物質及び器具
科学試料を入れるための器具1は少なくとも1つの試料ウエル2とオンボード緩衝物質3とを有し、オンボード緩衝物質3は少なくとも部分的に試料ウエル2を囲繞している。オンボード緩衝物質3はゲル状マトリックスのようなマトリックスの形態をとることができる。更に器具1は絶縁手段を有する。試料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質も記載され、該物質によって雰囲気緩衝及び熱緩衝が得られる。本発明は更に、シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレート用リッドを提供し、該リッドは試料をウエル内にリッドを通して導入するのを容易にしかつ該ウエルをシールするように形成される。リッドは可動部分52,53を有し、可動部分52,53を貫通して少なくとも1つのオリフィス54,57が形成され、両方のリッド部分52,53のオリフィス54,57を整合させることによりコンジットが形成されるようになっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的、化学的、物理的、生化学的及び/又はナノ技術的の試料やそれらの類似物のような試料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質及び器具に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての化学的、生物学的、生理学的及び物理的処理は、温度、pH及び化学組成のような環境要素に影響される。これら因子のいずれかに制御できない変化が生じると、問題の標本/試料に望ましくない物理的、化学的及び/又は生物学的影響を及ぼし、所定の化学的及び/又は製造方法に再現性の低下又は崩壊を招く場合がある。
【0003】
高スループットかつ多重の生物学的、化学的及び材料スクリーニング方法の出現によって、マルチウエルアッセイプレートの使用が、ほぼ全ての自動実験及び保存の用途で標準となっている。従来、細胞及び組織試料は、一般に96ウエル又は1536−、384−、48−又は24−ウエルのウエルフォーマットを有するプレートで培養される。しかしながら、これら実験処理の多くは、幾つかの異なる保存プラットホーム、処理プラットホーム、及びプレートシェーカー、プレートリーダー並びにその類似物のような実験プラットホームの間で輸送を必要とする多くの工程からなる。様々な位置間でのプレートの移動によって、該プレート及び、より重要なことに、プレートに保持される試料は、様々な環境及び/又は温度の変動を受ける。これらの変化は、試料に好ましくない影響を及ぼす場合がある。マルチウエルプレートにおける温度の変動は問題であることが知られており、標準的なマルチウエルプレートは、インキュベーターから一旦取り外すと、「エッジ効果」の影響を受けることが文献に多く記載されている。
【0004】
この「エッジ効果」は、培養器具の中央よりも多く露出し、従ってインキュベーターから取り外すとより早く熱を喪失する培養器具即ちマルチウエルプレートの周縁部のことを言う。図1及び図2(従来技術)は、従来技術によるマルチウエルプレートのリッドを取り外した状態の斜視図(図1)及び上面図(図2)である。個々のウエルの温度がウエルの位置によってマルチウエルプレート全体で変動することは知られている。Aの符号を付したウエルは前記プレートの末端にあり、このウエルの温度はウエルB及びCの温度より低い。ウエルCは前記プレートの中央に配置され、最も温度が高いウエルの1つである。このような温度の変動は、同じサンプルプレートの個々のウエル間での温度差が実験から得られる結果に重大な影響を及ぼし得ることから、再現可能な、敏感な又は精確な実験条件が要求される場合に問題となり得る。
【0005】
Lundhalt et al., J. Biomol. Screening, 2003 8(5):566-570 は、新たに播種したマルチウエルプレートを室温で所定の時間インキュベートした後に該プレートをCO2インキュベーター内に配置することによって、エッジ効果を低減させる方法を考案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外部からの悪影響の大きさを最小にしようとする別の試みは、ハウジングタイプのチャンバ内部に保持されるプレートの使用に関するものである。しかしながら、この装置は大型で、使用が面倒であり、かつ高価である。
【0007】
外部因子からの影響を最小にして細胞及び組織試料を成長させかつ培養し得る改良されたシステムが必要なことは、明らかである。
【0008】
本発明はまた、シングルウエル又はマルチウエルプレート用のカバー又はリッドを提供する。
【0009】
培養装置内で細胞及び/又は組織試料を成長させかつ培養する際に遭遇し得る問題は、カバー/リッドが必要であること、及び特に細胞及び/又は組織試料をマルチウエルプレート内で培養するときに、その取り外しが容易であることである。多くの市販のマルチウエルプレート、例えばCostarR, NuncR, Becton DickensonRから市販されているようなもの及びその類似物は、単一のリッドを備えており、該プレートのウエルにアクセスするのにリッド全体を取り外さなければならない。このタイプのリッドは、特に無菌組織培養環境で操作するのが厄介である。更に、リッド全体を取り外すことは、プレートの全部のウエルを外部環境に曝すことになる。特に、前記ウエルに存在する試料の全表面領域が外部環境に曝される。このように曝されることによって、ウエル及び試料は、例えば気中のウイルス、細菌、菌類、ダスト粒子及びその類似物などの汚染物で傷付けられ易い状態に置かれる。
【0010】
多数の試料を同時に検定するために、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術が用いられている。このような検定は一般に、24−、48−、96−、384−及び1536−ウエルフォーマットを有するプレート又はその類似物のようなマルチウエルプレートに試料を保持することを基礎としている。このような検定では、例えばマルチウエルプレートをその方法のいずれかの工程で振動させる場合に試料の相互汚染を防止するため、及び試料の無菌状態を維持するためにリッド又はカバーを有するのが標準的である。試料が外部環境に曝される時間の長さを最小にして、試料が気中汚染物で汚染される可能性を低減することによって試料の無菌状態を維持することは、特に重要である。
【0011】
非常に多くの試料をスクリーニングする場合、HTS検定は一般に自動化される。実行される検定の大部分はその方法とは異なる幾つかの工程を有するので、自動検定では、ロボットアームがマルチウエルプレートを異なるステーション間、例えばインキュベータステーション、分注ステーション、振動ステーション又はそれらと類似するものとの間で何度も移動させる場合がある。実行される検定のタイプによって、多くの様々な溶液がマルチウエルプレートのウエルから吸引され又はその中に分注される。このような工程中、ロボットアームは最初にリッドをマルチウエルプレートから取り外し、それにより、溶液の吸引及び/又は分注前にプレート全体を外部環境に曝す。マルチウエルプレートのリッドを取り外すことによって、各ウエルの表面領域全体が外部環境に曝されるので、曝された試料及び/又は検定装置自体が汚染される可能性が存在する。
【0012】
従って、無菌環境及び非無菌環境の双方において、操作がより容易であるシングルウエル又はマルチウエルサンプルプレート用リッドの改良が明らかに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ある側面において、試料を入れるために、少なくとも1つの試料ウエルとオンボード(on-board)緩衝物質とを備え、前記緩衝物質が少なくとも部分的に前記試料ウエルを囲繞する器具が提供される。この器具は、生物学的、化学的、物理的、生化学的、ナノ技術的試料又は材料を培養しかつ/又は検定するのに適している。この器具の利点の1つは、「規格品」で購入し得ることであり、それによってエンドユーザーが使用前に器具を準備する必要がなくなる。別の利点は、前記物質を、器具自体に組み込まれた環境制御装置と考え得ることである。
【0014】
前記器具の前記物質は、その構造を、マルチウエルプレートの使用に必要な活動の動作温度の範囲内で維持することができる。例えば、前記物質は、マトリックスの形態をとることができる。前記器具の前記物質は、室温で固体又は半固体とすることができる。
【0015】
前記物質はゲル状材料で構成することができる。前記ゲル状材料は、天然ゲル状材料又は合成ゲル状材料とすることができる。別の実施例では、前記前記ゲル状材料を半合成ゲル状材料とすることができる。
【0016】
前記ゲル状材料はポリマーであってよい。
【0017】
前記ゲル状材料は、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種で構成することができる。
【0018】
前記ゲル状材料は水性とすることができる。
【0019】
前記器具の前記物質は、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有することができる。前記物質に添加物を加えることの利点の1つは、特定のマイクロ環境を実現できかつ緩衝し得ることである。
【0020】
前記器具はリッドを備えることができる。リッドを提供することの利点の1つは、該リッドが試料保持手段を覆いかつ/又は外部環境から遮蔽/保護し得ることである。前記リッドは、試料保持手段にアクセスできるように可動にすることができる。
【0021】
前記器具は更に絶縁手段を備えることができる。例えば、前記絶縁手段は、ポリスチレンのような絶縁材料の膜層とすることができる。別の実施例では、前記絶縁手段はリッドで構成される。
【0022】
前記器具はマルチウエルプレートとすることができる。
【0023】
本発明は、別の側面では、生物学的、化学的、物理的、生化学的、ナノ技術的試料又は材料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質であって、雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供する物質を具体化する。このような物質の利点の1つは、前記物質が熱変動のような環境の変動を低減させ得ることである。更に、前記物質は、生物学的、化学的、物理的、生化学的又はナノ技術的試料にとって最適の環境条件を維持することによって実験及び/又は検定の再現性を改善することができる。
【0024】
本発明によれば、用語「物理的試料」は、例えば結晶学的目的で成長させかつ/又は保存することができる結晶など、生物学的、化学的又は生化学的でないあらゆる試料を意味するものと理解することができる。本発明によれば、用語「ナノ技術的試料」は、実験前の量子ナノドット又はナノ粒子の保存など、1〜1000nmの寸法を有するあらゆる試料を意味するものと理解することができる。
【0025】
前記物質はマトリックスの形態とすることができる。
【0026】
前記物質は、実行されている処理の所望の温度範囲内で固体とすることができる。例えば、前記物質は室温で固体又は半固体とすることができる。物質の性質によって、エンドユーザーは、(本発明によれば)前記物質の製法において成分の割合を調整して、所望の温度範囲で望ましい実質的に固体の特性を有する物質を得ることができる。
【0027】
前記物質はゲル状材料で構成することができる。例えば、前記ゲル状材料は、天然ゲル状材料又は合成ゲル状材料とすることができる。別の実施例では、前記ゲル状材料が半合成である。
【0028】
前記ゲル状材料は、該材料が重合し得るようにポリマーとすることができる。
【0029】
前記ゲル状材料は、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチン又はその類似物からなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0030】
本発明の物質は、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有することができる。前記物質に添加物を加えることの利点の1つは、特定のマイクロ環境を達成できかつ緩衝し得ることである。
【0031】
前記物質はマルチウエルプレートにオンボードで配置することができる。
【0032】
また、本発明は、シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートのためのリッドであって、前記リッドを通して試料のウエル内への導入を容易にしかつ前記ウエルをシールするように形成されたリッドに関する。本発明によるリッドの利点の1つは、前記リッドが、液体又は試料をサンプルプレートのウエル内に分注し又はそれから吸引するときに、サンプルプレートから取り外す必要がないことである。
【0033】
前記リッドは、試料導入の配置とシールする配置との間で互いに相対的に動く可動部分を備えることができる。前記可動部分は少なくとも1つのオリフィスを有する。両方の前記リッド部分のオリフィスを整合させることによって、コンジットを形成することができる。このような構成の利点は、前記オリフィスが前記リッドの中を貫通し、従って前記コンジットが例えば導入チャネル又はアクセスチャネルなどのチャネルとして機能し得ることである。
【0034】
前記コンジットは、一方のリッド部分のオリフィスを他方のリッド部分のオリフィスに関して整合させないことによって閉じることができる。このような閉じ器具の利点の1つは、簡単に使用できることであり、例えば、手動の実験で前記リッドを用いる際に片手だけを用いて該リッドを閉じることができる。別の実施例では、前記リッドを自動実験で用いる場合に、リッドを閉じる簡単な動作によって、リッドを開けたり閉じたりする際に自動装置が実行する多くの工程を減らすことができる。
【0035】
前記リッドは、更に付勢手段を備えることができ、例えば前記付勢手段はリッドを閉鎖配置に付勢することができる。ある実施例では、前記付勢手段をばねとすることができる。付勢手段に関する利点の1つは、この付勢手段が、例えばリッドの輸送又は保存の際にリッドが不必要に開くことを防止又は最小にする補助となり得ることである。
【0036】
リッドの前記部分は、結合手段によって互いに結合することができる。例えば、前記結合手段は、レール、スライダー、上側リッドからの突起、下側リッドからの突起、又はそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましくは、前記結合手段は、舌片と溝との構成とすることができる。前記結合手段は、前記リッド部分が、例えば相対的に滑ることによって相対的に動くことができる機構として機能することができる。
【0037】
前記リッドは、前記リッド部分の相対的な動きの量を制限するストッパーを備えることができる。ストッパーの利点の1つは、リッド部分の一方が他方のリッド部分に関して動き過ぎることを防止できることである。例えば、前記ストッパーは、2つのリッド部分が分離することを防止するような手段として機能させることができる。
【0038】
前記リッドは更にロック機構を備えることができ、例えば前記ロック機構はリッドの開放を防止することができる。望ましくは、前記ロック機構は、手動実験においてエンドユーザーを、自動実験において自動装置を優先させることができる。
【0039】
前記リッドは、プラスチック材料で構成することができる。
【0040】
前記リッド部分の一方を単体として形成すると、有利である。望ましくは、前記リッド部分の一方又は双方(外側及び/又は内側部分)を単体として形成することができる。
【0041】
前記リッドは、更にスペーサー要素を備えることができる。前記スペーサー要素が、前記リッド部分を相対的に動かしたときに、両部分間の摩擦を低減できると有利である。
【0042】
更に別の実施例では、本発明によって、シングルウエル又マルチウエルサンプルプレートと上述したリッドとを備える器具が提供される。この器具が、無菌条件又はそれに類似する組織培養作業に適するように殺菌できると有利である。
【0043】
