説明

特異捕捉用磁性粒子およびその製造方法

【課題】 非特異吸着が少ない特異捕捉用磁性粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の特異捕捉用磁性粒子は、粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と、糖類と、を含み、前記磁性粒子および前記糖類が化学結合しており、かつ、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子および糖類を含む特異捕捉用磁性粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬などの分野で、分子間相互作用を利用して、ある特定の分子に特異的な相互作用を有する分子を探索する試みが盛んに行われている。具体的には、相互作用を有する片方の分子を担体に固定し、特異的相互作用を利用してもう片方の分子(ターゲット)を捕捉、精製することが広く行われている。例えば、アフィニティー樹脂を用いた免疫抑制剤FK506の細胞内結合タンパク質FKBP12の発見などが知られている。このようなアフィニティー樹脂としては、アガロースなどの多孔質ゲルが一般的に用いられている。しかしながら、多孔質ゲルを用いる場合、ターゲット分子以外の分子がアフィニティー樹脂に吸着する、いわゆる、非特異吸着と呼ばれる現象が生じ、ターゲット分子の分離、精製が困難であるという問題が生じる。
【0003】
かかる非特異吸着の解決策として、表面がグリシジルメタクリレートで覆われたスチレン−グリシジルメタクリレート重合体にスペーサを介してプローブを結合したミクロスフィア(特許文献―1,2)、粒子表面に親水性のスペーサを導入した粒子(特許文献―3,4)などが提案されている。しかしながら、これらはいずれも非特異吸着の低減効果が充分ではなく、さらに非特異吸着の少ない担体用粒子が求められている。
【特許文献1】特許第3086427号公報
【特許文献2】特許第3292721号公報
【特許文献3】WO 2004/025297 A1号公報
【特許文献4】WO 2004/040305 A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、タンパク質、ペプチド、核酸、細胞などの生体関連物質の非特異吸着が極めて少ない特異捕捉用磁性粒子およびその製造方法を提供することである。
【0005】
本発明の第1の態様の特異捕捉用磁性粒子は、
粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と、糖類と、を含み、
前記磁性粒子および前記糖類が化学結合しており、かつ、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合している。
【0006】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子において、前記糖類は多糖類であることができる。
【0007】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子において、前記糖類はカルボキシメチル化されていることができる。
【0008】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子において、前記磁性粒子および前記糖類の前記化学結合は、アミド結合およびエステル結合の少なくとも一方を含む結合基によることができる。
【0009】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子において、前記磁性粒子は、核粒子と、前記核粒子の表面に形成された磁性体層とを含む母粒子の前記磁性体層上に、ポリマー層を重合により形成することにより得られ、前記磁性体層は、FeおよびFeの少なくとも一方を含むことができる。
【0010】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子において、前記プローブは、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖化合物、および化学物質から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0011】
本発明の第2の態様の特異捕捉用磁性粒子の製造方法は、
粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と糖類とを化学結合させる工程と、
目的物質を特異的に捕捉するためのプローブを前記糖類に化学結合させる工程と、
を含む。
【0012】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子の製造方法において、前記磁性粒子と前記糖類とを化学結合させる際、
前記磁性粒子は、第1の官能基を有し、
前記糖類は、第2の官能基を有し、
前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させることにより、前記磁性粒子と前記糖類とを結合させることができる。
【0013】
