説明

独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体、及びその製造方法

【課題】優れた親水性を発現するとともに、その親水性を長期にわたり持続させることができる独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(D)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を発泡させてなるものである。(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性を発現することのできる独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架橋ポリエチレン発泡体等の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、各種緩衝材や断熱材等の様々な用途で使用されているが、親水性及び濡れ性が低いことから接着性や印刷性に乏しいという欠点があった。そこで、ポリオレフィン系樹脂発泡体に親水性を付与するための種々の試みがなされている。たとえば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂を含む発泡樹脂原料中に特定の界面活性剤を混合することによって、ポリオレフィン系樹脂発泡体に親水性を付与する技術が開示されている。特許文献1のポリオレフィン系樹脂発泡体は、混合された界面活性剤を発泡体の表面に滲出させ、発泡体の表面に界面活性剤由来の親水基を存在させることによって親水性を発現させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−342277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のポリオレフィン系樹脂発泡体は、内部に存在する界面活性剤が発泡体表面に次々に滲出するとともに、繰り返しの使用により表面に滲出した界面活性剤が流出してしまうという問題があった。そのため、特許文献1のポリオレフィン系樹脂発泡体は、その親水作用が短期間で失われてしまい、持続性に乏しいものであった。
【0005】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、親水性を長期にわたり持続させることのできる独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(D)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を発泡させてなり、前記(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が前記(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部であることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、請求項1に記載の発明において、前記(B)シリケートオリゴマーの質量平均分子量は、500〜100000であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の表面に水を接触させ、前記ポリオレフィン系樹脂発泡体中の前記(B)シリケートオリゴマーの側鎖を加水分解してシラノール基を形成してなるものである。
【0009】
請求項4に記載の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法は、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(C)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を混練及び発泡させる工程を含み、前記(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が前記(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体、及びその製造方法によれば、優れた親水性を発現するとともに、その親水性を長期にわたり持続させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、「樹脂発泡体」と記載する。)は、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(D)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を発泡させてなるものである。
【0012】
(A)ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、エチレン−ブテン共重合体(EB)、エチレンープロピレンージエン共重合体(EPDM)、エテン−オクテン共重合体、エチレンアルキル(メタ)アクリレート、及びそれらの塩素化物が挙げられる。エチレンアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレンエチルアクリレート(EEA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンメチルメタアクリレート(EMMA)が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は単独で含有されてもよいし、二種以上が組み合わされて含有されてもよい。なお、これらのポリオレフィン系樹脂のなかでも、発泡の安定性という観点から、低密度ポリエチレン(LDPE)、及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いることが好ましい。
【0013】
(B)シリケートオリゴマーは樹脂発泡体に親水性を付与する。(B)シリケートオリゴマーとしては、下記一般式(1)に示すテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物を用いることができる。
【0014】
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
