説明

片面溶接装置および片面溶接方法

【課題】溶接部の終端部において、溶接トーチの狙いズレをなくして溶接品質を向上させると共に、煩わしい手動操作による狙い調整作業をなくし、溶接の全自動運転を可能にする片面溶接装置および片面溶接方法を提供する。
【解決手段】走行レール11と、溶接トーチ2と、溶接走行台車4と、走行レール移動手段5と、台車移動手段6と、開先倣いセンサ3と、溶接位置制御部9とを備える片面溶接装置1であって、溶接位置制御部9は、溶接トーチ2の位置座標を記憶する記憶手段9Aと、位置座標に基づいて溶接線の傾きを算出する溶接線傾き計算部9Bと、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達するまでは、開先のズレに基づいて溶接走行台車4の横断方向YLへの移動を制御し、溶接開始側の端部に到達した後は、溶接線傾き計算部9Bで算出された溶接線の傾きに基づいて横断方向YLへの移動を制御する台車移動処理部9Eとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶製造工程等に用いられる板継ぎ溶接に使用される片面溶接装置および片面溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、突き合わせた2枚の板材間に開先を形成し、その開先を溶接する片面溶接装置について、特許文献1では、溶接部の溶接品質向上を目的として、溶接トーチ前方に開先倣い用センサを具備し、溶接中はそのセンサの開先の凹凸情報に従って、溶接トーチの上下位置を制御する自動倣い溶接装置および溶接方法が記載されている。
【0003】
また、片面溶接には一般的にサブマージアーク溶接法が使用され、このような大入熱溶接では、溶接部の終端部に発生する終端割れを防止するため、開先の一端側(終端部)にシーリングビードまたはタブ板が設けられている。そして、シーリングビードまたはタブ板を設けるだけでは、終端割れを十分防止することはできず、例えば、特許文献2では、複数電極の電極間距離、溶接速度、各電極の停止位置を規定することで終端割れを確実に防止する溶接部の終端処理方法が記載されている。
【特許文献1】特開平05−104249号公報(図3)
【特許文献2】特開平08−099177号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シーリングビードまたはタブ板では、開先が形成されないため、開先倣い用センサが適用できない。そのため、従来の溶接方法または溶接部の終端処理方法においては、開先倣い用センサを事前に退避させ、開先倣いによる溶接トーチの制御を停止していた。その結果、溶接装置の走行方向と開先が平行であれば問題はないが、実際にはそうなっていないため、図8の点線軌跡で記載されたように、終端部(シーリングビード部)では、溶接トーチ(電極)2の軌跡がシーリングビードSから外れる状態(溶接トーチの狙いズレ)が発生していた。特に、複数の溶接トーチ(第1〜第3電極)2、2、2を使用した際には、後行する溶接トーチほど、トーチ軌跡がシーリングビードSから大きく外れることとなる。その結果、溶接部の溶接品質が低下するという問題があった。なお、図8は、従来のトーチ軌跡のズレを明確にするため、溶接装置の走行方向に対するトーチ軌跡の傾きを大きく記載した模式図である。
【0005】
このような溶接トーチの狙いズレを防止するためには、手動操作で溶接トーチの狙いを修正する必要があったが、片面溶接において一般的であるサブマージアーク溶接では、溶接トーチ先端を目視で確認することが不可能なため、オペレーターの技量と勘で溶接トーチの狙いを修正していた。