説明

球形タンク脚部の補強構造と補強方法

【課題】 球形タンクを支持する支柱下部の基礎の外周に、環状枠材と傾斜材と水平材を組合せた構造体を形成し、基礎近傍に荷重が集中することなく損傷を生じないように補強支持して、地震や強風などによる振動や揺れによる変位を抑えて、耐久性と耐震性をより向上させた球形タンクの脚部補強構造と補強方法を提供する。【解決手段】 基版の基礎から垂直に設置し球形タンクの外周下部を垂直に支承する支柱に対して、該支柱の基礎の近傍に隔離して設けた環状の支持枠と、該支持枠から上記支柱にわたって設けた傾斜材と、上記支持枠から上記基礎に渡した水平材と、上記傾斜材と上記支柱とを連結する水平梁材とで一体剛構造に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮ガス、液化ガス等を貯蔵する球形タンクの脚部の補強構造と補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球形タンクを支持する脚部の構造について、図5に基づいて説明する。 図5に示すように、球形タンク21は、地面の基版22上の隔離した複数の基礎23から地上に高く垂直に設けた複数本の円筒状の支柱25によって支持され、この独立した支柱25の相互間には傾斜し交差させて設けた斜材のブレーシング28が設けられている。この円筒状の支柱25の上端部26は、球形タンク21の球殻外壁面24の赤道部近傍の固着部27の位置に、溶接によって一体に固着されている。
【0003】
球形タンクの耐震性を向上させた従来発明として、例えば、特開平9−156688号公報「球形タンクの支持構造」に開示されている。この発明は、球形タンク1を複数の支持脚2で支持し、この複数の支持脚2に接する環状の帯板10を配置しかつ固定して耐震性を向上するようにしたものである。
【0004】
また、球形貯槽1の支承部の耐震性を向上させた発明としては、本出願人に係る特開2001−180797号公報「貯槽の支持構造」の発明がある。この発明は、一体架構の剛構造の支持枠体4の上に、球形貯槽1の湾曲した底部外壁面3を固着することなく、摺動可能に接触させた状態で支承するようにした支持構造である。
【0005】
【特許文献1】特開平9−156688号
【特許文献2】特開2001−180797号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5のような球形タンク21の支柱25の上端部26は、地面の基版22上の基礎23から高い位置の固着部27で、球形タンク21の赤道部近傍に至る湾曲した球殻外壁面24に溶接で固着する構造である。そのため、垂直方向の自重は十分支持することができるが、地震などによる基版22の振動は、各基礎23に個別に伝わり、また強風や地震などによる球形タンク21の揺れは、固着部27から支柱25上端部26を介して基礎23に個別に伝わるため、この振動と揺れの荷重集中によって、一部の支柱25の基礎23に変形や損傷を生じる場合があった。このように複数の隔離した基礎23上に、長い円筒状の支柱25が独立して設けられているために、地震や強風などによる大きな振動や揺れに対して、各支柱25の応答挙動がバラバラとなり、荷重に偏りと集中が生じ易くなって、一部の支柱25の基礎23に大きな変形や損傷などの被害を受けることがあった。 この大きく変形し損傷した球形タンク21の支柱25及び基礎23を、後から大幅に補強することは大変であり、部分的な補強によって十分な強度が得られるように修理することは困難であった。
【0007】
また、球形タンクの耐震性を向上させた特開平9−156688号公報に開示された従来発明の「球形タンクの支持構造」は、球形タンク1を複数の支持脚2で支持し、この複数の支持脚2に接する環状の帯板10を配置しかつ固定したもので、球形タンク1の水平方向の揺れを減衰する制震性能には優れている。しかしながら、長周期の振動や大きな横揺れなどは各支柱25の基礎23へ伝わって変形や損傷を生じる心配があった。
【0008】
さらに、本出願人に係る発明、特開2001−180797号公報「貯槽の支持構造」に開示された発明の支持構造は、一体架構の剛構造の支持枠体4の上に、球形貯槽1の湾曲した底部外壁面3を固着することなく摺動可能に接触させた状態で支承するようにした支持構造である。しかしながら、このような支承する支持構造は、隔離し独立した支柱を補強する構造とは本質的に異なるもので、球殻より外側下部に相当する位置から斜めに各支柱を補強する構造ではなく、独立した支柱よりなる脚部の補強構造としては充分ではなかった。
【0009】
