説明

物品の検出能の制御及び物品の認証方法

[0036]入射放射線によって励起されると発光を生じるカスケード蛍光体が本明細書に記載される。カスケード蛍光体は、物品に塗布することができ、物品の認証に有用となり得る。カスケード蛍光体は、ホストと少なくとも3種の活性イオンとを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[0001]関連出願
本出願は、現在係属中の2009年12月17日出願の米国仮特許出願第61/287,588号の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
[0002]本発明の技術は、のちの検出及び認証のために発光性形体を物品中又は物品上に組み込む方法に関し、より具体的にはカスケード蛍光体(cascading phosphor)を含む発光性形体に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]多くの用途において、元の物品及び/又は文書をコピー又は偽造品と区別する必要がある。現代のコピー技術によって、例えば印刷物を容易に複製し、実質的に原物と区別できないものにすることができる。原品をマーキング及び識別するのに様々な手段及び方法が使用されている。例えば、いくつかの方法は、文書上又は文書中に組み込まれた目に見える(すなわち明示的(overt))形体(feature)、例えばクレジットカード上のホログラム、紙幣上のエンボス加工した図柄又は透かし、セキュリティー箔、セキュリティーリボン、紙幣中のカラー糸又はカラー繊維、又はパスポートの浮きだし模様及び/又は沈み込み模様(floating and/or sinking image)などを伴う。これらの形体は視覚によって検出するのが容易であり、認証のための装置を必要としない場合もあるが、これらの明示的形体は自称贋造者及び/又は偽造者によって容易に特定される。そのため、明示的形体に加えて、隠し(すなわち秘匿(covert))形体を物品に組み込んでもよい。秘匿形体としては、有価文書の基材に組み込まれた不可視蛍光繊維、化学物質感受性染料、蛍光顔料又は染料が挙げられる。秘匿形体は、品物の基材上に印刷されたインク中、又はラミネート加工品を作るのに使用されるフィルムを作るのに使用される樹脂中に組み込まれていてもよい。秘匿形体はヒトの目によって検出できないので、これらの秘匿形体を検出するように設計された検出器が物品の認証のために必要とされ、これはそのセキュリティー性を高め、偽造又は変造の低減に役立つ。
【0004】
[0004]秘匿形体を使用する1つの方法は、米国特許第5,611,958号(Takeuchi)に記載されるものなどの従来の発光顔料による文書のマーキングを伴い、この方法では別の波長の赤外線によって励起された後に赤外線残光を発するドープした希土類オルトリン酸塩蛍光体を用いて、物品に潜在的なマークを形成する。別の例は、希土類蛍光体に光を照射することによって生じる残光の持続時間及び強度を測定することによって元の文書を識別する方法を記載している、米国特許第6,264,107号(Thomas)である。物品にセキュリティーマーキングを施すのにリン光を用いるさらに別の例は、米国特許出願公開第2007/0023521号(Wildey)において見いだすことができる。これらの認証法は秘匿形体をその発光スペクトルの評価によって検出することを伴うので、このタイプの方法の欠点は、潜在的な偽造者が単に発光性形体の発光を検出するか又はその化学組成を測定することによってセキュリティー形体を逆行分析できることである。
【0005】
[0005]したがって、秘匿形体を覆い隠すかあるいはセキュリティー形体をより検出困難なものにする努力がなされている。例えば、米国特許第5,569,317号(Sarada)は、蛍光発光だけでなく秘匿リン光発光をも有するインクの使用を開示している。米国特許第4,500,116号(Ferro)は、波長及び寿命の両方に関して異なる発光特性を示す少なくとも2つのリン光活性剤を含むリン光性組成物で信用証明物を含浸又はコーティングすることによって、パスポート又は身分証明書などの信用証明物にマーキングを施すことを記載している。例えば、物品に光を当てると、残光の色が緑から青へ変化する。米国特許出願公開第2007/0295116号(Le Mercier Thierry)において、2つの異なる波長の発光を生じそれぞれが異なる減衰時間を有する蛍光体を使用する、物品の認証方法が記載されている。異なる励起波長及び発光波長を有する、認証を目的とした混合蛍光体の他の例は、米国特許第4,387,112号(Blach)に開示されている。複数の蛍光体を「カスケード(cascade)」反応させる、すなわち1つの蛍光体によって発せられる光を用いて別の蛍光体又は他の物質を活性化させてより長波長で発光させることも知られている。例えば米国特許第3,050,655号(Goldberg)及び米国特許第4,202,491号(Suzuki)を参照のこと。2つの蛍光体を併用して一種のカスケード発光を生じさせるセキュリティーマーキングの例は、米国特許第6,384,409号(Libbey)に記載されている。
