説明

牛乳様粉末油脂

【課題】レトルト加熱処理等の高温で加熱処理を施してもメイラード反応による褐変が生じることがなく、ホワイトソース、クリームシチュー、クリームスープ等の食品への分散性に優れ、食品への添加量が少量でも香り立ちが良く、コク味のある牛乳風味を食品に付与することのでき、しかも牛乳やクリーミングパウダーを添加した場合よりも食品の白度を向上させて商品価値を高めることができる牛乳様粉末油脂を提供する。
【解決手段】本発明の牛乳様粉末油脂は、食用油脂、乳蛋白、糖質、乳化剤、溶融塩を含む水中油型乳化物を乾燥粉末化してなる粉末油脂であって、食用油脂を20〜80重量%、乳蛋白としてホエー及びバターミルクを合計で5〜15重量%とカゼイン1〜15重量%とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳の代替品として好適な牛乳様粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホワイトソース、グラタン、クリームシチュー、クリームスープ等の加工食品には、牛乳が使用されている。例えばグラタン、クリームシチュー等に利用されるホワイトソースは、小麦粉とバターやマーガリン等の固形油脂とを加熱調理してルーを作成し、これに牛乳を加えて作られている。近年、これらの加工食品の外食市場等への供給増に伴い、高温でレトルト加熱処理して流通する場合が多くなっている。しかしながら牛乳を含む加工食品を高温で加熱処理すると、牛乳中のアミノ酸と糖類とのメイラード反応によって食品が褐変したり、加熱によって、牛乳の乳化が破壊され、牛乳の油脂分がオイルオフし、製品価値を低下させるという問題があった。このため牛乳様の風味を有しながら高温加熱処理を施してもメイラード反応による褐変が生じることのない乳化油脂組成物が牛乳の代わりに用いられるようになり、このような乳化油脂組成物として、特定の飽和系乳化剤と不飽和系乳化剤、油脂、無脂乳固形を組合わせて用いたもの(特許文献1)、乳糖、カリウム、ナトリウムを特定量用いたもの(特許文献2)、発酵乳や乳脂肪の酵素処理物から選ばれる少なくとも一種の乳および乳製品を原料として製造された呈味素材と特定の無脂乳固形分及び少なくとも1種の甘味素材、呈味剤を含有したもの(特許文献3)等が用いられ、また特定の無脂乳固形物とナチュラルクリームチーズ、発酵乳、乳清ミネラルなる群から選ばれる少なくとも1種の呈味性を有する無脂乳固形物と3糖類以下の糖アルコールを含有する加工用濃縮乳(特許文献4)等も用いられている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−152749号公報
【特許文献2】特開2002−223698号公報
【特許文献3】特開2004−147628号公報
【特許文献4】特開2000−139343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4の乳化油脂組成物や濃縮乳は、加熱時のメイラード反応は抑制され、乳化は安定であるものの、フレッシュな牛乳風味、コク味を有するものではなかった。また、食品に対して牛乳風味を付与する目的で、従来のように牛乳や、上記特許文献1〜4記載の乳化油脂成物、加工用濃縮乳を添加する場合、添加量が多く必要となり、その結果、他原料の添加量が制約を受け、食品の物性に影響を与えてしまうという問題があった。さらに特許文献1〜4記載の乳化物や濃縮乳は保存性に劣るため、長期間ストックできないという問題や、プレミックスなどの粉体製品には使用できないため、用途が限定される等の問題があり、粉体で牛乳風味を有するものが求められている。また牛乳を粉末化した全脂粉乳や、クリーミングパウダー等の粉体で牛乳風味を有するものもあるが、これらは食品への分散性、耐熱安定性、風味、コク味が劣るという問題がある。
本願発明は上記従来の課題を解決するためになされもので、食品に少量添加するだけでも、牛乳の風味とコク味を付与出来るとともに、食品への分散性に優れ、且つ高温時でのメイラード反応や乳化破壊、加熱による風味劣化などが生じることのない耐熱安定性に優れ、しかも流動性や保存安定性(油脂の染み出し、ケーキング)等の粉体物性に優れた牛乳様粉末油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)食用油脂、乳蛋白、糖質、乳化剤、溶融塩を含む水中油型乳化物を乾燥粉末化してなる粉末油脂であって、食用油脂を20〜80重量%、乳蛋白としてホエー及びバターミルクを合計で5〜15重量%とカゼイン1〜15重量%とを含有することを特徴とする牛乳様粉末油脂、
