説明

物理量可視化計測用テープ

【課題】物体表面の圧力分布や温度分布を、感圧塗料または感温塗料を用いて光学的に計測する手法において、様々な計測対象や計測環境において、容易にこれらの計測を可能とする物理量可視化計測用テープの提供。
【解決手段】金属基体2の上面に感温塗料層または感圧塗料層1を設け、前記感温塗料層または感圧塗料層1の表面に防水層3を設け、前記防水層3の表面に硬化層4を設け、前記金属基体2の、感温塗料層または感圧塗料層1を設けた面の反対面に粘着剤層5を設けた構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温塗料や感圧塗料等の、温度や酸素分圧などに応じてその発光特性が変化する分子を含む塗料を用いて物体表面の温度や圧力を光学的に計測する手法に係り、これらの塗料の直接塗布が難しい物体や、液中に設置される物体を対象に計測を実施する場合において、計測を容易に、かつ短時間で行うことを可能とする物理量可視化計測用テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物体表面の温度や圧力の分布を光学的に計測する手法が行われるようになってきた。その計測法の一つに、感温塗料や感圧塗料等の、温度や酸素分圧などに応じてその発光特性が変化する分子を含む塗料を計測対象面に塗布し、これら塗料に特定の波長を持つ励起光を照射した際の塗料の発光強度を、CCDカメラ等の光検出器を用いて記録することで計測対象面の温度や圧力を計測する手法がある。
【0003】
しかし、熱流体機械、特に発電所用のタービンや鉄道車両など、顧客施設に納入後に性能確認や品質検査を行う製品に対し、これら計測手法を適用する際には、試験の事前準備時間や計測後の処理などを考慮すると、計測対象に直接これら塗料を塗布する計測方法は望ましくない場合もある。
【0004】
このような課題を解決するための先行技術として、特許文献1がある。特許文献1では、エレクトロルミネッセンスシートの表面透明電極の上面に、感圧塗料を均一に塗布して感圧塗料層を形成し、圧力検出シートを作成する。そして、この圧力検出シートの背面に接着剤層を設けることで、様々な計測対象に容易に貼付可能な構造を有している。これにより、感圧塗料を用いた物体表面の圧力分布計測を、塗料を塗布する手間や、計測後に塗料を剥がす手間を省略して実施することが可能である。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の発明の場合、液中又は多湿状況下では、感圧塗料が剥離する恐れがあるという課題がある。
【0006】
一方、非特許文献1には、計測対象面に感圧塗料や感温塗料を効果的に塗布する方法として、各塗料に含まれる、感温性分子や感圧性分子を、アルマイト処理を施したアルミニウムの表面に化学的に吸着させる方法が記されている。また、合わせて多湿環境下での計測を可能にする方法として、感圧塗料にポリスチレンやシリコーン系の撥水剤を添加する方法が記されている。しかし、非特許文献1に記載の手法に関しても多湿環境下での計測には支障は少ないと考えられるが、液中物の計測においては色素が液中に溶解してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−228524号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】機能性色素の合成と応用技術、松居正樹著、P292−305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、物体表面の温度分布や圧力分布などの物理量を、感温塗料または感圧塗料などの温度や酸素分圧などに応じてその発光特性が変化する分子を含む塗料を用いて光学的に計測する手法において、様々な計測対象や計測環境において、容易にこれらの計測を可能とする手法を提示することを目的とし、具体的には曲率を有する部位に容易に貼付可能であり、なおかつ空気中および液中においても使用可能な、物理量可視化計測用テープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、物理量可視化塗料を含有する層と、その表面に形成された防水層あるいは更にその上に形成された硬化層と、その反対面或いはその反対面に接着された金属基体の表面に粘着剤層を有する物理量可視化計測用テープが提供される。塗料表面に、防水層又は防水層と硬化層を設けることにより、多湿環境下はもちろん、水中、海水中でも塗料の溶出無しに用いることができる。更に、硬化層を防水層の表面に設けることにより、塗料の剥離防水層の亀裂や剥離を防止することができる。
