説明

球状シリカ系メソ多孔体、それを用いた触媒及び吸着材

【課題】触媒や吸着材として用いた場合に、基質や吸着物質に対して高い選択性を発揮することができ、十分に高い触媒性能又は吸着性能を発揮することが可能な球状シリカ系メソ多孔体を提供すること。
【解決手段】平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、
スルホン酸基、カルボン酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する第一の有機基、並びに、脂肪族化合物系有機基及び環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種の第二の有機基が導入されていることを特徴とする球状シリカ系メソ多孔体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シリカ系メソ多孔体、それを用いた触媒並びに吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な物質を吸着、貯蔵等するための材料や触媒等として、孔径1〜50nm程度のメソサイズの細孔(メソ孔)を有するシリカ系メソ多孔体が注目されており、機能開発の研究が積極的に行われている。そして、このようなシリカ系メソ多孔体としては、スルホン酸基やアミノ基等を導入したシリカ系メソ多孔体が報告されている。
【0003】
このようなスルホン酸基が導入されたシリカ系メソ多孔体としては、例えば、MCMやHMS等のシリカ系メソ多孔体にスルホン酸が導入されたもの(W.M.V.Rhijn,et al.,Chem.Commun.,1998年発行、第317〜318頁(非特許文献1))や、前述のようなシリカ系メソ多孔体に強力な酸であるフッ素系スルホン酸が導入されたもの(D.J.Macquarrie,et al.,Chem.Commun.,2005年発行、第2363〜2365頁(非特許文献2)参照)が知られている。
【0004】
また、アミノ基が導入されたシリカ系メソ多孔体としては、例えば、特開2003−112051号公報(特許文献1)において、ケイ素原子にアミノ基が直接結合したシリカ系メソ多孔体が開示され、FSM−16にアミノ基が導入されたシリカ系メソ多孔体が開示されている。
【0005】
また、シリカ系メソ多孔体のとしては、例えば、テトラエトキシシランとセチルトリメチルアンモニウム塩を用いて細孔を放射状に配列させて得られるシリカ系メソ多孔体が知られている(G.Van Tendeloo,O.I.Lebedev,O.Collart, P.CoolandE.F.Vansant,”J.Phys.Condens.Matter”,Vol.15,2003年,p3037−p3046(非特許文献3))。更に、特開2005−89218号公報(特許文献2)においては、特定の溶媒中において、シリカ原料と特定の界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程とを含む製造方法により得られる球状シリカ系メソ多孔体が開示されている。また、共重合法により、2種類の極性の異なる有機基(例えば3−〔2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ〕プロピル基とウレイドプロピル基等)が導入されたシリカ系メソ多孔体等も報告されている(Seong Huh, et al., J.Am.Chem.Soc.,Vol.126,2004年発行 p1010〜p1011(非特許文献4)参照)。
【0006】
しかしながら、非特許文献1〜4及び特許文献1〜2に記載のような球状シリカ系メソ多孔体においては、これを触媒として用いた場合に必ずしも十分な触媒活性を発揮することができなかった。
【特許文献1】特開2003−112051号公報
【特許文献2】特開2005−89218号公報
【非特許文献1】W.M.V.Rhijn,et al.,Chem.Commun.,1998年発行、第317〜318頁
【非特許文献2】D.J.Macquarrie,et al.,Chem.Commun.,2005年発行、第2363〜2365頁
【非特許文献3】G.Van Tendeloo,O.I.Lebedev,O.Collart, P.CoolandE.F.Vansant,”J.Phys.Condens.Matter”,Vol.15,2003年,p3037−p3046
【非特許文献4】Seong Huh, et al., J.Am.Chem.Soc.,Vol.126,2004年発行 p1010〜p1011
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、触媒や吸着材として用いた場合に、基質や吸着物質に対して高い選択性を発揮することができ、十分に高い触媒性能又は吸着性能を発揮することが可能な球状シリカ系メソ多孔体、並びに、それを用いた触媒及び吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、特定の官能基を有する第一の有機基、並びに、特定の第二の有機基が導入されている球状シリカ系メソ多孔体により、触媒や吸着材として用いた場合に、基質や吸着物質に対して高い選択性を発揮することができ、十分に高い触媒性能又は吸着性能を発揮することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、
スルホン酸基、カルボン酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する第一の有機基、並びに、脂肪族化合物系有機基及び環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種の第二の有機基が導入されていることを特徴とするものである。
【0010】
上記本発明にかかる第一の有機基としては、炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい鎖式炭化水素基、又は炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基に、前記官能基が結合したものであることが好ましく、更に、前記第一の有機基が、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基、ビニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基及びプリン基からなる群から選択される少なくとも1種の基に、前記官能基が結合したものであることがより好ましい。
【0011】
また、上記本発明にかかる第二の有機基としては、炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい脂肪族化合物系有機基、及び炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、更に、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基、ビニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基、プリン基、並びに、
これらの基に、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基を有する有機基が結合した基、
からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の触媒は、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の吸着材は、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とするものである。
【0014】
なお、本発明の球状シリカ系メソ多孔体によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、非特許文献1〜3や特許文献1〜2に記載の従来のシリカ系メソ多孔体においては、基質や吸着物質を効率よく取り込むことができないため、必ずしも十分な活性等を発揮できないものと推察される。また、非特許文献1〜4や特許文献1に記載の従来のシリカ系メソ多孔体においては、粒径が不揃いで、細孔の方向が不規則であるため、基質や吸着物質を取り込んだ後に細孔内を移動させることが困難であるとともに、細孔の閉塞が生じる場合があり、触媒等に使用した場合に必ずしも十分な活性を発揮できないものと推察される。一方、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、その平均粒径が0.01〜3μmであり、且つ放射状細孔を有する。このように、本発明においては、前記球状シリカ系メソ多孔体の平均粒径が0.01〜3μmであることから、その内部へ効率的に反応物を拡散させることができ、十分に高い触媒特性が発揮される。また、本発明においては、前述のように細孔が放射状であることから、外表面が少なく触媒や吸着材に適した構造となるとともに、基質や生成物等の物質移動が容易となるため、十分に高い活性が発揮される。更に、物質移動が容易であることから、細孔の閉塞も十分に防止され、高い活性を維持できるものと推察される。また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、特定の基質と親和性の高い第二の有機基を導入するとともに、特定の基質と触媒反応を効率的に起こすことが可能な第一の有機基を導入することが可能である。従って、本発明の球状シリカ系メソ多孔体を触媒として利用した場合には、第二の有機基によって選択性高く特定の基質を取り込むことができるとともに、第一の有機基が有する官能基によって、より効率的に触媒反応を進行させることができ、十分に高い触媒性能が発揮される。また、球状シリカ系メソ多孔体は、吸着材として利用する場合に、吸着物質と親和性の高い第二の有機基を導入し、吸着物質が化学的に結合することが可能な第一の有機基を導入することで、第二の有機基を吸着物質の選択点として機能させ、第一の有機基を吸着点として機能させることが可能となり、高い吸着性能が発揮されるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒や吸着材として用いた場合に、基質に対して高い選択性を発揮することができ、十分に高い触媒性能又は吸着性能を発揮することが可能な球状シリカ系メソ多孔体、並びに、それを用いた触媒及び吸着材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の球状シリカ系メソ多孔体について説明する。すなわち、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、
