説明

珪藻土を混合した被印刷用素材及びその製造方法

【課題】珪藻土の持つカビの軽減、消臭効果、湿度調節などの有用な効果を、紙並びに布などの繊維構造物などに付加する際、インクジェットプリンタ用染料インク並びに顔料インク用の前処理下地剤と合わせて施術することにより、その機能性を持続させるとともに、印刷インクのにじみを防止し、耐水性・耐洗濯性を併せ持ち意匠性を併せ持つ素材を提供する。
【解決手段】水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくはその代用品なる高分子ポリマー(B)と、紙並びに布などの繊維構造物に固着しやすい、素材に合った適選なる染料用フィックス剤(C)を混合してなる水中に分散させた溶液と、適量の珪藻土(D)を付着させ乾燥したことを特徴とする、紙並びに布などの繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪藻土の有用な機能性を生かしながら、意匠性の高い被印刷用素材を製造することのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、珪藻土のもつ優位性などは社会的にも学術的にも実証済みである。その珪藻土の防カビ効果・消臭効果・湿度調整効果などを活用した素材としては、1)珪藻土を紙の表面に吹き付けした壁紙、2)珪藻土を樹脂に含有させ、「層」としてコーティングしたものなどが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−131912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の珪藻土を表面に施工したものは珪藻土が剥離しやすく、樹脂コーティング層に含有するものは、珪藻土の能力が損なわれやすい。
【0004】
珪藻土成分の層を不織布などで2枚を張り合わせたものも改善品として存在するが、2重になった分コストがアップし、厚みが増した形状となる。
【0005】
特に布などを服地として利用する場合やカーテンなどに応用する場合は、上記従来のものでは、本来の素材の風合いを損ねたり、繰り返し洗濯をする場合は珪藻土の成分を維持できなくなる。
【0006】
また、通常珪藻土を紙並びに布などの繊維構造物に水で溶かし含浸しただけでは、珪藻土の固着が弱く、乾燥後、摩擦などの力を加えると粉状になって飛散したり素材から剥離することが懸念される。
【0007】
そして、珪藻土の多孔質という性質を印刷用インクの受容層として応用し、素材表面に露出させ最大限に珪藻土の有効機能を生かしながら、インクジェット印刷に求められるにじみのない発色と、強固な耐水性を持ちあわす素材は存在しない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、天然の珪藻土が持ち合わす、防カビ効果・消臭効果・湿度調整効果などの有用な機能を紙並びに布などの繊維構造物に付加させる際、インクジェットプリントに堅牢性並びに発色性を向上させるための前処理下地剤と珪藻土を組み合わせることにより、珪藻土の摩擦における剥離などを防止し、有用な効果を持続させる特性を向上させるとともに、珪藻土の持つ多孔質な性質がインクのにじみを軽減し鮮明な印刷表現を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明の珪藻土を混合した被印刷用素材は、紙並びに布などの繊維構造物からなる素材に、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくは高分子ポリマーと、染料用フィックス剤と、珪藻土とを塗布してなるものである。
【0010】
請求項2に係る発明の珪藻土を混合した被印刷用素材の製造方法は、紙並びに布などの繊維構造物からなる素材に、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくは高分子ポリマーと、染料用フィックス剤とを混合した成分を水100ml中に2%から30%分散させた溶液に、上記素材の重量比50%を超えない範囲の適量の珪藻土を混ぜ合わせてなる塗剤水溶液を塗布し、この後に乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、珪藻土並びに染料及び顔料インクが紙並びに布などの繊維構造物と固着され、珪藻土の持ち合わせる有用な機能である、カビの軽減、消臭効果、湿度調節などを長持ちさせ、且つ、インクジェット印刷を高品位で堅牢性の高い意匠性を兼ね備えた表現の出来る被印刷用素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の珪藻土を混合した被印刷用素材において各要素が固着している状態を模式的に示している。
【0014】
紙並びに布などの繊維構造物である素材(A)に、高分子ポリマー(B)と染料用フィックス剤(C)の結合物が浸透し、一旦乾燥すると染料用フィックス剤(C)は素材(A)に強力に固着している。
【0015】
また、珪藻土(D)も高分子ポリマー(B)と染料用フィックス剤(C)の結合物と固着し、間接的に上記素材(A)に固着している。
【0016】
ところで、上記高分子ポリマー(B)としては、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレンアクリル酸共重合体、ポリプロピレンなどが用いられる。
【0017】
また、上記染料用フィックス剤(C)としては、ダンフィックス303(日東紡:商品名)、ダンフィックス723(日東紡:商品名)、クインリーD−3(コタニ化学工業:商品名)などが用いられる。
【0018】
