説明

玄米中のカドミウム含量を低減する方法

【課題】玄米中のカドミウム含量を低減する方法を提供する。
【解決手段】玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、水田に、人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法並びに玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、カドミウム含量が0.4mg/kg以上となる玄米が生産される水田に、作土1m3当り人工ゼオライト80ないし160g及びバ
ーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米中のカドミウム含量を低減する方法に関するものであり、詳細には、作業が簡便で、要求されるコスト条件(水田1反:約10a(1,000m2)当り10,
000円以下)を満たし且つ植物の成長を妨げることなく玄米中のカドミウム含量を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の現行の農用地土壌汚染防止法では「カドミウム(Cd)含量1mg/kg以上の玄米を産出する」地域が土壌汚染地域に指定され、土壌改良の事業対象とされている。一方、CODEX(WHOとFAOによる合同食品規格委員会)において農作物中のカドミウム濃度の基準値が討議され、2006年7月、米について0.4mg/kgという案が採択された。
従って、今後CODEX基準値が日本国内で批准され、土壌改良事業の指定地域が0.4mg/kgの米を産出する地域に変更された場合、日本国内で相当の面積がカドミウム汚染農用地として指定され、修復が求められる可能性がある。
【0003】
現行の土壌改良では主に客土法が採用されているが、高額な費用を要するのみならず、近年は客土に使用する山土も採取が困難な状況にある。客土法では大量の排土処理と水田土壌に適するよう土壌肥沃度を高める必要があり、物理的またコスト的に効率の良い土壌浄化法が求められている。
水稲を対象としたカドミウム含量を低減させる手法には、客土法以外に、湛水管理によるカドミウム吸収抑制法、生分解性キレート剤、塩化カルシウム等による土壌洗浄法等がある。
湛水管理による方法は、約5〜6週間の長期に亘って常時湛水状態であるため、落水後、収穫期までに地耐力が回復しきれないことが懸念されている。
また、サポニン、塩化第二鉄、生分解性キレート剤による土壌浄化法の場合は、それらの化合物が高価で、農用地には適しにくい等の課題を抱えている。塩化カルシウムを薬剤とした洗浄法もあるが、土壌肥沃土の低下、生育・収穫への悪影響が懸念されている。
上記の課題を解決するために、幾つかの方法が提案されている。
例えば、特開2005−224697号公報には、カドミウム汚染水田の汚染表層部の土壌に石灰石及びゼオライトを混和し、該処理した土壌とその下の非汚染層10〜30cmの土壌とを反転させることを特徴とするカドミウム汚染水田の改質方法が、また、特開2005−295807号公報には、カルシウムシアナミド及びカルシウムシアナミドを成分として含有する物質から選ばれた少なくとも一種のシアナミド含有物質と、バテライト、アラゴナイト、並びにバテライト及びアラゴナイトの少なくとも一方を成分として含有する物質から選ばれた少なくとも一種の炭酸カルシウム含有物質とからなることを特徴とする水稲栽培資材が開示されている。
しかし、特開2005−224697号公報に記載のカドミウム汚染水田の改質方法は、土壌処理後に、非汚染層を反転させることを必要とし、また、特開2005−295807号公報に記載の水稲栽培資材は、シアナミド含有物質として1ヘクタール当り60〜280kg、炭酸カルシウム含有物質として1ヘクタール当り200〜2000kg程度というかなり多量使用することが記載されており、何れも、簡便な方法といえるものではなかった。
【特許文献1】特開2005−224697号公報
【特許文献2】特開2005−295807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
玄米中のカドミウム含量を低減するための検討として、カドミウムに対する吸着能を有することが知られている人工ゼオライトを水田に混合して稲を生育させたところ、確かに、玄米中のカドミウム含量は低減できるものの、使用量を増やしてカドミウム含量を十分に低減しようとすると、植物の成長に有用な土中の微量金属も同様に減少し、その結果、稲が十分に成長しなくなるという現象が観られた。更に、上記のように人工ゼオライトでカドミウム含量を十分に低減するためには、多量の人工ゼオライトが必要となるが、そうするとコスト高となり、実用的なものとはならない。
ところで、農家がカドミウム低減のためにかけられるコストは、一反(約10a(1,000m2))当り10,000円以下と言われており、従って、このコスト条件を満た
し得る技術が望まれている。
従って、本発明は、安全で、作業が簡便で、要求されるコスト条件(水田一反当り10,000円以下)を満たすことを可能とすることができ且つ植物の成長を妨げることなく玄米中のカドミウム含量を低減する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全性に優れる人工ゼオライトとバーミキュライトを混合添加した水田で稲を栽培すると、植物の成長に有用な微量金属は土中に残したまま、土中の遊離カドミウムを減少でき、その結果、玄米中のカドミウム含量を低減でき、また、その際、コスト条件(水田一反当り10,000円以下)を満たすことが可能となることを見い出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、水田に、人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法、
(2)前記人工ゼオライトを作土1m3当り80ないし160g及び前記バーミキュライ
トを作土1m3当り130ないし240g混合添加する前記(1)記載の方法、
(3)前記人工ゼオライトは、カルシウム型又は鉄型である前記(1)又は(2)記載の方法、
