玉軸受用保持器および玉軸受
【課題】低トルク化を実現できてしかも内部への異物堆積を防止することが可能な玉軸受用保持器および軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受用保持器は樹脂製であり、軸方向に向き合う一対の環状体10の対向面11にボール4を収容する半球状のポケット12を周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体10、10が結合部にて周方向に重なり合う対称形とされて一体化される。環状体10、10のポケット12の内周面及び環状体10、10のポケット12間の合わせ面11aに、それぞれ、保持器内径面及び保持器外径面に開口する凹溝19,20を設けた。
【解決手段】玉軸受用保持器は樹脂製であり、軸方向に向き合う一対の環状体10の対向面11にボール4を収容する半球状のポケット12を周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体10、10が結合部にて周方向に重なり合う対称形とされて一体化される。環状体10、10のポケット12の内周面及び環状体10、10のポケット12間の合わせ面11aに、それぞれ、保持器内径面及び保持器外径面に開口する凹溝19,20を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールを転動自在に保持する玉軸受用保持器、およびその保持器を外輪および内輪間に組み込んだ玉軸受に関し、特に、オイル潤滑下で高速回転、及び低トルク化を要求される用途で使用される軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発動機を有する車両のトランスミッションのギヤ支持軸には、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受などの各種の玉軸受が広く使用されている。
【0003】
一般に、玉軸受は、内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備える。そして、この外輪あるいは内輪のいずれか一方がハウジングなどの固定部分に装着され、他方が回転軸などの回転部分に装着される。
【0004】
保持器には樹脂冠型保持器を使用する場合がある。この樹脂冠型保持器は、耐摩耗性や耐焼き付き性等に優れた樹脂からなり、環状の保持器本体の軸方向一端面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成するとともに、この凹部の周方向に対向する開口端から突出する一対の爪部を設けて、凹部と一対の爪部とでボールが収納されるポケットを形成したものである。
【0005】
ところで、電動車両やハイブリッド車両においては、高速のモータ回転が入力されるため、回転軸などの回転部分は高回転となる傾向にある。その結果、潤滑不足、トルク(発熱)、遠心力による保持器の変形などが問題となる。
【0006】
しかしながら、前記樹脂冠型保持器では、ボールを片側(軸方向一端側)のみから保持する形状である。このため、大きな遠心力が負荷された場合、不均等な変形によりボールが脱落するおそれがあった。そこで、従来では、軸方向に向き合う2枚の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に形成し、前記対向面を衝合させて2枚の環状体を結合させた保持器がある。
【0007】
また、トルク(発熱)対策や軸受の表裏を無くすために、保持器形状を軸方向に対称とするのが好ましい。このため、分割した保持器を合わせて結合する構造が不可欠となる。このため、従来では、2個の環状体を相互に結合するための保持器構造が種々提案されている(特許文献1〜特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−226430号公報
【特許文献2】特開2006−226447号公報
【特許文献3】特開2006−226448号公報
【特許文献4】特開2008−64221号公報
【特許文献5】特開2009−281399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記した従来の軸受用の保持器においては、剛球(ボール)を保持するためのポケットのボール対向面はボールに添うような単一の曲面にて構成されているものであって、ボールによる油(グリース等の潤滑剤)のせん断抵抗が発生する。このせん断抵抗は、ポケット内側とそのポケットに抱えられている鋼球(ボール)との間に形成された油膜をせん断する時に発生する。また、ボールを覆う保持器ポケット内側との微少なスキマを潤滑剤が通過する際に抵抗が発生する。このため、従来の保持器においては、低トルク化を実現することは困難であった。
【0010】
なお、前記のようなせん断抵抗を低減させる手段として、ポケットの内周面に凹部を設けることを提案できるが、このような凹部を設ければ、凹部に異物が堆積するおそれがあった。また、2個の環状体を相互に結合する保持器構造の合わせ部等に異物が堆積することがある。異物とは、水,塵埃,金属粉,軸受摩耗粉等である。異物は滞留すれば、耐荷重性能を著しく低下させ,結果として寿命を短くする。さらに,音響性能に大きな影響を与える。なお、軸受に発生する音は,ケース音,うなり音,保持器音,きず音,ごみ音などがある。
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、低トルク化を実現できてしかも内部への異物堆積を防止することが可能な玉軸受用保持器および軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の玉軸受用保持器は、軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、環状体のポケットの内周面及び環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、それぞれ、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたものである。この場合、保持器内径面に設けられる凹溝を2本設けるのが好ましい。
【0013】
本発明の第2の玉軸受用保持器は、軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、環状体に、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝とこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面に開口する副溝とを有するコの字状凹溝を設けるとともに、環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたものである。
【0014】
本発明の第1の玉軸受用保持器によれば、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができ、また、本発明の第2の玉軸受用保持器によれば、ポケットの内周面コの字状凹溝および合わせ面の凹溝によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、第1及び第2の玉軸受用保持器では、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができ、また、ボールとポケットとの間に形成される油膜量を少なくできる。しかも、ポケット内周面の凹溝や合わせ面の凹溝を設けることによって、異物を外部へ排出することが可能となる。なお、保持器内径面に設けられる凹溝を2本設けたものでは、潤滑剤の逃がしを効率よく行うことができる。
【0015】
環状体の反合わせ側の端面をフラット形状とするのが好ましい。このようにフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができる。
【0016】
保持器材料が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のいずれかを用いることができる。ポリアミド樹脂としては、PA66(ポリアミド66)であったり、PA46(ポリアミド46)であったり、PA9T(ポリアミド9T)であったり、PA11(ポリアミド11)であったり、PA6(ポリアミド6)であったりする。PA66等のポリアミド樹脂は、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れている。PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)は、高耐熱性、耐薬品性、精密成形性をもつエンジニアリングプラスチックである。PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)は、熱可塑性樹脂としては非常に高い耐熱性があり、耐疲労性に優れ、耐磨耗性や寸法安定性、耐薬品性にも優れている。