その結果、溶接の全自動運転ができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、溶接部の終端部において、溶接トーチの狙いズレをなくして溶接品質を向上させると共に、煩わしい手動操作による狙い調整作業をなくし、溶接の全自動運転を可能にする片面溶接装置および片面溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に係る片面溶接装置は、開先の長手方向の一端側にシーリングビードを有する被溶接材の前記開先の長手方向に沿って架設される走行レールと、前記被溶接材に向けて垂下される溶接トーチを支持する溶接走行台車と、前記溶接走行台車を懸架して、前記走行レールの架設方向に沿って移動させる走行レール移動手段と、前記溶接走行台車を、前記走行レールの架設方向に直交する横断方向に移動させる台車移動手段と、前記溶接走行台車に支持され、前記溶接トーチに先行して、前記開先内を移動して前記シーリングビードの溶接開始側の端部まで前記開先のズレを検知する開先倣いセンサと、前記溶接走行台車の移動を制御する溶接位置制御部とを備える片面溶接装置であって、前記溶接位置制御部は、前記溶接トーチの架設方向および横断方向の位置座標を記憶する記憶手段と、前記溶接走行台車が架設方向へ所定距離移動する毎に前記記憶手段に記憶されている前記位置座標に基づいて溶接線の傾きを算出する溶接線傾き計算部と、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達するまでは、前記開先倣いセンサで検知された前記開先のズレに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御すると共に、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達した後は、前記溶接線傾き計算部で算出された前記溶接線の傾きに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御する台車移動処理部とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記の構成によれば、被溶接材の溶接開始位置から開先倣いセンサがシーリングビードの溶接開始側の端部に到達するまでは、溶接位置制御部の台車移動処理部が、開先倣いセンサで検知された開先のズレに基づいて、溶接トーチの横断方向への移動を制御するため、溶接トーチの狙い位置が開先中心に保たれる。また、開先倣いセンサがシーリングビードの溶接開始側の端部に到達した後、被溶接材の溶接終了位置までは、溶接位置制御部の溶接線傾き計算部で算出された溶接線の傾きに基づいて、溶接トーチの横断方向への移動が制御されるため、溶接線はシーリングビードの溶接開始側の端部より前の溶接線を外挿したものとなり、シーリングビードからの溶接線のズレが小さくなる。
【0009】
請求項2に係る片面溶接装置は、前記溶接位置制御部は、前記溶接走行台車が架設方向に所定距離移動する毎に、前記溶接傾き計算部で算出された溶接線の傾きを記憶する記憶手段を備え、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達した後は、前記台車移動処理部が、前記記憶手段に記憶されている前記溶接線の傾きに基づいて、溶接走行台車の横断方向への移動を制御することを特徴とする。
【0010】
前記の構成によれば、台車移動処理部が、シーリングビードの溶接開始側の端部に近い位置で算出記憶された溶接線の傾きで、溶接走行台車の横断方向の移動を制御するため、シーリングビードからの溶接線のズレがより一層小さくなる。
【0011】
請求項3に係る片面溶接方法は、請求項1または請求項2に記載の片面溶接装置を用いて溶接を行なう片面溶接方法において、前記被溶接材の溶接開始位置から前記シーリングビードの溶接開始側の端部までは、前記開先倣いセンサで検知された前記開先のズレに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御しながら、前記溶接走行台車を架設方向に移動させて、前記被溶接材を前記溶接トーチで溶接し、同時に、前記溶接走行台車が架設方向に所定距離移動する毎に、前記記憶手段に記憶されている前記位置情報に基づいて溶接線の傾きを算出し、さらに、前記シーリングビードの溶接開始側の端部を越えて前記被溶接材の溶接終了位置までは、前記開先倣いセンサを前記開先から退避させ、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達する直前に前記溶接線傾き計算部で算出した前記溶接線の傾きに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御しながら、前記溶接走行台車を架設方向に移動させて、前記被溶接材を前記溶接トーチで溶接することを特徴とする。