なお、珪藻土の量が多すぎるとインクを待ち受ける高分子ポリマー(B)の占有量が多くなり、本発明の特徴とする「堅牢性の良いインクの固着」の妨げとなる場合があるのでその点には留意する必要がある。
【0019】
図2は、上述した被印刷用素材にインクジェットプリンタで印字した場合における各要素の状態を模式的に示している。
【0020】
インクジェットプリンタの印字ヘッド(E)より噴射されたインク(F)の粒子(G)は、図3の珪藻土顕微鏡写真が示すように、珪藻土の特徴である多孔質で吸収性に富んだ性質により、瞬時に吸収・固着・乾燥が行われ、他の範囲へのインクの流動を止め、表面で大部分の染料及び顔料インクを保持するので、結果的ににじみがなく発色濃度の優れた印字結果となる。
【0021】
次に、上記の珪藻土を混合した被印刷用素材を製造するための製造方法について説明する。
【0022】
まず、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくはその代用品なる高分子ポリマーと、紙並びに布などの繊維構造物に固着しやすい素材に合った適選なる染料用フィックス剤を混合した成分を水100ml中に2%から30%(有効固形分1gから15g)分散させたものと同率配合した溶液を適量準備し、素材重量比50%を超えない範囲の適量の珪藻土を混ぜ合わせた塗剤水溶液を作成する。
【0023】
なお、上述した素材重量比50%を超えない範囲としたのは、素材重量比50%を超えると布や紙のような素材というよりは土に近いものになるからであり、特に好ましくは素材重量比20%を超えない範囲で珪藻土を混ぜ合わせるのがよい。また、高分子ポリマー等と染料用フィックス剤とを混合した溶液も水100ml中に3%から20%(有効固形分1.5gから10g)程度が好ましい。
【0024】
その後、上記塗剤水溶液を紙並びに布などの繊維構造物に例えば「漬け込み」または「吹き付け」などの手段によって塗布する。
【0025】
続いて、必要に応じて余分な混合塗剤水溶液をローラー挟み込み絞り装置(マングル)などであらかじめ取り除き、この状態で乾燥装置などを用い乾燥させる。
【0026】
この結果、高分子ポリマー(B)と染料用フィックス剤(C)の結合物が、それぞれ染料及び顔料インクと紙並びに布などの繊維構造物を強固に固着し、耐水性が強靭で、特に布などの繊維構造物では、財団法人日本繊維製品品質技術センターの染色堅牢度成績のJIS L0844−2洗濯試験において4級もしくは4−5級という結果を得ることができた。(試験番号04NR1990)
これにより、珪藻土並びに染料及び顔料インクが紙並びに布などの繊維構造物と固着され、珪藻土の持ち合わせる有用な機能である、カビの軽減、消臭効果、湿度調節などを長持ちさせ、且つ、近年注目される水性インクジェットを活用した、少ロット多品種な印刷を高品位で堅牢性の高い意匠性を兼ね備えた表現の出来る被印刷用素材を提供することができる。
【0027】
なお、繊維構造物が紙の場合は、紙そのものの製造過程において、基礎材料である「コウド」などに上記処方の混合塗剤水溶液を加えて洋紙並びに和紙を製造することも可能である。そのおり、「コウド」などの水分量を勘案し、同率の濃度を保って施工する必要がある。
【0028】
また、紙の場合は、紙そのものの製造過程において、基礎材料である「コウド」などに素材重量比20%を超えない範囲の適量の珪藻土を加え製造した紙の完成品に、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくはその代用品なる高分子ポリマーと、紙並びに布などの繊維構造物に固着しやすい素材に合った適選なる染料用フィックス剤を混合した水溶液を、「漬け込み」または「吹き付け」手段を用い付着させ、乾燥させたものも、ほとんど同様の効果が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の珪藻土を混合した被印刷用素材において各要素が固着している状態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の珪藻土を混合した被印刷用素材において各要素が固着している状態を模式的に示す図である。
【図3】珪藻土の顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
A 紙並びに布などの繊維構造物
B 高分子ポリマー
C 染料用フィックス剤
D 珪藻土
E インクジェットプリンタヘッド
F 染料・顔料インク
G 染料・顔料インクの粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙並びに布などの繊維構造物からなる素材に、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくは高分子ポリマーと、染料用フィックス剤と、珪藻土とを塗布してなることを特徴とする珪藻土を混合した被印刷用素材。
【請求項2】
紙並びに布などの繊維構造物からなる素材に、水系ポリウレタン樹脂または水系エチレン酢酸ビニル樹脂もしくは高分子ポリマーと、染料用フィックス剤とを混合した成分を水100ml中に2%から30%分散させた溶液に、上記素材の重量比50%を超えない範囲の適量の珪藻土を混ぜ合わせてなる塗剤水溶液を塗布し、この後に乾燥させることを特徴とする珪藻土を混合した被印刷用素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−111994(P2006−111994A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299030(P2004−299030)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(504382327)
【Fターム(参考)】