説明

珪酸塩ガラスの製造方法

【課題】 ガラス原料中のS量を制限しなくても、泡品位に優れた珪酸塩ガラス、特にLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの作製に用いられるLiO−Al−SiO系結晶性ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 S含有量をSO換算で15ppm以上含有するガラス原料を用いて珪酸塩ガラスを製造する珪酸塩ガラスの製造方法であって、平均粒径45〜180μmのSiO原料を使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸塩ガラスを製造する方法に関し、特にLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの作製に用いられるLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、珪酸塩ガラスとして種々のガラスが開発され、実用化されている。
【0003】
例えばLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、主結晶としてβ−石英固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧2])やβ−スポジュメン固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧4])を析出することから、膨張が極めて低く、また機械的強度が高いという特徴を有している。それゆえ優れた熱的特性を有している。また結晶化工程における熱処理条件を変更することによって析出結晶を変化させることができるため、同一組成の原ガラス(結晶性ガラス)から、β−石英固溶体が析出した透明な結晶化ガラスとβ−スポジュメン固溶体を析出させた白色不透明な結晶化ガラスの両方を製造することが可能であり、用途に応じて使い分けることができる。
【0004】
このような特徴を生かし、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、従来、石油ストーブや薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電磁調理器やガス調理器等のトッププレート用基板、防火戸用窓ガラス、液晶プロジェクタ等の投影機や照明の光源ランプに使用される反射鏡基材、電子部品やプラズマディスプレイパネルの熱処理用セッター、電子レンジ用棚板、電子部品や精密機械部品等多種多様な用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−228180号公報
【特許文献2】特開2004−67408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで高温粘性の高いガラスを製造する場合、高温で溶融する必要が生じる。例えば上記したような結晶化ガラスを製造する場合、その原ガラス(結晶性ガラス)の溶融温度は1600℃を超える高温となる。粘性が高いガラスは泡が浮上し難いことから、ガラス融液中の泡を除去しにくい。そこでAsやSbが清澄剤として広く使用されている。しかしながらAsやSbは毒性が強く、ガラスの製造工程や廃ガラス処理時等に環境を汚染する可能性がある。その解決策として、AsやSbの代わりにSnO、CeO、Cl等を使用することが検討されている。例えば特許文献1にはSnOとClを清澄剤として併用したLiO−Al−SiO系結晶化ガラスが開示されている。
【0007】
しかしながら、AsやSbの代わりにSnO、CeO、Cl等を清澄剤として用いても、必ずしも泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを得ることができないという問題がある。特に、この傾向は連続生産のタンク窯で生産する場合に顕著に起こる。ラボでるつぼを用いて静置した条件で溶融すると泡品位の良いものが得られるのに対して、連続生産のタンク窯に適用した場合に、良い泡品位のものが得られないことが多い。
【0008】
その原因は、ガラス原料から混入するS(硫黄)成分のリボイルにある。そこでガラス原料から混入するS成分を極力少なくすることが考えられる。ところが原料コストの低減や廃ガラスのリサイクルの容易性の観点からすれば、ガラス原料に含まれるS量を低減することは難しい。
【0009】
本発明の目的は、ガラス原料中のS量を制限することなく、連続生産のタンク窯を用いて泡品位に優れた珪酸塩ガラスの製造方法を提供することである。
【0010】
なお特許文献2には、無アルカリガラスの製造に使用するSiO原料の粒度が開示されているが、同文献ではS成分のリボイルを考慮したものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の珪酸塩ガラスの製造方法は、S含有量をSO換算で15ppm以上含有するガラス原料を用いて珪酸塩ガラスを製造する珪酸塩ガラスの製造方法であって、平均粒径45〜180μmのSiO原料を使用することを特徴とする。ここで「ガラス原料中に含まれるS含有量」は、分析試料をNaCOでアルカリ融解して浸漬し、濾紙にて濾過し、次いでその液をイオン交換樹脂で撹拌し、再び濾過した後、イオンクロマトグラフィーにて測定した値をSO換算したものである。またSiO原料の「平均粒径」とは、様々な大きさの目開きの篩を用いて篩下に通る割合を測定し、目開きと篩下の通る割合のグラフを作成し、そのグラフにおける50%量が通る目開きの大きさを意味する。