スルホン酸基、カルボン酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する第一の有機基、並びに、脂肪族化合物系有機基及び環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種の第二の有機基が導入されていることを特徴とするものである。
【0018】
このような第一の有機基としては、
(i)炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい鎖式炭化水素基、又は、
(ii)炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基に、
前記官能基が結合したものが好ましい。
【0019】
このような鎖式炭化水素基(i)又は環式炭化水素基(ii)の炭素数が前記上限を超えると、細孔容量が少なくなり、細孔内での物質移動や触媒反応及び吸着が起こりにくくなる傾向にある。また、このような鎖式炭化水素基(i)又は環式炭化水素基(ii)は、得られる球状シリカ系メソ多孔体の用途等に応じて適宜選択されるものであり、特に制限されるものではない。
【0020】
また、このような鎖式炭化水素基(i)としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基又はビニル基が好ましい。
【0021】
また、環式炭化水素基(ii)としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基又はプリン基が好ましい。
【0022】
また、このような第一の有機基においては、鎖式炭化水素基(i)又は環式炭化水素基(ii)がヘテロ原子を有する他の有機基(例えば、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基、エーテル基等のヘテロ原子を含む他の官能基を有する有機基等)を更に有していてもよい。
【0023】
さらに、本発明にかかる官能基としてアミノ基を有する場合の第一の有機基としては、1級、2級及び3級のいずれであってもよい。また、本発明にかかる官能基としてアミノ基を有する場合、第一の有機基は、前述のピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基又はプリン基のように、環式炭化水素基(ii)中にアミノ基が含有されているものであってもよい。また、このようなアミノ基を有する第一の有機基としては、分子内に2つ以上のアミンを有しているものであってもよく、例えば、2つのアミンを有しているものとしてN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピル基等が挙げられ、3つのアミンを有しているものとして3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル基等が挙げられる。
【0024】
また、本発明にかかる第二の有機基は、脂肪族化合物系有機基及び環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種であればよく、特に制限されない。このような脂肪族化合物系有機基としては、炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい脂肪族化合物系有機基が好ましい。このような脂肪族化合物系有機基の炭素数が前記上限を超えると、細孔が小さくなり、基質や吸着物質が細孔に入りにくくなる傾向にある。
【0025】
また、前記環式化合物系有機基としては、炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式化合物系有機基が好ましい。このような環式化合物系有機基の炭素数が前記上限を超えると、細孔が小さくなり、基質や吸着物質が細孔に入りにくくなる傾向にある。
【0026】
また、このような脂肪族化合物系有機基又は環式化合物系有機基としては、得られる球状シリカ系メソ多孔体の用途等に応じて適宜選択されるものであり、特に制限されるものではないが、前記脂肪族化合物系有機基としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基、ビニル基、又は、これらの脂肪族化合物系有機基に、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基を有する有機基が結合した基がより好ましい。また、前記環式化合物系有機基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基、プリン基、又は、これらの環式化合物系有機基に、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基を有する有機基が結合した基がより好ましい。例えば、基質や吸着物質が疎水性を有している場合においては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基等が好適に用いられ、基質や吸着物質が親水性を有している場合においては、前記脂肪族化合物系有機基又は環式化合物系有機基に、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基を有する有機基が結合した基等が好適に用いられる。
【0027】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の平均粒径は、0.01〜3μmである。このような平均粒径が0.01μm未満では、粒子が凝集してしまい、反応効率が低くなり、他方、3μmを超えると、球状粒子が形成しにくくなると同時に触媒として使用した場合に触媒内部への反応物の拡散に時間がかかり反応効率が低くなる。
【0028】
さらに、本発明においては、球状シリカ系メソ多孔体の全粒子の90重量%以上が、前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有していることが好ましい。前記平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有している粒子が全粒子の90重量%未満では、粒子の凝集が多くなるため反応効率が低下する傾向にある。
【0029】
また、本発明においては、球状シリカ系メソ多孔体は放射状細孔を有している。また、放射状細孔とは、細孔が中心部から外側に向かって放射状に配列されている、いわゆるラジアル型構造を有する細孔である。このように、細孔が規則性を保ちながら粒子の中心部から外側に向かって配置されていることにより、外表面が少なくなり触媒や吸着剤として適した構造となる。なお、球状シリカ系メソ多孔体がいわゆるラジアル型構造を有していることは、細孔内に金や白金等の金属を導入し、その断面を走査型電子顕微鏡により観察することによって確認することが可能である。また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体における細孔の全てが中心部から外側に向かって放射状に配列されている必要はなく、全ての細孔のうち50%以上(より好ましくは70%以上)がこのように配列されていることが好ましい。このように球状シリカ系メソ多孔体が放射状細孔を有していることにより、外表面が少なくなり細孔が内部まで有効に利用できることとなる。
【0030】
さらに、このような放射状細孔の中心細孔直径は1nm〜10nm(より好ましくは1nm〜5nm)である。中心細孔直径が1nm未満では、かさ高い分子の反応物に対しては十分な酸触媒性能を発揮することができない。他方、前記中心細孔直径が10nmを超えると、球状粒子を形成することが困難になる傾向にある。
【0031】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体としては、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれるものが好ましい。このような条件を満たす球状シリカ系メソ多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。ここで、中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径である。なお、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、シリカ系メソ多孔体粒子を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Dollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0032】
なお、本発明でいう「球状」とは、真の球体に限定されるものではなく、最小直径が最大直径の80%以上(好ましくは90%以上)である略球体も包含するものである。また、略球体の場合、その粒径は原則として最小直径と最大直径との平均値をいう。
【0033】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、ケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格−Si−O−を基本とし、高度に架橋した網目構造を有している。このような球状シリカ系メソ多孔体は、ケイ素原子及び酸素原子を主成分とするものであればよく、ケイ素原子の少なくとも一部が有機基の2箇所以上で炭素−ケイ素結合を形成しているものでもよい。
【0034】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体の比表面積については特に制限はないが、700m/g以上であることが好ましい。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0035】
さらに、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、そのX線回折パターンにおいて1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0036】
