説明

玉軸受用保持器およびこれを備える玉軸受

【課題】ボールとの間に形成される油膜量を低減することができる製造容易な玉軸受用保持器を提供する。
【解決手段】ボール4を保持するポケット15が円周方向等間隔で設けられた保持器10である。円周方向の両端部にボール4を保持するボール保持面14が形成された樹脂製のセグメント11を円周方向に離隔して配置し、隣り合う2つのセグメント11,11の相対向するボール保持面14,14でポケット15を形成した。保持器10は、さらに、各セグメント11の変位を規制する環状の規制部材20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受用保持器およびこれを備える玉軸受に関し、特に自動車の電装部品や補機部品に組み込まれる玉軸受用の保持器およびこれを備える玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電装部品や補機部品、例えば、アイドラプーリ、オルタネータ、電磁クラッチ、ファンクラッチ等には、エンジンの出力で回転駆動する回転軸を静止部材に対して回転自在に支持するための転がり軸受が組み込まれている。この種の用途の転がり軸受としては、図11に示すような玉軸受101が広く使用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図11に示す玉軸受101は、外径面に内側軌道102aが形成された内輪102と、内輪102の径方向外側に配置され、内径面に外側軌道103aが形成された外輪103と、内輪102の内側軌道102aと外輪103の外側軌道103aとの間に転動自在に配設されたボール104と、内輪102と外輪103との間に配設され、ボール104を円周方向等間隔に保持する樹脂製の保持器105とで主要部が構成されている。この玉軸受101は、外輪103が図示しないハウジング等の静止部材に装着されて静止側を構成し、内輪102がエンジン出力で回転する図示しない回転軸に装着されて回転側を構成するものである。
【0004】
上記玉軸受101に組み込まれる保持器105としては、いわゆる冠型のものが多用される。詳細には、図12に示すように、円環状をなす主部106の軸方向一端面に円周方向等間隔で凹部107を設けると共に、凹部107の周方向に対向する開口端に軸方向に延びる一対の弾性片108,108を設け、凹部107と一対の弾性片108,108とで一端が開口した有底状のポケット109を円周方向等間隔で設けてなるものである。そして、内輪102の内側軌道102aと外輪103の外側軌道103aとの間に配設されたボール104は、保持器105のポケット109内で転動自在に保持される。
【0005】
上記構成の玉軸受101において、内輪102と外輪103との間に形成される環状空間にはグリース等の潤滑剤が充填され、これにより玉軸受101の内部潤滑が行われる。内輪102と外輪103との間に形成される環状空間の軸方向両側には、環状空間に充填した潤滑剤の外部漏洩や環状空間への異物浸入を防止するためにシール部材110,110がそれぞれ配置されている(図11を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−241448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の燃費向上を強く求められている昨今、自動車部品に組み込まれる玉軸受の低トルク化を強力に推し進める必要が生じている。玉軸受のトルクは、ボール転動に伴う油のせん断抵抗が多くの割合を占めている。また、このせん断抵抗のほとんどが、ポケット内面(ボール対向面)とボールとの間に形成される油膜がボール転動に伴ってせん断されるときに発生するものである。
【0008】
従来の保持器は、図11からも明らかなように、主部106および弾性片108の厚み(保持器の厚み)tが、ポケット109底部側からポケット109開口側に至って均一であるために、ポケット109のボール対向面積(ボール接触面積)もポケット109底部側からポケット109開口側に至って均一である。そのため、玉軸受101が駆動してポケット109内でボール104が転動すると、ポケット109とボール104との間に大きなせん断抵抗が発生し、玉軸受101が高トルクになり易いという問題があった。
【0009】