【0006】
[0006]複数のルミネセンス発光を生じる顔料は未熟な贋造者及び/又は偽造者を阻止するが、熟練しており資金のある者はそのような秘匿形体を複製できる場合がある。これは、励起波長及び発光波長などの特性が公開されている良く知られた蛍光体を組み込んだ物品に関して特に当てはまる。専売の発光性組成物でさえも偽造者による検出及び逆行分析の対象となる。したがって、物品の認証に有用な検出困難な蛍光体、特に物品の表面上に単にマーキングするのではなく物品自体に組み込むことができるような蛍光体が依然として必要とされている。さらに、紙及び織物製品のマーキングにも適したそのような蛍光体が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]本発明の技術は、少なくとも1つの発光を生じ、いくつかの例においては複数の発光を生じる場合があり、物品に塗布されると物品の認証に有用となり得る、カスケード蛍光体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]一態様において、ホスト材料とカスケード蛍光体を形成するようにホスト材料中で置換されて用いられる少なくとも3種の希土類活性イオンとを含む、カスケード蛍光体が提供される。カスケード蛍光体に入射放射線を照射すると、前記第1の活性イオンが前記第2の活性イオンへエネルギーを非放射移動させ、前記第2の活性イオンが前記第3の活性イオンへエネルギーを非放射移動させ、活性イオンのうち少なくとも1つが少なくとも約1700nmの波長を有するルミネセンス発光を生じる。いくつかの例において、ホスト材料は、ガーネット、タングステン酸塩、酸化物、オキシ硫化物、オキシフッ化物、フッ化物、バナジウム酸塩、リン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、及びそれらの組み合わせから成る群から選択することができる。さらに、いくつかの例において、少なくとも3種の活性イオンの各々は、エルビウム、ホルミウム、ネオジム、プラセオジム、ツリウム、及びイッテルビウムから成る群から選択することができる。
【0009】
[0009]別の態様において、本明細書に記載のカスケード蛍光体を物品上又は物品中に埋め込むことを含む、物品にセキュリティーマーキングを施す方法が提供される。特定の好ましい実施形態において、物品は少なくとも一部がセルロース繊維から構成される紙又は織物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
[0010]具体例は例示及び説明を目的として選ばれ、添付の図面に示され、明細書の一部をなす。
【図1A】[0011]本発明の技術の一実施例によるカスケード蛍光体の発光スペクトルの一部を示す図である。
【図1B】[0012]図1Aのカスケード蛍光体の発光スペクトルの別の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0013]有価文書などの物品は、一般の人々が認識できるようにさせる明示的形体に加えて、1つ又は複数の認証可能な秘匿形体を有価文書の基材上又は基材中に組み込んで設計されてもよい。秘匿形体としては、限定はされないが、マイクロ印刷(microprinting)、多重インク(multiple ink)、紫外線吸収可視発光材料、アップコンバーター(upconverter)、複雑な印刷プロファイル、透明インク、赤外吸収材料、磁気インク、蛍光体、及びニスが挙げられる。時間と共に秘匿形体の使用はセキュリティー性が低くなるが、なぜなら偽造者がより熟練し、有価文書にこれらの形体が組み込まれていることを検出できる科学的機器をより入手しやすくなってしまうからである。
【0012】
