説明

物品への物質随伴吸着方法

【目的】従来から困難であると見られていた水分散性物質の物体表面への吸着担持を、乳化粒子の強制吸着(自己吸着)を利用して高効率に実現する。
【構成】本発明に係る物品への物質随伴吸着方法は、乳化粒子を水に分散させた水性乳化液を調製し、前記水又は前記水性乳化液に水分散性物質を分散させておき、前記水性乳化液に物品を接触させた状態で、前記水性乳化液に乳化不安定化剤を処理して前記乳化粒子を前記物品に強制吸着させ、この強制吸着作用により前記水分散性物質を前記物品に随伴吸着させることを特徴とする。油剤乳化粒子・樹脂乳化粒子・ゴム乳化粒子などの強制吸着可能な全ての乳化粒子に適用できる。また、水分散性物質として、例えば染料、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、金属封鎖剤、香料、防炎剤、難燃剤、各種安定剤、その他物質がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品等の物品の表面に乳化粒子を吸着させる方法に関し、更に詳細には染料、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、金属封鎖剤、香料、防炎剤、難燃剤、各種安定剤などの添加物質を前記乳化粒子と共に物品表面に吸着させる物品への物質随伴吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油剤と水は層分離を起こすから、両者を自然状態で均一に混合することは困難である。そこで、油剤と水を均一に混合するために、界面活性剤が導入される。界面活性剤は、油剤と水の界面を変化(活性化)させ、油剤を水中にコロイド状に乳化させる作用を有する。油剤を油状物質にまで拡大すると、化粧品や特定の食品なども油状物質であり、化粧品や食品を均一に乳化混合するためにも界面活性剤が使用されている。
【0003】
本出願人は、創立の当初から、界面活性剤を利用してモップやマットに油剤を含浸させる技術を開発してきた。具体的に述べると、界面活性剤を使用して油剤を水中で乳化させ、この水中にモップやマット等の清掃用繊維製品を浸漬し、pH調節や塩析剤の添加により、分散した油剤乳化粒子を前記清掃用繊維製品に吸着担持させることができる(特許文献1〜特許文献6)。
【0004】
特公昭38−23295号(特許文献1)は、鉱物油を陽イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤で乳化し、繊維に無機酸・無機酸塩又は有機酸を前処理して、温度調節によって乳化油中の油分を繊維に含浸させる技術である。特開昭47−23697号(特許文献2)は、油状物質に両性界面活性剤と非イオン界面活性剤を添加した自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水中で乳化させ、前記乳化油の等電点よりも酸性側で、乳化粒子を繊維に含浸させる技術である。特公昭50−6594号(特許文献3)は、油状物質とカチオン活性基を有する両性界面活性剤からなる自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水中で乳化させ、カチオン活性を発揮し得るpH領域で乳化粒子を繊維に含浸させる技術である。
【0005】
特公昭53−37471号(特許文献4)は、化学合成油に非イオン界面活性剤を添加した自己乳化性組成物、若しくは更に混濁を生じない範囲内の水を加えた曇り点以下の自己乳化性組成物を用いて、前記化学合成油を繊維に含浸させる技術である。特公昭63−67829号(特許文献5)は、油剤にカチオン活性基を有する界面活性剤と金属封鎖剤を添加した自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水中で乳化させて繊維にムラのない含油処理を行う技術である。特公平5−10935号(特許文献6)は、油剤に非カチオン系界面活性剤を添加した自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水中で乳化させ、この水性乳化液に塩析剤を添加して乳化粒子を繊維に含浸させる技術である。以上のように、特許文献1〜6を通して、本出願人は界面活性剤を利用した繊維への油剤含浸技術を確立してきたのである。
【0006】
また、樹脂を繊維に付着させるエマルジョン技術がある。特開2000−265369(特許文献7)では、樹脂に界面活性剤からなる乳化剤(分散剤)を配合して自己乳化性樹脂を調製し、この自己乳化性樹脂を水の中に混合して樹脂乳化粒子を分散した水性乳化液を調製する。この水性乳化液中に凝集剤を添加して乳化状態を不安定化した繊維処理液を製造する、この不安定な繊維処理液に繊維製品を浸漬して樹脂乳化粒子を繊維製品に強制吸着させることができる。
【0007】
更に、特開平9−308679号(特許文献8)では、ゴム乳化粒子を水に高密度に分散させたラテックス(水性乳化粘性液)を調製し、繊維製品をラテックス中に浸漬して繊維表面にラテックスを付着させたり、ラテックスをスプレー法やロールコーター法で繊維表面に付着させる技術が開示されている。
【特許文献1】特公昭38−23295号
【特許文献2】特開昭47−23691号
【特許文献3】特公昭50−6594号
【特許文献4】特公昭53−37471号
【特許文献5】特公昭63−67829号
【特許文献6】特公平5−10935号
【特許文献7】特開2000−265369
【特許文献8】特開平9−308679号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
繊維への油剤含浸技術を高度化する中で、本出願人は抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤・香料・染料・金属封鎖剤・防炎剤などの物質を添加する技術を開発し、清掃用繊維製品の多機能化を図ることに成功した。特に、特許文献3〜6には、抗菌剤・防カビ剤を添加する技術が開示されている。また、本出願人は、特開平10−75924号(特許文献9)の発明を開発し、清掃用具に抗アレルゲン剤を保持させる技術を公開した。これらの開示技術では、抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などが油溶性物質であり、界面活性剤と前記油溶性物質を油剤に溶解させて自己乳化組成物を調製し、この自己乳化組成物を乳化させて清掃用繊維製品に吸着させている。