【0017】
本発明の玉軸受は、内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備えた玉軸受において、前記保持器に前記玉軸受用保持器を用いたものである。
【0018】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設けるとともに、外鍔部と外輪の内径面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとすることができる。
【0019】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設け、外輪の内径面の軸受軸方向外端部を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面とするとともに、前記外鍔部の外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面とし、鍔テーパ面と外輪テーパ面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたものであってもよい。
【0020】
外鍔部及び内鍔部を設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。また、外輪の内径面の軸受軸方向外端部及び外鍔部の外径端をテーパ面とすることによって、異物の外部への排出作用の向上を図ることができる。
【0021】
前記玉軸受をトランスミッションに適用するのが好ましい。トランスミッションは、エンジンからの駆動力を変速して駆動軸などへ伝達する主変速機であり、マニュアルタイプとオートマチックタイプに大別され、また車輌の駆動方式によって前輪駆動(FWD)用トランスアクスル、後輪駆動(RWD)用トランスミッション、および四輪駆動(4WD)用トランスファ(副変速機)がある。転がり軸受は、例えばメインシャフトとメインドライブギヤとの間に介在するように取り付けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の玉軸受用保持器は、潤滑剤がポケット内を通過する際の抵抗を低減させたり、ボールが運動する際にせん断する油膜量も少なくでき、この保持器を用いた軸受(玉軸受)のトルクを低減させることができる。しかも、ポケット内周面とボール(剛球)との間の余分な潤滑剤をこの間から排出することができ、余分な潤滑剤によるトルクへの影響を排除することができる。さらには、異物の外部への排出が可能となって、異物が堆積しにくい構成となり、前記した異物堆積による問題点の発生を防止できる。また、2枚の環状体を用いるものであるので、遠心力による変形やボールの脱落を有効に防止できる。しかも、この保持器は樹脂製であるので、安価で軽いという利点もある。
【0023】
反合わせ側の端面をフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができ、より一層トルク低減を図ることができる。
【0024】
保持器材料としては、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポ
リアミド樹脂等を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。
【0025】
鍔部を設けたものでは、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止でき、安定した潤滑剤の維持が可能で、トルク低減を有効に達成できる。特に、B≧Aとすることによって、異物を外部へ排出することができ、耐荷重性能の低下を防止して、長寿命化を図ることができる。さらには、騒音発生を有効に防止できる。
【0026】
本発明の玉軸受は、高速回転による保持器の変形の低減、及び潤滑油の流入量制限と攪拌抵抗を低減させ低トルク化を図ることができる。このため、軸受を自動車に使用すれば、燃費向上で環境に優しい運転が可能となる。すなわち、この軸受は自動車のトランスミッション用に最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す保持器を用いた玉軸受の断面図である。
【図2】前記図1に示す保持器の環状体の要部平面図である。
【図3】前記図1に示す保持器の環状体の要部簡略展開図である。
【図4】前記図1に示す保持器の組み立て前の斜視図である。
【図5】前記図1に示す保持器を組み立てた状態の斜視図である。
【図6】前記図1に示す保持器の組み立て前の展開図である。
【図7】前記図1に示す保持器を組み立てた状態の展開図である。
【図8】前記図6のA−A線断面図である。
【図9】前記図6のB−B線断面図である。
【図10】前記図7のC−C線断面図である。
【図11】前記図7のD−D線断面図である。
【図12】他の保持器の環状体の要部平面図である。
【図13】前記図12に示す保持器の環状体の要部簡略展開図である。
【図14】本発明の実施形態を示す他の玉軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0029】
図1に、本発明の実施形態を示す保持器5を用いた玉軸受を示し、この玉軸受1は、外径面に内側転走面2aが形成された内輪2と、その内輪2の外側に配置され、内径面に外側転走面3aが形成された外輪3と、内輪2の内側転走面2aと外輪3の外側転走面3aとの間に転動自在に介在された複数のボール4と、内輪2と外輪3との間に配され、各ボール4を円周方向等間隔に保持する前記保持器5とで主要部が構成されている。
【0030】
保持器5は、図4〜図7に示すように、軸方向に向き合う二枚の環状体10の対向面11に玉4を転動自在に収容する半球状のポケット12を周方向の複数箇所に形成し、環状体10のそれぞれの対向面11を衝合させてポケット12の周方向両端部に設けられた結合部18により二枚の環状体10を結合させた対称形状を有する。この環状体10におけるポケット12の内周面は単一の曲率半径を持つ凹球面状をなす。
【0031】
この場合、図2と図3等に示すように、環状体10のポケット12の内周面に、断面形状が円弧状の潤滑油抜け用凹溝19を設けている。この凹溝19は、それぞれの環状体10のポケット12の内周面の二箇所に径方向に延びる凹溝状に形成されている。すなわち、各凹溝19は、保持器内径面10bから保持器外径面10aに達し、保持器内径面10bと保持器外径面10aとにそれぞれ開口している。
【0032】
また、周方向に隣り合うポケット間の各合わせ面11aに、保持器内径面10bから保持器外径面10aに達し、保持器内径面10bと保持器外径面10aとにそれぞれ開口する凹溝20が形成される。なお、各凹溝19,20は、断面が半円形の溝であったが、断面が半楕円や矩形状のものであっても、さらには断面がV字状のV字溝であってもよい。
【0033】
環状体10の反合わせ側の外径部及び内径部に鍔部24a、24bを設けている。すなわち、図1に示すように、軸受外径側の外鍔部24aは軸受外径側に延び、軸受内径側の内鍔部24bは軸受内径側に延びる。この場合、反合わせ側の端面21を、軸受軸方向端面と平行なフラット形状(フラット面)とし、内鍔部24bの反合わせ面側の内径部は、外径側から内径側に向かって合わせ面側に傾斜するテーパ面とされている。
【0034】
ところで、このような鍔部24a、24bの逃げのために、外輪3の内径面の軸方向端部に周方向切欠部22を設けるとともに、内輪2の外径面の軸方向端部に周方向切欠部23を設けている。
【0035】
内輪2の周方向切欠部23は、断面矩形状とされているが、外輪3の周方向切欠部22は、その切欠面が、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面22aとしている。テーパ角αとしては、例えば、20°〜45°程度である。また、このテーパ面22aに対応して、外鍔部24aの外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面25としている。このテーパ面25のテーパ角βは、前記外輪テーパ面22aのテーパ角αとほぼ同じに設定される。そして、この外輪テーパ面22aとテーパ面25との間には所定のクリアランスが設けられている。
【0036】