【0012】
上記構成によれば、ガラス原料中のS量を意図的に低減しなくても、泡品位に優れた珪酸塩ガラスを得ることができる。つまり初期の原料溶解段階でSiO原料が溶解し易くなり、S成分がガラス融液に溶け込み難くなる結果、S成分に起因するリボイルが発生し難くなる。
【0013】
本発明においては、平均粒径50〜150μmのSiO原料を使用することが好ましい。
【0014】
本発明においては、珪酸塩ガラスが、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスであることが好ましい。ここで「結晶性ガラス」とは、熱処理するとガラスマトリックス中から結晶を析出して結晶化ガラスとなる性質を有する非晶質のガラスを意味する。「LiO−Al−SiO系結晶性ガラス」とは、LiO、Al及びSiOを必須成分として含有し、熱処理するとβ−石英固溶体及び/又はβ−スポジュメン固溶体を主結晶として析出する性質を有する結晶性ガラスを意味する。
【0015】
上記構成を採用すれば、本発明の効果を的確に享受することができる。つまりガラス融液中には原料等から混入するS成分が不純物として含まれる。特にLiO原料として使用される炭酸リチウム(LiCO)には多量のS成分が不純物として含まれることがある。またLiO−Al−SiO系結晶性ガラスは、ガラス融液のS溶解度が低いことから、S成分が融液中で不安定な状態で存在する。そして僅かな状態の変化(例えば酸化還元、組成変化、温度変化)によってS成分が容易にガス化してしまう。それゆえ本発明方法を採用するメリットが大きい。
【0016】
本発明においては、珪酸塩ガラスが、質量百分率で、SiO 50〜80%、Al 12〜30%、LiO 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜5%、KO 0〜10%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜7%、P 0〜7%含有するLiO−Al−SiO系結晶性ガラスであることが好ましい。なお本明細書においては、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0017】
本発明においては、As及びSbの含有量が合量で0.1質量%以下となるようにガラス原料を調製することが好ましい。なお「As及びSbの含有量が合量で0.1質量%以下」とは、意図的に添加したAs原料やSb原料のみならず、不純物として混入するAs成分やSb成分も含めて合量で0.1質量%以下である、ということを意味している。
【0018】
LiO−Al−SiO系結晶性ガラスは、ガラス融液のS溶解度が低いことから、S成分が融液中で不安定な状態で存在する。そして僅かな状態の変化(例えば酸化還元、組成変化、温度変化)によってS成分が容易にガス化してしまう。ただしこのような条件下にあっても、清澄剤としてAsやSbを使用する場合には、これらの清澄剤成分から放出される多量の清澄ガスによってガラス融液中のS成分が除去され易い。また、AsやSbが融液中に存在すると、これらの清澄剤成分がS成分を酸化し、S成分をSO2−の状態でガラス融液中に安定して存在させる傾向がある。それゆえSO2−がSO(gas)+Oに分解し難く、ガス化を抑えることが容易になる。
【0019】
ところがAsやSb以外の清澄剤は、S成分をガラス融液から除去する効果やS成分をSO2−の状態でガラス融液中に安定して存在させる効果が小さい。その結果、S成分がガラス融液中からSOガス等となって発泡する、いわゆるリボイル現象が容易に起こる。この現象は、ラボでのるつぼ試験のような静置した状態で溶融する場合に比べて、連続生産のタンク窯では原料の投入条件や溶融条件の変動が大きく、また耐火物の溶出もあるため、ガラスの状態変化が起こりやすく、S成分によるリボイルが生じやすい。これは、珪酸塩ガラスをAsやSbを含まない状態で連続生産を行うことで顕著に明らかになった現象である。例えばSO換算で1ppmのS成分がガス化すると、数千〜数万個/kgの泡になると計算されるため、いかにしてS成分のリボイルを防ぐかが泡の少ないLiO−Al−SiO系結晶性ガラスを得る上で非常に重要となる。それゆえ本発明方法を採用するメリットが大きい。
【0020】
本発明においては、ガラス原料100質量%に対して、塩化物をCl換算で0.04〜0.3質量%添加することが好ましい。
【0021】
上記構成を採用すれば、ガラスを十分に清澄することが可能になる。
【0022】
本発明においては、SiO原料の平均粒径が60〜120μmであることが好ましい。
【0023】
本発明においては、タンク窯でガラスを溶融することが好ましい。
【0024】
上記構成を採用すれば、本発明の効果をより的確に享受することができる。つまりラボでのるつぼ試験のような静置した状態で溶融する場合に比べて、連続生産のタンク窯では原料の投入条件や溶融条件の変動が大きく、また耐火物の溶出もあるため、ガラスの状態変化が起こりやすく、S成分によるリボイルが生じやすくなり、良い泡品位の製品を得ることが困難である。それゆえ本発明方法を採用するメリットが大きい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の珪酸塩ガラスの製造方法は、珪酸塩ガラスを製造する方法である。珪酸塩ガラスとしては、LiO−Al−SiO系結晶性ガラス、無アルカリガラス等、SiOを含有するガラスであれば特に制限されないが、特に原料からS成分が混入し易く、しかもS成分の溶解度が低いLiO−Al−SiO系結晶性ガラスの製造に適用することが好ましい。