【0012】
前記の手順によれば、被溶接材の溶接開始位置からシーリングビードの溶接開始側の端部までは、開先倣いセンサで検知された開先のズレに基づいて、溶接トーチの横断方向への移動を制御しながら溶接されるため、溶接トーチの狙い位置が開先中心に保たれる。また、シーリングビードの溶接開始側の端部を越えて被溶接材の溶接終了位置までは、開先倣いセンサがシーリングビードの溶接開始側の端部に到達する直前に算出された溶接線の傾きに基づいて、溶接トーチの横断方向への移動を制御しながら溶接されるため、溶接線はシーリングビードの溶接開始側の端部より直前の溶接線を外挿したものとなり、シーリングビードからの溶接線のズレが小さくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る片面溶接装置および片面溶接方法によれば、溶接部の終端部において、溶接トーチの狙いズレがなく、溶接品質が向上する。また、煩わしい手動操作による狙い調整作業が必要なくなり、溶接の全自動運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の片面溶接装置の実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面において、図1は本発明の片面溶接装置の実施形態を示す斜視図、図2は図1の片面溶接装置の正面図、図3は図1の片面溶接装置を平面視した模式図、図4(a)、(b)は開先倣いセンサの部分拡大図、図5は溶接位置制御部のブロック図を示す。なお、図1および図2において、被溶接材の裏面に配設するフラックス、裏当て材等については、図示および説明を省略する。
【0015】
図1および図2に示す片面溶接装置1は、走行レール11、溶接トーチ2を搭載した溶接走行台車4、走行レール移動手段5、スライダ(台車移動手段)6、開先倣いセンサ3および溶接位置制御部9を備える。
【0016】
走行レール11は、突き当てられた被溶接材W1,W2の間に連続して設けられた開先Vの長手方向に架設される。そして、開先Vの長手方向の一端側には、被溶接材W1、W2の終端割れ防止用のシーリングビードSが形成されている。また、開先Vの両端には、溶接開始部の溶接残しをなくすためのスタートタブ板Wa(図3参照)と、溶接終了部の溶接残しおよび終端割れ防止のためのエンドタブ板Wbとが設けられている。また、被溶接材W1、W2への開先加工は、切断機等を用いて行われ、その加工精度にはばらつきがある。そのため、図3に示すように、開先Vは必ずしも直線ではなく、若干湾曲している。
【0017】
溶接走行台車4は、被溶接材W1、W2に向けて垂下された溶接トーチ2を支持する。
溶接トーチ2は、開先Vの上方に位置して開先Vの延在する方向に直列に配置されている。これらの溶接トーチ2には、溶接ワイヤ送給装置WFMから溶接ワイヤ(電極)が連続送給される。そして、図1、図2に示すように、複数の溶接トーチ2、2、2を備えることが好ましい。
【0018】
また、溶接走行台車4は、支持台座4aと、支持台座4aから垂下された前支持腕4bおよび後支持腕4cと、前支持腕4bと後支持腕4cの間に横架された架橋部材4dとを備える。支持台座4aには、溶接点にフラックスを散布・供給するフラックス供給器7、7が取り付けられるとともに、溶接トーチ2、2、2による裏面ビードおよび表ビードの形成による溶接が終了後、残余のフラックスを吸引して回収するフラックス回収器8が装着されている。このフラックス供給器7、7には、フラックス供給装置(図示せず)からフラックスを供給するためのフラックス供給ホース7a、7aが接続されて、また、フラックス回収器8には、フラックス回収ホース8aが接続されている。
【0019】
走行レール移動手段5は、溶接走行台車4を懸架して、後記する開先倣いセンサ3で検知された開先のズレに基づいて、走行レール11を架設方向XLに移動するものである。ここで、開先のズレとは、開先中心が開先長手方向に対して左右方向(溶接走行台車4の横断方向YLと同一方向)に所定距離以上移動したことを意味する。この走行レール移動手段5は、溶接走行台車4の支持台座4aを、走行レール11の架設方向XLに直交する横断方向YLに移動自在に懸架する懸架部材5aと、懸架部材5aを走行レール11の架設方向XLに駆動するモータおよびそのモータの駆動量を検知するエンコーダを備える走行レール駆動部5bとから構成される。走行レール駆動部5bのエンコーダによって検知されたモータの駆動量は、溶接位置制御部9(トーチ先端座標メモリ9A、図5参照)に伝達され、溶接トーチ(2、2、2)の走行レール11の架設方向XLの位置座標が記憶される。