[0014]物品のセキュリティー性を改善する1つの考えられる方法は、製造が困難及び/又は文書中での特定が困難である、蛍光体などの認証可能な形体を使用することである。別の考えられる方法は、単に認証可能な形体の存在のみの検出によって決まる合格/不合格のパラメーターを有するよりもむしろ、例えば発光スペクトルのあらかじめ選択された領域で検出する、又は認証可能な形体の量に依存する、又は認証可能な形体間の相互作用に依存するように検出器を設計できるように、検出器の性能を高めることである。さらになお、高性能の検出器と組み合わせて、作製が困難及び/又は模倣するのが非常に難しいスペクトル特性及び時間的特性を示す材料を使用することによって、物品のセキュリティー性を高めることができる。
【0013】
[0015]本発明の技術は、本明細書にさらに記載される入射励起エネルギーを与えられた後に少なくとも1つの、好ましくは複数の発光波長及び/又は強度を生じ得るカスケード蛍光体を含む組成物に関し、カスケード蛍光体は物品中又は物品上に組み込まれてその後の検出及び物品の認証又は却下を可能にする。本明細書で使用する用語「カスケード蛍光体」とは、少なくとも2種の活性イオンと共に1つのホスト材料を有し、1つ又は複数のエネルギー移動が少なくとも2種の活性イオン間で起こり、エネルギー移動の結果として活性イオンのうち少なくとも1つがルミネセンス放射を発する蛍光体を意味する。いくつかの例において、本発明の技術のカスケード蛍光体は少なくとも3種の活性イオンを含む。
【0014】
[0016]本明細書で使用する用語「活性イオン」とは、エネルギーを吸収、移動、及び/又は放射することができるカスケード蛍光体中のイオンを指す。さらに、本発明の技術の適切なカスケード蛍光体は、単一のホスト材料中で置換されて用いられる少なくとも2種、好ましくは3種の活性イオンを含み、活性イオン及びそれらの相対的濃度は、活性イオンの組み合わせが認証に使用することのできる発光を生じるように選択される。本発明の技術の単一のカスケード蛍光体は、単独で又は他のカスケード又は非カスケード蛍光体と組み合わせて使用してもよい。
【0015】
[0017]いかなる特定の理論にも拘束されるべきではないが、第1の活性イオンが第1のイオンの吸収帯に関係する入射励起波長で入射エネルギーを吸収し、場合により、吸収したエネルギーの少なくとも一部を少なくとも第1の発光波長で放射し、吸収したエネルギーの少なくとも一部を少なくとも第2の活性イオンへ移動させるように、選択された第2の活性イオン及び場合により、選択された第3の活性イオンと組み合わせて第1の活性イオンが選択される場合に、このカスケード効果が起こると考えられる。第2の活性イオンは場合により、移動されたエネルギーの一部を少なくとも第2の発光波長において放射し、第3の活性イオンを有する例ではさらに場合により、移動されたエネルギーの少なくとも一部を第3の活性イオンへ移動させる。第3の活性イオンは移動されたエネルギーの少なくとも一部を少なくとも第3の発光波長において放射する。活性イオン及びホスト格子材料(host lattice material)の量は、次の活性イオンへのエネルギー移動の量を決定することになる。これらの場合では、第1のイオンは吸収体として作用し、最終のイオンは常に放射体である。各イオンからの放射が得られるように、又はイオンのうち1種若しくは2種の放射を減少させるか若しくはさらには消光させるように、置換レベルを操作することが可能であることがある。
【0016】
[0018]いくつかの例において、カスケード蛍光体はホスト材料とホスト材料中で置換されて用いられる少なくとも3種の活性イオンとを含んでいてもよく、カスケード蛍光体に入射放射線を照射すると、第1の活性イオンは励起エネルギーを吸収し、エネルギーの少なくとも一部を第2の活性イオンへ移動させ、前記第2の活性イオンはエネルギーを前記第3の活性イオンへ移動させ、活性イオンのうち少なくとも1つがルミネセンス放射を発する。例えば、カスケード蛍光体に入射放射線を照射すると、第1の活性イオンは励起エネルギーを吸収し、エネルギーの少なくとも一部を第2の活性イオンへ非放射的に移動させることができ、第2の活性イオンはエネルギーを前記第3の活性イオンへ非放射的に移動させることができる。いくつかのそのような例において、ホスト材料中の活性イオンの組み合わせはXの数の発光波長を有するルミネセンス発光スペクトルを生じさせることができ、ここでX−1個の波長は、カスケード蛍光体中の活性イオン間におけるエネルギーのカスケード移動に由来する。一実施形態において、例えばカスケード蛍光体は第1の活性イオン、第2の活性イオン、及び第3の活性イオンで置き換えられたホスト格子材料を含んでいてもよく、第1、第2、及び第3の活性イオンの種類及び相対的濃度は3つのルミネセンス発光を生じるのに十分である。