説明

物体の形状を決定する方法及びそのような方法のためのシステム

処理手段(12)及び静電感知装置(20)を使用するシステムが記載されている。該システムは、所定形状の物体(42,70)及び感知された静電的測定値(40)に対する静電的計算(44,46)の反復(56)から未知の物体の形状が計算されるような方法を実行する。上記所定の物体形状(70)は未知の物体形状(72)に向かって該物体形状が決定される(60,74)まで当該方法の各反復において変形される。該形状の変形は、上記所定形状に供給された電荷分布に依存するような静電電位の零等高線を計算することに基づくものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電的感知から物体の形状を決定する方法、斯かる決定された形状に依存してデバイス又は装置を制御する方法、並びに斯かる方法を実行するための処理手段及び静電感知エレメントを有する装置に関する。本発明は、専らではないが特には、物体形状の決定を例えば身振り認識に使用して非接触制御及び対話を提供することができるようなコンピュータシステム、表示器、消費者用電子装置及び他の対話型装置に応用される。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、販売機又はキオスク、表示器、携帯電話及びパーソナルデジタルアシスタント又は手持ちコンピュータ等の装置と対話するための多くの技術が知られている。例えば、殆どのコンピュータユーザにより、“マウス”及びキーボード/キーパッドを介しての直接入力が良く知られている。特に、グラフィックユーザインターフェースは、表示器上で位置及び操作を図形的に表すポインティング装置(マウス)の制御の下でポインタによる“ポイント及びクリック”暗喩を用いる。圧力又は容量感知技術に基づくタッチスクリーン技術は益々普通になっており、手持ちコンピュータでは直感的対話を提供するためにプラスチック“ペン”が使用される。
【0003】
装置とのユーザ対話を提供することが可能な他の技術は、時には準静電感知とも呼ばれる電界感知の技術である。一般的に、第1送信電極が交番電圧の印加により励起され、該電圧は容量性結合により第2受信電極との電界線を形成し、従って、該第2電極に電束電流(displacement current)を誘導する。物体が上記電極の近傍に、従って延在する電界線内に配置されると、これら電界線の幾つかが該物体により終端され、これが容量性電流の減少につながる。かくして、上記電極の近傍における物体の存在は、上記電流が監視されるなら、感知することができる。
【0004】
米国特許第6,025,726号は、コンピュータ及び他のアプリケーションを意図する電界感知装置を開示している。意図するアプリケーションに応じて、ユーザの指又は手又は全身の位置を感知することができる。米国特許第6,025,726号に記載された回路及び装置は、幾らか嵩張ると共に複雑であり、これは表示器を備えるラップトップ又は小型手持ち装置への組み込みに適していない。更に、例えば物体の位置を大まかに決定するための開示された方法は、送信部電極と受信部電極との間の電界は双極子場により描かれるとの不正確な物理的仮定に基づくと共に、この場が物体の存在によっては撹乱されないとの不正確な仮定にも基づいている。物体の3D形状又は輪郭を決定することは、このようなシステム及び方法にとりやっかいである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、物体の三次元形状を決定して、例えば身振り認識による制御を可能にすることができるような電界感知方法及び装置に対する要求が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、複数の静電受信手段と少なくとも1つの静電送信手段とを有するセンサ装置から延びる静電感知領域内に置かれた未知の物体の形状を決定する方法であって、該方法が、前記未知の物体により前記受信手段の各々に誘起された電荷の変化を測定すると共に該電荷測定値を第1電荷像データセットCとして記憶するステップと、所定形状を規定する点座標を表すような該所定形状のデータセット(PSD)を取り出すステップと、前記第1電荷像データセットCに関して該測定された電荷像Cが略得られるために前記所定形状上で必要とされる電荷分布を表すような電荷分布データセットq’を決定するステップと、前記感知領域における前記電荷分布データセットq’に対応するような静電電位分布を計算するステップと、前記感知領域における前記静電電位分布が零に近い点に対応するような座標を持つ新たな形状のデータセットを発生するステップと、前記新たな形状のデータセットを該新たな形状のデータセットと前記所定形状のデータセットとの間の差を所定の閾と比較するステップにより前記感知領域における前記未知の物体の形状を表すものと判断するステップとを有するような方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、装置を制御する方法であって、物体の形状を前記第1態様により決定するステップと、所定形状に関連付けられた制御動作のリストから前記決定された物体の形状に関連する制御動作を選択するステップと、前記選択された制御動作を実行するステップとを有するような方法が提供される。
