説明

球状α型炭化ケイ素、その製造方法、及び、該炭化ケイ素を原料としてなる焼結体又は有機樹脂複合体

【課題】α型結晶であって、その粒径が5〜60μmであると共に内部が緻密な、球状炭化ケイ素粒子、その製造方法、及び、それを原料として用いた焼結体又は有機樹脂複合体を提供する。
【解決手段】平均粒径が5〜60μmで細孔径が1μm以下の内部細孔体積が0.02cc/g以下、且つ、比表面積が1m2/g以下で平均(短径/長径)アスペクト比が0.65以上である球状α型炭化ケイ素を製造するために、少なくとも、(1)平均粒径が1μm以下でα型結晶である原料炭化ケイ素のスラリーをスプレイドライして多孔質で球状の粒子を得る工程、及び、(2)得られた多孔質で球状の粒子を焼結する工程を含む工程からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状炭化ケイ素に関し、特に、内部が緻密でその粒径が5〜60μmであるα型結晶の球状炭化ケイ素粒子、その製造方法、及び、該炭化ケイ素を原料としてなる焼結体又は有機樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は高硬度であるのみならず、高熱伝導性であり、高温耐熱性にも優れているので、成型砥石や、有機ポリマーとの高熱伝導複合体、或いは半導体製造装置の成型部品として使われている。
この場合、炭化ケイ素微粉を、ポバール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のマトリックス、又はメチルセルロース等のバインダーや各種成型助剤と混合して重合し、加圧或いは加熱して、粘調ワニス、フィルム、焼結構造体等が形成される。
【0003】
炭化ケイ素は、シリコン、石英等の各種インゴットの切断用ワイヤソー或いはウェハラップ用遊離砥粒としても使用されることからも明らかなように、粉砕されたままの破砕形状は、鋭利なエッジを保有した不定形となっている。このことは、炭化ケイ素粉の充填率を高めた方がその高硬度性、高熱伝導性、高温耐熱性をより発現することができる、各種ポリマーとの複合体とする場合には好ましいが、不定形であるために高密度に充填することが阻害されるという限界があった。
【0004】
焼結構造体を得るための前工程である塑性成形工程や鋳込み成形工程の場合にも、高密度に炭化ケイ素が充填された前駆体を得ることには不定形であることによる限界があり、従って焼結体密度を真密度にまで高めることは困難であった。
【0005】
なお、炭化ケイ素以外の、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア等の酸化物セラミックスの場合には、球状粒子が得られている(株式会社アドマテックスカタログ“アドマファイン”)。
これらの場合には、例えば、該当する金属粉を火炎中に導入し、酸化燃焼する際に同時に溶融し、球形化することによって製造される(特許文献1)。この場合と同様の手法で炭化ケイ素の球状粒子を製造する方法が提案されている(特許文献2)が、得られた炭化ケイ素の純度に関しては全く記載されていない。
因みに、炭化ケイ素は溶融温度が高く(2500℃以上)、酸化性雰囲気では1000℃付近から酸化反応が開始されるので、火炎中では酸化燃焼し、相当の割合が酸化ケイ素に変質する。
【0006】
実際、JIS R6124(炭化ケイ素質研削材の化学分析法)の場合には、全炭素(炭化ケイ素分子の炭素と遊離炭素の双方)を、助燃剤の存在下1,300〜1,350℃で酸化燃焼させた際に発生するCO2の量から、850℃で5分間遊離の炭素のみを酸化燃焼した際に発生するCO2の量を差し引き、得られた量から炭化ケイ素の含有量を算出し定量している。この定量方法においては、850℃以上の温度では炭化ケイ素自身の酸化燃焼を防ぐことができないということが根拠になっている。
【0007】
また、水ガラスと糖質サッカロースの混合スラリーをスプレードライして、直径(平均粒径)が10〜20μmの球状前駆体を得た後、1,300〜1,600℃で焼結して炭化ケイ素の球状粒子を得られることが知られている(非特許文献1)が、この場合にはβ型結晶が得られてα型結晶は得られないだけでなく、10〜20μmという初期の粒径は維持されず、10〜20nmと極微小化した球状粒子が、凝集融着した粒子群として得られるに過ぎない。
【0008】
平均粒径が1μm前後の微小炭化ケイ素粒子を、仮焼後に炭素源となる有機ポリマーをバインダーとして混合造粒し、1800℃で仮焼した後、緻密化できなかった内部気孔に、毛細管現象を利用して溶融した金属シリコンを充填し、残留炭素と反応させて緻密化した炭化ケイ素の球状粒子を得る方法も提案されている(特許文献3)が、その平均粒径は1mm以上あり、大粒径である。
【0009】
