物質供給装置
【課題】微細針を通して薬剤等の物質を生体に供給する物質供給装置において、物質の追加供給、異なる種類の物質の連続供給を容易にする。
【解決手段】薬液室32内に薬液が封入されたプラグ14を容器本体12から着脱可能にする。プラグは、移動可能に容器本体に嵌り、プラグを押し込むことで、薬液をプラグ内に封止している封止膜30を破膜突起40に当接させて、封止膜を破る。これにより薬液が薬液室より流れ出し、微細針36の貫通孔38を通って経皮的に生体に供給される。薬液の追加、交換が必要な場合は、プラグ14を取り外し、新しいプラグ14に交換する。
【解決手段】薬液室32内に薬液が封入されたプラグ14を容器本体12から着脱可能にする。プラグは、移動可能に容器本体に嵌り、プラグを押し込むことで、薬液をプラグ内に封止している封止膜30を破膜突起40に当接させて、封止膜を破る。これにより薬液が薬液室より流れ出し、微細針36の貫通孔38を通って経皮的に生体に供給される。薬液の追加、交換が必要な場合は、プラグ14を取り外し、新しいプラグ14に交換する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚に装着し、経皮的に薬剤等の物質を供給する物質供給装置であって、微細な針を皮膚に刺して物質を供給する物質供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮性の物質供給方法として、マイクロマシン製造技術を応用して作製される微細針アレイがある(例えば下記非特許文献1参照)。この物質供給装置は、多くの場合、半導体または金属を材料に用いて作製される。針先端を球とすると、その直径は数μm以下、針の長さは10〜100μm程度を最短長として自由に設計可能である。皮膚の角質層と表皮層には神経組織が存在しないので、このような微細針を表皮層に刺しても痛みは感じない。また、皮膚組織の硬化も軽減される。
【0003】
また、生体適合な材料を用いた微細針が考案されている。下記特許文献1においては、天然の糖を材料とする微細針による物質供給装置が提案されている。この手法では、薬剤等の供給すべき物質と糖の混合物を材料として微細針が作製される。針を皮膚に刺し入れ、針部だけを折損して皮膚に残留させる。あるいは、針表面に供給すべき物質を塗布し、針を皮膚から引き抜く際に、この物質を皮膚に供給する。天然糖は人体に安全であり、また水溶性であるために廃棄も容易である。しかし、糖は粘性が高く流動性に乏しいため、針形状に成形したり、針アレイの形成は難しい。また、糖への薬剤等の供給物質混入時に糖の流動性を確保するためには、糖材料を100℃程度にまで加熱しなければならず、熱によって供給物質が変性しやすい。さらに、糖と化学反応して機能を失う供給物質は混入する意味がなく、利用可能な供給物質は限定される。また、天然糖を材料とする微細針において、微細針内部に供給物質の溶液を通すための中空孔を設けても、天然糖は水溶性であるため、その中空孔に溶液を通すと、溶液で微細針自体が溶解してしまい、中空孔は用を為さない。
【0004】
また、下記特許文献2には、針の材料が皮膚内で分解する材料であることが記載されている。さらに、下記特許文献3には、ハウジング内に液体の入った袋を収容し、ハウジングの底壁には突起が設けられている。ハウジングの可撓性のトップカバー部材を押すことにより、袋を底壁の突起に押し当てて袋が破られる。ハウジング内に液体が放出され、底壁に設けられた微細針より、液体が皮膚に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2005/0065463号明細書
【特許文献3】特表2004−503341号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Devin V.Mcllister,Mark G Allen Mark R.Prausnitz、Microfabricated Microneedkes for Gene and Drug Delivery、“Annual Review of Biomedical Engineering”、アメリカ合衆国、Annual Reviews,A Nonprofit Scientific Publisher、2000年,vol.2,pp.289-313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3に記載されるように、体表面に装置を貼付し、必要な物質を体内に供給する装置において、比較的長時間にわたって継続的に物質を供給したい、また異なる種類の物質を続けて供給したい等の要望がある。
【0008】
本発明は、比較的長時間にわたって継続的に物質を供給するために、供給物質を追加して供給でき、また使い方によっては、異なる種類の物質を続けて供給することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る物質供給装置は、皮膚に刺した微細な針を通して物質を生体に供給する物質供給装置であって、内部に収容空間が規定され、一端に開口が、他端に底が形成された円筒形状の容器本体と、前記収容空間と外部を繋ぐ通路を有し、容器本体の底に外側に向けて形成された微細針と、容器本体に着脱可能であり、容器本体に対し容器本体の円筒軸方向に移動可能に前記開口に嵌って、前記収容空間を封止するプラグと、を有する。前記プラグの内部には、前記物質を含んだ溶液が封入された溶液室が設けられ、溶液室の容器本体の底に対向する面には膜が張られており、前記底面の内側面にはプラグが容器本体の底に向けて移動したときに、前記プラグに張られた膜に当接し、これを破る破膜突起が設けられ、容器本体の円筒内側面と、この円筒内側面に対向するプラグの外側面には、前記膜が破膜突起から離れた位置となるようプラグを保持可能な係合構造が設けられている。
【0010】
また、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる溝と、プラグの外側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる畝と、を有するものとでき、前記溝と前記畝が係合することでプラグが前記の位置に保持される。
【0011】
また、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられた雌ねじと、プラグ外側に設けられ、前記雌ねじにねじ結合する雄ねじと、を有するものとすることができる。
