説明

猫における甲状腺機能亢進症を予防する方法並びに限定されたセレン及びヨウ素を含む組成物

【課題】猫における甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減する食物組成物及び方法の提供。
【解決手段】猫におけるセレン摂取の量またはセレン及びヨウ素摂取の量を制限する。具体例においては、本組成物及び本組成物に基づく方法は、乾物ベースで約10%〜約40%または約20%〜約40%のタンパク質を含む食物組成物を含むことができる。このような組成物中のタンパク質は、約1.0mg/kg以下または約0.5mg/kgの粗タンパク質以下の濃度でセレンを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は一般に、健康な猫の食物の管理に関し、より詳細には、猫におけるセレン摂取の量を制限することによって、猫における甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甲状腺機能亢進症は、より高齢の猫の最も一般的な内分泌疾患である。この疾患は、多活動、体重減少及び容易に知覚できる甲状腺腫を伴う。抗甲状腺薬、手術または腺組織を破壊するための放射性ヨウ素の使用を含む治療が利用可能であるが、こうした介入の各々は制限及び副作用を有する。従って、猫における異常な甲状腺機能及び甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減する方法及び組成物に対するまだ満たされていない必要が存在する。
【発明の概要】
【0003】
従って、本願発明者らは、本明細書において、猫におけるセレンの食物摂取を制限することは、猫に甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減することを発見することに成功した。
【0004】
従って、様々な具体例においては、本発明は、猫における甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減する方法を含むことができる。本方法は、猫用の食餌におけるセレンの量を、乾物ベースで約1.3mg/kg以下、約1.0以下、約0.8mg/kg以下、または約0.65mg/kgの量以下に制限することを含むことができる。本方法は、猫用の食餌におけるヨウ素の量を、乾物ベースで約1.0mg/kg以下に制限することをさらに含むことができる。
【0005】
様々な具体例においては、本発明はまた、セレンが低減され、ヨウ素が低減された包装済みの猫用の食餌の組成物を含むことができる。本組成物は、乾物ベースで約2.5mg/kg以下、乾物ベースで約2.0mg/kg以下、約1.0mg/kg以下または乾物ベースで約0.65以下の量でセレンを及び乾物ベースで約1.0mg/kg以下の量でヨウ素を含むことができる。
【0006】
様々な具体例においては、本組成物及び本組成物に基づく方法は、乾物ベースで約10%〜約40%または約20%〜約40%のタンパク質を含む食物組成物を含むことができる。このような組成物中のタンパク質は、約1.0mg/kg以下または約0.5mg/kgの粗タンパク質以下の濃度でセレンを含むことができる。
【0007】
様々な具体例においては、本組成物及び本組成物に基づく方法は、10%〜約50%のタンパク質、約10〜約30%の脂肪及び約5%〜約55%の炭水化物を含む食物組成物を含むことができる。
【0008】
本組成物及び本組成物に基づく方法におけるタンパク質は、植物性タンパク質若しくは動物性タンパク質またはこれらの組合せとすることができる。植物性タンパク質は、じゃがいも濃縮物、大豆濃縮物、大豆タンパク質単離物(isolate)、大豆かす、米単離物、コーングルテンミールまたはこれらの組合せとすることができ、動物性タンパク質は、鶏の背、牛のタン、豚の肺、牛の肺、機械的除骨七面鳥、家禽副産物ミール、卵及びこれらの組合せから得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、従って、制限された量のセレンまたは制限された量のセレン及びヨウ素の両方を含む食餌、並びに、甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減するために、猫にこのような食餌を供給する方法を含む。
【0010】
猫における甲状腺機能亢進症を、当分野において周知の方法及び疾患特性に従って重症度に関して診断し、評価することができる。(例えば、Peterson et al., in The cat: diseases and clinical management, R. G. Sherding, Ed., New York, Churchill Livingstone, 2nd Edition, pp. 1416-1452, 1994; Gerber et al. Vet Clin North Am Small Anim Pract 24 : 541-65, 1994を参照されたい。)。
【0011】
本明細書において使用する“ヨウ素”という用語は、その分子形態に関わらずヨウ素原子を指す。従って、ヨウ素という用語は、制限すること無くヨウ素原子を含み、これは、1つ以上の化学的形態、例えばヨウ化物、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、エリスロシン、及びその他同様なものの中に存在することができる。
【0012】
本明細書において使用する“セレン”という用語は、その分子形態に関わらずセレン原子を指す。従って、セレンという用語は、制限すること無くセレン原子を含み、これは、1つ以上の化学的形態、例えば亜セレン酸塩、セレン酸塩、セレノメチオニン、及びその他同様なものの中に存在することができる。