【0020】
スライダ(台車移動手段)6は、後記する開先倣いセンサ3で検知された開先Vのズレに基づいて、開先Vのズレを修正する方向に、走行レール11の架設方向XLに直交する横断方向YLに溶接走行台車4を移動させるものである。このスライダ6は、溶接走行台車4の支持台座4aに取り付けられたスライダ台6aと、スライダ台6aを横断方向YLに駆動するモータおよびそのモータの駆動量を検知するエンコーダを備えるスライダ駆動部6bとから構成される。スライダ駆動部6bのエンコーダによって検知されたモータの駆動量は、溶接位置制御部9(トーチ先端座標メモリ9A、図5参照)に伝達され、溶接トーチ(2、2、2)の横断方向YLの位置座標が記憶される。
【0021】
開先倣いセンサ3は、溶接走行台車4の前支持腕4bに、支持部材4e,4fを介して取り付けられている。そして、開先倣いセンサ3は、溶接時には、溶接トーチ2、2、2に先行して開先V内を移動し、シーリングビードSの溶接開始側の端部までの開先Vのズレを検知するものである。そして、その情報は、溶接位置制御部9(横断方向移動指令発生部9D、図5参照)に伝達され、溶接位置制御部9が、開先のズレを修正する方向に、溶接走行台車4を横断方向YLに移動制御する。この開先倣いセンサ3は、図4(a)、(b)に示すように、開先Vに沿って回転駆動される車輪3aと、この車輪3aの左右方向(溶接走行台車4の横断方向YLと同一方向)への移動量(開先Vのズレ)を圧力値等で検知するセンサ3bとを備えるものを用いることができる。
【0022】
また、図1に示すように、開先倣いセンサ3は、シーリングビードSの溶接開始側の端部に到達した際には、シーリングビードSへの衝突による破損を防止するため、開先Vに対して垂直方向に退避(上昇)して、開先のズレ検知(開先倣い動作)を終了する。そのため、開先倣いセンサ3を昇降させる昇降手段を支持部材4fに備える。さらに、支持部材4fには、案内腕4gを介して終端検知器10が装着されている。
【0023】
終端検知器10は、開先Vに沿って移動する溶接走行台車4の前方に位置して、被溶接材W1、W2の端部(図1ではエンドタブ板Wbの端部)を検知して、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達したことを後記するシーリングビード端部判断部9Cに教示するものである。そして、被溶接材W1、W2の端部を検知すると、案内腕4gが支持部材4f側に立ち上がり、終端検知器10が被溶接材W1、W2から離間される。また、終端検知器10としては、レーザ光を用いた検知器、CCDカメラ、検知用探針等を用いることができる。
【0024】
溶接位置制御部9については、図5も参照して説明する。
溶接位置制御部9は、台車移動処理部9Eと、トーチ先端座標メモリ(記憶手段)9Aと、溶接線傾き計算部9Bとを備える。
【0025】
台車移動処理部9Eは、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達するまでは、開先倣いセンサ3で検知された開先Vのズレに基づいて溶接走行台車4の横断方向YLへの移動を制御すると共に、溶接走行台車4の架設方向XLへの移動を制御するものである。そして、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達した後には、後記する溶接線傾き計算部9Bで算出された溶接線の傾きに基づいて溶接走行台車4の横断方向YLへの移動を制御すると共に、溶接走行台車4の架設方向XLへの移動を制御するものである。ここで、溶接走行台車4の架設方向XLへの移動速度は、被溶接材W1、W2の溶接条件等を考慮して、溶接前に予め設定され、溶接中には変化することなく一定である。ただし、被溶接材W1、W2の後記する開先部(溶接本体部)とシーリングビード部(溶接終端部)とでは移動速度を変更するように予め設定されている。