更に、原料のポリカルボシランを貧溶媒中で球形粒子に造粒した後、1,300〜1,400℃で焼結することにより、平均粒径が0.05〜4.5μmの球状炭化ケイ素粒子を得る方法も提案されている(特許文献4)が、高価な原料であるポリカルボシランを使わざるを得ないという不利益だけでなく、その結晶系は非晶質であり、また、実施されている焼結温度からすると、緻密化が不完全であると推定される。
【0010】
上記したように、α型結晶であって、その平均粒径が5〜60μmで、且つ、内部が緻密な球状の炭化ケイ素粒子は、従来知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60-255602
【特許文献2】特開平2009-226399
【特許文献3】特開2002-128565
【特許文献4】特開2007-112693
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Materials Science and Technology 2009, vol.25, No.12, p1437
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって本発明の第1の目的は、α型結晶であって、その粒径が5〜60μmであると共に内部が緻密な、球状炭化ケイ素粒子を提供することにある。
本発明の第2の目的は、α型結晶であって、その粒径が5〜60μmであると共に内部が緻密な、球状炭化ケイ素粒子を製造する方法を提供することにある。
更に本発明の第3の目的は、炭化ケイ素粒子を原料とする、硬度、熱伝導性及び耐熱性に優れた、焼結体又は有機樹脂との複合体を提供することにある。
本発明者らは、上記の諸目的を達成すべく鋭意検討した結果、スプレードライによって造粒した、多孔質で球状の炭化ケイ素粒子を得、これを焼結して、粒子内部が緻密化した球状粒子が部分的に弱く融着した二次粒子を得、次いでこれを解砕することによって、目的とする球状炭化ケイ素粒子を容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち本発明は、平均粒径が5〜60μmで、細孔径が1μm以下の内部細孔体積が0.02cc/g以下、且つ、比表面積が1m2/g以下で平均(短径/長径)アスペクト比が0.65以上であることを特徴とする球状α型炭化ケイ素、その製造方法、及び、その炭化ケイ素を原料としてなる焼結体又は有機樹脂複合体である。
本発明の製造方法は、少なくとも、(1)平均粒径が1μm以下でα型結晶である原料炭化ケイ素のスラリーをスプレイドライして多孔質で球状の粒子を得る工程、及び、(2)得られた多孔質で球状の粒子を焼結する工程を含む工程からなることを特徴とする。本発明においては、上記焼結を1,900〜2,300℃で行うことが好ましく、焼結時間は1〜5時間であることが好ましい。また、(3)の工程として、焼結して得られた粒子の内、部分的に弱く融着した粒子集合体を解砕する工程を含むことが好ましく、焼結炉としては、プッシャー炉を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭化ケイ素粒子は、粒径が5〜60μmで内部が緻密な球状炭化ケイ素粒子であるので、ポバール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のマトリックス、又はメチルセルロース等のバインダーや各種成型助剤と混合して重合し、加圧或いは加熱して、粘調ワニス、フィルム、焼結構造体等とするときの充填率を改善することができる。また、焼結構造体を得る場合には、前工程である塑性成形工程や鋳込み成形工程で、高密度に炭化ケイ素が充填された前駆体を得ることが可能になり、焼結体の密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、炭化ケイ素を含んだスラリーをスプレードライして得られた、多孔質球状炭化ケイ素粒子の写真代用図面である。
【図2】図2は、本発明の球状α型炭化ケイ素粒子の写真代用図面である。
【図3】図3は、原料炭化ケイ素としてβ型結晶を用いた場合に得られた炭化ケイ素粒子は、球形とはならないことを示す写真代用図面である。
【図4】図4は、実施例1で得られた球状粒子の平均粒径が35.2μmであることを示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2で得られた球状粒子の平均粒径が21.7μmであることを示す写真代用粒度分布図である。
【図6】図6は、比較例1で得られた球状粒子の平均粒径が36.1μmであることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造工程について、以下に順次説明する。
<スプレードライ工程>
