説明

特定の粒度分布を有するピリチオン金属塩、及び、塗料組成物

【課題】粒度分布を調節することにより、塗料組成物の製造に適する吸油率を有し且つ分散性に優れたピリチオン金属塩、及び、防汚持続性に優れ且つ外観が良好な防汚塗膜を形成できる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ピリチオン金属塩を、粒度分布において、2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含み、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含むものとし、このピリチオン金属塩を塗料組成物に防汚有効成分として含有させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリチオン金属塩及び塗料組成物に関し、特に、特定の粒度分布を有するピリチオン金属塩及びこのピリチオン金属塩を含有する塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶及び各種水中構造物の表面に、バクテリア、原生動物、海藻類、無脊椎動物等の海洋生物が付着する。海洋運送作業及び海洋工学(例えば、近海での土木工事、熱交換機、海洋感知機、水中挿入物、養殖場の建設)の分野においては、この海洋生物の付着を防止することに対する関心が大きくなっている。
【0003】
海洋生物の付着には、次のような問題があった。
例えば、海洋生物が船底に付着すると、水との摩擦が増加するために、速度及び移動性が減少され、燃料をより消耗する。また、付着した海洋生物を除去するためにも、多大な費用がかかる。
また、海洋生物が船のプロペラに付着すると、それが極めて少量の付着であっても、プロペラの回転効率が顕著に減少し、プロペラが腐食する。
【0004】
このような付着に関係する海洋生体の大部分は、曼脚類として通称される甲殻類に属する生物である。この中でも、フジツボ、カキ、イガイ等が船底の表面に多く付着する。
【0005】
このような問題を解決するために防汚塗料が用いられ、例えば、トリブチルスズ(tributyltin)、トリフェニルスズ(triphenyltin)といったスズ系化合物を有効成分とする防汚塗料が最近まで使用されていた。
【0006】
しかし、スズ系化合物は、毒性物質を生体内に持続的に蓄積させるため、海洋生態系に大きい混乱を発生させることから、現在では多数の国家でその使用が禁止されている状態である。そこで、長期間に亘って優秀な防汚性を有し、且つ、人体及び魚貝類に対する安全性の高い低毒性の水中防汚剤の開発がなされており、この一例として、ピリチオンの金属塩、トリフェニルボラン−アミン混合体等を含み、且つ、防汚効能及び防汚持続性の面で向上された性能を有する、多様な組成の防汚塗料の開発が試みられている。
【0007】
一方、ピリチオンの不溶性多価塩の製造方法は、特許文献1に開示される。また、類似の化合物及びこれらの製造工程は、例えば、特許文献2〜特許文献5に開示される。このような方法を通じて製造されたピリチオン金属塩によれば、数μm〜数十μmの平均粒子径を有する製品が形成され、更に、多様な機械的操作ステップ(例えば、研磨又は粉砕)を施すことにより、0.1〜15μmの平均粒子径を有する製品を製造できる。
【特許文献1】米国特許第2809971号公報
【特許文献2】米国特許第2786847号公報
【特許文献3】米国特許第3589999号公報
【特許文献4】米国特許第3590035号公報
【特許文献5】米国特許第3773770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、同量のピリチオン塩を含有する塗料の間でも吸油率、分散性等の基本物性に差異があり、同量のピリチオン塩を含有する塗料を使用した場合でも塗料防汚持続性及び塗膜外観に差異が生じる場合が多くあった。これは、ピリチオン金属塩を防汚塗料に使用するに際しての粒度分布の具体的な言及が不足していたためであると考えられ、ピリチオン粒度分布に関する具体的な研究の必要性が増してきている。
【0009】
因みに、ピリチオン粒子径を調節して物性を向上させた例としては、ふけ防止効果を有する微粒化亜鉛物質を含む組成において、微粒化亜鉛物質を600Å未満の粒子径を有し、粒子の90質量%が50μm以下の粒子径を有するものとした技術が挙げられる(米国特許公開2004−191331号公報参照)。
【0010】