(2)ホエーとバターミルクの割合が、重量比でホエー:バターミルク=90〜20:10〜80である上記(1)の牛乳様粉末油脂、
(3)糖質としてトレハロースを含有する上記(1)又は(2)の牛乳様粉末油脂、
(4)溶融塩としてカリウム塩を含有する上記(1)〜(3)のいずれかの牛乳様粉末油脂、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の牛乳様粉末油脂は、粉体の安定性に優れ、食品への分散性にも優れるため、ホワイトソース、グラタン、クリームシチュー、クリームスープ等の加工食品への添加量が少量であっても、香り立ちが良く、コク味のある牛乳風味を食品に付与できる。また本発明の粉末油脂を添加した加工食品は、高温で加熱処理してもメイラード反応による褐変や、乳化破壊を生じる虞がないため、レトルト加熱処理して流通が容易であり、更に牛乳やクリーミングパウダーを用いた場合よりも食品の白度や、コク味が向上し、製品価値を高めることができる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の牛乳様粉末油脂における食用油脂としては、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油又は固体脂等、食用に適するものであれば全て使用可能である。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米糠油、ごま油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂及び、これらの油脂の硬化油又はエステル交換油、或いはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等が挙げられ、これらより選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0008】
本発明の粉末油脂は、乳蛋白としてホエー、バターミルク及びカゼインを含有する。ホエーとしては、チーズホエー、チーズホエーパウダー、カゼインホエー、カゼインホエーパウダー、脱塩ホエー、脱塩ホエーパウダー、ホエープロテインコンセントレート等が用いられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができるが、風味が良好で、粉末油脂にした時の粉体物性に優れる脱塩ホエー、脱塩ホエーパウダーの使用が好ましい。バターミルクとしては、バターミルク、バターミルクパウダー等が用いられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。またカゼインとしては、酸カゼイン、レンネットカゼイン、乳酸カゼイン、カゼインナトリウム等が用いられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができるが、風味が良好なカゼインナトリウムの使用が好ましい。
【0009】
本発明の粉末油脂は、粉末油脂中に上記食用油脂を20〜80重量%、乳蛋白のホエー及びバターミルクを合計で5〜15重量%、カゼインを1〜15重量%含有する。粉末油脂中の食用油脂の割合が20重量%未満であるとコク味が感じられず、80重量%を超えると粉末化が困難になる。またホエーとバターミルクの合計の含有割合が5重量%未満であると強い牛乳風味が得られず、15重量%を超えると粉末化前の水中油型乳化物の加熱時に、加熱臭が生じやすくなるのでフレッシュな牛乳風味が損なわれたり、乳化が不安定になりやすい。また、粉末油脂がケーキングしやすくなり、さらに粉末油脂を水に溶解した時の水中油型乳化物の乳化状態が不安定になり、オイルオフを生じる。一方、カゼインの含有割合が1重量%未満であると、賦形効果が十分に得られず、粉体物性に劣る。また、15重量%を超えると、カゼイン臭が強くなるため、フレッシュな牛乳風味が得られず、さらに粉末化前の水中油型乳化物の粘度が高くなり粉体物性に劣る。本発明の粉末油脂は、食用油脂40〜70重量%、ホエー及びバターミルクを7〜12重量%、カゼインを3〜5重量%含有することがより好ましい。またホエーとバターミルクの割合は重量比で、ホエー:バターミルク=90〜20:10〜80が少量の添加で香り立ちがよく、コクのある牛乳風味を付与することができ、また粉体物性が良好な粉末油脂が得られ好ましく、特に80〜60:20〜40が好ましい。