また、本発明において、(B)シリケートオリゴマーは、主としてアルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物から構成されていればよく、例えば(B)シリケートオリゴマー中の珪素原子に結合する側鎖が、部分的に官能基又は炭素数1〜4のアルキル基となっていてもよい。かかる構成においても依然として本発明の効果を発揮することができる。上記官能基としては、例えばエポキシ基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、及びこれらの基を含む官能基が挙げられる。なお、珪素原子に結合する側鎖にアルキル基や官能基を有するシリケートオリゴマーは、例えば、上記一般式(1)に示すテトラアルキルシリケートと、下記一般式(2)に示す官能性アルキルシリケートとを共加水分解して共重合させることにより得ることができる。
【0015】
【化2】

(式中、Rは官能基、Rは炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシアルキル基、Rは官能基又はアルキル基、mは1〜3の整数、nは0又は1の整数を表す。)
なお、一例として、上記一般式(1)に示すテトラアルキルシリケートのみからなるシリケートオリゴマー、つまり官能基を含まないシリケートオリゴマーを下記一般式(3)に示す。
【0016】
【化3】

(Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、lは2以上の整数を表す。)
また、(B)シリケートオリゴマーの分子量(質量平均分子量)は、500〜100000の範囲であることが好ましく、600〜10000の範囲であることがより好ましく、600〜3000の範囲であることがさらに好ましい。(B)シリケートオリゴマーの分子量が500未満であると、シリケートオリゴマーの一部が樹脂発泡体から滲出するおそれがあり、100000を超えると粘度が非常に大きくなるため取り扱い性が低下する。
【0017】
発泡樹脂原料中における(B)シリケートオリゴマーの含有量は、(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部であり、好ましくは3〜10質量部であり、より好ましくは3〜7質量部である。(B)シリケートオリゴマーの含有量が2質量部未満であると、樹脂発泡体に親水性を十分に付与できないおそれがあり、15質量部を超えると発泡樹脂原料の混練作業の作業性が低下する。
【0018】
(C)発泡剤は加熱により分解してガスを発生することにより、(A)ポリオレフィン系樹脂を発泡させる。(C)発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼン−1,3−スルホニルヒドラジド、ジフェニルオキシド−4,4’−ジスルフォニルヒドラジド、4,4’−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド、パラトルエンスルフォニルヒドラジド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルフタルアミド、テレフタルアジド、p−t−ブチルベンズアジド、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウムが挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂の発泡に一般に用いられるものであれば特に限定されるものではない。また、これらの発泡剤は単独で含有されてもよいし、二種以上が組み合わされて含有されてもよい。
【0019】
発泡樹脂原料中における(C)発泡剤の含有量は、(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは2〜30質量部であり、より好ましくは3〜22質量部である。(C)発泡剤の含有量が2質量部未満であると、十分に発泡させることができず、得られる樹脂発泡体が硬くなりすぎで加工が困難になるおそれがある。一方、(C)発泡剤の含有量が30質量部を超えると発泡させることがやや困難になる。
【0020】
(D)架橋剤は、加熱により分解され、遊離ラジカルを発生して、(A)ポリオレフィン系樹脂の分子間に架橋結合を形成するとともに、(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)シリケートオリゴマーとの間に架橋結合を形成する。(D)架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス[(t−パーオキシ)イソプロピル]ベンゼン等の有機過酸化物が挙げられる。また、これらの架橋剤は単独で含有されてもよいし、二種以上が組み合わされて含有されてもよい。
【0021】
発泡樹脂原料中における(D)架橋剤の含有量は、(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜1.5質量部であり、より好ましくは0.5〜1.2質量部である。(D)架橋剤の含有量が0.1質量部未満であると、架橋構造が少なくなりすぎて粘度不足により膨らまなくなるおそれがある。一方、(D)架橋剤の含有量が1.5質量部を超えると得られる樹脂発泡体が硬くなって、膨らまずに内部にホールが生じやすくなる。
【0022】
発泡樹脂原料は必要に応じて上記成分以外の成分、例えば、発泡助剤、整泡剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤、無機系充填剤、帯電防止剤、及び芳香剤を含有してもよい。発泡助剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化鉛等の金属酸化物、低級又は高級脂肪酸、低級又は高級脂肪酸の金属塩、尿素及びその誘導体等が挙げられる。無機系充填剤としては、例えば、重炭酸カルシウムが挙げられる。
【0023】
そして、本実施形態の樹脂発泡体を製造する際には、上記各成分を含有する発泡樹脂原料をニーダーやローラー等を用いて混練する。次いで、得られた混練物を、ポリオレフィン樹脂の発泡に一般的に用いられる公知の手法を用いて発泡させることにより樹脂発泡体を得ることができる。ポリオレフィン樹脂の発泡に一般的に用いられる公知の手法としては、例えば、発泡樹脂原料の混練物を密閉式の一次金型に充填し、加圧下加熱後に除圧して一次発泡体を形成し、この一次発泡体を常圧で加熱して二次発泡させる二段発泡方法が挙げられる。
【0024】
また、発泡樹脂原料の混練物の発泡時において、(D)架橋剤により(A)ポリオレフィン樹脂の分子間が架橋される。このとき、(D)架橋剤により(A)ポリオレフィン樹脂と(B)シリケートオリゴマーとの間にも架橋が形成されると考えられる。そして、(A)ポリオレフィン樹脂と(B)シリケートオリゴマーとが架橋されることにより、親水性の発現の担い手となる(B)シリケートオリゴマーが樹脂発泡体内に固定されることになる。その結果、樹脂発泡体の親水性が長期にわたり維持されると考えられる。
