説明

球形素顆粒の製造方法

【課題】水易溶性薬物を含有するフィルムコーティング顆粒の効率的な製造技術を提供すること。
【解決手段】特定の形状分布と物性を有する球状核粒子を使用し、内部保持法によって薬物含有球形素顆粒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を含有する球形素顆粒の製造方法に関する。特に、球状核粒子の内部に薬物を吸着させる内部保持法による球形素顆粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品固形製剤は副作用の低減、服用回数の低減、薬物の効果向上、苦味の抑制、薬物の安定化等を目的として、徐放性、腸溶性、苦味マスク、等のフィルムコーティングを施す場合がある。フィルムコーティングに供されるのに適した剤形の一つとして、球形の顆粒がある。このような顆粒を球形素顆粒という。
【0003】
球形素顆粒の製造方法としては、薬物と賦形剤を原料として押出造粒した後、球形化する方法(押出−マルメ法)や、球状核粒子の表面を薬物含有層で被覆する方法(レイヤリング法)など(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかし、いずれの方法も、水や薬物水溶液(あるいは薬物懸濁液)の添加量や添加のタイミング(速度)、撹拌条件、乾燥条件など、調節しなければならないパラメータが多くあり、操作が複雑である。
【0004】
また、球形素顆粒の製造方法として、球状核粒子の内部に薬物を保持する方法(内部保持法)も知られている。この方法は、薬物水溶液を核粒子に加え、吸収させた後、乾燥するだけなので、操作がきわめて簡単である。
【0005】
ところで、球形素顆粒は真球であることが望ましい。球形素顆粒の真球度が低いと、フィルムコーティングを施した場合に個々の粒子間でフィルムの厚みに差が出るからである。特に徐放性フィルムの場合、精緻な溶出制御を求めるので、球形素顆粒の真球度は重要である。
【0006】
しかし、前述の内部保持法で得られた球形素顆粒は、レイヤリング法ならば薬物含有層で球状核粒子の周囲を被覆する過程で、球形化が進むところ、この方法では、球状核粒子の形がほぼ維持されたまま球形素顆粒(被フィルムコーティング顆粒)となるため、真球度が低いのが現状である。
【0007】
球形素顆粒の真球度を上げるために真球度の高い球状核粒子を用いることも知られている。例えば、真球度が1.1、保水性(吸水率)が110%の球状核粒子に、薬物水溶液を吸収させることが知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。しかし、現実には、球状核粒子を真球とすることは不可能である。
そのため、操作が簡単で、フィルムコーティングに適した形状の顆粒が製造できる球形素顆粒の製造方法が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−301816号公報
【特許文献2】特開平9−165329号公報
【非特許文献1】柳沼、日高、宮本、「結晶セルロース製球状核「セルフィア」の球形細粒剤への応用」、第10回製剤と粒子設計シンポジウム講演要旨集、粉体工学会・製剤と粒子設計部会、平成5年10月、p22−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、操作が簡単で、フィルムコーティングに適した形状の球形素顆粒を製造できる球形素顆粒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果特定の形状を有する球状核粒子を用いて内部保持法により製造した球形素顆粒が、フィルムコーティングの製造に適していることを見出した。
具体的には、内部保持法により製造した球形素顆粒に均一なフィルムコーティングを可能とするためには、球状核粒子の真球度、粒度分布に加え、短長径比分布が重要な因子であること、および、真球度が多少低く、粒度分布が単分散とはいえない場合であっても、短長径比分布係数を高くすることにより均一なフィルムコーティングが可能となることを見出した。
【0011】
さらに、内部保持法により製造した球形素顆粒をフィルムコーティングする際の凝集についても検討したところ、フィルムコーティング時の凝集は球状核粒子の保水性を調整することにより抑制できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は下記の通りである。