【0013】
本明細書において使用する“T4”という略号は、ヨウ素含有アミノ酸であるチロキシン、3,5,3’,5’−テトラヨードチロニンを指す。“遊離T4”という用語は、甲状腺結合グロブリン、アルブミン、プレアルブミン、及びその他同様なもののようなキャリアタンパク質に結合していないT4を指す。
【0014】
本明細書において使用する“T3”という略号は、ヨウ素含有アミノ酸である3,5,3’−トリヨードチロニンを指す。“遊離T3”という用語は、甲状腺結合グロブリン、アルブミン、プレアルブミン、及びその他同様なもののようなキャリアタンパク質に結合していないT3を指す。
【0015】
本明細書において使用する“GPX”という略号は、セレン依存性酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼを指す。
【0016】
フード及び飼料中のヨウ素または他の無機元素の濃度を他にモルベース(マイクロモル/キログラム)でまたは重量ベース(ミリグラム/キログラム、百万分率、“PPM”と同一)で表すことができる。ヨウ素は分子量126.9を有する。従ってモル濃度で2.76マイクロモルのヨウ素/キログラムは、重量濃度で0.35PPMに等しい。セレンは分子量78.96を有する。従ってモル濃度で1.25マイクロモルのセレン/キログラムは重量濃度で0.1mg/kgに等しい。
【0017】
本発明の様々な具体例においては、セレンは、乾物ベースで、食餌組成物中に最大濃度約1.3mg/kgの食餌以下、最大濃度約1.0mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.9mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.8mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.65または0.60mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.4mg/kg以下、最大濃度約0.3mg/kgの食餌以下または最大濃度約0.2mg/kgの食餌以下で存在することができる。
【0018】
様々な具体例においては、ヨウ素はさらに食餌組成物中に存在することができる。存在するヨウ素の量は、不都合な甲状腺機能を生じないレベルであるべきである。猫における不都合な甲状腺機能を生じないこのような最大レベルは、約2.5または約2.0mg/kgの食餌であると考えられている。従って、ヨウ素は、乾物ベースで、本発明の食餌組成物中に最大濃度約2.5mg/kgの食餌以下、最大濃度約2.0mg/kgの食餌以下、最大濃度約1.0mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.9mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.8mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.6mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.4mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.35mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.3mg/kgの食餌以下、最大濃度約0.25mg/kgの食餌以下、または最大濃度約0.2mg/kgの食餌以下で存在することができる。ヨウ素またはセレンの最小量は、猫における健康を維持する量とすることができる。
【0019】
フード、飼料、飲料、または栄養補助剤からの栄養素の動物における摂取量を、前記フード、飼料、飲料、または栄養補助剤中の前記栄養元素の濃度と前記動物によって摂取された前記フード、飼料、飲料、または栄養補助剤の量の積として表すことができる。
【0020】
栄養素をキャットフードの形態で猫に提供できる。様々な一般に周知のキャットフード製品が猫の所有者にとって入手可能である。市販のキャットフードは次の3つの基本的なタイプである:缶入り(ウエット)キャットフード、セミモイストキャットフード、及びドライタイプキャットフードである。猫用トリートもまた利用可能である。缶入りキャットフードは、一般に65%を超え、通常68%〜85%の含水率を有する。セミモイストキャットフードは典型的に、10〜65%、通常25%〜40%の含水率を有し、湿潤剤、ソルビン酸カリウム、及び製品を安定化し、微生物増殖(細菌及びかび)を予防するための他の成分を含んでよい。ドライタイプのキャットフードは一般に約10%以下の含水率を有し、その加工は典型的に、押出し、乾燥及び/または熱中でのベーキングを含む。猫用トリートは典型的に、セミモイスト、咀嚼可能なトリート;任意の数の形態のドライトリート;咀嚼可能な骨、またはベークし、押出し若しくは打抜きしたトリート;糖菓トリート;或いは当業者には周知の他の種類のトリートとすることができる。
【0021】
栄養素をまた加工済みキャットフード以外の形態で猫に提供してよい。従って、例えば、Kyle et al.は、ビタミン−ミネラル混合物を缶入りキャットフードに加えた(Kyle et al., New Zealand Veterinary Journal 42:101-103, 1994)。飲料水または他の流体を同様に使用して、栄養素を猫に提供してよい。
【0022】
市販の缶入りキャットフード製品は、表1及び2に示すように乾物(DM)ベースで表される様々な量のヨウ素及びセレンを含む。
【表1】