また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体が有する細孔は、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。かかる多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造又はキュービック構造であることが好ましい。また、このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
【0037】
ここで、多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki,et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,680,1993;S.Inagaki,et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449,1996、Q.Huo,et al.,Science,268,1324,1995参照)。また、多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli,et al.,Chem.Mater.,6,2317,1994;Q.Huo,et al.,Nature,368,317,1994参照)。また、多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev,et al.,Science,267,865,1995;S.A.Bagshaw,et al.,Science,269,1242,1995;R.Ryoo,et al.,J.Phys.Chem.,100,17718,1996参照)。また、前記キュービック構造は、Pm−3n、Im−3m又はFm−3m対称性であることが好ましい。前記対称性とは、空間群の表記法に基づいて決定されるものである。
【0038】
このような球状シリカ系メソ多孔体は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP等が好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、たとえば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。また、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、形状が球状で放射状細孔のため高い触媒作用を示し、また、前記第1の有機基と前記第2の有機基がシリケート中のシリカに配位して導入する際に、特定の基質と親和性の高い第二の有機基を導入するとともに、特定の基質と触媒反応を効率的に起こすことが可能な第一の有機基を導入することで、高い触媒活性を発揮させることが可能であるため、触媒材料として非常に有用である。例えば、Friedel−Craftsアルキル化及びアシル化反応、Mukaiyama−Aldol反応、Diels−Alder反応、エステルの加水分解等に用いる触媒として利用すること等が挙げられる。更に、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、吸着物質と親和性の高い第二の有機基を導入し、吸着物質が化学的に結合することが可能な第一の有機基を導入することで、第二の有機基を吸着物質の選択点として機能させ、第一の有機基を吸着点として機能させることが可能であるため、吸着材としても非常に有用である。
【0039】
次に、このような本発明の球状シリカ系メソ多孔体を製造することが可能な方法として好適な方法について説明する。
【0040】
このような球状シリカ系メソ多孔体を製造することが可能な方法として好適な方法は、基本的には、
溶媒中において、界面活性剤と、第一のシリカ原料及び第二のシリカ原料を含むシリカ原料の混合物とを混合し、シリカ中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を析出させる第1の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれている前記界面活性剤を除去する第2の工程と、
を含む方法である。そして、このような球状シリカ系メソ多孔体を製造する方法においては、第一のシリカ原料が第一の有機基の前駆体を含むものである場合には、前記前駆体を第一の有機基に変換する処理を施す第3の工程を更に含む。以下、工程ごとに説明する。
【0041】
(第1の工程)
第1の工程は、溶媒中において、界面活性剤と、第一のシリカ原料及び第二のシリカ原料を含むシリカ原料の混合物とを混合し、前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を析出させる工程である。
【0042】
ここで、「析出」という用語は、反応溶液のX線回折測定により、ヘキサゴナル細孔の100面の回折ピークが出現し始めた時を析出の開始時期とし、前記回折ピークが徐々に増加して一定値になった時を析出の終了時期として定義する。
【0043】
このような第一のシリカ原料は、第一の有機基又は第一の有機基の前駆体が導入されたケイ素酸化物(ケイ素複合酸化物を含む)を形成することが可能なものであればよく、特に制限されない。このような第一の有機基の前駆体は、スルホン酸、カルボン酸基又はアミノ基に変換させることが可能な官能基を有する有機基であればよく、例えば、メルカプト基及びシアノ基からなる群から選択される官能基が、前述の鎖式炭化水素基(i)又は環式炭化水素基(ii)に結合した有機基が挙げられる。
【0044】
また、このような第一のシリカ原料としては、第一の有機基又は第一の有機基の前駆体を有する第一のアルコキシシランが挙げられる。
【0045】
このような第一のアルコキシシランとしては、第一の有機基又は第一の有機基の前駆体の他にアルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、第一の有機基又は第一の有機基の前駆体の他にアルコキシ基を2個有するジアルコキシシラン等を適宜用いることができる。このようなアルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のようにアルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないもの(炭素数として1〜4程度のもの)が反応性の点から有利である。
【0046】
このような第一のアルコキシシランとしては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アニリン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−(4−クロロスルフォニルフェニル)−エチルトリメトキシシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、2−トリメトキシシリルピリジン、3−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、3−トリメトキシシリルピリジン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、3−(アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、N−3−[アミノ(ポリプロピレンオキシ)]アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメチルシリル)シトシン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−シアノエチルトリエトキシシラン、N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アニリン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリエトキシシラン、3−(メチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2−(4−クロロスルフォニルフェニル)−エチルトリエトキシシラン、N−(トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、2−(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、2−トリエトキシシリルピリジン、3−(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、3−トリエトキシシリルピリジン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリエトキシシラン、3−(アミノフェノキシ)プロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、N−3−[アミノ(ポリプロピレンオキシ)]アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエチルシリル)シトシン等が挙げられる。
【0047】
また、前記第二のシリカ原料は、前記第二の有機基が導入されたケイ素酸化物(ケイ素複合酸化物を含む)を形成することが可能なものであればよく、特に制限されない。このような第二のシリカ原料としては、第二の有機基を有する第二のアルコキシシランが挙げられる。
【0048】
このような第二のアルコキシシランは、第二の有機基を有するアルコキシシランであればよく、特に制限されず、例えば、第二の有機基の他にアルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、第二の有機基の他にアルコキシ基を2個有するジアルコキシシランを用いることができる。このような第二のアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(1−ナフチル)トリエトキシシラン、[2−(シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキジメチルフェニルシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、フェニルエチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