薬学的に不活性な球状核粒子の内部に薬物水溶液を吸着させる球形素顆粒の製造方法であって、
前記球状核粒子が、平均短長径比が0.8以上、短長径比分布係数が0.7以上、短径分布係数が0.6以上であり、
前記球状核粒子の摩損度が1%以下であり、
前記球状核粒子の保水性が、0.5cm3/g以上である
球形素顆粒の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な操作で、精緻な溶出制御を可能とするフィルムコーティング顆粒を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明で使用される球状核粒子について説明する。
球状核粒子は、薬学的に不活性である。すなわち、薬物を含まない。
ここで、「薬物」とは、人または動物の疾病の治療、予防、診断に使用されるものであって、器具・機械ではないものをいう。
【0015】
また、球状核粒子は、結晶セルロース30質量%以上を含有することが好ましい。
ここで、「結晶セルロース」とは、第十四改正日本薬局方の「結晶セルロース」の規格に適合するものを意味する。
結晶セルロースが30質量%未満であると、球状にすることが困難であり、また、強度が低下する。より好ましくは結晶セルロースが70質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0016】
そして、球状核粒子は、その他の医薬品添加物を含んでもよい。その他の医薬品添加物としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウムなどの賦形剤;低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチなどの崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、キサンタンガムなどの結合剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマーLD、エチルセルロース水分散液、などのコーティング剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート60などの乳化剤;タルク、ステアリン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース・カルメロースナトリウムなどのその他の添加物等、が挙げられる。
【0017】
水溶性の医薬品添加物の配合は、薬物吸着時の粒子の凝集を増やすので、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0018】
本発明においては、薬物は球状核粒子の内部にほぼ全量が担持されるので、球状核粒子の形状がそのままフィルムコーティングに供される球形素顆粒の形状となる。
【0019】
したがって、本発明で使用される球状核粒子の形状は「球状」で、かつ、「均一」であることが必要である。これによって、精緻な徐放性フィルムコーティングが可能となり、また、最低限のフィルムで苦味マスキングを達成することができる。
【0020】
本発明において、球状核粒子の平均短長径比とは、以下の式で表される値である。
平均短長径比=[D/L]50
ここで、[D/L]50は粒子の短長径比を最小値側から積算したときの積算分布における積算50%の値を意味する。
平均短長径比は、0.8以上である必要がある。好ましくは0.85以上、より好ましくは0.9以上である。理論上の最大値は1であり、均一なフィルムにコーティングを施すという観点からは1に近いほど好ましい。
【0021】
本発明において、球状核粒子の短長径比分布係数とは、以下の式で表される値である。
短長径比分布係数=[D/L]10/[D/L]90
ここで、[D/L]10は短長径比を最小値側から積算したときの積算分布における積算10%の値であり、[D/L]90は積算90%の値を意味する。)
短長径比分布係数は、0.7以上である必要がある。好ましくは0.75以上、より好ましくは0.8以上である。理論上の最大値は1であり、1に近いほど好ましい。
短長径比分布係数を0.7以上とすることにより、短径分布係数や平均短長径比が、それぞれ、0.6〜0.7、0.8〜0.9程度の比較的低い値である場合にも、精緻な徐放性フィルムコーティングが可能となり、また、最低限のフィルムで苦味マスキングを達成することができる。