本発明の目的は、粒度分布を調節することにより、塗料組成物の製造に適する吸油率を有し、且つ、分散性に優れたピリチオン金属塩を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、防汚持続性に優れ、且つ、外観が良好な防汚塗膜を形成できる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した課題に鑑みて、鋭意研究を行ったところ、ピリチオン金属塩の粒度分布を特定の範囲に調節すると、ピリチオン金属塩の吸油率を塗料組成物の製造に適する範囲内とし、且つ、塗料組成物の製造時における分散性を良化できること、及び、このピリチオン金属塩を含有させると、塗料組成物の防汚持続性を向上させ、防汚塗膜の外観を良化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明のピリチオン金属塩は、粒度分布において2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含むとともに、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の塗料組成物は、2μm以下の粒子径を有する粒子を10重量%以上40重量%以下含むとともに、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5重量%以上20重量%以下含むピリチオン金属塩を防汚有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のピリチオン金属塩によれば、粒度分布において2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含有させたので、初期防汚性能に優れる。また、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含有させたので、塗料製造に適した吸油率を有し、且つ、分散性に優れる。
【0016】
また、本発明のピリチオン金属塩によれば、上述したピリチオン金属塩を防汚有効成分として含有させたので、防汚持続性に優れ、且つ、外観が良好な防汚塗膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
本発明のピリチオン金属塩は、以下の化学式1で表され、具体的には、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、マグネシウムピリチオン、バリウムピリチオン、及びストロンチウムピリチオンからなる群より選択される1種又は2種以上の混合物である。
【化1】

【0019】
このようなピリチオン金属塩の平均粒子径は、3μm以上8μm以下であることが好ましく、3.5μm以上7μm以下であることが更に好ましい。ただし、これらの範囲は、ピリチオン金属塩を防汚有効成分として用いるときに通常知られたものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のピリチオン金属塩は、粒子径2μm以下の粒子を、ピリチオン金属塩の全体に対して10質量%以上40質量%以下含有する。
粒子径2μm以下の粒子の含有量が10重量%未満であると初期防汚活性が低下し、40重量%を超えると防汚持続性が低下するため、ピリチオン金属塩の製造コストが多大になる点で好ましくない。
【0021】
そして、本発明のピリチオン金属塩は、粒子径10μm以上の粒子を、ピリチオン金属塩の全体に対して5質量%以上20質量%以下含有する。
粒子径10μm以上の粒子の含有量が5質量%未満であると防汚持続性が低下し、20質量%を超えると吸油率及び分散性が悪化する点で好ましくない。また、これらのピリチオン金属塩を含有する防汚塗料を船舶に塗布すると、形成された塗膜の外観が不良となる。
【0022】
このような粒度分布を有するピリチオン金属塩の製造方法は特に限定されず、例えば、通常のピリチオン金属塩の製造工程の後に機械的操作ステップ(例えば、研磨又は粉砕)を行えばよい。
【0023】
本発明の塗料組成物は、防汚有効成分として、上述したようなピリチオン金属塩を含有する。防汚有効成分としてのピリチオン金属塩の含有量は、塗料組成物の全体に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の塗料組成物は、ピリチオン金属塩の他、樹脂、顔料類、可塑剤、溶剤、添加剤(例えば、表面調整剤、流れ防止剤)等の任意成分を更に含有していてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0026】
(ピリチオン金属塩微粉末の製造)
<実施例1> 亜鉛ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%塩化亜鉛190g(塩化亜鉛:0.7mmol)を10分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、熱風乾燥機により、水分含量0.5質量%以下になるように70℃で乾燥した後、ハンマーミルを用いて粉砕することで、亜鉛ピリチオン微粉末を得た。
【0027】
得られた亜鉛ピリチオン微粉末は212gであり、理論値と比較した収率は99.5%であった。ヨード滴定法を通じた純度は99.2%であった。また、この亜鉛ピリチオン微粉末について、粒度分布測定装置「Mastersiser 2000(商品名)」(マルバーン(Malvern)社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0028】
この亜鉛ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.32ML/gであった。