(4)前記人工ゼオライト及び前記バーミキュライトは、どちらも平均粒径が10ないし2000μmの粉末である前記(1)ないし(3)の何れか1つに記載の方法、
(5)前記人工ゼオライトと前記バーミキュライトの質量比が1:1ないし1:3である前記(1)ないし(4)の何れか1つに記載の方法、
(6)玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、カドミウム含量が0.4mg/kg以上となる玄米が生産される水田に、作土1m3当り人工ゼオライト80ないし16
0g及びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法、
(7)玄米中のカドミウム含量を0.4mg/kg未満に低減する方法であって、カドミウム含量が0.4ないし1.0mg/kgとなる玄米が生産される水田に、作土1m3
り人工ゼオライト80ないし160g及びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、人工ゼオライトとバーミキュライトを用いるため、安全性に優れており、また、水田に、人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加して稲を栽培するだけという簡便な方法であるため、非常に作業性に優れたものといえる。
【0008】
また、本発明は、人工ゼオライトとバーミキュライトを組み合わせ、相乗効果を発揮させることによって、コスト条件(水田一反当り10,000円以下)を満たすことを可能
とすると共に、植物の成長に有用な微量金属を残したままでカドミウム含量を低減することを可能とするものである。
【0009】
上記のように、カドミウム含量が低減でき且つコスト条件を満たし得るものとできた理由としては、人工ゼオライトとバーミキュライトがカドミウムの吸着において相乗的に作用したためである。
上記のように相乗的に作用する機構は、例えば、人工ゼオライトは陽イオン置換容量(CEC)の大きいゼオライト結晶を有するため、それ自体カドミウムに対する強い固定吸着力を持ってはいるが、仮比重が1.5g/ccと大きく、分散性に乏しいため、あまねく捕集するには効率が悪く経済的にも採算にあわない。
一方、バーミキュライトは、人工ゼオライトと比べ、陽イオン置換容量(CEC)は大きくないため、カドミウムイオンを固定・不動化する能力は劣るが、仮比重が0.1g/ccと小さいため、農地全体に一様に分散し、かつ巾広い面積から土壌中のヒドロキシカドミウムイオン([Cd(H2O)6])を、層間ヒドロキシカドミウムイオンとして一時保留する能力にすぐれ、これを固定能力の高い人工ゼオライトに橋わたしすることが可能である。
以上より、バーミキュライトはカドミウムの捕集材としての働き、人工ゼオライトはバーミキュライトで捕集したカドミウムを固定・不動化しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の玄米中のカドミウム含量を低減する方法は、水田に、人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる。
【0011】
本発明の方法において、人工ゼオライトとバーミキュライトの水田への添加は、作土する前又は作土する際に行うことができ、また、作土した後に添加することもできる。
作土した後に人工ゼオライトとバーミキュライトを添加する場合は、添加後に土と混合しておくのが好ましい。
作土1m3は、一般的な作土深さである12cmの場合、約8.3m2に相当する。
【0012】
本発明に使用する人工ゼオライトは、天然ゼオライトよりもイオン交換能(CEC)が高く、カドミウム等の重金属を吸着できるものであれば特に限定されない。
人工ゼオライトのイオン交換能(CEC)は、通常200meg/100g以上であり、300meg/100g以上が好ましい。
本発明に使用するバーミキュライトは、入手可能なバーミキュライトであれば特に限定されないが、安全性の観点から、アスベストを含んでいないバーミキュライトが好ましい。
使用するバーミキュライトのイオン交換能(CEC)は、高いものが好ましく、例えば、100meg/100g以上のイオン交換能(CEC)を有するものが好ましい。
【0013】
使用する人工ゼオライト及びバーミキュライトの量は、土中に存在するカドミウムの量により調節するのが好ましく、カドミウム量が多い場合は、人工ゼオライト及びバーミキュライトの使用量を多くし、カドミウム量が少ない場合は、人工ゼオライト及びバーミキュライトの使用量を少なくするのが好ましい。
特に、水田一反当り10,000円以下というコスト条件を満たすことが可能となることから、人工ゼオライトを作土1m3当り80ないし160g及びバーミキュライトを作
土1m3当り130ないし240g混合添加するのが好ましい。
使用する人工ゼオライトは、カルシウム型又は鉄型であるものが特に好ましい。
また、人工ゼオライトは、粉末化して使用するのが好ましく、例えば、平均粒径が10ないし2000μmの粉末として使用するのが好ましく、平均粒径が10ないし200μ
mの粉末として使用するのがより好ましい。
また、バーミキュライトは、粉末化して使用するのが好ましく、例えば、平均粒径が10ないし2000μmの粉末として使用するのが好ましく、平均粒径が100ないし2000μmの粉末として使用するのがより好ましい。
尚、上記の平均粒径は、以下のようにして算出した値を表す。
土の粒度試験JIS A 1204に準じ、粒径が75μmより大きい粒子の場合はふるい分析を行い、粒径が75μmより小さい粒子の場合は沈降分析を行って、粒径加積曲線を作成し、粒径加積曲線の通過重量百分率が50%のときの粒径(50%粒径D50)を「平均粒径」とした。
人工ゼオライトとバーミキュライトの質量比は、1:1ないし1:3の範囲が好ましく、また、1:1ないし1:2の範囲が好ましい。
【0014】
人工ゼオライト及びバーミキュライトの粉末化により粉立ちが発生し、作業性が悪くなる場合は、事前にある程度の量の土と混合しておき、該混合された土を水田に添加することもできる。
【0015】