【0008】
本発明の第3態様によれば、少なくとも1つの静電送信手段と複数の静電受信手段とを有するセンサ装置から延びる静電感知領域内に置かれた未知の物体の形状を決定するシステムであって、所定形状のデータセットを記憶する記憶手段と、前記第1態様に記載したように静電感知領域に置かれた未知の物体の形状を決定する処理手段と有するようなシステムが開示される。
【0009】
前述した方法の態様は、一般的に、未知の物体の形状を、所定の既知の物体の形状を計算された静電電位等高線(electrostatic potential contour)に依存して漸増的に変化させることにより決定する。上記所定の形状の変化は、該所定形状上の(架空の)電荷分布を計算することにより導かれ、該計算は、上記所定の物体を、チクホノフ正則化(Tikhonov
regularization)のような正則化手順の使用を可能にするように接地導体と見なすことにより導かれる。
【0010】
次いで、この架空の電荷分布による静電電位分布が計算され、前記所定形状が、3D空間において零静電電位等高線の位置に一層接近して整合するように変化される。このようにして、所定の既知の仮想的物体形状は、静電電位等高線=零を前記未知の形状の次に最良の推測として使用することにより漸増的に変化される。
【0011】
一実施例においては、当該装置は上述した方法の態様を実行すべく動作するようなマイクロプロセッサを有するコンピュータシステムを備え、これらプロセッサ及びコンピュータは、幾つかの受信部電極及び幾つかの送信電極を有する静電感知プレートにリンクされる。
【0012】
また、三角形要素がマッピングされるような周辺点座標の形で所定形状を記憶するメモリ記憶部も設けられる。物体が前記受信部電極により感知されると(出力電流の変化により通知される)、上記プロセッサは各受信部で受信された電荷を監視し、メモリに記憶された上記既知の物体形状上に適切な架空又は仮想の電荷分布をマッピングし、零静電電位等高線を計算し、この等高線に向かって各三角形要素の位置を、前記正則化手順により導かれて、満足のゆく一致が見付かるまで変化させる。
【0013】
上記プロセッサは、上記一致が満足のゆくものであると、前記センサプレートにおける測定された電荷と前記架空の電荷データセットにより発生され、従って測定されるであろう電荷との間の自乗差の和を比較すると共に、この和が例えば5%の差等の所定の閾より小さくなった場合に当該処理を終了することにより、判断することができる。
【0014】
従って、所定の形状(例えば球)は、上記装置の近傍に置かれた未知の形状(例えば、親指を突き上げた手振りの手)を近似するまで、要素毎に変化される。
【0015】
かくして、未知の物体の形状が電界感知装置において決定されるのを可能にするような反復的収束処理が得られる。
【0016】
更に、当該装置は、上記形状が決定された場合に該決定された形状に関連付けられた制御動作が実行されるようなグラフィックユーザインターフェース及び表示手段を有することもできる。
【0017】
本発明の他の態様によれば、プロセッサに前述した方法を実行するよう命令するような命令を有するプログラムコードが、斯かる命令が設けられたプログラムコード担体と同様に設けられる。
【0018】
本発明の更に他の態様によれば、装置を制御する方法であって、該制御が第1態様に記載した物体の形状の決定に依存するような方法が提供される。
【0019】
本発明の更なる特徴及び利点は添付請求項に記載され、斯かる請求項の開示内容は参照により本明細書に組み込まれるものとすると共に、斯かる請求項に注目されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を、添付図面を参照して例示のみとして説明する。
【0021】
尚、各面は概念的なもので、寸法通りには描かれていないことに注意されたい。また、これら面の各部の相対寸法及び比は、明瞭化のため及び図面における便宜上、大きさが誇張又は縮小されて示されている。また、変更された及び別の実施例においては、同一の符号が概ね対応する又は同様の特徴部分を示すために使用されている。
【0022】
下記に記載される実施例は、集積された電界感知電極及び回路部品を有する電界感知プレートの形態の感知装置に接続されたIBM(登録商標)互換型パーソナルコンピュータ(PC)を備えるようなシステムを有している。該PCは、通常のように、汎用マイクロプロセッサの形態の処理手段を有している。磁気ハードディスクドライブ、メモリ及び光ディスクドライブの形態の記憶部がプログラムを記憶するために設けられ、これらプログラムは、メモリにロードされ上記マイクロプロセッサにより実行された場合に、本発明の各態様が実施されるようにする。該PCは上記電界感知プレートから遠くに位置することができることに注意すべきであり、その場合、該PCに感知された測定値を供給するには、これらの間の接続リンクのみが必要となる。斯かるリンクは、直接的手段(例えば、シリアル、USB又はファイヤワイヤ構成)又は間接的手段(有線又は無線の、イーサネットを介してのネットワークリンク等)により設けることができる。