【0026】
以下の説明では、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスを製造する方法を用いて本発明を説明する。
【0027】
まず所望の組成となるようにガラス原料バッチを調製する。原料バッチとしては、得られるガラスが質量%で、例えばSiO 50〜80%、Al 12〜30%、LiO 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜5%、KO 0〜10%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜7%、P 0〜7%の組成を有するように調製することができる。
【0028】
このとき、SiO原料として、平均粒径45〜180μmのSiO原料を使用することが重要である。その理由を以下に説明する。
【0029】
LiO−Al−SiO系結晶性ガラスのような低S溶解度ガラスの場合、ガラス融液中のS量は原料が溶解する初期溶融の条件に影響を受ける。LiO−Al−SiO系結晶性ガラスにおける原料の溶解過程を詳細に解析すると、まずSiO成分の少ない初期融液が形成され、そこにSiO原料が溶解していく。ここでガラス融液を酸性度の視点で見ると、SiOは酸性度が高い成分であるため、SiO成分の少ない初期融液は酸性度が低く、SiO原料の溶け込みに伴って酸性度が上昇する。S成分はガラスの酸性度が低いほど融液に溶け込みやすいことから、初期融液の酸性度が低いほどS成分を多く含むガラス融液になり易いと考えられる。言い換えれば初期の原料溶解段階でSiOが溶解し易ければ、S成分がガラス融液に溶け込み難くなる結果、S成分に起因するリボイルが発生し難くなる。このような理由からSiO原料の粒度を小さくしてSiO原料の溶解を促進することが望ましい。
【0030】
具体的にはSiO原料は、平均粒径が180μm以下、好ましくは160μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下、特に好ましくは100μm以下のものを使用する。ただしSiO原料の粒度が小さすぎると、原料を投入したときに表面のみが輻射熱により素早く溶けて、内部のS成分が揮発逸散し難くなる。結果としてガラス融液のS量が低下しないという事態を招く。そこでSiO原料の溶解スピードが高くなりすぎないようにすることが好ましい。具体的にはSiO原料の平均粒径は45μm以上、50μm以上、特に60μm以上であることが好ましい。
【0031】
なお本発明においては、ガラス原料バッチ中に不純物として混入するS量を特に制限する必要がない。具体的にはS成分をSO換算で15ppm以上、20ppm以上、50ppm以上、さらには100ppm以上であってもよい。ガラス原料中のS量が多い程、原料コストを低減したり、廃ガラス等のリサイクルを容易にしたりする上で有利になる。ただしガラス原料中のS量が多くなりすぎると、ガラスに含まれるS量を少なくし難くなり、本発明方法においてS成分のリボイルを抑制することが困難になる。それゆえガラス原料中にS量は、SO換算で500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは150ppm以下に制限することが好ましい。
【0032】
また、ガラスを再利用するために原料に混ぜるカレットについて、特に制限する必要はない。ただし、カレットは溶解しやすいため、カレットが細かすぎると輻射熱により素早く溶けて内部のS成分が揮発逸散し難くなるため、カレットの平均粒径は1000μm以上であることが好ましい。
【0033】
またガラス組成を上記のように限定した理由を以下に示す。
【0034】
SiOはガラスの骨格を形成するとともに結晶を構成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは52〜77%、さらに好ましくは54〜75%である。SiOの含有量が少なすぎると熱膨張係数が大きくなり過ぎ、SiOの含有量が多すぎるとガラス溶融が困難になる。
【0035】
Alはガラスの骨格を形成するとともに結晶を構成する成分であり、その含有量は12〜30%、好ましくは13〜28%、さらに好ましくは14〜26%である。Alの含有量が少ないと化学的耐久性が低下し、またガラスが失透し易くなる。一方、Alの含有量が多すぎるとガラスの粘度が大きくなり過ぎてガラス溶融が困難になる。
【0036】
LiOは結晶構成成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘性を低下させる働きがある。またLiは溶融中で塩素と結合して比較的安定なLiClとなり、これが揮発し清澄ガスとして作用する。このためLiO−Al−SiO系結晶性ガラスにおいては、清澄剤としてClを単独で使用してもLiOを多量に含有させておくことにより、十分な清澄力を得ることが可能となる。LiOの含有量は1〜6%、好ましくは1.2〜5.5%、さらに好ましくは1.4〜5.0%である。特に、SnOやCeOなどの酸化物清澄剤を使用せず、清澄剤がCl単独の場合は、LiOを3%以上にすることが好ましい。LiOの含有量が少なすぎるとガラスの結晶性が弱くなり、熱膨張係数が大きくなり過ぎる。また透明結晶化ガラスとする場合には結晶物が白濁し易くなり、白色結晶化ガラスとする場合には白色度低下が起こりやすくなる。加えてCl単独での清澄が困難になる。一方、LiOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり過ぎて、ガラスが失透したり、準安定なβ−石英固溶体が得られなくなって結晶物が白濁したりして、透明結晶化ガラスを得ることができなくなる。