別の実施例では、本発明によって、科学試料を入れるために、少なくとも1つのサンプルウエルとオンボード緩衝物質とを備え、前記緩衝物質がゲル状材料からなり、前記オンボード緩衝物質が少なくとも部分的に上述したサンプルウエルと上述したリッドとを囲繞するようにした器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】リッドを取り外した状態の従来技術によるマルチウエルプレートを示す斜視図である。
【図2】図1の従来のマルチウエルプレートの上面図である。
【図3】リッドを取り外した状態の本発明によるマルチウエルプレートを示す斜視図である。
【図4】図3のマルチウエルプレートの上面図である。
【図5】図4のV−V線における断面図である。
【図6】本発明のマルチウエルプレートの一部分を示す概略断面図である。
【図7】本発明の器具をインキュベーター内に配置した際の熱、ガス及び水分の移動を概略的に示す図である。
【図8】本発明の器具を外部環境に曝した際の熱、ガス及び水分の移動を概略的に示す図である。
【図9】本発明のマトリックの時間経過に関する温度保持を示す棒グラフである。
【図10】本発明のマトリックスの再加温速度を示す棒グラフである。
【図11】本発明の器具のウエル内で成長するTHP1細胞を示す写真である。
【図12】標準的な96ウエルプレートのウエル内で成長するTHP1細胞を示す写真である。
【図13】本発明の器具の絶縁された実施例を示す側面図である。
【図14】本発明の絶縁されたリッドを示す平面図である。
【図15】図14のリッドの断面図である。
【図16】図13の器具の温度保持を示す棒グラフである。
【図17】図18の測定に使用されるウエルを概略的に示す図である。
【図18】本発明の器具の水分保持特性を示す棒グラフである。
【図19】図20の測定に使用されるウエルを概略的に示す図である。
【図20】本発明の器具の水分保持特性を示す線図である。
【図21】上側リッド部分の上面図である。
【図22】図21の上側リッド部分に対応するように配置された下側リッド部分を示す上面図である。
【図23】開放配置にある本発明のリッドを示す断面図である。
【図24】閉鎖配置にある本発明のリッドを示す断面図である。
【図25】開放配置にある本発明のリッドの別の実施例を示す断面図である。
【図26】閉鎖配置にある本発明のリッドの別の実施例を示す断面図である。
【図27】図25及び図26のリッドのロック機構を示す破砕断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、その単なる実施例として以下に記載される詳細な説明からより明確に理解することができる。
【0046】
本発明の物質は、マルチウエルプレートの使用を必要とするあらゆる活動、例えば組織の培養、保存、輸送、液体ハンドリング、結晶学、バイオマテリアルの倉庫保管、試料の冷凍、コンビナトリアル化学、ハイスループットスクリーニングなどにおいて使用することができる。特に、本発明の物質は、生物学的材料及びその類似物を培養しかつ/又は検定する際に使用することができる。前記物質によって、生物学的材料の雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供することができる。前記物質の好ましい属性には、次のこと、即ち熱エネルギー、雰囲気ガス(CO2、O2、N2及びその類似物のような)、及び水、DMSO及び有機化合物又はその類似物のような溶媒蒸気を維持し、かつ/又は変化させ、かつ/又は吸収し、かつ/又は消散させ、かつ/又は発生させ、かつ/又は放出する能力を含むが、これらに限定されるものではない。ある実施例では、前記物質が重合化可能なマトリックである。例えば、本発明の物質は多孔質マトリックスと考えられる。
【0047】
前記物質は、粘性液のような液体で構成することができる。別の実施例では、前記物質は固体とすることができる。前記物質は、実行される活動の温度範囲で実質的に固体とすることができる。例えば、前記物質は室温で固体又は半固体とすることができる。前記物質は、該物質が衝撃を吸収し得るように、ゲル状の特性を持たせることができる。例えば、前記物質は、外部の振動に対する機械的緩衝として機能させることができる。前記物質は、該物質を収容する器具の偶発的なノッキングにより生じる機械的な衝撃のような機械的衝撃を吸収し、かつ/又は消散させることができる。
【0048】
前記物質は、時間の経過により固化(重合化)する溶液として作ることができる。一般に、前記物質は、アガロース及び/又はアクリルアミド及び/又はゼラチン及び/又は寒天又はそれらの類似物からなる群から選択されるポリマーからなる。前記ポリマーは、溶液又は溶媒に溶解させることができる。例えば、前記ポリマーは、水のような水性溶液に溶かすことができる。
【0049】
一般に、アガロースマトリックス溶液の重量/容積(w/v)百分率濃度は、約0.1%から約10%、又は約0.1%から約5%、又は約0.1%から約2.5%である。このポリマー溶液は、アガロースが活動の温度、例えば室温で固体又は半固体の形態をとり得る約1%の濃度とすることができる。同業者であれば分かるように、使用されるポリマーの濃度は、要求されるマトリックの密度に依存する。更に、同業者であれば、マトリックス溶液を作る部屋の環境温度が重合化されたマトリックスの密度に影響することは、理解できるであろう。例えば、高温では、マトリックス溶液の完全な重合化を確実にするのに、より高率のマトリックス溶液が必要となる。前記物質は、該物質が最終的な用途で使用される際の温度で重合化された(設定した又は固体又は半固体)状態を保持し得ることが望ましい。
【0050】
同業者であれば分かるように、前記物質のポリマーの百分率濃度は、使用されるポリマー及び前記物質が作られる温度によって変化する。更に、前記物質の最終的な使用温度は、該物質中のポリマーの濃度百分率に影響を及ぼす場合がある。ポリマーの百分率濃度が可能な限り最小である物質を用いることが好ましい。前記物質中のポリマーの濃度が低い程、該物質中の溶液/溶媒の濃度が高くなる。同様に、前記物質中のポリマーの濃度が高い程、該物質中の溶液/溶媒の濃度は低くなる(ポリマー濃度の溶液/溶媒濃度に対する反比例の関係)。低い割合の物質、例えば0.1〜2%の物質は、高い割合の物質、例えば8〜10%の物質よりも多くの水分を含むことができる。水分は非湿潤条件、例えば実験室内で前記物質から蒸発し得るので、前記物質が水分を含んでいることが望ましい。水分は、試料よりも前記物質から蒸発し得ることが望ましい。例えば、水分は、試料と外部環境との間でバリア蒸気を形成する前記物質から蒸発させることができる。また、本発明の物質は、CO2、O2、N2、などのような雰囲気ガスの維持及び/又は変更を可能にすることができる。また、望ましくは、前記物質は、プレート環境から水分の提供及び/又は維持及び/又は飽和及び/又は除去を可能にすることができる。水分は、水又は/DMSO又はそれらの微生物のようなあらゆる溶媒の形態とすることができる。
【0051】
前記物質の最終目的によって、前記物質(重合化前)に広範な化合物を添加することができる。添加物は、CO2がゆっくりと放出されるようにCO2の保持を最大にし得るように前記物質に添加することができる。抗酸化剤及び酸素フリーラジカル及び脱酸素剤を添加することもできる。
【0052】
添加物の例として、次のものが含まれる。
・脱酸素剤
脱酸素剤の例には、以下のもの、亜硫酸塩、カタラーゼ、カルノシン、N−アセチルカルノシン、ホモカルノシン、カルボヒドラジド、酸素消去酵素、及びピロガロールに含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
・熱を発する化合物のような発熱作用を生じる化合物
発熱作用を生じる化合物の例には、水酸化ナトリウムと塩酸、グリシン(グリセロール)と低級ポリグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない、望ましくは、前記反応は、エンドユーザーによって、例えば環境条件の変化によって抑制しかつ/又は活性化することができる。
【0054】
・熱を吸収する化合物のような吸熱反応を生じる化合物
吸熱反応を生じる化合物の例には、次のもの、水酸化ナトリウムと水、クエン酸と水酸化ナトリウムが含まれるが、これらに限定されるものではない。望ましくは、前記反応は、エンドユーザーによって、例えばマトリックスを囲繞する環境条件を変更することによって抑制し、かつ/又は活性化することができる。
【0055】
・CO2保持剤/安定剤
例えば、重炭酸ソーダ/スカベンジャー、例えばソーダ石灰。
【0056】
・乾燥剤
乾燥剤の例には、次のもの、シリカゲル、コバルト、塩化物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
・ph指示薬
例えば、フェノールレッド。
【0058】
・染料
染料の例には、次のもの、Remazol Brilliant Blue R(RBBR)、ポリR−478、グアヤコール及びタンニン酸のような菌類色素指示薬が含まれるが、これらに限定されるものではない。染料は、免疫蛍光法又は蛍光の用途で使用するために前記物質に添加することができる。例えば、染料を用いて蛍光試料の光への露出を最小にし、それにより蛍光のフェーディング効果を低減させ、かつ蛍光試料の保存期間を延長させることができる。
【0059】
・感染指示薬
例えば、細菌汚染のための早期警告システム。
【0060】
・抗菌剤
抗菌剤の例には、次のもの、殺菌剤、抗生物質、殺真菌剤、微生物成長の化学的阻害剤及びこれらの類似物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
また、前記物質は、添加物の組合せを含有することができ、例えば前記マトリックスは炭素源(グルコース、ラクトース、ショ糖又はこれらの類似物のような)及びph感応色指示薬(フェノールレッドのような)を含有し、前記物質における微生物代謝活動を示すことができる。別の実施例では、微生物活動によって、前記物質のアルカリ性が強くなった場合に青色から緑色に色の変化反応が起こるように、前記物質はクエン酸及びブロモチモールブルーを含有することができる。
【0062】
本発明の物質は、必要に応じて熱を保持し、かつ/又は発生し、かつ/又は消散させ、かつ/又は吸収し得る点において、熱条件に影響を及ぼすことが分かった。
【0063】
前記物質は、細胞、組織試料及び/又は合成化学物質の長期間及び短期間双方における保存に用いることができる。細胞の保存に前記物質を用いることによって、細胞の劣化の量を減らすことができる。別の実施例では、前記物質は、以下の方法、結晶学実験、例えば実験室に保存される試料について使用するバイオマテリアルの倉庫保存、反応に厳しい環境条件が要求されるコンビナトリアル化学のいずれかにおいて使用することもできる。更に、前記物質は、ハイスループットスクリーニング技術において用いることができる。また、前記物質は、細胞及び/又は組織試料の冷凍及び/又は解凍の処理に使用することができる。試料の冷凍及び/又は解凍に前記物質を使用することによって、試料をゆっくりと冷却しかつゆっくりと加熱することができ、試料の冷凍及び加熱によって生じる劣化の量を減らすことができる。
【0064】
別の側面では、本発明によってまた、器具が提供される。本発明による器具は、試料保持手段と前記物質とを備える。例えば、前記物質が一旦作られると、前記物質は液体の形態で、試料保持手段を囲繞する空間内に分注し、重合化を可能にすることができる。試料保持手段は、シングルウエル若しくはマルチウエルプレート、又はバイオマテリアル、細胞、有機若しくは無機材料の保存に適した容器とすることができる。重合化した物質を収容する試料保持手段は、例えば試料保持手段をポリエチレンフィルムでシールすることによって保存することができる。本発明による器具は、必要になるまで+4℃で保存することができる。前記器具中の前記物質が抗菌剤を含む場合には、前記器具は、前記物質が抗菌剤を含まない器具と比較して、貯蔵期間を長くすることができる。
【0065】
本発明の器具は、細胞及び/又は組織試料の成長及び培養に影響を与える外部因子の変動を少なくすることができる。上述した物質を試料保持器具に組み込むと、前記器具自体に環境制御が組み込まれる。前記物質は、例えば培養器具をインキュベーターから取り外したとき又は培養器具を1つの作業ステーションから別の作業ステーションに移したときに前記器具の温度を維持することができ、全部のウエルが一定に維持され、かつ他の有害な環境因子が最小となる。
【0066】
図3及び図4に関し、マルチウエルプレート1は、本発明による物質3で囲繞された複数のウエル2を備える。図3及び図4に、更に図5及び図6の断面図により明確に示されるように、物質3はウエル間の空間に配置される。ある場合には、プレート1の側壁26とプレート1の側壁26に最も近いウエル2(周辺ウエル)との間に大量のゲルを設けて、前記プレートのエッジ効果を更に低減することができると好ましい。使用するマルチウエルプレートのタイプによって、物質3はまた、ウエル間の空間及び前記周辺ウエルと側壁間の空間に加えて、プレート1の下側に設けることもできる。プレートの左側及び下側の双方に前記物質を供給することによって、前記プレートにより大きな熱絶縁能力を与えることができる。別の実施例では、マルチウエルプレートをとりわけ、例えば前記プレートの周辺ウエルと側壁との間に平均よりも大きい溝を有することにより、該溝が従来のマルチウエルプレートに比較して多量の物質を収容し得るマルチウエルプレートを設計することができる。物質3は、前記プレートの縁部と周辺ウエル2間の空間を占めることに加えて、少なくとも部分的にウエル2の周囲を囲繞する。図5に示すように、マルチウエルプレート1のある実施例では、仕切り16が補強用支柱又は前記マルチウエルプレートの隣接するウエルの側壁によって形成される。仕切り16によって、ウエル2の側壁により形成される全周囲を物質3が囲繞することが防止される。
【0067】
図7及び図8の概略図は、本発明の物質で囲繞されたマルチウエルプレートのウエル2を示している。図7は、約37℃及び約5%CO2に設定したインキュベーター内の前記プレートを示しており、熱エネルギー(矢印8で示す)及びCO2(矢印7で示す)が物質3により吸収されている。インキュベーター内では、ゲルとインキュベーターの飽和雰囲気間の水蒸気が、矢印9で示すようにゲルとの平衡状態に近いと考えられ、この段階を「ローディング」と呼んでいる。図8は、インキュベーターから外気又は異なる環境、例えば実験室ベンチ内に移したプレートを示しており、物質3から矢印9で示す水蒸気、矢印7で示すCO2及び矢印8で示す熱エネルギーが、それぞれその濃度及び物理的勾配から放出され、それにより試料から失われているCO2、水分及び熱を新しい実験環境と置き換えている。
【0068】
特定の実施例では、前記器具が標準的な細胞培養システムを備え、マルチウエルプレートのウエルが少なくとも部分的にゲル状物質で囲繞されている。別の実施例では、前記器具が細胞を培養するためのウエルを備え、該ウエルの部分が上述したマトリックスからなる。例えば、前記マトリックスは、ドナーとして機能し得るように、前記試料と流体連通するように構成することができる。例えば、前記マトリックスは、試料とマトリックスとの間で、例えば薬品、炭水化物、ケモカイン、グルコース、指示薬及びその類似物の通過のために2方向の連通を可能にすることができる。
【0069】
前記物質がウエルの側壁にあり、又はウエルの側壁の一部分を形成するような実施例では、試料中の細胞がマトリックス内に移動することを防止するマージンが必要になる。ある実施例では、ウエルの側壁の上部が物質からなる。前記試料(細胞培養培地を含む)は、前記物質を試料と流体連通させることが要求されるまで、前記ウエル内に前記物質の側壁より低い高さに挿入することができ、その位置で、溶液(培養培地のような)を前記ウエルに加えて、試料の高さを上昇させ、それにより前記試料を前記物質と流体流通する状態にさせることができる。
【0070】
別の実施例では、前記器具が更に絶縁材料を備えることができる。図13において、試料保持手段のリッド4を組み込んだ器具は、絶縁材料の膜層で被われている。前記絶縁材料は、例えば発泡ポリスチレン又はその類似物などのポリスチレンとすることができる。試料保持手段1の本体部5も絶縁材料の膜層でカバーすることができる。試料保持手段の底部6は、必要な場合に、試料保持手段1の光透過性が得られるように、絶縁材料が無いことが好ましい。絶縁材料を試料保持手段1に追加することによって、前記器具の熱絶縁が更に改善される。一般に、前記絶縁材料は、例えば約0.01mmから約10mmの厚さの薄い膜層とすることができる。前記絶縁材料は発泡ポリスチレンであることが望ましい。