ここで、上記本発明の特異捕捉用磁性粒子の製造方法において、前記第1の官能基は、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、およびトシル基から選ばれる少なくとも1種以上の官能基であることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の特異捕捉用磁性粒子によれば、粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と、糖類と、を含み、前記磁性粒子および前記糖類が化学結合しており、かつ、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合していることにより、非特異吸着が少ないという特徴を有する。これにより、目的物質の分離および精製を容易にかつ高精度にて行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の特異捕捉用磁性粒子およびその製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
1.特異捕捉用磁性粒子
本発明の特異捕捉用磁性粒子は、磁性粒子と、糖類と、を含む。ここで、糖類は、磁性粒子の表面を被覆していてもよい。
【0017】
また、本発明の特異捕捉用磁性粒子においては、磁性粒子および糖類が化学結合している。ここで、特に限定されないが、磁性粒子と糖類との化学結合は、アミド結合およびエステル結合の少なくとも一方を含む結合基によるものが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の特異捕捉用磁性粒子においては、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合している。ここで、特に限定されないが、糖類とプローブとは、例えば、−O−結合、−S−結合、−SO−結合、−SO−結合、−CO−結合、−CO−結合、−NR−結合(ここで、R,Rは独立して、アルキル基またはH)、−NHCO−結合、−PO−結合などの化学結合を介して結合していることができる。例えば、糖類に含まれる官能基とプローブに含まれる官能基とを公知の方法により化学反応させることにより、糖類とプローブとを化学結合させることができる。
【0019】
ここで、糖類に含まれる官能基およびプローブに含まれる官能基は特に限定されないが、例えば、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アミノアシル基、カルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、アミド基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、トシル基、アジド基、ビニル基、アリル基などの基が挙げられる。
【0020】
また、本発明において、「目的物質」とは、本発明の特異捕捉用磁性粒子を用いた捕捉の対象となる物質をいう。目的物質としては、例えば生体関連物質が挙げられる。本発明において「生体関連物質」とは、生体に関わるすべての物質をいう。生体関連物質としては、例えば、生体に含まれる物質、生体に含まれる物質から誘導された物質、生体内で利用可能な物質が挙げられる。
【0021】
より具体的には、生体関連物質は特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、酵素、抗体、受容体等)、ペプチド(例えばグルタチオン、RGDペプチド等)、核酸(例えば、DNAやRNA等)、糖質、脂質、およびその他の細胞または物質(例えば、血小板、赤血球、白血球等の各種血球細胞を含む各種血液由来物質、各種浮遊細胞等)が挙げられる。
【0022】
例えば、プローブがタンパク質である場合、タンパク質中の官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基)と、糖類中の官能基(例えばカルボニル基、水酸基、アミノ基)とを反応させることにより、プローブと糖類とを化学結合させることができる。この場合、プローブと糖類とをアミド結合またはエステル結合を介して結合させることができる。
【0023】
また、例えば、プローブが核酸である場合、核酸中の官能基(例えば、リン酸基)と、糖類中の官能基(例えば水酸基)とを反応させることにより、プローブと糖類とを化学結合させることができる。この場合、プローブと糖類とをホスホジエステル結合を介して結合させることができる。
【0024】
本発明の特異捕捉用粒子で使用可能なプローブは、特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、抗体、抗原、酵素、受容体、ホルモンなど)、ペプチド、核酸(例えば、DNA,RNAなど)、糖鎖化合物、および化学物質(例えば、薬物候補物質)であることができる。
【0025】
例えば、プローブが抗体(または抗原)である場合、目的物質は前記抗体(または前記抗原)と特異的に結合する抗原(または抗体)であることができる。
【0026】
また、例えば、プローブが核酸である場合、目的物質は前記核酸と特異的に結合する核酸であることができる。あるいは、例えば、プローブが酵素、受容体、またはホルモンの場合、目的物質は前記酵素、前記受容体、または前記ホルモンと特異的に結合する化合物であることができる。
【0027】
本発明の特異捕捉用磁性粒子はそのままで使用することも可能であるが、化合物との反応を効率的に行なうために、分散媒に分散させた分散液として使用することも可能である。かかる分散媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエチレングリコール誘導体、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコール誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸エチル、γ―ブチルラクトンなどのエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0028】