【0023】
当業者であれば、当該システムの正確な構成は意図するアプリケーションの筋書きに依存するということを容易に理解するであろう。例えば、ローカルな直接接続が物体形状の決定に少なくとも部分的に基づくようなホームPC型のユーザ対話及び制御にとり充分である一方、ネットワークリンクはセキュリティ及びアクセス制御アプリケーションにとり一層適している。更に、当業者であれば、記憶及び処理手段並びに感知装置を有する手持ち又はその他の消費者用電子装置も本発明を具現化することができると認識するであろう。
【0024】
図1は、本発明を実施化するシステムの概略図である。該システムは、電界感知装置(S)20にシリアルRS232データリンク11により接続されたPC10を有している。該PC10はインテル(登録商標)のペンティアム級マイクロプロセッサ12(又は、AMD(登録商標)により製造されたもののような他の適切な代替品)を有し、該マイクロプロセッサはデータバス13を介して記憶部(RAM)14、ハードディスクドライブ(HDD)16及び光ディスクドライブ17に接続されている。本発明の方法の態様は、コンパクトディスク媒体17a上で本来供給されるソフトウェアコード17bとして実施化される。コード17bは、ローカルな記憶及び実行のために、ハードディスクドライブ16にコピーされる。勿論、斯かるコードは、フラッシュラムカード又はフロッピーディスク等の他の伝達媒体上で提供することもでき、又はインターネット上で信号として伝達され、かくして、当該PCにユーザの要求に応じてダウンロードすることもできる。コード17bは、一旦PC10に供給されると、典型的にはマイクロプロセッサ12により実行するためにハードディスクドライブ16上にインストールされる。当該PCの通常の動作を可能にするために、マクロソフトのウィンドウズXP(登録商標)のようなオペレーティングシステムのコードも設けられる。該図に示すように、表示器18も設けられる。
【0025】
図2は、感知装置(S)20を、より詳細に図示している。プレート20は、多数の行の電界受信電極(R)21a、21b、21c、…及び送信電極(T)31a、31b、31c、…を有し、これら電極はチェッカー盤状の又は交互のパターンで配列されている。該センサは、マトリクスに配列された、800x600もの多くの個々の電極を有することができる。明瞭化のために、該図では数本の行及び列しか示されていない。感知アレイを有する斯様な感知プレート20の構造、回路配置及び回路構成部品は、オプションとして、例えば電極が個々の表示ピクセルと一体化されるようにしてポリシリコン型薄膜トランジスタ液晶表示器に組み込むことができる。感知プレート技術並びに例示的感知プレート装置及び回路は、2002年12月27日に公開された本発明者の本出願人による同時係属中の国際特許出願公開第WO02/103621号に一層詳細に記載されており、該文献の内容は本明細書に組み込まれると共に、該文献に注目されたい。
【0026】
動作時において、プレート20は物体の存在により前記受信電極に誘起された電荷の変化を測定し、該電荷の変化はプログラム17bによる解析のためにシリアルリンク11を介してPC10に供給される。このプログラムは、初期インストール時にユーザにより入力されるか、又はプログラム/PC10とセンサプレート20との間の初期のプラグ・アンド・プレイ型の交換において自動的に検出されるような、当該取り付けられた感知プレートの構造及び型式に関する幾何学情報を有している。
【0027】
ここで、感知プレート20上の近傍の領域に位置された物体の形状の決定を説明する。一般的条件で、交番電位電圧(この場合は、V=20V及びf=100kHz)が各送信電極31a、b、cに印加される。これは、センサプレート20により規定される接地面(ground plane)上の感知領域に位置される導電性物体(人の手は、100kHzにおいて導体と考えられる)の表面に電位を誘起する。この電位は該物体の表面上に電荷を、この電荷の分布の結果としての電位が前記送信部の電位と等しいが符号は反対となり、かくして該物体表面における正味の電位が零となるように、誘起する。結果として、当該物体上に誘起された電荷はセンサプレート20における電荷分布の変化を生じ、この変化が受信部電極(R)21a、b、cにより測定される。このセンサプレートに誘起された電荷の変化は、電界又は静電(容量性)感知の技術分野では時には“電荷像”と呼ばれる。
【0028】