【0009】
このような方式を採用した経緯は、本出願人の従来の経験により、効率的に抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などを清掃用繊維製品に担持させるには、油剤乳化粒子中に抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などを混入させておき、この油剤乳化粒子を清掃用繊維製品に強制吸着することにより、抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などの添加物質が未吸着のまま残留する不経済性がないためである。従って、抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などは油溶性でなければならず、この油溶性の抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などを界面活性剤と共に油剤に溶解させて透明な自己乳化性油剤組成物を調製する。この自己乳化性油剤組成物を水中に混合すると、前記界面活性剤の作用で無数の油剤乳化粒子が生成され、水性乳化液が形成される。このとき、油剤乳化粒子の中に油溶性の抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などが溶解状態で確実に混入している。この水性乳化液に清掃用繊維製品を浸漬し、pH調製及び/又は塩析剤の添加により乳化状態が不安定になり、前記乳化油剤粒子は一斉に前記清掃用繊維製品に強制吸着され、水性乳化液が透明化して吸着工程が完了する。
【0010】
以上の吸着方法では、抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などの添加物質は油溶性物質に限定され、水分散性(水溶性を含む)の抗菌剤・防カビ剤・抗アレルゲン剤などの添加物質を繊維中に吸着含浸させることは不可能であった。清掃用繊維製品を多機能化するためには、夫々の目的に合致した添加物質を清掃用繊維製品に吸着含浸させる必要があるが、本出願人が開発してきた油剤含浸技術では、添加物質は油溶性物質に限定され、添加物質の選択自由度が制限されるという限界があった。
【0011】
また、特許文献7では、樹脂乳化粒子を分散させた水性乳化液を調製し、凝集剤により水性乳化液を不安定化して、樹脂乳化粒子を繊維製品に吸着させることだけが記載されており、樹脂以外の添加物質を繊維製品に吸着担持させることは記載も示唆もされていない。しかし、本出願人の前述した技術を応用すれば、樹脂液に可溶性、即ち油溶性の添加物質を選択し、この油溶性添加物質を乳化剤と共に前記樹脂液に溶解させて自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水に添加して水性乳化液を作製する。このとき、樹脂乳化粒子中に前記添加物質が均一に溶解している。この水性乳化液に繊維製品を浸漬して凝集剤を添加すれば、樹脂乳化粒子が繊維製品に吸着され、繊維製品の表面に添加物質を混入した樹脂膜が形成されるはずである。しかし、この場合でも、添加物質は油溶性物質に限定され、水分散性(水溶性を含む)の添加物質を繊維製品に吸着担持させることは不可能である。
【0012】
更に、特許文献8では、ゴム乳化粒子を水に高密度に分散させたラテックスを調製して繊維製品に塗着することが開示されているだけである。この塗着法には、浸漬による自然塗着法やロールコーター法・スプレー法などの塗着法を意味しており、ラテックスを不安定化させてゴム乳化粒子を繊維表面に強制的に強制自己吸着させることは開示も示唆もされていない。同時に、ゴム乳化粒子以外の添加物質を配合することも、記載も示唆もされていないのである。
【0013】
前述したように、本出願人が開発した従来技術を応用すれば、樹脂乳化粒子でもゴム乳化粒子でも油溶性の添加物質を乳化粒子中に溶解させることができ、この乳化粒子を繊維製品に強制吸着させることにより、油溶性物質を繊維製品に吸着させることは容易である。しかし、この従来技術では、水懸濁性物質や水溶性物質などを含む水分散性物質を繊維製品などの物体に吸着担持させることは極めて困難である。
【0014】
本発明者等は、鋭意研究した結果、水分散性物質を水の中に分散させておき、この水の中で乳化粒子を不安定化させて繊維等の物体表面に強制吸着させると、水中に均一分散している水分散性物質が乳化粒子に随伴して物体表面に誘導的に吸着される現象を発見して本発明を完成したものである。この随伴吸着現象は、水中に均一分散している水分散性物質の殆どが乳化粒子と共に繊維等の物体表面に吸着担持され、水分散性物質が水中に殆ど残留しないという極めて新規且つ特異な現象である。この水分散性物質には、水に懸濁する水懸濁性物質や水溶性物質などが含まれ、この水分散性物質の随伴吸着現象を発見して本発明は完成されたものである。
従って、本発明の目的は、従来から困難であると見られていた水分散性物質の物体表面への吸着担持を、乳化粒子の強制吸着(自己吸着)を利用して高効率に実現することであり、油剤乳化粒子・樹脂乳化粒子・ゴム乳化粒子などの強制吸着可能な全ての乳化粒子に適用できる水分散性物質の随伴吸着方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、乳化粒子を水に分散させた水性乳化液を調製し、前記水又は前記水性乳化液に水分散性物質を分散させておき、前記水性乳化液に物品を接触させた状態で、前記水性乳化液に乳化不安定化剤を処理して前記乳化粒子を前記物品に強制吸着させ、この強制吸着作用により前記水分散性物質を前記物品に随伴吸着させる物品への物質随伴吸着方法である。
【0016】
本発明の第2の形態は、前記第1形態において、前記乳化粒子が少なくとも油剤を界面活性剤により乳化させた油剤乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤が酸及び/又は塩析剤である物品への物質随伴吸着方法である。
