説明

狭帯域UVB放射燐光体の製造方法

【課題】均質性が改良され、より高い光度を有する燐光体を形成し、焼成されるケーキ及び焼成るつぼ間の粘着がほとんど又は全く無い、狭帯域、UVB放射、(Y、Gd、Ce、Pr)Mgボラート燐光体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、MgO及びホウ酸と組み合わせた混合共沈殿酸化物を使用し、2回焼成してボラート燐光体を形成する。混合共沈殿酸化物は、Y、Gd、Ce及び任意でPr源を酸性溶液中に溶解して形成する。シュウ酸又はアンモニアを上記溶液へ添加し(又はその逆)、オキザラート又は水酸化物の共沈殿物を形成し、それを更に焼成して混合共沈殿酸化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニウム活性化されたペンタボラート燐光体(phosphors)であり、代表的には光治療法目的で低圧水銀蒸気放電ランプに使用される狭帯域紫外線放射燐光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
光治療法用の紫外線(UV)放射の使用は、既に確立されている。実際、UV治療法は今や乾癬、白斑及び湿疹等の40種以上の皮膚病及び皮膚障害の治療に使用されている。波長260nm〜320nmのUVBの光治療法研究により、約312nmを中心とする狭帯域UVB放射は、最も光治療法に有効である一方、同時に目的としない紅斑作用を抑えることが発見された。皮膚の紅斑(又は日焼け感受性)は約297nmで最大となるため、約312nmでの狭帯域放射により紅斑反応が発生するまで患者にはより長い治療時間を与えることができる。
【0003】
Gd3+ 67/28S転移は312nm狭帯域放射に最も好ましい。しかし、パリティ禁止のため、希土類のf−f転移は非常に弱く、有用な放射強度を得るには増感剤を使用することが必須である。最初に開発された狭帯域UVB燐光体の一つはビスマス、例えば(Gd0.5、La0.487)B36:Bi0.013での増感であった。254nm放射による励起により、このボラート燐光体は特徴的な312nmを中心とする非常に狭い帯域の放射を行う。しかしビスマス増感剤は毒性があるので、他の狭帯域UVB燐光体が開発され、例えば(Gd0.45、Y0.5)MgB510:Ce0.05が米国特許第4319161号に記載されている。
【0004】
米国特許第4319161号に記載されているCe増感された燐光体の製造方法では、Gd、Y、Ce、Mgの酸化物及びホウ酸を乾燥混合し、次に混合物を弱い還元性雰囲気下で3回焼成する。その後、米国特許6007741号でHuntらは、マグネシア及びホウ酸の飽和水溶液中で反応物をミリング(milling)してから僅かに還元性の雰囲気下で3回焼成する、(Gd0.45、Y0.5)MgB510:Ce0.05燐光体の改良された製造プロセスを提案した。
【特許文献1】米国特許第4319161号明細書
【特許文献2】米国特許第6007741号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
後者の方法は、焼成される燐光体ケーキの均質性を増加し、焼成されたケーキがボート型焼成容器へ粘着する傾向を減少させるために開発された。しかし、やはり3回の焼成ステップが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の概要
本発明は従来技術の問題を改善することを目的とする。
更に本発明は、狭帯域UVB放射燐光体の改良された製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の上記及び他の目的に関して、一般式(Y1-x-y-zGdxCeyPrz)MgB510で表される組成物を有する狭帯域UVB放射燐光体の製造方法が提供される。但し、xは0.02〜0.80の範囲の値を有し、yは0.01〜0.97の範囲の値を有し、zは0〜0.05の範囲の値を有し、x+y+z<1である。更に好ましくは、xは0.3〜0.6の範囲の値を有し、yは0.02〜0.2の範囲の値を有し、zは0.002〜0.02の範囲の値を有する。
【0008】
本発明の方法は、MgO及びホウ酸と組み合わされて2回焼成され、ボラート燐光体を形成する、混合共沈殿酸化物の使用に関する。混合共沈殿酸化物は、Y、Gd、Ce及び任意でPr源を酸溶液中へ溶解させることにより形成される。シュウ酸又はアンモニアが溶液へ添加され(又はその逆)、オキザラート又は水酸化物の共沈殿物が形成され、それは更に、好ましくは約750℃での空気中焼成により焼成され、混合共沈殿酸化物が得られる。混合共沈殿酸化物の使用は、均質性を改良し、より高い明るさを有する燐光体を生じ、焼成されるケーキ及び焼成るつぼ間の粘着性がほとんど又は全く無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の詳細な説明
本発明を、別の及び更なるそれらの目的、利点及び可能性と共に更に良く理解するために、下記開示及び特許請求の範囲が参照される。