【0071】
図14に関し、別の実施例では、絶縁したリッド27を設けることができる。絶縁リッド27は、複数のロケーターポイント11を有する外側リッド支持フレーム10を備える。図15からより明らかに分かるように、外側リッド支持フレーム10は、フレーム支持用留金13によって内側リッド支持フレーム14と結合されている。絶縁材料12は、外側リッド支持フレーム10と内側リッド支持フレーム14との間に配置される。外側リッド支持フレーム10は更に、マルチウエルプレートの側部から下に延長するように形成された支持用留金17を備える。外側リッド支持フレーム10、内側リッド支持フレーム14及び支持用留金13,17によって、絶縁されたリッド27との構造的一体性が得られる。フレーム要素10,14,17は、マルチウエルプレートの周囲を囲繞するように形成されている。支持用留金13,14によって絶縁リッド27に強度が追加され、引張り力又は圧縮力への抵抗を補助する。リッド27の外面のロケーターポイント11は、プレートを上下に重ねることを補助し、下部プレートのリッドとその上に積層したプレートのベースとの間に隙間を設けるように高く設けられている。リッド27は、実質的に平坦で機械的に安定な、マルチウエルプレートの上に置かれてガス透過可能なカバーを提供する面を提供するように形成されている。
【0072】
本発明は、以下の実施例からより明確に理解することができる。
【実施例】
【0073】
実施例1−マトリックス組成(アガロースゲル)
前記マトリックスを、低融点精製アガロースを水に最終濃度が1%アガロースとなるように溶解させて調整した。前記アガロース溶液をマルチウエルプレートのウエルを囲繞する空間にピペットで分注して、固化し得るようにした。
【0074】
実施例2−マトリックス組成(二酸化炭素保持剤/安定剤)
前記マトリックスを、低融点精製アガロースを重曹の0.044M水溶液(1リットル当たり重曹3700mg)に溶解させることによって調整した。このアガロース溶液を、マルチウエルプレートのウエルを囲繞する空間にピペットで分注し、固化し得るようにした。
【0075】
実施例3−マトリックスのpH緩衝特性
pHを、フェノールレッドの色の変化の視覚評価により評価した。フェノールレッドは、Dulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM)培養培地内のpH指示薬として使用する。DMEMを適当に較正したインキュベーター(5%CO2及び37℃)内に配置したとき、前記培地は7.4に近いpHを有し、これらの条件下でフェノールレッドの色は赤である。前記培地のpHは、インキュベーター雰囲気の5%CO2とDMEM中の重曹(3700mg/L)との相互作用により維持される。前記培地は、インキュベーターの制御された雰囲気から移動させると、アルカリ性を強くする傾向があり、藤色/紫色を呈するようになる。組織培養インキュベーターの外側におけるCO2における変化を緩衝するゲルの有効性を評価するのに用いるのは、この色変化である。
【0076】
本発明によるマトリックスを含む器具の試料ウエル中のフェノールレッド培地(ゲルプレート)とゲルなしプレートとの比較が、色彩における実質的な差を示した。開放された実験室環境への10分以内の曝露で、ゲルなしプレート中のフェノールレッドに顕著な色の変化があった。それに対し、ゲルプレート中のDMEMは、同じ時間に亘って、CO2インキュベーターが制御するのと同じ色を保持した。
【0077】
本願発明者らは、ゲルプレート内での試料pHの保持が、ゲルの何らかの熱効果により引き起こされ得るものよりもむしろ、マイクロプレート環境内のCO2レベルを維持するゲルの能力によるものであることを示す実験を設計した。この実験では、ゲルプレート及び標準プレート双方を標準的な大気中CO2レベルで37℃の温度に加温し、かつ次にこれらのプレートを、室温及び標準的な大気中CO2に2時間保持されているそれと比較した(ここでpHが増加した)。これを観察したところ、加熱したプレートと室温にあるプレートとの間に色の差はなかった。
【0078】
更に、試料液体のpHがゲルプレート内のCO2により緩衝されたことを示すために、ゲルプレート及びゲルなしプレート内にそれらを室温に維持しつつCO2ガスを戻した。この処理の結果、試料液体の色は、プレートを5%CO2インキュベーター内に維持したときに見られた色に近いものに回復した。
【0079】
実施例4−温度保持(マトリックス)
標準の96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレート(本発明による器具)のウエルを、生理食塩水200μlを予め充填した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気かつ5%CO2、37℃に設定)内で12時間保持した。実験プロトコルの開始前に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートを前記インキュベーターから、室温を19℃に維持した標準的な実験条件に移した。表示された時間に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。図示するデータは、開始温度を100%で表し、かつ0%が室温に対応する(即ち、実験の熱条件の動的範囲の極値)とした場合の百分率で表されている(図9)。
【0080】
図9から分かるように、時間(分)がx軸であり、かつ百分率温度がy軸である。時間0で、標準プレート(白の棒線)及びマトリックスを含むプレート(黒の棒線)は双方共100%の温度を有する。前記プレートを室温(19℃)に置く時間が長くなるにつれて、百分率温度は低下している。10分後、標準プレートの温度が45%降下したのに対し、30分後、マトリックスを含む前記プレートの温度は開始温度の12%降下しただけであった。対照的に、マトリックスを含む前記プレートは温度の減少が20%であり、30分後、温度は開始温度の35%である。温度の変化は、標準プレートと比較してマトリックスを含むプレートにおいてより長い時間に亘って起こる。これらの徐々に起こる熱変化は、標準プレートにおいて観察される温度の急激な変化よりも、試料、例えば細胞に及ぼす害は少ないと考えられる。
【0081】
実施例5−再加温速度
標準96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレートのウエルを、生理食塩水200μlを予め充填しかつ37℃の温度に予め加温した後、室温で30分間保持した。次に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートをインキュベーター(95%空気、5%CO2、37℃に設定)内に移した。30分経過時に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。これらのデータを温度上昇(℃/分)として表す(図10)。
【0082】
図10は、マトリックスを含むプレートの再加温速度が標準プレートの再加温速度より遅いことを示している。
【0083】
図9及び図10のデータを1つにまとめると、マトリックスプレートを1つの環境からそれとは温度差がある別の環境へ、例えばインキュベーターから開放された実験室へ、又はフリーザーから開放された実験室へ移したとき、マトリックスプレートの温度は標準プレートの温度よりもより一定に維持されることを示している。従って、マトリックスプレートのウエルの内容物が受ける温度の変動は小さく、従って大きな温度変動で起こり得る有害な影響が少なくなっている。
【0084】
実施例6−細胞成長
標準96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレートのウエルを、不死化細胞株THP1の細胞を等密度(ウエル当たり細胞数3000個)で播種した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気、5%CO2、37℃に設定)内で48時間保持した。マトリックスプレート及び標準プレート双方を前記インキュベーターの中央に並べて配置した。
【0085】
図11及び図12から分かるように、マトリックスプレート内の細胞がより速く集密期に到達し(図11)、かつ細胞は標準96ウエルプレートで成長した細胞よりもよりバイアブル即ち生存可能であると認められ(図12)、これらの結果は、プレートの半分がマトリックスで他の半分が標準の場合にも反映され、半分のマトリックスのプレートでは細胞がより速く成長した(図示せず)。これは恐らく、微小環境が標準プレートよりもマトリックスプレートにおいてより安定しているという事実によるものである。
【0086】
また、フェノールレッドの色変化の視覚検査により、マトリックスプレートに入れられた培地におけるpH変化は、最大30分間変化しないままの状態であったのに対し、標準プレートでは大きな変化が認められたことに注目した。
【0087】
実施例7−温度保持(マトリックス及び絶縁)
標準96ウエルプレート及びゲルを含みかつ絶縁した96ウエルプレートのウエルを、生理食塩水200μlを予め充填した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気かつ5%CO2、37℃に設定)内で12時間保持した。実験プロトコルの開始前に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートを前記インキュベーターから、室温を19℃に維持した標準的な実験条件に移した。表示された時間に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。図示するデータは、開始温度を100%で表し、かつ0%が室温に対応する(即ち、実験の熱条件の動的範囲の極値)とした場合の百分率で表されている。
【0088】
図16から分かるように、マトリックス及び絶縁物を含む96ウエルプレート(黒い棒線)は、マトリックス及び絶縁なしの96ウエルプレート(白い棒線)よりも長い時間温度を保持している。
【0089】
実施例8−蒸発及び水分エッジ効果
この実験は、本発明によるゲルプレートのウエル内の試料の水分保持特性をゲルなしプレートのウエル内の試料と比較して測定するように設計した。96ウエルプレートのウエルに無血清培養培地200μlを充填し、標準的な組織培養インキュベーター内で84日間保持した。この実験では図17に示すウエル15を試料ウエルとして用いた。図18を参照すると、前記ゲルプレートの試料ウエルは、水分保持特性がゲルなしプレートと比較して13倍以上大きいことが分かる(データはn=4回の実験のインキュベーション時間後に残存する容積百分率を表している)。
【0090】
実施例9−蒸発及び水分エッジ効果
この実験は、本発明によるゲルプレートのウエル中の試料の水分保持特性を、ゲルなしプレートのウエル中の試料と比較して測定するように設計した。96ウエルプレートのウエルに無血清培養培地100μlを充填し、かつ50℃に設定した標準的な乾燥オーブン内に48時間に亘って保持した。この実験では、図19に示すウエル18〜25を試料ウエルとして用いた。図20から分かるように、前記ゲルプレートは、ウエル内の水分が、ゲルなしプレートのウエルでは24〜91%であったのと比較して、94〜98%を保持した。前記ゲルプレートのウエル内に保持される水分は、試験した全てのウエル18〜25について全く一定であったのに対し、ゲルなしプレートでは、最も外側のウエル18,25における流体の喪失が非常に大きく、標準的なマルチウエルプレートのエッジ効果を示している。
【0091】
図21乃至図27を参照すると、本発明によるリッドは、2つの動作部分52,53を有する。部分52が上側(外側)リッドと考えられるのに対し、部分53は下側(内側)リッドと考えることができる。各部分52,53は、それぞれ少なくとも1つのオリフィス54,57を備える。オリフィス54,57の数は、その上に前記リッドを使用しようとするマルチウエルプレートのウエルの数を相補するものである。例えば、96ウエルプレートを使用する場合、前記リッドの各部分52,53は96のオリフィス54,57を有することになる。前記リッドのオリフィス54,57は、前記リッドを前記プレートの上に正しく装着したとき、前記マルチウエルプレートのウエルを、その上に直接位置するように、相補することになるように配置することができる。オリフィス54,57の幅(直径)は約1〜約5mmである。望ましくは、オリフィス54,57は、自動培養又はHTS及び/又はロボットハンドリングシステムから注入物を受け取るのに適した大きさ及び形状(寸法)を有する。
【0092】
図21及び図22を参照すると、本発明によるリッドは、外側リッド部分52を貫通して延長する複数のオリフィス54を有する上側リッド部分52(図21)と、前記リッドを開きかつ/又は閉じる際に補助するための手段を提供する部分56とを備える。前記リッドは更に、内側リッド部分53を貫通して延長する複数のオリフィス57を有する下側リッド部分53(図22)を備える。オリフィス53は、スペーサー領域と考えられる領域58が囲繞している。
【0093】
オリフィス54,57は、前記リッドが「開放」配置にあるときに、前記リッドを配置したプレートのウエルの内部へのアクセスを提供するように前記リッドを貫通するチャネル即ち通路を形成するように、リッド部分52,53を貫通している。前記リッドが「閉鎖」配置にあると、オリフィス54,57の実質的な整合により形成される前記チャネルが、オリフィス54,57が整合しないことによって、又はオリフィス54,57の流体流通を遮断する機能を有する閉鎖手段の挿入によって閉じられる。ある実施例では、オリフィス54,57が実質的に円形でありかつマルチウエルプレートのウエルの直径より大幅に小さい直径を有する。一般に、96ウエルマルチウエルプレートの直径は約7mmであり、オリフィス54,57の直径は約3mmとすることができる。
【0094】
前記マルチウエルサンプルプレートのウエルとオリフィス54,57との寸法の差によって、オリフィス54,57の整合により形成される前記チャネルを、前記オリフィスを整合させないことにより、例えば外側部分52を内側部分53に関して動かし、又はその逆にすることによって、閉じることが可能になる。このような構成では、内側部分53が外側部分52のオリフィス54への障壁として又はその逆に(オリフィス54がスペーサー領域58と重複する)機能する。
【0095】
オリフィス54,57は異なる寸法及び形状とすることができるが、同じ寸法及び形状とすることが好ましい。
【0096】
スペーサー領域58は、少なくとも1つの開口57を有する連続的な行又は列とすることができる。別の実施例では、スペーサー領域58は、各開口57がそれに関連する個々のスペーサー領域58を有するような不連続なものである。ある実施例では、開口57をスペーサー領域58の境界付近に設ける(配置する)ことができることが望ましい。別の実施例では、開口57は、前記リッドが閉鎖位置にあるときに外側リッド部分52の開口54の閉鎖部として機能する十分な面積のスペーサー領域58があるように、スペーサー領域58の境界に向けて配置することができる。スペーサー領域58は、内側部分53の開口57の上に(合わせて)配置されるように記載したが、別の実施例では、外側部分52と関連させて設けることもできる。
【0097】
望ましくは、スペーサー領域58は高さを高くする。例えば、スペーサー領域58は、内側のリッド部分53又は外側のリッド部分52の面から延長させることができる。一般に、前記スペーサー領域は約0.5mmから約5.0mmの高さを有する。スペーサー領域58を高くすると、内側のリッド部分53と外側のリッド部分52間の面対面接触を少なくするように機能し、これは、部分52,53が互いに相対的に動くことによって生じる摩擦の量を減らすことになり得る。また、スペーサー領域58は、液体、凝縮体又は固体粒子状物質、例えばダスト粒子又はその類似物のような好ましくない物質が内側部分53と外側部分52間の空間に入ることを防止する機能を発揮することができる。また、スペーサー領域58は、リッド部分52,53が一体に張り付くことを生じさせ得る好ましくない毛管効果(例えば凝縮)を制限又は抑制することができる。スペーサー領域58は、前記開口即ちオリフィス54,57に関連して説明したが、スペーサー領域58は、上述した機能が提供される限り、前記リッド内又はリッド上のあらゆる位置に配置することができる。