【0011】
上記テープにおいて、金属基体の一表面に、温度や酸素分圧などに応じてその特性が変化する分子を含む塗料からなる層を設け、前記金属基体の、前記塗料層を設けた面と反対面に粘着剤からなる層を設けた構造とすることができる。また、上記テープを前記塗料層の表面に、防水層を設け、前記防水層の表面に硬化樹脂からなる硬化層を設けた構造とすることができる。この場合、金属基体を設けないため、より柔軟なテープを得ることができる。塗料層とその分散樹脂(塗料を分散保持する樹脂で、柔軟性のあるものが好ましい。)との混合層の片面に防水層又は防水層と硬化層を形成し、他の面に粘着剤層を形成するのがテープの柔軟性を高めるために好ましい。
【0012】
更に、前記防水剤からなる層をポリスチレン共重合体とし、前記硬化層を、硬化合成樹脂とすることができる。前記感温塗料と防水剤を含む層の表面に硬化層を設け、前記塗料と防水剤から成る層を設けた面の反対面に粘着剤からなる層を設けた構造とすることができる。
【0013】
また、前記物理量可視化塗料層と前記粘着剤層の間に形成された導電性粘着剤層を有する物理量可視化計測用テープが提供される。具体的には、感温塗料の片面に導電性粘着剤層を形成し、これを金属基体の片面に貼り付け、かつ上記塗料の表面に防水層又は防水層と硬化層を形成し、前記金属基体の他面に粘着層を形成して、被測定対象からの熱伝導が損なわれないようにすることができる。更に、上記金属基体を省略しても良い。また、被測定対象物にテープを貼り付ける側の粘着層が高熱伝導性であっても良い。
【0014】
感圧塗料は、ある種の色素に励起光を照射すると、蛍光とリン光を発するが、リン光は塗料と酸素が接触することにより失活し、リン光の強度が低下する。したがって、テープ保管中、感圧塗料に空気が接触しないように、酸素不透過性の保護膜を防水層又は硬化層の表面に形成しておき、測定直前(すなわち、被測定対称物にテープを貼り付けた後)に上記保護膜を剥がす。こうすることにより、感圧塗料の特性低下を防ぐことができる。
【0015】
また、物理量可視化塗料の発色を向上するため、被測定対象物にテープを貼り付けるための粘着剤層が白色の粘着剤を用いることができる。この粘着剤を用いると、塗料の発光強度が強くなり、検出がより容易になる。白色粘着剤は公知の白色顔料を添加して調整される。また、テープの粘着剤層(被測定対象物にテープを貼り付ける側)の表面を剥離の容易な保護シートで被覆し、テープを被測定対象物に貼り付ける際に、この保護シートを剥がして、テープを使用可能な状態にする。このようにしておくことにより、テープの取り扱い性が著しく向上する。前記防水層をポリスチレン共重合体とし、前記硬化層を、硬化性合成樹脂とすることができる。また、硬化層としては、ウレタン樹脂などの硬化性に優れた樹脂が好ましい。
【0016】
本発明は、感温塗料または感圧塗料からなる層の表面に防水剤層を設け、この防水剤層の表面に硬化剤層を設けることにより、防水剤層が金属基体から剥離することを防ぐことができるという現象を発見した。感圧塗料又は感圧塗料自体はアルミニウム等の金属基体との接着力は低く、そのためこれを防水剤層で被覆しても、テープの取り扱い中に塗料が防水剤層と共に剥離することがある。しかし防水剤層を薄い硬化層で覆うことにより、塗料及び防水剤層が金属基体から剥離するのを効果的に防止することを発見した。
【0017】
また、本発明の物理量可視化計測用テープは、ポリスチレン共重合体と感温塗料からなる混合層の一方の面に粘着剤からなる層を設け、もう一方の面に硬化剤からなる層を設けた構造とし、金属基体を省略し、高電圧や高電流を有する部位での使用を可能とするとともに、テープを軽量化することができた。
【発明の効果】
【0018】
本発明の物理量可視化計測用テープによれば、温度分布または圧力分布の測定対象面で、曲面を有するものにも容易に貼付可能である。また、物理量可視化塗料が塗布されたテープの耐水性又は耐湿性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。
【図2】本発明の第二の実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。
【図3】本発明の第三の実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。