原理的に、電荷像を監視し、これから静電理論を用いて電位分布を計算すると共に当該物体形状の零電位等高線(zero potential contour)を識別することができる。しかしながら、実際には、プレート20による測定された電荷の変化は通常は受信電極当たり数〜1フェムトファラド(1fF)の程度に過ぎず、従って本来的にノイズに対し敏感である。ノイズにより測定電荷像に導入される不確定性は、本発明者の知る限りにおいて、如何なるアルゴリズム(従って、斯様なアルゴリズムのコンピュータによる実施)をも、感知領域における物体の可能性のある形状を決定するような意味のある解に収束するのを妨げる。
【0029】
数学者の言葉によれば、物体と送信部/受信部との間の電界感知相互作用を支配及び記述する静電方程式は、悪い姿勢の(ill posed)行列方程式となる。従って、斯かる行列方程式の解への収束は殆ど保証されず、解への収束が得られる限られた場合においても、非物理的な物体形状又は電荷分布となる。
【0030】
しかしながら、出願人は、数学的関連では、当該問題は、絶縁体である既知の仮定的物体上の電荷分布が、該物体が導体として扱われる場合該既知の物体上に結果として得られるであろう電荷分布と同様になると仮定することにより、正則化(regularize)することができると理解した。
【0031】
更に、該正則化は、感知プレート20上の3D領域における静電電位分布が評価されるのを可能にする。重大にも、上記の仮定は、当該領域における零の静電電位等高線は形が当該電荷像を形成する実際の物体のものに近いということを暗示している。従って、上記等高線は、当該システムをかき乱し且つ電荷の測定変化を生じさせる実際の物体に形状が近いような新たな仮定的物体を構成するのに利用することができる。
【0032】
上記を図3を参照して説明するが、該図は、図1のコンピュータシステム実施例で実施化された本発明の方法の態様によるステップを図示している。
【0033】
図3はステップ40で開始し、該ステップではコンピュータ10がプレート20による電荷の出力を監視する。この場合、例えばユーザは自身の手等の物体をプレート20上に位置させ、電荷の変化は各受信部電極21a、b、cから上記コンピュータに供給される。該コンピュータは上記電荷を第1電荷像データセットCとしてメモリ14に記憶する。
【0034】
次いで、当該プログラム17bはプロセッサ12にステップ42を実行させ、該ステップにおいては所定の形状を表すデータがメモリから取り出される。この実施例では、本出願人は当該形状を一連の三角形として記憶するように選択し、斯かる一連の三角形は、これら三角形を上記センサプレートに関係づける位置情報を有している。従って、3Dグラフィックスの分野で良く知られているように、当該形状は、該形状の個々の三角形を移動させることにより操作することができる。開始する形状は、例えば上記感知プレートにより規定される面の数センチメートル上に懸架され、上記プレートのx及びy限界(例えば、20x20cm)内の寸法を有するような球とすることができる。
【0035】
上記三角形要素は当該物体表面上に上記3Dの所定形状を形成するようにマッピングされ、従って、該所定形状はハードディスクドライブ16内に上記形状を形成する上記要素の点座標を記述するデータセットとして記憶される。
【0036】
上記所定の形状データセット(PSD)を記憶部16から取り出し、処理のためにメモリ14に渡すと、当該プログラムはプロセッサをステップ44に進行させる。該ステップにおいては、結果として上記測定電荷像Cが得られるために上記所定の形状上で必要とされる電荷分布q’が計算される。
【0037】
これは、上記所定の形状(これは、上記電荷像Cを生じた形状/物体ではない)に対してN個の線形方程式:
【数1】

の系を設定することにより達成することができ、ここで、Gはコンピュータメモリに記憶された上記所定形状の各点座標と該所定形状の他の各点との間の静電交換ポテンシャル(electrostatic exchange potential)を記述するような成分を有する行列データセットであり、tは上記所定形状の各点座標と前記送信電極31a、b、cの点座標との間の静電交換ポテンシャルを記述するベクトルデータセットである。
【0038】
当該コンピュータプログラムは上記N個の線形方程式の系を、例えばディスク状の送信部を考えると共に当該形状表面自体を各々が一定の電荷qを持つ中間点ρ、φ及びzを持つようなN個の三角形要素に分割し、ベクトルtを:
【数2】

なる上記式(2)により定義することにより発生する。Gの成分は、同様にして下記の式(3):
【数3】

により与えられる。
【0039】
かくして、当該コンピュータプログラムは、NAG(登録商標)又はMATLAB(登録商標)により提供されているもののような数値計算技術を用いて、メモリ内にG及びtに対応するデータセットを発生する。
【0040】
センサプレート20における容量の変化を記述するために、該プレートは、各々が容量cを持つセグメントδRに離散化(discretise)され、成分Mi,jを持つ行列は:
【数4】

と定義される。