【0017】
本発明の第3の形態は、前記第1形態において、前記乳化粒子が少なくとも樹脂を乳化させた樹脂乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤が凝集剤である物品への物質随伴吸着方法である。
【0018】
本発明の第4の形態は、前記第1形態において、前記乳化粒子がゴムを乳化させたゴム乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤が凝集剤である物品への物質随伴吸着方法である。
【0019】
本発明の第5の形態は、前記第1〜4形態のいずれかにおいて、前記水分散性物質が、前記水又は水性乳化液に懸濁する水懸濁性物質、及び/又は、前記水又は水性乳化液に溶解する水溶性物質である物品への物質随伴吸着方法である。
【0020】
本発明の第6の形態は、前記第1〜5形態のいずれかにおいて、前記水分散性物質が、染料、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、金属封鎖剤、香料、防炎剤、難燃剤又は各種安定剤の1種又は2種以上である物品への物質随伴吸着方法である。
【0021】
本発明の第7の形態は、前記第1〜6形態のいずれかにおいて、前記物品が繊維製品である物品への物質随伴吸着方法である。
【0022】
本発明の第8の形態は、前記第7形態において、前記繊維製品が清掃用繊維製品である物品への物質随伴吸着方法である。
【0023】
本発明の第9の形態は、前記第8形態において、前記清掃用繊維製品100重量部に対して、前記油剤が5〜50重量部、前記界面活性剤が0.01〜3重量部、前記水分散性物質が0.01〜20重量部吸着担持される物品への物質随伴吸着方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の形態によれば、乳化粒子を水に分散させた水性乳化液を調製し、前記水又は前記水性乳化液に水分散性物質を分散させておき、前記水性乳化液に物品を接触させて乳化粒子を物品に強制吸着させると、分散している水分散性物質も誘導的に物品表面に随伴吸着させることができる。本発明者等は、乳化粒子の強制吸着に伴う特異且つ新規な随伴吸着現象を発見して本発明を完成したものである。
本発明者等は、従来から、水性乳化液に水分散性物質を均一分散させた状態で乳化不安定化剤を添加すると、殆どの乳化粒子は物品表面に吸着されるが、均一に分散した水分散性物質は殆どが水中に残留して物品表面に吸着されない、という観念を化学常識として有していた。従って、水分散性物質の代わりに油溶性物質を使用し、この油溶性物質を乳化剤(例えば界面活性剤)と共に乳化物質液(例えば油剤)に均一溶解させた自己乳化性組成物を調製し、この自己乳化性組成物を水に混合して水性乳化液を作製して乳化粒子中に油溶性物質を内蔵させ、乳化不安定化剤を添加して乳化粒子を物体表面に吸着させる方法を採用してきたのである。こうすれば、乳化粒子中に油溶性物質が内臓されているから、乳化物質と油溶性物質を物品に同時吸着することができる。しかし、この従来方法では、水溶性物質や水懸濁性物質などの水分散性物質を物品に吸着させることは不可能である。そこで、この水分散性物質の利用を実現するために、前記従来常識を打ち破るべく実験を繰り返した。その結果、従来常識に反する予想外の実験事実を確認するに至った。水分散性物質を水中に均一分散させておき、この水に自己乳化性組成物(油溶性物質を含有しない)を添加して乳化粒子が均一分散した安定な水性乳化液を調製する。この水性乳化液に乳化不安定化剤を添加して乳化粒子を物体表面に強制自己吸着させると、均一分散した殆どの水分散性物質が誘導的に物品表面に吸着されることを発見して、本発明を完成したものである。本発明者等は、以後この吸着現象を随伴吸着と称し、乳化粒子の強制吸着と区別する。
乳化粒子の生成は、乳化物質を乳化剤及び/又は分散剤により乳化生成してもよいし、自然乳化粒子を用いてもよい。水分散性物質は、水に懸濁する水懸濁性物質又は水に溶解する水溶性物質がある。水懸濁性物質には、コロイドのように物質単体で懸濁する物質や、化粧品・ワックス等のように乳化剤(例えば界面活性剤)により強制的に水中乳化させた乳化粒子物質などがある。また水溶性物質には、水溶性染料・水溶性ポリマー・水溶性無機物質などがある。水分散性物質の分散時点は乳化の前後いずれでもよく、乳化前の水に分散させてもよいし、乳化後の水性乳化液に溶解させてもよい。添加される物質は水分散性であるから、水及び水性乳化液のいずれにも分散可能である。水性乳化液はそのままでは安定した乳化状態を保持しており、水性乳化液中では、乳化粒子と水分散性物質が均一に分散している。従って、この安定した乳化状態を破壊するために、前記水性乳化液に乳化不安定化剤を添加する。乳化不安定化剤は乳化粒子の種類に応じて適切に選択され、例えば酸・塩析剤・凝集剤などが利用される。乳化不安定化剤の作用は電気化学的に説明されたり、物質化学的に説明されたりするが、本発明の新規で特異的な随伴吸着現象に関しては全く不明であるから、その詳細は省略する。しかし、上述したように、この随伴吸着現象は本発明者等により実験的に確認されている。
本発明が適用される物品はどのような物品であってもよい。この物品には、線状物品、平面状物品、立体状物品が含まれる。特に、本発明は水性乳化液中で吸着と随伴吸着が行われるから、水性乳化液と接触する物品の全表面に均一に吸着されるため、物品の表面構造が複雑であっても、その複雑な表面に均一に吸着作用が働き、全表面にムラのない吸着と随伴吸着が実現できる利点がある。従って、表面構造が複雑で大表面積を有する物品ほど、本発明方法を有効に発揮できる利点がある。
【0025】
本発明の第2の形態によれば、前記乳化粒子として少なくとも油剤を界面活性剤により乳化させた油剤乳化粒子を使用でき、前記乳化不安定化剤として酸及び/又は塩析剤を使用することができる。油剤としては、鉱物油・植物油・合成油・その他の油剤が利用できる。鉱物油として、パラフィン系・ナフテン系・芳香族炭化水素系・これらの混合物系があり、具体的には流動パラフィン・スピンドル油・マシン油・冷凍油・その他の石油系潤滑油が利用できる。合成油として、ポリオレフィン油・ポリグリコール油・ポリプラン油・アルキルベンゼン油・その他の合成油がある。更に、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート・テトラ(トリデシル)シリケートのようなケイ酸エステル油・スクアラン油・リン酸エステル油・シリコン油などが利用できる。