【図4】本発明の第四の実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。
【図5】本発明の第五の実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。
【図6】本発明のテープの効果を検証するために行った試験装置の概略図である。
【図7】液中に設置した物理量可視化計測用テープの発光強度の時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)
図1は本発明の物理量可視化計測用テープの断面図である。1は感温塗料層または感圧塗料層、2は金属基体、3は防水層、4は硬化層、5は粘着剤層、6は計測対象物を表している。
【0021】
感温塗料は、温度センサーとなる色素分子と高分子化合物などのバインダからなる層となっている。色素分子としては、ローダミンBなどの多環式芳香族炭化水素や各種のルテニウム錯体、ユーロピウムの錯体などが、バインダとしては、ポリメタクリルアクリレートやポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸などが挙げられる。なお、実施例1では、トリス(1,10−フェナンスロリン)ルテニウム(III)クロライド(tris−(1,10−Phenanthroline) Ruthenium(III)Chloride)とポリアクリル酸を混合したものを感温塗料として使用する。また、感温塗料層1の厚さは極力薄いことが望ましく、0.1mm以下、特に0.07から0.01mmが望ましい。
【0022】
感圧塗料は、酸素センサーとなる色素分子と酸素透過性を有するバインダを溶媒に溶かしたものがある。色素分子としては、複素環状化合物、遷移金属錯体、多環式芳香族炭化水素などが挙げられ、バインダとしてはシリコーンポリマー、シリコーンゴム、ポリスチレン、などが挙げられる。
【0023】
金属基体2は、アルミニウムや銅のように、熱伝導率が極力高く、かつ、硬度が極力低いものとすることが望ましい。金属基体2の熱伝導率が低い場合、計測対象物6の温度と感温塗料層1の温度に差が生じ、計測対象物6の温度の計測精度が低下するからである。また、金属基体2の硬度が高い場合、テープとして使用する際に、曲率を有する部位への貼付が困難になるためである。なお、金属基体2の厚さは、0.5mm以下、特に0.07から0.005mmが望ましい。
【0024】
防水層3は、ポリスチレン共重合体(Polystyrene−block−poly(ethylene−ran−butylene)block−polystyrene,sulfonated,cross−linkable solutionの5wt.%溶液で1−プロパノールとジクロロメタンの混合溶媒に溶解したものである)のように、疎水性を有し、なおかつ、テープとして曲率を有する部位へ貼り付ける際に障害とならないように、柔軟性を有する物質により形成する必要がある。この条件を満たす物質として、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリスルホンなどの高分子化合物を使用することが望ましい。なお、防水層3の厚さは極力薄いことが望ましく、0.1mm以下、特に0.07から0.005mmが望ましい。また、防水層3は、感温塗料層1を励起するための光(波長300nm以上)と感温塗料層1が発する光(波長500nm以上)を透過する物質でなければならない。
【0025】
硬化層4は、ウレタン樹脂や、エポキシ樹脂のように、硬化性を有する合成樹脂を使用することが望ましい。但し、硬化層4が厚い場合、テープとして曲率を有する部位へ貼り付ける際に障害となるため、硬化層4の厚さを0.1mm以下、特に0.05から
0.005mmとすることが望ましい。なお、重合反応を利用して硬化する合成樹脂は比較的硬度が高く、局率の高い部位に貼付する場合には障害となる場合があるため、重合反応を利用しない合成樹脂を用いてもよい。また、硬化層4は防水層3と同様に、感温塗料層1を励起するための光(波長300nm以上)と感温塗料層1が発する光(波長500nm以上)を透過する物質でなければならない。防水層及び硬化層は感温塗料層の発する光に対して透過性が良いほどよいが、常に極端に高い透過率が要求されるわけではない。要するに、光検出器で十分に発光を検出できる程度の透過率があればよい。
【0026】
