説明

片面リン酸塩処理方法

【課題】
本発明は,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ良好なリン酸塩皮膜を形成する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】
連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ表面調整処理液を塗布し,ついで,リン酸塩処理液を1秒〜10秒接触させるものである。ロールコーターを用いて表面調整処理液を塗布しても良い。また,リン酸塩処理液に接触させる方法は,例えばスプレー処理で行われる。また,リン酸塩処理液をスプレーする反対面については,エアまたは不活性ガスを吹き付けても良い。
本発明によれば,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ良好なリン酸塩皮膜を形成し,他方の面にはリン酸塩皮膜を形成せず良好な外観を保つことが可能となり,片面リン酸塩処理が所望される場合に有用な製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ良好なリン酸塩皮膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛メッキ鋼板に代表されるZn系メッキ金属板の表面処理として,リン酸塩処理が広く実用されている。特に自動車用途向けに,耐食性,塗装性を改善したリン酸塩処理亜鉛メッキ鋼板も知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】WO 00/73535 A1
【0004】
自動車用途の場合,加工,組み立ての後,塗装前処理としてリン酸塩処理(区別のためここでのリン酸塩処理をポストリン酸塩処理と呼称する)が施される場合が多く,多種多様のポストリン酸塩処理が存在することから,鋼板のリン酸塩処理とポストリン酸塩処理の相性によっては,塗装外観や密着性に課題がある場合がある。また自動車外面に相当する面では,ポストリン酸塩処理および塗装ともに十分付きまわることから,鋼板のリン酸塩処理は必ずしも必要でない場合もある。
【0005】
前記のような場合には,鋼板の片面(すなわち自動車の内面になる面)にのみ,リン酸塩処理を施すことが好ましいが,片面のみにリン酸塩処理を施すことは,実験室レベルでは可能であっても,工業的には極めて困難であった。何故ならば,高速で連続通板する金属板の一方の面にのみ処理液を接触させ,他方の面には接液させないためには,完全塗布型の処理が必要であるが,塗布型のリン酸塩処理については形成されたリン酸塩皮膜の性能が不十分であり,また浸漬法,スプレーといった通常のリン酸塩処理では,反対面に処理液が付着しないよう完全にシールするのはきわめて困難であり,部分的にリン酸塩皮膜の形成が避けられないか,または外観の不良によって製品にはならない,といった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上記現状に鑑み,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ良好なリン酸塩皮膜を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
先ず図1を参照にして,表面調整処理,リン酸塩処理,水洗からなる通常の両面リン酸塩処理を説明する。上下対に配置されたリンガーロール2の間を通って,図1中を水平方向右向きに金属板1が送られている。この搬送中に,金属板1の両面(上下面)に対して,表面調整処理液スプレーヘッダー3から表面調整処理液4が供給され,次いで,リン酸塩処理液スプレーヘッダー5からリン酸塩処理液6が供給され,更に,水洗水スプレーヘッダー7から水洗水8が供給される。
【0008】
かような両面リン酸塩処理設備において,金属板1の片面(例えば下面)にのみ処理しようとすると,図2に示すように,一方の面にのみ各処理液4,6をスプレーすることが考えられる。ここで反対面(例えば上面)については,各処理液4,6をシールするため,エアスプレーヘッダー9からエア10等のガスを吹き付けることが考えられる。
【0009】
しかしながら図2のような方法をとったとしても,反対面の付着を完全に抑制し,良好な外観を保持することは困難であった。それは,ヒュームレベルの液付着であっても,反応が進行するためと考えられる。
【0010】