また、第一のシリカ原料及び第二のシリカ原料を含むシリカ原料の混合物においては、第一の有機基及び第二の有機基を有していない他のシリカ原料を更に添加することが好ましい。このような他のシリカ原料としては特に制限されず、第一の有機基及び第二の有機基を有していないアルコキシシランを好適に用いることができる。このような他のシリカ原料としてのアルコキシシランとしては、アルコキシ基を4個有するテトラアルコキシシラン、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシランを用いることができる。このようなアルコキシ基は第一のアルコキシシランにおいて説明したものと同様のものが用いられる。また、前記アルコキシシランが有するアルコキシ基が3又は2個である場合は、アルコキシシラン中のケイ素原子には、第一の有機基及び第二の有機基以外の有機基、水酸基等が結合していてもよい。このような第一の有機基及び第二の有機基を有していない他のシリカ原料としては特に制限されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
このような第一の有機基及び第二の有機基を有していない他のシリカ原料は、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。また、このような第一の有機基を有していない他のシリカ原料においては、上述のようなアルコキシ基を2〜4個有するアルコキシシランに、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシランを組み合わせて使用することも可能である。
【0051】
さらに、前記第一のシリカ原料、第二のシリカ原料及び前記他のシリカ原料は、加水分解によりシラノール基を生じ、生じたシラノール基同士が縮合することによりケイ素酸化物が形成される。この場合において、分子中のアルコキシ基の数が多いアルコキシシランは、加水分解及び縮合で生じる結合が多くなる。したがって、本発明において、前記他のシリカ原料としては、アルコキシ基の多いテトラアルコキシシランを用いることが好ましい。このようなテトラアルコキシシランとしては、反応速度の観点からテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランを用いることが特に好ましい。
【0052】
また、前記第一のシリカ原料及び第二のシリカ原料を含むシリカ原料の混合物として、前記第一のシリカ原料と、前記第二のシリカ原料と、前記他のシリカ原料を混合した混合物を用いる場合においては、混合物中における第一のアルコキシシランの含有比率は、混合物の全量に対して0.1〜20モル%であることが好ましい。第一のアルコキシシランの含有比率が前記下限未満では、触媒及び吸着性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔が閉塞し、細孔内に基質又は吸着物質が入りにくくなり、触媒及び吸着性能が低下する傾向にある。また、前記混合物中の第二のアルコキシシランの含有比率は、混合物の全量に対して0.1〜20モル%であることが好ましい。第二のアルコキシシランの混合比が前記下限未満では、基質や吸着物質に対する選択性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔が閉塞し、細孔内に基質又は吸着物質が入りにくくなる傾向にある。なお、このような混合物の製造方法は特に制限されず、例えば、乾燥窒素気流中で第一のアルコキシシランと、第二のアルコキシシランと、第一の有機基及び第二の有機基を有していない他のシリカ原料とを混合する方法を採用することができる。
【0053】
また、第1の工程において用いられる界面活性剤は特に制限されず、球状シリカ系メソ多孔体を製造する際に用いることが可能な公知の界面活性剤を適宜用いることができる。また、このような界面活性剤としては、下記一般式(1):
【0054】
【化1】

【0055】
[式中、R1、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは7〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドが好ましい。
【0056】
前記一般式(1)中のR、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す。このようなアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、これらが一分子中に混在してもよいが、界面活性剤分子の対称性の観点からR、R、Rは全て同一であることが好ましい。界面活性剤分子の対称性が優れる場合は、界面活性剤同士の凝集(ミセルの形成等)が容易となる傾向にある。更に、R、R、Rのうち少なくとも1つはメチル基であることが好ましく、R、R、Rの全てがメチル基であることがより好ましい。
【0057】
また、一般式(1)におけるnは7〜25の整数を示し、9〜17の整数であることがより好ましい。前記nが6以下であるアルキルアンモニウムハライドでは、球状の多孔体は得られなくなる傾向にあるとともに、中心細孔直径が1.0nmより小さくなってしまい、細孔内での触媒反応性が低下する傾向にある。他方、前記nが26以上のアルキルアンモニウムハライドでは、界面活性剤の疎水性相互作用が強すぎるため、層状の化合物が生成してしまい、球状の多孔体を得ることができなくなる。
【0058】
さらに、一般式(1)におけるXはハロゲン原子を示し、このようなハロゲン原子の種類は特に制限されないが、入手の容易さの観点からXは塩素原子または臭素原子であることが好ましい。
【0059】
したがって、上記一般式(1)で表される界面活性剤としては、R、R、Rの全てがメチル基でありかつ炭素数10〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウムハライドであることが好ましく、中でもデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、エイコシルトリメチルアンモニウムハライド、ドコシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましい。
【0060】
このような界面活性剤は、前記シリカ原料と共に溶媒中で複合体を形成する。複合体中のシリカ原料は反応によりケイ素酸化物へと変化するが、界面活性剤が存在している部分ではケイ素酸化物が生成しないため、界面活性剤が存在している部分に孔が形成されることになる。すなわち、界面活性剤はシリカ原料中に導入されて孔形成のためのテンプレートとして機能する。本発明において、界面活性剤は1種類もしくは2種類以上を組み合わせて用いることが可能であるが、上記のように界面活性剤はシリカ原料の反応生成物に孔を形成させる際のテンプレートとして働き、その種類は多孔体の孔の形状に大きな影響を与えるため、より均一な球状多孔体が得るためには、界面活性剤は1種類のみを用いることが好ましい。
【0061】
また、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を合成する際には、前記溶媒として、アルコールの含有量が80容量%以下の水系溶媒を用いることが好ましい。アルコールの含有量が80容量%を超える場合は、粒径及び粒径分布の制御が困難となり、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる。また、均一な球状体の発生及び成長の実現を可能とし、得られる多孔体前駆体粒子の粒径を高度に均一に制御することが可能となるという観点からは、アルコールの含有量が10〜80容量%の混合溶媒を用いることが更に好ましい。アルコールの含有量が10容量%未満の場合においては、粒径及び粒径分布の制御が困難となり、得られる多孔体前駆体粒子の粒径の均一性が低くなる傾向にある。なお、このような比較的多量のアルコールを含有する水系溶媒を使用することにより、均一な球状体の発生及び成長が実現され、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径が高度に均一に制御されることとなる。
【0062】
また、本発明においては、前記水系溶媒中の水とアルコールとの比率を変化させることにより、粒径の均一性を高水準に保持しつつ、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径を容易に制御することができる。すなわち、水の比率が高い場合は多孔体が析出し易くなるために粒径が小さくなり、逆にアルコールの比率が高い場合は大きい粒径の多孔体を得ることができる。
【0063】
さらに、前記シリカ原料の混合物および前記界面活性剤を前記水系溶媒中で混合して多孔体前駆体粒子を得る際に、上述した界面活性剤の濃度を溶液の全容量を基準として0.0001〜0.03mol/L(より好ましくは、0.0005〜0.02mol/L)とすることが好ましく、上述したシリカ原料の混合物の濃度を溶液の全容量を基準として0.0005〜0.03mol/L(好ましくは、0.003〜0.015mol/L)とすることが好ましい。このように界面活性剤及びシリカ原料の濃度を厳密に制御することによって、前述の水系溶媒を使用することと相俟って均一な球状体の発生及び成長が実現され、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径が高度に均一に制御されることとなる。界面活性剤の濃度が0.0001mol/L未満の場合は、テンプレートとなるべき界面活性剤の量が不足するために良好な多孔体を得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる傾向にある。他方、界面活性剤の濃度が0.03mol/Lを超える場合は、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる傾向にある。また、シリカ原料の混合物の濃度が0.0005mol/L未満の場合は、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる傾向にある。他方、シリカ原料の混合物の濃度が0.03mol/Lを超える場合は、テンプレートとなるべき界面活性剤の比率が不足するために良好な多孔体を得ることができず、更に粒径及び粒径分布の制御が困難となって得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の均一性が低くなる傾向にある。
【0064】