また、この種の玉軸受に対するコスト低減の要請も益々厳しくなっているため、玉軸受の構成部品の一つである保持器についても一層のコスト低減を図る必要が生じている。しかしながら、上記した従来の保持器105は、主部106の円周方向に沿って複数の凹部107や弾性片108が設けられた複雑形状を呈する。従って、所定の成形精度を確保するために格別の配慮を要し、コスト低減を図るのが困難であるのが実情である。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ボールとの間に形成される油膜量を低減することができる製造容易な玉軸受用保持器を提供し、もって、玉軸受の低トルク化および低コスト化に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するためになされた本発明は、ボールを保持するポケットが円周方向等間隔で設けられた玉軸受用保持器であって、円周方向の両端部にボール保持面が形成された樹脂製のセグメントを円周方向に離隔して配置し、隣り合う2つのセグメントの相対向するボール保持面でポケットを形成したことを特徴とする。
【0012】
上記のように、本発明に係る玉軸受用保持器(以下、単に保持器という)は、円周方向に離隔配置した隣り合う2つのセグメントの相対向するボール保持面でポケットが形成されたものである。そのため、隣り合う2つのセグメント間には隙間が形成され、この隙間分だけ、ポケット内面とボールとの対向面積(接触面積)が図12に示す従来の保持器に比べて低減される。従って、ポケットの内面と、そのポケットに収容されたボールとの間に形成される油膜量を従来よりも少なくすることができるので、油膜をせん断するときに発生するせん断抵抗を従来よりも低減することができる。これにより、玉軸受の低トルク化を図ることができる。
【0013】
また、保持器を構成する各セグメントは、従来の保持器に比べて小型化されると共にその形状が簡略化されるため、軽量化が図られると共に所定の成形精度を確保することも容易である。従って、複雑形状を呈し、難成形であった従来品に比べて製造コストを低廉化することができる。
【0014】
さらに、隣り合う2つのセグメント間には隙間が設けられることから、この隙間で軸受運転時にポケット(保持器)に繰り返し作用する応力や振動を吸収することができる。これにより、保持器(セグメント)に変形や破損等が生じる可能性を効果的に減じることができるので、玉軸受の耐久寿命を向上することができる。
【0015】
保持器を構成する各セグメントは、円周方向に延びた主部と、主部の円周方向両端部から軸方向に突設された一対の弾性片とを有するものとすることができる。各セグメントに設けられる一対の弾性片は、主部の軸方向一方側に突設することもできるし、主部の軸方向両側に突設することもできる。特に、一対の弾性片を主部の軸方向両側に突設し、かつ両弾性片の突設量を等しく設定すれば、当該セグメントは主部を挟んで対称形状とすることができる。この場合には、内外輪間へ保持器(セグメント)を組み込む際の方向性を考慮せずとも良くなるというメリットがある。
【0016】
各セグメントの内径面および外径面は、内輪の外径面および外輪の内径面に沿った互いに平行な円弧面に形成することができるのはもちろんのこと、互いに平行なストレート面に形成することもできる。各セグメントの内径面および外径面を互いに平行なストレート面に形成すれば、各セグメントの成形を容易化することができると共に金型コストを低廉化することができる。
【0017】
ところで、特に玉軸受の負荷容量が大きい場合や玉軸受(回転輪)が高回転速度である場合に、上記のような円周方向に離隔配置されたセグメントのみで構成された保持器を用いると、セグメントが軸方向に倒れたり、遠心力によって拡径(径方向に移動)したり、ボールの進み遅れによって配置バランスが崩れたりするおそれがある。このようなセグメントの各種変位は、ボールの挙動を不安定化させる要因、すなわち軸受性能を低下させる要因となる。そこで、本発明に係る保持器は、さらに、各セグメントの変位を規制して各セグメントを所定の位置・姿勢で保持する環状の規制部材を有するものとすることができる。これにより、上記の不具合が生じるような事態を可及的に防止し、ボールの保持・案内精度を高めることが、ひいては軸受性能の安定化を図ることができる。
【0018】
セグメントと規制部材の固定方法は任意である。例えば、各セグメントに周方向溝を設け、この周方向溝に規制部材を嵌合固定するようにしても良いし、規制部材をインサート部品として各セグメントを樹脂で射出成形するようにしても良い。特に、規制部材をインサート部品として各セグメントを樹脂で射出成形すれば、セグメントの成形と、規制部材に対するセグメントの位置決め固定とを同時に完了することができるので、保持器精度の向上、および製造コスト低減を同時に達成することが可能となる。
【0019】
規制部材は、線材で形成されたものであっても良いし、(線材よりも幅広の)板材で形成されたものであっても良い。
【0020】