【0010】
糖質としては、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖類、蔗糖、麦芽糖、乳糖などの二糖類、水飴、オリゴ糖、トレハロース、デキストリン等が挙げられ、これらは1種または2種以上混合して用いることができる。粉末油脂中の糖質の含有割合は10〜70重量%が好ましく、粉末油脂中のトレハロースの含有割合は0.5〜15重量%が好ましい。粉末油脂中の糖質の割合が10重量%未満であると、十分な賦形効果が得られないため粉体物性に劣る虞があり、70重量%を超えると、牛乳風味・コク味が弱くなる虞がある。また、粉末油脂中のトレハロースの含有割合が0.5%未満であると、牛乳の風味・コク味が弱くなり、また製造時の耐熱性に劣る虞があり、15重量%を超えると、甘味が強すぎて牛乳風味のバランスが悪くなる虞がある。さらに好ましくは5〜10重量%であると、より牛乳風味が強く、また加熱時の風味劣化が抑制される。なかでもトレハロースとデキストリンを併用すると、粉体物性と加熱時のメイラード反応抑制が向上するので好ましい。
【0011】
溶融塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。カリウム塩を用いると溶融塩による雑味がなく、また牛乳風味が強くなるため好ましい。溶融塩は粉末油脂中に0.1〜2重量%含有されていることが好ましい。粉末油脂中の溶融塩の割合が0.1重量%未満の場合あるいは、2重量%を超えると、粉体物性の低下や粉末油脂を水に溶解した時の水中油型乳化物の乳化状態が不安定になる虞がある。
【0012】
本発明の上記粉末油脂は、食用油脂、乳蛋白、糖質、溶融塩を、乳化剤の存在下で乳化した水中油型乳化物を乾燥粉末化して得られる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、レシチン等を用いることができる。本発明において乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステルが好ましい。乳化剤は食用油脂100重量部当たり0.1〜5.0重量部用いることが好ましい。
【0013】
上記水中油型乳化物は、まず、水相に油相を添加し、ホモミキサー等で攪拌後、ホモゲナイザー等を使用し、均質化して得ることができる。水中油型乳化物を調製する際には、予め水に乳蛋白、糖質、溶融塩を添加し、水相を調整する。乳化剤は水相、油相の両方、またはいずれか一方に含有されていれば良い。本発明の粉末油脂は、上記水中油型乳化物を一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等によって乾燥処理することにより得ることができるが、水中油型乳化物を調整する際に、必要に応じて、大豆蛋白、小麦蛋白、オクテニルコハク酸デンプン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、タピオカデンプン等のデンプン、ゼラチン、キサンタンガム、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等のガム質等を併用することができる。上記必要に応じて添加する物質の使用量は、0.1重量%〜30重量%が好ましい。本発明の粉末油脂中には、更に香料や酸化防止剤等を含有していても良い。
【0014】
本発明の牛乳様粉末油脂は、従来より牛乳が使用されていた食品に、牛乳の代替品として用いることができるが、特に、ホワイトソース、このホワイトソースを使用したシチューやグラタン、ポタージュスープやクリームスープ等のスープ類、カスタードクリームやフラワーペースト等のフィリング類、プリン、ババロア等のデザート類、パン・菓子その他加工食品の練り込み用として、またフィリング材やトッピング材、スプレッド等の食品への使用が好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜6、比較例1〜7
油脂、蛋白質、糖質、乳化剤、溶融塩を含む水中油型乳化物をスプレードライし、表1に示す組成の粉末油脂を得た。得られた粉末油脂の粉体物性、分散性、耐熱安定性及び風味を評価した。結果を表2に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
※1 粉末油脂の粉体物性は、流動性、油脂の染み出しやケーキングの状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