また、前記シリカ原料の混合物及び前記界面活性剤を混合する際には、塩基性条件下で混合することが好ましい。シリカ原料は、一般に塩基性条件下においても酸性条件下においても反応が生じケイ素酸化物へと変化するが、シリカ原料の混合物と界面活性剤の濃度を上述のように調整する場合には、その濃度が従来技術の方法に比較してかなり低いものとなっており、酸性条件下では反応がほとんど進行しない。従って、このような観点からは、塩基性条件下でシリカ原料の混合物を反応させることが好ましい。なお、シリカ原料は、酸性条件で反応させる場合よりも塩基性条件で反応させる場合の方がケイ素原子の反応点が増加し、耐湿性や耐熱性等の物性に優れたケイ素酸化物を得ることができる。そのため、塩基性条件下で混合することは、この点においても有利である。
【0065】
また、このような塩基性溶媒のpH値としては、7.5〜13であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。このようなpH値が前記下限未満では、多孔体前駆体粒子の細孔形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔体前駆体粒子の析出量が低下してしまう傾向にある。また、このような塩基性溶媒のpH値を調整する方法は特に制限されないが、後述する溶媒に水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質を添加することでそのpH値を適宜調整する方法が挙げられる。
【0066】
前述の第1の工程における反応条件(反応温度、反応時間等)は特に制限されず、反応温度としては、例えば−20℃〜100℃(より好ましくは0℃〜80℃、より好ましくは10℃〜40℃)とすることが好ましい。また、反応は撹拌状態で進行させることが好ましい。具体的な反応条件は、用いるシリカ原料の種類等に基づいて決定することが好ましい。
【0067】
例えば、前記第一のシリカ原料と第二のシリカ原料と他のシリカ原料の混合物を用いる場合は、以下のようにして多孔体前駆体粒子を得ることができる。先ず、水とアルコールの混合溶媒に対して、界面活性剤及び塩基性物質を添加して界面活性剤を含有した塩基性溶液を調製し、この溶液に前記シリカ原料の混合物を添加する。このようにして添加された混合物は溶液中で加水分解(又は、加水分解及び縮合)し、添加後数秒〜数十分で多孔体前駆体粒子(白色粉末)が析出する。この場合において、反応温度は0℃〜80℃とすることが好ましく、10℃〜40℃とすることがより好ましい。また、溶液は撹拌することが好ましい。なお、このようにして得られる多孔体前駆体粒子は、そのシリカが第一の有機基及び/又は第一の有機基の前駆体、並びに第二の有機基により修飾されたものとなる。
【0068】
(第2の工程)
次に、第2の工程について説明する。第2の工程は、前記多孔体前駆体粒子に含まれている前記界面活性剤を除去する工程である。
【0069】
このような界面活性剤を除去する方法としては、例えば、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法等を挙げることができる。このような有機溶媒で処理する方法を採用する場合においては、用いた界面活性剤に対する溶解度が高い良溶媒中に多孔体前駆体粒子を浸漬して界面活性剤を抽出する。イオン交換法を採用する場合においては、多孔体前駆体粒子を酸性溶液(少量の塩酸を含むエタノール等)に浸漬し、例えば50〜70℃で加熱しながら撹拌を行う。これにより、多孔体前駆体粒子の孔中に存在する界面活性剤が水素イオンでイオン交換される。なお、イオン交換により孔中には水素イオンが残存することになるが、水素イオンのイオン半径は十分小さいため孔の閉塞の問題は生じない。
【0070】
このようにして得られる球状シリカ系メソ多孔体は、平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、第一の有機基及び/又は第一の有機基の前駆体と、第二の有機基とが導入された球状シリカ系メソ多孔体となる。そして、このような球状シリカ系メソ多孔体中のシリカに第一の有機基が導入されている場合には、このような第2の工程により、本発明の球状シリカ系メソ多孔体が得られる。他方、このような球状シリカ系メソ多孔体中のシリカに第一の有機基の前駆体が導入されている場合には、以下において説明する第3の工程を施すことで、本発明の球状シリカ系メソ多孔体が得られる。
【0071】
(第3の工程)
第3の工程は、球状シリカ系メソ多孔体中のシリカに導入された第一の有機基の前駆体を、第一の有機基に変換する処理を施す工程である。
【0072】
このような第一の有機基の前駆体を第一の有機基に変換する方法としては、前記前駆体を第一の有機基に変換することが可能な方法であればよく、特に制限されず、第一の有機基の前駆体の種類及び変換する第一の有機基の種類等に応じて様々な方法を採用することができ、前記前駆体の官能基を、スルホン酸、カルボン酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基に変換させることが可能な公知の方法を適宜採用してもよい。
【0073】
このような第一の有機基に変換する処理としては、例えば、第一の有機基の前駆体の官能基がメルカプト基であり、これをスルホン酸基に変換する場合には、酸化剤を用いて酸化せしめる方法を採用することができる。このような酸化剤を用いて酸化する方法としては特に制限されず、酸化剤を用いてメルカプト基を酸化してスルホン酸基に変換することが可能な方法であればよい。また、前記酸化剤としては、メルカプト基を酸化してスルホン酸基に変換することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、過酸化水素、硝酸、硫酸、クラウンエーテル等が挙げられる。このような酸化剤の中でも、反応性の高さ、細孔の保持等の観点から、過酸化水素が好ましい。また、このような酸化剤を用いて酸化する方法における反応温度、反応時間等の条件は特に制限されるものではないが、反応温度は100℃以下(より好ましくは10〜80℃)であることが好ましく、反応時間は30分〜6時間以内であることが好ましい。このような反応温度及び反応時間が前記下限未満では、メルカプト基の酸化が起こりにくく、メルカプト基を酸化してスルホン酸基に変換することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、球状シリカ系メソ多孔体の細孔が一部崩壊し、酸触媒として利用した場合に酸触媒性能が低下する傾向にある。
【0074】
また、このような第一の有機基に変換する処理としては、第一の有機基の前駆体の官能基がシアノ基であり、これをカルボン酸基に変換する場合においては、酸化剤を用いて酸化せしめる方法を採用することができる。このような酸化剤としては、シアノ基を酸化してカルボン酸基に変換することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、硫酸、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸や過酸化水素、クラウンエーテル等が挙げられる。このような酸化剤の中でも、反応性の高さ、細孔の保持等の観点から、硫酸が好ましい。また、このような酸化剤を用いて酸化する方法における反応温度、反応時間等の条件は特に制限されるものではないが、濃度が1mol/L以上の硫酸を用いる場合は、25〜150℃(より好ましくは50〜130℃)の温度条件で1〜24時間程度、加熱還流することが好ましい。
【0075】
また、第一の有機基の前駆体の官能基がクロロスルフォニルフェニル基であり、これをスルホン酸基に変換する場合には、前述の第3の工程において酸性溶液を用いて界面活性剤を抽出し、この時に併せて前記酸性溶液によりスルホン酸基に交換する方法を採用してもよい。
【0076】
以上、本発明の球状シリカ系メソ多孔体について説明したが、以下、本発明の触媒について説明する。
【0077】
本発明の触媒は、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とするものである。本発明の触媒においては、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体を用いているため、触媒反応の基質の種類等に応じて第一の有機基と第二の有機基の種類をそれぞれ選択することによって、第二の有機基が基質の吸着点として機能し、第一の有機基が活性点として機能するような所望の設計の触媒とすることができる。そのため、このような本発明の触媒によれば、特定の基質を選択性高く吸着して、効率よく触媒反応させることが可能となる。
【0078】
また、本発明の触媒においては、第二の有機基として、基質との親和性が高く且つ基質との相互作用が低いものを用いることが好ましい。第二の有機基として、基質との親和性が高く且つ基質との相互作用が低いものを用いることによって、基質をより選択性高く取り込むことが可能となるとともに、その基質をより効率よく内部に移動させることが可能となる傾向にある。なお、第二の有機基として、基質との親和性が低い有機基を選択した場合には、基質を細孔内に取り込むことが困難となる傾向にあり、また、第二の有機基として、基質と相互作用が強い有機基を選択した場合には、基質を移動させることが困難となる傾向にある。
【0079】
さらに、本発明の触媒は、第一の有機基がスルホン酸基又はカルボン酸基を有するものである場合においては、酸性触媒として好適に用いることができる。一方、第一の有機基がアミノ基を有するものである場合においては、塩基性触媒として好適に用いることができる。
【0080】
本発明の吸着材は、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とするものである。本発明の吸着材においては、上記本発明の球状シリカ系メソ多孔体を用いているため、吸着物質の種類に応じて第一の有機基と第二の有機基の種類をそれぞれ選択することによって、第二の有機基が吸着物質の選択点として機能し、第一の有機基が吸着点として機能するような所望の設計の吸着材とすることができる。そのため、このような本発明の吸着材によれば、特定の吸着物質を選択性高く取り込み、効率よく吸着させることが可能となる。
【0081】
また、本発明の吸着材においては、第二の有機基として吸着物質との親和性が高く、且つ相互作用が低いものを用いることが好ましい。第二の有機基として吸着物質との親和性が高く、且つ相互作用が低いものを用いることによって、吸着物質をより選択性高く取り込むことが可能となるとともに、その吸着物質をより効率よく内部に移動させることが可能となる傾向にある。なお、第二の有機基として、吸着物質との親和性が低い有機基を選択した場合には、吸着物質を細孔内に取り込むことが困難となる傾向にある。
【0082】