また、亜鉛ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、90μmであった。なお、分散性は、測定値が小さいほど優れている。
【0029】
<実施例2> 銅ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%塩化銅186g(塩化銅:0.7mmol)を60分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、熱風乾燥機により、水分含量0.5質量%以下になるように70℃で乾燥した後、エアジェット粉砕機を用いて粉砕することで、銅ピリチオン微粉末を得た。
【0030】
得られた銅ピリチオン微粉末は210gであり、理論値と比較した収率は99.3%であった。化学分析により測定された純度は98.7%であった。また、この銅ピリチオン微粉末について、粒度分布測定装置「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0031】
この銅ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.35ML/gであった。
また、銅ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、70μmであった。
【0032】
<実施例3> 亜鉛ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%亜鉛190g(塩化亜鉛:0.7mmol)を10分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、熱風乾燥機により、水分含量0.5質量%以下になるように70℃で乾燥した。乾燥の後、全体の2/3はハンマーミルを用いて粉砕し、粉砕を行わなかった残りの1/3と十分に混合することで、亜鉛ピリチオン微粉末を得た。
【0033】
得られた亜鉛ピリチオン微粉末は211gであり、理論値と比較した収率は99.1%であった。化学分析により測定された純度は99.8%であった。また、この亜鉛ピリチオン微粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0034】
この亜鉛ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.34ML/gであった。
また、亜鉛ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、100μmであった。
【0035】
<実施例4> 銅ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%塩化銅186g(塩化銅:0.7mmol)を60分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、熱風乾燥機により、水分含量0.5質量%以下になるように70℃で乾燥した。乾燥の後、全体の2/3はハンマーミルを用いて粉砕し、粉砕を行わなかった残りの1/3と十分に混合することで、銅ピリチオン微粉末を得た。
【0036】
得られた銅ピリチオン微粉末は210gであり、理論値と比較した収率は99.3%であった。化学分析により測定された純度は98.9%であった。また、この銅ピリチオン微粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0037】
この銅ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.39ML/gであった。
また、銅ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、100μmであった。
【0038】
<実施例5> 亜鉛ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%亜鉛190g(塩化亜鉛:0.7mmol)を10分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、50メッシュを用いて濾過し、通過したものを亜鉛ピリチオン微粉末として得た。
【0039】
得られた亜鉛ピリチオン微粉末は212gであり、理論値と比較した収率は99.5%であった。化学分析により測定された純度は98.8%であった。また、この亜鉛ピリチオン微粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0040】
この亜鉛ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.35ML/gであった。
また、亜鉛ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、90μmであった。
【0041】
<実施例6> 銅ピリチオン微粉末の製造
20質量%のピリチオンナトリウム水溶液1000g(ピリチオンナトリウム1.34mmol)を機械式攪拌装置付きの2L反応器に投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。ここに50質量%塩化銅186g(塩化銅:0.7mmol)を60分間かけて投入した。投入の完了後に、70℃で1時間攪拌することで脱水させた後、蒸留水500gで洗浄した。生成された固体を、50メッシュを用いて濾過し、通過したものを銅ピリチオン微粉末として得た。