本発明の方法における人工ゼオライト及びバーミキュライトの添加量は、水田の土中に含まれるカドミウムの量や他の重金属の量によって増減させる、即ち、カドミウムの量や他の重金属の量が多い場合は、多めに使用することが好ましい。
特に、適用される水田の各土壌に対して予備実験を行ってから、人工ゼオライト及びバーミキュライトの添加量を決定するのが好ましい。
【0016】
また、本発明は、玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、カドミウム含量が0.4mg/kg以上となる玄米が生産される水田に、作土1m3当り人工ゼオライト8
0ないし160g及びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法にも関する。
また、玄米中のカドミウム含量を0.4mg/kg未満に低減する方法であって、カドミウム含量が0.4ないし1.0mg/kgとなる玄米が生産される水田に、作土1m3
当り人工ゼオライト80ないし160g及びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法にも関する。
【実施例】
【0017】
以下に示す実施例及び比較例において、本発明を具体的且つ更に詳細に説明する。下記実施例は本発明の説明のためのみのものであり、これらの実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
実施例1:人工ゼオライトとバーミキュライトの添加混合による玄米に含有するカドミウム濃度の抑制
以下の内容で実験を行った。
1.実験期間:平成18年7月〜10月
2.実験に用いた米の品種:松山三井
3.実験地:JA西条玉津支所管内 下島山
4.添加剤
人工ゼオライト:カルシウム型、陽イオン交換能(CEC)326、pH8.0、微粉末、九電産業株式会社より入手(200円/kg)
バーミキュライト:南アフリカ産、焼成品で0号品、嵩比重 0.08〜0.12g/cc、陽イオン交換能(CEC)118、pH7.0−9.5、微粉末、双日株式会社より入手(120円/kg)
5.実験操作
作土深さ12cmとして、1区4m2の水田を4区画設けた。
表1に示した添加量で、人工ゼオライトとバーミキュライトを各区画に添加混合した。
その後に、各区画で稲を栽培した。
尚、表中、(g/m3)は、作土1m3当りの添加g量を示し、質量比は、人工ゼオライト:バーミキュライトの質量比を示す。
【表1】

各実験区及び対照区の稲株を刈り取り、玄米に含有されているカドミウム濃度を測定し、その結果を表2及び図1に纏めた。また、その際の稲の生育状況の程度を表2に記載した。
尚、表中の“カドミウムの低減率”は、対照区のカドミウム濃度を100%とした場合の、各実験区におけるカドミウム濃度の低下率を示す。
【表2】

【0018】
結果
実験区1では、カドミウム濃度の低下傾向は見られたものの、十分なものではなかった。実験区2では、20%という高いカドミウム濃度の低下が見られた。実験区3では、実験区2よりも低下の程度が落ちたが、これは、人工ゼオライトとバーミキュライトが必要以上に多く、植物の成長に必要な微量金属まで吸着し、その結果、稲の生育状態が悪化し、収穫量の少なくなった玄米中にカドミウムが濃縮されたためであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、カドミウム濃度が基準値を超える玄米が生産される水田においても、安全に、簡便な作業で、要求されるコスト条件(水田一反当り10,000円以下)を満たすことを可能とし且つ植物の成長を妨げることなく玄米中のカドミウム含量を基準値未満とし得る方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で行った、玄米に含有されているカドミウム濃度の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、水田に、人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法。
【請求項2】
前記人工ゼオライトを作土1m3当り80ないし160g及び前記バーミキュライトを作
土1m3当り130ないし240g混合添加する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記人工ゼオライトは、カルシウム型又は鉄型である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記人工ゼオライト及び前記バーミキュライトは、どちらも平均粒径が10ないし2000μmの粉末である請求項1ないし3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記人工ゼオライトと前記バーミキュライトの質量比が1:1ないし1:3である請求項1ないし4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
玄米中のカドミウム含量を低減する方法であって、カドミウム含量が0.4mg/kg以上となる玄米が生産される水田に、作土1m3当り人工ゼオライト80ないし160g及
びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法。
【請求項7】
玄米中のカドミウム含量を0.4mg/kg未満に低減する方法であって、カドミウム含量が0.4ないし1.0mg/kgとなる玄米が生産される水田に、作土1m3当り人工
ゼオライト80ないし160g及びバーミキュライト130ないし240gを混合添加し、該水田で稲を栽培することからなる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−278881(P2009−278881A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131867(P2008−131867)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】