【表2】

【表3】

【0023】
市販のキャットフードは一般に、以下のクラスからの成分を含む:動物及び/または植物源から得られるタンパク質;個々のアミノ酸;脂肪;炭水化物源、ビタミン;ミネラル;及び追加の機能性成分の例えば保存剤、乳化剤、及びその他同様なもの。
【0024】
キャットフードにおいて使用するためのタンパク質源は、乾物ベースで、45%〜100%の粗タンパク質を含むことができる。キャットフードの工業的生産において一般に使用される21のタンパク質成分を、セレン及びヨウ素の含量に関して分析した。結果を、下記の表3に示すように、mg/kgの乾物(DM)として及びmg/kgの粗タンパク質(CP)としても表す。
【表4】

【表5】

【0025】
表に示すように、植物性タンパク質の例えばじゃがいも濃縮物及び大豆単離物は、より濃度のセレン及びヨウ素の両方を有する傾向がある。
【0026】
本発明のキャットフード組成物中のタンパク質含量は、乾物ベースで、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%〜最高約40%まで、最高約45%まで、最高約50%まで、最高約55%まで、最高約60%まで、最高約70%までまたはこれを超える量とすることができる。
【0027】
セレンは、タンパク質成分中に、濃度約1.0mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.8mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.6mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.5mg/kgタンパク質以下、濃度約0.4mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.3mg/kgの粗タンパク質以下または濃度約0.2mg/kgの粗タンパク質以下で存在することができる。
【0028】
ヨウ素はまた、タンパク質成分中に、濃度約1.0mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.8mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.6mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.4mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.2mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.1mg/kgの粗タンパク質以下、濃度約0.05mg/kgの粗タンパク質以下または濃度約0.02mg/kgの粗タンパク質以下で存在することができる。
【0029】
タンパク質を、動物源の例えば肉若しくは肉副産物から、または植物源の例えば植物性タンパク質源から提供することができる。動物性タンパク質源は、肉タンパク質単離物、豚の肺、鶏肉、豚の肝臓、家禽ミール、卵及びこれらの組合せを含むことができる。植物性タンパク質源は、じゃがいも濃縮物、大豆濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆かす、コーングルテンミール及びこれらの組合せを含むことができる。
【0030】
炭水化物を穀物成分から供給することができる。このような穀物成分は、植物材料、典型的にデンプン質材料を含むことができ、これは主に、食物可消化炭水化物及び非可消化炭水化物(繊維)及び乾物ベースで約15%未満のタンパク質を供給することができる。例としては、限定するものではなく、酒米、イエローコーン、コーンフラワー、大豆ミルラン(soybean mill run)、米ぬか、セルロース、ガム、及びその他同様なものが挙げられる。典型的に、炭水化物は、乾物ベースで、本発明の組成物中に、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%〜最高約35%まで、最高約40%まで、最高約45%まで、最高約50%まで、最高約55%までまたはこれを超える量で存在することができる。
【0031】
キャットフードにおいて使用される脂肪としては、限定するものではなく、動物油脂の例えば選択で白色グリース(white grease)、鶏脂、及びその他同様なもの;植物油脂;並びに魚油が挙げられる。脂肪は、乾物ベースで、本発明のキャットフード組成物中に、約5%、約10%、約15%〜最高約20%まで、最高約25%まで、または最高約30%までの濃度で存在することができる。
【0032】
特定のパーセントのタンパク質、炭水化物及び脂肪を実現するためにキャットフード組成物中に使用するための成分のパーセントを、当分野において周知の方法によって決定できる。例えば、線形計画法を使用する周知のコンピュータプログラムを用いて、特定の特性を有するペットフード食を設計することができる。このようなプログラムの例は、アグリ−データ・システムズ、Inc.、フェニックス、AZ(Agri-Data Systems, Inc., Phoenix, AZ)によって提供されるVLCFX(“ビジュアルリーストコストフォーミュレーション−拡張版”)プロダクトフォーミュレーションアンドマネージメントシステム(VLCFX ("Visual Least Cost Formulation-eXtended") Product Formulation and Management System)である。
【0033】
タンパク質成分を補うことが必要な場合、個々のアミノ酸をキャットフード中に成分として含めることもできる。キャットフードに加えることができるこのようなアミノ酸は、当分野において周知である。
【0034】
ビタミン及びミネラルを本発明のキャットフード組成物中に含めることができる。ビタミンの源は、複雑な天然源の例えば醸造酵母、エンジビタ酵母(engivita yeast)、及びその他同様なもの、並びに合成及び精製源の例えば塩化コリン及びその他同様なものを含むことができる。本発明のキャットフード組成物中のミネラルは、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、必要に応じて所望のヨウ素含量を実現するためのヨウ素添加及び非ヨウ素添加塩、並びに当分野において周知の他の従来の形態の無機栄養素(例えば、National Research Council, Nutrient Requirement of Cats, Washington, DC, National Academy of Sciences, page 27, Table 5 footnotes, 1978を参照されたい。)を含むことができる。
【0035】
以下の実施例は本発明のさらなる例示であるが、本発明はこれに限定されないことは理解されよう。
【実施例】
【0036】
実施例1
この実施例は、甲状腺機能亢進症を有するより高齢の猫において、セレン及びヨウ素の両方の制限された摂取を提供する食餌が甲状腺機能に及ぼす影響を示す。
【0037】
食餌30643と呼ぶ低セレン、低ヨウ素のドライキャットフードを、以下の組成及び特性を有するように製造した:穀物成分、50〜55%;動物性タンパク質、0〜5%;植物性タンパク質、30〜35%;動物脂肪、8〜10%;他の成分、5〜7%;セレン、乾物ベースで0.2mg/kg;及びヨウ素、乾物ベースで0.2mg/kg。
【0038】
甲状腺機能亢進症を有する10匹の老齢期の猫を、年齢及び血清全T4レベルに基づいて2群に割り振った。猫に、下記の表4に示すヨウ素及びセレンの含量を有する対照ドライキャットフードまたは食餌30643を供給した。
【表6】