この発明の目的は、上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、球形タンクを支持する支柱下部の基礎の外周に、環状枠材と傾斜材と水平材を組合せた構造体を形成し、基礎近傍に荷重が集中することなく損傷を生じないように補強支持して、地震や強風などによる振動や揺れによる変位を抑えて、耐久性と耐震性をより向上させた球形タンクの脚部補強構造と補強方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る球形タンク脚部の補強構造は、基版の基礎から垂直に設置し球形タンクの外周下部を垂直に支承する支柱に対して、該支柱の基礎の近傍に隔離して設けた環状の支持枠と、該支持枠から上記支柱にわたって設けた傾斜材と、上記支持枠から上記基礎に渡した水平材と、上記傾斜材と上記支柱とを連結する水平梁材とで一体剛構造に形成したものである。
【0011】
請求項2の発明に係る球形タンク脚部の補強方法は、地震等で支柱の位置がずれた既設の球形タンクについて、支柱の基礎近傍の基版上に所定間隔をおいて支持枠を配置し環状の多角形に組み立て、続いて支持枠と各基礎の間に水平材を渡し固着して環状の支持枠と基礎とを一体構造とし、次いで位置がずれた支柱を、上記支持枠を利用しジャッキ等の治工具を用いて、基礎上の所定位置に移動修正し、続いて環状多角形の支持枠から支柱に傾斜材を掛け渡し固着し、さらに補強斜材と支柱の間に水平梁材を渡し固着するもので、順次上記と同様に、対向或いは隣接する支柱について基礎上の所定位置に移動修正し、さらに同様に傾斜材と水平梁材をそれぞれ掛け渡して固着し、全体を一体剛構造に組み立て、さらに基礎が損傷している場合には基礎に新しいグラウト材などを施工して補修及び補強を行うものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る球形タンク脚部の補強構造は、基版の基礎から垂直に設置し球形タンクの外周下部を垂直に支承する支柱に対して、該支柱の基礎の近傍に隔離して設けた環状の支持枠と、該支持枠から上記支柱にわたって設けた傾斜材と、上記支持枠から上記基礎に渡した水平材と、上記傾斜材と上記支柱とを連結する水平梁材とで一体剛構造に形成したしたので、地震や強風などによる振動や揺れに対して、一体の補強構造体が支えるため、支柱下部の基礎に荷重が集中することなく、かつ補強構造体により変位や振動などを吸収緩和するので、局部的に基礎が損傷し破損する心配がなく、垂直荷重及び水平荷重に対して、耐久性及び耐震性に優れた脚部の補強構造となる。
【0013】
請求項2の発明に係る球形タンク脚部の補強方法は、地震等で支柱の位置がずれた既設の球形タンクについて、支柱の基礎近傍の基版上に所定間隔をおいて支持枠を配置し環状の多角形に組み立て、続いて支持枠と各基礎の間に水平材を渡し固着して環状の支持枠と基礎とを一体構造とし、次いで位置がずれた支柱を、上記支持枠を利用しジャッキ等の治工具を用いて、基礎上の所定位置に移動修正し、続いて環状多角形の支持枠から支柱に傾斜材を掛け渡し固着し、さらに補強斜材と支柱の間に水平梁材を渡し固着して補強するので、位置ずれした支柱の修正には、従来、大掛かりな仮設機材を要していたが、上記のように補強部材である支持枠と水平材を一体とし、この水平材は各基礎と固持しているので、環状の支持枠は剛性を持ち、位置ずれした支柱に対し支持枠を介してジャッキ等の治具で大きな力を与えて移動することができるため、作業が簡単容易、短時間に、簡単な機材で支柱の修正を行うことが出来る。また、補強材の設置の際に、基版上での位置決めと基礎及び支柱への取付け作業が容易で、組立てや溶接作業などに手間を要することなく、短時間で作業能率良く脚部の補強と基礎の補修を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係る球形タンク脚部の補強構造を、図1乃至図4に基づいて説明する。 図1は、球形タンクの脚部の補強構造の実施形態例で、全体の斜視説明図を示す。図2は、図1の支柱部分を拡大して示す側面図である。
【0015】