各セグメントの成形に用いる樹脂材料としては、求められる機械的強度、耐摩耗性、耐熱性、耐油性、成形性等を満足できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)およびフェノール樹脂の群から選択される一の樹脂をベース樹脂とした樹脂材料が好適である。
【0021】
以上に示す本発明に係る保持器は、内輪および外輪と、内外輪の軌道間に組み込んだ複数のボールと組み合わせることによって、玉軸受を構成することが可能であり、この玉軸受において、保持器は、複数のボールを円周方向等間隔で保持する機能を発揮する。この玉軸受は、低トルクかつ低コストであるという特徴を有することから、低トルク化および低コスト化が要求される自動車の電装部品や補機部品、例えば、アイドラプーリ、オルタネータ、電磁クラッチ、ファンクラッチ用の軸受として好適である。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、ボールとの間に形成される油膜量を低減することができる製造容易な玉軸受用保持器を提供することができる。これにより、玉軸受の低トルク化および低コスト化に同時に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る保持器を組み込んだ玉軸受の断面図である。
【図2】図1に示す保持器の概略斜視図である。
【図3】(a)図は図2に示す保持器を構成するセグメントの拡大斜視図、(b)図は(a)図に示すセグメントを矢印A方向から見た平面図である。
【図4】図1に示す保持器をポケット底側から見たときの平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る保持器の概略斜視図である。
【図6】セグメントの変形例である。
【図7】(a)〜(c)図は、何れも、図6に示すセグメントを構成部品とした保持器の要部拡大断面図である。
【図8】セグメントの変形例である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る保持器の概略斜視図である。
【図10】本発明の有用性を実証するための計算結果を示す図である。
【図11】従来の保持器を構成部品とした玉軸受の断面図である。
【図12】図11に示す玉軸受に組み込まれた保持器の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る玉軸受用保持器(以下、単に保持器という)を組み込んだ玉軸受1の断面図である。同図に示す玉軸受1は、外径面に内側軌道2aが形成された内輪2と、内径面に外側軌道3aが形成された外輪3と、内輪2の内側軌道2aと外輪3の外側軌道3aとの間に転動自在に配設されたボール4と、内輪2と外輪3との間に配設され、各ボール4を円周方向等間隔に保持する保持器10とを主要な構成として備える。この玉軸受1は、内輪2が図示しない回転軸に装着されて回転側を構成し、外輪3が図示しないハウジング等の静止部材に装着されて静止側を構成する。
【0026】
内輪2と外輪3との間に形成される環状空間5には潤滑剤としてのグリースが充填され、これにより玉軸受1の内部潤滑が行われる。内輪2と外輪3との間に形成される環状空間5の軸方向両側には、環状空間5に充填したグリースの外部漏洩や環状空間への異物浸入を防止するためにシール部材6,6が配置されている。図示例のシール部材6,6は、何れも、芯金7およびその表面に加硫接着された弾性部8からなり、弾性部8で構成されたシールリップ9を回転輪(ここでは内輪2)に接触させることによってシール性を担保するようにしている。図示例のシール部材6,6はいわゆる接触タイプであるが、シール部材として図11に示すシール部材110のようないわゆる非接触タイプを採用することも可能である。
【0027】
以下、保持器10の構成について詳述する。
【0028】
図2は、図1に示す玉軸受1に組み込んだ保持器10の概略斜視図である。同図に示すように、この保持器10は、円周方向に沿って複数配置されたセグメント(保持器片)11と、各セグメント11に固定された円環状の規制部材20とを主要な構成部材として備える。円周方向で隣り合う2つのセグメント11,11は、互いに非接触となるように円周方向に離隔配置されている。
【0029】
