説明

燃焼炉のユーティリティー制御方法

【課題】有害排ガスの発生要因となる成分を含有する燃料を複数種類投入し、それら複数種類の燃料毎に投入量が算定可能な燃焼炉において、有害排ガス低減用ユーティリティーの使用量を適切に制御することができる、燃焼炉のユーティリティー制御方法を提供する。
【解決手段】複数種類の燃料ごとの投入量と、当該燃料中の有害排ガス発生要因成分の含有率に基づいて、有害排ガス低減用ユーティリティーの使用量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害排ガスを発生する燃料を使用する燃焼炉において、有害排ガス低減に用いるユーティリティー(有害排ガス低減用ユーティリティー)の使用量を適切に制御することができる、燃焼炉のユーティリティー制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害ガス(例えば、HClやSOx等)の元となる成分(例えば、ClやS)を含有する燃料を使用する燃焼炉(例えば、廃棄物焼却炉)では、排ガス中の有害ガス低減のためのユーティリティー(以下、単にユーティリティーとも呼ぶ)を使用している。主なものとして、HCl低減に消石灰などのアルカリ性物質、SOx低減に石灰石(生石灰)などのアルカリ性物質が用いられている。その際に、これらユーティリティーの使用量(吹込み量)については、燃料の投入重量(焼却負荷)に応じて決定するフィードフォワード制御を行っている場合が多い。また、実際の排ガス計測値によるフィードバック制御も一般的に行われている制御方法である。これらの制御により、ユーティリティー使用量の低減、有害排ガスの炉外排出の抑制を行っている。
【0003】
従来の廃棄物焼却炉では、燃料(廃棄物)はピットに一度蓄積し、攪拌・混合した状態で検量し、炉に投入して燃焼させている。そのため、消石灰、石灰石などのユーティリティーの吹込み量は、燃料混合後の総重量(トータル重量)で決定している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
一方、従来石炭(微粉炭)や石油燃料を使用していたボイラを保有する燃焼炉(例えば、循環流動層型ボイラ)においては、近年、リサイクル・CO低減の観点から、都市ごみ、廃プラスチック、汚泥や製紙スラッジなどの廃棄物、RDF(燃料固形化ごみ)を循環流動層型ボイラで使用可能な粒径にし、それらを配合もしくは単独で使用され始めている。このような燃焼炉においても、前述の従来の廃棄物焼却炉と同様に複数燃料の総重量(焼却負荷)でユーティリティーの吹込み量を決定している。
【特許文献1】特開2000−70668号公報
【特許文献2】特開平6−74429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の従来の廃棄物焼却炉のように複数種類の燃料を混合して使用する場合、混合状態により燃料の成分バラツキが大きくなり、燃料の総重量(焼却負荷)に応じてユーティリティーの吹込み量を変化させても、精度の低い制御しか行えない。そのため、有害排ガスの計測値に基づくフィードバック制御を行っている場合も多いが、1〜3minの計測遅れ時間、10〜120minのユーティリティー反応遅れ時間・機器吹込み安定遅れ時間が存在するため、実際の計測値が変動後に大きな遅れを持って制御を行うことになり、過渡的にユーティリティーの吹込み不足・過剰になるケースが多い。有害排ガス量は常時変動するので、ほぼ常時にユーティリティーの必要吹込み量も変化するため、結局、常にユーティリティーの吹込み不足・過渡を繰り返すことになる。また、排ガス規制値が厳しく設定されている地域の焼却炉では、前述制御より規制値内に収まる保証がないため、ユーティリティーを常に多めの固定値で吹込んでいる場合もある。しかしながら、過剰にユーティリティーを吹込むと、飛灰にアルカリ分が過剰に含まれてしまい、飛灰中に含まれている重金属類が溶出する量が増加し、これを固定するための薬剤添加量が増加するといった問題も発生する。
【0006】
一方、循環流動層型ボイラでは、複数種類の燃料を予め混合せず、各燃料を個別に検量してから炉内に投入する場合が多いが、その目的は各燃料の使用量確認や燃料の配合に応じて、投入熱量の計算や燃焼用空気量のベースを決定するためであり、有毒排ガス低減用ユーティリティーの使用量決定には反映されておらず、前述の従来廃棄物焼却炉と同様に総重量による制御や排ガス計測値によるフィードバック制御が行われており、常にユーティリティーの吹込み不足・過渡を繰り返すという同様な問題が発生している。また、循環流動層型ボイラの固有の問題として、複数燃料の投入割合を変更する際には、燃料毎に含まれているS、Clの量によって有毒排ガス発生量が変化するが、現状の上記制御では、その変動に適切に対処することができていない。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、有害排ガスの発生要因となる成分を含有する燃料を複数種類投入し、それら複数種類の燃料毎に投入量が算定可能な燃焼炉を対象として、その燃焼炉における有害排ガス低減用ユーティリティーの使用量を適切に制御することができる、燃焼炉のユーティリティー制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]有害ガスの発生要因となる成分を含有する燃料を複数種類投入し、それら複数種類の燃料ごとに投入量を算出することが可能な燃焼炉において、排ガス中の有害ガス低減のためのユーティリティーを使用するに際し、算出された複数種類の燃料ごとの投入量と、当該燃料中の前記成分の含有率に基づいて、前記ユーティリティーの使用量を決定することを特徴とする燃焼炉のユーティリティー制御方法。