この場合、内輪2の周方向切欠部23の切欠面23dと、内鍔部24bとの間にも所定のクリアランスが設けられ、このクリアランスをAとし、テーパ面22aとテーパ面25との間には所定のクリアランスが設けられ、このクリアランスをBとした場合、B≧Aとしている。なお、クリアランスBは、外鍔部24aの外径端からテーパ面22aまでの径方向寸法である。例えば、Aを0.5mm〜1.2mm程度とした場合、Bを0.7mm〜2.0mm程度とするのが好ましい。
【0037】
二枚の環状体10は、この種の一般的に使用される耐摩耗性や耐焼き付等に優れた樹脂、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂で形成することができる。さらには、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をベースとして、強度向上と寸法安定性のために、ガラス繊維を添加したものも採用することができる。
【0038】
しかしながら、本発明においては、保持器5の保持器材料として、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。ポリアミド樹脂としては、PA66(ポリアミド66)であったり、PA46(ポリアミド46)であったり、PA9T(ポリアミド9T)であったり、PA11(ポリアミド11)であったり、PA6(ポリアミド6)であったりする。このように、本発明では、保持器材料として、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポリアミド樹脂を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。なお、外輪3、内輪2、ボール4は、例えば軸受鋼、浸炭鋼等の金属で形成される。
【0039】
この玉軸受に充填されるグリースは、基油、増ちょう剤及び添加剤から成る半固体状の潤滑剤である。潤滑グリースを構成する基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブデン、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、一般に潤滑グリースの基油として使用されている油であれば特に限定することなく使用できる。
【0040】
増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0041】
潤滑グリース用の公知の添加剤としては、例えば極圧剤、アミン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
【0042】
以上の実施形態の保持器5は、二枚の環状体10を結合させるための手段として、以下の結合構造を具備する。なお、この係合構造を説明するための図4〜図7においては、図面の簡略化のために、鍔部24a、24bの図示を省略した。このため、この図4〜図7に示す保持器5においても、実際には、鍔部24a、24bが形成されている。
【0043】
図4〜図7に示すように、二枚の環状体10のそれぞれは、ポケット12の一方の周方向端部の外径側を軸方向に延出させて外径側凸部13を形成すると共に内径側を凹ませて内径側凹部14を形成し、かつ、ポケット12の他方の周方向端部の内径側を軸方向に延出させて内径側凸部15を形成すると共に外径側を凹ませて外径側凹部16を形成する。
【0044】
このように、二枚の環状体10のそれぞれで、ポケット12の一方の周方向端部に外径側凸部13および内径側凹部14を形成すると共に、他方の周方向端部に内径側凸部15および外径側凹部16を形成した構造を採用したことにより、一つの金型で製作した一種の環状体10を使用して一方の環状体10と他方の環状体10とすることができ、製品コストの低減が図れる。
【0045】
この構造において、一方の環状体10の外径側凸部13を他方の環状体10の外径側凹部16に挿入すると共に一方の環状体10の内径側凸部15を他方の環状体10の内径側凹部14に挿入することにより、外径側凸部13と内径側凸部15を軸方向で係合させる。また、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aを、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜させている(図8および図9参照)。
【0046】
図4及び図6に示すように、二枚の環状体10のそれぞれの対向面11を衝合させ、外径側凸部13と内径側凸部15を所定の締め代でもって軸方向で係合させることにより、その外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aに沿って摩擦力が発生する。また、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aを、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜させたことにより、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aの法線方向に発生した反力の軸方向成分が現出する。
【0047】
この外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aに沿って発生する摩擦力と、その係合面13a,15aの法線方向に発生する反力の軸方向成分との相乗作用により、高回転により大きな遠心力が負荷された場合であっても、二枚の環状体10が軸方向に分離することを確実に防止することができる。
【0048】
このように、環状体10のポケット12の周方向両端部に、外径側凸部13および内径側凹部14と内径側凸部15および外径側凹部16からなる結合部18を設けたことにより、高回転により大きな遠心力が負荷された場合、一方の環状体10と他方の環状体10が相互に軸方向外側へ離隔してポケット12が開こうとしても、前述の結合部18により玉4をポケット12内に収容した状態を維持することが容易となる。
【0049】
この実施形態の結合構造では、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aの傾斜角度θ(図8および図9参照)を5°以上とする必要がある。このように傾斜角度θを設定することにより、高回転により大きな遠心力が負荷された時の係合面13a,15aの変形を抑制することが容易となり、係合面13a,15aに反力の軸方向成分を確実に作用させることができて二枚の環状体10の結合力を確保することが容易となる。なお、係合面13a,15aの傾斜角度θが5°よりも小さいと、高回転により大きな遠心力が負荷された場合、係合面13a,15aの変形を抑制することが困難となり、係合面13a,15aに反力の軸方向成分を確実に作用させることが難しくなる。
【0050】
また、この結合構造では、図10および図11に示すように、内径側凸部15を外径側凸部13よりも厚肉にしている(tIN>tOUT)。このように内径側凸部15を外径側凸部13よりも厚肉にすることにより、高回転により大きな遠心力が負荷された際、外径側凸部13よりも厚肉にした内径側凸部15の質量が外径側凸部13よりも大きいことから、その内径側凸部15が外径側凸部13よりも大きく変形する。ここで、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aは、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜していることから、内径側凸部15の変形は、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aでの結合力を高めるように作用する。
【0051】
本発明では、保持器内径面10aから保持器外径面10bに達する凹溝19,20によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、この玉軸受用保持器では、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができ、また、ボール4とポケット12との間に形成される油膜量を少なくできる。この凹溝19,20により、この保持器5を用いた軸受(玉軸受)のトルクを低減させることができる。しかも、ボール対向面とボール(剛球)4との間の余分な潤滑剤をこの間から排出することができ、余分な潤滑剤によるトルクへの影響を排除することができる。さらには、凹溝19,20を設けたことによって、異物の外部への排出が可能となって、異物が堆積しにくい構成となり、前記した異物堆積による問題点の発生を防止できる。また、2枚の環状体を用いるものであるので、遠心力による変形やボールの脱落を有効に防止できる。