さらに、本発明の吸着材は、第一の有機基がスルホン酸基又はカルボン酸基を有するものである場合には、これらの官能基に化学結合する塩基性物質、生体物質、金属化合物等に対する吸着材として好適に用いることができる。一方、第一の有機基がアミノ基を有するものである場合においては、これらの官能基に化学結合する酸性物質、生体物質、金属化合物等に対する吸着材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1:〈第一の有機基〉3−プロピルスルホン酸基、〈第二の有機基〉プロピル基)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04gを水/メタノール混合溶液1600g(50/50=w/w)に溶解し、恒温水槽中で25℃に保って攪拌し、溶液を得た。次に、このようにして得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液6.84gを添加し、塩基性溶液を得た。次いで、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを添加した。このようにして前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加すると、数分で粒子の析出が見られ、白濁した。そして、前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加した後、約8時間攪拌し、一晩静置した。その後、前記塩基性溶液中で生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃の温度条件で一晩乾燥させ、シリカ中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得た。
【0085】
次に、前述のようにして得られた多孔体前駆体粒子1gをエタノール100mLに分散させ、塩酸1mLを加えてオイルバス中60℃で3時間攪拌して、界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃の温度条件で乾燥させて、シリカ系メソ多孔体を得た。なお、このようにして得られたシリカ系メソ多孔体は、多孔体中のシリカが3−メルカプトプロピル基及びプロピル基で修飾されたものであった。
【0086】
次いで、得られたシリカ系メソ多孔体0.5gを、30質量%過酸化水素水(酸化剤)10mlに添加し、50℃の温度条件で6時間攪拌することにより、導入されたメルカプト基をスルホン酸基に変換させた。そして、得られた粒子をろ過し、45℃の温度条件で乾燥させることによって、第一の有機基が3−プロピルスルホン酸基であり、第二の有機基がプロピル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0087】
(実施例2:〈第一の有機基〉3−プロピルスルホン酸基、〈第二の有機基〉フェニル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)/フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例1と同様にして、第一の有機基が3−プロピルスルホン酸基であり、第二の有機基がフェニル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0088】
(実施例3:〈第一の有機基〉3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉フェニル基)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04gを水/メタノール混合溶液1600g(50/50=w/w)に溶解し、恒温水槽中で25℃に保って攪拌し、溶液を得た。次に、このようにして得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液6.84gを添加し、塩基性溶液を得た。次いで、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)/フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを添加した。このようにして前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加すると、数分で粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。そして、前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加した後、約8時間攪拌し、一晩静置した。その後、前記塩基性溶液中で生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃の温度条件で一晩乾燥させ、シリカ中に界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得た。
【0089】
次に、前述のようにして得られた多孔体前駆体粒子1gをエタノール100mLに分散させ、塩酸1mLを加えてオイルバス中60℃で3時間攪拌することにより、界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃の温度条件で一晩乾燥させて、第一の有機基が3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がフェニル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0090】
(実施例4:〈第一の有機基〉3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉フェニル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)/フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)の混合物(モル比17/1/2)3.47×10−2molを用いた以外は実施例3と同様にして、第一の有機基が3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がフェニル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0091】
(実施例5:〈第一の有機基〉3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉プロピル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例3と同様にして、第一の有機基が3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がプロピル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0092】
(実施例6:〈第一の有機基〉3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉アリル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)/アリルトリメトキシシラン(ALTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例3と同様にして、第一の有機基が3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がアリル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0093】
(実施例7:〈第一の有機基〉N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉フェニル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)/フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例3と同様にして、第一の有機基がN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がフェニル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0094】
(実施例8:〈第一の有機基〉N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、〈第二の有機基〉プロピル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例3と同様にして、第一の有機基がN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基であり、第二の有機基がプロピル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0095】
(実施例9:〈第一の有機基〉:3−プロピルカルボキシル基、〈第二の有機基〉:フェニル基)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04gを水/メタノール混合溶液1600g(50/50=w/w)に溶解し、恒温水槽中で25℃に保って攪拌し、溶液を得た。次に、このようにして得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液6.84gを添加し、塩基性溶液を得た。次いで、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−シアノプロピルトリメトキシシラン(CPTMS)/フェニルトリメトキシシラン(PhTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを添加した。このようにして前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加すると、数分で粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。そして、前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加した後、約8時間攪拌し、一晩静置した。その後、前記塩基性溶液中で生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃の温度条件で一晩乾燥させ、シリカ中に界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得た。