【0042】
得られた銅ピリチオン微粉末は209gであり、理論値と比較した収率は98.8%であった。化学分析により測定された純度は99.3%であった。また、この銅ピリチオン微粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0043】
この銅ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.35ML/gであった。
また、銅ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、80μmであった。
【0044】
<比較例1> 銅ピリチオン微粉末の製造
実施例2で得られた銅ピリチオンを、注入速度を調節しながらエアジェット粉砕機で再粉砕することにより、実施例2に比べ平均粒子径が小さい銅ピリチオン微粉末を得た。この銅ピリチオン微粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0045】
得られた銅ピリチオン微粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.30ML/gであった。
また、銅ピリチオン微粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、100μmであった。
【0046】
<比較例2> 銅ピリチオン微粉末の製造
実施例2の乾燥段階までは同様の手順で行った後、粉砕を行わずに、銅ピリチオン粉末を得た。この銅ピリチオン粉末について、「Mastersiser 2000」(マルバーン社製)を用いて粒度分布を測定した結果を表1に示す。
【0047】
この銅ピリチオン粉末の吸油率を、KS M ISO 787−5記載の方法に従って測定した結果、吸油率は0.40ML/gであった。
また、銅ピリチオン粉末の分散性を、KS M ISO 1524、KS M ISO 8780−3記載の方法に従って測定した結果、250μmであった。
【0048】
【表1】

【0049】
表1において、「D」は累積体積分率を意味する。例えば、「D(0.1)」とは、任意に選択された一定個数の粒子を粒子径順に並べたときに、粒子径の小さい方から数えて、この一定個数の10質量%(即ち、0.1)を含有する粒子径として定義される。
【0050】
実施例1の場合、一定個数の粒子を粒子径順に並べたとき、粒子径の小さい方から数えて、この一定個数の10質量%(即ち、0.1)を含有する粒子径は1.3μmであり、20質量%を含有する粒子径は1.9μmで、30質量%を含有する粒子径は2.1μmである。
従って、粒子全体において、粒子径が2μm以下の粒子は20質量%以上30質量%以下であることが分かる。また、D(0.9)が5.7μmで、D(0.95)が10.7μmであることから、粒子径が10μm以上の粒子は5質量%以上10質量%以下であることが分かる。
【0051】
同様に、実施例2の場合、粒子全体において、粒子径が2μm以下の粒子は20質量%以上30質量%以下であり、粒子径が10μm以上の粒子は5質量%以上10質量%以下であることが分かる。
【0052】
実施例3の場合、粒子径が2μm以下の粒子は10質量%以上20質量%以下であり、粒子径が10μm以上の粒子は10質量%以上20質量%以下であることが分かる。
【0053】
実施例4の場合、粒子径が2μm以下の粒子は10質量%以上20質量%以下であり、粒子径が10μm以上の粒子は10質量%以上20質量%以下であることが分かる。
【0054】
実施例5の場合、粒子径が2μm以下の粒子は10質量%以上20質量%以下であり、粒子径が10μm以上の粒子は5質量%以上10質量%以下であることが分かる。
【0055】
実施例6の場合、粒子径が2μm以下の粒子は30質量%以上40質量%以下であり、粒子径が10μm以上の粒子は5質量%以上10質量%以下であることが分かる。
【0056】
このように、実施例1〜6においては、いずれも、2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含むとともに、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含む、という条件を満たしていることが分かった。
【0057】
一方、比較例1の場合、粒子径が2μm以下の粒子は40質量%以上50質量%以下であったことから、10質量%以上40質量%以下という条件は満たしていた。しかし、粒子径が10μm以上の粒子は5質量%未満であったことから、5質量%以上20質量%以下という条件を満たしていなかった。
【0058】
また、比較例2の場合、粒子径が10μm以上の粒子は20質量%以上50質量%以下であったことから、5質量%以上20質量%以下という条件は満たしていた。しかし、粒子径が2μm以下の粒子は10%未満であったことから、10質量%以上40質量%以下という条件を満たしていなかった。