【0026】
具体的には、台車移動処理部9Eは、後記する横断方向移動指令発生部9Dからの移動指令を受けて、後記する横断方向サーボドライバ9Gに横断方向YLへの移動指令(移動量)を出す。そして、横断方向サーボドライバ9Gは、この移動量に応じて、スライダ(台車移動手段)6を移動させる。また、台車移動処理部9Eは、被溶接材W1、W2の溶接条件等を考慮して予め設定されている架設方向XLへの移動量に応じて、後記する架設方向サーボドライバ9Fに移動指令(移動量)を出す。架設方向サーボドライバ9Fは、この移動量に応じて、走行レール移動手段5を移動させる。このようにして、台車移動処理部9Eは、溶接走行台車4の横断方向YLおよび架設方向XLの移動を制御する。
【0027】
トーチ先端座標メモリ9A(溶接トーチの位置座標を記憶する記憶手段)は、溶接トーチ2、2、2の位置座標を記憶するもので、好ましくは、溶接走行台車4の架設方向100mm移動毎の横断方向の位置座標(現在地)をサンプリングして記憶するものである。具体的には、開先倣いセンサ3で検知された開先Vのズレに基づいて移動制御されたスライダ(台車移動手段)6から、溶接走行台車4の横断方向YLの移動量、すなわち、スライダ駆動部6bのエンコーダによって検知されたモータの駆動量が伝達される。また、走行レール移動手段5から、溶接走行台車4の架設方向XLの移動量、すなわち、走行レール駆動部5bのエンコーダによって検知されたモータの駆動量が伝達される。そして、トーチ先端座標メモリ9Aは、これらの駆動量に応じた溶接トーチの位置座標を記憶する。さらに、記憶された溶接トーチの位置座標は溶接線傾き計算部9Bに伝達される。
【0028】
溶接線傾き計算部9Bは、開先倣いセンサ3のフィードバック(検知された開先Vのズレ)にしたがってスライダ(台車移動手段)6が移動した結果から、溶接線の傾きを算出するものである。具体的には、トーチ先端座標メモリ9Aから溶接走行台車4の架設方向100mm移動毎に記憶された溶接トーチの位置座標(横断方向)を受け取り、その移動距離と位置座標(横断方向)から溶接線の傾きを算出する。そして、算出された溶接線の傾きは、後記するシーリングビード端部判断部9Cおよび横断方向移動指令発生部9Dを介して、台車移動処理部9Eに伝達される。なお、溶接線傾き計算部9Bには、図示しないが、算出された溶接線の傾きを記憶する記憶手段が備えられていてもよい。
【0029】
溶接位置制御部9は、さらに、シーリングビード端部判断部9C、横断方向移動指令発生部9D、架設方向サーボドライバ9F、横断方向サーボドライバ9Gを備えるものである。
【0030】
シーリングビード端部判断部9Cは、シーリングビードの溶接開始側の端部に開先倣いセンサ3が到達したことを判断して横断方向YLの移動制御方法を選択指令するものである。具体的には、終端検知器10から開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達した指令を受けた場合には、溶接線傾き計算部9Bが算出、または、記憶している溶接線の傾きに基づいて、横断方向YLの移動制御を実施する指令を出すように横断方向移動命令発生部9Dに指令する。また、終端検知器10から開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達した指令がない場合には、開先倣いセンサ3で検知された開先のズレに基づいて、横断方向YLの移動制御を実施する指令を出すように横断方向移動命令発生部9Dに指令する。
【0031】
なお、図1の片面溶接装置1においては、終端検知器10がエンドタブ板Wbの端部に到達すると、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達するように設定されている。しかしながら、終端検知器10がエンドタブ板Wbの端部に到達してから所定の距離移動(溶接走行台車4が所定距離移動)した時点で、開先倣いセンサ3がシーリングビードSの溶接開始側の端部に到達するように設定されていてもよい。
【0032】
横断方向移動指令発生部9Dは、シーリングビード端部判断部9Cの指令を受けて、台車移動処理部9Eに溶接走行台車4の横断方向YLの移動指令を出すものである。そして、移動指令は、溶接走行台車4の横断方向YLの移動制御を、開先倣いセンサ3で検知された開先のズレで行う指令、または、溶接線の傾きで行う指令のいずれかである。