セグメント11は、図3(a)(b)に拡大して示すように、内径面11aおよび外径面11bが互いに平行な円弧面に形成された円弧状に湾曲した部材であり、径方向で所定の厚みをもった円弧板状をなす主部12と、主部12の円周方向一端部および他端部から軸方向一方側に突設された一対の弾性片13,13とを一体に備える樹脂の射出成形品である。セグメント11の円周方向両端部には、保持すべきボール4の外径に沿うような凹球面状をなすボール保持面14,14がそれぞれ設けられており、隣り合う2つのセグメント11,11の相対向するボール保持面14,14でボール4を収容・保持するポケット15が形成される。本実施形態では、弾性片13,13を軸方向一方側(反主部12側)に向かって互いに離反する方向に湾曲させて、その外側面を凹球面状に形成すると共に、主部12の側面に、弾性片13の外側面に繋がった球面状部分を凹設してボール保持面14を形成している。
【0030】
図4にも示すように、セグメント11の底面(弾性片13が設けられた側とは反対側の端面)には円弧状の凹溝16が二条設けられており、これら凹溝16,16内に規制部材20が固定されている。規制部材20は、各セグメント11の変位を規制して各セグメント11を所定の位置・姿勢で保持する役割を果たすものであり、ここでは円環状をなす線材で形成されている。規制部材20を構成する線材としては、セグメント11に応力や遠心力が作用した場合において、ボール4の保持・案内性能に悪影響が及ぶようなセグメント11の変位を規制することが可能なものであれば特に限定されない。例えば、鉄製、鋼製、ステンレス製、あるいはアルミ製の線材等を使用することができる。
【0031】
以上の構成を具備する本発明に係る保持器10は、セグメント11を個別に射出成形した後、各セグメント11の凹溝16に別途製作・準備した規制部材20を嵌合固定することにより得られる。このとき、各セグメント11は、隣り合うセグメント11と非接触となるように(隣り合う2つのセグメント11,11の相対向するボール保持面14,14で所定のポケット15が形成されるように)、規制部材20の周方向で適切な位置に固定する。
【0032】
セグメント11成形用の樹脂材料は、求められる機械的強度、耐摩耗性、耐熱性、耐油性、成形性等を満足することができる樹脂をベース樹脂としたものであれば特に限定されない。例えば、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)およびフェノール樹脂の群から選択される一の樹脂をベース樹脂とすることができる。なお、セグメント11成形用の樹脂材料には、強化材、離型剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、寸法安定剤等、種々の特性を付加し得る各種充填材を適宜配合可能である。
【0033】
以上に示すように、本発明に係る保持器10は、円周方向の両端部にボール保持面14,14が形成された樹脂製のセグメント11を円周方向に離隔して配置し、隣り合う2つのセグメント11,11の相対向するボール保持面14,14でボール4を保持するポケット15を形成したものである。このようにすれば、隣り合う2つのセグメント11,11間に、図4に示すような隙間Cを形成することができる。そして、この隙間Cが形成される分だけ、ポケット15内面とボール4との対向面積(接触面積)が図12に示す従来品に比べて低減される。従って、ポケット15内面と、そのポケット15に収容されたボール4との間に形成される油膜量を従来よりも少なくすることができるので、油膜をせん断するときに発生するせん断抵抗を従来よりも低減することができる。その結果、玉軸受1のトルクを低減することが可能となる。
【0034】
また、本発明の保持器10を構成する各セグメント11は、従来の保持器に比べ、大幅に小型化されると共にその形状が簡略化されるため、所定の成形精度を確保することも容易である。従って、複雑形状を呈し、難成形であった従来品に比べ、製造コストの低廉化や歩留向上を図ることができる。
【0035】
さらに、隣り合う2つのセグメント11,11間には隙間Cが設けられることから、この隙間Cで軸受運転時に保持器10(ポケット15)に繰り返し作用する応力や振動を吸収することができる。これにより、保持器5に変形や破損等が生じる可能性を効果的に減じることができるので、玉軸受1の耐久寿命を向上することができる。
【0036】
なお、特に玉軸受1の負荷容量が大きい場合や玉軸受1(回転輪である内輪2)が高回転速度である場合に、保持器10を、円周方向に離隔配置したセグメント11のみで構成すると、各セグメント11が軸方向に倒れたり、遠心力によって拡径(径方向に移動)したり、ボール4の進み遅れによって配置バランスが崩れたりするおそれがある。このようなセグメント11の各種変位は、ボール4の挙動を不安定化させる要因、すなわち軸受性能を低下させる要因となる。これに対し、上記の規制部材20を保持器10に設けておけば、上記の不具合の発生を可及的に防止することができる。これにより、ボール4の保持・案内精度を高めることができるので、軸受性能の安定化が図られる。