【0041】
これは、既知の物体上の電荷分布q及び接地面(前記センサプレートにおける)上の容量(電荷像)の変化を記述するような、
【数5】

なる線形方程式の組を与える。
【0042】
一般的に、未知の物体から測定電荷像Cが与えられた場合、所定の物体(PSD)上の電荷分布q’は原理的に計算することができ、ここで、q’は測定電荷像データセットCを生じる。即ち、q’はC=Mq’の最小自乗解であり、ここで、Mは既知の物体(PSD)に対して計算される。残念ながら、先に開示したように、Cの値のノイズに対する感度は、実際に物理的及び合理的な式(5)の固有の解を見付けることは極めて困難であることを意味している。
【0043】
しかしながら、絶縁体としての所定形状上の電荷分布q’は、もし導体であるなら既知の物体上の電荷分布と同様になるであろうという理解は、qが式(1)により定義される線形方程式の組に対する解となるような(即ち、t=Gq)正則化パラメータqが定義されるのを可能にする。電荷分布q’は分布qとは余り相違しないと仮定されるので、q’に対する解は、qと同様であるq’に対する値を許容することにより制約され得る。かくして、式(5)は解くことが可能となる。
【0044】
従って、Mが前述したように悪い条件である(悪い姿勢である)という事実にも拘わらず、例えば、この場合においてはq’の値が下記式を満足しなければならないことを要するようなチクホノフ(Tikhonov)正則化を用いることにより、q’に対する収束解が決定される:
【数6】

但し、PはノルムqPqを規定する処罰項(penalty term)である。従って、上記式を適用して、当該コンピュータプログラムはステップ44においてt=Gq及びC=Mq’からq’の値を決定し、その場合において、該値はq’をqに略等しく設定することにより制限される。
【0045】
次いで、当該プログラムはプロセッサをステップ46に進め、該ステップにおいては前記接地面上の空間における電位分布が:
【数7】

により計算される。
【0046】
上記電位分布の評価に続き、当該プログラムはステップ48において当該所定形状を形成する三角形要素の位置を、斯かる要素が零電位等高線に対応する位置座標に一層接近して整合するように変化させる。かくして、新たな形状が発生される。
【0047】
上記零電位等高線及び三角形要素再配置がプロセッサにより計算される有利にも効率的な方法は下記の通りである。当該所定形状の各三角形要素の表面の電位が計算され、これに続いて、零電位等高線に対する電位の線形補外が行われる。例えば、各三角形要素i上の電位vは:
【数8】

により与えられ、1/2なる係数は表面の電位が近似されているという事実の適切な配慮を保証する。次いで、各三角形要素iが移動しなければならない量δxが−v/q’により与えられ、これは当該プロセッサにより、
【数9】

に基づいて評価することができ、ここで、λはオーバーシュートを防止するために導入される減衰係数である。
【0048】
かくして、各三角形要素は、当該感知領域における零電位等高線に対応する位置を一層近く近似するように再配置され、これによりステップ48において新たな形状を発生する。
【0049】
次いで、ステップ50において上記の新たな形状を前記所定の形状と比較するために種々の閾規準を使用することができ、これにより、メモリ14において前記所定形状を上記新たな形状により置換する(ステップ54のSET)と共にステップ56(REP)においてステップ42ないし50を繰り返すと判断するか、又は、ステップ50から、上記新たな形状は未知の物体に密に対応していると判断して、経路58を介して反復を停止し、ステップ60において該新たな形状が上記未知の物体の形状を表すと判断する(DET)。
【0050】
例えば、ステップ50においては上記新たな形状の要素の位置を所定の又は前の形状の要素のデータセットと比較することができ、もし差が例えば5%なる差の閾より小さい場合、当該プログラムはステップ60に移動し、該ステップにおいて当該新たな形状のデータセットは未知の物体の形状のものであると判断される。
【0051】
もっと複雑な閾計算をプログラムすることもでき、その場合においては、電荷分布q’を持つ新たな形状により生成されるであろうセンサプレートの読み(電荷像)C’が計算される。このデータセットC’は、次いで、測定された電荷像データセットCと比較され、対応する値の間の最小自乗差が例えば0.1%なる閾より小さい場合は、満足のゆく適合と判定されて、当該処理はステップ60に移動し、該ステップにおいて、該新たな形状のデータセットが未知の物体の形状として戻され、反復処理は終了する。
【0052】
第1実施例においては、パラメータqが式(1)に基づいて計算され、次いで、式(5)からのq’の決定を正則化するために使用された。他の実施例では、qを決定するための発見的方法が適用される。この方法は、図1のシステムに関しては、同様の寸法の種々の異なる形状の物体に対して得られる実際の電荷分布をシミュレーション又は測定するステップを含む。次いで、これらの電荷分布は感知領域における各位置に対して平均され、結果としてのデータセットは、式(5)からのq’の決定を正則化する(即ち、式(6)を適用する)ために以前と同様にqとして使用される。