【0010】
[2]排ガス中の有害ガスの濃度を測定し、その測定値によるフィードバック制御も同時に行うことを特徴とする前記[1]に記載の燃焼炉のユーティリティー制御方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有害排ガスの発生要因となる成分を含有する燃料を投入する燃焼炉において、有害排ガス低減用ユーティリティーの使用量を適切な量に制御することができる。その結果、操業のランニングコストの低減、炉外への排出有害物質の低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態においては、性状の異なる2種類の燃料(燃料A、燃料B)を使用する循環流動層型ボイラにおける有害排ガス低減用ユーティリティー(消石灰、石灰石)の使用量の制御について説明する。
【0013】
図1は、この実施形態において対象とする循環流動層型ボイラのプロセスの説明図である。
【0014】
図1に示すように、この循環流動層型ボイラでは、まず、燃料Aと燃料Bがそれぞれ燃料搬送用コンベア1で燃料検量装置2、3まで送られる。燃料検量装置2、3では、燃料Aと燃料Bの重量がそれぞれ独立に測定され、その後、燃焼炉4に投入される。投入された燃料は、送風ファン5の流量制御により、O濃度コントロールされている燃焼空気により燃焼される。燃焼時の炉内温度は炉内温度計6で計測される。このとき燃焼炉4に石灰石投入装置7で石灰石を投入することで、乾式脱硫を行ってSOxを低減する。燃焼により発生した高温の排ガスに対してはボイラ収熱部8により熱回収が行われる。熱回収後、温度が低下した排ガスに消石灰吹込み装置9で消石灰を吹込み、排ガス中のHClと中和させる。中和された排ガスは、バグフィルタ10において、反応後のCaClや未反応の消石灰を回収し、排ガスは煙突11から放出される。排ガスの流量は排ガス流量計12で計測される。また,バグフィルタ後には排ガス中のSOx濃度、HCl濃度、O濃度を測定するガス濃度測定装置13が設置されており、その測定結果に基づいて、フィードバック制御も可能な構造となっている。
【0015】
続いて、有害排ガス低減用ユーティリティー(消石灰、石灰石)の使用量(吹込み量)を決定する制御装置の構成について説明する。
【0016】
図2に示すように、制御装置14は、燃料検量装置2、3から燃料A、燃料Bの各重量値を受け取る。また、ガス濃度測定装置13からSOx濃度、HCl濃度、O濃度を受け取る。また、データベース15から燃料A、燃料Bのオフライン計測値を受け取る。また、石灰石投入装置7と消石灰吹込み装置9から実際の石灰石と消石灰の使用量実績を受け取る。これらの受け取った信号により、石灰石と消石灰の吹込み量指令値を計算し、その指令値を石灰石投入装置7と消石灰吹込み装置9に送り、石灰石と消石灰の吹込み量の制御を行う。
【0017】
次に、制御装置14内で行われる具体的なユーティリティー吹込み量の決定計算について説明する。
【0018】
なお、その際に使用する、燃料A、燃料Bの各サンプリング成分とその含有率を表1に示す。表1(a)が燃料Aのもの、表1(b)が燃料Bのものである。「その他」以外の成分は乾式分析で含有率(重量%)を求めた後、湿式含有率(重量%)に換算しているが、「その他」成分においては水分重量も含まれる。燃料A、燃料Bの成分含有率は年数回のサンプリングで決定したものを使用する。
【0019】
【表1】

【0020】
最初に、HCl低減用の消石灰吹込み量制御について説明する。
【0021】
まず、表1の燃料A、燃料Bの成分含有率と、燃料検量装置2、3から受け取った燃料A、燃料Bの各重量値を用いて、下記の式1により、実際に吹込む消石灰量のベース値W_C1を算出する。
【0022】
W_C1=(W_A×A_Cl×R1_A+W_B×B_Cl×R1_B)
×K1_E×K1_GV×GV_NOW ・・・・・・・・・・(式1)
ここで
W_C1:消石灰吹込み量のベース値(kg)
W_A:燃料Aの重量(kg)、A_Cl:燃料AのCl含有率(重量%)、R1_A:燃料Aと消石灰の反応係数(−)
W_B:燃料Bの重量(kg)、B_Cl:燃料BのCl含有率(重量%)、R1_B:燃料Bと消石灰の反応係数(−)
K1_E:機器吹込み効率係数(−)、K1_GV:排ガス流量による補正係数(1/kNm
GV_NOW:排ガス流量(kNm
なお、式1において、機器吹込み効率係数K1_Eは機器の特性による吹込み効率を調整するものであり、また排ガス流量による補正係数K1_GVは、排ガス流量による吹込み・反応効率の差を調整するものである。
【0023】
そして、上記で算出した消石灰吹込み量のベース値W_C1をそのまま制御指令値としてもよいが、更に消石灰吹込み量のベース値W_C1を図3に示す構成によって、実際の排ガス中のHCl濃度計測値によるフィードバック制御(PID制御)で補正し、消石灰吹込み量指令値とすると更に制御性能が向上する。この補正演算は制御装置14に組み込まれる構造とする。