【0033】
架設方向サーボドライバ9Fは、走行レール移動手段5による溶接走行台車4の架設方向XLへの移動を制御するものである。また、横断方向サーボドライバ9Gは、スライダ(台車移動手段)6による溶接走行台車4の横断方向YLの移動を制御するものである。
【0034】
この溶接位置制御部9において、トーチ先端座標メモリ9A(溶接トーチの位置座標を記憶する記憶手段)は、例えば、ROM、RAM、HDD(ハードディスク)等の記憶媒体で構成することができる。また、溶接線傾き計算部9B、シーリングビード端部判断部9C、横断方向移動指令発生部9D、台車移動処理部9E、架設方向サーボドライバ9Fおよび横断方向サーボドライバ9Gは、マイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータ等の処理・演算装置で構成することができる。
【0035】
次に、本発明に係る片面溶接方法について、図6〜図8を参照して説明する。図6は片面溶接方法の工程図、図7は開先部のトーチ軌跡を示す模式図、図8はシーリングビード部のトーチ軌跡を示す模式図である。なお、片面溶接装置の構成については、適宜、図1、図5を参照して説明する。
【0036】
本発明に係る片面溶接方法は、開先が形成された開先部(溶接本体部)と、シーリングビードが形成されたシーリングビード部(溶接終端部)で溶接制御方法を変えることに特徴がある。開先部では、開先倣いセンサ3で検知した開先のズレに基づいて、溶接走行台車4の横断方向YLの移動を制御して、溶接が行われる。また、シーリングビード部では、溶接トーチの位置座標(トーチ先端座標)から算出された溶接線の傾きに基づいて、溶接走行台車4の横断方向YLの移動を制御して、溶接が行われる。図7に示すように、開先部は、被溶接材の溶接開始位置PSからシーリングビードの溶接開始側の端部PBまでを意味する。また、図8に示すように、シーリングビード部は、シーリングビードSの溶接開始側の端部PBを越えて被溶接材W1、W2の溶接終了位置PEまでを意味する。
【0037】
<開先部:ステップS1〜S6>
(ステップS1)
片面溶接装置1の開先倣いセンサ3を開先V内にセットし、溶接トーチ2、2、2のトーチ先端が、開先Vと一致するようにセットする。次に、この時点での溶接トーチ2、2、2の位置座標(トーチ先端座標)を、トーチ先端座標メモリ9Aに記憶する。そして、開先倣いセンサ3による開先倣い動作を開始する。具体的には、開先倣いセンサ3で検知された開先のズレに基づいて、溶接走行台車4の横断方向YLへの移動を溶接位置制御部9で制御しながら、溶接走行台車4を架設方向XLに移動させて、溶接トーチ2、2、2で開先V(被溶接材W1、W2)を溶接する。
そして、横断方向YLへの移動の制御は、リアルタイムに行ってもよいが、溶接走行台車4(溶接トーチ先端)の横断方向における狙い位置(移動量)が±2mmの範囲を超えた場合に行うことが好ましい。
【0038】
(ステップS2)
ステップS1の開先倣い動作(被溶接材の溶接)を続行しながら、溶接走行台車4の架設方向の位置座標(現在地)を判断する。位置座標の移動量が所定距離(図6では100mm)増加した(Yes)と判断された場合には、次ステップS3に移行する。ここで、移動量は走行レール移動手段5の走行レール駆動部5bのエンコーダによって検知されたモータの駆動量である。なお、移動量が所定距離増加していない(No)と判断された場合には、移動量が所定距離を超えるまで開先倣い動作(被溶接材の溶接)を続行する。
【0039】
(ステップS3)
開先倣いセンサ3で検知された開先Vのズレに基づいて移動制御されたスライダ(台車移動手段)6の移動量(モータ駆動量)、および、走行レール移動手段5の移動量(モータ駆動量)に応じて、溶接トーチ2、2、2の位置座標(現在地)をトーチ先端座標メモリ9Aに記憶する。
【0040】
(ステップS4)
ステップS3での位置座標から、溶接線傾き計算部9Bで、図7に示すようにトーチ軌跡(溶接線)の傾きθ1を算出記憶する。この溶接線の傾きの算出記憶は、次ステップS6の開先倣い動作終了まで行い、傾きθ1〜θ4が算出記憶される。実際には、算出された傾きは、算出ごとに更新され、最新の傾きが記憶される。したがって、開先倣い動作終了時には傾きθ4(溶接走行台車4(開先倣いセンサ3)がシーリングビードSの溶接開始側の端部PBに到達する直前に算出記憶された傾き)が記憶されている。