【0022】
本発明において、球状核粒子の短径分布係数とは、以下の式で表される値である。
短径分布係数=D10/D90
ここで、D10は短径の篩下積算分布における積算10%の値であり、D90は積算90%の値を意味する。
短径分布係数は、0.6以上でなければならない。好ましくは0.65以上、より好ましくは0.7以上である。理論上の最大値は1であり、均一なフィルムにコーティングを施すという観点からは1に近いほど好ましい。
【0023】
球形素顆粒の大きさは、平均短径(D50)が50〜1000μm程度であることが好ましい。
ここで、本発明において、平均短径とは、短径の篩下積算分布における積算積算50%粒子径を「D50」を意味する。
【0024】
球状核粒子の保水性は0.5cm3/g以上である。球状核粒子の保水性が小さすぎると、そもそも内部保持法を適用することが困難であるし、球状核粒子に担持できる薬物の量も少なくなるので実用的でない。このような観点から、球状核粒子の保水性は、0.5cm3/g以上である必要がある。また、球状核粒子の保水性が、0.5cm3/g以上であるとフィルムコーティングする際の凝集が抑制できる。0.9cm3/gであると、より多くの薬物を担持できるので、より好ましい。さらに好ましくは1.1cm3/g以上である。
保水性に上限はないが、球状核粒子が吸水して膨潤すると、フィルムコーティングを施した後に、フィルムと素顆粒の間に隙間ができる可能性があるので好ましくない。吸水しても膨潤しない粒子の最大の保水性は、おおよそ2.0cm3/gである。
【0025】
ここで、保水性とは、単位質量あたりに保持できる水の容量であり、以下の式で表される。
保水性G[cm3/g]=H/W
H:球状核粒子が保持できる水の容量[cm3
W:球状核粒子の質量[g]
【0026】
保水性を大きくすることによりフィルムコーティング時の凝集が解消できる理由については、次のように考えられる。
すなわち、球状核粒子は、その保水性が高い場合、粒子表面から内部につながる細孔を有する。したがって、べたつきを生じる水溶性薬物は細孔内に保持され、表面にほとんど存在しない。これにより、水溶性薬物のべたつきに起因するフィルムコーティング時の凝集が防止できると考えられる。
【0027】
このような観点から、フィルムコーティング時の凝集抑制効果をより明確に発揮するためには、球状核粒子の保水性だけでなく、細孔径[μm]と細孔構造に由来する比表面積[cm3/g]が重要となる。
具体的には、、細孔径は、0.003〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.003〜1μm、さらに好ましくは0.003〜0.1μmである。
また、比表面積は、300cm3/g以上であることが好ましく、より好ましくは600cm3/g以上、さらに好ましくは900cm3/g以上である。
また
【0028】
ここで、細孔径とは、粒子表面から内部につながる細孔の直径の最頻値(モード径)を意味し、水銀ポロシメーター(例えば、(株)島津製作所製、オートポア9520型)を用いて、約410MPaまで加圧して測定する。
また、比表面積とは、窒素ガスを用いてBET法で測定される比表面積を意味し、比表面積測定装置(例えば、(株)島津製作所製、トライスター3000型)により測定できる。
【0029】
なお、球状核粒子の細孔径および平均表面積は、造粒条件、例えば、転動流動造粒であれば、水の噴霧速度、回転板の回転速度、供給風量等を変更することによって、適宜調整できる。
【0030】
次に、球状核粒子の内部に薬物水溶液を吸着させる工程について説明する。
まず、薬物水溶液について説明する。
薬物の例としては、例えば、d−マレイン酸フェニルクロラミン、塩酸L−エチルシステイン、塩酸クロペラスチン、塩酸ファスジル、塩酸プロカインアミド、セフチゾキシムナトリウム、トラジピン、ミグレニン、ロキソプロフェンナトリウム等が挙げられる。
【0031】
水溶解度が20℃の水1cm3に対して1.0g以上である水易溶性薬物の場合、レイヤリング法によっては球形素顆粒を形成することが困難であるが、本発明によれば容易に球形素顆粒を形成できることに加え、吸着させる薬物水溶液濃度を高くすることにより、球状核粒子の薬物担持量を上げることができるので、非常に好ましい。水溶解度が1.5g以上の場合には、レイヤリング法では球形素顆粒の形成がさらに困難となるため、本発明の効果が強く発揮される。
【0032】