1・・流動性が悪く、油脂の染み出しやケーキングが多い。
2・・流動性がやや悪く、油脂の染み出しやケーキングがやや多い。
3・・流動性が良く、油脂の染み出しやケーキングがない。
【0019】
※2 粉末油脂の分散性は、粉末油脂の10倍量の熱湯に粉末油脂を添加して攪拌し、分散状態を目視確認し、以下の基準で評価した。
1・・攪拌しても分散しない。
2・・攪拌すると分散するが、一部塊が残る。
3・・攪拌すると速やかに均一分散する。
【0020】
※3 粉末油脂の耐熱安定性は、粉末油脂の10倍量の熱湯に粉末油脂を添加し、オイルオフとクリーミングの有無を目視確認し、以下の基準で評価した。
1・・熱湯に加えた際に、オイルオフやクリーミングが生じる。
2・・熱湯に加えた際に、オイルオフやクリーミングが若干生じる。
3・・熱湯に加えても、オイルオフやクリーミングが生じない。
【0021】
※4 粉末油脂の風味は、粉末油脂の10倍量の熱湯に粉末油脂を添加して攪拌した後の水溶液を10人のパネラーが試飲し、コク、乳の風味について官能評価を行い、下記の基準で評価した。
1・・10人中8人以上が良好でないと判断した。
2・・10人中3〜4人以上が良好であると判断した。
3・・10人中5〜7人以上が良好であると判断した。
4・・10人中8人以上が良好であると判断した。
【0022】
上記各粉末油脂を用いて、ホワイトソースを製造し、レトルト耐性を試験した。
(1)ホワイトソースの製造
小麦粉6.25g、マーガリン10gを同時に炒めて作成したホワイトソース用ルウーに、粉末油脂10gと水90gを混合した水溶液及び調味料を適量添加し、ルウーを伸ばしながら85℃ になるまで撹拌しながら加熱し、ホワイトソースを得た。
(2)ホワイトソースのレトルト耐性試験
得られたホワイトソースをビンに充填し、オートクレーブにより120℃、30分間レトルト加熱処理した。レトルト加熱処理後のホワイトソースの色調(白度)、オイルオフの状態、コク、乳の風味を、粉末油脂と水を混合した水溶液の代わりに牛乳100gを用いて得たホワイトソースの結果(参考例)とあわせて表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
※5 レトルト加熱処理前のホワイトソースの白度を目視により、以下の基準で評価した。
1・・くすんだ白色。
2・・ややくすんだ白色。
3・・非常に美しい白色。
【0025】
※6 レトルト加熱処理後のホワイトソースの白度を目視により、以下の基準で評価した。
1・・かなり茶褐色。
2・・若干茶褐色。
3・・白色。
【0026】
※7 レトルト加熱処理後のホワイトソースのオイルオフの状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
1・・オイルオフが生じる。
2・・オイルオフが若干生じる。
3・・オイルオフが生じない。
【0027】
※8 レトルト加熱処理後のホワイトソースの風味は、ホワイトソースを10人のパネラーが試食し、コク、乳の風味について官能評価を行い、以下の基準で評価した。
1・・10人中8人以上が良好でないと判断した。
2・・10人中3〜4人以上が良好であると判断した。
3・・10人中5〜7人以上が良好であると判断した。
4・・10人中8人以上が良好であると判断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂、乳蛋白、糖質、乳化剤、溶融塩を含む水中油型乳化物を乾燥粉末化してなる粉末油脂であって、食用油脂を20〜80重量%、乳蛋白としてホエー及びバターミルクを合計で5〜15重量%とカゼイン1〜15重量%とを含有することを特徴とする牛乳様粉末油脂。
【請求項2】
ホエーとバターミルクの割合が、重量比でホエー:バターミルク=90〜20:10〜80である請求項1記載の牛乳様粉末油脂。
【請求項3】
糖質としてトレハロースを含有する請求項1又は2記載の牛乳様粉末油脂。
【請求項4】
溶融塩としてカリウム塩を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の牛乳様粉末油脂。

【公開番号】特開2009−278896(P2009−278896A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132712(P2008−132712)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】