【0098】
オリフィス57はオリフィス54,57が整合しない(閉鎖配置)とき、スペーサー領域58がマルチウエルプレートのウエルの外部環境へのアクセスを閉じるように、スペーサー領域58の境界付近に配置することができる。
【0099】
更に別の実施例(図示せず)では、外側部分52及び内側部分53の開口54,57を互い違いに、又は前記リッドを装着した向き及び/又は位置によって特定のウエル又はウエルの行又はウエルの列へのアクセスを可能にするような方法で配置することができる。
【0100】
液体をサンプルプレートのウエルの様々な領域から、例えば前記ウエルの中央又は外縁から取り出し又は添加することが必要な場合があるので、内側部分53の開口57は形状を実質的に矩形にし、かつ開口57の長さが前記ウエルの半径又は直径のような主要な寸法に対応するように、例えば、前記リッドを開いたときに開口57によってウエルの上縁部、下縁部、中央部、左側縁部又は右側縁部へのアクセスが単に得られるように形成することができる。
【0101】
図23及び図24を見ると、外側部分52は、外側部分52と内側部分53とを一体に取り付けるための手段を有する。図示する実施例では、前記取付手段が突起59からなる。図示する実施例では、突起59が外側部分52の側壁60と一体をなしている。
【0102】
ある実施例では、外側部分52がオリフィス54からなるプレート状部分を有する。側壁60は前記プレート状部分から延出し、側壁60の末端である自由端に突起59が設けられている。また、外側部分52は、前記プレート状部分の反対側(図示せず)から延出する鏡像関係の側壁を備える。ある側面において、前記外側部分は、その自由端に内曲したフランジを有するように形成された実質的に正方形のブラケットとして考えることができる。
【0103】
内側部分53は、外側部分52の突起と適合/協働するように設計された溝62(即ち、舌片及び溝構造)を有することができる。望ましくは、内側部分53もまた、マルチウエル又はシングルウエルサンプルプレートと係合する側壁65を有する。側壁65は、内側部分53の全周縁に沿って連続する側壁とすることができる。別の実施例では、側壁65は、前記リッドがサンプルプレート上に保持されるように内側部分53をサンプルプレートと協働し得るようにする多数の部分で構成することができる。
【0104】
図23及び図24は、マルチウエルサンプルプレート上に配置した前記リッドを示している。内側部分53の側壁65は前記サンプルプレートの側壁67と接触し、それにより前記リッドをサンプルプレート上に保持している。更に、側壁60はまた、外側部分52が内側部分53に関して動き過ぎることを防止するストッパーとして機能することができる。別の実施例では、内側部分53はサンプルプレート(図示せず)上に固定することができる。
【0105】
部分52,53は、部分52が部分53に関して動くように、又はこの逆となるように連結することができる。望ましくは、部分52,53が相対的に線形平面内で動く。好ましくは、部分52,53は相対的にスライドする。好ましくは、前記リッドはまた少なくとも1つのストッパー(図示せず)を有する。前記ストッパーは、部分52の部分53に関する移動の量を制限することができる。望ましくは、部分52の部分53に関する移動の長さが約1〜約5mmの間となる。しかしながら、別の実施例(図示せず)では、部分52,53を相対的に回転させることができる。図23の開放配置において、オリフィス54,57は、互いに上下位置となるように整合している。前記開放配置では、整合させた前記オリフィスによって前記リッドを貫通するコンジットが画定され、その中をピペット68が矢印の向きに通過することができる。図23では、オリフィス54,57が完全に整合するように示されているが、ある場合には、オフセットさせたオリフィス54,57(図示せず)によりコンジットを画定して該コンジットの幅を小さくすることが望ましい。オリフィス54,57をオフセットさせて通路を形成すると、プレートのウエル64の表面全体が外部環境に露出されなくなり、前記ウエルの一部分のみが露出されることになる。開放又は部分的な開放配置では、オリフィス54,57により画定される前記コンジットによって、プレートのウエルに入るための手段が提供される。プレートのウエルを(完全に又は部分的に)露出させると、試料、溶液及びその類似物を前記ウエルから吸引し又はその中に分注することができる。前記リッドの閉鎖配置では(図24)、部分52,53は、部分52の実質部分55が部分53のオリフィス57の内側開口をカバーするように又はその逆となるように相対的にオフセットしている。前記リッドをプレート上に配置し、かつオリフィス57の内側部分が相補的な部材の実質部分55により覆われているとき、前記プレートのウエルは外部環境から保護される。
【0106】
別の実施例では、部分52又は53は多数の可動部材を備える。このような実施例では、前記可動部分を互いに独立して操作することができる。例えば、選択した行又は列のウエルのみを特定の時間にいつでも露出させることができる。
【0107】
また、上述したリッドを有するプレートは、例えば自動組織培養システム又はロボット液体ハンドリングシステム及びそれらの類似物において用いることができる。
【0108】
図25を参照すると、外側部分52はまた、外側部分52を内側部分53に関して動かすことを補助する突起56のような領域/部分を備えることができる。内側部分53は複数の突起56を有することができる。前記リッドは、自動装置(例えば、自動液体ハンドラー又はHTS装置のような)がプレートのリッドを開けてウエル64の内部へのアクセスを得ることができるように構成することができる。
【0109】
図25を参照すると、自動装置の針、ピペット先端部又はプローブ51が閉じたリッド上で突起56の位置を決める。プローブ51が突起56を押して外側部分52を内側部分53に関して矢印で示す向きにスライドさせる。前記リッドが開くと、自動装置のピペット68は液体をウエル64内に分注し、又はそれから吸引することができる。前記リッドを動かすために使用される自動装置の部分はまた、液体をウエル64内に又はそれから吸引するのに使用することができる。しかしながら、別の実施例では、前記リッドを自動装置の別個の手段51により開くことができ、かつピペット68は液体の吸引又は分注のみを行うことができる。この実施例は、吸引及び/又は分注の無菌技術が必要な場合に好ましい。
【0110】
図26では、前記リッドが突起56を矢印の向きに押すことによって閉じられる。分注器具68を用いて前記リッドを閉じることができる。別の実施例では、自動装置51の別の部分を用いて前記リッドを閉じることができる。
【0111】
突起56を用いて前記リッドを手動で開いたり閉じたりすることもできることが分かるであろう。
【0112】
別の実施例(図示せず)では、前記器具を開けたり閉じたりする際に補助するために使用される外側リッド53の領域/部分を、ボタン又は突条部又は凹み若しくはこれらの類似物とすることができる。一般に、前記領域/部分は、自動装置又はエンドユーザーがサンプルプレートのリッド全体を取り外す必要なく、サンプルプレートのウエルにアクセスできるように設計される。更に、前記リッドはまた、前記可動リッド部分を閉じ位置に向けて付勢する付勢手段を備えることができる。好ましくは、前記付勢手段はばね又はその類似物である。
【0113】
また、前記リッドは、図25乃至図27に示すようなロックを備えることができる。ロック69は、リッド52の可動部分上に配置することができ、かつリッド53の非可動部分がロック協働部分70を有するように又はその逆となるように設計することができる。望ましくは、ロック69が、外側部分52の内側部分53に関する動きを補足することができる。図25の矢印は、前記リッドが開放配置されているときの外側リッド52の動きの向きを示している。
【0114】
図26は、前記閉鎖配置に向けて動いているロック69を示している。移動の向きが矢印で示されている。図示する実施例では、ロック69が、前記リッドを開放配置と閉鎖配置との間でスライドさせたときに係合し得るスライダーである。内側部分53はまた、前記リッドが開放配置にあるときに(図25)、ロック69を収容するための傾斜溝71を備えることができる。このロック機構によって、サンプルプレートが輸送されているときに前記リッドが不用意に又は偶然に開くことを防止できる。特に、前記ロック機構は、多数のサンプルプレートを互いに上下に積み重ねた場合に前記リッドを安定化することができる。
【0115】
前記リッドは、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン又はその類似物のようなプラスチック材料で形成することができる。好ましくは、前記リッドはサンプルプレートと同じ材料で形成される。
【0116】
本発明のリッドは、上述した器具1と組み合わせて用いることができる。
【0117】
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、その詳細において様々に変化させることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的、化学的、物理的、生化学的及び/又はナノ技術的の試料やそれらの類似物のような試料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質及び器具に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての化学的、生物学的、生理学的及び物理的処理は、温度、pH及び化学組成のような環境要素に影響される。これら因子のいずれかに制御できない変化が生じると、問題の標本/試料に望ましくない物理的、化学的及び/又は生物学的影響を及ぼし、所定の化学的及び/又は製造方法に再現性の低下又は崩壊を招く場合がある。
【0003】
高スループットかつ多重の生物学的、化学的及び材料スクリーニング方法の出現によって、マルチウエルアッセイプレートの使用が、ほぼ全ての自動実験及び保存の用途で標準となっている。従来、細胞及び組織試料は、一般に96ウエル又は1536−、384−、48−又は24−ウエルのウエルフォーマットを有するプレートで培養される。しかしながら、これら実験処理の多くは、幾つかの異なる保存プラットホーム、処理プラットホーム、及びプレートシェーカー、プレートリーダー並びにその類似物のような実験プラットホームの間で輸送を必要とする多くの工程からなる。様々な位置間でのプレートの移動によって、該プレート及び、より重要なことに、プレートに保持される試料は、様々な環境及び/又は温度の変動を受ける。これらの変化は、試料に好ましくない影響を及ぼす場合がある。マルチウエルプレートにおける温度の変動は問題であることが知られており、標準的なマルチウエルプレートは、インキュベーターから一旦取り外すと、「エッジ効果」の影響を受けることが文献に多く記載されている。
【0004】
この「エッジ効果」は、培養器具の中央よりも多く露出し、従ってインキュベーターから取り外すとより早く熱を喪失する培養器具即ちマルチウエルプレートの周縁部のことを言う。図1及び図2(従来技術)は、従来技術によるマルチウエルプレートのリッドを取り外した状態の斜視図(図1)及び上面図(図2)である。個々のウエルの温度がウエルの位置によってマルチウエルプレート全体で変動することは知られている。Aの符号を付したウエルは前記プレートの末端にあり、このウエルの温度はウエルB及びCの温度より低い。ウエルCは前記プレートの中央に配置され、最も温度が高いウエルの1つである。このような温度の変動は、同じサンプルプレートの個々のウエル間での温度差が実験から得られる結果に重大な影響を及ぼし得ることから、再現可能な、敏感な又は精確な実験条件が要求される場合に問題となり得る。
【0005】
Lundhalt et al., J. Biomol. Screening, 2003 8(5):566-570 は、新たに播種したマルチウエルプレートを室温で所定の時間インキュベートした後に該プレートをCO2インキュベーター内に配置することによって、エッジ効果を低減させる方法を考案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外部からの悪影響の大きさを最小にしようとする別の試みは、ハウジングタイプのチャンバ内部に保持されるプレートの使用に関するものである。しかしながら、この装置は大型で、使用が面倒であり、かつ高価である。
【0007】
外部因子からの影響を最小にして細胞及び組織試料を成長させかつ培養し得る改良されたシステムが必要なことは、明らかである。
【0008】
本発明はまた、シングルウエル又はマルチウエルプレート用のカバー又はリッドを提供する。
【0009】
培養装置内で細胞及び/又は組織試料を成長させかつ培養する際に遭遇し得る問題は、カバー/リッドが必要であること、及び特に細胞及び/又は組織試料をマルチウエルプレート内で培養するときに、その取り外しが容易であることである。多くの市販のマルチウエルプレート、例えばCostarR, NuncR, Becton DickensonRから市販されているようなもの及びその類似物は、単一のリッドを備えており、該プレートのウエルにアクセスするのにリッド全体を取り外さなければならない。このタイプのリッドは、特に無菌組織培養環境で操作するのが厄介である。更に、リッド全体を取り外すことは、プレートの全部のウエルを外部環境に曝すことになる。特に、前記ウエルに存在する試料の全表面領域が外部環境に曝される。このように曝されることによって、ウエル及び試料は、例えば気中のウイルス、細菌、菌類、ダスト粒子及びその類似物などの汚染物で傷付けられ易い状態に置かれる。
【0010】
多数の試料を同時に検定するために、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術が用いられている。このような検定は一般に、24−、48−、96−、384−及び1536−ウエルフォーマットを有するプレート又はその類似物のようなマルチウエルプレートに試料を保持することを基礎としている。このような検定では、例えばマルチウエルプレートをその方法のいずれかの工程で振動させる場合に試料の相互汚染を防止するため、及び試料の無菌状態を維持するためにリッド又はカバーを有するのが標準的である。試料が外部環境に曝される時間の長さを最小にして、試料が気中汚染物で汚染される可能性を低減することによって試料の無菌状態を維持することは、特に重要である。
【0011】
非常に多くの試料をスクリーニングする場合、HTS検定は一般に自動化される。実行される検定の大部分はその方法とは異なる幾つかの工程を有するので、自動検定では、ロボットアームがマルチウエルプレートを異なるステーション間、例えばインキュベータステーション、分注ステーション、振動ステーション又はそれらと類似するものとの間で何度も移動させる場合がある。実行される検定のタイプによって、多くの様々な溶液がマルチウエルプレートのウエルから吸引され又はその中に分注される。このような工程中、ロボットアームは最初にリッドをマルチウエルプレートから取り外し、それにより、溶液の吸引及び/又は分注前にプレート全体を外部環境に曝す。マルチウエルプレートのリッドを取り外すことによって、各ウエルの表面領域全体が外部環境に曝されるので、曝された試料及び/又は検定装置自体が汚染される可能性が存在する。
【0012】
従って、無菌環境及び非無菌環境の双方において、操作がより容易であるシングルウエル又はマルチウエルサンプルプレート用リッドの改良が明らかに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ある側面において、試料を入れるために、少なくとも1つの試料ウエルとオンボード(on-board)緩衝物質とを備え、前記緩衝物質が少なくとも部分的に前記試料ウエルを囲繞する器具が提供される。この器具は、生物学的、化学的、物理的、生化学的、ナノ技術的試料又は材料を培養しかつ/又は検定するのに適している。この器具の利点の1つは、「規格品」で購入し得ることであり、それによってエンドユーザーが使用前に器具を準備する必要がなくなる。別の利点は、前記物質を、器具自体に組み込まれた環境制御装置と考え得ることである。