【0037】
MgOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜4.5%、さらに好ましくは0〜4%である。MgOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が多くなって不純物着色が強くなり過ぎる。
【0038】
ZnOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。ZnOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が多くなって不純物着色が強くなり過ぎる。
【0039】
またMgOとZnOの含有量は合量(合計量)で0〜10%、特に0〜8%、さらには0〜6%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると結晶物の着色が強くなりやすい。
【0040】
BaOの含有量は0〜8%、好ましくは0.3〜7%、さらに好ましくは0.5〜6%である。BaOの含有量が多すぎると結晶の析出を阻害するために十分な結晶量が得られず、熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0041】
NaOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜4%、さらに好ましくは0〜0.35%である。NaOの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0042】
Oの含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。KOの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0043】
またNaOとKOの含有量は合量(合計量)で0〜12%、特に0〜10%、さらには0〜8%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると熱膨張係数が大きくなりやすい。また透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0044】
TiOは核形成剤であり、その含有量は0〜8%、好ましくは0.3〜7%、さらに好ましくは0.5〜6%である。TiOの含有量が多すぎると不純物着色が著しくなる。
【0045】
ZrOは核形成剤であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0.5〜6%、さらに好ましくは1〜5%である。ZrOの含有量が多すぎるとガラス溶融が困難になるとともに、ガラスの失透性が強くなる。
【0046】
はガラスの結晶性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。Pの含有量が多すぎると熱膨張係数が大きくなり過ぎ、また透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0047】
本発明においては、ガラス組成として、上記以外にも種々の成分を添加することが可能である。例えばCaOを5%まで、Bを10%まで含有しても良い。また着色剤としては、例えばVを1.5%まで、好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.8%まで含有することができる。
【0048】
さらにガラス原料バッチに、必要に応じて塩化物を清澄剤として添加する。塩化物を添加する場合、その添加量はガラス原料バッチ100質量%に対して、Cl換算で、0.04〜0.3%、好ましくは0.08〜0.2%、さらに好ましくは0.1〜0.18%である。またCe化合物やSn化合物を添加してもよい。Ce化合物を添加する場合、その添加量はガラス原料バッチ中における含有量が、CeO換算で、0〜0.2%、好ましくは0〜0.15%、さらに好ましくは0〜0.1%となるようにする。Sn化合物を添加する場合、その添加量はガラス原料バッチ中における含有量が、SnO換算で、0〜0.6%、好ましくは0〜0.3%、さらに好ましくは0〜0.2%となるようにする。なおAs及びSbは毒性が強く、ガラスの製造工程や廃ガラス処理時等に環境を汚染する可能性があるため、不純物としての混入量も含めて合量で0.1質量%以下とすることが好ましい。特にAs及びSbは原料として意図的に添加しないことが望ましい。またガラスの着色が厳密に規制される用途では、Ce化合物の添加は避けるべきである。また、Sn化合物の添加量も例えば0.5%以下にするなど使用量を制限した方が良い。
【0049】
次にガラス原料を均質に混合した後、溶融設備、特に連続生産可能なタンク窯にて溶融する。溶融条件は、上記組成のガラスの場合、最高温度1600〜1800℃で20〜200時間程度であることが好ましい。
