説明

独立した薄膜の製造方法

【課題】独立した及び/又は無傷の薄膜の製造のための単純で費用効果の高い方法を提供する。
【解決手段】基材を用意すること、前記基材上に炭素含有犠牲層を堆積させること、前記炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させること、前記炭素含有犠牲層及び前記薄膜を有する前記基材を高温で酸素に暴露して酸素を炭素含有犠牲層と反応させて二酸化炭素を生成させ、前記基材から無傷で除去された前記薄膜をもたらすことを含む、独立した薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法に関し、特に、独立した薄膜(stand-alone thin film)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上への薄膜の作製はよく知られている。例えば、下側にある基材の保護のため、コンポーネントの表面特性の向上、審美的目的などのために、金属、半導体、酸化物などの上に作製された薄膜が知られている。しかしながら、基材に付着していない薄膜、すなわち独立した薄膜の製造方法はあまり知られていない。さらに、かかる薄膜を製造するための公知の方法は、腐食性のエッチングガスを必要とする。例えば、米国特許第6,331,260号明細書には、薄膜を単結晶基材ウェハ上に蒸着し、その後、試料及び/又はエッチガスを取り扱うのに必要な複雑な及び/又は高価な装置を用いて基材ウェハをエッチガスにより化学的にエッチングすることにより除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,331,260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、独立した薄膜の製造を可能にする改良された方法が望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
独立した膜(フィルム)の製造方法が提供される。当該方法は、基材を用意し、基材上に炭素含有犠牲層(carbon-containing sacrificial layer)を堆積させ、炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させることを含む。その後、基材と炭素含有犠牲層と薄膜との構造体を高温で酸素に暴露する。酸素が炭素含有犠牲層と反応して、二酸化炭素が生成し、犠牲層から炭素を除去し、それにより、一般的に犠牲層は焼失し、無傷(intact)の独立した薄膜が基材から分離する。
【0006】
場合によって、基材は、例えば酸化ケイ素などの酸化物であることができる。さらに、炭素含有層はポリマー層、炭素層などであることができる。炭素含有層は、真空堆積法、ゾル−ゲル法及び/又は交互積層法(layer-by-layer technique)を使用して堆積させることができる。
【0007】
薄膜は、多層構造、例えば、全方向性構造色、全方向性赤外線反射体及び/又は全方向性紫外線反射体をもたらす多層スタックを有することができる。上記方法は、基材、炭素現有犠牲層及び薄膜を酸素に暴露するために空気を使用でき、高温は300℃超であることができる。場合によって、高温は400℃超であり、他の場合では、高温は500℃超である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施態様に従う方法の概略図である。
【図2】図2は、本発明の一実施態様に従って製造される独立した薄膜の製造についての概略図である。
【図3】図3は、本発明の一実施態様に従って製造される独立した多層薄膜の製造についての概略図である。
【図4】図4は、本発明の一実施態様に従って製造された独立した薄膜から製造されたフレークの光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、独立した薄膜の製造方法を開示する。かかる独立した薄膜を、フレーク状の粒子を生成させるために、破砕、磨砕及び/又は篩分けにかけることができ、フレークは顔料として使用される。従って、本発明は、フレーク及び/又は顔料の製造についての有用性を有する。
【0010】
上記方法は、基材上に炭素含有犠牲層を堆積させ、次いで、炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させることを含む。その後、上に炭素含有犠牲層が堆積し炭素含有犠牲層上に薄膜が堆積した基材を、高温で酸素に暴露する。基材、犠牲層及び薄膜を高温で酸素に暴露することによって、酸素が犠牲層と反応して二酸化炭素が生成し、炭素含有犠牲層は実質的に焼失する。犠牲層の除去及び/又は焼失によって、「独立した」薄膜、すなわち、基材から分離され、自立型であり、基材から独立し、及び/又は基材に付着していない薄膜がもたらされる。さらに、薄膜は、無傷であることができ、堆積されたままの形態で存在し、一般的には、粉砕及び/又は破砕粒子などとして存在しない。
【0011】
基材は、例えば金属、酸化物、窒化物、硫化物などの、当業者に知られているいかなる材料であってもよい。基材は、それ自体、一般的に、高温で酸素に対して不活性であるか、あるいは、高温で酸素に暴露された場合に一般的に保護性の層を形成する。例えば、及び説明のため、基材は、酸化ケイ素、例えば高温で酸素に暴露された場合に分解しないシリカなどであることができ、あるいは、高温で酸素に暴露された場合に薄い保護酸化物スケールを形成するアルミニウムであることができる。
【0012】
炭素含有犠牲層はポリマー層であることができ、あるいは、炭素層であることができる。例えば、及びたんに説明のため、炭素含有犠牲層は、真空堆積法及び又はゾル−ゲル法を使用して堆積された炭素層であることができる。炭素含有犠牲層がポリマー層である場合、当該ポリマー層を、ゾル−ゲル法及び/又は交互積層法を使用して基材上に堆積させることができる。
【0013】
当業者に知られている任意の方法又はプロセス、例えば真空堆積法、ゾル−ゲル法及び/又は交互積層法などを使用して炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させることができる。薄膜は多層構造を有していても有していなくてもよい。例えば、及びたんに説明のため、薄膜は、全方向構造色、全方向赤外線反射体及び/又は全方向紫外線反射体の形態にある多層構造を有することができる。全方向構造色、全方向赤外線反射体及び又は全方向紫外線反射体、例えば本願と同一の出願人に譲渡された米国特許出願第11/837,529号、第12/388,395号及び第12/389,221号明細書に開示されているものは、炭素含有犠牲層上に堆積されるタイプの薄膜であることができる。
【0014】
炭素含有犠牲層との反応に使用される酸素は、空気中の酸素として、酸素濃度を高めた空気として、又は純粋な酸素として供給できる。高温は、300℃以上、400℃以上、500℃以上、600℃以上、700℃以上及び/又は800℃以上であることができる。
【0015】
次に図1を参照すると、本発明の一実施態様に従う方法を示す概略図が一般的に参照番号10で示されている。方法10は、ステップ100で基材を用意すること、ステップ110で基材上に炭素含有犠牲層を堆積させることを含む。ステップ120で炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させ、ステップ130で基材と炭素含有犠牲層と薄膜構造体を高温で酸素に暴露する。上記のように、高温での炭素含有犠牲層と酸素の接触によって、例えば、
【0016】
【化1】