【0014】
前記器具の前記物質は、その構造を、マルチウエルプレートの使用に必要な活動の動作温度の範囲内で維持することができる。例えば、前記物質は、マトリックスの形態をとることができる。前記器具の前記物質は、室温で固体又は半固体とすることができる。
【0015】
前記物質はゲル状材料で構成することができる。前記ゲル状材料は、天然ゲル状材料又は合成ゲル状材料とすることができる。別の実施例では、前記前記ゲル状材料を半合成ゲル状材料とすることができる。
【0016】
前記ゲル状材料はポリマーであってよい。
【0017】
前記ゲル状材料は、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種で構成することができる。
【0018】
前記ゲル状材料は水性とすることができる。
【0019】
前記器具の前記物質は、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有することができる。前記物質に添加物を加えることの利点の1つは、特定のマイクロ環境を実現できかつ緩衝し得ることである。
【0020】
前記器具はリッドを備えることができる。リッドを提供することの利点の1つは、該リッドが試料保持手段を覆いかつ/又は外部環境から遮蔽/保護し得ることである。前記リッドは、試料保持手段にアクセスできるように可動にすることができる。
【0021】
前記器具は更に絶縁手段を備えることができる。例えば、前記絶縁手段は、ポリスチレンのような絶縁材料の膜層とすることができる。別の実施例では、前記絶縁手段はリッドで構成される。
【0022】
前記器具はマルチウエルプレートとすることができる。
【0023】
本発明は、別の側面では、生物学的、化学的、物理的、生化学的、ナノ技術的試料又は材料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質であって、雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供する物質を具体化する。このような物質の利点の1つは、前記物質が熱変動のような環境の変動を低減させ得ることである。更に、前記物質は、生物学的、化学的、物理的、生化学的又はナノ技術的試料にとって最適の環境条件を維持することによって実験及び/又は検定の再現性を改善することができる。
【0024】
本発明によれば、用語「物理的試料」は、例えば結晶学的目的で成長させかつ/又は保存することができる結晶など、生物学的、化学的又は生化学的でないあらゆる試料を意味するものと理解することができる。本発明によれば、用語「ナノ技術的試料」は、実験前の量子ナノドット又はナノ粒子の保存など、1〜1000nmの寸法を有するあらゆる試料を意味するものと理解することができる。
【0025】
前記物質はマトリックスの形態とすることができる。
【0026】
前記物質は、実行されている処理の所望の温度範囲内で固体とすることができる。例えば、前記物質は室温で固体又は半固体とすることができる。物質の性質によって、エンドユーザーは、(本発明によれば)前記物質の製法において成分の割合を調整して、所望の温度範囲で望ましい実質的に固体の特性を有する物質を得ることができる。
【0027】
前記物質はゲル状材料で構成することができる。例えば、前記ゲル状材料は、天然ゲル状材料又は合成ゲル状材料とすることができる。別の実施例では、前記ゲル状材料が半合成である。
【0028】
前記ゲル状材料は、該材料が重合し得るようにポリマーとすることができる。
【0029】
前記ゲル状材料は、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチン又はその類似物からなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0030】
本発明の物質は、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有することができる。前記物質に添加物を加えることの利点の1つは、特定のマイクロ環境を達成できかつ緩衝し得ることである。
【0031】
前記物質はマルチウエルプレートにオンボードで配置することができる。
【0032】
また、本発明は、シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートのためのリッドであって、前記リッドを通して試料のウエル内への導入を容易にしかつ前記ウエルをシールするように形成されたリッドに関する。本発明によるリッドの利点の1つは、前記リッドが、液体又は試料をサンプルプレートのウエル内に分注し又はそれから吸引するときに、サンプルプレートから取り外す必要がないことである。
【0033】
前記リッドは、試料導入の配置とシールする配置との間で互いに相対的に動く可動部分を備えることができる。前記可動部分は少なくとも1つのオリフィスを有する。両方の前記リッド部分のオリフィスを整合させることによって、コンジットを形成することができる。このような構成の利点は、前記オリフィスが前記リッドの中を貫通し、従って前記コンジットが例えば導入チャネル又はアクセスチャネルなどのチャネルとして機能し得ることである。
【0034】
前記コンジットは、一方のリッド部分のオリフィスを他方のリッド部分のオリフィスに関して整合させないことによって閉じることができる。このような閉じ器具の利点の1つは、簡単に使用できることであり、例えば、手動の実験で前記リッドを用いる際に片手だけを用いて該リッドを閉じることができる。別の実施例では、前記リッドを自動実験で用いる場合に、リッドを閉じる簡単な動作によって、リッドを開けたり閉じたりする際に自動装置が実行する多くの工程を減らすことができる。
【0035】
前記リッドは、更に付勢手段を備えることができ、例えば前記付勢手段はリッドを閉鎖配置に付勢することができる。ある実施例では、前記付勢手段をばねとすることができる。付勢手段に関する利点の1つは、この付勢手段が、例えばリッドの輸送又は保存の際にリッドが不必要に開くことを防止又は最小にする補助となり得ることである。
【0036】
リッドの前記部分は、結合手段によって互いに結合することができる。例えば、前記結合手段は、レール、スライダー、上側リッドからの突起、下側リッドからの突起、又はそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましくは、前記結合手段は、舌片と溝との構成とすることができる。前記結合手段は、前記リッド部分が、例えば相対的に滑ることによって相対的に動くことができる機構として機能することができる。
【0037】
前記リッドは、前記リッド部分の相対的な動きの量を制限するストッパーを備えることができる。ストッパーの利点の1つは、リッド部分の一方が他方のリッド部分に関して動き過ぎることを防止できることである。例えば、前記ストッパーは、2つのリッド部分が分離することを防止するような手段として機能させることができる。
【0038】
前記リッドは更にロック機構を備えることができ、例えば前記ロック機構はリッドの開放を防止することができる。望ましくは、前記ロック機構は、手動実験においてエンドユーザーを、自動実験において自動装置を優先させることができる。
【0039】
前記リッドは、プラスチック材料で構成することができる。
【0040】
前記リッド部分の一方を単体として形成すると、有利である。望ましくは、前記リッド部分の一方又は双方(外側及び/又は内側部分)を単体として形成することができる。
【0041】
前記リッドは、更にスペーサー要素を備えることができる。前記スペーサー要素が、前記リッド部分を相対的に動かしたときに、両部分間の摩擦を低減できると有利である。
【0042】
更に別の実施例では、本発明によって、シングルウエル又マルチウエルサンプルプレートと上述したリッドとを備える器具が提供される。この器具が、無菌条件又はそれに類似する組織培養作業に適するように殺菌できると有利である。
【0043】
別の実施例では、本発明によって、科学試料を入れるために、少なくとも1つのサンプルウエルとオンボード緩衝物質とを備え、前記緩衝物質がゲル状材料からなり、前記オンボード緩衝物質が少なくとも部分的に上述したサンプルウエルと上述したリッドとを囲繞するようにした器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】リッドを取り外した状態の従来技術によるマルチウエルプレートを示す斜視図である。
【図2】図1の従来のマルチウエルプレートの上面図である。
【図3】リッドを取り外した状態の本発明によるマルチウエルプレートを示す斜視図である。
【図4】図3のマルチウエルプレートの上面図である。
【図5】図4のV−V線における断面図である。
【図6】本発明のマルチウエルプレートの一部分を示す概略断面図である。
【図7】本発明の器具をインキュベーター内に配置した際の熱、ガス及び水分の移動を概略的に示す図である。
【図8】本発明の器具を外部環境に曝した際の熱、ガス及び水分の移動を概略的に示す図である。
【図9】本発明のマトリックの時間経過に関する温度保持を示す棒グラフである。
【図10】本発明のマトリックスの再加温速度を示す棒グラフである。
【図11】本発明の器具のウエル内で成長するTHP1細胞を示す写真である。
【図12】標準的な96ウエルプレートのウエル内で成長するTHP1細胞を示す写真である。
【図13】本発明の器具の絶縁された実施例を示す側面図である。
【図14】本発明の絶縁されたリッドを示す平面図である。
【図15】図14のリッドの断面図である。
【図16】図13の器具の温度保持を示す棒グラフである。
【図17】図18の測定に使用されるウエルを概略的に示す図である。
【図18】本発明の器具の水分保持特性を示す棒グラフである。
【図19】図20の測定に使用されるウエルを概略的に示す図である。
【図20】本発明の器具の水分保持特性を示す線図である。
【図21】上側リッド部分の上面図である。
【図22】図21の上側リッド部分に対応するように配置された下側リッド部分を示す上面図である。
【図23】開放配置にある本発明のリッドを示す断面図である。
【図24】閉鎖配置にある本発明のリッドを示す断面図である。
【図25】開放配置にある本発明のリッドの別の実施例を示す断面図である。
【図26】閉鎖配置にある本発明のリッドの別の実施例を示す断面図である。
【図27】図25及び図26のリッドのロック機構を示す破砕断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、その単なる実施例として以下に記載される詳細な説明からより明確に理解することができる。
【0046】
本発明の物質は、マルチウエルプレートの使用を必要とするあらゆる活動、例えば組織の培養、保存、輸送、液体ハンドリング、結晶学、バイオマテリアルの倉庫保管、試料の冷凍、コンビナトリアル化学、ハイスループットスクリーニングなどにおいて使用することができる。特に、本発明の物質は、生物学的材料及びその類似物を培養しかつ/又は検定する際に使用することができる。前記物質によって、生物学的材料の雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供することができる。前記物質の好ましい属性には、次のこと、即ち熱エネルギー、雰囲気ガス(CO2、O2、N2及びその類似物のような)、及び水、DMSO及び有機化合物又はその類似物のような溶媒蒸気を維持し、かつ/又は変化させ、かつ/又は吸収し、かつ/又は消散させ、かつ/又は発生させ、かつ/又は放出する能力を含むが、これらに限定されるものではない。ある実施例では、前記物質が重合化可能なマトリックである。例えば、本発明の物質は多孔質マトリックスと考えられる。
【0047】
前記物質は、粘性液のような液体で構成することができる。別の実施例では、前記物質は固体とすることができる。前記物質は、実行される活動の温度範囲で実質的に固体とすることができる。例えば、前記物質は室温で固体又は半固体とすることができる。前記物質は、該物質が衝撃を吸収し得るように、ゲル状の特性を持たせることができる。例えば、前記物質は、外部の振動に対する機械的緩衝として機能させることができる。前記物質は、該物質を収容する器具の偶発的なノッキングにより生じる機械的な衝撃のような機械的衝撃を吸収し、かつ/又は消散させることができる。
【0048】
前記物質は、時間の経過により固化(重合化)する溶液として作ることができる。一般に、前記物質は、アガロース及び/又はアクリルアミド及び/又はゼラチン及び/又は寒天又はそれらの類似物からなる群から選択されるポリマーからなる。前記ポリマーは、溶液又は溶媒に溶解させることができる。例えば、前記ポリマーは、水のような水性溶液に溶かすことができる。
【0049】
一般に、アガロースマトリックス溶液の重量/容積(w/v)百分率濃度は、約0.1%から約10%、又は約0.1%から約5%、又は約0.1%から約2.5%である。このポリマー溶液は、アガロースが活動の温度、例えば室温で固体又は半固体の形態をとり得る約1%の濃度とすることができる。同業者であれば分かるように、使用されるポリマーの濃度は、要求されるマトリックの密度に依存する。更に、同業者であれば、マトリックス溶液を作る部屋の環境温度が重合化されたマトリックスの密度に影響することは、理解できるであろう。例えば、高温では、マトリックス溶液の完全な重合化を確実にするのに、より高率のマトリックス溶液が必要となる。前記物質は、該物質が最終的な用途で使用される際の温度で重合化された(設定した又は固体又は半固体)状態を保持し得ることが望ましい。
【0050】
同業者であれば分かるように、前記物質のポリマーの百分率濃度は、使用されるポリマー及び前記物質が作られる温度によって変化する。更に、前記物質の最終的な使用温度は、該物質中のポリマーの濃度百分率に影響を及ぼす場合がある。ポリマーの百分率濃度が可能な限り最小である物質を用いることが好ましい。前記物質中のポリマーの濃度が低い程、該物質中の溶液/溶媒の濃度が高くなる。同様に、前記物質中のポリマーの濃度が高い程、該物質中の溶液/溶媒の濃度は低くなる(ポリマー濃度の溶液/溶媒濃度に対する反比例の関係)。低い割合の物質、例えば0.1〜2%の物質は、高い割合の物質、例えば8〜10%の物質よりも多くの水分を含むことができる。水分は非湿潤条件、例えば実験室内で前記物質から蒸発し得るので、前記物質が水分を含んでいることが望ましい。水分は、試料よりも前記物質から蒸発し得ることが望ましい。例えば、水分は、試料と外部環境との間でバリア蒸気を形成する前記物質から蒸発させることができる。また、本発明の物質は、CO2、O2、N2、などのような雰囲気ガスの維持及び/又は変更を可能にすることができる。また、望ましくは、前記物質は、プレート環境から水分の提供及び/又は維持及び/又は飽和及び/又は除去を可能にすることができる。水分は、水又は/DMSO又はそれらの微生物のようなあらゆる溶媒の形態とすることができる。
【0051】
前記物質の最終目的によって、前記物質(重合化前)に広範な化合物を添加することができる。添加物は、CO2がゆっくりと放出されるようにCO2の保持を最大にし得るように前記物質に添加することができる。抗酸化剤及び酸素フリーラジカル及び脱酸素剤を添加することもできる。
【0052】
添加物の例として、次のものが含まれる。
・脱酸素剤
脱酸素剤の例には、以下のもの、亜硫酸塩、カタラーゼ、カルノシン、N−アセチルカルノシン、ホモカルノシン、カルボヒドラジド、酸素消去酵素、及びピロガロールに含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
・熱を発する化合物のような発熱作用を生じる化合物
発熱作用を生じる化合物の例には、水酸化ナトリウムと塩酸、グリシン(グリセロール)と低級ポリグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない、望ましくは、前記反応は、エンドユーザーによって、例えば環境条件の変化によって抑制しかつ/又は活性化することができる。