ルミネセンス発光のうちの1つは蛍光体への入射放射線の照射に由来し、ルミネセンス発光のうちの2つは活性イオン間のエネルギーの非放射的移動に由来し得る。1つの例において、カスケード蛍光体組成物は3種の活性イオンを含み、第1の活性イオンはエネルギーを少なくとも第2の活性イオンへ非放射的に移動させるように選択され、第2の活性イオンはエネルギーを第3の活性イオンへ非放射的に移動させるように選択され、第3の活性イオンは検出可能なルミネセンス発光を生じる。さらに、第1の活性イオン及び第2の活性イオンのうちの少なくとも1つも検出可能なルミネセンス発光を生じる。少なくとも1つの例において、活性イオンのうち少なくとも1つは、少なくとも約1700nmの波長を有するルミネセンス放射を発する。いくつかの例において、本発明の技術によるカスケード蛍光体は少なくとも部分的にはダウンコンバーターとして作用し得る。すなわち、カスケード蛍光体は励起エネルギーの波長を上回る波長で少なくとも1つの発光を有することになる。カスケード蛍光体がダウンコンバーターとして作用する、いくつかのそのような例において、第2の活性イオンの発光波長は第1の活性イオンからの発光波長を上回り、第3の活性イオンの発光波長は第2の活性イオンからの発光波長を上回る。
【0017】
[0019]本発明の技術は、少なくとも1つのカスケード蛍光体組成物を物品中又は物品上に組み込み、カスケード蛍光体の所定のパラメーターを検出し、所定のパラメーターの検出に基づいて物品を認証又は却下することによって、物品を認証する方法にも関する。好ましい実施形態において、カスケード蛍光体は少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのルミネセンス発光を赤外部において有して複雑なスペクトル間隔をもたらすようにあらかじめ選択されてもよい。カスケード蛍光体及び対応する検出パラメーターを選択する際、例えばホスト材料の組成及び構造、処理温度、イオンの置換レベル、置換した不純物などの影響を考慮するべきであり、なぜなら大部分の放射体イオンは多数のスペクトル線を有し、個々の発光の大きさはそのようなものの関数であるからである。偽造者は認証可能な形体中の秘匿イオンを決定できるかもしれないが、偽造者はどのスペクトル線の発光が検出器/認証装置において合格/不合格のパラメーターとして使用されているのかを決定することはできないであろう。
【0018】
[0020]さらに、エネルギー移動が2種の活性イオン間で起こる場合、発光は入射励起波長に相当するのではない波長で起こることがあり、これはスペクトル分析による逆行分析の難易度を上げることによって物品のセキュリティー性の向上を可能にする。例えば、オキシ硫化ガドリニウムホスト中のイッテルビウム及びネオジムをカスケード蛍光体組成物中の活性イオンとして選択する場合、約760nmでのネオジムに関連する吸収帯又は吸収線について励起させることによって、約1028nmでのイッテルビウムの発光が検出される。イッテルビウム単独では約760nmでの吸収を示さないので、この発光波長/励起波長の組み合わせは2種の活性イオン間のエネルギー移動によってのみ可能である。部分的なエネルギー移動の場合、例えば高度な検出方法と組み合わせて用いようとする活性イオンの置換レベルを変えることによって、カスケード蛍光体のスペクトルシグネチャーを調整してもよく、それにより偽造に対するレジリエンス(resilience)が高められる。より詳細には、1つのカスケード蛍光体中の第1及び第2の活性イオンから生じるシグナル強度を比較するように検出器を設計してもよい。検出器が認証のために用いる相対的発光をあらかじめ選択する手段として、置換される活性イオン濃度をあらかじめ選択することによって、検出器の精巧さを高めてもよい。活性イオンの濃度を変化させたときに異なる挙動をするいくつかの輝線がある場合、1種の活性イオンの発光に基づいてシグナルを分析及び識別するのに検出器を使用してもよい。
【0019】
[0021]カスケード蛍光体の発光の減衰時間も、単独で又は他のあらかじめ選択された認証のための検出パラメーターと組み合わせて使用してもよい。本発明の技術のカスケード蛍光体における1つ又は複数の赤外線発光の減衰時間は、時間的特性を変化させて逆行分析をより難しくさせるために当業者がある程度まで改変することができる。例えば、あらかじめ選択された活性イオンのうちの1つの濃度を変化させると、減衰時間を変化させることができる。好ましい実施形態において、カスケード蛍光体の活性イオン間のエネルギー移動が減衰時間の挙動の変化をもたらすように、例えば発光の減衰時間が個々の活性イオン単独の場合の減衰時間とは異なるように、本発明の技術のカスケード蛍光体があらかじめ選択され、これは検出パラメーターの要素に織り込むことができる。