薬物水溶液の濃度は、球状核粒子の量と吸着方法を考慮して適宜決定される。
また、用いる薬物水溶液の容量は、球状核粒子に薬物水溶液をふりかける場合、球状核粒子が保持できる水の容量の30%程度以上であることが好ましい。あまり量が少ないと、球状核粒子全てに均一に吸着させることが困難だからである。一方、ふりかける薬物水溶液容量は、球状核粒子が保持できる水の容量の約80%以下であることが好ましい。これ以上になると、球状核粒子が液体架橋を起こし、凝集が増える。通常の操作では、60%程度が安定的に操作できるので好ましい。
薬物水溶液には、結合性の向上や、薬物の安定化、溶出改善などの目的で、その他の医薬品添加物を配合してもよい。
【0033】
球状核粒子の内部に吸着させる薬物の最大量は、薬物の溶解度に依存するが、球状核粒子に対して約50質量%程度までであることが好ましい。最小量は、薬物水溶液を希薄にすることにより、いくらでも可能だが、例としては0.1%程度である。
【0034】
球状核粒子の内部に薬物水溶液を吸着させる方法に制限はなく、例えば、球状核粒子をバットに入れ、薬物水溶液をふりかけた後、良く混合する方法、薬物水溶液に球状核粒子を浸漬し、次いで、球状核粒子を取り出す方法等が挙げられる。また、球状核粒子を混合機に入れて撹拌し、そこに薬物水溶液をふりかけるか、あるいは噴霧してもよい。
【0035】
流動層乾燥機を混合機として使用することもできる。もっとも、風で流動させた核粒子に薬物水溶液を噴霧する場合、薬物水溶液が球状核粒子の内部に浸透する前に乾燥して、薬物が核粒子表面に局在し、内部に吸着させることができない。したがって、流動層乾燥機を使用する場合は、底部に回転機構を有する転動流層型を用いて、薬物水溶液の吸着と、乾燥は分離する必要がある。
【0036】
プラネタリーミキサーを混合機として使用することもできる。もっともプラネタリーミキサーは、攪拌力が強過ぎるので球状核粒子の破損の危険性があり、撹拌治具(パドル、フック等)と撹拌条件の設定に注意が必要である。
好ましい混合機の例としては、高速撹拌混合機(例えば、深江工業社製「ハイスピードミキサー」、パウレック社製「バーチカルグラニュレーター」、岡田精工社製「ニュースピードニーダー」)を挙げることができる。
【0037】
薬物水溶液を吸着させる際には機械的な応力が、球状核粒子に作用する。そのため、本発明においては、その形状を維持するために球状核粒子の摩損度は1%以下である必要がある。好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0038】
ここで、球状核粒子の摩損度とは、第十四改正日本薬局方の「錠剤の摩損度試験法」に記載の試験器に準じたものを用いて15分間回転した場合に摩損して減少する粒子質量の割合[質量%]をいい、下式で表される値である。
摩損度[質量%]={減少質量/初期質量}×100
【0039】
薬物水溶液を吸着させた球状核粒子を乾燥する方法に制限はなく、バットに入れて、温風乾燥機を使用して乾燥してもよいし、また、流動層乾燥機を用いて乾燥してもよい。その後、薬物水溶液を再度吸着させ、乾燥してもよい。
【0040】
次に、本発明によって得られた球形素顆粒をフィルムコーティングする場合について説明する。
球形素顆粒は、必要に応じてふるい等によって粗大粒子を除去した後、フィルムコーティングを施すことができる。
フィルムコーティング液としては、フィルムコーティング剤を有機溶媒に溶解したものを使用することもできるが、作業環境および自然環境保全の観点から、水系とすることが好ましい。
水系フィルムコーティング液としては、水溶液あるいは水性懸濁液(ラテックスタイプおよび水懸濁タイプ)が使用できる。
【0041】
水易溶性薬物を含有する球形素顆粒にフィルムコーティングする場合、薬物が溶解してフィルムに混入しやすいため、必要以上のコーティング量が必要であったり、フィルムコーティングの最中に、フィルムコーティング液の供給を一度止めて乾燥したり、あるいは薬物の移行を止めるためのフィルムコーティングを行ってから(シールコート)、徐放性などのフィルムコーティングを行うなど、作業が煩雑となる。
しかし、本発明の方法によれば、薬物が球状核粒子の内部に担持され、また、球状核粒子が薬物を担持後も空隙を保っているため、水系フィルムコーティングを行っても、薬物がフィルムに混入しにくい。そのため、フィルムコーティング剤の節約および、フィルムコーティング時間の短縮が可能となる。
【0042】