また、界面活性剤としては、カチオン界面活性剤・アニオン界面活性剤・ノニオン界面活性剤・両性界面活性剤が適宜使用できる。カチオン界面活性剤には、アルキルトリメチルアンモニウム塩・ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド・アルキルピリジニウムクロライド・アシロイルメチルピリジウムクロライド等がある。アニオン界面活性剤には、脂肪酸塩・アルファスルホ脂肪酸エステル塩・アルキルベンゼンスルホン酸塩・アルキル硫酸塩・アルキルエーテル硫酸エステル塩・アルキル硫酸トリエタノールアミン・ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム・アルキルスルホン酸塩・脂肪酸ーアミノ酸縮合物・ロート油・高級アルコール硫酸エステル塩・アルキロールアミド硫酸エステル・アルキルナフタリンスルホン酸塩・脂肪酸エステルスルホン化物・脂肪酸アミドスルホン化物・複素環式スルホン化物などがある。ノニオン界面活性剤には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル・ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル・ポリエチレングリコール脂肪酸エステル・ポリオキシエチレン脂肪酸エステル・ポリオキシエチレン脂肪酸アミンエーテル・ポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル・多価アルコール脂肪酸エステル・ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル・アルキロールアミド・プルロニックス型活性剤などがある。両性界面活性剤には、アルキルカルボキシベタイン、ドデシルポリアミノエチルグリシン、アルキルアミノ脂肪酸塩・アルキルベタイン・アルキルアミンオキシド等がある。
更に、具体的に説明すると、第1には、油剤を陽イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤で乳化した粒子で、無機酸・無機酸塩又は有機酸により吸着させる場合、第2には、油剤を両性界面活性剤と非イオン界面活性剤で乳化した粒子で、無機酸又は有機酸により吸着させる場合、第3には、油剤をカチオン活性基を有する両性界面活性剤で乳化した粒子で、無機酸又は有機酸により吸着させる場合がある。第4には、油剤を非イオン界面活性剤で乳化した粒子で、無機酸・有機酸・塩析剤により吸着させる場合、第5には、油剤と金属封鎖剤をカチオン活性基を有する界面活性剤で乳化した粒子で、無機酸・有機酸・塩析剤により吸着させる場合、第6には、油剤を非カチオン系界面活性剤で乳化した粒子で、塩析剤により吸着させる場合がある。本発明は、本出願人が従来から使用している広範囲の油剤乳化粒子に適用できることが明らかとなった。
酸としては有機酸・無機酸が使用でき、強制吸着作用が出現するpHに水性乳化液を調整する。具体的には、無機酸として塩酸・硫酸・硝酸・炭酸・リン酸などがあり、有機酸としてカルボン酸やスルホン酸がある。カルボン酸としては、ギ酸・酢酸・パルミチン酸・ステアリン酸・アクリル酸・メタクリル酸・オレイン酸・リノール酸・リノレン酸・シュウ酸・アジピン酸・マレイン酸・フマール酸・乳酸・酒石酸・安息香酸・サリチル酸・フタル酸があり、スルホン酸としては、鎖式スルホン酸・芳香族スルホン酸があり、具体的には、ベンゼンスルホン酸・トルエンスルホン酸・ナフタリンスルホン酸・ナフトールスルホン酸・タウリン酸・スルファニル酸・ナフチルアミンスルホン酸・スルホ安息香酸・フルオルスルホン酸・クロルスルホン酸・スルファミン酸などがある。
塩析剤としては、硫酸アンモン・塩化アンモン等のアンモニウム塩、ボウ硝・硫酸カリウム・塩化ナトリウム・塩化カリウム・硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩、塩化カルシウム・塩化バリウム・塩化マグネシウム・硫酸マグネシウム・硝酸カルシウム・塩化ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、塩化亜鉛・硝酸亜鉛などの第IIb族金属塩、硫酸アルミニウム・塩化アルミニウム・塩基性塩化アルミニウムなどの第III族金属塩、硝酸第2鉄・塩化第2鉄などの第VII族金属塩、これら2種以上の組合せ、或いは複塩がある。
【0026】
本発明の第3の形態によれば、前記乳化粒子として少なくとも樹脂を乳化させた樹脂乳化粒子が使用でき、前記乳化不安定化剤として凝集剤が使用できる。この樹脂乳化粒子は単に樹脂を乳化剤で乳化させた粒子だけでなく、樹脂中に樹脂溶性物質(親油性物質とも云う)を溶解分散させた乳化粒子も含まれる。この樹脂溶性物質として、樹脂溶性染料、樹脂溶性抗菌剤、樹脂溶性防カビ剤、樹脂溶性抗アレルゲン剤、樹脂溶性金属封鎖剤、樹脂溶性香料、樹脂溶性防炎剤、樹脂溶性難燃剤、各種樹脂溶性安定剤、その他の樹脂溶性物質が包含される。
樹脂としては、酢酸ビニル系、アクリル系、ウレタン系、フッ素系、シリコン系、エポキシ系、メラミン系、その他の特殊樹脂系が含まれる。酢酸ビニル系樹脂には、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルエチレン共重合体、他のモノマー酢酸ビニル共重合体がある。アクリル系樹脂には、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、これらエステルとモノマーとの共重合体がある。フッ素系樹脂には、フルオロアルキル基を含むビニルモノマー単独重合体、フルオロ基主鎖結合性高分子がある。シリコン樹脂には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、アミノ変性シリコン、エポキシ変性シリコンがある。エポキシ系樹脂には、変性ビスフェノール樹脂、変性クレゾールノボラック樹脂がある。メラミン系樹脂には、メチロールメラミン、メラミン尿素共縮合体がある。この樹脂が有する機能には、深色化、撥水、制電、防汚、難燃、耐光などがある。