本発明の特異捕捉用磁性粒子の粒径は、0.1〜20μmであり、好ましくは0.3〜17μmであり、より好ましくは0.5〜10μmである。ここで、粒径が0.1μm未満の場合、磁気分離などを用いた分離に長時間を要し、水などの洗浄溶媒と粒子との分離が不十分になるため、目的物質以外の物質の除去が不十分になり、充分な精製ができない場合がある。一方、粒径が20μmを超えると、表面積が小さくなり、目的物質の捕捉量が少ない場合がある。
【0029】
次に、本発明の特異捕捉用磁性粒子の構成要素について詳細に説明する。
【0030】
1.1.磁性粒子
本発明で使用する磁性粒子の平均粒子径は好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.3〜17μm、さらに好ましくは0.5〜10μmである。磁性粒子の粒径が0.1μm未満であると、磁力による分離精製に長時間を要することがあり、20μmを超えると表面積が小さくなり、目的物質の捕捉量が少ない場合がある。
【0031】
上述したように、本発明の特異捕捉用磁性粒子を溶媒に分散させる場合、分散媒に磁性粒子が溶解したり、あるいは溶媒によって磁性粒子が膨潤したりすると、目的物質の非特異吸着が増加する。このため、磁性粒子は、分散媒に溶解しないことが望ましい。
【0032】
本発明で使用する磁性粒子の内部組成は均質であってもよいが、上記の好ましい粒径範囲にある均質な磁性体粒子は、常磁性である物質が多く、磁力による分離精製を繰り返すと媒質への再分散が困難になる場合がある。このため、本発明で使用する磁性粒子は、残留磁化の少ない磁性体微粒子を含む、不均質な内部組成を有することがより好ましい。このような不均質な内部組成を有する磁性粒子の内部構造としては、(i)磁性体微粒子をポリマーなどの非磁性体の連続相中に分散した構造、(ii)磁性体微粒子の2次凝集体をコアとして、ポリマー層などからなる非磁性体をシェルとする構造、(iii)ポリマーなどの非磁性体(非磁性核粒子)をコアとして、磁性体層(磁性体微粒子の2次凝集体)をシェルとする構造などが挙げられる。ここで、コアとして使用できるポリマーとしては、例えば、磁性粒子を構成するポリマーとして列記された後述のポリマーであってもよい。また、(i)〜(iii)において、磁性体微粒子としては、FeおよびFeの少なくとも一方であることが好ましい。
【0033】
上述の(iii)の場合、すなわち、ポリマーなどの非磁性体(非磁性核粒子)をコアとして、磁性体層(磁性体微粒子の2次凝集体)をシェルとする内部構造の場合、磁性体層上にポリマー層がさらに形成されていることが好ましい。また、この場合、ポリマー層は、核粒子(コア)と、前記核粒子の表面に形成された磁性体層(シェル)とを含む母粒子の表面に、重合により前記磁性体層上に形成することができる。ここで、磁性体層(シェル)は、FeおよびFeの少なくとも一方を含む磁性体微粒子を含むことができる。なお、この場合、ポリマー層としては、例えば、磁性粒子を構成するポリマーとして列記された後述のポリマーであってもよい。
【0034】
また、上述の(iii)の場合、磁性粒子は、例えば、非磁性核粒子と磁性体微粒子とを混合し、非磁性核粒子の表面に磁性体微粒子を物理的に吸着させることにより、磁性体層を製造することができる。なお、本発明において、「物理的吸着」とは、化学反応を伴わない吸着を意味する。「物理的吸着」の原理としては、例えば、疎水/疎水吸着、溶融結合または吸着、融着結合または吸着、水素結合、ファンデルワールス結合などが挙げられる。
【0035】
さらに、上述の(iii)の場合、磁性粒子は、例えば、上記ビニル系モノマーの懸濁重合、あるいはポリマーバルクの粉砕によって得ることができる。例えば、磁性粒子は、特公昭57−24369号公報記載のシード粒子を用いる二段膨潤重合法、ジャーナル・オブ・ポリマーサイエンス・ポリマーレター・エディション,937頁,第21巻,1963年(J. Polym. Sci., Polymer Letter Ed. 21,937(1963))記載の重合方法、特開昭61−215602号公報、特開昭61−215603号公報、および特開昭61−215604号公報記載の方法によって作製することができる。
【0036】
また、上述の(iii)の場合、磁性粒子は、疎水/疎水吸着を利用する方法によって作製することができる。例えば、非磁性核粒子の表面および磁性体微粒子の表面が疎水性のものあるいは疎水化処理されたものを選択し、これらの非磁性核粒子および磁性体微粒子をドライブレンドするか、あるいは、非磁性核粒子および磁性体微粒子の双方を侵すことなく良分散性の溶剤(例えばトルエン、ヘキサン)中で充分分散させた後、混合条件下で溶剤を揮発させる方法が挙げられる。
【0037】