【0037】
以上、本発明の一実施形態に係る保持器10、およびこれを組み込んだ玉軸受1について説明を行ったが、保持器10には種々の変更を施すことが可能である。以下、本発明の他の実施形態に係る保持器10について説明を行うが、以上で説明したものと実質的に同一の部材・部位には共通の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0038】
図5は、本発明の第2実施形態に係る保持器10の概略斜視図である。同図に示す保持器10が図2に示すものと異なる主な点は、各セグメント11の変位を規制する規制部材20が環状をなす幅広の板材で形成され、かつ、当該規制部材20をインサート部品として各セグメント11を樹脂で射出成形した点にある。
【0039】
このように、規制部材20をインサート部品として各セグメント11を樹脂で射出成形すれば、セグメント11の成形と、規制部材20に対する各セグメント11の位置決め固定とを同時に完了することができる。従って、個別に製作したセグメント11の周方向溝16に規制部材20を嵌合固定する場合に比べ、保持器10精度の向上および製造コストの低減を図ることができる。
【0040】
なお、図2に示す本発明の第1実施形態に係る保持器10についても、規制部材20をインサート部品として各セグメント11を樹脂で射出成形可能であることは言うまでもない。逆に、図5に示す保持器10については、周方向溝16を有するセグメント11を個別に射出成形した後、各セグメント11の周方向溝16に環状の板材で形成された規制部材20を嵌合固定することによって得ることも可能である。
【0041】
以上で説明した保持器10を構成するセグメント11は、主部12と、主部12の円周方向一端部および他端部から軸方向一方側に突設された一対の弾性片13,13とを一体に備えるものであるが、保持器10を構成するセグメント11としては、図6に示すように、一対の弾性片13,13が主部12の円周方向一端部および他端部から軸方向両側に突設されたものを用いることも可能である。この場合、同図からも明らかなように、主部12の体積が低減される分、各セグメント11ひいては保持器10の軽量化を図ることができる。また、図6に示すセグメント11は、両弾性片13,13の軸方向両側への突設量を等しくした対称形状をなす。このようなセグメント11であれば、内外輪間へセグメント11(保持器10)を組み込む際の方向性を考慮せずとも良くなるというメリットがある。
【0042】
図6に示すセグメント11に対する規制部材20の固定態様としては、例えば図7(a)〜(c)に示すようなものを採用することができる。図7(a)は、セグメント11(主部12および弾性片13,13)の軸方向一方側の面に主部12および弾性片13,13の断面形状に沿うような周方向溝16を形成し、この周方向溝16に規制部材20を嵌合固定した例である。図7(b)は、セグメント11の軸方向両側の面に、主部12および弾性片13,13の断面形状に沿うような周方向溝16,16をそれぞれ形成し、両周方向溝16,16に規制部材20,20をそれぞれ嵌合固定した例である。図7(c)は、全体として環状をなし、セグメント11が固定される部位にセグメント11(主部12および弾性片13,13)の断面形状に沿った立体形状部が設けられた規制部材20をインサート部品とし、各セグメント11を樹脂で射出した例である。
【0043】
また、以上で説明した保持器10を構成するセグメント11は、内径面11aおよび外径面11bが互いに平行な円弧面に形成されたものであるが、セグメント11としては、図8に示すように、内径面11aおよび外径面11bが互いに平行なストレート面に形成されたものを用いることも可能である。この場合、内径面11aおよび外径面11bが互いに平行な円弧面に形成されたものに比べ、セグメント11の成形を容易化することができるというメリットがある。
【0044】
以上で説明した本発明に係る保持器10は、円周方向に離隔して配置した複数のセグメント11と、セグメント11の変位を規制する規制部材20とからなるものであるが、図9に示すように、本発明に係る保持器10は、円周方向に離隔して配置した複数のセグメント11のみで構成することも可能である。この場合、規制部材20が排除される分、保持器10の更なる低コスト化や軽量化を図ることが可能である。但し、規制部材20が排除されるのに伴って、軸受運転時に作用する応力や遠心力によって保持器10が変形し易くなり(セグメント11が変位し易くなり)、ボール4の挙動が不安定化する可能性がある。従って、図9に示す規制部材20を排除してなる保持器10は、比較的負荷容量が小さい玉軸受や比較的低回転速度の玉軸受に好適である。
