説明

特殊形状メッキ用電気ニッケルの製造方法

【課題】 生産性を高めるために高電流密度化を図っても、電着物の母板面に黒い変色した部分が生じない特殊形状メッキ用電気ニッケルの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 特殊形状の電析が得られるように表面をマスキングして電着部を設けたカソードを用い、硫黄源を含み、ニッケル濃度68〜95g/l、pH2.4〜4.0の塩化ニッケル溶液を電解液とし、電流密度を1100〜1350A/m2とし、望ましくは、電流密度をX(A/m2)とし、塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度をY(g/l)としたときに、電流密度Xとニッケル濃度Yとが下記式で示される関係を満たすようにする。
Y≧0.03X + 35.63

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊形状メッキ用電気ニッケルの製造方法に関し、具体的には、表面状態の良好な特殊形状メッキ用電気ニッケルを効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ用電気ニッケルは、カソードとして予め大型のステンレス板にニッケルを厚さ1〜1.5mmに電着させ、剥ぎ取って得たニッケル板を成形して得たものを用い、このカソードの表面にニッケルを電着させて厚さ約10〜15mmの電気ニッケル板を得、得た電気ニッケル板を、例えば、25〜100mm角といった所望形状に切断して得ている(特許文献1 参照)。
【0003】
こうしたメッキ用電気ニッケルは、使用に際してチタン製アノードボックス内に充填され、アノードとして用いられる。この際、前記電気ニッケルを切断したメッキ用電気ニッケルでは、角部が鋭く、チタンバスケットへの投入時に手を切る等の取り扱い上の危険があったり、投入後も角部がチタンバスケットの網目に引っかかり、所謂棚吊りを起こし、チタンバスケット内での充填状態が変化してメッキむらの一因となったりすることが指摘されている。
【0004】
こうした問題を解消するために、円形アイランドあるいは楕円形アイランドを有するカソードを用い、例えば、電解液としてニッケル濃度68.9g/l、硫酸根濃度49.6g/l、塩素イオン濃度89.7g/lのpH2.5の硫酸ニッケル溶液を用い、電流密度を1300〜1600A/m2として電解し、平坦底部A、平坦底部から垂直に測った最大高さをhとし、h/Aの比が少なくとも0.118cm-1で、全表面積がその平坦部底部面積の少なくとも3倍の半球状または半楕円形状のメッキ用電気ニッケルを得ることが提案されている(特許文献2 参照)。その後、以下の多くの改良がい提案され、実施されて鋭いエッヂやコーナーのない半球状または半楕円形状のメッキ用電気ニッケル(以下、本明細書では 単に「特殊形状メッキ用電気ニッケル」と記す)が実用化されている。
【0005】
特殊形状メッキ用電気ニッケルの溶解性を改良すべく、チオ尿素含有塩化ニッケル溶液を用い、電流密度933A/m2で、複数の導電部を残して表面を非導電膜でマスキングした陰極板を用い、直径0.2〜5mmの空気又は不活性ガスの気泡を、該気泡が陰極板の表面に触れるように発生させながら空気又は不活性ガスをメッキ液の表面積当たり1〜50ml/cm2・分の流量で供給しつつ電着する方法が開示されている(特許文献3 参照)。この方法によれば、表面の凹凸が少なく、硫黄分布の良好な表面平滑の特殊形状メッキ用電気ニッケルが得られるとしている。
【0006】
また、同様の課題を解決すべく、電解液としてチオ硫酸ナトリウムを含む塩化ニッケル液を用い、複数の半球状導電部を残して表面が非導電膜で覆われた陰極板を使用し、電流密度933A/m2で電解して、前記陰極板の半球状導電部にニッケルを電着させた後、これを剥離す方法も開示されている(特許文献4 参照)。この方法によれば、厚みがほぼ均一で内部に空隙を有する略半球ドーム状で、表面の凹凸が少なく、硫黄分布のバラツキが少ない小塊状の特殊形状メッキ用電気ニッケルを得ることができるとしている。