あるいは、上述の(iii)の場合、物理的に強い力を外部から加えて、非磁性核粒子の表面に磁性体微粒子を吸着させる方法により、磁性粒子を作製することもできる。物理的に強い力を負荷する方法としては、例えば、乳鉢、自動乳鉢、ボールミル、ブレード加圧式粉体圧縮法、メカノフュージョン法のようなメカノケミカル効果を利用するもの、あるいはジェットミル、ハイブリダイザーなど高速気流中衝撃法を利用するものが挙げられる。効率よくかつ強固に複合化を実施するには、物理的吸着力が強いことが望ましい。その方法としては、攪拌翼付き容器中で攪拌翼の周速度が好ましくは15m/秒以上、より好ましくは30m/秒以上、さらに好ましくは40〜150m/秒で実施することが挙げられる。撹拌翼の周速度が15m/秒より低いと、非磁性核粒子の表面に磁性体微粒子を吸着させるのに十分なエネルギーを得ることができないことがある。なお、撹拌翼の周速度の上限については、特に制限はないが、使用する装置、エネルギー効率などの点から自ずと決定される。
【0038】
本発明で使用する磁性粒子を構成するポリマーとしては、特に、ビニル系ポリマーが好ましい。ビニル系ポリマーを構成するビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの官能基を有する(メタ)アクリレートなどを例示することができる。このビニル系ポリマーは単独重合体であっても、あるいは上記ビニル系モノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。また、上記ビニル系モノマーとブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどの共重合可能なモノマーとの共重合体も使用することができる。
【0039】
1.2.糖類
本発明の特異捕捉用磁性粒子に用いられる糖類としては、例えば、フルクトース,アラビノース,キシロース,リボース,デオキシリボースなどのフラノース類、グルコ−ス,マンノース,ガラクトースなどのピラノース類、セプタノース類などの単糖類、トレハロース,ラクトース,コージオース,ニゲロース,マルトース,イソマルトース,ソホロース,ラミナリオース,セロビオース,ゲンチビオースなどの二糖類、デンプン,アミロース,アミロペクチン,デキストリン,グリコーゲン,シクロデキストリン,セルロース,アガロース,アルギン酸,イヌリン,グルコマンナン,キチン,キトサン,ヒアルロン酸などの多糖類を挙げることができる。磁性粒子と糖類とを化学結合させて、磁性粒子の表面を覆うためには、被覆効率の点で高分子量の多糖類が好ましい。なお、糖類は、例えばカルボキシメチルセルロースやカルボキシメチルデキストランのように、上述した糖類の分子内の官能基(例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基など)の少なくとも一部が変換されたものであってもよく、その変換は必要に応じて多段階施されたものであってもよい。より好ましくは、糖類として、例えばカルボキシメチルセルロースやカルボキシメチルデキストランのように、カルボキシメチル化されているものを用いる。
【0040】
2.特異捕捉用磁性粒子の製造方法
本発明の特異捕捉用磁性粒子の製造方法は、粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と、糖類とを化学結合させる工程と、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブと糖類とを化学結合させる工程と、を含む。ここで、磁性粒子と、糖類とを化学結合させることにより、磁性粒子の表面を糖類で被覆することができる。
【0041】
本発明において、磁性粒子と糖類とを化学結合させるための手法としては特に制限がなく、公知の化学反応を用いることができる。例えば、本発明の特異捕捉用磁性粒子を作製する際に使用する磁性粒子は、その表面に複数の官能基(第1の官能基)を有していてもよい。ここで第1の官能基とは、磁性粒子の粒子形状形成時に導入された官能基でもよいし、あるいはその官能基を粒子形状形成後に変換することによって得られた官能基でもよい。その際、官能基の変換は必要に応じて複数回行なってもよい。限定されないが、例えば磁性粒子の粒子形状を形成した際に導入された官能基がエポキシ基である場合、そのエポキシ基に大過剰のアンモニアあるいは適当なジアミン化合物を作用させて生じるアミノ基を第1の官能基とすることができるし、また例えば、磁性粒子の粒子形状を形成した際に導入された官能基が水酸基である場合、その水酸基をトシル基に変換した後、そのトシル基に大過剰の適当なジアミン化合物を作用させて生じるアミノ基を第1の官能基とすることができる。例えば、後述する実施例1〜2でそれぞれ得られる磁性粒子Am−1〜2においては、第1の官能基がアミノ基であることができる。
【0042】
また、本発明の特異捕捉用磁性粒子を作製する際に使用する糖類は、その1分子中に複数個の官能基(第2の官能基)を有していてもよく、その官能基は糖類の官能基が変換されたものであってもよい。
【0043】
第1の官能基および/または第2の官能基として使用可能な官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、トシル基、アジド基などが挙げられる。この場合、第1の官能基および第2の官能基は互いに対して反応性を有する。限定されないが、例えば、第1の官能基がエポキシ基である場合、第2の官能基はアミノ基であることができるし、また例えば、第1の官能基がアミノ基である場合、第2の官能基はカルボキシル基であることができる。
【0044】
第1の官能基と第2の官能基とが反応することにより、磁性粒子と糖類とを化学的に結合させることができる。これにより、本発明の特異捕捉用磁性粒子を得ることができる。
【0045】