フィルムコーティング剤としては、人体に悪影響を及ぼすことのない、球形素顆粒をフィルムコーティグできる材料であれば特に制限はないが、医薬品添加物規格2003に記載の材料が好適に使用でき、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタル酸セルロース、エチルセルース、エチルセルロース水分散液、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、メタクリル酸コポリマーLDなどが使用できる。
【0043】
フィルムコーティングは、遠心流動コーティング装置(フロイント産業社製「CFグラニュレーター」など)や流動層コーティング装置など、公知の装置を利用して実施できる。
流動層コーティング装置としては、通常の流動層型の他に、内部に案内管(ワースターカラム)を有する噴流層型や、底部に回転機構を備えた転動流動層型などが使用できる。具体的には、フロイント産業社製「フローコーター」、「スパイラフロー」;Glatt社製「WST/WSGシリーズ」、「GPCGシリーズ」;不二パウダル社製「ニューマルメライザー」;パウレック社製「マルチプレックス」などを挙げることができる。
【0044】
フィルムコーティング液の供給は、トップスプレー、ボトムスプレー、サイドスプレー、タンジェンシャルスプレー等各装置に適した方法により行うことができ、球形素顆粒に噴霧される。そして、噴霧終了後は、球形素顆粒を乾燥する。このとき、サンプルを取り出すことなく、そのまま、あるいは風量および温度を適宜調節して、フィルムコーティング顆粒を乾燥することもできる。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例に基づいて説明する。まず、物性の測定方法を以下にまとめて記す。
<球状核粒子、球形素顆粒の平均短径、短径分布係数、短長径比分布係数、平均短長径比>
サンプルの形状を、デジタルマイクロスコープ(VH−7000、(株)キーエンス製)で撮影し(50倍または100倍レンズを使用)、画像解析装置(ImageHyper、(株)インタークエスト製)を用いて100個の粒子の短径(D)、長径(L)を測定する。ここで、短径と長径は、粒子の境界画素上に外接する面積が最小となる外接長方形の短辺を短径とし、長辺を長径とする。
短径の篩下積算分布における積算10%粒子径を「D10」、積算50%粒子径を「D50」、積算90%粒子径を「D90」で表す。平均短径とは、D50のことであり、短径分布係数とは、D10/D90のことである。
また、短径と長径の比(短長径比)を「D/L」で表し、D/Lの最小値の側から積算したときの積算分布における積算10%短長径比を「[D/L]10」、積算50%短長径比を「[D/L]50」、積算90%短長径比を「[D/L]90」で表す。短長径比分布係数とは、[D/L]10/[D/L]90のことであり、平均短長径比とは[D/L]50のことである。
平均短径[−]=D50
短径分布係数[−]=D10/D90
短長径比分布係数[−]=[D/L]10/[D/L]90
平均短長径比=[D/L]50
<球状核粒子の保水性[cm3/g]>
サンプル1〜5gをガラス板にとり、水をビュレットから少量ずつサンプルの中央に滴下し、そのつど全体をスパチラで、充分に混合する。滴下及び混合の操作を繰り返し、全体に水がなじみ、一つの塊状となった後、離水し始める点を、終点とする。保水性(G[cm3/g])は、下式により算出する。
保水性G[cm3/g]=H[cm3]/S[g]
ここで、Hは終点時における水の総滴下量[cm3]、Sはサンプルの質量[g]、を表す。
<球状核粒子のタッピング嵩密度[g/cm3]>
サンプル30gを100cm3メスシリンダーに充填し、30回程度タッピングし、タッピング体積[cm3]を求め、下式により算出する。この操作を3回繰り返し、その平均値をタッピング嵩密度として採用する。
タッピング見掛密度[g/cm3]=30[g]/タッピング体積[cm3
<球形素顆粒の回収率[質量%]>
レイヤリング後の球形素顆粒の回収量、用いた原料の総量[g]から、下式により算出する。
回収率[質量%]={回収量[g]/原料の総量[g]}×100
<球形素顆粒の凝集率[%]>
球形素顆粒を紙上に分散させ、目視で凝集顆粒を構成している粒子数(a[個])と、単一粒子数(b[個])を数え、下式により算出する。観察する粒子数は1000個(=a+b)とする。
凝集率[%]={a/(a+b)}×100