【0052】
環状体10の反合わせ側の端面21をフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができ、より一層トルク低減を図ることができる。
【0053】
外鍔部24a及び内鍔部24bを設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。また、外輪3の内径面の軸受軸方向外端部及び外鍔部の外径端をテーパ面22aとすることによって、異物の外部へも排出作用の向上を図ることができる。なお、テーパ角αやテーパ角βとしては、20°〜45°程度としたが、「外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。」という機能を奏することができれば、20°〜45°以内、さらには、このような範囲を越えて設定できる。
【0054】
保持器材料としては、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポ
リアミド樹脂等を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。
【0055】
次に、図12と図13に示す保持器では、ポケット12の内周面にコの字状の凹溝26を設けている。すなわち、コの字状の凹溝26は、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝26aとこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面10aに開口する副溝26bとを有するものである。
【0056】
このようなコの字状の凹溝26であっても、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、図2と図3等に示す保持器と同様の作用効果を奏する。この凹溝26として、断面が半円形の溝であっても、断面が半楕円や矩形状のものであっても、さらには断面がV字状のV字溝であってもよい。
【0057】
また、軸受として、外輪3の周方向切欠部22の切欠面がテーパ面でなくてもよい。すなわち、図14に示すように、外輪3の周方向切欠部22も断面矩形状とされる。このため、外鍔部24aの外径端は、周方向切欠部22の切欠面28に対応して、軸方向に平行な端面とされる。また、外鍔部24aと外輪3の内径面(この場合、周方向切欠部22の切欠面28)との間のクリアランスをBとし、内鍔部24bと内輪2の外径面(この場合、周方向切欠部23の切欠面23a)との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとする。この場合も、例えば、Aを0.5mm〜1.2mm程度とした場合、Bを0.7mm〜2.0mm程度とするのが好ましい。
【0058】
このため、このような軸受であっても、外鍔部24a及び内鍔部24bを設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。
【0059】
図14に示す保持器5の他の構成は、前記図2に示す保持器5を同様の構成であり、図1に示す玉軸受は、図1に示す玉軸受と同様の構成であるので、図14に示す保持器5及び図1に示す玉軸受と同一部(同一部材)は図1と図2と同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0060】
このように、本発明に係る保持器は、潤滑剤が通過する際の抵抗と、せん断する油膜量の減少との両立が可能となり、トルクの低減を図ることができ、この玉軸受用保持器を用いた軸受を自動車に使用すれば、燃費向上で環境に優しい運転が可能となる。すなわち、この軸受は自動車のトランスミッション用に最適となる。
【0061】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、凹溝19,20、26の大きさや深さ等としては、使用する潤滑剤等に応じて、潤滑剤が通過する際の抵抗と、せん断する油膜量の減少との両立が可能となる範囲で種々変更することができる。このため、ポケット12の内周面に設けられる凹溝19の数としても2本に限るものではなく、1本であっても、3本以上であってもよい。また、環状体10の各合わせ面11aに設けられる凹溝20としても1本に限るものではなく、2本以上であってもよい。さらには、凹溝20を全合わせ面11aに設けることなく、任意の合わせ面11aに設けたものであってもよい。
【0062】
前記実施形態のように、「内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。」という機能を発揮させるために、鍔部24a,24bを設けるのが好ましいが、外鍔部24aと内鍔部24bとのいずれか一方を省略しても、両鍔部24a,24bを省略してもよい。鍔部24a,24bを設ける場合の各鍔部24a,24bの肉厚、径方向長さ寸法等は、回転時のバランス、強度、重量、クリアランスA、B等を考慮して設定される。逆に、周方向切欠部22,23の大きさ、形状等は、鍔部24a,24bの肉厚、径方向長さ寸法等を考慮して設定される。なお、ボール3を保持するポケット12の数として、その数は任意に増減できる。
【0063】
ところで、本発明の保持器は、前記したように、トランスミッション用に軸受の保持器に最適となるが、勿論、軸受としてトランスミッション用に限るものではなく、各種機械、機構に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
2 内輪
3 外輪
4 ボール
5 保持器
10 環状体
11 対向面
11a合わせ面
12 ポケット
19,20 凹溝
22a 外輪テーパ面
24a 外鍔部
24b 内鍔部
25 鍔テーパ面
26 凹溝
26a 中央本体溝
26b 副溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールを転動自在に保持する玉軸受用保持器、およびその保持器を外輪および内輪間に組み込んだ玉軸受に関し、特に、オイル潤滑下で高速回転、及び低トルク化を要求される用途で使用される軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発動機を有する車両のトランスミッションのギヤ支持軸には、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受などの各種の玉軸受が広く使用されている。
【0003】
一般に、玉軸受は、内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備える。そして、この外輪あるいは内輪のいずれか一方がハウジングなどの固定部分に装着され、他方が回転軸などの回転部分に装着される。
【0004】
保持器には樹脂冠型保持器を使用する場合がある。この樹脂冠型保持器は、耐摩耗性や耐焼き付き性等に優れた樹脂からなり、環状の保持器本体の軸方向一端面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成するとともに、この凹部の周方向に対向する開口端から突出する一対の爪部を設けて、凹部と一対の爪部とでボールが収納されるポケットを形成したものである。
【0005】
ところで、電動車両やハイブリッド車両においては、高速のモータ回転が入力されるため、回転軸などの回転部分は高回転となる傾向にある。その結果、潤滑不足、トルク(発熱)、遠心力による保持器の変形などが問題となる。
【0006】
しかしながら、前記樹脂冠型保持器では、ボールを片側(軸方向一端側)のみから保持する形状である。このため、大きな遠心力が負荷された場合、不均等な変形によりボールが脱落するおそれがあった。そこで、従来では、軸方向に向き合う2枚の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に形成し、前記対向面を衝合させて2枚の環状体を結合させた保持器がある。
【0007】
また、トルク(発熱)対策や軸受の表裏を無くすために、保持器形状を軸方向に対称とするのが好ましい。このため、分割した保持器を合わせて結合する構造が不可欠となる。このため、従来では、2個の環状体を相互に結合するための保持器構造が種々提案されている(特許文献1〜特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−226430号公報
【特許文献2】特開2006−226447号公報
【特許文献3】特開2006−226448号公報
【特許文献4】特開2008−64221号公報