粘着剤層5は、市販のアルミ粘着テープやクラフト粘着テープなどの粘着面として広く用いられている粘着剤からなる層を用いることができる。なお、粘着剤層5の厚さは0.1mm以下、特に0.07から0.005mmが望ましい。これは、粘着剤層5が厚い場合、計測対象物6の温度と感温塗料層1の温度に差が生じ、計測対象面の温度の計測精度が低下するためである。また、計測対象物6の温度と感温塗料層1の温度の差を低減し、計測対象物6の温度の計測精度を高めるため、粘着剤層を形成する粘着剤として、高熱伝導性を有するエポキシ樹脂系の熱伝導性接着剤や、接着剤にアルミフィラーや銅フィラーを添加して熱伝導性を高めた熱伝導性接着剤を用いても良い。また、粘着剤層5の表面には、剥離可能な保護シートを貼り付けておいて、被測定物にテープを貼り付けるときに、保護シートを剥がす構造としてもよい。
【0027】
本構成によれば、計測対象や計測環境を問わず、容易かつ短時間で物体表面の温度分布の計測が可能となる。これは、防水層3および硬化層4を感温塗料層1の上面に塗布することで塗料の液中への溶解を防ぐとともに、曲率を有する部位にテープを貼り付けた場合においても感温塗料の剥離を防ぐことができるためである。
【0028】
また、特許文献1に見られるような、テープやシートの表面に感温塗料を塗布した構成とする場合、曲率を有する部位に貼り付ける場合には、テープ表面に曲げ力や伸び力が作用し、感温塗料層にき裂が生じ、塗料が剥離することがある。このため、本実施例では防水層3として、ポリスチレン共重合体を使用し、更に硬化層4をその上に形成することにより、金属基体2の上に伸縮性のある防水層3を形成することが可能となる。その結果、感温塗料層1が金属基体2から剥離するのを防ぐことができ、曲率を有する部位にテープを貼り付けた場合でも、感温塗料層にき裂を生じさせることなく計測を行うことが可能となる。以上の説明は、感圧塗料の場合にも当てはまり、感圧塗料を除いて、特に変更をすることなく感圧テープに適用できる。
【0029】
次に、本発明のテープの防水層3および硬化層4について詳細に記述する。本発明では、液中での計測を可能とするため、感温塗料層または感圧塗料層1の表面に防水層3として、疎水性の高いポリスチレン共重合体を塗布する構造とした。防水層3として使用する物質としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などの防水性・撥水性を有する物質が挙げられるが、これらの物質を防水層3として使用した場合、耐水性が足りず、時間経過に伴い少なからず水中に感温塗料または感圧塗料が溶解してしまう場合がある。このため、本発明ではポリスチレン共重合体を使用することとした。ポリスチレン共重合体により形成した防水層3は、疎水性が高い上、上述したように伸縮性にも優れるため、本発明のようなテープに適用することに非常に優れている。
【0030】
一方、ポリスチレンを防水層3として使用する場合、ポリスチレンと金属基体2や感温
塗料層1との接合性に課題が残る。このため、感温塗料層1の表面にポリスチレンを塗布して水中に設置した場合、ポリスチレンが感温塗料層1から剥離することがある。そこで、本発明ではポリスチレンと感温塗料層との接合性を高める手段として、防水層3の表面に硬化層4を設けた。この硬化層4により金属基体2に対する感温塗料層1と防水層3の接合性を高めることができる。感温塗料層1は、金属基体2に、スプレーガンなどの塗装器具によって塗装する。もしくは、工業界で広く行われている電解塗装により電気的に塗装する方法や化学的に感温塗料1の色素を金属基体2に蒸着させる方法を用いても良い。
(実施例2)
図2は本実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。3は防水層、4は硬化層、6は計測対象物、7は白色粘着剤層、8は感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層を表している。感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層8は、感温塗料としてトリス(1,10−フェナンスロリン)ルテニウム(III)クロタイドとポリアクリル酸と、ポリスチレン共重合体(Polystyrene−block−poly(ethylene−ran−butylene)−block−polystyrene,sulfonated solutionの5wt%溶液で、1−プロパノールとジクロロメタンの混合溶媒に溶解したものである。)を混合したものである。また、硬化層4、防水層3は実施例1に記載のものを使用した。実施例2として図2に示す物理量可視化計測用テープは、板状体に、感温塗料と上記ポリスチレン共重合体を混ぜ合わせたものを吹きつけ、感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層8を生成し、混合層8を板状物体より剥がす。そして、感温塗料とポリスチレン共重合体の混合層8の表面に、防水層3及び硬化層4を形成する。