【0041】
(ステップS5)
終端検知器10(シーリングビード端部判断部9C)で、開先倣いセンサ3がシーリングビードの溶接開始側の端部PBに到達したかを判断する。具体的には、終端検知器10が被溶接材W1、W2の端部(エンドタブ板Wbの端部)を検知した信号が、シーリングビード端部判断部9Cに入力されたどうかを判断する。開先倣いセンサ3が溶接開始側の端部PBに到達していない(No)と判断された場合には、前記ステップS2〜S4を繰り返し行う。開先倣いセンサ3が溶接開始側の端部PBに到達した(Yes)と判断された場合には、次ステップS6に移行する。
【0042】
(ステップS6)
開先倣いセンサ3による開先倣い動作を終了して、次ステップS7に移行する。
【0043】
<シーリングビード部:ステップS7〜S9>
(ステップS7)
開先倣いセンサ3を開先Vから上昇して退避させ、前記ステップS4で記憶された溶接線の傾き(最新の溶接線の傾きθ4)に基づいて、溶接位置制御部9(台車移動処理部9E)で横断方向YLへの移動量を算出する。その移動量で溶接走行台車4を横断方向YLへ移動させながら、溶接走行台車4を架設方向XLへ移動させ、溶接トーチ2、2、2による被溶接材W1、W2(シーリングビードS)の溶接を続行する。そして、溶接走行台車4が被溶接材W1、W2の溶接終了位置PEに到達したかを判断する。
【0044】
溶接走行台車4が溶接終了位置PEに到達した(Yes)と判断された場合には、溶接を終了する。また、溶接走行台車4が溶接終了位置PEに到達していない(No)と判断された場合には、次ステップS8に移行する。
【0045】
なお、溶接走行台車4が溶接終了位置PEに到達したかどうかの判断には、溶接位置制御部9に予め記憶された溶接終了位置PEの位置座標を用いる。そして、溶接終了位置PEは通常、エンドタブ板Wb上に設ける。
【0046】
(ステップS8)
前記ステップS7で溶接走行台車4が溶接終了位置PEに到達していない(No)と判断された場合には、溶接走行台車4の架設方向XLへの単位移動量に対する横断方向YLへの移動量、すなわち、溶接トーチ2、2、2のトーチ先端の狙い位置が、許容範囲(±2mmの範囲)を超えているかどうかを判断する。狙い位置が許容範囲を超えていない(No)と判断された場合には、溶接走行台車4の横断方向YLへの移動制御を行わずに前記ステップS7に戻る。狙い位置が許容範囲を超えた(Yes)と判断された場合には、次ステップS9に移行する。
【0047】
(ステップS9)
前記ステップS7で算出された溶接走行台車4の横断方向YLへの移動量に基づいて、溶接トーチ(トーチ先端)の狙い位置を位置決めして、前記ステップS7に戻る。
【0048】
以上、本発明の片面装置および片面溶接方法の実施形態について説明したが、本発明に係る片面溶接装置および片面溶接方法は、前記で説明した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で変更してもよい。
【0049】
例えば、片面溶接装置の開先倣いセンサは、開先のズレを検知できるものであれば、図4(a)、(b)のような圧力値で開先のズレを検知する代わりに、光等を使用したものであってもよい。また、開先倣いセンサが、シーリングビードの溶接開始側の端部を検知できるようにしてもよい。
また、本発明に係る片面溶接方法は、前記ステップS8の判断を行わずに、最新の溶接線の傾きθ4で、リアルタイムに溶接走行台車4を横断方向YLへ移動させてシーリングビード部の溶接を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る片面溶接装置の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の片面溶接装置の正面図である。
【図3】図1の片面溶接装置を平面視した模式図である。
【図4】(a)、(b)は開先倣いセンサの部分拡大図を示す。
【図5】本発明に係る片面溶接装置の溶接位置制御部のブロック図である。