【特許文献5】特開2009−281399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記した従来の軸受用の保持器においては、剛球(ボール)を保持するためのポケットのボール対向面はボールに添うような単一の曲面にて構成されているものであって、ボールによる油(グリース等の潤滑剤)のせん断抵抗が発生する。このせん断抵抗は、ポケット内側とそのポケットに抱えられている鋼球(ボール)との間に形成された油膜をせん断する時に発生する。また、ボールを覆う保持器ポケット内側との微少なスキマを潤滑剤が通過する際に抵抗が発生する。このため、従来の保持器においては、低トルク化を実現することは困難であった。
【0010】
なお、前記のようなせん断抵抗を低減させる手段として、ポケットの内周面に凹部を設けることを提案できるが、このような凹部を設ければ、凹部に異物が堆積するおそれがあった。また、2個の環状体を相互に結合する保持器構造の合わせ部等に異物が堆積することがある。異物とは、水,塵埃,金属粉,軸受摩耗粉等である。異物は滞留すれば、耐荷重性能を著しく低下させ,結果として寿命を短くする。さらに,音響性能に大きな影響を与える。なお、軸受に発生する音は,ケース音,うなり音,保持器音,きず音,ごみ音などがある。
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、低トルク化を実現できてしかも内部への異物堆積を防止することが可能な玉軸受用保持器および軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の玉軸受用保持器は、軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、環状体のポケットの内周面及び環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、それぞれ、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたものである。この場合、保持器内径面に設けられる凹溝を2本設けるのが好ましい。
【0013】
本発明の第2の玉軸受用保持器は、軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、環状体に、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝とこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面に開口する副溝とを有するコの字状凹溝を設けるとともに、環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたものである。
【0014】
本発明の第1の玉軸受用保持器によれば、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができ、また、本発明の第2の玉軸受用保持器によれば、ポケットの内周面コの字状凹溝および合わせ面の凹溝によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、第1及び第2の玉軸受用保持器では、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができ、また、ボールとポケットとの間に形成される油膜量を少なくできる。しかも、ポケット内周面の凹溝や合わせ面の凹溝を設けることによって、異物を外部へ排出することが可能となる。なお、保持器内径面に設けられる凹溝を2本設けたものでは、潤滑剤の逃がしを効率よく行うことができる。
【0015】
環状体の反合わせ側の端面をフラット形状とするのが好ましい。このようにフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができる。
【0016】
保持器材料が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)のいずれかを用いることができる。ポリアミド樹脂としては、PA66(ポリアミド66)であったり、PA46(ポリアミド46)であったり、PA9T(ポリアミド9T)であったり、PA11(ポリアミド11)であったり、PA6(ポリアミド6)であったりする。PA66等のポリアミド樹脂は、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れている。PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)は、高耐熱性、耐薬品性、精密成形性をもつエンジニアリングプラスチックである。PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)は、熱可塑性樹脂としては非常に高い耐熱性があり、耐疲労性に優れ、耐磨耗性や寸法安定性、耐薬品性にも優れている。
【0017】
本発明の玉軸受は、内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備えた玉軸受において、前記保持器に前記玉軸受用保持器を用いたものである。
【0018】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設けるとともに、外鍔部と外輪の内径面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとすることができる。
【0019】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設け、外輪の内径面の軸受軸方向外端部を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面とするとともに、前記外鍔部の外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面とし、鍔テーパ面と外輪テーパ面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたものであってもよい。
【0020】
外鍔部及び内鍔部を設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。また、外輪の内径面の軸受軸方向外端部及び外鍔部の外径端をテーパ面とすることによって、異物の外部への排出作用の向上を図ることができる。
【0021】
前記玉軸受をトランスミッションに適用するのが好ましい。トランスミッションは、エンジンからの駆動力を変速して駆動軸などへ伝達する主変速機であり、マニュアルタイプとオートマチックタイプに大別され、また車輌の駆動方式によって前輪駆動(FWD)用トランスアクスル、後輪駆動(RWD)用トランスミッション、および四輪駆動(4WD)用トランスファ(副変速機)がある。転がり軸受は、例えばメインシャフトとメインドライブギヤとの間に介在するように取り付けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の玉軸受用保持器は、潤滑剤がポケット内を通過する際の抵抗を低減させたり、ボールが運動する際にせん断する油膜量も少なくでき、この保持器を用いた軸受(玉軸受)のトルクを低減させることができる。しかも、ポケット内周面とボール(剛球)との間の余分な潤滑剤をこの間から排出することができ、余分な潤滑剤によるトルクへの影響を排除することができる。さらには、異物の外部への排出が可能となって、異物が堆積しにくい構成となり、前記した異物堆積による問題点の発生を防止できる。また、2枚の環状体を用いるものであるので、遠心力による変形やボールの脱落を有効に防止できる。しかも、この保持器は樹脂製であるので、安価で軽いという利点もある。
【0023】
反合わせ側の端面をフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができ、より一層トルク低減を図ることができる。
【0024】
保持器材料としては、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポ
リアミド樹脂等を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。
【0025】
鍔部を設けたものでは、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止でき、安定した潤滑剤の維持が可能で、トルク低減を有効に達成できる。特に、B≧Aとすることによって、異物を外部へ排出することができ、耐荷重性能の低下を防止して、長寿命化を図ることができる。さらには、騒音発生を有効に防止できる。
