説明

状態をモニタリングする飲み込み可能なカプセル

薬物貯留部(18)および少なくとも一つのセンサー(13)を有する飲み込み可能なカプセル(10)が提供される。前記薬物貯留部(18)は、医薬複合体を保持するよう構成される。前記薬物貯留部(18)の壁(12)は、当該カプセル(10)の周囲からの流体が前記薬物貯留部(18)にはいることを許容するとともに、前記医薬複合体の溶解した薬物または解放された粒子が当該カプセル(10)の周囲にはいることを許容する少なくとも一つの開口を有する。前記少なくとも一つのセンサー(13)は、当該カプセルの周囲の条件をモニタリングするために設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセルの周囲の状態をモニタリングする少なくとも一つのセンサーを有する飲み込み可能なカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子コンポーネントをもつ飲み込み可能なカプセルが主として二つの目的のために開発されてきた。小型の飲み込み可能なセンサーは、動物および人間の胃腸管内部の環境条件をモニタリングするために使われる。さらに、胃腸管内の特定の位置における薬物投与量の制御された送達を可能にするために、能動薬物送達デバイスが利用可能である。いくつかの飲み込み可能な薬物送達デバイスでは、感知された条件に基づいて薬物送達を制御するためにセンサーが含められる。
【0003】
適正な薬物構成または剤形を開発するためには、生体外と生体内での試験データの間のよい相関を得ることが重要である。生体外の試験条件は常に制御下にあるが、生体内条件は統計に基づいて推定することしかできない。試験被験体の胃腸条件についてのリアルタイムの生体内データがないと、調査者は、ランダムな逸脱の埋め合わせをするために非常に大きなサンプル・ベースで作業することを強いられる。それは高価で、時間がかかり、通例は反復可能ではない。
【0004】
遠隔測定医学(telemetry medicine)の進展とともに、試験被験体の胃腸条件をリアルタイムでモニタリングすることが可能となっている。臨床試験では、センサー・カプセルが時に、試験対象の薬物と同時に飲み込まれる。次いでセンサー・カプセルは、その薬を飲み込んだ患者の胃腸管のたとえばpHをモニタリングするために使われる。このようにして、センサー・カプセルは試験対象薬物の機能についての有用な情報を提供しうる。薬物の効果をモニタリングするためのセンサー・カプセルの使用の問題の一つは、薬物およびセンサー・カプセルが胃腸管を通過するペースが同じでないことがありうるということである。したがって、感知されるパラメータは、薬物の直接的な周囲についての情報を提供しないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬物をより緊密に追跡することのできるセンサー・カプセルを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の側面によれば、この目的は、溶解可能な薬物をもつ医薬複合体(pharmaceutical composite)を保持する薬物貯留部を有する飲み込み可能なカプセルであって、前記薬物貯留部の壁は当該カプセルの周囲からの流体が前記薬物貯留部にはいることを許容するとともに、前記溶解可能な薬物の解放された粒子が当該カプセルの周囲にはいることを許容する少なくとも一つの開口を有し、当該カプセルはさらに、当該カプセルの周囲の条件をモニタリングする少なくとも一つのセンサーを有する、カプセルを提供することによって達成される。
【0007】
薬物送達とセンサー機能を一つのカプセル内で組み合わせることによって、センサーおよび薬物が一緒に胃腸管を通過することが保証される。センサーは薬物の直接的な環境を連続的にモニタリングすることができる。これにより、本カプセルは、薬物の放出、溶解および吸収属性を研究するのに非常に好適になる。薬物貯留部の壁の開口は、環境流体が薬物貯留部にはいり、薬物をカプセルの環境に輸送することを許容する。
【0008】
薬物の溶解は薬物貯留部の内部で生起し、その結果、溶解した薬物が貯留部の開口(単数または複数)を通過してもよい。医薬複合体が徐々に溶解することで、薬物が胃腸管を通るカプセルの経路上のどこかで放出されることになる。あるいはまた、医薬複合体から徐々に解放されるまたは分解される薬物粒子が、すぐに溶解することなく貯留部の開口(単数または複数)を通過できるのに十分小さくてもよい。薬物粒子の解放は、環境流体との接触によって開始されるまたは引き起こされるのでもよく、環境流体の条件によって強く影響される。解放された薬物粒子は、カプセルの貯留部壁を通過したのち、胃腸管のどこかで溶解しうる。
【0009】
薬物貯留部の浸透性の壁のため、薬物取り込みは、センサー・カプセルとは別個に飲み込まれた場合と同様に実現される。薬物貯留部に出入りする流れの流体は、別個に飲み込まれた場合と同様の仕方で医薬複合体と相互作用する。本発明に基づく飲み込み可能なカプセルの大きな利点は、生体内相互作用に干渉することなく、投与された薬物の環境条件をモニタリングし、薬物がそのような薬物送達機構に好適な特別な形である必要がないということである。薬物は、該薬物をいかなる付随するセンサーもなしに投与する場合に使われるのと同じ形で貯留部内に配置することができる。
【0010】
ある好ましい実施形態では、薬物貯留部は、貯留部内に医薬複合体を入れることを許容するために、(一時的に)開かれたり、あるいはカプセルから取り外されたりすることができる。そのような実施形態では、同じカプセルが、異なる複数の薬物の効果をモニタリングするために使用できる。薬物は、カプセル製造中に薬物貯留部に挿入される必要はない。薬物貯留部は、使用直前に特定の剤形の適切な薬物を詰め込まれてもよい。