【0031】
その後、硬化層4を形成した面の反対面に白色粘着剤を塗布し、白色粘着剤層7を形成する。なお、感温塗料とポリスチレン共重合体の混合比は、感温塗料の体積に対し、ポリスチレン共重合体の体積が30wt%以下、特に5〜25wt%であることが望ましい。本実施例においては、金属基体を用いていないので、下記に述べるような様々な技術的利点がある。
【0032】
本構成によれば、計測対象や計測環境を問わず、容易かつ短時間で物体表面の温度分布や圧力分布の計測が可能となる上、図1の金属基体2が含まれないため、高電圧や高電流が発生する部位にも使用でき、なおかつテープの軽量化を図ることができる。なお、感温塗料とポリスチレンの混合層8は、感温塗料層1に比べ、塗料の発光強度が低下する場合があるが、この場合は粘着剤層7を、白色を有する白色粘着剤で形成することで塗料の発光強度を高めることができる。
(実施例3)
図3は感圧塗料を用いた物理量可視化用テープの断面図で、金属基体2の片面に感圧塗料層9を形成し、その表面に防水層3を形成し、更にその表面に又は硬化層を介して酸素不透過性の保護層10を粘着剤を介して張り付ける。感圧塗料層9の下面には、粘着剤層、例えば白色粘着剤層7を形成する。
(実施例4)
図4は本実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。3は防水層、6は計測対象物、8は感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層、11は熱伝導性接着剤層を表している。
【0033】
計測対象物の表面、特にフィンやラジエータなどの伝熱面の温度分布を計測する場合には、実施例1、実施例2に示したように、感温塗料層1の表面に硬化層4を設けることで、伝熱面の伝熱特性が変化してしまい、実際の伝熱現象を評価できない可能性がある。これは、硬化層4として使用する合成樹脂が断熱性を有するため、硬化層4の厚みが厚い場合、伝熱面の伝熱特性に影響を与えるためである。このよう課題を解決するものとして図4に示す構成がある。すなわち、粘着剤層として、種々の熱伝導性成分、例えば金属粉、高熱伝導性無機粒子などを添加した熱伝導性粘着剤層11を用いることにより、被測定物の熱を感温塗料になるべく効率よく伝達するようにした。
【0034】
本構成によれば、熱伝導性接着剤層11の表面に感温塗料とポリスチレン共重合体の混合層8を形成して物理量可視化計測用テープとするため、伝熱面の伝熱特性を損なうことなく、また、ポリスチレン共重合体と計測対象面との接合性を高めることが可能な物理量可視化計測用テープとすることができる。
【0035】
熱伝導性接着剤層11として使用する熱伝導性接着剤としては、シリコン系の熱伝導性接着剤や、銀やアルミなどの金属をフィラーとして含有する熱伝導性接着剤などを用いてもよい。また、熱伝導性接着剤11は、感温塗料や感圧塗料の発光強度を大きくする白色を有するものが望ましい。
(実施例5)
図5は本実施例による物理量可視化計測用テープの断面図である。2は金属基体、8は感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層、3は防水層、4は硬化層、11は熱伝導性接着剤層、12は剥離可能な保護シートを表している。保護シート12を剥がし、テープを被測定対象物に貼り付け、所定の励起光をテープに照射し、感温塗料が発光する蛍光またはリン光を測定する。
(発明の効果の検証結果)
図6に本発明の効果について検証するために行った試験の試験装置の概略図を示す。この試験では、液中における温度分布計測の可否を評価するため、測定対象物13として、(a)金属基体に、ポリスチレン共重合体を添加した感温塗料を塗布したもの(非特許文献1に記載の方法)、(b)実施例1に示す構造を有する物理量可視化計測用テープの2種類を用意し、それらを測定対象物13の表面に貼り付け、ビーカー14の底面に設置し、蒸留水15を注いだ。そして、塗料励起用光源16から励起光17を測定対象物13上の計測用テープに照射し、計測テープの発光強度をCCDカメラ18で記録し、その発光強度を評価した。
【0036】