【0020】
[0022]適切な活性イオンとしては、以下の活性イオン:エルビウム、ホルミウム、ネオジム、プラセオジム、ツリウム、イッテルビウムのうちの少なくとも2つの組み合わせが挙げられる。好ましくは、第1の活性イオンは紫外線(UV)、可視光、又は赤外線によって励起されるようにあらかじめ選択され、赤外線が好ましい。光放射によって励起された後、好ましいカスケード蛍光体は、赤外(IR)スペクトル、すなわち約700nm〜約3000nmの波長において少なくとも1つの第1、第2、及び/又は第3の放射発光を生じる。
【0021】
[0023]適切なホスト材料は、例えばガーネット、タングステン酸塩、酸化物、オキシ硫化物、オキシフッ化物、フッ化物、バナジウム酸塩、リン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、及びそれらの組み合わせから成る群から選択できる。各成分の相対的濃度は、活性剤間のエネルギー移動を促進するのに十分なほど高いが、所望の発光を消光させないように高すぎないのが好ましい。いつくかの例において、ホスト材料とカスケード蛍光体を作るのに必要な量で、前記ホスト中で置換されて用いられる3種又はそれを超える活性イオンとを含む蛍光体を提供してもよい。3種又はそれを超える活性イオンの各々は、エルビウム、ホルミウム、ネオジム、プラセオジム、ツリウム、及びイッテルビウムから成る群から選択してもよい。いくつかのそのような例において、ホストは希土類のオキシ硫化物、希土類のオキシフッ化物、又はガーネットであってもよい。カスケード蛍光体の具体例としては、限定はされないが、ネオジム、イッテルビウム、及びホルミウムで置換されたオキシ硫化イットリウム(YOS:Nd:Yb:Ho)、並びにエルビウム、ツリウム、及びホルミウムで置換されたイットリウムガリウムガーネット(YGG:Er:Tm:Ho)が挙げられる。
【0022】
[0024]本発明の技術のカスケード蛍光体における活性イオンの量及び相対的濃度は、特定のホスト材料及び選択される活性イオンに応じて異なっていてもよい。第1のイオンの量は主な吸収プロセスに十分であるのが好ましい。ホスト材料の選択並びに第1の活性イオンの種類及び量は、第2の活性イオン及び任意選択の第3の活性イオンの種類及び量の選択に影響を与え得る。ホスト材料中で置換されて用いられる各活性イオンの量は一般に原子パーセントを単位として記載され、活性イオンによって置き換えられ得るホスト材料のイオン数は100%に等しい。本明細書において述べられるカスケード蛍光体の対応するホスト材料イオンは、類似するサイズ、類似する配位の傾向、及び類似する添加量によって、希土類活性イオンによる置換を可能にするカチオンである。ホスト材料イオンは活性イオンとは見なされない。いくつかの例において、約0.01原子パーセント〜約30原子パーセント、又は約0.05原子パーセント〜約15原子パーセントの量で、各活性イオンをホスト材料中で置き換わらせることができる。化学量論的な蛍光体として知られるいくつかの例において、不活性ホスト材料イオンを100原子パーセントまで活性イオンで置換することができる。このタイプの材料の非制限的な例は、例えば活性ネオジムイオンによるランタンの置換のような、不活性ホスト材料イオンの100原子パーセントの置換を示すNdP14である。
【0023】
[0025]認証可能な形体中のカスケード蛍光体の量は、広い範囲にわたって変化させてもよい。例えば、基材の重量に対するカスケード蛍光体の重量として表される量は、基材の約0.006重量%〜約40重量%、基材の約0.01重量%〜約10重量%、又は基材の約0.5重量%〜約5重量%であってもよい。これは紙及びインクに関しては異なる。紙はカスケード蛍光体を紙の約0.1重量%〜約0.5重量%の量で含有することができるが、一方インクはカスケード蛍光体をインクの約1重量%〜約30重量%の量で含有することができる。
【0024】
[0026]カスケード蛍光体を選択する際、組成物の効率を評価する場合に吸収性活性イオンの吸収及び全体的なルミネセンス蛍光体の量子収率を考慮してもよく、ここで発光量子収率は放射される光子数対ルミネセンスにより吸収される光子数の比として定義される。得られる本発明の技術のカスケード蛍光体は、好ましくは発光量子収率が約1%〜約30%、より好ましくは約1%〜約85%である。物品の認証のための検出パラメーターを定義する際、組成物の効率を用いてもよい。いくつかの実施形態において、高効率のカスケード蛍光体が好まれることになるが、他の実施形態においては、中程度の効率から低効率が好まれることになる。特定の実施形態においては、分光計によってチェックする場合、弱い発光が検出パラメーターとして有用となり得るか、又は犯罪捜査用形体として用いてもよい。