【0012】
また、前記容器本体と前記微細針の材質は生体適合材料とすることができる。
【0013】
また、前記容器本体と前記微細針の材質は、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物とすることができる。
【0014】
また、前記ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000の範囲とでき、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合比はポリエチレングリコールの重量濃度が10〜50%となるようにできる。
【0015】
また、前記溶液室に張られた膜は、延伸フィルムとすることができる。
【0016】
また、前記溶液室に張られた膜は、弾性を有する材料で形成することができ、張力がかかった状態で張られて破膜突起により破られたときに縮むようにできる。
【0017】
また、前記微細針の通路の、外部に対する開口を生体内で溶ける材料により封止することができる。
【発明の効果】
【0018】
容器本体に対し、供給すべき物質の溶液が封入されるプラグを着脱することで、供給物質を追加しながら比較的長時間にわたって継続的に当該供給物質を供給することが可能となり、また異なる物質の連続供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】薬剤供給装置10の概略構成を示す断面図である。
【図2】容器本体12とプラグ14の係合部分の構造の詳細を示す図である。
【図3】薬剤供給装置10の使用状態を示す断面図である。
【図4】破膜突起50の一例を示す断面図である。
【図5】図4の破膜突起50を示す斜視図である。
【図6】さらに別の破膜突起52を示す斜視図である。
【図7】薬剤供給装置60の概略構成を示す断面図である。
【図8】破袋突起を示す斜視図である。
【図9】微細針の詳細な構成を示す断面図である。
【図10】微細針の先端に被膜を設けた状態を示す図である。
【図11】容器本体の内面の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。以下においては、供給する物質として薬剤、また薬剤の溶液を薬液として説明する。図1には、薬剤を経皮的に供給する薬剤供給装置10の断面図が示されている。薬剤供給装置10は、別体として形成された容器本体12とプラグ14を含む。容器本体12は、内側面が円筒形状の本体側壁16を有し、この本体側壁の一端は開口しており、他端には底板18が設けられている。本体側壁16の長さは、直径に対して短くなっており、容器本体12の形状は皿状または小鉢状にも見える。本体側壁16と底板18に囲まれ、一方が開口した空間が、プラグ14の一部を収容する収容空間20となる。本体側壁16の外周であって、底板18を延長した位置には、外周の全周に亘って、または一部にフランジ22が設けられている。フランジ22には、貼着用シート24が接着等の手法により固定されている。貼着用シート24のフランジより更に外側に延びる部分が、皮膚の表面に貼着され、薬剤供給装置10が固定される。
【0021】
プラグ14は、本体側壁16の内側面に外側面が対向する円筒形状のプラグ側壁26と、プラグ側壁26の円筒の一端を覆う上板28を有する。プラグ側壁26の上板28が設けられた端の反対側は開口している。この開口部分に封止膜30が張られて、プラグ側壁26、上板28及び封止膜30で囲まれた、密封された薬液室32が形成される。薬液室32内に薬液が収容される。プラグ側壁26の外周には、全周または周上の一部にフランジ34が設けられている。フランジ22は、プラグ側壁26の上板28が設けられた端に設けることが好ましい。
【0022】
プラグ14は、本体側壁16の内側面にプラグ側壁26をはめ込むようにして、結合される。結合された容器本体12とプラグ14の内側には、本体側壁16、プラグ側壁26底板18および上板28により囲まれた空間が形成され、この空間は封止膜30により、二分されている。
【0023】
容器本体の底板18の外側の面には微細針36が配置されている。微細針36は、複数設けることができ、1列に配列されても、また二次元的なアレイ状の配置とされてもよい。この実施形態の微細針36は略円錐形であるが、角錐形状であってもよい。微細針36には、その軸線に沿って、収容空間20と外部を繋ぐ貫通孔38が設けられている。貫通孔38は微細針36の先端に開口しているが、これに限らず側面に開口してもよい。底板18には、更に、その内側の面に破膜突起40が設けられている。破膜突起40は、プラグ14が押し込まれ、封止膜30がこの突起に当接したとき、封止膜30を破る。これにより、薬液が収容空間20内に流出する。破膜突起40は、この実施形態では円錐形状であるが、封止膜30が当接したとき、これを破ることができる形状であれば、角錐、刃形状などどのような形状であっても良い。また、破膜突起40は、1個であっても、また複数であってもよく、複数の場合、一列に配列されても良く、また二次元アレイ状に配列されてもよい。
【0024】
図2は、容器本体12とプラグ14の係合構造の詳細を示す図である。プラグ側壁26の開口側の端部の外周面には、全周に亘って周方向に延びる係合畝42が設けられている。一方、本体側壁16の開口側の端部の内周面には、全周に亘って周方向に延びる係合溝44が設けられている。容器本体12とプラグ14を結合するとき、係合畝42と係合溝44を係合させて、プラグ14が容器本体12に保持される。図1には、この位置にある、容器本体12とプラグ14が示されている。この位置において、封止膜30は、破膜突起40から離れて位置している。本体側壁16の内周面の底板18に隣接する部分には、周方向全周に亘って、つぶし棚部46が設けられている。つぶし棚部46は、本体側壁16の内周面の他の部分より内径が小さく、プラグ14が押し込まれて、係合畝42がここに乗り上げたときに、係合畝42を強く押し、係合畝42とつぶし棚部46が密着する。これにより、薬液が本体側壁16とプラグ側壁26の隙間から漏れることが抑制される。
【0025】