本形態の凝集剤には、高分子凝集剤や無機凝集剤がある。高分子凝集剤には、ポリアクリル酸エステルとその誘導体、ポリメタクリル酸エステルとその誘導体、ポリアクリルアミドとその誘導体、ポリアクリル酸ナトリウムとその誘導体、アクリルアミドとビニルモノマーの共重合体、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合体などがある。無機凝集剤には、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、鉄系無機凝集剤などがある。吸着メカニズムとして、樹脂乳化粒子が有する電荷が凝集剤により中和され、樹脂乳化粒子が凝集しながら不安定になって物体表面に強制吸着され、この強制吸着に誘導されて水分散性物質が物体表面に随伴吸着されると考えられる。
【0027】
本発明の第4の形態によれば、乳化粒子としてゴムを乳化させたゴム乳化粒子が使用され、乳化不安定化剤として凝集剤が使用される。このゴム乳化粒子は単にゴムを乳化剤で乳化させた粒子だけでなく、ゴム中にゴム溶性物質(親油性物質とも云う)を溶解分散させたゴム乳化粒子も含まれる。このゴム溶性物質として、ゴム溶性染料、ゴム溶性抗菌剤、ゴム溶性防カビ剤、ゴム溶性抗アレルゲン剤、ゴム溶性金属封鎖剤、ゴム溶性香料、ゴム溶性防炎剤、ゴム溶性難燃剤、各種ゴム溶性安定剤、その他のゴム溶性物質が包含される。ゴムとして、ゴムラッテクス(単にラテックスとも云う)になる全てのゴムが利用でき、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリル酸ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等がある。凝集剤としては、有機酸・無機酸・高分子凝集剤・無機凝集剤が利用できる。有機酸・無機酸には、公知の有機酸・無機酸が使用できる。高分子凝集剤には、ポリアクリル酸エステルとその誘導体、ポリメタクリル酸エステルとその誘導体、ポリアクリルアミドとその誘導体、ポリアクリル酸ナトリウムとその誘導体、アクリルアミドとビニルモノマーの共重合体、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合体などがある。無機凝集剤には、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、鉄系無機凝集剤などがある。吸着メカニズムとして、ゴム乳化粒子が有する電荷が凝集剤により中和され、ゴム乳化粒子が凝集しながら不安定になって物体表面に強制吸着され、この強制吸着に誘導されて水分散性物質が物体表面に随伴吸着されると考えられる。また、有機酸・無機酸を使用するゴム乳化粒子の物体表面への強制吸着メカニズムも凝集剤と同様に電気化学的作用と考えられるが、詳細なメカニズムは不明である。この強制吸着に誘導されて水分散性物質が物体表面に随伴吸着されると考えられる。
【0028】
本発明の第5の形態によれば、前記水分散性物質として、前記水又は水性乳化液に懸濁する水懸濁性物質、前記水又は水性乳化液に溶解する水溶性物質が使用される。水懸濁性物質とは、水又は水性乳化液に粒子状に懸濁する全ての物質であり、自発的に水に懸濁する物質だけでなく、界面活性剤などの乳化剤により水に懸濁する物質を包含する。懸濁粒子としては、分子コロイド・会合コロイド・分散コロイド・その他のコロイドが含まれる。水分子が多く水和している親水コロイドや、水分子の少ない疎水コロイドも前記水懸濁性物質に包含される。水に懸濁する物質であれば、無機物質・有機物質の両者が含まれる。他方、水溶性物質には、水に溶解したときにイオン・分子・ポリマーとして存在する無機物質・有機物質が含まれる。特に、水溶性ポリマーには、天然ポリマー・半合成ポリマー・合成ポリマーが包含される。天然ポリマーには、でんぷん・糖類・海草類・たんぱく質がある。半合成ポリマーには、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、酸化でんぷんや変性デンプンなどのデンプン系ポリマーが含まれる。合成ポリマーには、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミド、ポリビニルピロリドンなどが含まれる。物品表面に特定の機能を付加するために、その機能を有した水分散性物質が選択され、水性乳化液にこの水分散性物質を均一分散させて、乳化粒子の吸着に誘導されて物品に随伴吸着される。水分散性物質を物品表面に乳化粒子と共に吸着させることにより、物品に特定機能を付加し、物品の使用価値の増進を図ることができる。
また、水性乳化液中の水分散性物質濃度は特に制限されず、水性乳化液中で有効に分散している範囲内であれば、自在に濃度が調整される。更に、水性乳化液の乳化粒子濃度との関係においても、乳化粒子が有効に水性乳化液中で分散している範囲内であれば、水分散性物質濃度を自在に調整できる。少量の乳化粒子の強制吸着により大量の水分散性物質を誘導的に随伴吸着させるメカニズムは明らかではないが、本発明者等の実験により明確に確認された事実である。
【0029】
本発明の第6の形態によれば、前記水分散性物質としては、染料、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、金属封鎖剤、香料、防炎剤、難燃剤又は各種安定剤の1種又は2種以上が使用される。これらの物質でも、特段の処理を行わずに自発的に水分散性を示す物質は、そのまま水性乳化液に添加されて均一分散される。自発的に水分散性を示さない物質は、界面活性剤などの乳化剤により水分散性を付与して、水性乳化液中に均一分散される。乳化剤と共に水性乳化液に添加されてもよいし、別容器にて水中に乳化剤と共に配合して水中均一分散させ、この均一分散水を前記水性乳化液に混合してもよい。従って、これらの水分散性物質は、水溶性物質であってもよいし、乳化された油溶性物質であっても構わない。