【図6】本発明に係る片面溶接方法の工程図である。
【図7】本発明に係る開先部のトーチ軌跡を示す模式図である。
【図8】本発明に係るシーリングビード部のトーチ軌跡を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1 片面溶接装置
2 溶接トーチ
3 開先倣いセンサ
4 溶接走行台車
5 走行レール移動手段
6 スライダ(台車移動手段)
9 溶接位置制御部
9A トーチ先端座標メモリ(記憶手段)
9B 溶接線傾き計算部
9E 台車移動処理部
S シーリングビード
V 開先
W1、W2 被溶接材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先の長手方向の一端側にシーリングビードを有する被溶接材の前記開先の長手方向に沿って架設される走行レールと、前記被溶接材に向けて垂下される溶接トーチを支持する溶接走行台車と、前記溶接走行台車を懸架して、前記走行レールの架設方向に沿って移動させる走行レール移動手段と、前記溶接走行台車を、前記走行レールの架設方向に直交する横断方向に移動させる台車移動手段と、前記溶接走行台車に支持され、前記溶接トーチに先行して、前記開先内を移動して前記シーリングビードの溶接開始側の端部まで前記開先のズレを検知する開先倣いセンサと、前記溶接走行台車の移動を制御する溶接位置制御部とを備える片面溶接装置であって、
前記溶接位置制御部は、前記溶接トーチの架設方向および横断方向の位置座標を記憶する記憶手段と、
前記溶接走行台車が架設方向へ所定距離移動する毎に前記記憶手段に記憶されている前記位置座標に基づいて溶接線の傾きを算出する溶接線傾き計算部と、
前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達するまでは、前記開先倣いセンサで検知された前記開先のズレに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御すると共に、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達した後は、前記溶接線傾き計算部で算出された前記溶接線の傾きに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御する台車移動処理部とを備えることを特徴とする片面溶接装置。
【請求項2】
前記溶接位置制御部は、前記溶接走行台車が架設方向に所定距離移動する毎に、前記溶接傾き計算部で算出された溶接線の傾きを記憶する記憶手段を備え、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達した後は、前記台車移動処理部が、前記記憶手段に記憶されている前記溶接線の傾きに基づいて、溶接走行台車の横断方向への移動を制御することを特徴とする請求項1に記載の片面溶接装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の片面溶接装置を用いて溶接を行なう片面溶接方法において、
前記被溶接材の溶接開始位置から前記シーリングビードの溶接開始側の端部までは、前記開先倣いセンサで検知された前記開先のズレに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御しながら、前記溶接走行台車を架設方向に移動させて、前記被溶接材を前記溶接トーチで溶接し、同時に、前記溶接走行台車が架設方向に所定距離移動する毎に、前記記憶手段に記憶されている前記位置情報に基づいて溶接線の傾きを算出し、さらに、
前記シーリングビードの溶接開始側の端部を越えて前記被溶接材の溶接終了位置までは、前記開先倣いセンサを前記開先から退避させ、前記開先倣いセンサが前記シーリングビードの溶接開始側の端部に到達する直前に前記溶接線傾き計算部で算出した前記溶接線の傾きに基づいて前記溶接走行台車の横断方向への移動を制御しながら、前記溶接走行台車を架設方向に移動させて、前記被溶接材を前記溶接トーチで溶接することを特徴とする片面溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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