容器本体12と微細針36は、樹脂により一体に成形されてよく、好適には生体適合材料とする。生体適合材料とは、生体内に残留しても溶解、または分解する材料をいう。より具体的には、例えば、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物からなる材料などが挙げられる。ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000の範囲で選択することができる。また、ポリエチレングリコールの混合比は重量濃度10〜50%の範囲で選択することができる。このような材料を用いて微細針36を形成することにより、針36が折損して皮下に残留した際の安全性が高まる。ポリエチレングリコールは、材料の流動性を高めるために混合されるもので、製造時の加工性が向上し、製造歩留まりが向上する。さらに、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールは、一般的な可燃ゴミと同程度の温度で焼却可能であり、使用後の廃棄が容易となる。微細針36の材料としては、他の生体適合材料、例えばヒアルロン酸などを用いることができ、さらにはステンレス鋼やチタン等の金属、シリコン等の無機材料を用いることもできる。
【0026】
プラグ14は、樹脂により作製されてよい。皮膚内に残留するものではないので、特に生体適合材料である必要はない。後述するように、上板28を押して変形させ、薬液を押し出すために、変形性を有する材料にて形成される。
【0027】
封止膜30は、延伸フィルムで作製されてよい。延伸フィルムは、樹脂フィルムを一方向に延ばして作製した薄膜材料であり、突起等に押圧されて応力が集中すると、そこから破れやすい特性がある。また、封止膜30は、薄いゴムなどの弾性を有する薄膜材料で作製されてよい。プラグ側壁26の開口に張られているときには、薄膜に張力がかかった状態とされ、突起により破られたときに縮むことによって、微細針の貫通孔38が塞がれることを防止する。
【0028】
図3は、薬剤供給装置10の使用時の状態を示す断面図である。薬剤供給装置10は、貼着用シート24により人体などの生体48の皮膚表面に貼着される。図1に示す封止膜30が破膜突起40から離れた位置にあるプラグ14を、図3に示す破膜突起40が封止膜30に当接してこれを破る位置まで押し込む。封止膜30が破られると、薬液室32と収容空間20が連通し、薬液室32中の薬液が収容空間内に流出する。さらに、薬液は、収容空間20から貫通孔38を通って経皮的に生体48内に供給される。このとき、プラグの上板28を、図3中、上が凹となるように押し込み、薬液の生体内への供給を補助することもできる。また、プラグ側壁に設けられた係合畝42がつぶし棚部46に乗り上げて、密着することにより、収容空間20内の薬液が、本体側壁16とプラグ側壁26の隙間から漏出することが防止されている。
【0029】
薬液がなくなり、追加して新たな薬液を供給する場合には、プラグ14のフランジ34を持って、プラグ14を容器本体12から抜き取り、新たなプラグを容器本体に装着し、上記と同様にして、追加の薬液を供給する。このように、容器本体12は生体に貼着したまま、プラグ14のみの交換ができる。プラグ14が容器本体12から着脱可能であることにより、プラグ14を交換して追加して薬液を供給することができ、簡易に薬液供給量を増加させることができる。また、異なる種類の薬液を封入したプラグ14を付け替えることで、異なる種類の薬液を続けて供給できる。
【0030】
図4、5には、破膜突起の別の実施形態が示される。破膜突起50は、容器本体の底板18の周辺近傍に配置されており、図示するように、外側に向けて高さが高くなる楔形状を有している。破膜突起50の外側の端は、プラグ14が押し込まれたときに、プラグ側壁26内側面が擦れて接する位置に配置される。図4に一点鎖線で示されるように、プラグ側壁26は、破膜突起50と本体側壁16の間に入り込み、封止膜30は、プラグ側壁26と破膜突起50により剪断されて破られる。また、破膜突起は、図6に示す破膜突起52のように、本体側壁16に対向する部分のエッジをU字形として、その両端に鋭角部分を形成するようにしてもよい。
【0031】
図7には、他の実施形態の薬剤供給装置60の断面図が示されている。図1等に示した薬剤供給装置10と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。この実施形態において特徴的であるのは、容器本体12とプラグ14の結合がねじ結合によるものである点である。容器本体の本体側壁16には雌ねじ62が形成され、プラグ側壁26には雄ねじ64が形成されている。これらの雌ねじ62、雄ねじ64がねじ結合し、プラグ14を、容器本体12に対してある位置に保持することができる。薬剤供給装置60の使用前においては、封止膜30が破膜突起66に当接しない位置にプラグ14を保持するようにする。使用時には、プラグ14をねじ込むようにして、容器本体12の奥へと送り込み、封止膜30を破膜突起66により破る。プラグ側壁26の、図7中の上側の端部の外周に設けられたフランジ68は、プラグ14をねじ込む際、これを回しやすいような形状となっている。例えば、図7の上側から見た状態で、六角形、長方形、等の多角形とすることができる。また、概形は円として、その周面にローレット加工を施すことにより、滑り止めの凹凸を設けるようにすることもできる。プラグ側壁26の下側の端が当接する、容器本体の底板18の部分には、周方向に沿って全周に亘って延びるシール用畝70が設けられている。また、プラグ側壁26の下側端が当接する位置の内側に隣接して、底板18の表面に破膜突起66が設けられている。この実施形態の破膜突起66の形状は、斜三角錐となっており、底面の三角形の一つの頂点と三角錐の頭頂点を結ぶ線分(稜線)は、底板18の表面とほぼ垂直になっている。この垂直な稜線は、プラグ14をねじ込むときに回転してくるプラグに対し先頭側に位置する。なお、破膜に係る構造は、図1に示した錐体の破膜突起40や、図4、5、6に示した楔形状の破袋突起50,52としてもよい。
【0032】
使用時にプラグ14を回転させると、プラグ14はねじ結合により容器本体12の奥へと送られ、封止膜30が破膜突起66に当接する。さらに、プラグ14を回転させると、破膜突起66と封止膜30が相対的に移動して、破膜突起66の頭頂点で封止膜30が引き裂かれる。プラグ14が更に送り込まれると、プラグ側壁26の下端、またはここに張られ一体となっている封止膜30がシール用畝70に当接し、これを変形させる。これにより、容器本体12とプラグ14の封止が達成され、薬液室32から流れ出す薬液の漏出が防止される。薬液室32から収容空間20に流出した薬液は、微細針36の貫通孔38を通って経皮的に生体に供給される。プラグ14を取り外す際には、プラグをねじに沿って逆に回転させる。新たに薬剤を供給する場合には、使用済みのプラグ14を取り外した後、新たなプラグ14を容器本体12に装着し、前述したように再びプラグをねじ込んで薬剤を供給する。