【0025】
[0027]本発明の技術によれば、カスケード蛍光体は任意の材料でできた物品に塗布又は組み込まれてもよい。好ましくは、物品の基材は紙、フィルム、プラスチックシート、板、ガラス、織物、繊維などの固体材料であり、これはその後紙幣、小切手、証紙、身元証明書、パスポート、クレジットカード、又はキャッシュカードなどの有価文書、並びにラベル、シール、パッケージ、及び製品のセキュリティーのための他の部材を製造するのに使用してもよい。1つの例において、カスケード蛍光体は紙パルプ又はプラスチック系樹脂材料に加えられてもよい。基材はセーフティースレッド(safety thread)、斑状スレッド(mottling thread)、硬貨地板、ラミネートフィルム、ラベルの形態をとってもよい。さらに他の実施形態において、カスケード蛍光体は、物品をコーティング又は物品に絵柄を印刷することによって、所定の絵柄又は模様として物品に付着させてもよい印刷インクなどの液体キャリア中に組み込まれていてもよい。
【0026】
[0028]認証可能な形体中のカスケード蛍光体の量は広い範囲にわたって変化させてもよく、用途に応じて異なる。必要な検出レベルをもたらすのに十分なカスケード蛍光体の量は当業者によって容易に決定できる。
【0027】
[0029]本発明の技術は物品の信憑性を決定する方法にも関し、この方法はカスケード蛍光体組成物を物品又は物品の部材に塗布するステップと、第1、第2、及び第3の 発光波長に対応する一連の放射発光を生じさせるのに十分な入射励起波長で物品を入射エネルギー源にさらすステップと;所定の発光データを検出し、発光データを先に蓄積した参照発光データと比較し、あらかじめ選択した判定基準を用いて比較の結果から信憑性の指標を引き出すステップと、信憑性の指標を伝達しそれによって試験物品を認証するか又は認証に不十分であるかを示すステップとを含む。
【0028】
[0030]スペクトル分解により蛍光体励起光源によって励起されるカスケード蛍光体から放射される赤外線を検出して、発光データを生成するように設計された少なくとも1つの光学センサを含むような、任意の種類の適切な検出器を用いて、認証の方法を実施することができる。適切な光学センサとしては、例えばケイ素、InGaAs、PbS、Ge、及びその他の、当業者によって決定される必要なスペクトル応答、許容可能なノイズパラメーター、帯域幅、及び/又は並列インピーダンスをスペクトル検出領域において有するものが挙げられる。これらのセンサは、処理用のデジタル値に変換できるような十分なレベルまで、低ノイズの電子機器によって増幅することができるシグナルを生成する。光学センサからの出力は赤外線の発光データを表す。検出器は発光シグナルを測定するための手段、例えば分光計をさらに含んでいてもよい。
【0029】
[0031]参照データを蓄積し、試験データを収集、比較、及び識別するために、コンピューターなどの少なくとも1つの処理ユニットを使用してもよい。例えば、本発明の技術の1つ又は複数の処理ユニットは、処理ユニットが試験発光データを収集し、試験発光データを先に蓄積した参照発光データと比較し、比較の結果から、あらかじめ選択した判定基準を用いて信憑性の指標を引き出す規定のプログラムのもとで作動する。出力ユニットは処理ユニットの一部であるか又は一部でなくてもよく、その後物品を認証するか又は認証に不十分であるかを示すために信憑性の指標を伝達する。
【実施例】
【0030】
[0032]以下の実施例は本発明の技術の特定の態様を例示するために示される。これらの実施例は例示的なものであり、決して制限的なものであると解釈されるべきではない。以下の実施例におけるパーセンテージは、ホスト格子材料中で置換されて用いられる3種のイオンのそれぞれの量に関する原子パーセントである。
【実施例1】
【0031】