【0054】
・熱を吸収する化合物のような吸熱反応を生じる化合物
吸熱反応を生じる化合物の例には、次のもの、水酸化ナトリウムと水、クエン酸と水酸化ナトリウムが含まれるが、これらに限定されるものではない。望ましくは、前記反応は、エンドユーザーによって、例えばマトリックスを囲繞する環境条件を変更することによって抑制し、かつ/又は活性化することができる。
【0055】
・CO2保持剤/安定剤
例えば、重炭酸ソーダ/スカベンジャー、例えばソーダ石灰。
【0056】
・乾燥剤
乾燥剤の例には、次のもの、シリカゲル、コバルト、塩化物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
・ph指示薬
例えば、フェノールレッド。
【0058】
・染料
染料の例には、次のもの、Remazol Brilliant Blue R(RBBR)、ポリR−478、グアヤコール及びタンニン酸のような菌類色素指示薬が含まれるが、これらに限定されるものではない。染料は、免疫蛍光法又は蛍光の用途で使用するために前記物質に添加することができる。例えば、染料を用いて蛍光試料の光への露出を最小にし、それにより蛍光のフェーディング効果を低減させ、かつ蛍光試料の保存期間を延長させることができる。
【0059】
・感染指示薬
例えば、細菌汚染のための早期警告システム。
【0060】
・抗菌剤
抗菌剤の例には、次のもの、殺菌剤、抗生物質、殺真菌剤、微生物成長の化学的阻害剤及びこれらの類似物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
また、前記物質は、添加物の組合せを含有することができ、例えば前記マトリックスは炭素源(グルコース、ラクトース、ショ糖又はこれらの類似物のような)及びph感応色指示薬(フェノールレッドのような)を含有し、前記物質における微生物代謝活動を示すことができる。別の実施例では、微生物活動によって、前記物質のアルカリ性が強くなった場合に青色から緑色に色の変化反応が起こるように、前記物質はクエン酸及びブロモチモールブルーを含有することができる。
【0062】
本発明の物質は、必要に応じて熱を保持し、かつ/又は発生し、かつ/又は消散させ、かつ/又は吸収し得る点において、熱条件に影響を及ぼすことが分かった。
【0063】
前記物質は、細胞、組織試料及び/又は合成化学物質の長期間及び短期間双方における保存に用いることができる。細胞の保存に前記物質を用いることによって、細胞の劣化の量を減らすことができる。別の実施例では、前記物質は、以下の方法、結晶学実験、例えば実験室に保存される試料について使用するバイオマテリアルの倉庫保存、反応に厳しい環境条件が要求されるコンビナトリアル化学のいずれかにおいて使用することもできる。更に、前記物質は、ハイスループットスクリーニング技術において用いることができる。また、前記物質は、細胞及び/又は組織試料の冷凍及び/又は解凍の処理に使用することができる。試料の冷凍及び/又は解凍に前記物質を使用することによって、試料をゆっくりと冷却しかつゆっくりと加熱することができ、試料の冷凍及び加熱によって生じる劣化の量を減らすことができる。
【0064】
別の側面では、本発明によってまた、器具が提供される。本発明による器具は、試料保持手段と前記物質とを備える。例えば、前記物質が一旦作られると、前記物質は液体の形態で、試料保持手段を囲繞する空間内に分注し、重合化を可能にすることができる。試料保持手段は、シングルウエル若しくはマルチウエルプレート、又はバイオマテリアル、細胞、有機若しくは無機材料の保存に適した容器とすることができる。重合化した物質を収容する試料保持手段は、例えば試料保持手段をポリエチレンフィルムでシールすることによって保存することができる。本発明による器具は、必要になるまで+4℃で保存することができる。前記器具中の前記物質が抗菌剤を含む場合には、前記器具は、前記物質が抗菌剤を含まない器具と比較して、貯蔵期間を長くすることができる。
【0065】
本発明の器具は、細胞及び/又は組織試料の成長及び培養に影響を与える外部因子の変動を少なくすることができる。上述した物質を試料保持器具に組み込むと、前記器具自体に環境制御が組み込まれる。前記物質は、例えば培養器具をインキュベーターから取り外したとき又は培養器具を1つの作業ステーションから別の作業ステーションに移したときに前記器具の温度を維持することができ、全部のウエルが一定に維持され、かつ他の有害な環境因子が最小となる。
【0066】
図3及び図4に関し、マルチウエルプレート1は、本発明による物質3で囲繞された複数のウエル2を備える。図3及び図4に、更に図5及び図6の断面図により明確に示されるように、物質3はウエル間の空間に配置される。ある場合には、プレート1の側壁26とプレート1の側壁26に最も近いウエル2(周辺ウエル)との間に大量のゲルを設けて、前記プレートのエッジ効果を更に低減することができると好ましい。使用するマルチウエルプレートのタイプによって、物質3はまた、ウエル間の空間及び前記周辺ウエルと側壁間の空間に加えて、プレート1の下側に設けることもできる。プレートの左側及び下側の双方に前記物質を供給することによって、前記プレートにより大きな熱絶縁能力を与えることができる。別の実施例では、マルチウエルプレートをとりわけ、例えば前記プレートの周辺ウエルと側壁との間に平均よりも大きい溝を有することにより、該溝が従来のマルチウエルプレートに比較して多量の物質を収容し得るマルチウエルプレートを設計することができる。物質3は、前記プレートの縁部と周辺ウエル2間の空間を占めることに加えて、少なくとも部分的にウエル2の周囲を囲繞する。図5に示すように、マルチウエルプレート1のある実施例では、仕切り16が補強用支柱又は前記マルチウエルプレートの隣接するウエルの側壁によって形成される。仕切り16によって、ウエル2の側壁により形成される全周囲を物質3が囲繞することが防止される。
【0067】
図7及び図8の概略図は、本発明の物質で囲繞されたマルチウエルプレートのウエル2を示している。図7は、約37℃及び約5%CO2に設定したインキュベーター内の前記プレートを示しており、熱エネルギー(矢印8で示す)及びCO2(矢印7で示す)が物質3により吸収されている。インキュベーター内では、ゲルとインキュベーターの飽和雰囲気間の水蒸気が、矢印9で示すようにゲルとの平衡状態に近いと考えられ、この段階を「ローディング」と呼んでいる。図8は、インキュベーターから外気又は異なる環境、例えば実験室ベンチ内に移したプレートを示しており、物質3から矢印9で示す水蒸気、矢印7で示すCO2及び矢印8で示す熱エネルギーが、それぞれその濃度及び物理的勾配から放出され、それにより試料から失われているCO2、水分及び熱を新しい実験環境と置き換えている。
【0068】
特定の実施例では、前記器具が標準的な細胞培養システムを備え、マルチウエルプレートのウエルが少なくとも部分的にゲル状物質で囲繞されている。別の実施例では、前記器具が細胞を培養するためのウエルを備え、該ウエルの部分が上述したマトリックスからなる。例えば、前記マトリックスは、ドナーとして機能し得るように、前記試料と流体連通するように構成することができる。例えば、前記マトリックスは、試料とマトリックスとの間で、例えば薬品、炭水化物、ケモカイン、グルコース、指示薬及びその類似物の通過のために2方向の連通を可能にすることができる。
【0069】
前記物質がウエルの側壁にあり、又はウエルの側壁の一部分を形成するような実施例では、試料中の細胞がマトリックス内に移動することを防止するマージンが必要になる。ある実施例では、ウエルの側壁の上部が物質からなる。前記試料(細胞培養培地を含む)は、前記物質を試料と流体連通させることが要求されるまで、前記ウエル内に前記物質の側壁より低い高さに挿入することができ、その位置で、溶液(培養培地のような)を前記ウエルに加えて、試料の高さを上昇させ、それにより前記試料を前記物質と流体流通する状態にさせることができる。
【0070】
別の実施例では、前記器具が更に絶縁材料を備えることができる。図13において、試料保持手段のリッド4を組み込んだ器具は、絶縁材料の膜層で被われている。前記絶縁材料は、例えば発泡ポリスチレン又はその類似物などのポリスチレンとすることができる。試料保持手段1の本体部5も絶縁材料の膜層でカバーすることができる。試料保持手段の底部6は、必要な場合に、試料保持手段1の光透過性が得られるように、絶縁材料が無いことが好ましい。絶縁材料を試料保持手段1に追加することによって、前記器具の熱絶縁が更に改善される。一般に、前記絶縁材料は、例えば約0.01mmから約10mmの厚さの薄い膜層とすることができる。前記絶縁材料は発泡ポリスチレンであることが望ましい。
【0071】
図14に関し、別の実施例では、絶縁したリッド27を設けることができる。絶縁リッド27は、複数のロケーターポイント11を有する外側リッド支持フレーム10を備える。図15からより明らかに分かるように、外側リッド支持フレーム10は、フレーム支持用留金13によって内側リッド支持フレーム14と結合されている。絶縁材料12は、外側リッド支持フレーム10と内側リッド支持フレーム14との間に配置される。外側リッド支持フレーム10は更に、マルチウエルプレートの側部から下に延長するように形成された支持用留金17を備える。外側リッド支持フレーム10、内側リッド支持フレーム14及び支持用留金13,17によって、絶縁されたリッド27との構造的一体性が得られる。フレーム要素10,14,17は、マルチウエルプレートの周囲を囲繞するように形成されている。支持用留金13,14によって絶縁リッド27に強度が追加され、引張り力又は圧縮力への抵抗を補助する。リッド27の外面のロケーターポイント11は、プレートを上下に重ねることを補助し、下部プレートのリッドとその上に積層したプレートのベースとの間に隙間を設けるように高く設けられている。リッド27は、実質的に平坦で機械的に安定な、マルチウエルプレートの上に置かれてガス透過可能なカバーを提供する面を提供するように形成されている。
【0072】
本発明は、以下の実施例からより明確に理解することができる。
【実施例】
【0073】
実施例1−マトリックス組成(アガロースゲル)
前記マトリックスを、低融点精製アガロースを水に最終濃度が1%アガロースとなるように溶解させて調整した。前記アガロース溶液をマルチウエルプレートのウエルを囲繞する空間にピペットで分注して、固化し得るようにした。
【0074】
実施例2−マトリックス組成(二酸化炭素保持剤/安定剤)
前記マトリックスを、低融点精製アガロースを重曹の0.044M水溶液(1リットル当たり重曹3700mg)に溶解させることによって調整した。このアガロース溶液を、マルチウエルプレートのウエルを囲繞する空間にピペットで分注し、固化し得るようにした。
【0075】
実施例3−マトリックスのpH緩衝特性
pHを、フェノールレッドの色の変化の視覚評価により評価した。フェノールレッドは、Dulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM)培養培地内のpH指示薬として使用する。DMEMを適当に較正したインキュベーター(5%CO2及び37℃)内に配置したとき、前記培地は7.4に近いpHを有し、これらの条件下でフェノールレッドの色は赤である。前記培地のpHは、インキュベーター雰囲気の5%CO2とDMEM中の重曹(3700mg/L)との相互作用により維持される。前記培地は、インキュベーターの制御された雰囲気から移動させると、アルカリ性を強くする傾向があり、藤色/紫色を呈するようになる。組織培養インキュベーターの外側におけるCO2における変化を緩衝するゲルの有効性を評価するのに用いるのは、この色変化である。
【0076】
本発明によるマトリックスを含む器具の試料ウエル中のフェノールレッド培地(ゲルプレート)とゲルなしプレートとの比較が、色彩における実質的な差を示した。開放された実験室環境への10分以内の曝露で、ゲルなしプレート中のフェノールレッドに顕著な色の変化があった。それに対し、ゲルプレート中のDMEMは、同じ時間に亘って、CO2インキュベーターが制御するのと同じ色を保持した。
【0077】
本願発明者らは、ゲルプレート内での試料pHの保持が、ゲルの何らかの熱効果により引き起こされ得るものよりもむしろ、マイクロプレート環境内のCO2レベルを維持するゲルの能力によるものであることを示す実験を設計した。この実験では、ゲルプレート及び標準プレート双方を標準的な大気中CO2レベルで37℃の温度に加温し、かつ次にこれらのプレートを、室温及び標準的な大気中CO2に2時間保持されているそれと比較した(ここでpHが増加した)。これを観察したところ、加熱したプレートと室温にあるプレートとの間に色の差はなかった。
【0078】
更に、試料液体のpHがゲルプレート内のCO2により緩衝されたことを示すために、ゲルプレート及びゲルなしプレート内にそれらを室温に維持しつつCO2ガスを戻した。この処理の結果、試料液体の色は、プレートを5%CO2インキュベーター内に維持したときに見られた色に近いものに回復した。
【0079】
実施例4−温度保持(マトリックス)
標準の96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレート(本発明による器具)のウエルを、生理食塩水200μlを予め充填した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気かつ5%CO2、37℃に設定)内で12時間保持した。実験プロトコルの開始前に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートを前記インキュベーターから、室温を19℃に維持した標準的な実験条件に移した。表示された時間に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。図示するデータは、開始温度を100%で表し、かつ0%が室温に対応する(即ち、実験の熱条件の動的範囲の極値)とした場合の百分率で表されている(図9)。
【0080】
図9から分かるように、時間(分)がx軸であり、かつ百分率温度がy軸である。時間0で、標準プレート(白の棒線)及びマトリックスを含むプレート(黒の棒線)は双方共100%の温度を有する。前記プレートを室温(19℃)に置く時間が長くなるにつれて、百分率温度は低下している。10分後、標準プレートの温度が45%降下したのに対し、30分後、マトリックスを含む前記プレートの温度は開始温度の12%降下しただけであった。対照的に、マトリックスを含む前記プレートは温度の減少が20%であり、30分後、温度は開始温度の35%である。温度の変化は、標準プレートと比較してマトリックスを含むプレートにおいてより長い時間に亘って起こる。これらの徐々に起こる熱変化は、標準プレートにおいて観察される温度の急激な変化よりも、試料、例えば細胞に及ぼす害は少ないと考えられる。
【0081】
実施例5−再加温速度
標準96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレートのウエルを、生理食塩水200μlを予め充填しかつ37℃の温度に予め加温した後、室温で30分間保持した。次に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートをインキュベーター(95%空気、5%CO2、37℃に設定)内に移した。30分経過時に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。これらのデータを温度上昇(℃/分)として表す(図10)。
【0082】
図10は、マトリックスを含むプレートの再加温速度が標準プレートの再加温速度より遅いことを示している。
【0083】
図9及び図10のデータを1つにまとめると、マトリックスプレートを1つの環境からそれとは温度差がある別の環境へ、例えばインキュベーターから開放された実験室へ、又はフリーザーから開放された実験室へ移したとき、マトリックスプレートの温度は標準プレートの温度よりもより一定に維持されることを示している。従って、マトリックスプレートのウエルの内容物が受ける温度の変動は小さく、従って大きな温度変動で起こり得る有害な影響が少なくなっている。
【0084】
実施例6−細胞成長