【0033】
図9は、微細針36の詳細な形状を示す断面図である。図9は、図1および図7の向きとは上下が反対となっている。図9(A)が正面図、図9(B)が側面図である。微細針36は、底面が直径(b)250〜350μmの円である略円錐形状であり、先端は、斜めにカットされている。微細針の根元、容器との接続部分は、曲面により滑らかに接続されている。先端の直径(a)は10〜60μm、針の長さ(h)は100〜1000μmである。貫通孔38の直径(d)は50μm以下である。これらの寸法は、対象となる生体に合わせて適宜変更する。また、針の先端が達する生体表面からの深さに応じて変更する。例えば、人体を対象とし、表皮層直下の真皮の部分に薬剤を供給する場合には、針長さ500μm、先端径50μm、通路孔直径50μm程度とすることが好ましい。また、微細針36は、例えば、1cm四方に、1mmピッチで2次元アレイ状に配列することができる。以上の微細針36に係る寸法により、無痛または軽微な痛感のもとでの針の刺入が可能となる。
【0034】
図10は、微細針36の先端が汚染されることをより確実に防止するために、針先端部分に加水分解性の物質の被覆層72を設けた例を示す図である。図10においても、図1、7に対して上下が反対に示されている。被膜層72により微細針の貫通孔38の外部の開口が塞がれる。加水分解性の物質としては、例えば分子量1000〜10000のポリエチレングリコールとすることができる。この被覆層72は、前述のいずれの薬剤供給装置においても適用することができる。
【0035】
図11は、前述の容器本体12に適用できる微細針36周囲の構造例を示す拡大図である。図11においても、図1、7と上下が反対に示されている。(A)が断面図であり、(B)が容器の内側から見た状態を封止膜30を除いた状態で示した図である。容器の内面には、貫通孔38の容器内面の開口74を通過するように、スリット76が設けられている。図示されるスリット76は、2本が貫通孔の開口74において直交しているが、この配置に限らない。スリット76は、1本でもよく、3本以上であってもよい。スリット76は、突起40の根元また根元近傍まで延びることが好ましい。スリット76を設けることにより、突起40によって破られた封止膜30が貫通孔38の設けられた位置に密着しても貫通孔が塞がれず、スリットを介して薬液が供給される。
【0036】
供給する物質としては、例えばインスリン、インフルエンザワクチン、アスコルビン酸、サリチル酸メチル鎮痛剤、モルヒネ、C型肝炎治療のためのインターフェロン、美容用の美白、しみ抜き剤、美容液等を対象とすることができる。
【符号の説明】
【0037】
10,60 薬剤供給装置、12 容器本体、14 プラグ、16 本体側壁、18 底板、20 収容空間、26 プラグ側壁、28 上板、30 封止膜、32 薬液室、36 微細針、38 貫通孔、40,50,52,66 破膜突起、42 係合畝、44 係合溝、62 雌ねじ、64 雄ねじ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚に装着し、経皮的に薬剤等の物質を供給する物質供給装置であって、微細な針を皮膚に刺して物質を供給する物質供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮性の物質供給方法として、マイクロマシン製造技術を応用して作製される微細針アレイがある(例えば下記非特許文献1参照)。この物質供給装置は、多くの場合、半導体または金属を材料に用いて作製される。針先端を球とすると、その直径は数μm以下、針の長さは10〜100μm程度を最短長として自由に設計可能である。皮膚の角質層と表皮層には神経組織が存在しないので、このような微細針を表皮層に刺しても痛みは感じない。また、皮膚組織の硬化も軽減される。
【0003】
また、生体適合な材料を用いた微細針が考案されている。下記特許文献1においては、天然の糖を材料とする微細針による物質供給装置が提案されている。この手法では、薬剤等の供給すべき物質と糖の混合物を材料として微細針が作製される。針を皮膚に刺し入れ、針部だけを折損して皮膚に残留させる。あるいは、針表面に供給すべき物質を塗布し、針を皮膚から引き抜く際に、この物質を皮膚に供給する。天然糖は人体に安全であり、また水溶性であるために廃棄も容易である。しかし、糖は粘性が高く流動性に乏しいため、針形状に成形したり、針アレイの形成は難しい。また、糖への薬剤等の供給物質混入時に糖の流動性を確保するためには、糖材料を100℃程度にまで加熱しなければならず、熱によって供給物質が変性しやすい。さらに、糖と化学反応して機能を失う供給物質は混入する意味がなく、利用可能な供給物質は限定される。また、天然糖を材料とする微細針において、微細針内部に供給物質の溶液を通すための中空孔を設けても、天然糖は水溶性であるため、その中空孔に溶液を通すと、溶液で微細針自体が溶解してしまい、中空孔は用を為さない。
【0004】
また、下記特許文献2には、針の材料が皮膚内で分解する材料であることが記載されている。さらに、下記特許文献3には、ハウジング内に液体の入った袋を収容し、ハウジングの底壁には突起が設けられている。ハウジングの可撓性のトップカバー部材を押すことにより、袋を底壁の突起に押し当てて袋が破られる。ハウジング内に液体が放出され、底壁に設けられた微細針より、液体が皮膚に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2005/0065463号明細書
【特許文献3】特表2004−503341号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Devin V.Mcllister,Mark G Allen Mark R.Prausnitz、Microfabricated Microneedkes for Gene and Drug Delivery、“Annual Review of Biomedical Engineering”、アメリカ合衆国、Annual Reviews,A Nonprofit Scientific Publisher、2000年,vol.2,pp.289-313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3に記載されるように、体表面に装置を貼付し、必要な物質を体内に供給する装置において、比較的長時間にわたって継続的に物質を供給したい、また異なる種類の物質を続けて供給したい等の要望がある。