【0010】
(Y、Gd、Ce、Pr)Mgボラート燐光体の調製は、予め調製された(Y、Gd、Ce、Pr)酸化物の共沈殿物がマグネシア及びホウ酸と組み合わされ、僅かに還元性の雰囲気下で2回焼成される新規な方法を使用する。これは分離された酸化物粉をホウ酸と組み合わせる従来の技術方法とは異なる。この新規な方法は、焼成されるケーキのより大きな均質性を生じ、その結果より高い光度を生じる。更に、この新規な方法は、2回の焼成ステップのみで、焼成されるケーキのボート型容器への粘着を全く又はほとんどなくすことを可能とする。
【0011】
本発明は更に詳細に下記実施例を引用して記載される。しかし、本発明はこれら特定の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
実施例1
約100グラムの(Gd0.45、Y0.5)MgB510:Ce0.05燐光体を米国特許第6007741号に記載されている方法に従い製造した(比較例)。同一の式を有する第二の燐光体(発明例)も、本発明の方法に従い、混合(Y、Gd、Ce)共沈殿酸化物から調製した。共沈殿酸化物は、最初に380mlの濃硝酸を含有する1500mlの水溶液中へ43.42グラムのCe(NO33・6H2Oを溶解して形成した。次に溶液を攪拌して95℃へ加熱した。溶液が透明になったとき、113.47グラムのY23及び163.93グラムのGd23を溶液へ徐々に添加した。混合した溶液は温度85℃〜95℃に維持して透明になるまで攪拌した。溶液を次に60℃まで冷却し、1500mlの脱イオン化水中に416グラムのシュウ酸を含有するシュウ酸溶液中へ、50℃〜60℃の温度及び1.0〜2.0のpHを維持しながら徐々に注いだ。沈殿物が直ちに形成され、得られたミルク状白色溶液を温度50℃〜60℃で1時間連続的に激しく攪拌した。静置後、上澄みをデカントし、オキザラート共沈殿物を冷水中で再懸濁して10分間攪拌した。上記手順を溶液がpH4となるまで繰り返した。最終デカンテーション後、オキザラート共沈殿物を65℃で12時間乾燥オーブン中に置いた。乾燥したオキザラートを、次に空気中で3時間750℃で焼成し、混合した、式(Gd0.45、Y0.5、Ce0.0523の共沈殿酸化物が形成された。131.6グラム量の共沈殿酸化物を、36.88グラムのMgO及び333.88グラムのH3BO3(過剰の0.01モルマグネシア及び0.2モルホウ酸を使用した)と完全に混合した。混合物を次にアルミナるつぼ中で、好ましくはそれぞれ2〜3時間、1020℃〜1060℃で僅かに還元性の98%N2/2%H2雰囲気下で2回焼成した。2回の焼成間に、焼成したケーキを粉砕して−35メッシュふるいにかけた。2回焼成したケーキは次に5mmYTZビーズと共に2時間湿式ミルで粉砕し、洗浄し、ろ過し、乾燥し、−300メッシュのふるいにかけて(Gd0.45、Y0.5)MgB510:Ce0.05燐光体を製造した。
【0013】
燐光体サンプルをプラーク(plaque)中に詰め込み、水銀放電からの254nm照射により励起した。それぞれのサンプルの最大(ピーク)放射を312nmで測定し、310nm〜316nmの放射曲線の積算面積も又算出した。データを標準的なBi増感されたボラート燐光体(Gd0.5、La0.487)B36:Bi0.013に関する表1に示す。表1のデータは、本発明の共沈殿方法により製造されたCe増感されたボラート燐光体は、米国特許第6007741号に従い製造された比較例よりも高い相対プラーク光度を有することを示す。
【0014】
【表1】

【0015】
実施例2
Ce及びPr共増感されたボラート燐光体を(Gd0.45、Y0.49、Ce0.05、Pr0.01)MgB510の組成で製造した。111.2グラムのY23、163.93グラムのGd23、43.42グラムのCe(NO33・6H2O、及び3.38グラムのPr47を希硝酸により溶解し、過剰のシュウ酸をその溶液に添加して、Y、Gd、Ce及びPrの共沈殿物オキザラートを得る以外は、実施例1の(Gd0.45、Y0.5)MgB510:Ce0.05燐光体と同一の方法で、燐光体を製造した。共沈殿物をろ過し、乾燥し、焼成して、式(Gd0.45、Y0.49、Ce0.05、Pr0.0123の共沈殿酸化物を形成した。131.6グラム量の混合した共沈殿酸化物を、36.88グラムのマグネシア及び333.88グラムのホウ酸と完全に混合し、混合物を焼成して実施例1と同様に製造した。
【0016】