また、本発明において、磁性粒子と糖類とを化学結合させるための手法としては特に制限がなく、公知の化学反応を用いることができる。例えば、上述したように、プローブに含まれる官能基と糖類に含まれる官能基とを化学反応させることにより、プローブと糖類とを化学結合させることができる。プローブに含まれる官能基および糖類に含まれる官能基の具体例は、上述した通りである。
【0046】
本発明の特異捕捉用磁性粒子は、上述した工程によって作製された後、必要に応じて、pH調整を行ない、次いで、透析・限外ろ過・遠心分離等の精製処理によって表面を洗浄してから、担体粒子として使用することができる。
【0047】
3.用途
本発明の特異捕捉用磁性粒子は、創薬・プロテオミクス分野および診断薬分野のプローブ結合用粒子として利用できる。
【0048】
より詳しくは、磁性粒子の表面を被覆する糖類の官能基に、解析対象の化学物質(被解析化学物質)をプローブとして化学結合させることにより、磁性粒子の表面にプローブを固定化し、プローブと目的物質(タンパク質等の生体関連物質)との分子間相互作用を用いて当該相互作用を解析および/または測定することによって、プローブと特異的な相互作用を有する目的物質を選別し、精製することが可能である。
【0049】
また、本発明の特異捕捉用磁性粒子は、タンパク質(例えば、抗体,抗原,酵素等)、核酸(例えば、DNA,RNAなど)、糖鎖化合物、および化学物質(例えば、薬物候補物質)のうち少なくとも1種をプローブとして用い、粒子表面において、前記プローブと目的物質(生体関連物質)とを結合させることにより、目的物質(生体関連物質)を捕捉するための粒子として利用できる。
【0050】
なお、本発明の特異捕捉用磁性粒子の用途は、上述した創薬・プロテオミクス分野および診断薬分野のプローブ結合用粒子に限定されるわけではなく、例えば、生化学分野、塗料、紙、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できる。
【0051】
4.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。なお、本実施例において、「%」および「部」は重量基準である。
【0052】
4.1.物性評価方法
4.1.1.粒径
直径1μm以上の粒子については、レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製)SALD−200Vにより、直径1μm未満の粒子についてはレーザ散乱回折法粒度分布測定装置(型名:LS 13 320,(株)ベックマン・コールター製)により粒径を測定した。
【0053】
4.1.2.赤外吸収スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計(日本電子株式会社製JIR−5500)を用い、KBr法により赤外吸収スペクトルを測定した。
【0054】
4.2.合成例
4.2.1.合成例1(磁性粒子A−1の合成)
特開平7−238105号公報記載の重合方法を参考に、スチレン/ジビニルベンゼン=96/4共重合体粒子(平均粒子径1.5μm)を作製し、重合後遠心分離により粒子のみ取り出したものをさらに水洗し、乾燥、粉砕した。これをコア粒子(a−1)とする(コアの作製)。
【0055】
次に、油性磁性流体(商品名:「EXPシリーズ」,(株)フェローテック製)にアセトンを加えて粒子を析出沈殿させた後、これを乾燥することにより、疎水化処理された表面を有するフェライト系の磁性体微粒子(平均一次粒子径:0.02μm)を得た。
【0056】
次いで、コア粒子(a−1)15gおよび上記疎水化された磁性体微粒子15gをミキサーでよく混合し、この混合物をハイブリダイゼーションシステムNHS−0型(奈良機械製作所(株)製)を使用して、羽根(撹拌翼)の周速度100m/秒(16200rpm)で5分間処理し、平均数粒子径が2.0μmの磁性体微粒子(M−1)からなる磁性体層を表面に有する粒子(1)を得た(磁性体層の作製)。
【0057】
次に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.25重量%を含む水溶液375gを、500mLセパラブルフラスコに投入し、次いで、前記磁性体層を表面に有する粒子(1)15gを投入し、ホモジナイザーで分散した後、60℃に加熱した。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.25重量%を含む水溶液150gに、MMA(メタクリル酸メチル)27g、TMP(トリメチロールプロパントリメタクリレート)3g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.6gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした前記500mLセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した(以上、ポリマー層形成のための1段目の重合)。
【0058】
滴下終了後、60℃に保持し1時間攪拌した後、次にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.25重量%を含む水溶液75gに、MMA7.5g、GMA(グリシジルメタクリレート)6g、TMP1.5g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.3gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした上記500mLセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した(以上、ポリマー層形成のための2段目の重合)。その後75℃に昇温した後さらに2時間重合を続けて、反応を完了させた。得られたポリマー被覆磁性粒子の水分散液を磁気精製および重力沈降精製してから、固形分濃度1%の磁性粒子A−1の水分散液を得た。この磁性粒子A−1の平均数粒子径は2.9μmであった。