【0008】
本発明は、比較的長時間にわたって継続的に物質を供給するために、供給物質を追加して供給でき、また使い方によっては、異なる種類の物質を続けて供給することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る物質供給装置は、皮膚に刺した微細な針を通して物質を生体に供給する物質供給装置であって、内部に収容空間が規定され、一端に開口が、他端に底が形成された円筒形状の容器本体と、前記収容空間と外部を繋ぐ通路を有し、容器本体の底に外側に向けて形成された微細針と、容器本体に着脱可能であり、容器本体に対し容器本体の円筒軸方向に移動可能に前記開口に嵌って、前記収容空間を封止するプラグと、を有する。前記プラグの内部には、前記物質を含んだ溶液が封入された溶液室が設けられ、溶液室の容器本体の底に対向する面には膜が張られており、前記底面の内側面にはプラグが容器本体の底に向けて移動したときに、前記プラグに張られた膜に当接し、これを破る破膜突起が設けられ、容器本体の円筒内側面と、この円筒内側面に対向するプラグの外側面には、前記膜が破膜突起から離れた位置となるようプラグを保持可能な係合構造が設けられている。
【0010】
また、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる溝と、プラグの外側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる畝と、を有するものとでき、前記溝と前記畝が係合することでプラグが前記の位置に保持される。
【0011】
また、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられた雌ねじと、プラグ外側に設けられ、前記雌ねじにねじ結合する雄ねじと、を有するものとすることができる。
【0012】
また、前記容器本体と前記微細針の材質は生体適合材料とすることができる。
【0013】
また、前記容器本体と前記微細針の材質は、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物とすることができる。
【0014】
また、前記ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000の範囲とでき、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合比はポリエチレングリコールの重量濃度が10〜50%となるようにできる。
【0015】
また、前記溶液室に張られた膜は、延伸フィルムとすることができる。
【0016】
また、前記溶液室に張られた膜は、弾性を有する材料で形成することができ、張力がかかった状態で張られて破膜突起により破られたときに縮むようにできる。
【0017】
また、前記微細針の通路の、外部に対する開口を生体内で溶ける材料により封止することができる。
【発明の効果】
【0018】
容器本体に対し、供給すべき物質の溶液が封入されるプラグを着脱することで、供給物質を追加しながら比較的長時間にわたって継続的に当該供給物質を供給することが可能となり、また異なる物質の連続供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】薬剤供給装置10の概略構成を示す断面図である。
【図2】容器本体12とプラグ14の係合部分の構造の詳細を示す図である。
【図3】薬剤供給装置10の使用状態を示す断面図である。
【図4】破膜突起50の一例を示す断面図である。
【図5】図4の破膜突起50を示す斜視図である。
【図6】さらに別の破膜突起52を示す斜視図である。
【図7】薬剤供給装置60の概略構成を示す断面図である。
【図8】破袋突起を示す斜視図である。
【図9】微細針の詳細な構成を示す断面図である。
【図10】微細針の先端に被膜を設けた状態を示す図である。
【図11】容器本体の内面の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。以下においては、供給する物質として薬剤、また薬剤の溶液を薬液として説明する。図1には、薬剤を経皮的に供給する薬剤供給装置10の断面図が示されている。薬剤供給装置10は、別体として形成された容器本体12とプラグ14を含む。容器本体12は、内側面が円筒形状の本体側壁16を有し、この本体側壁の一端は開口しており、他端には底板18が設けられている。本体側壁16の長さは、直径に対して短くなっており、容器本体12の形状は皿状または小鉢状にも見える。本体側壁16と底板18に囲まれ、一方が開口した空間が、プラグ14の一部を収容する収容空間20となる。本体側壁16の外周であって、底板18を延長した位置には、外周の全周に亘って、または一部にフランジ22が設けられている。フランジ22には、貼着用シート24が接着等の手法により固定されている。貼着用シート24のフランジより更に外側に延びる部分が、皮膚の表面に貼着され、薬剤供給装置10が固定される。
【0021】
プラグ14は、本体側壁16の内側面に外側面が対向する円筒形状のプラグ側壁26と、プラグ側壁26の円筒の一端を覆う上板28を有する。プラグ側壁26の上板28が設けられた端の反対側は開口している。この開口部分に封止膜30が張られて、プラグ側壁26、上板28及び封止膜30で囲まれた、密封された薬液室32が形成される。薬液室32内に薬液が収容される。プラグ側壁26の外周には、全周または周上の一部にフランジ34が設けられている。フランジ22は、プラグ側壁26の上板28が設けられた端に設けることが好ましい。
【0022】
プラグ14は、本体側壁16の内側面にプラグ側壁26をはめ込むようにして、結合される。結合された容器本体12とプラグ14の内側には、本体側壁16、プラグ側壁26底板18および上板28により囲まれた空間が形成され、この空間は封止膜30により、二分されている。
【0023】