【0039】
食餌を8週間供給した。フード摂取量を毎日測定し、体重を毎週測定した。2週間毎に、一晩フードを取り除いた後に血液を無菌的に引き抜いた。全血球計算のための血液及び甲状腺ホルモン分析のための血清を直ちに分析した。他の測定のための血液は5000gで遠心分離し、血清を集め、凍結し、血清の化学並びにヨウ素及びセレン濃度に関して分析するまで−70℃で貯蔵した。
【0040】
血清全T3及びT4濃度を、猫において使用するためのラジオイムノアッセイによって測定した。血清遊離T4濃度を、結合形態を遊離形態から分離するための平衡透析の使用によって決定した。ラジオイムノアッセイを使用して、透析液中の遊離形態の濃度を測定した。
【0041】
猫血清中の遊離T3を推定するためのアッセイは、血清中の天然の結合タンパク質に有意に結合しない125I−トリヨードチロニン(T3)誘導体を使用した。加えて、誘導体及びT3の両方に結合する高親和性抗体を使用した。こうした2つのT3化合物は、結合タンパク質及び結合したT3から妨害されること無く古典的平衡ラジオイムノアッセイが実行されることを可能にする。アッセイ抗体は、結合したアッセイフラクションを遊離フラクションから簡易に固相分離するための12×75mmポリプロピレン管の壁に結合した。アッセイの残りは、標準的なラジオイムノアッセイ技術だった。
【0042】
窒化ホウ素照射カプセルを使用したエピサーマル機器中性子放射化分析(Spate et al., J Radioanalytical Nuclear Chem 195: 21-30, 1995)によって血清及び食物ヨウ素を測定した。
【0043】
この供給の試みの結果は、表5に示す通りだった。
【表7】