本発明者らは,種々の検討の結果,一方の面の表面調整処理液の付着を完全に阻止し,かつリン酸塩処理の条件を適正にすれば,多少のリン酸塩処理液6の付着があっても皮膜の形成を抑制でき,かつリン酸処理を施した面には良好な皮膜が得られるといった知見を得た。
【0011】
かかる知見のもと,本発明によれば,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ表面調整処理液を塗布し,ついで,リン酸塩処理液を1秒〜10秒接触させることを特徴とする,片面リン酸塩処理方法が提供される。
【0012】
この場合,ロールコーターを用いて表面調整処理液を塗布しても良い。また,リン酸塩処理液に接触させる方法は,例えばスプレー処理で行われる。また,リン酸塩処理液をスプレーする反対面については,エアまたは不活性ガスを吹き付けても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ良好なリン酸塩皮膜を形成し,他方の面にはリン酸塩皮膜を形成せず良好な外観を保つことが可能となり,片面リン酸塩処理が所望される場合に有用な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明の好ましい実施の形態を図面を参照にして説明する。図3は,本発明の実施の形態にかかる片面リン酸塩処理設備の説明図である。
【0015】
図1,2で説明した場合と同様に,上下対に配置されたリンガーロール2の間を通って,図3中を水平方向右向きに金属板1(Zn系メッキ金属板)が連続的に送られている。ここで,本発明において用いられるZn系メッキ金属板とは,Znメッキ鋼板を代表例とし,Znを含む各種Zn系合金メッキ鋼板,またはZn系メッキアルミ板,等を示す。微量のZnまたはZn系合金をフラッシュメッキした鋼板,アルミ板等も本発明でいうZn系メッキ金属板に含まれる。
【0016】
リンガーロール2の手前には,上下に対をなしてバックアップロール11と塗布ロール12が配置されており,これらバックアップロール11と塗布ロール12の間を通って,金属板1の下面のみに表面調整処理液4を塗布した後,金属板1がリンガーロール2の間を通るようになっている。
【0017】
図3に示す例では,塗布ロール12の下方に,表面調整処理液4を貯液した表面調整処理液受けパン14が配置されており,塗布ロール12は,この表面調整処理液受けパン14に貯液された表面調整処理液4の液面よりも上方に位置している。塗布ロール12と表面調整処理液受けパン14の間には,表面調整処理液受けパン14に貯液された表面調整処理液4の液中に周面の一部を浸漬させた状態で回転するピックアップロール13が介在しており,ピックアップロール13の周面に付着させた表面調整処理液4を塗布ロール12の周面に付着させ,塗布ロール12の周面を金属板1の下面に接触させることにより,金属板1の下面に表面調整処理液4を塗布するようになっている。なお,表面調整処理液4は,金属板1の通板送方向と逆向きに回転するいわゆるリバースロールとなっており,図示の形態では,金属板1が図中右向きに搬送されるのに対して,表面調整処理液4は,反時計回転方向に回転するようになっている。
【0018】
このように塗布ロール12によって金属板1の下面に塗布される表面調整処理液4とは,リン酸塩処理に先立って,リン酸塩結晶生成の核を形成する処理液であって,一般的には,チタンコロイド,リン酸塩コロイド,貴金属イオン等があげられる。
【0019】
また,リンガーロール2よりも通板方向の後方には,リン酸塩処理液6を供給するリン酸塩処理液スプレーヘッダー5と,水洗水8を供給する水洗水スプレーヘッダー7が配置されている。リン酸塩処理液スプレーヘッダー5は,金属板1の下方に配置されており,連続的に通板される金属板1の下面にのみリン酸塩処理液6を供給するようになっている。また,リン酸塩処理液スプレーヘッダー5と対向するようにして,金属板1の上方にエアスプレーヘッダー9が配置されており,このエアスプレーヘッダー9からエア10等のガスを吹き付けることによって,金属板1の下面に供給したリン酸塩処理液6が,金属板1の上面に回り込むことを防止している。
【0020】