【0024】
続いて、SOx低減用の石灰石吹込み量制御について説明する。
【0025】
まず、表1の燃料A、燃料Bの成分含有率と、燃料検量装置2、3から受け取った燃料A、燃料Bの各重量値を用いて、下記の式2により、実際に吹込む石灰石量のベース値W_C2を算出する。
【0026】
ここで、前述のHCl低減用の消石灰吹込み量制御と異なる点は、排ガス中のO濃度と、燃焼炉温度と、それら補正係数がある点である。乾式脱硫の場合、O濃度や炉内温度といった燃焼雰囲気にも反応が左右されるためである。
【0027】
W_C2=(W_A×A_Cl×R2_A+W_B×B_Cl×R2_B)
×K2_E×K2_GV×GV_NOW
×K_O×O_NOW×K_T×T_P ・・・・・・・・・・(式2)
ここで
W_C2:石灰石吹込み量のベース値(kg)
W_A:燃料Aの重量(kg)、A_Cl:燃料AのCl含有率(重量%)、R2_A:燃料Aと石灰石の反応係数(−)
W_B:燃料Bの重量(kg)、B_Cl:燃料BのCl含有率(重量%)、R2_B:燃料Bと石灰石の反応係数(−)
K2_E:機器吹込み効率係数(−)、K2_GV:排ガス流量による補正係数(1/kNm
GV_NOW:排ガス流量(kNm
K_O:O濃度補正係数(1/%)、O_NOW:O濃度(%)
K_T:炉内温度補正係数(1/℃)、T_P炉内温度(℃)
【0028】
そして、上記で算出した石灰石吹込み量のベース値W_C2をそのまま制御指令値としてもよいが、更に石灰石吹込み量のベース値W_C2を図4に示す構成によって、実際の排ガス中のSOx濃度計測値によるフィードバック制御(PID制御)で補正し、石灰石吹込み量指令値とすると更に制御性能が向上する。この補正演算は制御装置14に組み込まれる構造とする。
【0029】
このようにして、この実施形態においては、有害排ガス低減用ユーティリティー(消石灰、石灰石)の吹込み量を適切な量に制御することができる。その結果、操業のランニングコストの低減、炉外への排出有害物質の低減が可能となる。
【0030】
ちなみに、実際の操業においては、使用する燃料の在庫、価格などにより燃料の配合の割合が大幅に変化することが多い。燃料の配合が大幅に変化した場合でも、燃料ごとの成分含有率と重量を使用して、上記の消石灰、石灰石吹込み制御を行うことにより、適切なユーティリティー吹込み量を算出することができる。
【0031】
なお、上記の実施形態では、燃料検量装置によって燃料Aの投入重量W_Aと燃料Bの投入重量W_Bを算出しているが、燃料Aと燃料Bごとに独立に投入速度制御を行っている場合には、その投入速度から燃料Aの投入重量W_Aと燃料Bの投入重量W_Bを算出してもよい。
【0032】
また、ここでは、2種類の燃料を用いる場合を例にして説明したが、3種類以上の燃料を用いる場合であっても同様である。
【0033】
また、循環流動層型ボイラ以外の燃焼炉であっても、同様に適用することが可能である。
【0034】
また、脱硫については、炉内に石灰石を吹きこむ乾式脱硫を用いるが、アルカリ性のユーティリティーを使用する湿式脱硫を用いる場合でも考え方は同様である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を一実施形態において対象とする燃焼炉(循環流動層型ボイラ)の構成図である。
【図2】本発明を一実施形態における制御装置の構成図である。
【図3】HCl濃度計測値による消石灰吹込み量のフィードバック制御の構成図である。
【図4】SOx濃度計測値による石灰石吹込み量のフィードバック制御の構成図である。
【符号の説明】
【0036】
1 燃料搬送用コンベア
2 燃料検量装置
3 燃料検量装置
4 燃焼炉
5 送風ファン
6 炉内温度計
7 石灰石投入装置
8 ボイラ収熱部
9 消石灰吹込み装置
10 バグフィルタ
11 煙突
12 排ガス流量計
13 ガス濃度測定装置
14 制御装置
15 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害ガスの発生要因となる成分を含有する燃料を複数種類投入し、それら複数種類の燃料ごとに投入量を算出することが可能な燃焼炉において、排ガス中の有害ガス低減のためのユーティリティーを使用するに際し、算出された複数種類の燃料ごとの投入量と、当該燃料中の前記成分の含有率に基づいて、前記ユーティリティーの使用量を決定することを特徴とする燃焼炉のユーティリティー制御方法。
【請求項2】
排ガス中の有害ガスの濃度を測定し、その測定値によるフィードバック制御も同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉のユーティリティー制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−204164(P2009−204164A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44046(P2008−44046)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】