<球状核粒子の摩損度[質量%]>
目開き75μmのJIS標準篩を通過する微粉成分を手で篩分して除いたサンプル10gを、摩損度試験機(PharmaTest PTFR−A型、ジャパンマシナリー(株)製)に仕込み、25rpmで15分間回転した後、目開き75μmの篩上に残るサンプルの質量を測定した。摩損度は下式により算出する。この操作を2回繰り返し、その平均値を摩損度[%]として採用する。
摩損度[%]={(10[g]−篩上に残るサンプルの質量[g])/10[g]}×100
<薬物の溶出速度[h]>
試験液として、日本薬局方人工胃液を用い、自動溶出試験器(日本分光(株)製、DT−610)を用いてバスケット法(50rpm)で溶出速度を測定する。薬物の溶出速度は、フィルムコーティング顆粒中の薬物が80%溶出した時間[h]で表す。この溶出試験を2回繰り返し、その平均値を溶出速度[h]として採用する。
【0046】
[実施例1]
(球状核粒子の製造)
平均重合度141の結晶セルロース10kgを転動流動層造粒装置(「マルチプレックス」MP−25型、(株)パウレック製)に仕込み、回転板回転数250rpm、給気温度55℃の条件で、風量を3.5m3/minから4.5m3/minへと徐々に上げながら、蒸留水を150g/minの速度で10.6kgをトップスプレー方式で噴霧した。加水後、回転板回転数を60rpmとし、排気温度が35℃になるまで乾燥した。乾燥後、500μm以上と250μm以下の微粉を篩で除去して球状核粒子を得た。
球状核粒子の物性を表1に示す。
(薬物水溶液の吸着)
水450gをプロペラ攪拌しながら、d−マレイン酸フェニルクロラミン(金剛化学(株)製)50gを投入し、完全に溶解するまで攪拌し、薬物水溶液を調製した。球状核粒子1kgをバットに入れ、少量ずつ薬物水溶液をふりかけ、良く混合するという動作を繰り返し、薬物水溶液全量を球状核粒子に吸収させた。その後、40℃に設定したオーブン中で一昼夜乾燥し、球形素顆粒を得た。
得られた球形素顆粒は、全量回収され、凝集もなかった。結果を表1に示す。
(フィルムコーティング)
次に、フィルムコーティングを施すために、まず、公知の方法で、エチルセルロース水分散液(「Aquacoat」ECD−30、FMC社製、固形分濃度30質量%)10.3部、クエン酸トリエチル(東京化成工業(株)製3.6部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E、信越化学工業(株)製)0.5部、水85.5部の組成からなるフィルムコーティング液を調製した。次に、転動流動コーティング装置(「マルチプレックス」MP−01型、(株)パウレック製)に球形素顆粒を0.8kg仕込み、給気温度75℃、風量37〜50m3/h、回転板回転数200rpmの条件で、球形素顆粒を転動流動し、排気温度が38℃になるまで予備加温した。タンジェンシャルボトムスプレーを使用し、スプレーエアー圧0.16MPa、スプレーエアー流量40L/min、排気温度36〜38℃、コーティング液噴霧速度10.0g/minの条件で、球形素顆粒に対してフィルムコーティング液の固形分が15質量%になるまでコーティングした。コーティング液噴霧終了後、回転板回転数を200rpmにし、排気温度が40℃になるまでその状態を維持し、次いで、給気加熱ヒーターをオフにして給気温度が40℃になるまで冷却した。得られたフィルムコーティング顆粒は、80℃に設定したオーブン中で60分間キュアリング(加熱成膜処理)し、フィルムコーティング顆粒を得た。
得られたフィルムコーティング顆粒は、ほぼ全量回収され、凝集も少なかった。また、フィルムコーティング顆粒から薬物が80%溶出する時間は5hであり、充分徐放化されていることを確認した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
(球状核粒子の製造)
平均重合度220の結晶セルロース10kgを転動流動層造粒装置(「マルチプレックス」MP−25型、(株)パウレック製)に仕込み、回転板回転数336rpm、給気温度55℃の条件で、風量を1.7m3/minから4.5m3/minへと徐々に上げながら、蒸留水を200g/minの速度で14kgをトップスプレー方式で噴霧した後、そのままの条件で60分間転動流動した。その後、給気温度を80℃とし、20分毎に回転板回転数を50rpmずつ落とし、排気温度が35℃になるまで乾燥した。乾燥終了後、710μm以上の粗大粒子と300μm以下の微粉を篩で除去して球状核粒子を得た。