このようにリン酸塩処理液スプレーヘッダー5から金属板1の下面に供給されるリン酸塩処理液6は,いわゆるホパイト結晶を生成させる処理液であり,リン酸イオン,Znイオン,その他金属イオン(Ni,Mn,Mg,Co,Cu等のイオン),反応促進剤(Fイオン,硝酸イオン,亜硝酸イオン)等を含有する処理液である。具体的には,リン酸イオン5〜20g/l,Znイオン0.5〜3g/l,NiおよびまたはMn0.2〜6g/l,Fイオン0.1〜1g/lを含有する処理液である。いずれの成分もその下限未満では,良好なリン酸塩皮膜が形成されにくく,また上限を超えると,リン酸塩皮膜非形成面の外観が不良となる。また鋼板の孔あき耐食性をより向上させる目的で,前記処理液に加えて更にMgイオン10〜30g/lを追加添加することも好適に用いられる。なお,リン酸塩処理液スプレーヘッダー5の設置個数及び設置間隔,金属板1の通板速度の関係により,リン酸塩処理液スプレーヘッダー5から金属板1の下面に供給したリン酸塩処理液6の接触時間(反応時間)を任意に設定可能である。
【0021】
一方,水洗水スプレーヘッダー7は,金属板1の上下両方に配置されており,連続的に通板される金属板1の上下両面に水洗水8が供給されるようになっている。
【0022】
以上のような片面リン酸塩処理設備において,図3中の水平方向右向きに金属板1を連続的に通板し,先ず,塗布ロール12によって金属板1の下面のみに表面調整処理液4を塗布する。次いで,リン酸塩処理液スプレーヘッダー5から金属板1の下面にリン酸塩処理液6を供給し,リン酸塩処理液6の接触時間を1〜10秒として,その後,水洗水スプレーヘッダー7から金属板1の上下両面に水洗水8を供給して水洗し,乾燥処理を行う。
【0023】
このように金属板1の下面に表面調整処理液4を塗布して金属板1の下面のみに酸塩皮膜を形成した後,接触時間を1〜10秒としてリン酸塩処理液6による処理を行うことにより,金属板1の反対面(上面)にはリン酸塩皮膜が形成されず,かつ外観も良好な状態に保たれる。ここで,リン酸塩処理液6の接触時間が1秒未満では,良好なリン酸塩皮膜が得られず,また10秒を超えるとリン酸塩皮膜非形成面(上面)にリン酸塩皮膜が形成されるかあるいは外観が不良となってしまう。リン酸塩皮膜非形成面の外観をより良好に保つためには,図3に示したように,リン酸塩皮膜形成面(下面)には処理液をスプレーし,非形成面(上面)には,エアまたは不活性ガスを吹き付けることが好ましい。
【0024】
以上,本発明の実施の形態の一例を説明したが,本発明はここで説明した形態に限定されない。図4は,本発明の別の実施の形態にかかる片面リン酸塩処理設備の説明図である。
【0025】
この図4に示す片面リン酸塩処理設備は,基本的には図3で説明した片面リン酸塩処理設備と同様の構成を有しているため,共通の構成要素については,同じ符号を付して重複した説明を省略するが,図4の片面リン酸塩処理設備では,図3に示した塗布ロール12の代りに,金属板1の通板送方向と同じ向き時計回転方向に回転する塗布ロール15を用いて,金属板1の下面に表面調整処理液4を塗布するようになっている。塗布ロール15の近傍には液きりロール16が設けてあり,これら塗布ロール15と液きりロール16の接触部分に,表面調整処理液スプレーヘッダー3から表面調整処理液4を供給することにより,塗布ロール12の周面に付着させた表面調整処理液4を,金属板1の下面に塗布するようになっている。また,バックアップロール11の近傍には,塗布ロール12と対向するようにして,金属板1の上方にエアスプレーヘッダー9が配置されており,このエアスプレーヘッダー9からエア10等のガスを吹き付けることによって,金属板1の下面に塗布した表面調整処理液4が,金属板1の上面に回り込むことを防止している。
【0026】
いわゆるロールコーターを用いて金属板1に表面調整処理液4を塗布する場合,図3で説明したように金属板1の通板方向に対して逆回転して塗布するタイプでも良いし,図4に示したような順回転して塗布するタイプの,いずれも使用できる。なお,本発明において,金属板1の片面に表面調整処理液を塗布するとは,ロール,バー,ブレード等の塗布物の表面に存在する表面調整処理液の一部またはすべてを被塗布物である金属板の片面に転写することを意味する。高速での生産性を考えると,ロールコーターによる塗布が好ましい。また,図4で説明したように,金属板1のエッジ部(両側)からの処理液回り込みを最小化する意味で,反対面にはエアまたは不活性ガスを吹き付けることが好ましい。
【0027】
なお,図3,4では,いずれの場合も金属板1の下面にのみ表面調整処理液4を塗布する例を説明したが,金属板1の一方の面にのみ表面調整処理液4を塗布すればよく,金属板1の上面のみに表面調整処理液4を塗布しても良い。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を説明する。