【0011】
本発明に基づくカプセルのある特別な実施形態では、薬物貯留部は網目のある壁(meshed wall)を有し、その網目のある壁が前記少なくとも一つの開口を有する。前記網目のある壁の寸法は、当該カプセルと一緒に使用されることが意図される薬物剤形に適合されてもよい。異なる薬物剤形と一緒に使うためには異なる網目が提供されてもよい。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の側面は、以下に記載される実施形態から明白となり、これを参照することで明快にされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に基づく飲み込み可能なカプセルを示す概略図である。
【図2】本発明に基づく開口のあるカプセルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に基づく飲み込み可能なカプセル11を示す概略図である。カプセル10は二つのモジュール、薬物モジュール18および電子回路モジュール11を有する。これらは好ましくは分離可能であり、結合手段17によって結合されている。カプセル10の好ましい直径は20mm未満であり、一層好ましくは15mm未満であり、好ましい全長は30mm未満である。より大きなカプセル10は飲み込むのが難しいことがあり、および/または胃腸管を通過するのに問題があることがある。
【0015】
薬物モジュール18は、環境からの流体が薬物貯留部を出入りして流れることを許容する網目のある側壁12をもつ薬物貯留部を有する。この実施形態では、網目のある側壁12が示されているが、原理的には、流体が流れることを許容するのに十分な大きさの一つまたは複数の開口をもつ他のいかなる壁を使用してもよい。網目のある側壁12は射出成形されてもよいし、あるいは細い金属線でできていてもよく、任意的には両者の組み合わせであってもよい。網目開口サイズは、薬物剤形の形、型またはサイズに依存して異なることができる。貯留部壁の開口(単数または複数)のサイズは好ましくは、薬物と環境の間の相互作用が妨害されないような寸法にされる。そのような側壁は、薬物を物理的に保持しつつ、環境に対して実質的に開かれている。
【0016】
薬物はたとえば、錠剤、カプセル、顆粒または他の通常の剤形であってもよく、こうした剤形は任意的に、腸溶コーティング、ポリマー・マトリクスまたは薬物放出レートを制御する他の手段を組み込む。一つまたは複数の活性成分に加えて、薬物は、該薬物を、飲み込み可能でかつ安定した剤形で利用可能にするために一つまたは複数の賦形剤を含んでいてもよい。薬物貯留部は、異なる薬物の同時送達のためまたは投与量を増すために、二つ以上の錠剤および/またはカプセルを充填されてもよい。貯留部壁の開口(単数または複数)を通ってはいってくる環境流体との相互作用は、薬物の溶解を引き起こしうる。あるいはまた、薬物錠剤またはカプセルから小さな薬物粒子が徐々に解放され、環境流体により、解放された薬物粒子は薬物貯留部の外に、そしてカプセル10の環境中に輸送される。該環境において、薬物はのちに溶解する。
【0017】
電子回路モジュール11は少なくとも一つのセンサー13を有する。該センサー13は、該センサー13にパワーを与えるためのエネルギー源14、たとえばバッテリーに結合されている。センサーはたとえば、pHセンサー、圧力センサー、イオン・センサー、酵素センサー、温度センサー、血液センサーまたはインピーダンス・センサーであってもよい。センサー・データは、メモリ16に記憶されてもよいし、および/またはデータ送信機15によって外部受信機(図示せず)に送信されてもよい。センサー10は任意的に、カプセル10の近くの胃腸流体の属性に関係するタイムスタンプ付けされた情報を生成することができる。カプセル10の環境の属性は、被験体(カプセルを飲み込んだ人)の生理的条件およびそれに対する薬物の効果によって決定される。生体中でかつリアルタイムに薬物の分解、溶解および吸収を(薬物動力学的研究と協調して)モニタリングできるため、この薬物搬送デバイス10は、薬開発および臨床試験における応用に非常に好適になる。
【0018】
図2は、本発明に基づく開口のあるカプセル10を概略的に示している。この実施形態において、カプセル10は二つの別個のモジュール11、18からなる。あるいはまた、カプセル10は、薬物貯留部の中に薬物を導入するための開口をもつ単一体であってもよい。カプセルの生産の間にすでに薬物を加えておくことも可能であるが、そうすると、カプセル10を種々の型の薬物または種々の薬物投与量に使う可能性が制限されることがある。
【0019】
各モジュール11、18は、薬物モジュール18を電子回路モジュール11に結合するための結合手段17の一部を有する。結合手段17は好ましくは、カプセル10が繰り返し開いたり閉じたりできるようなものであるが、カプセル10を二つの別個のモジュール11、18として提供し、結合手段は、薬物モジュール18に適切な薬を充填したのちにそれらのモジュール11、18を一度接合することができるだけであることも可能である。結合手段17はたとえば、モジュール11、18を一緒にねじ留め(screwing)するための、ねじ山のある結合部を使ってもよい。図2に示されるカプセル10は、二つのモジュール11、18の接続を容易にするための相補的なフック留め(hooking)構造を使っている。図示したカプセル10のモジュール11、18は簡単にカチッとはめることができる。この相補的なフック留め構造17のクローズアップも同図中に示されている。