【0059】
また、実施例1〜6で得られた特定の粒度分布を有するピリチオン金属塩は、0.32ML/g以上0.39ML/g以下の吸油率を示し塗料組成物の製造に適すること、及び、70μm以上100μm以下の優れた分散性を有することが分かった。
【0060】
(塗料組成物の製造)
次に、本発明の実施例において得られたピリチオン金属塩、及び、比較例において得られたピリチオン金属塩を、塗料組成物に適用したときの防汚特性を説明する。
【0061】
<実施例7>
アクリル酸72g、メタクリル酸メチル500g、アクリル酸エチル428gのモノマー混合物を共重合して得られた共重合体(数平均分子量10,000程度)の50質量%酢酸ブチル溶液に、酸化亜鉛80g、ブタノール50g、水10gを添加し、120℃で10時間反応させることで、固形分50質量%の透明な樹脂溶液を得た。
【0062】
この樹脂溶液100gに塩素化パラフィン5g、実施例1で得られた亜鉛ピリチオン20g、亜酸化銅40g、ベンガラ4g、シリカ粉末「Aerosil#2(商品名)」(デグサ(Degussa)社製)1g、及びキシレン22gを混合し、分散させることで、塗料組成物を得た。
【0063】
ビニルタール系塗料を防食塗装した100×300×3.5mm試験板に、この塗料組成物を乾燥膜厚100μmになるように塗布し、乾燥した後、肉眼で塗膜外観を確認した結果を表2に示す。
【0064】
一方、前記乾燥されたガラスパネルを慶尚南道巨済島の近海に水深1mで沈漬し、沈積開始時のガラスパネル面を基準にして、定期的に海洋生物の付着状態を調査して、ガラスパネル全面積における海洋生物が付着した面積の百分率を計算した。この百分率を海洋生物付着率として、表2に示す。
【0065】
<実施例8〜12>
実施例8〜12においては、各々実施例2〜6で得られたピリチオン金属塩微粉末を防汚有効成分として添加した点を除き、実施例7と同様の方法で塗料組成物を作製した。
作製した各々の塗料組成物を用いて、実施例7と同様の方法で確認された、塗膜外観及び海洋生物の付着状態の結果を表2に示す。
【0066】
<比較例3〜4>
比較例3〜4においては、各々比較例1〜2で得られたピリチオン金属塩微粉末を防汚有効成分として添加した点を除き、実施例7と同様の方法で塗料組成物を作製した。
作製した各々の塗料組成物を用いて、実施例7と同様の方法で確認された、塗膜外観及び海洋生物の付着状態の結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示されるように、実施例7〜12の塗料組成物を用いた場合には、塗布後6ヶ月経っても海洋生物付着率の上昇が小さかったことから、防汚持続性が良好であることが分かった。更に、塗膜外観が良好であったことから、実施例7〜12の塗料組成物によれば、外観が良好な防汚塗膜を形成できることが分かった。
【0069】
しかし、比較例3の塗料組成物を用いた場合、塗膜外観は良好だったが、防汚持続性が各実施例より劣っていた。塗膜外観が良好だったのは、比較例1で得られたピリチオン金属塩が優れた分散性を有していたためであると考えられ、防汚持続性が劣っていたのは、比較例1で得られたピリチオン金属塩が粒子径10μm以上の粒子を5質量%以上含んではいなかったためであると考えられる。
【0070】
比較例4の塗料組成物を用いた場合、塗膜外観が不良であり、且つ、防汚持続性が各実施例より劣っていた。塗膜外観が不良だったのは、比較例2で得られたピリチオン金属塩が優れた分散性を有しなかったためであると考えられ、防汚持続性が劣っていたのは、比較例2で得られたピリチオン金属塩が粒子径2μm以下の粒子を10質量%以上含んではいなかったためであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度分布において、2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含むとともに、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含むピリチオン金属塩。
【請求項2】
前記ピリチオン金属塩は、以下の化学式1で表される化合物から選択される1種又は2種以上の混合物である請求項1記載のピリチオン金属塩。
【化1】

【請求項3】
粒度分布において、2μm以下の粒子径を有する粒子を10質量%以上40質量%以下含むとともに、10.0μm以上の粒子径を有する粒子を5質量%以上20質量%以下含むピリチオン金属塩を防汚有効成分として含有する塗料組成物。
【請求項4】
前記ピリチオン金属塩は、以下の化学式1で表される化合物から選択される1種又は2種以上の混合物である請求項3記載の塗料組成物。
【化2】

【請求項5】
前記ピリチオン金属塩を、全体に対して1質量%以上20質量%以下含有する請求項3又は4記載の塗料組成物。

【公開番号】特開2006−232808(P2006−232808A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334934(P2005−334934)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】