球形タンク1は、地面の基版2上に隔離して設けた複数の基礎3から地上に垂直に設置した複数本の支柱5によって球殻4の外周を支えられている。図1に示す事例は、6本の支柱5の場合であるが、球形タンク1の規模に応じて8本、10本などの複数本の場合についても同様に、以下詳述する補強構造を適用することができる。 球形タンク1の脚部の補強構造について、図1に基づいて説明する。支柱5の基礎3から外周に隔離して、水平に環状の支持枠6を基版2上に設ける。この支持枠6は、図1に示すように支柱5の本数6に応じた平面正六角形の平面多角形状で、一体剛構造の環状体に形成する。この支持枠6の正六角形の頂点に相当する位置の上端面から支柱5にわたって傾斜させて支える傾斜材7を設け、また支持枠6から基版2上に沿って基礎3の端縁に渡した水平材8を設け、さらに上方位置に平行させて傾斜材7と支柱5とを連結する水平梁材9を設けて、これらの補強材全体を一体構造に形成する。なお、上記した図1の事例は、支柱の本数に応じた平面多角形状の環状体に形成する場合を示したが、支柱の本数と異なる多角形、或いは円形の環状体であっても良い。また、図1の事例は、支柱の外周に隔離して環状の支持枠を設けた場合を示したが、球形タンクの規模や周囲の状況に応じて、支柱の基礎の内周に隔離して環状の支持枠を設けて支持するようにしても良く、或いは支柱の基礎間に支持枠を設けて一体環状に接続して補強するようにしても良い。
【0016】
図2に基づいて、図1に示す脚部の補強構造についてさらに詳述する。支持枠6は、図2に断面を示すような断面H型鋼材などを用いて、基版2上の基礎3から外方に隔離して平面多角形状で一体剛構造の環状体に配置する。この支持枠6の多角形の頂点近傍の上端面から、対向する支柱5の上部にわたって傾斜させて支える傾斜材7を設ける。また、上記支持枠6から対向する基礎3の端縁に水平に渡した水平材8を設け、さらに傾斜材7と支柱5とを水平に連結する水平梁材9を設ける。
【0017】
上記した支持枠6、傾斜材7、及び水平材8などの補強部材は、例えば型鋼材、矩形鋼材、パイプ材等を適宜用いることができ、これらの部材を組立て連結して一体架構の剛構造に形成する。このように、一体架構の剛構造に形成した補強構造体は、作業性良く組立て施工することができる。
【0018】
図3は、図2のX部で、支柱5と傾斜材7との固着部を示す。傾斜材7の端縁には係合材10を設けて、断面円形の支柱5と密着させて接合するように形成した場合を示す。この係合材10は、支柱5の円柱の表面に密着するように、湾曲面に切り欠いた平面板部材、10A,10Bとする。 このように、補強斜材7の端縁の接合部材として、係合材10,10A,10Bを用いた場合には、支柱5に対して傾斜材7の傾斜角度と位置決めがし易くなる。なお、傾斜材7を直接、支柱5に固着する場合には、傾斜材7の端縁が密着するように略楕円形に加工して、溶接にて頑強に固着するように配慮する。
【0019】
図4は、図2のY部で、基礎3近傍の補強状況を示す。 13は支柱5の下端面を固着する鋼板などのアンカープレート、14はアンカープレート13を基礎3に固定するためのアンカーボルトである。基礎3の補強部材として、11は基礎3の端縁に設ける平板鋼材などの押え部材で、補強水平材8の端縁を固着するための部材である。12は基礎2の割れや損傷部を被覆して補修するノンシュリンクモルタルなどのグラウト材である。15はアンカープレート13の下端縁の隙間を埋める充填材である。 風雨や温度変化、地震などで基礎3部材が劣化し損傷などしないように、上記補強部材を使用して保護し支柱5及び基礎3の耐久性向上を図ることができる。
【0020】
上述のように、支柱5の基礎3から外周に隔離して設けた環状の支持枠6を設け、この支持枠6の上端面から上記支柱5にわたって傾斜させて支える傾斜材7を設け、支持枠6から上記基礎3に渡した水平
材8と、傾斜材7と支柱5とを連結する水平梁材9を設けて一体架構の剛構造に形成することにより、地震や強風などによる振動や揺れに対して、特定の支柱5及び基礎3に荷重が集中することなく、かつ局部的に損傷や破損を生じる心配がなく、垂直荷重及び水平荷重に対して、耐久性に優れた補強構造となる。よって、長周期の振動、大きな揺れなどの動きを生じる地震や強風などに対して一層強い構造となり、球形タンクの脚部の耐久性と安全性をより向上させることができる。
【0021】
また、この発明に係る球形タンク脚部の補強方法について説明する。 既設の球形タンク1の脚部を補強する場合には、先ず、支柱5の基礎3の外周地面の基版2の上に所定間隔をおいて支持枠6を配置し、溶接やボルト・ナット止め等にて環状の多角形に組み立てる。次いで、環状多角形の支持枠6の頂点近傍の上端面から支柱5の上部にわたって傾斜材7を掛け渡して取付け、支持枠6と基礎3の間に水平材8を渡し、傾斜材7と支柱5の間に水平梁材9を渡して溶接にて一体剛構造に組み立てる。
【0022】
