)」によって算出される)。
【0042】
この範囲は、それでもなお共晶セルの数の増加によって良好な被削性パラメータを保つHPIの亜共晶の傾向を確かなものにする。また、パーライト微細化(refinement)の獲得を可能にするために、この方法は、砂落とし操作が、鋳造物表層の温度範囲が、鋳造物の肉厚のばらつきに応じて400℃〜680℃の間であるときに行われるべきであるということを規定する。
【0043】
従来のねずみ鋳鉄と比較したとき、この合金は、最終の微細構造においていくつかの顕著な材料特性の差を生み出す。冶金学的ダイアグラムデータ(図9)では、この差は、HPI入力データを考慮すると、明らかである。図9中の太線は、ダイアグラム上でのそのようなHPI入力データを表すが、対応する出力データは、従来のねずみ鋳鉄の結果を考慮して定められる。
【0044】
図9のダイアグラム(従来のねずみ鋳鉄合金から作成された)を利用すると、HPIの特性と通常のねずみ鋳鉄の特性との間のこのような顕著な差異を思い描くことができる。一例として、HPI方法によって鋳造されたディーゼルの6シリンダーブロックを考えると、見出される入力データは、「Sc=0.86」(炭素飽和);TL=1210℃(液相温度)およびC=3.0%(炭素含有量)である。注釈:
・太線が引張特性の目盛りと交差するとき、理論上のねずみ鋳鉄は、約30Kg/mm2という、一般的でない値を示すはずである。実際に、原型のHPIは、36Kg/mm2という現実の値を示した。典型的な市販のねずみ鋳鉄が28Kg/mm2(シリンダーブロックまたはシリンダーヘッドについて)よりも高い値に到達することはほとんどないということを考慮すると、本発明で、両方の合金の間のこの第1の差異を認めることは容易である。
・ここで図9のダイアグラム上の硬度の目盛りに注目すると、そのような理論的なねずみ鋳鉄合金が約35Kg/mm2の引張り試験値を示す場合は、関連した硬度値は約250HBであるはずであるということは分かる。しかしながら、36Kg/mm2という実際の引張り試験値を有するこの原型のHPIのシリンダーブロックは、約240HBという硬度値を示した。換言すれば、同じまたはより高い引張り試験値を示してさえも、当該HPI合金は、同じ引張り試験値を有する理論上のねずみ鋳鉄合金と比較した場合、より低い硬度をもつという明白な傾向がある。
・約35Kg/mm2の引張り試験値を有する同じ理論上のねずみ鋳鉄をなお取り上げると、図9のダイアグラム上の関連する炭素当量値(CEL)は、約3.49%という非常に低い値を示す。代わりに、36Kg/mm2を有する原型のHPIシリンダーブロックはCEL=3.80%を有し、これは、両方の合金について同じ引張り試験値を保つと、当該HPI合金は顕著に低い鋳引け傾向を有するということを意味する。
【0045】
上記の注釈は、市場で、高耐性の従来のねずみ鋳鉄がシリンダーブロックまたはシリンダーヘッドで使用されることを見出さない理由を説明する。このような合金が使用されれば、その合金は、(CGI合金に類似する)重大な被削性および健全性の問題を呈するであろう。当該HPI合金の目的は、まさに、このような技術的ニーズを満足させることである。
【0046】
ねずみ鋳鉄合金(GI)、HPI合金およびCGI合金の間の技術データの比較:
従来のねずみ鋳鉄(GI);高性能鉄(HPI)およびコンパクト黒鉛鉄(CGI)を比較するために、市販の鋳造物からとったいくつかの範囲の機械的特性および物性を、以下に掲げる:
【表3】

【0047】
上記の試験によれば、高引張強さに加えて、当該HPI合金は、(ねずみ鋳鉄合金と適合する)優れた被削性、制振、熱伝導率、低い鋳引け傾向および微細構造安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉の中で高耐性ねずみ鋳鉄合金を得るための方法であって、液体金属を脱酸素するための方法が、
・二酸化ケイ素(SiO2)の平衡温度を超えて加熱炉温度を上昇させる工程;
・加熱炉の電力を少なくとも5分間停止して、合体した酸化物および他の不純物の浮揚を促進する工程;・液体バッチの表面上に凝集剤を広げる工程;および
・前記合体した酸化物ですでに飽和した前記凝集剤物質を除去して、より清浄な液体金属を前記加熱炉の中に残す工程、を含む方法。
【請求項2】
核形成は、
・前記加熱炉液体バッチの15%〜30%を特定の取鍋に鋳込む工程、
・前記操作の間に、まさに前記液体金属の流れに対して0.45重量%〜0.60%重量%の粒状のFe−Si−Sr合金またはFe−Si−Ba−La合金を接種する工程、
・接種した前記液体金属を前記取鍋から加熱炉へと戻し、この操作を強い金属フローに保つ工程、
・前記操作の間、前記加熱炉を、「作動した」状態に保つ工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核形成は、冷却曲線からの2つの熱的パラメータ:
1)共晶過冷度Tse→最低1115℃、および
2)共晶再輝温度の範囲ΔT→最大6℃
を有し、この両方のパラメータは、一緒に考慮される必要がある、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
接種段階は、0.45重量%〜0.60重量%の接種剤の範囲を用いて行われる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
最適鋳込み温度「Tp」(±10℃許容)の関数として、1.38〜1.52の間の全体鋳造係数を得るために、前記HPI鋳造物についての鋳込み温度範囲は規定される必要がある、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
共析相において、前記HPIの微細構造は、平衡状態図Fe−Fe3Cを参照として取り上げて「てこの原理」によって算出される2.3%以下という、そのマトリクス上でわずかに減少した黒鉛含有量を示す、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高耐性ねずみ鋳鉄合金であって、
・炭素当量(CE)は3.6重量%〜4.0重量%の範囲で定められるが、同時にC含有量は2.8%〜3.2%に保たれ、
・Cr含有量は最大0.4%として定められ、Moと関連付けられると、以下の基準に従うことが必要であり:%Cr+%Mo≦0.65%
・CuおよびSnは、以下の基準に従って関連付けられる必要があり:0.010%≦[%Cu/10+%Sn]≦0.021%
・S含有量およびMn含有量は、特定の範囲の比%Mn/%Sの中で定められ、Mn含有量が0.4%〜0.5%の間で定められる場合、以下の範囲が適用される必要があり:
・Mn=0.40% 範囲:Mn/S=3.3〜3.9
・Mn=0.47% 範囲:Mn/S=4.0〜5.0
・Mn=0.50% 範囲:Mn/S=4.9〜6.0
・Si含有量の範囲は2.0%〜2.40%で定められ、
・「P」含有量は、%P≦0.10%として定められる、高耐性ねずみ鋳鉄合金。
【請求項8】
物性は、
伝熱係数(W/m °K): 45〜60
硬度(HB) 230〜250
引張強さ(Mpa) 300〜370
疲労強度(Mpa):回転曲げによる 170〜190
熱疲労(サイクル):温度範囲 50℃〜600℃ 20×10
被削性(Km):400m/分の速度での、セラミック工具による切削: 9〜11
微細構造 パーライト 98〜100%;黒鉛A、4/7
鋳引け傾向(%) 1.0〜2.0
減衰率(%): 90〜100
ポアソン比:室温で 0.25〜0.27
である、請求項7に記載の高耐性ねずみ鋳鉄合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−517527(P2012−517527A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549398(P2011−549398)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際出願番号】PCT/BR2009/000044
【国際公開番号】WO2010/091486
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511196755)テクシド ド ブラジル リミターダ (2)
【Fターム(参考)】