【0026】
本発明の玉軸受は、高速回転による保持器の変形の低減、及び潤滑油の流入量制限と攪拌抵抗を低減させ低トルク化を図ることができる。このため、軸受を自動車に使用すれば、燃費向上で環境に優しい運転が可能となる。すなわち、この軸受は自動車のトランスミッション用に最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す保持器を用いた玉軸受の断面図である。
【図2】前記図1に示す保持器の環状体の要部平面図である。
【図3】前記図1に示す保持器の環状体の要部簡略展開図である。
【図4】前記図1に示す保持器の組み立て前の斜視図である。
【図5】前記図1に示す保持器を組み立てた状態の斜視図である。
【図6】前記図1に示す保持器の組み立て前の展開図である。
【図7】前記図1に示す保持器を組み立てた状態の展開図である。
【図8】前記図6のA−A線断面図である。
【図9】前記図6のB−B線断面図である。
【図10】前記図7のC−C線断面図である。
【図11】前記図7のD−D線断面図である。
【図12】他の保持器の環状体の要部平面図である。
【図13】前記図12に示す保持器の環状体の要部簡略展開図である。
【図14】本発明の実施形態を示す他の玉軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0029】
図1に、本発明の実施形態を示す保持器5を用いた玉軸受を示し、この玉軸受1は、外径面に内側転走面2aが形成された内輪2と、その内輪2の外側に配置され、内径面に外側転走面3aが形成された外輪3と、内輪2の内側転走面2aと外輪3の外側転走面3aとの間に転動自在に介在された複数のボール4と、内輪2と外輪3との間に配され、各ボール4を円周方向等間隔に保持する前記保持器5とで主要部が構成されている。
【0030】
保持器5は、図4〜図7に示すように、軸方向に向き合う二枚の環状体10の対向面11に玉4を転動自在に収容する半球状のポケット12を周方向の複数箇所に形成し、環状体10のそれぞれの対向面11を衝合させてポケット12の周方向両端部に設けられた結合部18により二枚の環状体10を結合させた対称形状を有する。この環状体10におけるポケット12の内周面は単一の曲率半径を持つ凹球面状をなす。
【0031】
この場合、図2と図3等に示すように、環状体10のポケット12の内周面に、断面形状が円弧状の潤滑油抜け用凹溝19を設けている。この凹溝19は、それぞれの環状体10のポケット12の内周面の二箇所に径方向に延びる凹溝状に形成されている。すなわち、各凹溝19は、保持器内径面10bから保持器外径面10aに達し、保持器内径面10bと保持器外径面10aとにそれぞれ開口している。
【0032】
また、周方向に隣り合うポケット間の各合わせ面11aに、保持器内径面10bから保持器外径面10aに達し、保持器内径面10bと保持器外径面10aとにそれぞれ開口する凹溝20が形成される。なお、各凹溝19,20は、断面が半円形の溝であったが、断面が半楕円や矩形状のものであっても、さらには断面がV字状のV字溝であってもよい。
【0033】
環状体10の反合わせ側の外径部及び内径部に鍔部24a、24bを設けている。すなわち、図1に示すように、軸受外径側の外鍔部24aは軸受外径側に延び、軸受内径側の内鍔部24bは軸受内径側に延びる。この場合、反合わせ側の端面21を、軸受軸方向端面と平行なフラット形状(フラット面)とし、内鍔部24bの反合わせ面側の内径部は、外径側から内径側に向かって合わせ面側に傾斜するテーパ面とされている。
【0034】
ところで、このような鍔部24a、24bの逃げのために、外輪3の内径面の軸方向端部に周方向切欠部22を設けるとともに、内輪2の外径面の軸方向端部に周方向切欠部23を設けている。
【0035】
内輪2の周方向切欠部23は、断面矩形状とされているが、外輪3の周方向切欠部22は、その切欠面が、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面22aとしている。テーパ角αとしては、例えば、20°〜45°程度である。また、このテーパ面22aに対応して、外鍔部24aの外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面25としている。このテーパ面25のテーパ角βは、前記外輪テーパ面22aのテーパ角αとほぼ同じに設定される。そして、この外輪テーパ面22aとテーパ面25との間には所定のクリアランスが設けられている。
【0036】
この場合、内輪2の周方向切欠部23の切欠面23dと、内鍔部24bとの間にも所定のクリアランスが設けられ、このクリアランスをAとし、テーパ面22aとテーパ面25との間には所定のクリアランスが設けられ、このクリアランスをBとした場合、B≧Aとしている。なお、クリアランスBは、外鍔部24aの外径端からテーパ面22aまでの径方向寸法である。例えば、Aを0.5mm〜1.2mm程度とした場合、Bを0.7mm〜2.0mm程度とするのが好ましい。
【0037】
二枚の環状体10は、この種の一般的に使用される耐摩耗性や耐焼き付等に優れた樹脂、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂で形成することができる。さらには、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をベースとして、強度向上と寸法安定性のために、ガラス繊維を添加したものも採用することができる。
【0038】
しかしながら、本発明においては、保持器5の保持器材料として、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。ポリアミド樹脂としては、PA66(ポリアミド66)であったり、PA46(ポリアミド46)であったり、PA9T(ポリアミド9T)であったり、PA11(ポリアミド11)であったり、PA6(ポリアミド6)であったりする。このように、本発明では、保持器材料として、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポリアミド樹脂を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。なお、外輪3、内輪2、ボール4は、例えば軸受鋼、浸炭鋼等の金属で形成される。
【0039】
この玉軸受に充填されるグリースは、基油、増ちょう剤及び添加剤から成る半固体状の潤滑剤である。潤滑グリースを構成する基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブデン、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、一般に潤滑グリースの基油として使用されている油であれば特に限定することなく使用できる。
【0040】
増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0041】
潤滑グリース用の公知の添加剤としては、例えば極圧剤、アミン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
【0042】
以上の実施形態の保持器5は、二枚の環状体10を結合させるための手段として、以下の結合構造を具備する。なお、この係合構造を説明するための図4〜図7においては、図面の簡略化のために、鍔部24a、24bの図示を省略した。このため、この図4〜図7に示す保持器5においても、実際には、鍔部24a、24bが形成されている。
【0043】
図4〜図7に示すように、二枚の環状体10のそれぞれは、ポケット12の一方の周方向端部の外径側を軸方向に延出させて外径側凸部13を形成すると共に内径側を凹ませて内径側凹部14を形成し、かつ、ポケット12の他方の周方向端部の内径側を軸方向に延出させて内径側凸部15を形成すると共に外径側を凹ませて外径側凹部16を形成する。
【0044】
このように、二枚の環状体10のそれぞれで、ポケット12の一方の周方向端部に外径側凸部13および内径側凹部14を形成すると共に、他方の周方向端部に内径側凸部15および外径側凹部16を形成した構造を採用したことにより、一つの金型で製作した一種の環状体10を使用して一方の環状体10と他方の環状体10とすることができ、製品コストの低減が図れる。
【0045】