地震等で支柱5の位置がずれて基礎3が損傷した既設の球形タンクについて、支柱5を所定の位置へ移動し基礎3を補修して脚部を補強する手順の事例を、以下に詳述する。(1)支柱5の基礎3の外周地面の基版2の上に所定間隔をおいて支持枠6を配置し、溶接等にて環状の多角形に組み立てる。(2)支持枠6と各基礎3の間に水平材8を渡して両端を固着保持し、上記環状の支持枠6に剛性をもたせた一体構造とする。(3)地震などによって位置がずれた支柱5を、上記支持枠6を支えに使用し、ジャッキやチェーンブロック等の治工具で押圧し、或いは引張って、支柱5の下端を基礎3上の所定位置に移動し修正する。(4)環状多角形の支持枠6の頂点近傍の上端面から、支柱5の上部にわたって傾斜材7を斜めに掛け渡して、その両端を溶接により固着する。(5)傾斜材7と支柱5の間に、水平梁材9を水平に渡してその両端を溶接にて固着する。(6)対向、或いは隣接する支柱5について、順次、(3)と同様に基礎3上の所定位置に移動修正し、(4)と同様に傾斜材7を掛け渡して両端を固着し、(5)と同様に水平梁材9を渡し両端を固着して全体を一体剛構造に組み立てる。(7)損傷した基礎3に、新しいアンカーボルト、グラウト材やモルタルなどを施工して補修する。
【0023】
上述のように、既設の球形タンクの脚部を補強する方法は、従来のように既設の各支柱5と基礎3を個別に補修するのではなく、また大掛かりな仮設機材を要することなく、上記のように補強部材である支持枠6と水平材8を一体とし、この水平材8は各基礎3と固持しているので、環状の支持枠6は剛性を持ち、位置ずれした支柱5に対して、安定した支持枠6を支えにして、ジャッキやチェーンブロック、ワイヤロープ等の治工具を用いて、大きな力を与えて押圧し、或いは引張ることができるため、作業が簡単容易、かつ短時間に、簡単な機材で支柱の修正を行うことが可能となる。また、上記手順で作業性良く既設の支柱5及び基礎3を修正して補強するので、繁雑で手間を要する作業がなく、また、補強材の配置と組立ての際に、位置決め及び設置作業が容易で、溶接作業などに手間を要することなく、短時間で作業能率良く一体剛構造に補強することができる。
【0024】
さらに、図示はしないが、基礎3にかかる垂直方向及び水平方向の振動、変位、荷重などを吸収緩和するように、各部材の接続部に緩衝部材を設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
球形タンクにおける新設の脚部の補強構造、或いは既設の脚部の補強構造、並びに既設の脚部が損傷した場合の補修及び補強に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係る球形タンクの脚部の補強構造の実施形態例を示す斜視説明図である。
【図2】図1の脚部の補強構造における一つの支柱近傍を拡大して示す側断面説明図である。
【図3】図2のX部、支柱と傾斜材の取付け部を拡大して示す斜視説明図である。
【図4】図2のY部、支柱の基礎の部分を拡大して示す斜視説明図である。
【図5】従来の球形タンクの支持構造を示す側面説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 球形タンク 2 基版 3 基礎 4 球殻 5 支柱 6 支持枠 7 傾斜材 8 水平材9 水平梁材10,10A,10B 係合材 11 押え部材12 グラウト材13 アンカープレート14 アンカーボルト15 充填材 21 球形タンク22 基版23 基礎24 外壁面25 支柱26 上端部27 固着部28 ブレーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基版の基礎から垂直に設置し球形タンクの外周下部を垂直に支承する支柱に対して、該支柱の基礎の近傍に隔離して設けた環状の支持枠と、該支持枠から上記支柱にわたって設けた傾斜材と、上記支持枠から上記基礎に渡した水平材と、上記傾斜材と上記支柱とを連結する水平梁材とで一体剛構造に形成したことを特徴とする球形タンク脚部の補強構造。
【請求項2】
地震等で支柱の位置がずれた既設の球形タンクについて、支柱の基礎近傍の基版上に所定間隔をおいて支持枠を配置し環状の多角形に組み立て、続いて支持枠と各基礎の間に水平材を渡し固着して環状の支持枠と基礎とを一体構造とし、次いで位置がずれた支柱を、上記支持枠を利用しジャッキ等の治工具を用いて、基礎上の所定位置に移動修正し、続いて環状多角形の支持枠から支柱に傾斜材を掛け渡し固着し、さらに補強斜材と支柱の間に水平梁材を渡し固着して補強することを特徴とする球形タンク脚部の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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