【0025】
本実施形態の樹脂発泡体は、使用前に一度、水に接触させる前処理を行うことにより親水性を発現する。すわなち、樹脂発泡体の表面に水が接触することにより、樹脂発泡体内のシリケートオリゴマーの側鎖のアルコキシ基が加水分解され、シラノール基が形成される。そして、このシラノール基が形成されることにより、シリケートオリゴマー、引いては同シリケートオリゴマーを含有する樹脂発泡体に親水性が付与される。なお、シリケートオリゴマーの側鎖のアルコキシ基を加水分解するための水は空気中に含まれる水分であってもよい。よって、本実施形態の樹脂発泡体を空気中に所定時間放置した場合にも、空気中の水分によって加水分解が進行して親水性を発現させることができる。
【0026】
本実施形態の樹脂発泡体は、前処理として水に接触させる処理を行うことによって優れた親水性を発現する。そのため、前処理後の樹脂発泡体は、その表面における接着性、印刷性、及び汚れ落ち性(汚染防止効果)等に優れたものとなる。よって、本実施形態の樹脂発泡体は、緩衝材、断熱材、洗浄用ブラシ、及び建材等に好適に用いることができる。
【0027】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体は、(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(D)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を発泡させてなるものである。そして、(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部である。そのため、水に接触させる処理を行うことによって、優れた親水性を発現できるとともに、その親水性を長期にわたり持続させることができる。
【0028】
(2)(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)シリケートオリゴマーとの間に架橋構造が形成されている。これにより、(B)シリケートオリゴマーを樹脂発泡体内に固定することができる。よって、樹脂発泡体から(B)シリケートオリゴマーが流出することを抑制でき、樹脂発泡体の親水性を長期にわたり維持することができる。
【0029】
(3)好ましくは、(B)シリケートオリゴマーの質量平均分子量は、500〜100000である。この場合、ポリオレフィン樹脂との間に架橋が形成されなかったシリケートオリゴマーが存在していたとしても、シリケートオリゴマーのサイズが大きいため、樹脂発泡体からシリケートオリゴマーが流出することを抑制できる。
【0030】
(4)好ましくは、(B)シリケートオリゴマーの含有量は、(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して3〜7質量部である。この場合、発泡樹脂原料の混練時における練作業性が良好となる。
【0031】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記(A)ポリオレフィン系樹脂と前記(B)シリケートオリゴマーとが架橋されていることを特徴とする前記ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【0032】
(ロ)請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体に水を接触させることにより、前記ポリオレフィン系樹脂発泡体中の前記(B)シリケートオリゴマーの側鎖を加水分解してシラノール基を形成することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体の親水性付与方法。
【実施例】
【0033】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態を更に具体的に説明する。
[独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造]
まず、各実施例及び各比較例に用いた発泡樹脂原料の成分を以下に示す。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂1:エチレン酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、ウルトラセン520F)
ポリオレフィン系樹脂2:エテン−1−オクテン共重合体(ダウケミカル社製、INFUSE9507)
シリケートオリゴマー1:質量平均分子量500〜700のシリケートオリゴマー(三菱化学社製、MKCシリケートMS51)
シリケートオリゴマー2:質量平均分子量1100〜1300のシリケートオリゴマー(三菱化学社製、MKCシリケートMS56)
シリケートオリゴマー3:質量平均分子量1300〜1500のシリケートオリゴマー(三菱化学社製、MKCシリケートMS57)
シリケートオリゴマー4:質量平均分子量1500〜1900のシリケートオリゴマー(三菱化学社製、MKCシリケートMS56S)
発泡剤:アゾジカルボンアミド(永和化成社製、AC#3)
架橋剤:ジクミルパーオキサイド(化薬アクゾ社製、カヤクミルD)
無機系充填剤:重炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、スーパーSSS)
発泡助剤1:酸化亜鉛(堺化学社製)
発泡助剤2:ステアリン酸亜鉛(堺化学社製)
界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤(川研ファインケミカル社製、アセチレノールE100)
上記各成分を下記表1及び2に示す配合割合で調製し、各実施例及び各比較例の発泡樹脂原料を得た。そして、発泡樹脂原料を加圧ニーダーで混練した後、さらにミキシングロールで100度に加熱しながら混練した。なお、表1及び2中の各成分の数値は質量部を表す。そして、得られた発泡樹脂原料の混和物を金型(150mm×150mm×30mm)に充填し、153℃、8MPaにて40分間、加熱及び加圧することにより各実施例及び各比較例の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、「樹脂発泡体」と記載する。)を得た。なお、比較例1はシリケートオリゴマーを含有しない例、比較例2及び4はシリケートオリゴマーの含有量が少ない例、比較例3はシリケートオリゴマーの代わりに界面活性剤を含有する例をそれぞれ示すものである。
【0035】
次に、得られた各実施例及び各比較例の樹脂発泡体について、親水性の評価、及び親水性の持続性の評価を行った。また、各例の発泡樹脂原料の混練時における練作業性についても評価を行った。