[0033]YOS:Nd0.007:Yb0.04:Ho0.02を得るためにネオジム(0.7%)、イッテルビウム(4%)、及びホルミウム(2.0%)で置換されたオキシ硫化イットリウムカスケード蛍光体。ここでパーセンテージはホスト格子材料中のイットリウムに代わって置き換えられた量である。蛍光体はそのスペクトル領域中のNdの吸収に相当する760nmで励起される。発光スペクトルをグラフに表したものを図1A及び図1Bに示す。この例において、図1Aに示すように、900nm及び1080nmの発光ピークはNdに相当し、中心が980nmである残りのピークはYbの発光に相当する。NdはYbにエネルギーを移動させ、Ybに関して発光が観測できる。次いでYbはHoにエネルギーを移動させ1900〜2100nmの範囲の発光をもたらす。NdからHoへの移動は存在しない。別の例では、発光は消光されるか又はNdに関して存在し得る。図1Bは、図1Aの発光スペクトルにおけるHoの発光に相当する広帯域の1900〜2100nmの発光を示す。この特定の例において、3種の希土類活性イオンすべてからの発光が存在する。
【実施例2】
【0032】
[0034]エルビウム(10%)、ツリウム(1%)、及びホルミウム(1%)で置換された、式YGG:Er:Tm:Hoのイットリウムガリウムガーネットカスケード蛍光体。蛍光体はErの主な吸収範囲である600〜700nmの範囲で励起される。1700〜1900nmで発光するTmへエネルギーが移動する。次いでTmは1850〜2150nmの範囲で発光するHoへエネルギーを移動させる。
【0033】
[0035]前述のことから、例示の目的のために具体例が本明細書に記載されているが、この開示の精神又は範囲から逸脱せずに様々な修正を行ってもよいことが理解されるであろう。したがって前述の詳細な説明は限定的なものではなく例示的なものと見なされることを意図しており、特許請求の範囲に記載の主題を特に示し明白に主張することを意図しているのが、あらゆる等価物を含めた以下の特許請求の範囲であることを理解するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ホスト材料と;
b)カスケード蛍光体を形成するようにホスト材料中で置換されて用いられる少なくとも3種の希土類活性イオンと;
を含み、カスケード蛍光体に入射放射線を照射すると、前記第1の活性イオンが前記第2の活性イオンへエネルギーを移動させ、前記第2の活性イオンが前記第3の活性イオンへエネルギーを移動させ、活性イオンのうち少なくとも1つが少なくとも約1700nmの波長を有するルミネセンス発光を生じる、
カスケード蛍光体。
【請求項2】
前記ホスト材料が、ガーネット、タングステン酸塩、酸化物、オキシ硫化物、オキシフッ化物、フッ化物、バナジウム酸塩、リン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、及びそれらの組み合わせから成る群から選択され;少なくとも3種の活性イオンの各々が、エルビウム、ホルミウム、ネオジム、プラセオジム、ツリウム、及びイッテルビウムから成る群から選択される、請求項1に記載のカスケード蛍光体。
【請求項3】
前記第3の活性イオンが、前記第2の活性イオンと前記第3の活性イオンとの間の前記エネルギー移動に由来するルミネセンス発光を放射する、請求項1に記載のカスケード蛍光体。
【請求項4】
前記ルミネセンス発光が赤外スペクトル中にある、請求項1に記載のカスケード蛍光体。
【請求項5】
第1の活性イオンが紫外、可視、又は赤外スペクトル中の波長を有するエネルギーを吸収する、請求項1に記載のカスケード蛍光体。
【請求項6】
前記ホストがオキシ硫化物である、請求項1に記載のカスケード蛍光体。
【請求項7】
前記ホストが、オキシ硫化イットリウム、オキシ硫化ガドリニウム、オキシ硫化ランタン、オキシ硫化ルテチウム、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項6に記載のカスケード蛍光体。
【請求項8】
物品にセキュリティーマーキングを施す方法であって、請求項1に記載のカスケード蛍光体を前記物品の表面に塗布するステップを含む、方法。
【請求項9】
物品にセキュリティーマーキングを施す方法であって、請求項1に記載のカスケード蛍光体を前記物品に埋め込むステップを含む、方法。
【請求項10】
前記物品がセルロース繊維から構成される紙又は織物であり、前記カスケード蛍光体が前記繊維中に埋め込まれている、請求項9に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2013−515091(P2013−515091A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544862(P2012−544862)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/060919
【国際公開番号】WO2011/084663
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】