この構造において、一方の環状体10の外径側凸部13を他方の環状体10の外径側凹部16に挿入すると共に一方の環状体10の内径側凸部15を他方の環状体10の内径側凹部14に挿入することにより、外径側凸部13と内径側凸部15を軸方向で係合させる。また、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aを、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜させている(図8および図9参照)。
【0046】
図4及び図6に示すように、二枚の環状体10のそれぞれの対向面11を衝合させ、外径側凸部13と内径側凸部15を所定の締め代でもって軸方向で係合させることにより、その外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aに沿って摩擦力が発生する。また、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aを、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜させたことにより、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aの法線方向に発生した反力の軸方向成分が現出する。
【0047】
この外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aに沿って発生する摩擦力と、その係合面13a,15aの法線方向に発生する反力の軸方向成分との相乗作用により、高回転により大きな遠心力が負荷された場合であっても、二枚の環状体10が軸方向に分離することを確実に防止することができる。
【0048】
このように、環状体10のポケット12の周方向両端部に、外径側凸部13および内径側凹部14と内径側凸部15および外径側凹部16からなる結合部18を設けたことにより、高回転により大きな遠心力が負荷された場合、一方の環状体10と他方の環状体10が相互に軸方向外側へ離隔してポケット12が開こうとしても、前述の結合部18により玉4をポケット12内に収容した状態を維持することが容易となる。
【0049】
この実施形態の結合構造では、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aの傾斜角度θ(図8および図9参照)を5°以上とする必要がある。このように傾斜角度θを設定することにより、高回転により大きな遠心力が負荷された時の係合面13a,15aの変形を抑制することが容易となり、係合面13a,15aに反力の軸方向成分を確実に作用させることができて二枚の環状体10の結合力を確保することが容易となる。なお、係合面13a,15aの傾斜角度θが5°よりも小さいと、高回転により大きな遠心力が負荷された場合、係合面13a,15aの変形を抑制することが困難となり、係合面13a,15aに反力の軸方向成分を確実に作用させることが難しくなる。
【0050】
また、この結合構造では、図10および図11に示すように、内径側凸部15を外径側凸部13よりも厚肉にしている(tIN>tOUT)。このように内径側凸部15を外径側凸部13よりも厚肉にすることにより、高回転により大きな遠心力が負荷された際、外径側凸部13よりも厚肉にした内径側凸部15の質量が外径側凸部13よりも大きいことから、その内径側凸部15が外径側凸部13よりも大きく変形する。ここで、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aは、外径側凸部13および内径側凸部15の基端側よりも先端側が厚肉となるように軸方向に対して傾斜していることから、内径側凸部15の変形は、外径側凸部13と内径側凸部15との係合面13a,15aでの結合力を高めるように作用する。
【0051】
本発明では、保持器内径面10aから保持器外径面10bに達する凹溝19,20によって、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、この玉軸受用保持器では、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができ、また、ボール4とポケット12との間に形成される油膜量を少なくできる。この凹溝19,20により、この保持器5を用いた軸受(玉軸受)のトルクを低減させることができる。しかも、ボール対向面とボール(剛球)4との間の余分な潤滑剤をこの間から排出することができ、余分な潤滑剤によるトルクへの影響を排除することができる。さらには、凹溝19,20を設けたことによって、異物の外部への排出が可能となって、異物が堆積しにくい構成となり、前記した異物堆積による問題点の発生を防止できる。また、2枚の環状体を用いるものであるので、遠心力による変形やボールの脱落を有効に防止できる。
【0052】
環状体10の反合わせ側の端面21をフラット形状とすることによって、潤滑剤の攪拌抵抗を低減することができ、より一層トルク低減を図ることができる。
【0053】
外鍔部24a及び内鍔部24bを設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。また、外輪3の内径面の軸受軸方向外端部及び外鍔部の外径端をテーパ面22aとすることによって、異物の外部へも排出作用の向上を図ることができる。なお、テーパ角αやテーパ角βとしては、20°〜45°程度としたが、「外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。」という機能を奏することができれば、20°〜45°以内、さらには、このような範囲を越えて設定できる。
【0054】
保持器材料としては、引張伸び,引張強さ,耐衝撃性,耐摩耗性,潤滑性等に優れたポ
リアミド樹脂等を用いることができ、高品質な保持器を提供できる。
【0055】
次に、図12と図13に示す保持器では、ポケット12の内周面にコの字状の凹溝26を設けている。すなわち、コの字状の凹溝26は、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝26aとこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面10aに開口する副溝26bとを有するものである。
【0056】
このようなコの字状の凹溝26であっても、ポケット内部側に潤滑剤の逃がし部を形成することができる。このため、図2と図3等に示す保持器と同様の作用効果を奏する。この凹溝26として、断面が半円形の溝であっても、断面が半楕円や矩形状のものであっても、さらには断面がV字状のV字溝であってもよい。
【0057】
また、軸受として、外輪3の周方向切欠部22の切欠面がテーパ面でなくてもよい。すなわち、図14に示すように、外輪3の周方向切欠部22も断面矩形状とされる。このため、外鍔部24aの外径端は、周方向切欠部22の切欠面28に対応して、軸方向に平行な端面とされる。また、外鍔部24aと外輪3の内径面(この場合、周方向切欠部22の切欠面28)との間のクリアランスをBとし、内鍔部24bと内輪2の外径面(この場合、周方向切欠部23の切欠面23a)との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとする。この場合も、例えば、Aを0.5mm〜1.2mm程度とした場合、Bを0.7mm〜2.0mm程度とするのが好ましい。
【0058】
このため、このような軸受であっても、外鍔部24a及び内鍔部24bを設けることによって、内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。特に、B≧Aとすることによって、外部への潤滑剤の流出を防止しつつ内部に滞留しようとする異物を外部へ排出することができる。
【0059】
図14に示す保持器5の他の構成は、前記図2に示す保持器5を同様の構成であり、図1に示す玉軸受は、図1に示す玉軸受と同様の構成であるので、図14に示す保持器5及び図1に示す玉軸受と同一部(同一部材)は図1と図2と同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0060】
このように、本発明に係る保持器は、潤滑剤が通過する際の抵抗と、せん断する油膜量の減少との両立が可能となり、トルクの低減を図ることができ、この玉軸受用保持器を用いた軸受を自動車に使用すれば、燃費向上で環境に優しい運転が可能となる。すなわち、この軸受は自動車のトランスミッション用に最適となる。
【0061】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、凹溝19,20、26の大きさや深さ等としては、使用する潤滑剤等に応じて、潤滑剤が通過する際の抵抗と、せん断する油膜量の減少との両立が可能となる範囲で種々変更することができる。このため、ポケット12の内周面に設けられる凹溝19の数としても2本に限るものではなく、1本であっても、3本以上であってもよい。また、環状体10の各合わせ面11aに設けられる凹溝20としても1本に限るものではなく、2本以上であってもよい。さらには、凹溝20を全合わせ面11aに設けることなく、任意の合わせ面11aに設けたものであってもよい。