【0036】
[親水性の評価]
親水性の評価を行う前の前処理として、各実施例及び各比較例の樹脂発泡体の表面に水を接触させた状態で1時間放置した後、表面を乾燥させた。なお、シリケートオリゴマーの代わりに界面活性剤を含有する比較例3の樹脂発泡体については上記前処理を行っていない。そして、樹脂発泡体の表面にスポイトで0.03mlの水滴を滴下し、樹脂発泡体の表面に形成された水滴の接触角を測定した。その結果を表1及び2に示す。
【0037】
[親水性の持続性の評価]
親水性の評価を行った後の実施例1〜7及び比較例3の樹脂発泡体に対して、流水による30秒間の表面洗浄処理、及び24時間の60℃における乾燥処理を5回繰り返し行った。その後、樹脂発泡体の表面にスポイトで0.03mlの水滴を滴下し、樹脂発泡体の表面に形成された水滴の接触角を測定した。その結果を表1及び2に示す。
【0038】
[練作業性の評価]
発泡樹脂原料の混練時における練作業性を以下の基準により評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0039】
○:まとまりが良く、空気だまりがほとんど形成されない。
△:まとまりが悪く、空気だまりが形成される。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

表1に示すように、(B)シリケートオリゴマーを含有しない比較例1と比較して、(B)シリケートオリゴマーを3〜10質量部含有する各実施例は、親水性の評価時における接触角が小さくなっている。この結果から、比較例1と比較して各実施例は親水性が向上していることが分かる。また、(B)シリケートオリゴマーを1質量部のみ含有する比較例2は、親水性の評価時における接触角が比較例1と同じであった。この結果から、(B)シリケートオリゴマーの含有量が1質量部では十分な親水性を得られないことが分かる。
【0042】
一方、(B)シリケートオリゴマーに代えて界面活性剤を含有する比較例3は、親水性の評価時における接触角が各実施例とほぼ同じであり、各実施例と同等の親水性を有している。しかしながら、親水性の持続性の評価時における接触角は、親水性の評価時における接触角よりも大きくなっており、洗浄処理によって親水性が低下している。これに対して、各実施例では、親水性の持続性の評価時における接触角が親水性の評価時における接触角と同等であり、洗浄処理後も親水性が維持されている。この結果から、界面活性剤を含有する比較例3に対して、(B)シリケートオリゴマーを含有する各実施例は親水性の持続性に優れていることが分かる。
【0043】
また、練作業性に評価においては、(B)シリケートオリゴマーを10質量部含有する実施例4のみ、まとまりが悪く、空気だまりが形成されやすいという結果であった。この結果から、(B)シリケートオリゴマーを過剰に含有させると、発泡樹脂原料の混練作業が困難になることが示唆される。なお、表2に示すように、(A)ポリオレフィン樹脂を変更した場合にも、同様の結果が得られた。
【0044】
[架橋形成の確認試験]
また、実施例1〜4及び比較例1の樹脂発泡体について、(A)ポリオレフィン系樹脂と(B)シリケートオリゴマーとが架橋されていることの確認試験を行った。本試験はJIS K6796に規定される方法(架橋ポリエチレン製(PE−X)管及び継手−ゲル含量の測定による架橋度の推定)を応用して行った。すなわち、実施例1〜4及び比較例1の樹脂発泡体の断片を試料として、これをキシレンにて8時間煮沸した後、乾燥させることにより架橋構造を有する不溶解物を得た。そして、この不溶解物中に含まれるシリケートオリゴマーを蛍光X線分析により検出した。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

表3に示すように、樹脂原料中に(B)シリケートオリゴマーを含有させた実施例1〜4及び比較例1の全てにおいて、上記不溶解物中に(B)シリケートオリゴマーが検出された。また、上記不溶解物中の(B)シリケートオリゴマーの検出量は、樹脂原料中の(B)シリケートオリゴマーの含有量に依存して増加していた。この結果から、実施例1〜4及び比較例1の樹脂発泡体において、(B)シリケートオリゴマーの少なくとも一部と(A)ポリオレフィン系樹脂とが架橋されていることが推測できる。そして、架橋構造の形成によって(A)ポリオレフィン系樹脂に(B)シリケートオリゴマーが固定されるために、樹脂発泡体からの(B)シリケートオリゴマーの流出を抑制することができ、その結果、親水性を長期的に持続させることができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(D)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を発泡させてなり、
前記(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が前記(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部であることを特徴とする独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記(B)シリケートオリゴマーの質量平均分子量は、500〜100000であることを特徴とする請求項1に記載の独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の表面に水を接触させ、前記ポリオレフィン系樹脂発泡体中の前記(B)シリケートオリゴマーの側鎖を加水分解してシラノール基を形成してなる独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
(A)ポリオレフィン系樹脂、(B)シリケートオリゴマー、(C)発泡剤、及び(C)架橋剤を含有する発泡樹脂原料を混練及び発泡させる工程を含み、
前記(B)シリケートオリゴマーは、アルキル基の炭素数1〜4のテトラアルキルシリケートを部分的に加水分解するとともに重合してなる化合物であり、その含有量が前記(A)ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して2〜15質量部であることを特徴とする独立気泡型ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2012−46599(P2012−46599A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188501(P2010−188501)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】