【0045】
以上で説明した本発明に係る保持器10を組み込んだ玉軸受1は、低トルクかつ低コストであることから、低トルク化および低コスト化の要求が厳しい機械部品に好適である。かかる機械部品としては、自動車の電装部品や補機部品、例えば、アイドラプーリ、オルタネータ、電磁クラッチ、ファンクラッチ等を挙げることができる。
【実施例】
【0046】
本発明の有用性を実証するため、
(1)図12に示す従来品の保持器ポケットのボール接触面積:S
(2)図2に示す本発明品の保持器ポケットのボール接触面積:S’
(3)図12に示す従来品を組み込んだ玉軸受のトルク:T
(4)図2に示す本発明品を組み込んだ玉軸受のトルク:T’
と定義し、ボール接触面積と玉軸受のトルクの関係を、回転速度:5000rpm、ラジアル荷重:100N、潤滑剤温度:40℃の条件下で計算した結果を図10に示す。
【0047】
図10に示す計算結果からも明らかなように、ポケットのボール接触面積の減少量が大きくなるにつれて玉軸受のトルクが低減することがわかる。従って、本発明の有用性が実証される。
【符号の説明】
【0048】
1 玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 ボール
10 保持器(玉軸受用保持器)
11 セグメント
12 主部
13 弾性片
14 ボール保持面
15 ポケット
16 凹溝
20 規制部材
C 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールを保持するポケットが円周方向等間隔で設けられた玉軸受用保持器であって、
円周方向の両端部にボール保持面が形成された樹脂製のセグメントを円周方向に離隔して配置し、隣り合う2つのセグメントの相対向するボール保持面で前記ポケットを形成したことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
前記各セグメントは、円周方向に延びた主部と、該主部の円周方向両端部から軸方向に突設された一対の弾性片とを有するものである請求項1に記載の玉軸受用保持器。
【請求項3】
前記一対の弾性片を、前記主部の軸方向一方側に突設した請求項2に記載の玉軸受用保持器。
【請求項4】
前記一対の弾性片を、前記主部の軸方向両側に突設した請求項2に記載の玉軸受用保持器。
【請求項5】
前記各セグメントの内径面および外径面が、互いに平行なストレート面に形成された請求項1〜4の何れか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項6】
さらに、前記各セグメントの変位を規制する環状の規制部材を有する請求項1〜6の何れか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項7】
前記各セグメントに周方向溝を設け、該周方向溝に前記規制部材を嵌合固定してなる請求項6に記載の玉軸受用保持器。
【請求項8】
前記規制部材をインサート部品として前記各セグメントを樹脂で射出成形した請求項6に記載の玉軸受用保持器。
【請求項9】
前記規制部材が線材で形成された請求項6〜8の何れか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項10】
前記規制部材が板材で形成された請求項6〜8の何れか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項11】
前記各セグメントは、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびフェノール樹脂の群から選択される一の樹脂をベース樹脂とした樹脂材料で射出成形された請求項1〜10の何れか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項12】
内輪および外輪と、内外輪の軌道間に組み込まれた複数のボールとを備え、請求項1〜11の何れか一項に記載の玉軸受用保持器によりボールを円周方向等間隔に保持した玉軸受。
【請求項13】
自動車の電装部品または補機部品に組み込まれた請求項12の玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−127713(P2011−127713A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287790(P2009−287790)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】