【0059】
4.2.2.合成例2(磁性粒子A−2の合成)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%を含む水溶液225gを、500mLセパラブルフラスコに投入し、次いで、前記磁性体層を有する粒子(1)9gを投入し、ホモジナイザーで分散した後、60℃に加熱した。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%を含む水溶液90gに、MMA16.2g、TMP1.8g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.36gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした前記500mLセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した(以上、ポリマー層形成のための1段目の重合)。
【0060】
滴下終了後、60℃に保持して1時間攪拌し、次にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%を含む水溶液45gに、GMA8.1g、TMP0.9g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.18gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした上記500mLセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した(以上、ポリマー層形成のための2段目の重合)。その後75℃に昇温した後さらに2時間重合を続けて、反応を完了させた。得られたポリマー被覆磁性粒子の水分散液を磁気精製および重力沈降精製してから、固形分濃度1%の磁性粒子A−2の水分散液を得た。この磁性粒子A−2の平均数粒子径は2.6μmであった。
【0061】
4.2.3.合成例3(糖類CMC−1の合成)
日本製紙ケミカル株式会社製カルボキシメチルセルロースナトリウム塩APP−84(平均分子量17,000でグルコース単位1個当たり平均0.7個のカルボキシル基を含有)の水溶液に液のpHが2以下になるまで希塩酸を加え、この液を透析した後、凍結乾燥することによりカルボキシメチルセルロースCMC−1を得た。
【0062】
4.2.4.合成例4(糖類CMD−1の合成)
ファルマシア AB(Pharmacia AB)社製デキストランT500(平均分子量500,000)の10wt%水溶液2.5gに水酸化ナトリウム0.72gおよびブロモ酢酸1.04gを加え、均一になるまで数分間攪拌した。次に、この溶液を40℃に60時間保持した後、氷冷し、次いで、液のpHが2以下になるまで希塩酸を加え、この液を透析した後、凍結乾燥することにより、カルボキシメチルデキストランCMD−1を得た。滴定により、CMD−1に含まれるカルボン酸を定量したところ、CMD−1は、グルコース単位1個当たり平均0.4個のカルボン酸基を含有していた。
【0063】
4.3.実施例1
4.3.1.担体ポリマー粒子の作製
合成例1で得られた磁性粒子A−1の水分散液から遠心分離により単離した粒子をアセトンに分散させ、磁気分離して洗浄する操作を5回繰り返した後、再びアセトンに分散させ、遠心分離により上清を除去した後、乾燥させた。次に、この粒子0.50gを100mlフラスコに入れ、エチレンジアミン25gを加えた後、間接超音波を20分間照射して分散させてから、窒素雰囲気下で50℃にて6時間加熱攪拌し、その後、遠心分離により前記粒子を単離した。次いで、この粒子をメタノールで5回洗浄した後、乾燥させることにより、0.49gのアミノ化粒子Am−1を茶色粉末として得た。さらに、エチレンジアミン処理前の赤外吸収スペクトル(磁性粒子A−1の赤外吸収スペクトル)と比較して、このアミノ化粒子Am−1(エチレンジアミン処理後)の赤外吸収スペクトルにおいては、1級アミンに典型的なピークが3300cm−1付近および3400cm−1付近に新たに観測された。以上の結果から、アミノ化粒子Am−1は、磁性粒子A−1にアミノ基が導入されて得られたものであることが確認された。
【0064】
次に、上記合成例3で得たCMC−1の1%水溶液3.75gに上記アミノ化粒子Am−1を150mg加え、氷冷しながら間接超音波を20分間照射して分散させた。次いで、この分散液に塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを25.05mg加え氷冷下で20時間攪拌した。続いて、磁気分離により粒子を単離し、純水に分散させ磁気分離して洗浄する操作を5回繰り返した後、再び純水に分散させ遠心分離により上清を除去した後、乾燥させることにより、147mgの担体ポリマー粒子P−1を得た。
【0065】
4.3.2.プローブ結合粒子の作製