本発明で採用するスプレードライ工程とは、溶媒に原料の炭化ケイ素微粉を分散させたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥室内に噴霧することによって乾燥し、平均粒径が5〜60μmの、多孔質で球状の粒子を得る工程である。この工程の内、スプレードライヤーを用いて乾燥室内に噴霧することによって乾燥し、微小粒子を得ることは周知であるが、本発明においては、この場合に、特に、原料の炭化ケイ素微粉として、平均粒径が1μm以下でα型結晶である原料炭化ケイ素を用いる点に特徴がある。
なお、本発明における平均粒径は、JIS R1629に従って、日機装株式会社製のレーザー回折式粒度分布測定器であるマイクロトラックHRAを用いて測定した直径の平均値である。
【0018】
原料炭化ケイ素としてβ型結晶のものを使用した場合には、スプレードライヤーで形成した多孔質球状粒子を次工程で焼結し緻密化する際に、緻密化(無孔化)する速度よりも、結晶転移して結晶成長する速度が速いため、球形状を保持することができない。
【0019】
本発明においては、上記多孔質球状粒子を独立した粒子のまま焼結して平均粒径が5〜60μmの球状炭化ケイ素粒子を得ても良いが、小粒径の多孔質球状粒子を焼結し、部分的に融着した粒子を適宜解砕して粒径が5〜60μmの球状炭化ケイ素粒子を得ても良い。
本発明における製品としての炭化ケイ素粒子の粒径は5〜60μmであるため、その粒子の表面を滑らかにして球形状を維持する観点から、適宜原料炭化ケイ素の粒径を決定すれば良いが、粒径が大きい原料粉を用いて十数μm以下の造粒多孔質粒子を形成した場合には、焼結後、粒子表面に原料粒子由来の凹凸が残るため、表面が平滑な球状粒子を製造することは出来ない。したがって、スプレードライヤーで形成した多孔質球状粒子の粒径を十数μm以下とする場合には、原料炭化ケイ素の平均粒径を1μm以下とすることが好ましい。
【0020】
前記スラリーの溶媒は、水の他、メタノール等の有機溶剤を適宜使用することができるが、着火等の危険性を防止する観点から水を使用することが好ましい。
また、スラリー中の固形分濃度は10〜60質量%であることが好ましい。スラリー中の固形分濃度は、造粒する多孔質粒子の粒径を決定する因子の一つである。低濃度の場合には多孔質粒子の粒径が小さくなり、高濃度の場合には多孔質粒子の粒径が大きくなる。10質量%以下にしても一層の小粒径化効果はなく生産性を低下させるだけであり、60質量%以上にしても更に大粒径化する効果がない上粘度が増加する一方であり、安定した噴霧が不可能になる。
【0021】
独立した粒子を形成するためには、粗大粒子化の原因となる粒子同士の凝集を防ぐために、分散剤をスラリーに添加しスプレードライすることが好ましい。この場合に使用する分散剤としては、ナフタレンスルホン酸塩とホルマリンの縮合ポリマー、フェノールスルホン酸塩とホルマリンの縮合ポリマー、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ヘキサメタリン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アセチレンアルコール、アセチレングリコール誘導体、シリコーン系界面活性剤等を挙げることができる。本発明においては、これらを0.1〜5質量%添加することが好ましい。
【0022】
また焼結時に多孔質粒子の粒子内部の緻密化を促進するために、噴霧スラリー中に予め焼結助剤を添加してスプレードライすることが好ましい。焼結助剤としては、例えば、窒化ホウ素、炭素、酸化ホウ素と炭素の混合物、アルミナ等を挙げることができる。本発明においては、これらを0.5〜5重量%加えることが好ましい。
【0023】
スプレードライの噴霧方法としては、加圧2流体ノズルによる固定噴霧方式、回転ディスクによる噴霧方式等があるが、炭化ケイ素のような高硬度のセラミックスラリーを噴霧する場合には、加圧2流体ノズルのノズル部の摩耗が激しいため、その摩耗が少ない回転ディスク型噴霧方式を採用することが好ましい。
【0024】
この場合、回転ディスクの回転数は造粒多孔質粒子の粒径を決定する一因子になる。高速回転にすれば小粒径の粒子が、低速回転にすれば大粒径の粒子が形成される。本発明における好ましい回転数は8,000〜25,000rpmである。8,000rpm以下では単独球形粒子が得られにくく、25,000rpm以上としても一層の小粒径化効果を期待することができない。
【0025】
導入する空気量、導入空気の温度等、その他のスプレードライヤーの運転諸条件は、通常行われる範囲で設定される。スプレードライされた多孔質球状粒子は、後流側に設けられた捕集容器、サイクロン、バグフィルター等に捕集される。
【0026】
<焼結工程>
本発明における焼結工程は、前の工程で得られた多孔質球状粒子を、アルゴン雰囲気下の所定温度で所定時間保持し、平均粒径が5〜60μmで、内部が緻密なα型球状炭化ケイ素粒子を得る工程である。