【0020】
本発明は、試験被験体を使って医薬複合体中の薬物についての薬物動力学的研究を実施する方法であって、本発明に基づく飲み込み可能なカプセル10が、カプセル10の周囲の条件の関数として血漿薬物濃度を調べるために使われる方法にも関する。本方法は、以下のステップを含む。
a.飲み込み可能なカプセル10の薬物貯留部18に医薬複合体を詰め込む段階と;
b.試験被験体に飲み込み可能なカプセル10を投与する段階と;
c.センサー13によって連続的にカプセルの周囲の条件を感知し、タイムスタンプ付けされた条件データを生じる段階と;
d.薬物の血中濃度の解析のために、飲み込み可能なカプセル10が投与された時を基準として種々の時点で被験体から一連の血液サンプルを採取する段階と;
e.血中濃度を測定し、タイムスタンプ付けされた血中濃度データを生じる段階と;
f.タイムスタンプ付けされた血中濃度データをタイムスタンプ付けされた条件データと比較する段階。
【0021】
上述した諸実施形態は本発明を限定するのではなく例解するものであること、当業者は付属の請求項の範囲から外れることなく多くの代替的な実施形態を設計できるであろうことを注意しておくべきである。請求項において、括弧に入れた参照符号があったとしてもその請求項を限定するものと解釈してはならない。動詞「有する/含む」およびその活用形の使用は、請求項で述べられている以外の要素やステップの存在を排除するものではない。要素の単数形の表現はそのような要素の複数の存在を排除するものではない。本発明は、いくつかの相異なる要素を有するハードウェアによっても、好適にプログラムされたコンピュータによっても実装されうる。いくつかの手段を列挙する装置請求項において、そうした手段のいくつかが同一のハードウェア項目によって具現されてもよい。ある種の施策が互いに異なる従属請求項において記載されているというだけの事実が、そうした施策の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲み込み可能なカプセルであって、
・当該カプセルは、医薬複合体を保持する薬物貯留部を有し、前記薬物貯留部の壁は、当該カプセルの周囲からの流体が前記薬物貯留部にはいることを許容するとともに、前記医薬複合体の溶解した薬物または解放された粒子が当該カプセルの周囲にはいることを許容する少なくとも一つの開口を有し、
・当該カプセルはさらに、当該カプセルの周囲の条件をモニタリングする少なくとも一つのセンサーを有する、
カプセル。
【請求項2】
前記薬物貯留部は、該貯留部に前記医薬複合体を入れることを許容するために、開かれるまたは当該カプセルから取り外されることができる、請求項1記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項3】
前記薬物貯留部は網目のある壁を有し、前記網目のある壁が前記少なくとも一つの開口を有する、請求項1記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項4】
前記網目のある壁が射出成形されている、請求項3記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項5】
前記網目のある壁が、網目のある金属線を有する、請求項3記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項6】
前記センサーがタイムスタンプ付けされたデータを与えることができる、請求項1記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項7】
モニタリングされる条件に関するセンサー情報を外部受信機に送信する、前記センサーに結合された送信機をさらに有する、請求項1記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項8】
前記少なくとも一つのセンサーが、pHセンサー、圧力センサー、イオン・センサー、酵素センサー、温度センサー、血液センサーまたはインピーダンス・センサーである、請求項1記載の飲み込み可能なカプセル。
【請求項9】
試験被験体を使って医薬複合体中の薬物についての薬物動力学的研究を実施する方法であって、請求項6記載の飲み込み可能なカプセルが、該カプセルの周囲の条件の関数として血漿薬物濃度を調べるために使われ、当該方法は:
a.前記飲み込み可能なカプセルの前記薬物貯留部に前記医薬複合体を詰め込む段階と;
b.前記試験被験体に前記飲み込み可能なカプセルを投与する段階と;
c.前記センサーによって連続的に前記カプセルの周囲の条件を感知し、タイムスタンプ付けされた条件データを生じる段階と;
d.前記薬物の血中濃度の解析のために、前記カプセルが投与された時を基準として種々の時点で前記被験体から一連の血液サンプルを採取する段階と;
e.血中濃度を測定し、タイムスタンプ付けされた血中濃度データを生じる段階と;
f.前記タイムスタンプ付けされた血中濃度データを前記タイムスタンプ付けされた条件データと比較する段階とを含む、
方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−514124(P2013−514124A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543967(P2012−543967)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055790
【国際公開番号】WO2011/073892
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】