実施例1〜3および比較例1では,電気亜鉛メッキ鋼板(両面メッキ,Zn付着量20g/m)に,図3で説明した方法にて処理を行った。表面調整処理液は,チタンコロイド系の市販処理液を使用し,40℃で塗布した。リン酸塩処理液は,Znイオン1g/l,リン酸イオン10g/l,Niイオン2.5g/l,Mgイオン20g/l,Fイオン0.2g/lの濃度のものを用い,60℃で処理を行った。リン酸塩処理時間は,表1に示すように各種変更した。
【0029】
実施例4では,電気亜鉛メッキ鋼板(両面メッキ,Zn付着量20g/m)に,図4で説明した方法にて処理を行った。表面調整処理液は,チタンコロイド系の市販処理液を使用し,40℃で塗布した。リン酸塩処理液は,Znイオン1g/l,リン酸イオン10g/l,Niイオン2.5g/l,Mgイオン20g/l,Fイオン0.2g/lの濃度のものを用い,60℃で処理を行った。リン酸塩処理時間は4秒とした。
【0030】
比較例2および3では,電気亜鉛メッキ鋼板(両面メッキ,Zn付着量20g/m)に,図2で説明した方法にて処理を行った。表面調整処理液は,チタンコロイド系の市販処理液を使用し,40℃でスプレーした。リン酸塩処理液は,Znイオン1g/l,リン酸イオン10g/l,Niイオン2.5g/l,Mgイオン20g/l,Fイオン0.2g/lの濃度のものを用い,60℃で処理を行った。リン酸塩処理時間は,表1に示すように各種変更した。
【0031】
(性能評価方法)
(1)リン酸塩皮膜非形成面(表面)
皮膜の付着有無:光学顕微鏡(×500)観察およびSEM観察(×1000,5000)により,リン酸塩皮膜の有無を観察した。リン酸塩皮膜が全く検出できないものを「○」とした。
外観;目視によりムラを観察した。ムラなしを「○」とした。
【0032】
(2)リン酸塩皮膜形成面(裏面)
付着量;蛍光X線分析により,片面当たりの付着量g/mを求めた。
外観;目視によりムラを観察した。ムラなしを「○」とした。
特性;SEM観察(×1000,5000)による結晶性状およびX線回折分析によるホパイト構造の有無を観察し,いずれも良好なものを「○」とした。
以上の評価結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の実施例1〜4では,良好な特性が得られるのに比較し,本発明の範囲から外れる比較例1〜3については,特性が悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は,例えば自動車用途向けのリン酸塩処理亜鉛メッキ鋼板などに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来の通常の両面リン酸塩処理設備の説明図である。
【図2】従来の通常の片面リン酸塩処理設備の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる片面リン酸塩処理設備の説明図である。
【図4】本発明の別の実施の形態にかかる片面リン酸塩処理設備の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1;金属板
2;リンガーロール
3;表面調整処理液スプレーヘッダー
4;表面調整処理液
5;リン酸塩処理液スプレーヘッダー
6;リン酸塩処理液
7;水洗水スプレーヘッダー
8;水洗水
9;エアスプレーヘッダー
10;エア
11;バックアップロール
12;塗布ロール(リバースロール)
13;ピックアップロール
14;表面調整処理液受けパン
15;塗布ロール
16;液きりロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続通板するZn系メッキ金属板の一方の面にのみ表面調整処理液を塗布し,ついで,リン酸塩処理液を1秒〜10秒接触させることを特徴とする,片面リン酸塩処理方法。
【請求項2】
ロールコーターを用いて表面調整処理液を塗布することを特徴とする,請求項1に記載の片面リン酸塩処理方法。
【請求項3】
リン酸塩処理液に接触させる方法がスプレー処理であることを特徴とする,請求項1または2に記載の片面リン酸塩処理方法。
【請求項4】
リン酸塩処理液をスプレーする反対面については,エアまたは不活性ガスを吹き付けることを特徴とする,請求項1,2または3に記載の片面リン酸塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−111937(P2006−111937A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301855(P2004−301855)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】