容器本体の底板18の外側の面には微細針36が配置されている。微細針36は、複数設けることができ、1列に配列されても、また二次元的なアレイ状の配置とされてもよい。この実施形態の微細針36は略円錐形であるが、角錐形状であってもよい。微細針36には、その軸線に沿って、収容空間20と外部を繋ぐ貫通孔38が設けられている。貫通孔38は微細針36の先端に開口しているが、これに限らず側面に開口してもよい。底板18には、更に、その内側の面に破膜突起40が設けられている。破膜突起40は、プラグ14が押し込まれ、封止膜30がこの突起に当接したとき、封止膜30を破る。これにより、薬液が収容空間20内に流出する。破膜突起40は、この実施形態では円錐形状であるが、封止膜30が当接したとき、これを破ることができる形状であれば、角錐、刃形状などどのような形状であっても良い。また、破膜突起40は、1個であっても、また複数であってもよく、複数の場合、一列に配列されても良く、また二次元アレイ状に配列されてもよい。
【0024】
図2は、容器本体12とプラグ14の係合構造の詳細を示す図である。プラグ側壁26の開口側の端部の外周面には、全周に亘って周方向に延びる係合畝42が設けられている。一方、本体側壁16の開口側の端部の内周面には、全周に亘って周方向に延びる係合溝44が設けられている。容器本体12とプラグ14を結合するとき、係合畝42と係合溝44を係合させて、プラグ14が容器本体12に保持される。図1には、この位置にある、容器本体12とプラグ14が示されている。この位置において、封止膜30は、破膜突起40から離れて位置している。本体側壁16の内周面の底板18に隣接する部分には、周方向全周に亘って、つぶし棚部46が設けられている。つぶし棚部46は、本体側壁16の内周面の他の部分より内径が小さく、プラグ14が押し込まれて、係合畝42がここに乗り上げたときに、係合畝42を強く押し、係合畝42とつぶし棚部46が密着する。これにより、薬液が本体側壁16とプラグ側壁26の隙間から漏れることが抑制される。
【0025】
容器本体12と微細針36は、樹脂により一体に成形されてよく、好適には生体適合材料とする。生体適合材料とは、生体内に残留しても溶解、または分解する材料をいう。より具体的には、例えば、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物からなる材料などが挙げられる。ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000の範囲で選択することができる。また、ポリエチレングリコールの混合比は重量濃度10〜50%の範囲で選択することができる。このような材料を用いて微細針36を形成することにより、針36が折損して皮下に残留した際の安全性が高まる。ポリエチレングリコールは、材料の流動性を高めるために混合されるもので、製造時の加工性が向上し、製造歩留まりが向上する。さらに、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールは、一般的な可燃ゴミと同程度の温度で焼却可能であり、使用後の廃棄が容易となる。微細針36の材料としては、他の生体適合材料、例えばヒアルロン酸などを用いることができ、さらにはステンレス鋼やチタン等の金属、シリコン等の無機材料を用いることもできる。
【0026】
プラグ14は、樹脂により作製されてよい。皮膚内に残留するものではないので、特に生体適合材料である必要はない。後述するように、上板28を押して変形させ、薬液を押し出すために、変形性を有する材料にて形成される。
【0027】
封止膜30は、延伸フィルムで作製されてよい。延伸フィルムは、樹脂フィルムを一方向に延ばして作製した薄膜材料であり、突起等に押圧されて応力が集中すると、そこから破れやすい特性がある。また、封止膜30は、薄いゴムなどの弾性を有する薄膜材料で作製されてよい。プラグ側壁26の開口に張られているときには、薄膜に張力がかかった状態とされ、突起により破られたときに縮むことによって、微細針の貫通孔38が塞がれることを防止する。
【0028】
図3は、薬剤供給装置10の使用時の状態を示す断面図である。薬剤供給装置10は、貼着用シート24により人体などの生体48の皮膚表面に貼着される。図1に示す封止膜30が破膜突起40から離れた位置にあるプラグ14を、図3に示す破膜突起40が封止膜30に当接してこれを破る位置まで押し込む。封止膜30が破られると、薬液室32と収容空間20が連通し、薬液室32中の薬液が収容空間内に流出する。さらに、薬液は、収容空間20から貫通孔38を通って経皮的に生体48内に供給される。このとき、プラグの上板28を、図3中、上が凹となるように押し込み、薬液の生体内への供給を補助することもできる。また、プラグ側壁に設けられた係合畝42がつぶし棚部46に乗り上げて、密着することにより、収容空間20内の薬液が、本体側壁16とプラグ側壁26の隙間から漏出することが防止されている。
【0029】
薬液がなくなり、追加して新たな薬液を供給する場合には、プラグ14のフランジ34を持って、プラグ14を容器本体12から抜き取り、新たなプラグを容器本体に装着し、上記と同様にして、追加の薬液を供給する。このように、容器本体12は生体に貼着したまま、プラグ14のみの交換ができる。プラグ14が容器本体12から着脱可能であることにより、プラグ14を交換して追加して薬液を供給することができ、簡易に薬液供給量を増加させることができる。また、異なる種類の薬液を封入したプラグ14を付け替えることで、異なる種類の薬液を続けて供給できる。
【0030】
図4、5には、破膜突起の別の実施形態が示される。破膜突起50は、容器本体の底板18の周辺近傍に配置されており、図示するように、外側に向けて高さが高くなる楔形状を有している。破膜突起50の外側の端は、プラグ14が押し込まれたときに、プラグ側壁26内側面が擦れて接する位置に配置される。図4に一点鎖線で示されるように、プラグ側壁26は、破膜突起50と本体側壁16の間に入り込み、封止膜30は、プラグ側壁26と破膜突起50により剪断されて破られる。また、破膜突起は、図6に示す破膜突起52のように、本体側壁16に対向する部分のエッジをU字形として、その両端に鋭角部分を形成するようにしてもよい。
【0031】