【表8】

【0044】
表に示すように、食餌30643を供給された猫は、正常なレベルへの血清全T3及びT4の有意な低減を示したが、対照食を供給された猫においてこうした甲状腺ホルモンの濃度は変化しなかった。遊離T3及びT4は、食餌30643を供給された猫において同様の統計的に有意な低減を示した。血清セレン及びヨウ素レベルは、低セレン食30643を供給された猫において減少したが、対照食を供給された猫において変化しなかった。セレン栄養状態の指標である血清グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)は、食餌30643を供給された猫において変化しなかったが、対照食を供給された猫において増大した。セレン含有酵素であるGPXは、重要な抗酸化剤機能を有し、従って、GPXの活性の減少は望ましくない。
実施例2
【0045】
この実施例は、子猫において、セレン摂取が、循環する甲状腺ホルモンレベルに及ぼす影響を示す。
【0046】
36匹の特定病原体未感染の飼いならされたショートヘアの子猫(19匹の雄及び17の雌;生後9.8週間)を、性別及び体重をブロック化基準として使用したランダム化完備型計画において利用した。子猫に低セレン(乾物ベースで0.02mg/kgのSe)のトルラ酵母(torula yeast)に基づく食餌を5週間(予備試験)供給し、その後アミノ酸に基づく食餌(0.027mgのSe/kgの食餌)を8週間(実験期間)供給した。6レベルのセレン(0、0.05、0.075、0.10、0.20及び0.30mg/kgの食餌)を、亜セレン酸ナトリウムの形態でアミノ酸に基づく食餌に加えた。さらなる実験の詳細は、先に説明した通りである(Wedekind et al., J Anim Physiol Anim Nutr (Berl) 875-230, 2003、これを本明細書において参考のために全体を引用する。)。
【0047】
フード摂取量を毎日測定し、体重を毎週測定した。反応変数は、血漿中のセレン濃度及びGPX活性及び赤血球(RBC)並びに血漿全T3及び全T4を含んだ。フード摂取、体重増加またはセレン欠乏の臨床的徴候の、有意な変化は認められなかった。
【0048】
子猫のセレン要件を、セレン摂取に対するRBC及び血漿GPXの関係を回帰分析で調べる曲線における破断点(breakpoint)から推定した。破断点を、乾物ベースでそれぞれ0.12及び0.15mg/kgであると決定した。明確な破断点は、食餌のセレン含量に対する血漿セレン濃度Xの関係を回帰分析で調べる曲線の場合観察されなかった。血漿セレンレベルは、セレン摂取が増大するにつれて推定された要件を超えてさえも増大し続けた。
【0049】
子猫のセレン摂取は、甲状腺ホルモンレベルに影響した。血漿全T4及び全T4:全T3の比は、食物セレン濃度が増大するにつれて二次関数的に減少した。しかしながら、血漿全T3は、表6に示すように直線的に増大した。
【表9】

同じ上つき添字を有しない平均値同士は、有意に異なる(P<0.05)
【0050】
亜セレン酸ナトリウムから得られた補充セレン濃度(X)に対する全T3(Y)の回帰は、Y=0.79(±0.08)+1.42(±51)X、R=0.19だった。血漿セレンの全T3の回帰は、Y=0.79(±0.09)+0.081(±0.03)X、R=0.17、p<0.05だった。
【0051】
血漿セレン濃度及び血漿T3レベルが、要件を超えるセレン摂取レベルで増大し続けたという観察は、成長中の猫のセレン摂取を制御することは、正常な甲状腺機能を維持するために重要であることを示す。
実施例3
【0052】
この実施例は、食物セレンを増大させることが正常で健康な成猫における甲状腺機能の指標に及ぼす影響を示す。
【0053】
低セレン食を以下の成分を用いて製造した:水、乾燥トルラ酵母、鶏脂、コーンスターチ、セルロース、並びにミネラル、ビタミン、及びL−シスチン、DL−メチオニン、L−トリプトファン、及び塩化コリンの無セレン混合物。ミネラル混合物は、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄七水和物、硫酸亜鉛一水和物、硫酸マンガン一水和物、硫酸銅五水和物、ホウ酸、モリブデン酸ナトリウム二水和物、ヨウ化カリウム、及び硫酸コバルト七水和物を含んだ。ビタミン混合物は、ビタミンA(レチニルアセテートとして)、ビタミンE(dl−アルファ−トコフェリルアセテートとして)、ナイアシン、チアミン、D−パントテン酸、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、葉酸、ビオチン、及びシアノコバラミンを含んだ。食餌は、分析によって、乾物ベースで8.8%の粗タンパク質(そのままで)及び.04mgのセレン/kgの食餌を含んだ。
【0054】
60匹の正常で健康な成猫に、低セレン食(乾物ベースで0.03mg/kg)を3週間供給した。この枯渇期間の後、猫を各々10匹の猫の群に割り振り、6レベルのセレノメチオニン(乾物ベースで元素状セレンとして0、0.1、1、2.5、5及び10mg/kg)を補充した同じ食餌を6か月供給した。33匹の猫が研究を終了した。
【0055】
測定した反応変数は、血清及び赤血球におけるセレン濃度及びGPX活性、完全甲状腺ホルモンプロフィル、全血球計算(CBC)、血清の化学のプロフィル(SCP)、毛の成長速度及び免疫機能測定を含んだ。体重、CBC、SCPまたは臨床的徴候の有意な変化は、6か月の供給の後に観察されなかった。
【0056】
食物セレン摂取に対する血清GPXの関係を回帰分析で調べる曲線における明確な破断点は、最小推奨値として0.13ppmを示した。全体の結果は、成猫用キャットフードにおけるセレンのための最小要件は、乾物ベースで0.13mg/kgであることを示した。毛の成長速度は、破断点未満のセレン濃度で有意に減少したが、高セレン濃度では変化しなかった。
【0057】
全ての全甲状腺ホルモン血清濃度は、正常な範囲内だった。こうした猫における血清セレン濃度は、セレンのための猫の要件を超えたセレン摂取量で水平域にならず、直線的に増大し続けた。食物セレンの増大につれての血清甲状腺ホルモン及びセレンレベルを表7に示す。
【表10】