【0050】
続いてガラス融液を所望の形状に成形し、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスを得る。成形方法としてはロール成形、プレス成形、フロート成形等、種々の方法を採用することができる。
【0051】
このようにして原料中のS含有量を低減しなくても、泡品位に優れた珪酸塩ガラス(上述の例ではLiO−Al−SiO系結晶性ガラス)を得ることができる。
【0052】
なお得られたLiO−Al−SiO系結晶性ガラスは、その後に結晶化のための熱処理を施し、切断、研磨、曲げ加工、延伸成形等の後加工を施したり、表面に絵付けを施したりして種々の用途に供される。なお熱処理は、700〜800℃で1〜4時間保持して核形成を行い、透明な結晶化ガラスとする場合は800〜950℃で0.5〜3時間熱処理してβ−石英固溶体を析出させる。また白色不透明な結晶化ガラスとする場合は核形成後に1050〜1250℃で0.5〜2時間熱処理してβ−スポジュメン固溶体を析出させればよい。
【0053】
珪酸塩ガラス中のS量を一層低下させ、さらにリボイルを起こりにくくする手段として、(1)Cl存在下でガラス融液中の水分量を増大させる方法、(2)バッチ溶解温度を最適化する方法、(3)溶融効率を最適化する方法等を採用することができる。これらの方法を適宜組み合わせることにより、よりS含有量が少なく、リボイルし難い珪酸塩ガラスを得ることが可能となる。以下に各方法について詳述する。
【0054】
(1)ガラス融液中の水分量を調節する方法
本発明者等の調査では、S溶解度の低いLiO−Al−SiO系結晶性ガラスは、S溶解度の高いソーダ石灰ガラス等と異なり、単純に水分量を増加させてもガラス融液中のS含有量を低減することができない。ところがガラス融液中にClが存在していれば、S含有量を著しく低下させることができる。この機構の詳細は不明であるが、水分とClが共存するとHClガスが発生し、そのガス発生に伴いS成分が揮発してガラス融液中のS含有量が低下すると考えられる。ガラス融液中の水分量が多いほどS量の低減効果が高くなる。ガラス融液中の水分量を増加させるには、含水量の高い原料を使用する、ガラス溶融の際の燃焼ガス中の水分量を増加させる、溶融ガラス中で水蒸気バブリングする等の方法を採用することができる。またガラス融液の水分量は、ガラスのβ−OH値で表すことができる。具体的には、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスの場合、結晶化後のβ−OHが0.2/mm以上、特に0.3/mm以上、さらには0.35/mm以上であることが好ましい。なおβ−OH値とは、以下の式により算出される値である。
【0055】
β−OH値(/mm)={log(T3850/T3500)}/t
T3850: 3850cm−1の透過率
T3500: 3500cm−1付近の吸収帯の最低透過率
t: 試料の板厚(mm)
【0056】
(2)バッチ溶解の温度を最適化する方法
バッチ溶解温度をlogη=2.3〜3.0となる温度、特にlogη=2.3〜2.9となる温度、さらにはlogη=2.4〜2.9となる温度に設定することが望ましい。ここでηはdPa・sである。バッチ溶解温度が高いと、バッチが溶けやすい状態となり、原料を投入したときに表面のみが輻射熱により素早く溶けて、内部のS成分が揮発逸散し難くなる。一方、バッチ溶解温度が低いとSiO原料が溶けにくくなることから、酸性度の低い初期融液が形成され、S含有量が多くなりやすい。なおバッチ溶解温度は、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料バッチ付近の側壁を、放射温度計を用いて測定することができる。
【0057】
(3)溶融効率を最適化する方法
溶融時間を長くすれば、ガラス融液中の未清澄泡を除去することが可能になる。またS量を低減することができる。ただし長時間の溶融は生産性を低下させ、安価なガラスを提供することが難しくなる。また溶融時間が長くなりすぎると、揮発によってガラス表面に異質層が形成されやすくなる。既述の通り、S溶解度の低いガラスでは組成変化といった僅かな状態の変化によってS成分が容易にガス化する。このような事情から、溶融時間を適切に管理することが望ましい。溶融時間の指標として、溶融効率(溶融面積/流量)を採用することができる。具体的には、溶融効率は1.0〜5.0m/(t/day)、特に1.5〜4.5m/(t/day)であることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明する。
【0059】
表1は本発明の実施例(試料No.2、3)及び比較例(試料No.1、4)を示している。
【0060】
【表1】

【0061】
各試料は次のようにして調製した。
【0062】
まず質量百分率でSiO 67%、Al 23%、LiO 4%、BaO 1.5%、NaO 0.5%、TiO 2%、ZrO 2%の組成となるように、珪砂、アルミナ、炭酸リチウム、硝酸バリウム、硝酸ソーダ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等を調合し、さらにNaClをClで0.2質量%含まれるようにして均一に混合した。このときSiO原料として、表に示す平均粒径の原料を使用した。
【0063】