図7には、他の実施形態の薬剤供給装置60の断面図が示されている。図1等に示した薬剤供給装置10と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。この実施形態において特徴的であるのは、容器本体12とプラグ14の結合がねじ結合によるものである点である。容器本体の本体側壁16には雌ねじ62が形成され、プラグ側壁26には雄ねじ64が形成されている。これらの雌ねじ62、雄ねじ64がねじ結合し、プラグ14を、容器本体12に対してある位置に保持することができる。薬剤供給装置60の使用前においては、封止膜30が破膜突起66に当接しない位置にプラグ14を保持するようにする。使用時には、プラグ14をねじ込むようにして、容器本体12の奥へと送り込み、封止膜30を破膜突起66により破る。プラグ側壁26の、図7中の上側の端部の外周に設けられたフランジ68は、プラグ14をねじ込む際、これを回しやすいような形状となっている。例えば、図7の上側から見た状態で、六角形、長方形、等の多角形とすることができる。また、概形は円として、その周面にローレット加工を施すことにより、滑り止めの凹凸を設けるようにすることもできる。プラグ側壁26の下側の端が当接する、容器本体の底板18の部分には、周方向に沿って全周に亘って延びるシール用畝70が設けられている。また、プラグ側壁26の下側端が当接する位置の内側に隣接して、底板18の表面に破膜突起66が設けられている。この実施形態の破膜突起66の形状は、斜三角錐となっており、底面の三角形の一つの頂点と三角錐の頭頂点を結ぶ線分(稜線)は、底板18の表面とほぼ垂直になっている。この垂直な稜線は、プラグ14をねじ込むときに回転してくるプラグに対し先頭側に位置する。なお、破膜に係る構造は、図1に示した錐体の破膜突起40や、図4、5、6に示した楔形状の破袋突起50,52としてもよい。
【0032】
使用時にプラグ14を回転させると、プラグ14はねじ結合により容器本体12の奥へと送られ、封止膜30が破膜突起66に当接する。さらに、プラグ14を回転させると、破膜突起66と封止膜30が相対的に移動して、破膜突起66の頭頂点で封止膜30が引き裂かれる。プラグ14が更に送り込まれると、プラグ側壁26の下端、またはここに張られ一体となっている封止膜30がシール用畝70に当接し、これを変形させる。これにより、容器本体12とプラグ14の封止が達成され、薬液室32から流れ出す薬液の漏出が防止される。薬液室32から収容空間20に流出した薬液は、微細針36の貫通孔38を通って経皮的に生体に供給される。プラグ14を取り外す際には、プラグをねじに沿って逆に回転させる。新たに薬剤を供給する場合には、使用済みのプラグ14を取り外した後、新たなプラグ14を容器本体12に装着し、前述したように再びプラグをねじ込んで薬剤を供給する。
【0033】
図9は、微細針36の詳細な形状を示す断面図である。図9は、図1および図7の向きとは上下が反対となっている。図9(A)が正面図、図9(B)が側面図である。微細針36は、底面が直径(b)250〜350μmの円である略円錐形状であり、先端は、斜めにカットされている。微細針の根元、容器との接続部分は、曲面により滑らかに接続されている。先端の直径(a)は10〜60μm、針の長さ(h)は100〜1000μmである。貫通孔38の直径(d)は50μm以下である。これらの寸法は、対象となる生体に合わせて適宜変更する。また、針の先端が達する生体表面からの深さに応じて変更する。例えば、人体を対象とし、表皮層直下の真皮の部分に薬剤を供給する場合には、針長さ500μm、先端径50μm、通路孔直径50μm程度とすることが好ましい。また、微細針36は、例えば、1cm四方に、1mmピッチで2次元アレイ状に配列することができる。以上の微細針36に係る寸法により、無痛または軽微な痛感のもとでの針の刺入が可能となる。
【0034】
図10は、微細針36の先端が汚染されることをより確実に防止するために、針先端部分に加水分解性の物質の被覆層72を設けた例を示す図である。図10においても、図1、7に対して上下が反対に示されている。被膜層72により微細針の貫通孔38の外部の開口が塞がれる。加水分解性の物質としては、例えば分子量1000〜10000のポリエチレングリコールとすることができる。この被覆層72は、前述のいずれの薬剤供給装置においても適用することができる。
【0035】
図11は、前述の容器本体12に適用できる微細針36周囲の構造例を示す拡大図である。図11においても、図1、7と上下が反対に示されている。(A)が断面図であり、(B)が容器の内側から見た状態を封止膜30を除いた状態で示した図である。容器の内面には、貫通孔38の容器内面の開口74を通過するように、スリット76が設けられている。図示されるスリット76は、2本が貫通孔の開口74において直交しているが、この配置に限らない。スリット76は、1本でもよく、3本以上であってもよい。スリット76は、突起40の根元また根元近傍まで延びることが好ましい。スリット76を設けることにより、突起40によって破られた封止膜30が貫通孔38の設けられた位置に密着しても貫通孔が塞がれず、スリットを介して薬液が供給される。
【0036】
供給する物質としては、例えばインスリン、インフルエンザワクチン、アスコルビン酸、サリチル酸メチル鎮痛剤、モルヒネ、C型肝炎治療のためのインターフェロン、美容用の美白、しみ抜き剤、美容液等を対象とすることができる。
【符号の説明】
【0037】
10,60 薬剤供給装置、12 容器本体、14 プラグ、16 本体側壁、18 底板、20 収容空間、26 プラグ側壁、28 上板、30 封止膜、32 薬液室、36 微細針、38 貫通孔、40,50,52,66 破膜突起、42 係合畝、44 係合溝、62 雌ねじ、64 雄ねじ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に刺した微細な針を通して物質を生体に供給する物質供給装置であって、
内部に収容空間が規定され、一端に開口が、他端に底が形成された円筒形状の容器本体と、
前記収容空間と外部を繋ぐ通路を有し、容器本体の底に外側に向けて形成された微細針と、
容器本体に着脱可能であり、容器本体に対し容器本体の円筒軸方向に移動可能に前記開口に嵌って、前記収容空間を封止するプラグと、
を有し、
前記プラグの内部には、前記物質を含んだ溶液が封入された溶液室が設けられ、溶液室の容器本体の底に対向する面には膜が張られており、
前記底面の内側面にはプラグが容器本体の底に向けて移動したときに、前記プラグに張られた膜に当接し、これを破る破膜突起が設けられ、
容器本体の円筒内側面と、この円筒内側面に対向するプラグの外側面には、前記膜が破膜突起から離れた位置となるようプラグを保持可能な係合構造が設けられている、