染料は物品を特定色に染色するために使用され、天然染料と合成染料が使用される。化学構造による分類では、アゾ染料・アントラキノン染料・インジゴイド染料・硫化染料・トリフェニルメタン染料・ピラゾロン染料・スチルベン染料・ジフェニルメタン染料・キサンテン染料・アリザリン染料・アクリジン染料・チアジン染料・チアゾール染料・メチン染料・ニトロ染料・ニトロソ染料がある。染色的には、直接染料・建染め染料・硫化染料・分散染料・塩基性染料・ナフトール染料・酸性染料・酸性媒染染料・媒染染料・油溶性染料・反応染料・可溶性建染め染料・硫化建染め染料・蛍光増白剤・酸化染料などがあり、本発明に公的な染料が選択される。
抗菌剤・防カビ剤は物品表面に抗菌・防カビ特性を付与するために使用され、オルトフェニルフェノール・パラオキシ安息香酸エステル・パラオキシ安息香酸ブチルエステル・亜鉛ピリチオン・銅ピリチオン・ナトリウムピリチオン・亜鉛オマダイン(C10Zn)などがある。
抗アレルゲン剤はアレルギー症状を生起するアレルゲンの作用を減退・消滅させるために使用され、ポリフェノール類などが挙げられ、より具体的には、タンニン酸、ガロタンニン、没食子酸、エピカテキンエピカロカテキン、エピガロカテキンガレート、オレウロペインなどが挙げられる。更に、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、カルビノキサミン、ピリラミン、トリペレンナミン、ブロムフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、プロメタジン、テルフェナジン、アステミゾール、ダイメンハイドリネート又はそれらの塩などがある。
金属封鎖剤は油剤乳化粒子を物品の全表面にムラなく均一に強制吸着させるために使用され、具体的には、グリコール酸・酒石酸・クエン酸・チオグリコール酸・アスコルビン酸・グリシン・アスパルチン酸・N−ジヒドロキシエチルグリシン・イミノジ酢酸・ニトリロトリ酢酸・N−ヒドロキシエチルイミノジ酢酸・エチレンジアミンテトラ酢酸などがある。
その他、香料、防炎剤、難燃剤、各種安定剤は公知の物質を使用できる。
【0030】
本発明の第7の形態によれば、前記物品として繊維製品が使用される。繊維製品は多数の繊維から構成されるから、その構造が極めて複雑であり、その全表面に均一に乳化粒子と水分散性物質を吸着させるには、本発明方法が最も好適である。繊維製品には、天然繊維・再生繊維・半合成繊維・合成繊維・無機繊維からなるフィラメント糸・紡績糸・紐などの糸製品、織物・編物・不織布などの布帛製品、クロス・布巾・ナプキン・敷布・カバー・カーテン・かや等の平面状繊維製品、被服製品、清掃用繊維製品などがある。合成繊維としては、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、塩化ビニル繊維などがある。天然繊維としては、木綿・マーセル化木綿・ポリノジック繊維などのセルロース繊維、羊毛などの動物繊維がある。無機繊維としては、ガラス繊維・金属繊維・セラミック繊維などがある。これらの繊維製品は多数の繊維が複雑な構造を有する繊維集合体であり、水性乳化液中で乳化粒子をその表面全体に均一に強制吸着させることができ、更に強制吸着に誘導されて水分散性物質をその表面全体に均一に随伴吸着できる特徴を有する。
【0031】
本発明の第8の形態によれば、前記繊維製品として清掃用繊維製品が使用できる。清掃用繊維製品としては、モップ・マット・ラーグ・ワイピングクロス等がある。特に、モップやマットは、基布にタフト化された無数のパイルを有し、これらの無数のパイル表面に乳化粒子と水分散性物質を均一に吸着させるには、本発明方法が最適である。油剤乳化粒子を清掃用繊維製品に吸着させると、清掃時にダストを油剤中に保持して被清掃面にダストを脱離させないという特徴がある。しかも、水分散性物質の特定作用により、清掃用繊維製品及び被清掃面を清浄に保持できる。
【0032】
本発明の第9の形態によれば、前記清掃用繊維製品100重量部に対して、5重量部〜50重量部の油剤が吸着されるから、高効率にハウスダストやこれらに含まれる菌・カビ・アレルゲンなどを高効率に捕集することができる。また、水分散性物質が0.01重量部〜20重量部吸着されることにより、清掃に際して環境を水分散性物質の作用により一層に清浄に維持できる。例えば、前記水分散性物質が抗菌剤であれば抗菌環境を保持でき、防カビ剤であれば防カビ環境を保持でき、また抗アレルゲン剤であれば抗アレルゲン環境を保持できる。これらの数値範囲は、本発明者等の経験から導出された範囲である。油剤の数値範囲として、5重量部以下では、ハウスダストの吸塵効率が低下し、50重量部以上では吸塵しても油剤が被清掃面に転移する可能性が高くなる。また、水分散性物質の数値範囲として、0・01重量以下では添加物質としての性能が低下し、20重量部以上では過剰添加となって価格上昇を生起する。更に、界面活性剤の数値範囲として、0.01重量部以下では、油剤のエマルジョン化が低下し、3重量部以上では過剰添加となって界面活性剤のコストが増大し、本発明に係る清掃用繊維製品の製造コストを増加させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[実施例1:カチオン・ノニオン・染料・クロス]
油剤としてスピンドル油35重量部、カチオン界面活性剤としてアシロイルメチルピリジウムクロライド0.2重量部、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエステル1.5重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。他方、清掃用繊維製品として綿布100重量部を20倍の容積の35℃の温水に浸漬した。水分散性物質として水溶性青色染料を選択し、5重量部の水溶性青色染料を前記温水中に混合して均一に攪拌したところ、温水全体が透明な青色に染まった。前記自己乳化性組成物を前記温水中に投入攪拌すると、温水全体が乳化し、温水中に油剤乳化粒子が生成された。この状態で、乳化不安定化剤として5%濃度の酢酸水溶液を10重量部だけ温水に添加して攪拌すると、油剤乳化粒子が綿布に強制吸着され、しかも青色染料も随伴吸着されて、温水全体が略無色透明状態になり、吸着が完了した。綿布は油剤で含浸され、しかも同時に青色に染色された。以上から、油剤乳化粒子の強制吸着に誘導されて染料が随伴吸着されることが実証された。