表1及び2は、実施例2のCe及びPr共増感されたボラート燐光体並びに実施例1のCe増感された燐光体をそれぞれ含有する低圧水銀放電ランプ(F72T12)からのUVB放射出力(マイクロワット/cm2)を比較する。それぞれのランプのUVB放射を、12インチの距離からの12インチセクション(section)のフィルターを通して測定した。測定した放射照度は、307nm〜317nmの放射曲線の積算面積から算出した。100ワット蛍光ランプを430mA(表1)及び800mA(表2)で100時間まで使用した。表より、ランプデータはUVB放射出力は、Prを(Y、Gd、Ce)Mgボラートマトリックスへ置換することにより非常に増加することが示される。結果は又、本発明により製造したCe及びPr共増感された燐光体は、特に430mAで使用(操作)したランプでより高い保持率を有すことを示す。(保持率は、100時間放射出力を0時間放射出力で除し、100%を乗したものとして定義される:(100時間/0時間)×100%)。更に、ピーク位置はPr増感剤がボラート燐光体中へドープされた場合にシフトしない。増強された狭帯域放出は、約312nmを中心として維持される。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
上記に現在本発明の好ましいと思われる態様を記載したが、上記態様の種々の変更改変も本発明の特許請求の範囲内で行われることができることは当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Y1-x-y-zGdxCeyPrz)MgB510
但し、xは0.02〜0.80の範囲の値を有し、yは0.01〜0.97の範囲の値を有し、zは0〜0.05の範囲の値を有し、x+y+z<1である、
で表される組成物を有する狭帯域UVB放射燐光体の製造方法であり、下記ステップを有する方法:
(a)Y、Gd、Ce及び任意でPr源を、酸性溶液中に溶解するステップ;
(b)Y、Gd、Ce及び任意でPrを含有するオキザラート又は水酸化物の共沈殿物を酸性溶液から形成するステップ;
(c)オキザラート又は水酸化物の共沈殿物を焼成して共沈殿酸化物を形成するステップ;
(d)共沈殿酸化物と酸化マグネシウム及びホウ酸とを組み合わせて混合物を形成するステップ;並びに
(e)上記混合物を僅かに還元性の雰囲気中で2回焼成して燐光体を形成するステップ。
【請求項2】
上記水酸化物の共沈殿物は水酸化アンモニウムを使用して形成される請求項1の方法。
【請求項3】
上記オキザラート共沈殿物はシュウ酸を使用して形成される請求項1の方法。
【請求項4】
共沈殿酸化物はオキザラート又は水酸化物の共沈殿物の空気中焼成により形成される請求項1の方法。
【請求項5】
酸性溶液は硝酸水溶液である請求項1の方法。
【請求項6】
上記ステップ(e)の混合物はN2/H2雰囲気中で焼成される請求項1の方法。
【請求項7】
化学量論的に0.01モル過剰の酸化マグネシウム及び化学量論的に0.2モル過剰のホウ酸を共沈殿酸化物と組み合わせて混合物を形成する請求項1の方法。
【請求項8】
Ce源は硝酸セリウムであり、Gd源は酸化ガドリニウムであり、Y源は酸化イットリウムであり、Pr源は酸化プラセオジムである請求項1の方法。
【請求項9】
ステップ(e)の混合物は2〜3時間1020℃〜1060℃で焼成される請求項1の方法。
【請求項10】
オキザラート共沈殿物を形成する時に酸性溶液は50℃〜60℃の温度で1.0〜2.0のpHに維持される請求項3の方法。
【請求項11】
xは0.3〜0.6の範囲の値を有し、yは0.02〜0.2の範囲の値を有し、zは0.002〜0.02の範囲の値を有する請求項1の方法。
【請求項12】
一般式(Y1-x-y-zGdxCeyPrz)MgB510
但し、xは0.02〜0.80の範囲の値を有し、yは0.01〜0.97の範囲の値を有し、zは0〜0.05の範囲の値を有し、x+y+z<1である、
で表される組成物を有する狭帯域UVB放射燐光体の製造方法であり、下記ステップを有する方法:
(a)Y、Gd、Ce及び任意でPr源を、硝酸溶液中に溶解するステップ;
(b)Y、Gd、Ce及び任意でPrを含有するオキザラート共沈殿物を上記溶液から形成するステップ;
(c)オキザラート共沈殿物を焼成して共沈殿酸化物を形成するステップ;
(d)共沈殿酸化物と酸化マグネシウム及びホウ酸とを組み合わせて混合物を形成するステップ;並びに
(e)上記混合物を僅かに還元性の雰囲気中で2回、1020℃〜1060℃の温度に焼成して燐光体を形成するステップ。
【請求項13】
上記オキザラート共沈殿物は、上記溶液を50℃〜60℃の温度で1.0〜2.0のpHのシュウ酸溶液へ添加して形成される請求項12の方法。
【請求項14】
上記オキザラート共沈殿物は空気中約750℃で焼成され共沈殿酸化物を形成する請求項13の方法。
【請求項15】
Ce源は硝酸セリウムであり、Gd源は酸化ガドリニウムであり、Y源は酸化イットリウムであり、Pr源は酸化プラセオジムである請求項12の方法。
【請求項16】
xは0.3〜0.6の範囲の値を有し、yは0.02〜0.2の範囲の値を有し、zは0.002〜0.02の範囲の値を有する請求項12の方法。

【公開番号】特開2006−283022(P2006−283022A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91262(P2006−91262)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(394001685)オスラム・シルバニア・インコーポレイテッド (68)
【Fターム(参考)】