標準96ウエルプレート及びマトリックス処理した96ウエルプレートのウエルを、不死化細胞株THP1の細胞を等密度(ウエル当たり細胞数3000個)で播種した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気、5%CO2、37℃に設定)内で48時間保持した。マトリックスプレート及び標準プレート双方を前記インキュベーターの中央に並べて配置した。
【0085】
図11及び図12から分かるように、マトリックスプレート内の細胞がより速く集密期に到達し(図11)、かつ細胞は標準96ウエルプレートで成長した細胞よりもよりバイアブル即ち生存可能であると認められ(図12)、これらの結果は、プレートの半分がマトリックスで他の半分が標準の場合にも反映され、半分のマトリックスのプレートでは細胞がより速く成長した(図示せず)。これは恐らく、微小環境が標準プレートよりもマトリックスプレートにおいてより安定しているという事実によるものである。
【0086】
また、フェノールレッドの色変化の視覚検査により、マトリックスプレートに入れられた培地におけるpH変化は、最大30分間変化しないままの状態であったのに対し、標準プレートでは大きな変化が認められたことに注目した。
【0087】
実施例7−温度保持(マトリックス及び絶縁)
標準96ウエルプレート及びゲルを含みかつ絶縁した96ウエルプレートのウエルを、生理食塩水200μlを予め充填した後、標準的な組織培養インキュベーター(95%空気かつ5%CO2、37℃に設定)内で12時間保持した。実験プロトコルの開始前に、液体ウエル内容物の温度測定を記録した。次に、プレートを前記インキュベーターから、室温を19℃に維持した標準的な実験条件に移した。表示された時間に、96ウエルプレートの中央上側、中央中程及び中央下側に対応するウエルの測定を記録した。図示するデータは、開始温度を100%で表し、かつ0%が室温に対応する(即ち、実験の熱条件の動的範囲の極値)とした場合の百分率で表されている。
【0088】
図16から分かるように、マトリックス及び絶縁物を含む96ウエルプレート(黒い棒線)は、マトリックス及び絶縁なしの96ウエルプレート(白い棒線)よりも長い時間温度を保持している。
【0089】
実施例8−蒸発及び水分エッジ効果
この実験は、本発明によるゲルプレートのウエル内の試料の水分保持特性をゲルなしプレートのウエル内の試料と比較して測定するように設計した。96ウエルプレートのウエルに無血清培養培地200μlを充填し、標準的な組織培養インキュベーター内で84日間保持した。この実験では図17に示すウエル15を試料ウエルとして用いた。図18を参照すると、前記ゲルプレートの試料ウエルは、水分保持特性がゲルなしプレートと比較して13倍以上大きいことが分かる(データはn=4回の実験のインキュベーション時間後に残存する容積百分率を表している)。
【0090】
実施例9−蒸発及び水分エッジ効果
この実験は、本発明によるゲルプレートのウエル中の試料の水分保持特性を、ゲルなしプレートのウエル中の試料と比較して測定するように設計した。96ウエルプレートのウエルに無血清培養培地100μlを充填し、かつ50℃に設定した標準的な乾燥オーブン内に48時間に亘って保持した。この実験では、図19に示すウエル18〜25を試料ウエルとして用いた。図20から分かるように、前記ゲルプレートは、ウエル内の水分が、ゲルなしプレートのウエルでは24〜91%であったのと比較して、94〜98%を保持した。前記ゲルプレートのウエル内に保持される水分は、試験した全てのウエル18〜25について全く一定であったのに対し、ゲルなしプレートでは、最も外側のウエル18,25における流体の喪失が非常に大きく、標準的なマルチウエルプレートのエッジ効果を示している。
【0091】
図21乃至図27を参照すると、本発明によるリッドは、2つの動作部分52,53を有する。部分52が上側(外側)リッドと考えられるのに対し、部分53は下側(内側)リッドと考えることができる。各部分52,53は、それぞれ少なくとも1つのオリフィス54,57を備える。オリフィス54,57の数は、その上に前記リッドを使用しようとするマルチウエルプレートのウエルの数を相補するものである。例えば、96ウエルプレートを使用する場合、前記リッドの各部分52,53は96のオリフィス54,57を有することになる。前記リッドのオリフィス54,57は、前記リッドを前記プレートの上に正しく装着したとき、前記マルチウエルプレートのウエルを、その上に直接位置するように、相補することになるように配置することができる。オリフィス54,57の幅(直径)は約1〜約5mmである。望ましくは、オリフィス54,57は、自動培養又はHTS及び/又はロボットハンドリングシステムから注入物を受け取るのに適した大きさ及び形状(寸法)を有する。
【0092】
図21及び図22を参照すると、本発明によるリッドは、外側リッド部分52を貫通して延長する複数のオリフィス54を有する上側リッド部分52(図21)と、前記リッドを開きかつ/又は閉じる際に補助するための手段を提供する部分56とを備える。前記リッドは更に、内側リッド部分53を貫通して延長する複数のオリフィス57を有する下側リッド部分53(図22)を備える。オリフィス53は、スペーサー領域と考えられる領域58が囲繞している。
【0093】
オリフィス54,57は、前記リッドが「開放」配置にあるときに、前記リッドを配置したプレートのウエルの内部へのアクセスを提供するように前記リッドを貫通するチャネル即ち通路を形成するように、リッド部分52,53を貫通している。前記リッドが「閉鎖」配置にあると、オリフィス54,57の実質的な整合により形成される前記チャネルが、オリフィス54,57が整合しないことによって、又はオリフィス54,57の流体流通を遮断する機能を有する閉鎖手段の挿入によって閉じられる。ある実施例では、オリフィス54,57が実質的に円形でありかつマルチウエルプレートのウエルの直径より大幅に小さい直径を有する。一般に、96ウエルマルチウエルプレートの直径は約7mmであり、オリフィス54,57の直径は約3mmとすることができる。
【0094】
前記マルチウエルサンプルプレートのウエルとオリフィス54,57との寸法の差によって、オリフィス54,57の整合により形成される前記チャネルを、前記オリフィスを整合させないことにより、例えば外側部分52を内側部分53に関して動かし、又はその逆にすることによって、閉じることが可能になる。このような構成では、内側部分53が外側部分52のオリフィス54への障壁として又はその逆に(オリフィス54がスペーサー領域58と重複する)機能する。
【0095】
オリフィス54,57は異なる寸法及び形状とすることができるが、同じ寸法及び形状とすることが好ましい。
【0096】
スペーサー領域58は、少なくとも1つの開口57を有する連続的な行又は列とすることができる。別の実施例では、スペーサー領域58は、各開口57がそれに関連する個々のスペーサー領域58を有するような不連続なものである。ある実施例では、開口57をスペーサー領域58の境界付近に設ける(配置する)ことができることが望ましい。別の実施例では、開口57は、前記リッドが閉鎖位置にあるときに外側リッド部分52の開口54の閉鎖部として機能する十分な面積のスペーサー領域58があるように、スペーサー領域58の境界に向けて配置することができる。スペーサー領域58は、内側部分53の開口57の上に(合わせて)配置されるように記載したが、別の実施例では、外側部分52と関連させて設けることもできる。
【0097】
望ましくは、スペーサー領域58は高さを高くする。例えば、スペーサー領域58は、内側のリッド部分53又は外側のリッド部分52の面から延長させることができる。一般に、前記スペーサー領域は約0.5mmから約5.0mmの高さを有する。スペーサー領域58を高くすると、内側のリッド部分53と外側のリッド部分52間の面対面接触を少なくするように機能し、これは、部分52,53が互いに相対的に動くことによって生じる摩擦の量を減らすことになり得る。また、スペーサー領域58は、液体、凝縮体又は固体粒子状物質、例えばダスト粒子又はその類似物のような好ましくない物質が内側部分53と外側部分52間の空間に入ることを防止する機能を発揮することができる。また、スペーサー領域58は、リッド部分52,53が一体に張り付くことを生じさせ得る好ましくない毛管効果(例えば凝縮)を制限又は抑制することができる。スペーサー領域58は、前記開口即ちオリフィス54,57に関連して説明したが、スペーサー領域58は、上述した機能が提供される限り、前記リッド内又はリッド上のあらゆる位置に配置することができる。
【0098】
オリフィス57はオリフィス54,57が整合しない(閉鎖配置)とき、スペーサー領域58がマルチウエルプレートのウエルの外部環境へのアクセスを閉じるように、スペーサー領域58の境界付近に配置することができる。
【0099】
更に別の実施例(図示せず)では、外側部分52及び内側部分53の開口54,57を互い違いに、又は前記リッドを装着した向き及び/又は位置によって特定のウエル又はウエルの行又はウエルの列へのアクセスを可能にするような方法で配置することができる。
【0100】
液体をサンプルプレートのウエルの様々な領域から、例えば前記ウエルの中央又は外縁から取り出し又は添加することが必要な場合があるので、内側部分53の開口57は形状を実質的に矩形にし、かつ開口57の長さが前記ウエルの半径又は直径のような主要な寸法に対応するように、例えば、前記リッドを開いたときに開口57によってウエルの上縁部、下縁部、中央部、左側縁部又は右側縁部へのアクセスが単に得られるように形成することができる。
【0101】
図23及び図24を見ると、外側部分52は、外側部分52と内側部分53とを一体に取り付けるための手段を有する。図示する実施例では、前記取付手段が突起59からなる。図示する実施例では、突起59が外側部分52の側壁60と一体をなしている。
【0102】
ある実施例では、外側部分52がオリフィス54からなるプレート状部分を有する。側壁60は前記プレート状部分から延出し、側壁60の末端である自由端に突起59が設けられている。また、外側部分52は、前記プレート状部分の反対側(図示せず)から延出する鏡像関係の側壁を備える。ある側面において、前記外側部分は、その自由端に内曲したフランジを有するように形成された実質的に正方形のブラケットとして考えることができる。
【0103】
内側部分53は、外側部分52の突起と適合/協働するように設計された溝62(即ち、舌片及び溝構造)を有することができる。望ましくは、内側部分53もまた、マルチウエル又はシングルウエルサンプルプレートと係合する側壁65を有する。側壁65は、内側部分53の全周縁に沿って連続する側壁とすることができる。別の実施例では、側壁65は、前記リッドがサンプルプレート上に保持されるように内側部分53をサンプルプレートと協働し得るようにする多数の部分で構成することができる。
【0104】
図23及び図24は、マルチウエルサンプルプレート上に配置した前記リッドを示している。内側部分53の側壁65は前記サンプルプレートの側壁67と接触し、それにより前記リッドをサンプルプレート上に保持している。更に、側壁60はまた、外側部分52が内側部分53に関して動き過ぎることを防止するストッパーとして機能することができる。別の実施例では、内側部分53はサンプルプレート(図示せず)上に固定することができる。
【0105】
部分52,53は、部分52が部分53に関して動くように、又はこの逆となるように連結することができる。望ましくは、部分52,53が相対的に線形平面内で動く。好ましくは、部分52,53は相対的にスライドする。好ましくは、前記リッドはまた少なくとも1つのストッパー(図示せず)を有する。前記ストッパーは、部分52の部分53に関する移動の量を制限することができる。望ましくは、部分52の部分53に関する移動の長さが約1〜約5mmの間となる。しかしながら、別の実施例(図示せず)では、部分52,53を相対的に回転させることができる。図23の開放配置において、オリフィス54,57は、互いに上下位置となるように整合している。前記開放配置では、整合させた前記オリフィスによって前記リッドを貫通するコンジットが画定され、その中をピペット68が矢印の向きに通過することができる。図23では、オリフィス54,57が完全に整合するように示されているが、ある場合には、オフセットさせたオリフィス54,57(図示せず)によりコンジットを画定して該コンジットの幅を小さくすることが望ましい。オリフィス54,57をオフセットさせて通路を形成すると、プレートのウエル64の表面全体が外部環境に露出されなくなり、前記ウエルの一部分のみが露出されることになる。開放又は部分的な開放配置では、オリフィス54,57により画定される前記コンジットによって、プレートのウエルに入るための手段が提供される。プレートのウエルを(完全に又は部分的に)露出させると、試料、溶液及びその類似物を前記ウエルから吸引し又はその中に分注することができる。前記リッドの閉鎖配置では(図24)、部分52,53は、部分52の実質部分55が部分53のオリフィス57の内側開口をカバーするように又はその逆となるように相対的にオフセットしている。前記リッドをプレート上に配置し、かつオリフィス57の内側部分が相補的な部材の実質部分55により覆われているとき、前記プレートのウエルは外部環境から保護される。
【0106】
別の実施例では、部分52又は53は多数の可動部材を備える。このような実施例では、前記可動部分を互いに独立して操作することができる。例えば、選択した行又は列のウエルのみを特定の時間にいつでも露出させることができる。
【0107】
また、上述したリッドを有するプレートは、例えば自動組織培養システム又はロボット液体ハンドリングシステム及びそれらの類似物において用いることができる。
【0108】
図25を参照すると、外側部分52はまた、外側部分52を内側部分53に関して動かすことを補助する突起56のような領域/部分を備えることができる。内側部分53は複数の突起56を有することができる。前記リッドは、自動装置(例えば、自動液体ハンドラー又はHTS装置のような)がプレートのリッドを開けてウエル64の内部へのアクセスを得ることができるように構成することができる。
【0109】
図25を参照すると、自動装置の針、ピペット先端部又はプローブ51が閉じたリッド上で突起56の位置を決める。プローブ51が突起56を押して外側部分52を内側部分53に関して矢印で示す向きにスライドさせる。前記リッドが開くと、自動装置のピペット68は液体をウエル64内に分注し、又はそれから吸引することができる。前記リッドを動かすために使用される自動装置の部分はまた、液体をウエル64内に又はそれから吸引するのに使用することができる。しかしながら、別の実施例では、前記リッドを自動装置の別個の手段51により開くことができ、かつピペット68は液体の吸引又は分注のみを行うことができる。この実施例は、吸引及び/又は分注の無菌技術が必要な場合に好ましい。
【0110】
図26では、前記リッドが突起56を矢印の向きに押すことによって閉じられる。分注器具68を用いて前記リッドを閉じることができる。別の実施例では、自動装置51の別の部分を用いて前記リッドを閉じることができる。
【0111】
突起56を用いて前記リッドを手動で開いたり閉じたりすることもできることが分かるであろう。
【0112】
別の実施例(図示せず)では、前記器具を開けたり閉じたりする際に補助するために使用される外側リッド53の領域/部分を、ボタン又は突条部又は凹み若しくはこれらの類似物とすることができる。一般に、前記領域/部分は、自動装置又はエンドユーザーがサンプルプレートのリッド全体を取り外す必要なく、サンプルプレートのウエルにアクセスできるように設計される。更に、前記リッドはまた、前記可動リッド部分を閉じ位置に向けて付勢する付勢手段を備えることができる。好ましくは、前記付勢手段はばね又はその類似物である。
【0113】
また、前記リッドは、図25乃至図27に示すようなロックを備えることができる。ロック69は、リッド52の可動部分上に配置することができ、かつリッド53の非可動部分がロック協働部分70を有するように又はその逆となるように設計することができる。望ましくは、ロック69が、外側部分52の内側部分53に関する動きを補足することができる。図25の矢印は、前記リッドが開放配置されているときの外側リッド52の動きの向きを示している。