【0034】
[実施例2:両性・ノニオン・抗菌剤・パイル状モップ]
油剤としてナフテン系冷凍機油19.5重量部、両性界面活性剤としてドデシルポリアミノエチルグリシン0.5重量部、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル0.2重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。他方、清掃用繊維製品としてパイル状モップ80重量部を10倍の容積の25〜30℃の水に浸漬した。水分散性物質としてNagase Chemtex社の抗菌防カビ剤である亜鉛オマダイン(C10Zn)を選択し、0.3重量部の前記抗菌防カビ剤を前記水中に混合して均一に攪拌したところ、抗菌防カビ剤が均一に懸濁分散し、水全体が極薄の乳白色に染まった。前記自己乳化性組成物を前記水中に投入攪拌すると、水全体が濃く乳化し、水中に油剤乳化粒子が生成されたことが確認された。この水性乳化液に、乳化不安定化剤としてマレイン酸を添加してpHを4.9〜5.4に調整した。攪拌しながら約15分経過すると、乳白色が消えて無色透明になり、油剤乳化粒子がパイル状モップに強制吸着されと共に、抗菌防カビ剤もパイル状モップ全体に均一に随伴吸着されたことが確認された。このパイル片を用いて抗菌試験を行ったところ、パイル片近傍には菌のコロニーが出現せず、抗菌防カビ剤が効果を発揮していることが確認された。
【0035】
[実施例3:カチオン活性両性・抗アレルゲン剤・マット]
油剤としてアルキルベンゼン油65重量部、カチオン活性基とアニオン活性基を有する両性界面活性剤としてドデシルポリアミノエチルグリシン27重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。他方、清掃用繊維製品としてマット100重量部を10倍の容積の25〜30℃の水に浸漬した。水分散性物質として、抗アレルゲン剤であるタンニン酸を5重量部だけ前記水の中に溶解分散させた。前記自己乳化性組成物を前記水の中に混合すると、全体が乳白色になって安定な水性乳化液が生成された。この水性乳化液には、油剤乳化粒子とタンニン酸が均一に分散していると考えられる。この水性乳化液に、乳化不安定化剤として酢酸を添加し、pHを4.5の調整したところ、約17分で乳化液がほぼ透明になった。油剤乳化粒子はマットにほぼ完全に強制吸着され、抗アレルゲン剤であるタンニン酸も随伴吸着されたと考えられる。タンニン酸は無色透明であるため、抗アレルゲン試験を行ってマットに吸着されているかどうかを確認する必要がある。株式会社LCDアレルギー研究所製の「ダニDerf1抗原測定キット」を用いて、ELISA法によりマットの抗アレルゲン効果を測定したところ、抗アレルゲン効果が確認された。従って、抗アレルゲン剤であるタンニン酸がマットに随伴吸着していることが実証された。
【0036】
[実施例4:ノニオン・難燃剤・クロス]
油剤としてα―オレフィン油50重量部、ノニオン界面活性剤としてエチレンオキシド5モル付加のポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル5重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。他方、清掃用繊維製品としてクロス100重量部を25倍の容積の30℃の水に浸漬した。水分散性物質として大和化学工業株式会社製の水分散性難燃剤フランEG−50を10重量部だけ前記水中に混合して均一に攪拌したところ、水全体が薄黒色の分散液になった。前記自己乳化性組成物を前記温水中に投入攪拌すると、水全体が乳化し、水中に油剤乳化粒子が生成された。この状態で、乳化不安定化剤として硫酸アンモン(塩析剤として)を300ppmになるように前記水性乳化液に添加して、混合攪拌を行った。その結果、油剤乳化粒子が綿布に強制吸着され、しかも黒色難燃剤も随伴吸着されて、水全体が略無色透明状態になり、吸着が完了した。綿布は油剤で含浸され、しかも同時に難燃剤を均一に担持した。以上から、油剤乳化粒子の強制吸着に誘導されて水分散性難燃剤が随伴吸着されることが実証された。
【0037】
[実施例5:カチオン・金属封鎖剤・パイル状モップ]
油剤として流動パラフィン油96重量部、カチオン活性基を有する界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル2重量部とエチレンオキサイド3モル付加イミダゾリン1重量部、抗菌剤・防カビ剤・香料を合計1重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。他方、清掃用繊維製品としてパイル状モップ300重量部を20倍の容積の30℃の水に浸漬した。水分散性物質として金属封鎖剤である水溶性のグリコール酸を1重量部だけ前記水中に添加混合した。前記自己乳化性組成物を前記水中に投入攪拌すると、水全体が乳化し、水中に油剤乳化粒子が生成された。この状態で、乳化不安定化剤として硫酸アルミニウム(塩析剤として)を300ppmになるように前記水性乳化液に添加して、混合攪拌を行った。その結果、油剤乳化粒子が綿布に強制吸着され、水全体が略無色透明状態になり吸着が完了した。グリコール酸が残留水に殆ど存在しないことが実験的に確認され、グリコール酸は前記強制吸着に誘導されてパイル状モップに随伴吸着されたことが実証された。この金属封鎖剤は油剤がムラ無く繊維表面に均一に吸着されるために添加される物質である。
【0038】
[実施例6:両性・ノニオン・その他水分散性物質・パイル]
この実施例6では、他の水分散性物質として、記録紙用青色インク、カオリン、コーヒー用フレッシュ、アクリル樹脂ワックスを選択して、油剤乳化粒子の強制吸着に誘導されて随伴吸着が生起するかどうかを試験した。