【0053】
更に他の実施例では、前述した方法の態様がシステム(図1)に使用されて、所定の物体形状による制御を行う。例えば、PC10は制御動作に関連する手振り(例えば、親指の突き上げ、握り拳等)のような所定の物体形状のリストを16に記憶する。例えば、親指を突き上げる手振りの形状の手はOKの又は承認する制御動作に関連付けることができる一方、閉じた握り拳の形状の手は停止の又は承認しない制御動作に関連付けることができる。かくして、当該システムと対話するユーザは該システムから質問を受けることができる。肯定的に応答したいユーザは、自身の手を感知領域に親指を突き上げた形で置くことにより、そのようにする。この場合、プロセッサ12は前述したようにして当該物体の形状を決定し、前記リストから該決定された形状に最も密に類似する形状に関連付けられた制御動作を選択し、該制御動作を実行する。かくして、身振り認識可能型制御が提供される。
【0054】
図4は、この実施例によるステップを図示し、該実施例においてはステップ62(DETOS)において物体形状が決定される。該ステップに続き、ステップ64(RCL)では制御リストが取り出され、該リストがステップ66(SELCA)において調べられて、実行されるべき制御動作を選択する。該ステップに続き、ステップ68(EXCA)では上記の選択された制御動作が実行される。
【0055】
図5は、未知の物体の形状を決定するための、上記の例示的コンピュータ実施例のスクリーン写真である。該方法の計算は、感知領域20の中心の単一の送信部31aと、該感知領域20上に長方形格子状に分散された16x16の受信部電極21a、bのアレイとを用いて実行された。パラメータλは0.02であった。前記所定の形状は回転楕円体70であり、実際の未知の物体72は、明瞭化のためのみ、図示のものであった。60回のみの反復の後の結果74が、該図に差し込まれて図示されている。該差し込みに示されるように、上記所定形状(球)は上記未知の物体の形状を近似するように変形しており、これにより、形状情報が上述した方法により効率的に再構築されることを示している。
【0056】
上記においては、PC及び感知プレートを使用するシステムが記載され、該システムは所定の形状の物体及び感知された測定値に対する静電的計算から未知の物体形状が計算されるような本発明の態様による方法を動作させる。上記所定の形状は、未知の物体の形状に向かって、該物体の形状が決定されるまで各反復において形状が変化される。該システムは、有利にも、装置に対する制御及び対話を可能にする。上述した実施例はPC型のシステムを説明したが、当業者であれば、他の変形例も使用することができると認識するであろう。
【0057】
例えば、テレビジョン表示器、セットトップボックス、ハイファイオーディオ装置又は自動車等の消費者用装置は、本発明による物体形状の決定に基づく斯かる装置の制御を可能にするために処理手段、プログラムコード及び感知装置を備えることができる。セキュリティ及びアクセス制御システムも、同様に、例えばアクセスを得るために使用される手振り対話を備えることができる。
【0058】
本開示を精読すれば、当業者にとり他の変形例も明らかとなるであろう。このような変形例は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなしに、静電感知システム及び斯かるシステムの構成部分の設計、製造及び使用において既知であると共に、本明細書で既述したフィーチャの代わりに又は斯かるフィーチャに加えて使用することができるような他のフィーチャも含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、電界感知センサプレートに接続されたパーソナルコンピュータを示す。
【図2】図2は、上記センサプレートを更に詳細に示す。
【図3】図3は、本発明による方法のステップを示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明による制御方法のステップを示すフローチャートである。
【図5】図5は、本発明による方法を実施したコンピュータの表示器のスクリーン写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の静電受信手段と少なくとも1つの静電送信手段とを有するセンサ装置から延びる静電感知領域内に置かれた未知の物体の形状を決定する方法において、
− 前記未知の物体により前記受信手段の各々に誘起された電荷の変化を測定すると共に、該電荷測定値を第1電荷像データセットCとして記憶するステップと、
− 所定形状を規定する点座標を表すような該所定形状のデータセットを取り出すステップと、