実験の結果、(a)は数分も経たないうちに金属基体とポリスチレンを添加した感温塗料が分離した。一方、(b)は蒸留水15の注入から3時間を経過しても目視上で大きな変化は見られなかった。
【0037】
図7に、(b)に関し、蒸留水注入からの経過時間と感温塗料の発光強度の変化をグラフ
化したものを示す。図7の縦軸は蒸留水注入から1時間後、2時間後、3時間後の発光強度を、蒸留水注入直後の発光強度で無次元化したものを表している。また、横軸は蒸留水注入時からの経過時間を表している。図7に示すように、(b)は蒸留水注入から3時間経過後においても、その発光強度に大きな変化が無い。つまり、(b)には耐水性があり、(b)は液中での温度計測を可能にすると言える。以上より、本発明は従来技術に比べて優れており、物理量可視化計測用テープとして有用であることが分かる。
【0038】
本発明の物理量計測テープによれば、(1)多湿環境下又は水中での計測に際し、色素が液中に溶解してしまうのを防止することができる。また(2)防水層及び硬化層を形成した場合には、曲率を有する部位に貼り付ける場合、塗料が剥離するのを防止することができる。(3)感温塗料や感圧塗料にポリスチレン共重合体等を添加した場合、塗料の発光強度が低下するが、白色塗料を粘着剤層と塗料層の間に設けることにより、発光光を効率よく検出することができる。
【0039】
また、本発明の物理量可視化計測用テープは、テープの塗料塗布面を、ポリスチレン共重合体および合成樹脂によりコーティングした構造となっているため、空気中、液中を問わず計測が可能となる上、曲率を有する部位に貼り付けた場合においても塗料がテープから剥離することなく計測を行うことができる。また、金属基体を用いないで、塗料層又は塗料とポリマーとの混合層の片面に防水層又は防水層と硬化層を形成し、その反対面に粘着剤層を形成すれば、軽量で、曲面を持つ被測定物に容易に貼り付けることができる。
【符号の説明】
【0040】
1:感温塗料層または感圧塗料層
2:金属基体
3:防水層
4:硬化層
5:粘着剤層
6:計測対象物
7:白色粘着剤層
8:感温塗料とポリスチレン共重合体との混合層
9:感圧塗料層
10:酸素透過性の保護層
11:熱伝導性接着剤層
12:保護シート
13:測定対象物
14:ビーカー
15:蒸留水
16:塗料励起用光源
17:励起光
18:CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量可視化塗料を含有する層と、その表面に形成された防水層あるいは更にその上に形成された硬化層と、その反対面或いはその反対面に接着された金属基体の表面に形成された粘着剤層を有するテープ。
【請求項2】
金属基体の一表面に物理量可視化塗料からなる層を設け、前記金属基体の、前記塗料層を設けた面と反対面に粘着剤層を設けた構造となっていることを特徴とする請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項3】
前記塗料層の表面に、防水層を設け、前記防水層の表面に硬化樹脂からなる硬化層を設けたことを特徴とする請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項4】
前記防水剤からなる層をポリスチレン共重合体とし、前記硬化層を、硬化合成樹脂としたことを特徴とする請求項3記載の、物理量可視化計測用テープ。
【請求項5】
前記感温塗料と防水剤を含む層の表面に硬化層を設け、前記塗料と防水剤から成る層を設けた面の反対面に粘着剤層を設けた構造を有する請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項6】
前記粘着剤層が熱伝導性粘着剤である請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項7】
前記粘着剤層が白色粘着剤層である請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項8】
前記硬化層はウレタン樹脂から成る請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。
【請求項9】
前記粘着剤層の表面に形成された剥離可能な保護シートを有する請求項1記載の物理量可視化計測用テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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