まず、油剤としてナフテン系冷凍機油20重量部、両性界面活性剤としてドデシルポリアミノエチルグリシン0.5重量部、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル0.2重量部を混合して自己乳化性組成物を調製した。水100mlに綿パイル5gを浸漬し、この水中に前記水分散性物質1種類を分散させた水溶液を4種類調製した。即ち、インクは0.1ml、フレッシュは0.2ml、カオリンは0.11g、ワックスは0.3mlだけ添加した4種類の水溶液を用意した。インク水溶液は青色、フレッシュ水溶液は乳白色、カオリン水溶液は灰色、ワックス水溶液は乳白色であった。この4種類の水溶液に前記自己乳化性組成物を1g添加して乳化させ、水性乳化液を作製した。4種類の水性乳化液の夫々に30%酢酸を0.04gと塩析剤として硫酸アルミニウム0.6gを添加して乳化粒子を綿パイルに強制吸着させた。このとき、水性乳化液が無色透明になることが確認された。従って、4種類の水分散性物質も本発明方法によって随伴吸着されたことが実証された。
【0039】
[実施例7:樹脂エマルジョン・青色インク・綿クロス]
樹脂乳化粒子が分散した樹脂エマルジョンとして、酢ビ系のスミカフレックスS753(住友化学製)を固形分で0.5g/l濃度に調製した水性乳化液を50ml用意した。この水性乳化液に5gの綿クロスを浸漬し、更に記録紙用の青色インクを水分散性物質として0.1ml添加したところ全体が青色になった。他方、乳化不安定化剤として高分子凝集剤であるハイセットC−285(分子量200万、第一工業製薬製)を固形分で0.01g/l含んだ水溶液50mlを用意した。この凝集剤水溶液を前記水性乳化液に添加し、60℃で20分間処理した。この結果、水溶液は無色透明になり、樹脂乳化粒子が綿クロスに強制吸着され、しかも青色インクが誘導的に綿クロスに随伴吸着されたことが確認された。綿クロスの表面全体に樹脂と青色インクが吸着され、秀麗な綿クロスが完成された。
【0040】
[実施例8:ゴムラテックス・青色インク・綿クロス]
ゴム乳化粒子が分散したゴムラテックス(ゴムエマルジョン)として、アクリロニトリルブタジエンゴムを固形分で0.5g/l濃度に調製した水性乳化液を50ml用意した。この水性乳化液に5gの綿クロスを浸漬し、更に記録紙用の青色インクを水分散性物質として0.1ml添加したところ全体が青色になった。他方、乳化不安定化剤として高分子凝集剤であるハイセットC−285(分子量200万、第一工業製薬製)を固形分で0.01g/l含んだ水溶液50mlを用意した。この凝集剤水溶液を前記水性乳化液に添加し、35℃で20分間処理した。この結果、水溶液は無色透明になり、ゴム乳化粒子が綿クロスに強制吸着され、しかも青色インクが誘導的に綿クロスに随伴吸着されたことが確認された。綿クロスの表面全体にゴムと青色インクが吸着され、秀麗な綿クロスが完成された。この結果は、ほぼ樹脂エマルジョンと同様の結果を与えた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、水分散性物質を水の中に分散させておき、この水の中で乳化粒子を不安定化させて繊維等の物体表面に強制吸着させると、水中に均一分散している水分散性物質が乳化粒子に随伴して物体表面に均一に誘導的に随伴吸着されることを内容としている。従って、水に分散できる物質であれば、どのような物質でも物体の全表面に秀麗に均一吸着できる。本発明が利用できる産業分野は物体表面への被膜形成を行う全ての分野を包含し、例えば繊維工業、清掃用繊維工業、ダストコントロール産業、ゴム工業、樹脂工業、化学工業、半導体工業、メッキ工業、その他の工業分野が存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化粒子を水に分散させた水性乳化液を調製し、前記水又は前記水性乳化液に水分散性物質を分散させておき、前記水性乳化液に物品を接触させた状態で、前記水性乳化液に乳化不安定化剤を処理して前記乳化粒子を前記物品に強制吸着させ、この強制吸着作用により前記水分散性物質を前記物品に随伴吸着させることを特徴とする物品への物質随伴吸着方法。
【請求項2】
前記乳化粒子は少なくとも油剤を界面活性剤により乳化させた油剤乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤は酸及び/又は塩析剤である請求項1に記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項3】
前記乳化粒子は少なくとも樹脂を乳化させた樹脂乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤は凝集剤である請求項1に記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項4】
前記乳化粒子はゴムを乳化させたゴム乳化粒子であり、前記乳化不安定化剤は凝集剤である請求項1に記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項5】
前記水分散性物質は、前記水又は水性乳化液に懸濁する水懸濁性物質、及び/又は、前記水又は水性乳化液に溶解する水溶性物質である請求項1〜4のいずれかに記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項6】
前記水分散性物質は、染料、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、金属封鎖剤、香料、防炎剤、難燃剤又は各種安定剤の1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項7】
前記物品が繊維製品である請求項1〜6のいずれかに記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項8】
前記繊維製品は清掃用繊維製品である請求項7に記載の物品への物質随伴吸着方法。
【請求項9】
前記清掃用繊維製品100重量部に対して、前記油剤が5〜50重量部、前記界面活性剤が0.01〜3重量部、前記水分散性物質が0.01〜20重量部吸着担持される請求項8に記載の物品への物質随伴吸着方法。

【公開番号】特開2007−100232(P2007−100232A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288887(P2005−288887)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】