【0007】
また、メッキ用電気ニッケル中の鉛品位を低下させるために、特殊形状の電析が得られるように表面をマスキングして電着部を設けたカソードを用いて電気ニッケルを製造する際に、その電解給液として、塩化ニッケル溶液からのニッケル電解採取における脱塩素処理した電解廃液を用い、電解廃液のニッケル濃度を70〜80g/lに、及びpHを3.0〜4.0に調整し、電流密度800〜900A/m2として電解を行う方法が開示されている(特許文献5 参照)。この方法によれば、鉛品位の低い丸みのある小塊状のような特殊形状を有し、硫黄を含有した特殊形状メッキ用電気ニッケルを、安定して生産性良く製造することができるとしている。
【0008】
また、特殊形状電気ニッケルを製造する際に過剰な電析をなくすと共に、硫黄の均一な分散を助け、優れた品質のものを安定して生産性良く製造するために、特殊形状の電析が得られるように表面をマスキングして電着部を設けたカソードを用いて、ハイポを共存させた硫酸ニッケル溶液を電解液とし、ニッケル濃度を60〜95g/l、pHを3.1〜4.0とした電解液を用いて通電するに際して、カソード電流密度を400〜480A/m2の範囲内とし、水素ガスの発生を抑制し又は発生した水素ガスをカソードから強制的に引き離しながら電解す方法が開示されている(特許文献6 参照)。
【0009】
以上述べたように、各種の問題を解決しつつ特殊形状メッキ用電気ニッケルの生産が行われてきているが、塩化ニッケル溶液を電解液とし、電流密度を1100A/m2以上に上昇させて特殊形状メッキ用電気ニッケルの生産性を向上させようとすると、電着物の母板側面に黒い変色した部分が生じるという問題が発生する。
【0010】
近年の電子機器の高密度化、高機能化に伴い、メッキ用電気ニッケルについても不純物品位ばかりか表面状態についても厳しく合否判断され、黒色に変色した部分を有するものは不良品とされるようになってきた。従って、高生産性を目指した高電流密度化のためには黒色変色を防止しなければならないという問題が発生している。
【特許文献1】特開昭62−033798号公報
【特許文献2】特公昭62−034836号公報
【特許文献3】特開平10−317196号公報
【特許文献4】特開平10−317197号公報
【特許文献5】特開2002−302786号公報
【特許文献6】特開2002−302787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、生産性を高めるために高電流密度化を図っても、電着物の母板面に黒い変色した部分が生じない特殊形状メッキ用電気ニッケルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは種々の検討を行った結果、前記黒色変色部の発生と、電流密度と、電解液として用いる塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度との間に関連があることを見出して本発明に至った。
【0013】
即ち、前記課題を解決する本発明の方法は、特殊形状の電析が得られるように表面をマスキングして電着部を設けたカソードを用い、硫黄源を含み、ニッケル濃度68〜95g/l、pH2.4〜4.0の塩化ニッケル溶液を電解液とし、電流密度を1100〜1350A/m2とすることを特徴とする特殊形状のメッキ用電気ニッケルの製造方法である。
【0014】
そして、本発明の別の態様は、前記発明において、電流密度をX(A/m2)とし、塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度をY(g/l)としたときに、電流密度Xとニッケル濃度Yとが下記数1で示される関係を満たすようにするものである。
【0015】
【数1】