焼結雰囲気を窒素とした場合には窒化ケイ素が生成するので、本発明においては、アルゴン雰囲気とすることが好ましい。
【0027】
焼結した結果、粒子内部が緻密化したか否かを判定するために、本発明では、水銀圧入法による細孔体積測定値(JIS R1655)とBET法による比表面積測定値(JIS R1626)の両方を加味する確認方法を採用する。焼結粒子内部に含まれる細孔の細孔径(直径)は1μm以下であるので、この範囲の細孔径を測定する。通常、スプレードライした多孔質球状粒子における、細孔径が1μm以下の内部細孔体積値は0.1cc/g以上、比表面積値は10m2/g以上である。焼結過程で緻密化が進むにつれて両方とも減少する。本発明においては、細孔径が1μm以下の内部細孔体積値が0.02cc/g以下、好ましくは0.01cc/g以下で、且つ、比表面積値が1m2/g以下、好ましくは0.5m2/g以下となった場合に緻密化したと見なす。
【0028】
緻密化が不完全であると、構造体或いは有機樹脂複合体の原料として本発明の炭化ケイ素粒子を用いる際に、原料の熱伝導率が不十分となるので好ましくない。従って緻密化を完璧に終結させるには高温で長時間かけることが好ましいが、その場合には、粒子同士が強固に融着したり、結晶の粗大化が生じて球形状を維持できなくなったりする虞がある。分散した独立球状粒子が高密度充填、即ち高熱伝導性を可能とするので、本発明においては、粒子同士の融着や球形状の悪化を避けることが好ましい。
上記有機樹脂複合体は、例えば、ポバール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の有機樹脂と本発明の炭化ケイ素粒子を混合し、加圧及び/又は加熱下に重合して製造することができる。この様な有機樹脂複合体の具体例としては、例えば、粘調ワニス、フィルム、焼結構造体等を挙げることができる。
【0029】
本発明における球形状は、粒子の平均(短径/長径)アスペクト比で判定される。この比が1.0であれば全ての粒子が真球であることを示し、この比が減少すると球形度が減少する。短径、長径の測定は、水等の分散媒に粒子を懸濁したスラリーをセル中に流し、通過する際の粒子の画像を高解像度CCDカメラで撮像し、数値解析する動的画像解析法によってなされる。この方法によれば、短時間に多数の粒子のデーターを測定することができる。上記の測定器としては、例えばセイシン企業製の、「動的画像解析法/粒子(状態)分析計 PITA-2」がある。
【0030】
粒子内部を緻密化し且つ球形状を保持するには、焼結温度と焼結時間を調整しなければならない。焼結温度は1,900℃〜2,300℃とすることが好ましく、その場合に対応する焼結時間は1〜5時間となる。1,900℃以下では、緻密化するために過大な時間が必要となるので生産性に劣る。2,300℃以上とすると、粒子内部の緻密化と粒子同士の強固な融着、それによる結晶の粗大化が同時に進行するため、緻密化と球形状維持という二律背反した目的を、焼結時間で制御することが困難になる。上記適正温度と時間の範囲内でも、高温であれば短時間で緻密化し、低温で緻密化するにはより長い時間が必要となる。
【0031】
緻密化をバッチ仕込み炉で行った場合は、炉体が、高温仕様であるために高断熱化されているので、目的温度に到達するまでに長時間を必要とする一方、一旦高温にすると電力を切っても中々冷めにくいので、バッチ仕込み炉では焼結温度と焼結時間の厳密な制御が難しくなる。これに対し、プッシャー炉タイプの焼結炉を使用した場合には、炉内滞留焼結時間を、搬送スピードを調整することによって任意に設定でき、本目的に適った焼結温度と焼結時間の制御が可能になるので、この場合は、本発明の好ましい実施態様である。
【0032】
なお、ここで言うプッシャー炉とは、加熱手段を備え目的温度に加熱されたアルゴン雰囲気となっている空間内を、多孔質球状粒子を移動通過させ、その通過時間内で焼結させる炉のことを言う。この場合、多孔質球状粒子の移動は、連続又は間歇の何れの移動方法でも良い。更に、多孔質球状粒子は耐熱性框鉢に充填されていても良いが、移動床に直接搭載されていてもいい。焼結時間はこの炉内滞留時間即ち移動速度を調整することによって制御される。
【0033】
このようにすれば、緻密化し粒子同士の融着が少ない球状炭化ケイ素粒子が得られるが、一部には粒子同士が弱く融着した粒子集合体も形成される。前記本発明の製造条件に従えば、融着は弱いので、気流式篩、振動篩、超音波篩、攪拌解砕機等の弱い解散手段で処理することにより、独立した球状粒子とすることが出来る。逆に乳鉢、ボールミル、衝撃解砕機、ジェットミル等の強力な解砕手段を用いた場合には、炭化ケイ素粒子が粉砕されるので球形状を維持することができない。
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