実施例1で得られた担体ポリマー粒子を、濃度が1wt%になるように純水に希釈分散して、水分散液を調製した。次に、この水分散液500μlをエッペンドルフチューブに取り、磁気スタンド(Magical Trapper,東洋紡(株)製)にて磁気分離し、上澄みを除去した。50mM MES−NaOH pH6(Buffer−1)にて3回洗浄後、500μlのBuffer−1に分散し、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)0.8mgおよび1−エチルー3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)0.88mgを加え撹拌した後、目的物質(α−フェトプロテイン,以下「AFP」ともいう)を特異的に捕捉するためのプローブとなるタンパク質(抗α−フェトプロテイン抗体)を0.05mgを添加し、室温下2時間撹拌を行った。反応終了後、磁気分離して上澄みを除去した。次いで、1%エタノールアミンを含むPBS(−)緩衝液500μlを加え、室温で2時間撹拌を行った。さらに、PBS(−)緩衝液にて5回洗浄した後、PBS(−)緩衝液500μlで粒子を分散させることにより、プローブ(抗体)結合粒子の分散液を得た。
【0066】
4.3.3.特異捕捉性評価
本実施例で得られたプローブ結合粒子について、特異捕捉性の評価を下記に示す方法にしたがって行なった。
【0067】
4.3.3A.目的物質(タンパク質)吸着反応工程
上記プローブ結合粒子の分散液100μLを別のチューブに取り磁気分離して上澄みを除去した。これに、目的物質であるタンパク質(ヒトα−フェトプロテイン(AFP))200ng/mLを含むヒト血清溶液500μlを注ぎ、さらにタッチミキサーで振動を与えて前記粒子を分散させた後、常温にて2時間回転倒混和させた。
【0068】
4.3.3B.洗浄工程
引き続きこのチューブを磁気分離した後、上澄みを除去し、10mMのHEPES1mlを注いでタッチミキサーで前記粒子を分散させた。同様の処理をさらに2回繰り返した後、内容物を別の未使用のエッペンドルフチューブに移し、磁気分離を行なった後、上澄みを除去した。
【0069】
4.3.3C.剥離工程
引き続きこのチューブに0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)水溶液50μlを注いでタッチミキサーでごく軽く振動を与えて前記粒子を分散させた。10分間放置した後、磁気分離を行ない、上澄みの20μlを採取した。
【0070】
4.3.3E.電気泳動(SDS−PAGE)
バイオラッド社製プレミックスサンプルバッファー中での濃度が2wt%になるように2−メルカプトエタノールを溶解させ(以下、これを「サンプルバッファー」とする)、このうち20μlをエッペンドルフチューブに採取した。これに上記剥離工程で採取した上澄み20μlを混ぜ、チューブヒーターにて100℃で5分間加熱した。
【0071】
一方、コントロールとして、1mg/mLのAFP/PBS(−)溶液をSDS溶液で100倍、200倍、500倍に希釈したものを20μl取り、サンプルバッファー20μlと混ぜ、ブロックヒーターにて100℃で5分間加熱した。これらを参照用希釈AFPと呼ぶ。
【0072】
バイオラッド社製縦型電気泳動システム「ミニプロティアン3」、バイオラッド社製プレキャストポリアクリルアミドゲル「レディーゲルJ(15%)」、およびバイオラッド社製プレミックス泳動バッファーを用いて、ゲル1レーンあたり20μlをアプライし、電気泳動を行った。染色はバイオラッド社製シルバーステインプラスキットを用いて標準的な手法で行った。染色されたゲルはバイオラッド社製デンシトメーター「GS−700」でスキャンして画像化し、解析ソフトウェア「Multi−Analyst」を用いて、ゲルにおけるAFPのバンドの濃度と面積との積を定量した。
【0073】
参照用希釈AFPにおいては、ゲル1レーンあたりに流れるAFPの重量が既知であるため、参照用希釈AFPを用いた場合におけるバンド濃度と面積との積から検量線を作成し、この検量線に基づいて、前記粒子から剥離したAFPの重量を重量単位で換算した。なお、この重量は、粒子0.2mgあたりに吸着していたAFPの重量に相当する。
【0074】
4.4.実施例2
4.4.1.担体ポリマー粒子の作製
磁性粒子A−2を用いた以外は上記実施例1と同様の操作を行なうことにより、0.48gのアミノ化粒子Am−2を得た。次に、上記合成例4で得られたCMD−1(150mg)を純水6gに溶解し、ここにアミノ化粒子Am−2を150.5mg加え、間接超音波を20分間照射して分散させた。次いで、この分散液を氷冷し、塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの5wt%水溶液1.40gを加え、氷冷下で12時間攪拌した。続いて、磁気分離により粒子を単離し、純水に分散させ磁気分離して洗浄する操作を5回繰り返した後、再び純水に分散させ遠心分離により上清を除去した後、乾燥させることにより、147mgの担体ポリマー粒子P−2を得た。
【0075】
4.4.2.プローブ結合粒子の作製および特異捕捉性評価
本実施例で得られた担体ポリマー粒子P−2を用いて、上記実施例1と同様のプローブ結合工程を行なうことにより、プローブ(抗体)結合粒子を得た。このプローブ結合粒子について、特異捕捉性の評価を上記実施例1と同様の方法にしたがって行なった。
【0076】
4.5.比較例1
比較例1においては、JSR(株)製磁性粒子(商品名「MAG2101」)を用いて上記実施例1と同様のプローブ結合工程を行ない、プローブ結合粒子を得た。次いで、このプローブ結合粒子について、特異捕捉性の評価を上記実施例1と同様の方法にしたがって行なった。なお、比較例1で用いた磁性粒子は、表面が糖類で被覆されていない。