【0062】
前記実施形態のように、「内部(軸受内部)への潤滑剤の流入の制限、及び内部(軸受内部)からの外部への潤滑剤の流出を防止できる。」という機能を発揮させるために、鍔部24a,24bを設けるのが好ましいが、外鍔部24aと内鍔部24bとのいずれか一方を省略しても、両鍔部24a,24bを省略してもよい。鍔部24a,24bを設ける場合の各鍔部24a,24bの肉厚、径方向長さ寸法等は、回転時のバランス、強度、重量、クリアランスA、B等を考慮して設定される。逆に、周方向切欠部22,23の大きさ、形状等は、鍔部24a,24bの肉厚、径方向長さ寸法等を考慮して設定される。なお、ボール3を保持するポケット12の数として、その数は任意に増減できる。
【0063】
ところで、本発明の保持器は、前記したように、トランスミッション用に軸受の保持器に最適となるが、勿論、軸受としてトランスミッション用に限るものではなく、各種機械、機構に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
2 内輪
3 外輪
4 ボール
5 保持器
10 環状体
11 対向面
11a合わせ面
12 ポケット
19,20 凹溝
22a 外輪テーパ面
24a 外鍔部
24b 内鍔部
25 鍔テーパ面
26 凹溝
26a 中央本体溝
26b 副溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、
環状体のポケットの内周面及び環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、それぞれ、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
保持器内径面に設けられる凹溝は2本であることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受用保持器。
【請求項3】
軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、
環状体のポケットの内周面に、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝とこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面に開口する副溝とを有するコの字状凹溝を設けるとともに、環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項4】
環状体の反合わせ側の端面をフラット形状としたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項5】
保持器材料が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂のいずれかを用いたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項6】
内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備えた玉軸受において、前記保持器に前記請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を用いたことを特徴とする玉軸受。
【請求項7】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設けるとともに、外鍔部と外輪の内径面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたことを特徴とする請求項6に記載の玉軸受。
【請求項8】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設け、外輪の内径面の軸受軸方向外端部を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面とするとともに、前記外鍔部の外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面とし、鍔テーパ面と外輪テーパ面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたことを特徴とする請求項6に記載の玉軸受。
【請求項9】
トランスミッションに適用されることを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか1項
に記載の玉軸受。
【請求項1】
軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、
環状体のポケットの内周面及び環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、それぞれ、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
保持器内径面に設けられる凹溝は2本であることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受用保持器。
【請求項3】
軸方向に向き合う一対の環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に有し、この一対の環状体が周方向に重なり合う対称形とされて一体化される樹脂製の玉軸受用保持器であって、
環状体のポケットの内周面に、ポケット周方向に沿って延びる中央本体溝とこの中央本体の端部に連設されて保持器外径面に開口する副溝とを有するコの字状凹溝を設けるとともに、環状体の対向面におけるポケット間の合わせ面に、保持器内径面から保持器外径面に達する凹溝を設けたことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項4】
環状体の反合わせ側の端面をフラット形状としたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項5】
保持器材料が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂のいずれかを用いたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項6】
内輪と、外輪と、この内輪と外輪との間に介装されるボールと、このボールを保持する保持器とを備えた玉軸受において、前記保持器に前記請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の玉軸受用保持器を用いたことを特徴とする玉軸受。
【請求項7】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設けるとともに、外鍔部と外輪の内径面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたことを特徴とする請求項6に記載の玉軸受。
【請求項8】
環状体の反合わせ側の外径部に外径側に延びる外鍔部と反合わせ側の内径部に内径側に延びる内鍔部とを設け、外輪の内径面の軸受軸方向外端部を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する外輪テーパ面とするとともに、前記外鍔部の外径端を、軸方向内側から軸方向外側に向かって拡径する鍔テーパ面とし、鍔テーパ面と外輪テーパ面との間のクリアランスをBとし、内鍔部と内輪の外径面との間のクリアランスをAとしたときに、B≧Aとしたことを特徴とする請求項6に記載の玉軸受。
【請求項9】
トランスミッションに適用されることを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか1項
に記載の玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−251635(P2012−251635A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126350(P2011−126350)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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