平均粒径が0.6μmのα結晶型炭化ケイ素粉末800g、水1200g、焼結助剤である炭化ホウ素(B4C)12g、炭素(C)11g、及び、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム塩が主成分であるセルナD-305(中京油脂株式会社製))を16g混ぜたスラリーをスプレードライし、図1に示した、多孔質球状炭化ケイ素粒子588gを得た。この粒子の細孔径が1μm以下の内部細孔体積は0.305cc/gで、比表面積は15.2m2/gであった。
得られた多孔質粒子を框鉢に入れてプッシャー炉に導入し、2,200℃で3.0時間掛けて焼結した後、気流式篩で5分間解砕し、図2に示した炭化ケイ素球状粒子を得た。
この球状粒子の平均粒径は35.2μmであり(図4)、X線回折によってα型炭化ケイ素であることが確認された。また、細孔径が1μm以下の内部細孔体積は0.001cc/g、比表面積は0.10m2/g、平均(短径/長径)アスペクト比は0.82であった。
【実施例2】
【0035】
実施例1で使用した水を4,800gとしたこと以外は実施例1と同様にして、得られた多孔質粒子を框鉢に入れ、プッシャー炉に導入して2,200℃で3.0時間焼結した後、気流式篩で5分間解砕してα型の炭化ケイ素球状粒子を得た。
この球状粒子の平均粒径は21.7μm(図5)、細孔径が1μm以下の内部細孔体積は0.005cc/g、比表面積は0.26m2/g、であり、平均(短径/長径)アスペクト比は0.75であった。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様にして得られた多孔質粒子を框鉢に入れ、プッシャー炉に導入して1,800℃で5時間焼結して炭化ケイ素球状粒子粉を得た。
この球状粒子の平均粒径36.1μmであり(図6)、X線回折からα型炭化ケイ素であることが確認された。しかしながら、この場合の細孔径が1μm以下の内部細孔体積は0.050cc/g、比表面積は1.96m2/gであり、平均(短径/長径)アスペクト比は0.75であった。
【0037】
[比較例2]
実施例1で使用した原料炭化ケイ素粒子を、平均粒径が0.8μmのβ型結晶としたこと以外は実施例1と同様にして、得られた多孔質粒子を框鉢に入れ、プッシャー炉に導入して2,200℃で3時間焼結した。
得られた粒子形状は図3に示した通りであり、球形状を維持することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の炭化ケイ素は、各種ポリマーとの複合体とする場合に高密度に充填することができ、該複合体の高硬度性、高熱伝導性、高温耐熱性をより改善することができる上、焼結構造体を得る場合には、前工程である塑性成形工程や鋳込み成形工程で、高密度に炭化ケイ素が充填された前駆体を得ることが可能になり、焼結体の密度を高めることができるので、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5〜60μmで細孔径が1μm以下の内部細孔体積が0.02cc/g以下、且つ、比表面積が1m2/g以下で平均(短径/長径)アスペクト比が0.65以上であることを特徴とする球状α型炭化ケイ素。
【請求項2】
少なくとも、(1)平均粒径が1μm以下でα型結晶である原料炭化ケイ素のスラリーをスプレイドライして多孔質で球状の粒子を得る工程、及び、(2)得られた多孔質で球状の粒子を焼結する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載された球状α型炭化ケイ素の製造方法。
【請求項3】
前記焼結を1,900〜2,300℃で行う、請求項2に記載された球状α型炭化ケイ素の製造方法。
【請求項4】
前記焼結を1〜5時間行う、請求項3に記載された球状α型炭化ケイ素の製造方法。
【請求項5】
更に(3)の工程として、焼結して得られた粒子の内、融着した粒子集合体を解砕する工程を含む、請求項2〜4の何れかに記載された球状α型炭化ケイ素の製造方法。
【請求項6】
前記焼結を、プッシャー炉を用いて行う、請求項2〜5の何れかに記載された球状α型炭化ケイ素の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載された球状α型炭化ケイ素を原料として製造してなることを特徴とする焼結体又は有機樹脂複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−95637(P2013−95637A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240305(P2011−240305)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(595073432)信濃電気製錬株式会社 (10)
【Fターム(参考)】