次に、この原料バッチを酸素燃焼による耐火物窯(連続生産用タンク窯)に入れ、溶解効率2.5m/(t/day)で溶解した。次いで白金のスターラーによりガラス融液を攪拌した後、4mmの厚さにロール成形し、さらに徐冷炉内で室温まで冷却した。
【0064】
その後、所定の長さに切断して得られた結晶性ガラス試料について、リボイルの有無を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
表から明らかなように、平均粒径が45〜180μmの範囲内にあるSiO原料を用いたNo.2、3はリボイルが発生しなかった。
【0066】
なお原料中及びガラス中のSO量は、分析試料をNaCOでアルカリ融解して浸漬し、濾紙にて濾過し、次いでその液をイオン交換樹脂で撹拌し、再び濾過した後、イオンクロマトグラフィーにて測定することにより求めた値である。
【0067】
リボイルの有無は、白金スターラーによる攪拌前に採取したガラスと成形後のガラスの泡数をそれぞれkgあたりの泡となった個数に換算し、成形後のガラスの泡数が攪拌前のガラスに発生した泡数の2倍以上の場合にリボイルが生じていると判断した。
【0068】
続いて結晶性ガラス試料を電気炉に入れ、各々次に述べる2つのスケジュールで熱処理を行って結晶化した後、炉冷した。
【0069】
(1)核形成:780℃−2時間 → 結晶成長:900℃−3時間
(2)核形成:780℃−2時間 → 結晶成長:1160℃−1時間
なお昇温速度は、室温から核形成温度までを300℃/h、核形成温度から結晶成長温度までを100〜200℃/hとした。
【0070】
得られた各試料について、主結晶及び外観について評価した。その結果、何れの試料も、スケジュール(1)で熱処理した時は、β−石英固溶体を主結晶として析出する透明な結晶化ガラスが得られた。スケジュール(2)で熱処理した時は、β−スポジュメン固溶体を主結晶として析出する白色不透明な結晶化ガラスが得られた。
【0071】
なお主結晶はX線回折装置を用いて評価した。
【0072】
外観は目視にて観察した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の方法により作製されるLiO−Al−SiO系結晶性ガラスは、結晶化することによって種々の用途に利用することができる。具体的には石油ストーブや薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電磁調理器やガス調理器等のトッププレート用基板、防火戸用窓ガラス、液晶プロジェクタ等の投影機や照明の光源ランプに使用される反射鏡基材、電子部品やプラズマディスプレイパネルの熱処理用セッター、電子レンジ用棚板、電子部品や精密機械部品等を例示することができる。
【0074】
また本発明の方法は、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスに限らず、例えば液晶ディスプレイ基板として使用される無アルカリガラス等の製造方法としても適用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
S含有量をSO換算で15ppm以上含有するガラス原料を用いて珪酸塩ガラスを製造する珪酸塩ガラスの製造方法であって、平均粒径45〜180μmのSiO原料を使用することを特徴とする珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項2】
平均粒径50〜150μmのSiO原料を使用することを特徴とする請求項1に記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項3】
珪酸塩ガラスが、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項4】
珪酸塩ガラスが、質量百分率で、SiO 50〜80%、Al 12〜30%、LiO 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜5%、KO 0〜10%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜7%、P 0〜7%含有するLiO−Al−SiO系結晶性ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項5】
As及びSbの含有量が合量で0.1質量%以下となるようにガラス原料を調製することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項6】
ガラス原料100質量%に対して、塩化物をCl換算で0.04〜0.3質量%添加することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項7】
SiO原料の平均粒径が60〜120μmであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項8】
タンク窯でガラスを溶融することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の珪酸塩ガラスの製造方法。


【公開番号】特開2012−36075(P2012−36075A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118597(P2011−118597)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】