【0017】
のような化学反応が起こって二酸化炭素ガスが形成され、その結果、基材と薄膜の間からの炭素含有犠牲層の除去がもたらされる。炭素含有犠牲層の除去によって、薄膜が基材から除去され、及び/又は薄膜が基材から分離する。薄膜は、無傷であることができ、独立型である。
【0018】
次に図2を参照すると、独立した薄膜の製造についての概略図が参照番号20で一般的に示されている。プロセス20は、基材200を用意し、基材200上に炭素含有犠牲層210を堆積させることを含む。その後、薄膜220を犠牲層210上に堆積させる。基材200、犠牲層210及び薄膜220を次に熱及び酸素に暴露する。酸素は犠牲層に由来する炭素と反応して二酸化炭素ガスを生成し、犠牲層は実質的に焼失する。犠牲層210の焼失によって、薄膜220が基材200から分離される。薄膜220は、無傷であることができ、この方式では、独立した薄膜が提供される。
【0019】
次に図3を参照すると、独立した多層膜の製造についての概略図が示されている。炭素含有犠牲層210を基材200上に堆積させ、その後、多層薄膜300を犠牲層210上に堆積させる。図2に示したプロセスと同様に、熱と酸素が供給され、その結果、犠牲層210が高温で酸素と反応して二酸化炭素ガスを生成する。この場合でも、犠牲層210は実質的に焼失するため、独立した無傷の多層膜300がもたらされる。
【0020】
薄膜220及び/又は多層膜300を、犠牲層210にまだ付着している間に区分けすることができる。例えば、及びたんに説明のため、熱及び酸素への暴露前に、ナイフ、例えば刃先にダイヤモンドが埋め込まれたナイフを使用して薄膜220及び又は多層膜300を区分けすることができる。ここに開示したプロセスによって、複数の独立した薄膜が提供される。
【0021】
本発明をよりよく説明及び教示するために例示のための実施例を示す。
【実施例】
【0022】
チタニア(TiO)、シリカ(SiO)及びハフニア(HfO)を主成分とする多層の構造色薄膜を、上に炭素含有犠牲層を有するシリカウェハ上に堆積させた。換言すると、炭素層がシリカウェハ上に堆積されており、炭素層がシリカウェハと多層の構造色膜との間に存在していた。その後、多層の構造色膜を、当該膜にダイヤモンドナイフで刻みつけることにより小さな長方形の部分に区分けした。炭素犠牲層及び多層構造色膜を有する上記シリカウェハを炉に入れ、空気雰囲気中800℃で12時間加熱した。
【0023】
冷却後、多層構造色膜の無傷の複数のセクションが基材から分離されていることが確認された。この方法の歩留まりは約100%であった。独立した多層構造色膜の上記複数のセクションを、次に、全方向構造色を示すフレークを製造するために、破砕、磨砕及び篩分けにかけた。この方法に従って製造されたフレークの一例が図4に示されている。このように、独立した及び/又は無傷の薄膜の製造のための単純で費用効果の高い方法が提供される。
【0024】
本発明は、上記の説明のための実施例及び又は実施態様に限定されない。上記実施例及び又は実施態様は本発明の範囲の限定を意図するものではない。本明細書に記載の方法、プロセス、装置、組成物などは代表的なものであって、本発明の範囲の限定を意図するものではない。当業者は本発明における変更及び他の用途を思い浮かぶであろう。本発明の範囲は特許請求の範囲により規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を用意すること、
前記基材上に炭素含有犠牲層を堆積させること、
前記炭素含有犠牲層上に薄膜を堆積させること、
前記炭素含有犠牲層及び前記薄膜を有する前記基材を高温で酸素に暴露して酸素を炭素含有犠牲層と反応させて二酸化炭素を生成させ、前記基材から無傷で除去された前記薄膜をもたらすこと、
を含む、独立した薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材が酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化物が酸化ケイ素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素含有犠牲層がポリマー層である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素含有犠牲層が炭素層である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素含有犠牲層が真空堆積法を使用して堆積される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素含有犠牲層が、ゾル−ゲル法を使用して堆積される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素含有犠牲層が交互積層法により堆積される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記薄膜が多層構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薄膜が全方向性構造色である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記薄膜が全方向性赤外線反射体である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記薄膜が全方向性紫外線反射体である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記薄膜が全方向性赤外線及び紫外線反射体である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素犠牲層及び前記薄膜を有する前記基材を酸素に暴露するために空気が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記高温が300℃超である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記高温が400℃超である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記高温が500℃超である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記炭素犠牲層及び前記薄膜を有する前記基材が400℃超の温度で空気に暴露される、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131699(P2012−131699A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−280250(P2011−280250)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【Fターム(参考)】