【0058】
食物セレン摂取レベルは、全T3レベル(Y)と有意に相関した:Y=0.977+0.12157X[式中、Xはセレン摂取量である(r=0.36;P=0.0343)]。血清セレンレベルもまた、全T3レベル(Y)と有意に相関した:(Y)=0.562+0.01336X[式中、Xはセレン摂取量に等しい(r=0.395;P=0.0227)]。
【0059】
本明細書において引用する全ての参考文献を、本明細書において参考のために引用する。本明細書において引用する参考文献に関するいかなる検討も、単にその著者によってなされた主張を要約することを意図しており、いかなる参考文献またはこれらの一部分も、関連する従来技術を構成すると認めるものではない。出願人は、引用された文献の正確さ及び適切さに意義を申し立てる権利を有する。
【0060】
本発明の説明は、性質上単に模範例であり、従って、本発明の要旨から逸脱しない変形例は本発明の範囲内にあるものと意図されている。このような変形例は、本発明の精神及び範囲からの逸脱とみなすべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
猫における甲状腺機能亢進症が現れる危険を低減する方法であって、猫用の食餌におけるセレンの量を、乾物ベースで約1.3mg/kg以下に制限することを含む方法。
【請求項2】
前記猫用の食餌中のセレンの量は、乾物ベースで約0.8mg/kg以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記猫用の食餌におけるヨウ素の量を、乾物ベースで約2.5mg/kg以下に制限することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記猫用の食餌におけるヨウ素の量を、乾物ベースで約1.0mg/kg以下に制限することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記食餌は、乾物ベースで約10%〜約50%の濃度でタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記食餌は、乾物ベースで約20%〜約40%の濃度でタンパク質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質は、約1.0mg/(kgの粗タンパク質)以下の濃度でセレンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質は、約0.5mg/(kgの粗タンパク質)以下の濃度でセレンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記食餌は、乾物ベースで約10〜約30%の濃度で脂肪を及び乾物ベースで約5%〜約55%の濃度で炭水化物をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質は植物性タンパク質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記植物性タンパク質は、じゃがいも濃縮物、大豆濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆かす、米単離物、コーングルテンミール及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質は動物性タンパク質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記動物性タンパク質は、鶏の背、牛のタン、豚の肺、牛の肺、機械的除骨七面鳥、家禽副産物ミール、卵及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
乾物ベースで約1.0mg/kg以下の量でセレンを及び乾物ベースで約1.0mg/kg以下の量でヨウ素を含む、セレンが低減され、ヨウ素が低減された包装済みの猫用の食餌の組成物。
【請求項15】
乾物ベースで約0.8mg/kg以下の量でセレンを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
乾物ベースで約0.65mg/kg以下の量でセレンを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
乾物ベースで約10%〜約40%の濃度でタンパク質を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
乾物ベースで約20%〜約40%のタンパク質の濃度でタンパク質を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記タンパク質は、約0.8mg/(kgの粗タンパク質)以下の濃度でセレンを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記タンパク質は、約0.5mg/(kgの粗タンパク質)以下の濃度でセレンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物は、乾物ベースで約10〜約30%の濃度で脂肪を及び乾物ベースで約5%〜約55%の濃度で炭水化物をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
前記タンパク質は植物性タンパク質を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
前記植物性タンパク質は、じゃがいも濃縮物、大豆濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆かす、米単離物、コーングルテンミール及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記タンパク質は動物性タンパク質を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記動物性タンパク質は、鶏の背、牛のタン、豚の肺、牛の肺、機械的除骨七面鳥、家禽副産物ミール、卵及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。

【公開番号】特開2012−152220(P2012−152220A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86411(P2012−86411)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【分割の表示】特願2006−517501(P2006−517501)の分割
【原出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】