【発明の効果】
【0016】
本発明に従えば、電流密度を1100〜1350A/m2としても黒色変色部は生じないので、良好な特殊形状のメッキ用電気ニッケルを高生産性で製造することができる。また、塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度と電流密度とを、数1の関係を満たすようにすれば、より確実に黒色変色部の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、前記黒色変色部がどのようなものであるかXPSを用いて検討した。その結果、856〜857eVに見られる水酸化ニッケルのピークが正常品より多いことがわかった。そして、黒色変色部を構成するものを水酸化ニッケルと仮定して種々の検討を行った。即ち、縦100mm、横250mm、厚さ2mmのステンレス板の片側表面に直径12mmの円形の導電部(開口部)を21mmのピッチで規則的に設けた非導電膜でマスキングして得たカソードと、同じ大きさの不溶性電極板(アノード)を用い、電流密度を1100〜1350A/m2の範囲内で、ニッケル濃度を65〜95g/lの範囲内で振り、特殊形状メッキ用電気ニッケルを得た。なお、pHは水酸化ナトリウムを用いて2.4〜4.0の範囲内になるようにした。得られた特殊形状のメッキ用電気ニッケルの表面を観察し、黒色変色部の有無を確認した。得られた結果と角条件とを図1に示した。
【0018】
図1より、黒色変色部の発生は電流密度と塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度と相関が見られ、その関係は下記数1で示されるものであった。
【0019】
【数1】

【0020】
本発明において電流密度を1100〜1350A/m2とするのは、この範囲とすれば黒色変色部は生じないので、良好な特殊形状のメッキ用電気ニッケルを高生産性で製造することができるからである。
【0021】
以下実施例を用いて本発明を更に説明する。
【実施例】
【0022】
(実施例)
横800mm、縦1000mm、厚さ5mmのステンレス板の両面に、片面の個数が約2000個の円形の電着部を施し、この電着部以外が絶縁塗料でマスキングされたカソードを得た。尚、各電着部の直径は12mm、電着部相互の中心間距離は21mmとした。また、アノードには、カソードと同じ大きさの不溶性電極板を用いた。カソード52枚とアノード53枚を極間距離が55mmとなるように、約7m3の電解槽にセットした。
【0023】
この電解槽に、脱塩素処理したニッケル濃度80〜85g/lの塩化ニッケル液を35リットル/分の割合で定量給液し、電解廃液は槽外に払い出した。その際の電解給液のpHは苛性ソーダにて2.4〜4.0の範囲内に維持し、液温は60℃とした。また、電解給液には、硫黄源とてチオ硫酸ナトリウムを濃度10mg/lとなるように給液直前に添加した。この状態で電着部での初期の実電流密度が1230A/m2に相当するように整流器を調節し、約150時間の電解を行った。
【0024】
その後、カソードを引き揚げ、純水で洗浄して乾燥した後、ニッケル電着物を剥ぎ取った。得られたメッキ用電気ニッケルは丸みのある小塊状であり、その表面状態は良好であり、黒色変色部は見られなかった。
【0025】
次に、得られたメッキ用電気ニッケルの内50個をチタンボックスに装入してアノードとし、ニッケル板をカソードとした電解溶解試験を実施した。電解溶解試験の電解液組成は、NiSO4・6H2O:240g/l、NiCl2・6H20:45g/l、ホウ酸35g/lとし、液温は室温(25℃)とした。無撹拌のまま、1.25Aの電流で17.6時間通電した結果、溶解性は良好であり、めっきアノードに適したメッキ用電気ニッケルであることが確認された。
(比較例)
塩化ニッケル液のニッケル濃度を65〜70g/lとした以外は実施例と同様にしてメッキ用電気ニッケルを得た。得られたメッキ用電気ニッケルは丸みのある小塊状であり、その表面形状は実施例で得られたものと同様であるものの、多くのものに黒色変色部が見られた。黒色変色部を有するものは製品とすることのできないものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の検討結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特殊形状の電析が得られるように表面をマスキングして電着部を設けたカソードを用い、硫黄源を含み、ニッケル濃度68〜95g/l、pH2.4〜4.0の塩化ニッケル溶液を電解液とし、電流密度を1100〜1350A/m2とすることを特徴とする特殊形状のメッキ用電気ニッケルの製造方法。
【請求項2】
電流密度をX(A/m2)とし、塩化ニッケル溶液中のニッケル濃度をY(g/l)としたときに、電流密度Xとニッケル濃度Yとが下記数1で示される関係を満たすようにする請求項1記載の製造方法。
【数1】


【図1】
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【公開番号】特開2009−287091(P2009−287091A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141781(P2008−141781)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】