【0096】
次に、前述のようにして得られた多孔体前駆体粒子1gをエタノール100mLに分散させ、塩酸1mLを加えてオイルバス中60℃で3時間攪拌することにより、界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃の温度条件で一晩乾燥させて、シリカ系メソ多孔体を得た。なお、このようにして得られたシリカ系メソ多孔体は、多孔体中のシリカが3−シアノプロピル基及びフェニル基で修飾されたものであった。
【0097】
次いで、18mol/Lの濃硫酸(酸化剤)6.3mlと水3.7mlとを混合して放置し、約50℃に冷却して調製した混合液中に、前述のようにして得られたシリカ系メソ多孔体0.5gを加えて100℃で6時間加熱還流し、シリカ系メソ多孔体中に導入されたシアノ基をカルボキシル基へ変換した。そして、得られた粒子をろ過し、45℃の温度条件で乾燥させることによって、第一の有機基が3−プロピルカルボキシル基であり、第二の有機基がフェニル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0098】
(実施例10:〈第一の有機基〉:3−プロピルカルボキシル基、〈第二の有機基〉:プロピル基)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−シアノプロピルトリメトキシシラン(CPTMS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比18/1/1)3.47×10−2molを用いた以外は実施例9と同様にして、第一の有機基が3−プロピルカルボキシル基であり、第二の有機基がプロピル基である本発明の球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0099】
(比較例1)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)7.04gを水とメタノールの混合溶液1600g(水/メタノール:50/50=w/w)に溶解し、恒温水槽中で25℃に保って攪拌し、溶液を得た。次に、得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液6.84gを添加し、塩基性溶液を得た。その後、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合して準備したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)の混合物(モル比:(TMOS)/(MPTMS)=9/1)3.47×10−2molを添加した。このようにして前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加すると、数分で粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。そして、前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加した後、約8時間攪拌し、一晩静置した。その後、前記塩基性溶液中で生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃の温度条件で一晩乾燥させて、界面活性剤が導入された多孔体粒子を得た。
【0100】
次に、得られた多孔体粒子1gをエタノール100mLに分散させた後、塩酸1mLを加え、オイルバス中60℃で3時間攪拌することにより、多孔体粒子から界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃で乾燥させて、3−メルカプトプロピル基により修飾されたシリカ系メソ多孔体を得た。
【0101】
次いで、得られたシリカ系メソ多孔体0.5gを30質量%過酸化水素水(酸化剤)10mlに添加し、50℃の温度条件で6時間攪拌することにより、メルカプト基をスルホン酸基に変換させた。その後、得られた粒子を、ろ過し、45℃の温度条件で乾燥させて、3−プロピルスルホン酸基により修飾された比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0102】
(比較例2)
シリカ原料としてテトラメトキシシラン(TMOS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比9/1)3.47×10−2molを用いた以外は比較例1と同様にして、プロピル基により修飾された比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0103】
(比較例3)
0.2mmol/Lの水酸化ナトリウム水溶液250mlにヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド8.00gを溶解して塩基性溶液を得た。次に、得られた塩基性溶液を攪拌しながら70℃まで昇温した。次いで、70℃に到達した後、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)/プロピルトリメトキシシラン(PTMS)の混合物(モル比18/1/1)2.50×10−2molを添加した。そして、前記シリカ原料の混合物を添加した前記塩基性溶液を70℃で3時間攪拌した後、2mol/LのHCl水溶液をpHが7.5となるまで滴下した。その後、HCl水溶液を滴下した溶液の攪拌を続け、2時間後にpH=7.5に再調整し、その1時間後に攪拌を止め、室温まで放冷した。次いで、前記溶液中で生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃で一晩乾燥させて、界面活性剤が導入された不定形シリカ多孔体の前駆体を得た。
【0104】
次に、得られた不定形シリカ多孔体の前駆体1gをエタノール100mLに分散させた後、塩酸1mLを加え、オイルバス中60℃で3時間攪拌することにより、多孔体粒子から界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃で乾燥させて、3−メルカプトプロピル基及びプロピル基により修飾された不定形シリカ多孔体を得た。
【0105】
次いで、得られたシリカ系メソ多孔体0.5gを30質量%過酸化水素水(酸化剤)10mlに添加し、50℃の温度条件で6時間攪拌することにより、メルカプト基をスルホン酸基に変換させた。その後、得られた粒子を、ろ過し、45℃の温度条件で乾燥させて、3−プロピルスルホン酸基及びプロピル基により修飾された比較としての不定形のシリカ系メソ多孔体(FSMタイプ)を得た。
【0106】
(比較例4)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)の混合物(モル比19/1)3.47×10−2molを用いた以外は比較例1と同様にして、3−アミノプロピル基により修飾された比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0107】
(比較例5)
シリカ原料の混合物としてテトラメトキシシラン(TMOS)/N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)の混合物(モル比19/1)3.47×10−2molを用いた以外は比較例1と同様にして、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基により修飾された比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0108】
(比較例6)
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04gを水/メタノール混合溶液1600g(50/50=w/w)に溶解し、恒温水槽中で25℃に保って攪拌して溶液を得た。次に、前記溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液6.84gを添加して、塩基性溶液を得た。その後、前記塩基性溶液に、シリカ原料の混合物として予め乾燥窒素気流中で混合したテトラメトキシシラン(TMOS)/3−シアノプロピルトリメトキシシラン(CPTMS)の混合物(モル比19/1)3.47×10−2molを添加した。このようにして前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加したところ、数分で粒子の析出が見られ、溶液が白濁した。そして、前記塩基性溶液に前記シリカ原料の混合物を添加した後、約8時間攪拌し、一晩静置した。その後、前記塩基性溶液中に生成された生成物をろ過し、水に再分散させる操作を2回繰り返した後、45℃の温度条件で一晩乾燥させ、シリカ中に界面活性剤が導入された多孔体粒子を得た。
【0109】
次に、前述のようにして得られた多孔体粒子1gをエタノール100mLに分散させ、塩酸1mLを加えてオイルバス中60℃で3時間攪拌することにより、多孔体粒子から界面活性剤を抽出した。このようにして界面活性剤を抽出した後、得られた粒子をエタノールで十分に洗浄し、45℃で乾燥させて、3−シアノプロピル基により修飾されたシリカ系メソ多孔体を得た。
【0110】
次いで、18mol/Lの濃硫酸(酸化剤)6.3mlと水3.7mlとを混合して放置し、約50℃に冷却して調製した混合液中に、前述のようにして得られたシリカ系メソ多孔体0.5gを加えて100℃で6時間加熱還流し、シリカ系メソ多孔体中に導入されたシアノ基をカルボキシル基へ変換した。そして、得られた粒子をろ過し、45℃の温度条件で乾燥させることによって、3−プロピルカルボキシル基により修飾された比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0111】
[実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体の特性の評価]
<有機基の構造確認>
多孔体に導入された有機基の構造確認をラマンスペクトル測定及びFT−IR測定により行った。
【0112】
<X線回折による細孔構造の測定>
実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体のメソ細孔構造の規則性を、理学製粉末XRD装置RINT−2200を用いて測定した。得られた結果を表1及び表2に示す。また、実施例1〜2及び比較例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを図1に示す。