− 前記第1電荷像データセットCに関して、該測定された電荷像Cが略得られるために前記所定形状上で必要とされる電荷分布を表すような電荷分布データセットq’を決定するステップと、
− 前記感知領域における前記電荷分布データセットq’に対応するような静電電位分布を計算するステップと、
− 前記感知領域における前記静電電位分布が零に近い点に対応するような座標を持つ新たな形状のデータセットを発生するステップと、
− 前記新たな形状のデータセットを、該新たな形状のデータセットと前記所定形状のデータセットとの間の差を所定の閾と比較するステップにより前記感知領域における前記未知の物体の形状を表すものと判断するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記電荷分布q’を決定するステップが、前記所定形状に対して、
前記所定形状の各点座標と前記受信手段の各点座標との間の静電交換ポテンシャルを記述するような成分を持つ行列のデータセットMと、
前記所定形状の各点座標と該所定形状の各々の他の点との間の静電交換ポテンシャルを記述するような成分を持つ行列のデータセットGと、
前記所定形状の各点座標と前記送信手段の点座標との間の静電交換ポテンシャルを記述するようなベクトルのデータセットtと、
を計算するステップを有し、前記所定形状上の電荷分布qが、C=Mq’からの前記q’の決定を正則化するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、qがt=Gqから計算されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の方法において、前記比較するステップが前記新たな形状のデータセットに対する二次的電荷像C’を計算するステップと有し、前記所定の閾に対して比較する前記差が、C’とCとの間の自乗差の和を比較することにより計算されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の方法において、前記所定形状のデータセットの点座標が、該既知の形状の三角形要素を規定することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記新たな形状のデータセットは、前記感知領域における各三角形要素を前記静電電位分布が零である点に移動すべき距離を補外することにより発生されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の方法において、前記所定の閾が5%であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の方法により物体の形状を決定するステップと、
所定の形状に関連付けられた制御動作のリストから、前記決定された物体の形状に関連する制御動作を選択するステップと、
前記選択された制御動作を実行するステップと、
を有することを特徴とする装置を制御する方法。
【請求項9】
複数の静電受信手段と少なくとも1つの静電送信手段とを有するセンサ装置から延びる静電感知領域内に置かれた未知の物体の形状を決定するシステムにおいて、所定形状のデータセットを記憶する記憶手段と、請求項1ないし7の何れか一項に記載の方法を実行する処理手段と有することを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、
所定形状に関連付けられた制御動作の記憶されたリストから、前記決定された物体の形状に関連する制御動作を選択する選択手段と、
前記選択された制御動作を実行する制御手段と、
を更に有することを特徴とするシステム。
【請求項11】
処理手段により実行された場合に、該処理手段に請求項1ないし8の何れか一項に記載の方法を実行させるような処理命令を有するプログラムコード。
【請求項12】
処理手段に供給された場合に、該処理手段に請求項1ないし8の何れか一項に記載の方法を実行させるようなプログラムコードを担持するプログラムコード担体。
【請求項13】
添付図面を参照して説明され、且つ、これら添付図面に示された方法。
【請求項14】
添付図面を参照して説明され、且つ、これら添付図面に示されたように実質的に動作するよう構成及び配置されたシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−510137(P2007−510137A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530706(P2006−530706)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001778
【国際公開番号】WO2004/107157
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
2.ペンティアム
3.フロッピー
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】