【0077】
4.6.特異捕捉性評価結果
図1は、実施例1,2および比較例1それぞれにおいて得られたプローブ結合粒子の特異捕捉性の評価結果(プローブ結合粒子に吸着したタンパク質の電気泳動パターン)を示す写真である。
【0078】
図1において、レーン1は実施例1の担体ポリマー粒子P−1を用いて形成されたプローブ結合粒子によって捕捉されたタンパク質を示し、レーン2は実施例2の担体ポリマー粒子P−2を用いて形成されたプローブ結合粒子によって捕捉されたタンパク質を示し、レーン3は比較例1の磁性粒子を用いて形成されたプローブ結合粒子によって捕捉されたタンパク質を示し、レーン4はコントロールである目的物質(AFP)20ngを示し、レーン5はコントロールである目的物質(AFP)50ngを示し、レーン6はコントロールである目的物質(AFP)100ngを示し、レーン7は分子量マーカを示す。
【0079】
図1を参照すると、実施例1のポリマー結合粒子P−1を用いて形成されたプローブ結合粒子からは、目的物質であるAFPのバンドのみが血清中から回収され、その回収量は粒子0.2mg当たり11ngであった。また、実施例2のポリマー結合粒子P−2を用いて形成された抗体結合粒子からは、目的物質であるAFPのバンドのみが血清中から回収され、その回収量は粒子0.2mg当たり15ngであった。一方、比較例1の粒子からは、非特異的に回収された血清タンパク質のバンドが多数確認されたが、目的物質であるAFPのバンドを確認することは困難であった。
【0080】
以上により、実施例1,2のプローブ結合粒子は、タンパク質の非特異吸着が少ないことが確認された。この結果から、実施例1,2のプローブ結合粒子によれば、表面が糖類で被覆されており、かつ、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合しているため、非特異吸着が少ないことが理解できる。一方、比較例1の磁性粒子は、タンパク質の非特異吸着が多かった。このことから、比較例1の粒子のように、表面が糖類で被覆されていないと、非特異吸着が多いことが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、実施例1,2および比較例1において得られたプローブ結合粒子の特異捕捉性評価結果(プローブ結合粒子に吸着したタンパク質の電気泳動パターン)を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と、糖類と、を含み、
前記磁性粒子および前記糖類が化学結合しており、かつ、目的物質を特異的に捕捉するためのプローブが前記糖類に化学結合している、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項2】
請求項1において、
前記糖類は多糖類である、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記糖類はカルボキシメチル化されている、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記磁性粒子および前記糖類の前記化学結合は、アミド結合およびエステル結合の少なくとも一方を含む結合基による、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記磁性粒子は、核粒子と、前記核粒子の表面に形成された磁性体層とを含む母粒子の前記磁性体層上に、ポリマー層を重合により形成することにより得られ、
前記磁性体層は、FeおよびFeの少なくとも一方を含む、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記プローブは、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖化合物、および化学物質から選ばれる少なくとも1種である、特異捕捉用磁性粒子。
【請求項7】
粒径が0.1〜20μmの磁性粒子と糖類とを化学結合させる工程と、
目的物質を特異的に捕捉するためのプローブを前記糖類に化学結合させる工程と、
を含む、特異捕捉用磁性粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記磁性粒子と前記糖類とを化学結合させる際、
前記磁性粒子は、第1の官能基を有し、
前記糖類は、第2の官能基を有し、
前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させることにより、前記磁性粒子と前記糖類とを結合させる、特異捕捉用磁性粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記第1の官能基は、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、およびトシル基から選ばれる少なくとも1種以上の官能基である、特異捕捉用磁性粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−85929(P2007−85929A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276052(P2005−276052)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】