球状核粒子の物性を表1に示した。
(薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティング)
得られた球状核粒子を使用し、薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティングは、実施例1と同様にして行い、フィルムコーティング顆粒を得た。
フィルムコーティング顆粒から薬物が80%溶出する時間は6hであり、充分徐放化されていることを確認した。結果を表1に示す。
[実施例3]
(球状核粒子の製造)
平均重合度220の結晶セルロース10kgを転動流動層造粒装置(「マルチプレックス」MP−25型、(株)パウレック製)に仕込み、回転板回転数336rpm、給気温度55℃の条件で、風量は1.7m3/minから4.5m3/minへと徐々に上げながら、蒸留水を200g/minの速度で14kgをトップスプレー方式で噴霧した後、給気温度を80℃とし、20分毎に回転板回転数を50rpmずつ落とし、排気温度が35℃になるまで乾燥した。乾燥終了後、710μm以上の粗大粒子と300μm以下の微粉を篩で除去して球状核粒子を得た。
球状核粒子の物性を表1に示した。
(薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティング)
得られた球状核粒子を使用し、薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティングは、実施例1と同様にして行い、フィルムコーティング顆粒を得た。
フィルムコーティング顆粒から薬物が80%溶出する時間は6hであり、充分徐放化されていることを確認した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
(球状核粒子の製造)
平均重合度220の結晶セルロース10kgを転動流動層造粒装置(「マルチプレックス」MP−25型、(株)パウレック製)に仕込み、回転板回転数250rpm、給気温度55℃の条件で、風量を1.7m3/minから4.0m3/minへと徐々に上げながら、蒸留水を200g/minの速度で14kgをトップスプレー方式で噴霧した。加水終了後、風量8m3/min、給気温度を80℃とし、20分毎に回転板回転数を50rpmずつ落とし、排気温度が35℃になるまで乾燥した。乾燥終了後、500μm以上の粗大粒子と250μm以下の微粉を篩で除去して球状核粒子を得た。
球状核粒子の物性を表1に示した。
(薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティング)
得られた球状核粒子を使用し、薬物水溶液の吸着は実施例1と同様にして行ったが、球形素顆粒がバット底部に付着したため、回収率が低かった。さらに、得られた球形素顆粒は凝集率が高く、フィルムコーティングに使用できるレベルになかったので、フィルムコーティングは実施しなかった。
【0049】
[比較例2]
(球状核粒子の製造)
平均重合度220の結晶セルロース10kgを転動流動層造粒装置(「マルチプレックス」MP−25型、(株)パウレック製)に仕込み、回転板回転数300rpm、給気温度55℃の条件で、風量を3.5m3/minから4.8m3/minへと徐々に上げながら、蒸留水を200g/minの速度で16kgをトップスプレー方式で噴霧した。加水終了後、風量8m3/min、給気温度を80℃とし、20分毎に回転板回転数を50rpmずつ落とし、排気温度が35℃になるまで乾燥した。乾燥終了後、500μm以上の粗大粒子と250μm以下の微粉を篩で除去して球状核粒子を得た。
球状核粒子の物性を表1に示した。
(薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティング)
得られた球状核粒子を使用し、薬物水溶液の吸着およびフィルムコーティングは、実施例1と同様にして行い、フィルムコーティング顆粒を得た。素顆粒はバット底部に付着したため、回収率が低かった。また得られた球形素顆粒は、凝集率が高かった。フィルムコーティングに用いた球形素顆粒は、500μm以上の粗大分を篩で篩分し、除去した物を用いた。