【0114】
図26は、前記閉鎖配置に向けて動いているロック69を示している。移動の向きが矢印で示されている。図示する実施例では、ロック69が、前記リッドを開放配置と閉鎖配置との間でスライドさせたときに係合し得るスライダーである。内側部分53はまた、前記リッドが開放配置にあるときに(図25)、ロック69を収容するための傾斜溝71を備えることができる。このロック機構によって、サンプルプレートが輸送されているときに前記リッドが不用意に又は偶然に開くことを防止できる。特に、前記ロック機構は、多数のサンプルプレートを互いに上下に積み重ねた場合に前記リッドを安定化することができる。
【0115】
前記リッドは、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン又はその類似物のようなプラスチック材料で形成することができる。好ましくは、前記リッドはサンプルプレートと同じ材料で形成される。
【0116】
本発明のリッドは、上述した器具1と組み合わせて用いることができる。
【0117】
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、その詳細において様々に変化させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を入れるために、少なくとも1つの試料ウエルとオンボード(on-board)緩衝物質とを備え、前記緩衝物質が少なくとも部分的に前記試料ウエルを囲繞することを特徴とする器具。
【請求項2】
前記試料が、生物学的、化学的、物理的、物理化学的及びナノ技術的試料を含む群から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記物質がマトリックスの形態をなす請求項1又は2に記載の器具。
【請求項4】
前記物質が室温で固体又は半固体である請求項1乃至3のいずれかに記載の器具。
【請求項5】
前記物質がゲル状材料からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の器具。
【請求項6】
前記物質が天然ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項7】
前記物質が合成ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項8】
前記物質が半合成ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項9】
前記ゲル状材料がポリマーである請求項5乃至8のいずれかに記載の器具。
【請求項10】
前記ゲル状材料が、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種以上からなる請求項5に記載の器具。
【請求項11】
前記ゲル状材料が水性である請求項5乃至10のいずれかに記載の器具。
【請求項12】
前記物質が、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有する請求項1乃至11のいずれかに記載の器具。
【請求項13】
前記オンボード緩衝系が熱緩衝物である請求項1乃至12のいずれかに記載の器具。
【請求項14】
リッドを更に備える請求項1乃至13のいずれかに記載の器具。
【請求項15】
前記リッドが、試料保持手段へのアクセスを可能にするべく可動である請求項14に記載の器具。
【請求項16】
絶縁手段を更に備える請求項1乃至15のいずれかに記載の器具。
【請求項17】
前記絶縁手段が絶縁材料の膜層である請求項16に記載の器具。
【請求項18】
前記絶縁手段がポリスチレンからなる請求項16又は17に記載の器具。
【請求項19】
前記絶縁手段がリッドである請求項16乃至18のいずれかに記載の器具。
【請求項20】
前記器具がマルチウエルプレートである請求項1乃至19のいずれかに記載の器具。
【請求項22】
試料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質であって、雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供することを特徴とする物質。
【請求項23】
前記試料が、生物学的、化学的、物理的、物理化学的及びナノ技術的試料を含む群から選択される1種又は2種以上である請求項22に記載の物質。
【請求項24】
前記物質がマトリックスの形態をなす請求項22又は23に記載の物質。
【請求項25】
前記物質が室温で固体又は半固体である請求項22乃至24のいずれかに記載の物質。
【請求項26】
前記物質がゲル状材料からなる請求項22乃至25のいずれかに記載の物質。
【請求項27】
前記物質が天然ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項28】
前記物質が合成ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項29】
前記物質が半合成ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項30】
前記ゲル状材料がポリマーである請求項26乃至29のいずれかに記載の物質。
【請求項31】
前記ゲル状材料が、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種以上からなる請求項26に記載の物質。
【請求項32】
脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有する請求項22乃至31のいずれかに記載の物質。
【請求項33】
請求項22乃至32のいずれかに記載の物質を備えるマルチウエルプレート。
【請求項34】
シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートのためのリッドであって、前記リッドを通して試料のウエル内への導入を容易にしかつ前記ウエルをシールするように形成されていることを特徴とするリッド。
【請求項35】
試料導入の配置とシールする配置との間で互いに相対的に動く可動部分を備える請求項34に記載のリッド。
【請求項36】
前記各可動部分が少なくとも1つのオリフィスを有する請求項34又は35に記載のリッド。
【請求項37】
前記リッドの両方の前記可動部分の前記オリフィスを整合させることによってコンジットが形成される請求項36に記載のリッド。
【請求項38】
前記コンジットが、前記リッドの一方の前記可動部分の前記オリフィスを前記リッドの他方の前記可動部分のオリフィスに関して整合させないことによって閉じる請求項36又は37に記載のリッド。
【請求項39】
付勢手段を更に備える請求項34乃至38のいずれかに記載のリッド。
【請求項40】
前記付勢手段が前記リッドを閉鎖配置に付勢する請求項39に記載のリッド。
【請求項41】
前記付勢手段がばねである請求項39又は40に記載のリッド。
【請求項42】
前記リッドの前記可動部分が結合手段によって互いに結合されている請求項34乃至41のいずれかに記載のリッド。
【請求項43】
前記結合手段が、レール、スライダー、上側リッドからの突起、下側リッドからの突起からなる群から選択される請求項42に記載のリッド。
【請求項44】
前記リッドの前記可動部分の相対的な動きの量を制限するストッパーを更に備える請求項34乃至43のいずれかに記載のリッド。
【請求項45】
ロック機構を更に備える請求項34乃至44のいずれかに記載のリッド。
【請求項46】
前記リッドがプラスチック材料で形成されている請求項34乃至45のいずれかに記載のリッド。
【請求項47】
前記リッドの一方の前記可動部分が単体として形成されている請求項34乃至46のいずれかに記載のリッド。
【請求項48】
スペーサー要素を更に備える請求項34乃至47のいずれかに記載のリッド。
【請求項50】
シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートと請求項34乃至48のいずれかに記載のリッドとを備える器具。
【請求項51】
請求項34乃至48のいずれかに記載のリッドを更に備える請求項1乃至21のいずれかに記載の器具。
【請求項1】
試料を入れるために、少なくとも1つの試料ウエルとオンボード(on-board)緩衝物質とを備え、前記緩衝物質が少なくとも部分的に前記試料ウエルを囲繞することを特徴とする器具。
【請求項2】
前記試料が、生物学的、化学的、物理的、物理化学的及びナノ技術的試料を含む群から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記物質がマトリックスの形態をなす請求項1又は2に記載の器具。
【請求項4】
前記物質が室温で固体又は半固体である請求項1乃至3のいずれかに記載の器具。
【請求項5】
前記物質がゲル状材料からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の器具。
【請求項6】
前記物質が天然ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項7】
前記物質が合成ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項8】
前記物質が半合成ゲル状材料からなる請求項5に記載の器具。
【請求項9】
前記ゲル状材料がポリマーである請求項5乃至8のいずれかに記載の器具。
【請求項10】
前記ゲル状材料が、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種以上からなる請求項5に記載の器具。
【請求項11】
前記ゲル状材料が水性である請求項5乃至10のいずれかに記載の器具。
【請求項12】
前記物質が、脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有する請求項1乃至11のいずれかに記載の器具。
【請求項13】
前記オンボード緩衝系が熱緩衝物である請求項1乃至12のいずれかに記載の器具。
【請求項14】
リッドを更に備える請求項1乃至13のいずれかに記載の器具。
【請求項15】
前記リッドが、試料保持手段へのアクセスを可能にするべく可動である請求項14に記載の器具。
【請求項16】
絶縁手段を更に備える請求項1乃至15のいずれかに記載の器具。
【請求項17】
前記絶縁手段が絶縁材料の膜層である請求項16に記載の器具。
【請求項18】
前記絶縁手段がポリスチレンからなる請求項16又は17に記載の器具。
【請求項19】
前記絶縁手段がリッドである請求項16乃至18のいずれかに記載の器具。
【請求項20】
前記器具がマルチウエルプレートである請求項1乃至19のいずれかに記載の器具。
【請求項22】
試料を培養しかつ/又は検定する際に使用するための物質であって、雰囲気緩衝及び熱緩衝を提供することを特徴とする物質。
【請求項23】
前記試料が、生物学的、化学的、物理的、物理化学的及びナノ技術的試料を含む群から選択される1種又は2種以上である請求項22に記載の物質。
【請求項24】
前記物質がマトリックスの形態をなす請求項22又は23に記載の物質。
【請求項25】
前記物質が室温で固体又は半固体である請求項22乃至24のいずれかに記載の物質。
【請求項26】
前記物質がゲル状材料からなる請求項22乃至25のいずれかに記載の物質。
【請求項27】
前記物質が天然ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項28】
前記物質が合成ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項29】
前記物質が半合成ゲル状材料からなる請求項26に記載の物質。
【請求項30】
前記ゲル状材料がポリマーである請求項26乃至29のいずれかに記載の物質。
【請求項31】
前記ゲル状材料が、寒天、アガロース、アクリルアミド及びゼラチンからなる群から選択される1種又は2種以上からなる請求項26に記載の物質。
【請求項32】
脱酸素剤、発熱化合物、吸熱化合物、乾燥剤、pH指示薬、染料及び抗菌剤からなる群から選択した1種又は2種以上の添加物を更に有する請求項22乃至31のいずれかに記載の物質。
【請求項33】
請求項22乃至32のいずれかに記載の物質を備えるマルチウエルプレート。
【請求項34】
シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートのためのリッドであって、前記リッドを通して試料のウエル内への導入を容易にしかつ前記ウエルをシールするように形成されていることを特徴とするリッド。
【請求項35】
試料導入の配置とシールする配置との間で互いに相対的に動く可動部分を備える請求項34に記載のリッド。
【請求項36】
前記各可動部分が少なくとも1つのオリフィスを有する請求項34又は35に記載のリッド。
【請求項37】
前記リッドの両方の前記可動部分の前記オリフィスを整合させることによってコンジットが形成される請求項36に記載のリッド。
【請求項38】
前記コンジットが、前記リッドの一方の前記可動部分の前記オリフィスを前記リッドの他方の前記可動部分のオリフィスに関して整合させないことによって閉じる請求項36又は37に記載のリッド。
【請求項39】
付勢手段を更に備える請求項34乃至38のいずれかに記載のリッド。
【請求項40】
前記付勢手段が前記リッドを閉鎖配置に付勢する請求項39に記載のリッド。
【請求項41】
前記付勢手段がばねである請求項39又は40に記載のリッド。
【請求項42】
前記リッドの前記可動部分が結合手段によって互いに結合されている請求項34乃至41のいずれかに記載のリッド。
【請求項43】
前記結合手段が、レール、スライダー、上側リッドからの突起、下側リッドからの突起からなる群から選択される請求項42に記載のリッド。
【請求項44】
前記リッドの前記可動部分の相対的な動きの量を制限するストッパーを更に備える請求項34乃至43のいずれかに記載のリッド。
【請求項45】
ロック機構を更に備える請求項34乃至44のいずれかに記載のリッド。
【請求項46】
前記リッドがプラスチック材料で形成されている請求項34乃至45のいずれかに記載のリッド。
【請求項47】
前記リッドの一方の前記可動部分が単体として形成されている請求項34乃至46のいずれかに記載のリッド。
【請求項48】
スペーサー要素を更に備える請求項34乃至47のいずれかに記載のリッド。
【請求項50】
シングルウエル又はマルチウエルサンプルプレートと請求項34乃至48のいずれかに記載のリッドとを備える器具。
【請求項51】
請求項34乃至48のいずれかに記載のリッドを更に備える請求項1乃至21のいずれかに記載の器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2010−521148(P2010−521148A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553276(P2009−553276)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/IE2008/000020
【国際公開番号】WO2008/111035
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509256850)プロウボウスト・フェロウズ・アンド・スカラーズ・オブ・ザ・カレッジ・オブ・ザ・ホリー・アンド・アンデバイデッド・トリニティ・オブ・クイーン・エリザベス・ニア・ダブリン (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/IE2008/000020
【国際公開番号】WO2008/111035
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509256850)プロウボウスト・フェロウズ・アンド・スカラーズ・オブ・ザ・カレッジ・オブ・ザ・ホリー・アンド・アンデバイデッド・トリニティ・オブ・クイーン・エリザベス・ニア・ダブリン (1)
【Fターム(参考)】
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