物質供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物質供給装置であって、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる溝と、プラグの外側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる畝と、を有し、前記溝と前記畝が係合することでプラグが前記の位置に保持される、物質供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の物質供給装置であって、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられた雌ねじと、プラグ外側に設けられ、前記雌ねじにねじ結合する雄ねじと、を有する、物質供給装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記容器本体と前記微細針の材質は生体適合材料である、物質供給装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記容器本体と前記微細針の材質は、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物である、物質供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載の物質供給装置であって、ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000であり、ポリエチレングリコールの混合比は重量濃度で10〜50%である、物質供給装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記溶液室に張られた膜は、延伸フィルムである、物質供給装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記溶液室に張られた膜は、弾性を有する材料で形成され、張力がかかった状態で張られて破膜突起により破られたときに縮む、物質供給装置。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記微細針の通路の、外部に対する開口を生体内で溶ける材料により封止した、物質供給装置。
【請求項1】
皮膚に刺した微細な針を通して物質を生体に供給する物質供給装置であって、
内部に収容空間が規定され、一端に開口が、他端に底が形成された円筒形状の容器本体と、
前記収容空間と外部を繋ぐ通路を有し、容器本体の底に外側に向けて形成された微細針と、
容器本体に着脱可能であり、容器本体に対し容器本体の円筒軸方向に移動可能に前記開口に嵌って、前記収容空間を封止するプラグと、
を有し、
前記プラグの内部には、前記物質を含んだ溶液が封入された溶液室が設けられ、溶液室の容器本体の底に対向する面には膜が張られており、
前記底面の内側面にはプラグが容器本体の底に向けて移動したときに、前記プラグに張られた膜に当接し、これを破る破膜突起が設けられ、
容器本体の円筒内側面と、この円筒内側面に対向するプラグの外側面には、前記膜が破膜突起から離れた位置となるようプラグを保持可能な係合構造が設けられている、
物質供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物質供給装置であって、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる溝と、プラグの外側面に設けられ、全周に亘って周方向に延びる畝と、を有し、前記溝と前記畝が係合することでプラグが前記の位置に保持される、物質供給装置。
【請求項3】
請求項1に記載の物質供給装置であって、前記係合構造は、容器本体の円筒内側面に設けられた雌ねじと、プラグ外側に設けられ、前記雌ねじにねじ結合する雄ねじと、を有する、物質供給装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記容器本体と前記微細針の材質は生体適合材料である、物質供給装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記容器本体と前記微細針の材質は、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの混合物である、物質供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載の物質供給装置であって、ポリエチレングリコールの分子量は10,000〜35,000であり、ポリエチレングリコールの混合比は重量濃度で10〜50%である、物質供給装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記溶液室に張られた膜は、延伸フィルムである、物質供給装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記溶液室に張られた膜は、弾性を有する材料で形成され、張力がかかった状態で張られて破膜突起により破られたときに縮む、物質供給装置。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の物質供給装置であって、前記微細針の通路の、外部に対する開口を生体内で溶ける材料により封止した、物質供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−36491(P2011−36491A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187664(P2009−187664)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(390026413)深江化成株式会社 (12)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【出願人】(599102413)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(390026413)深江化成株式会社 (12)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【出願人】(599102413)
【Fターム(参考)】
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