得られたフィルムコーティング顆粒の中には、球形ではなく明らかに破損した形状の粒子が存在した。フィルムコーティング顆粒から薬物が80%溶出する時間は3hであり、充分に薬物の溶出速度が抑えられていなかった。これは、素顆粒がフィルムコーティング中に破損したことに起因し、核粒子の高摩損性の影響を受けたものである。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
(レイヤリング)
水324gをプロペラ攪拌し、ポビドン(K−30、ISP Tec. Inc.製)6.0g、d−マレイン酸フェニルクロラミン(金剛化学(株)製)30.0gを投入し、完全に溶解するまで攪拌し、レイヤリング液を調製した。
転動流動コーティング装置(「マルチプレックス」MP−01型、(株)パウレック製)に実施例3で得た球状核粒子を0.6kg仕込み、タンジェンシャルボトムスプレーを使用し、スプレーエアー圧0.16MPa、スプレーエアー流量40L/min、給気温度80℃、排気温度45〜46℃、風量37〜50m3/hの状態で、排気温度が45℃になるまで予備加温した。その後、レイヤリング液噴霧速度2.0g/minの条件で、球状核粒子に対して6質量%(d−マレイン酸フェニルクロラミンとして5質量%)になるまでレイヤリングした。回転板回転数は、レイヤリング1.5質量%までは400rpm、3.0質量%までは450rpmとし、乾燥時は200rpmとした。乾燥は、排気温度が48℃になるまで行い、その後給気の加熱ヒーターをオフにし、給気温度が40℃になるまで冷却した。ただし、レイヤリング液の噴霧中に、顆粒の全体的な合一が見られたので、レイヤリング液の供給を中断し、粒子を乾燥して合一をほぐした後、レイヤリング液の供給を再開するという操作を数回繰り返した。球形素顆粒は、ほぼ全量回収されたが、凝集率が高かった。フィルムコーティングに用いた球形素顆粒は、710μm以上の粗大分を篩で篩分し、除去した物を用いた。
(フィルムコーティング)
フィルムコーティングは実施例1と同様にして行い、フィルムコーティング顆粒を得た。
フィルムコーティング顆粒から薬物が80%溶出する時間は2hであり、実施例3と比べると溶出速度が速く、充分に抑えられていなかった。これは、薬物が球形素顆粒の周囲に存在したため、薬物が多量にフィルムに混入したためと考えられる。
【0051】
実施例1〜3、比較例1〜3の結果を表1に示す。
実施例1〜3の球形素顆粒は、球形素顆粒形成時やフィルムコーティングを施した際の凝集が少なく、徐放化が充分達成されていた。特に、実施例2のように、平均短長径比、短径分布係数が比較的低く、真球・単分散とは言い難い球状核粒子であっても、短長径比分布係数を本発明の数値範囲内にすることにより、徐放化が充分な均一なフィルムコーティングが達成できた。
これに対して、短長径比分布係数、短径分布係数、保水性が本発明の数値範囲にない球状核粒子を用いて製造された比較例1の球形素顆粒は、球形素顆粒形成時に凝集が発生し、フィルムコーティングも実施できなかった。
また、摩損度が本発明の数値範囲にない球状核粒子を用いて製造された比較例2の球形素顆粒は、徐放化が充分でなかった。これは、薬物水溶液吸着時に粒子が摩損し、その形状が維持されなかったためと推測される。
さらに、レイヤリング法で製造された比較例3の球形素顆粒は、水溶性薬物が球状核粒子の外部に担持されたため、球形素顆粒形成時やフィルムコーティングの際に凝集が発生し、徐放化が充分でなかった。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法は、フィルムコーティングを施した医薬品顆粒製造の分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に不活性な球状核粒子の内部に薬物水溶液を吸着させる球形素顆粒の製造方法であって、
前記球状核粒子が、平均短長径比が0.8以上、短長径比分布係数が0.7以上、短径分布係数が0.6以上であり、
前記球状核粒子の摩損度が1%以下であり、
前記球状核粒子の保水性が0.5cm3/g以上である
球形素顆粒の製造方法。
【請求項2】
請求項1項記載の製造方法により製造された球形素顆粒にフィルムコーティング剤の水溶液または水性懸濁液を噴霧し、乾燥するフィルムコーティング顆粒の製造方法。


【公開番号】特開2008−37806(P2008−37806A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214979(P2006−214979)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】