【0113】
図1に示す結果からも明らかなように、全ての粒子において細孔のヘキサゴナル配列に対応する(100),(110),(200)のピークが観測され、細孔の規則性が高いことが確認された。また、表1及び表2に示すd100値のピークの結果からも明らかなように、実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体は細孔の規則性が高いことが確認された。
【0114】
<粒子形態、平均粒子径及び標準偏差の測定>
明石製作所製の走査電子顕微鏡(SEM)SIGMA−Vを用いて加速電圧19eVで粒子形態の測定を行った。そして、実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体の各粒子のSEM写真を用いて、粒子50個の直径を計測し、平均粒子径及び標準偏差を算出した。得られた結果を表1及び表2に示す。また、実施例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示し、実施例3で得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。
【0115】
表1及び表2に示す平均粒子径及び標準偏差の値、並びに図2及び図3に示す結果からも明らかなように、実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体の各粒子は単分散球状であることが確認された。このような結果から、実施例1〜10においては、第一の有機基と第二の有機基を導入しても単分散の球状シリカ系メソ多孔体が得られたことが確認された。
【0116】
<比表面積、中心細孔直径及び細孔容量の測定>
実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた球状シリカ系メソ多孔体のN吸着等温線を日本ベル製Belsorp−miniを用いて、液体N温度(77K)の条件で定容量法により測定した。なお、測定前に試料を100℃で2時間真空脱気処理した。そして、得られたN吸着等温線から細孔容量を算出し、さらにBET等温吸着式を用いて比表面積を算出した。さらに、得られたN吸着等温線からBJH法により中心細孔直径を算出した。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
<酸性触媒性能の測定(官能基:スルホン酸基)>
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた球状シリカ系メソ多孔体、並びに比較例3で得られた不定形のシリカ系メソ多孔体を、Friedel−Craftsアルキル化反応の触媒としてそれぞれ用い、酸性触媒としての性能を測定した。すなわち、2−メチルフラン0.6gとアセトン1.39mlとに、触媒60mgを加え、50℃の温度条件で反応させて、1時間後、2時間後、及び4時間後の生成物のターンオーバー数を測定した。反応時間とターンオーバー数との関係を示すグラフを図4に示す。なお、ターンオーバー数は、反応混合物をろ過し、触媒を除去してアセトンで洗浄した後、得られた溶液のGC−測定を行い、生成物を定量して算出した。また、定量は2−メチルフラン標準液を用いて行った。
【0120】
図4に示す結果からも明らかなように、スルホン酸基を含まない比較例2(プロピル基を導入)では酸触媒反応はほとんど起こらなかった。また、スルホン酸基を含有する有機基(第一の有機基)とプロピル基(第二の有機基)とが導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例1)及び、スルホン酸基を含有する有機基(第一の有機基)とフェニル基(第二の有機基)とが導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔(実施例2)は、スルホン酸基を含有する有機基のみが導入された比較としての球状シリカ系メソ多孔(比較例1)に比べて、酸触媒活性が十分に向上することが確認された。また、実施例1で得られた本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、比較例1で得られた比較としての球状シリカ系メソ多孔体の約1.6倍のターンオーバー数であった。このような結果は、実施例1で得られた本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、疎水性のプロピル基が導入されているため、基質である疎水性の2−メチルフランが細孔内に取り込まれ易くなり、近傍に存在するスルホン酸基により酸触媒反応が起こり易くなることに起因するものと本発明者らは推定する。
【0121】
また、図4に示す結果からも明らかなように、スルホン酸基を含有する有機基及びプロピル基が導入された不定形のシリカ系メソ多孔(比較例3)は、ある程度の活性はあるものの、スルホン酸基を含有する有機基及びプロピル基が導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例1)に比べて酸触媒活性は低かった。このような結果は、本発明の球状シリカ系メソ多孔体においては、放射状細孔を有するため、外表面が少なく、物質のアクセスが容易であるのに対し、比較としての不定形のシリカ系メソ多孔体(比較例3)は、外表面が多く、物質のアクセスに制限があることに起因するものと本発明者らは推定する。
【0122】
<塩基性触媒性能の測定(A)(官能基:3−アミノプロピル基)>
実施例3〜6及び比較例4で得られた球状シリカ系メソ多孔体を、エステル加水分解反応の触媒としてそれぞれ用い、塩基性触媒としての性能を測定した。すなわち、0.1Mのニトロフェノールアセテート溶液(DMSOに溶解)300μLと10mM Tris・HCl溶液(pH7.5)1200μLの混合溶液に、触媒20mgを加え、室温で振とうし、分解生成物であるp−ニトロフェノールの生成量と反応時間との関係を測定した。反応時間とp−ニトロフェノールの濃度との関係を示すグラフを図5に示す。なお、p−ニトロフェノールの生成量は、遠心分離で反応混合物から触媒を分離し、得られた上清の405nmの吸光度を測定することにより定量した。
【0123】
図5に示す結果からも明らかなように、3−アミノプロピル基のみが導入された比較としての球状シリカ系メソ多孔体(比較例4)に比べて、3−アミノプロピル基(第一の有機基)とともに第二の有機基が導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例3〜6)は、触媒性能が十分に向上することが確認された。このような結果は、本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例3〜6)においては、疎水性の有機基が導入されているため、基質である疎水性のニトロフェノールアセテートが細孔内に取り込まれ易くなり、近傍に存在する3−アミノプロピル基で塩基触媒反応が起こり易くなることに起因するものと推察される。また、第二の有機基であるフェニル基の導入量が異なる実施例3及び実施例4で得られた球状シリカ系メソ多孔体を比較すると、フェニル基の導入量が2倍量に増加されている実施例4で得られた球状シリカ系メソ多孔体の方が、触媒性能が高くなることが確認された。このような結果は、フェニル基の増加に伴い、より疎水性が強くなり、基質が細孔内に入り易くなることに起因するものと本発明者らは推定する。
【0124】
<塩基性触媒性能の測定(B)(官能基:N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基)>
実施例7〜8及び比較例5で得られた球状シリカ系メソ多孔体を触媒として用いる以外は、上述の塩基性触媒性能の測定(A)と同様の方法を採用して、塩基性触媒としての性能を評価した。反応時間とp−ニトロフェノールの濃度との関係を示すグラフを図6に示す。
【0125】
図6に示す結果からも明らかなように、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基のみが導入された比較としての球状シリカ系メソ多孔体(比較例5)に比べて、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基(第一の有機基)とともに第二の有機基が導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例7〜8)は触媒性能が十分に向上することが確認された。このような結果は、本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例7〜8)においては、疎水性の有機基が導入されているため、基質である疎水性のニトロフェノールアセテートが細孔内に取り込まれ易くなり、近傍に存在するN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基で塩基触媒反応が起こり易くなることに起因するものと本発明者らは推定する。
【0126】
<色素吸着試験(官能基:カルボン酸基)>
実施例9〜10及び比較例6で得られた球状シリカ系メソ多孔体を、それぞれ試料として用い、色素の吸着量を測定した。すなわち、各試料0.1gに、メチレンブルー100mL(1000mg/L)をそれぞれ加え、22℃で1時間振とうした後、ろ過し、得られた溶液の291nmの吸光度を測定することにより、各試料のメチレンブルーの吸着量を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
表3に示す結果からも明らかなように、カルボキシル基を含有する有機基が導入された比較のための球状シリカ系メソ多孔体(比較例6)に比べて、カルボキシル基を含有する有機基(第一の有機基)とともに疎水性の第二の有機基が導入された本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例9〜10)は、塩基性色素のメチレンブルーの吸着量が十分に向上することが確認された。このような結果は、本発明の球状シリカ系メソ多孔体(実施例9〜10)においては、第二の有機基が導入されているため、疎水性の高い色素(メチレンブルー)が第二の有機基により選択的に取り込まれ、その近傍に存在する第一の有機基に化学的に結合することに起因するものと本発明者らは推定する。
【産業上の利用可能性】
【0129】
以上説明したように、本発明によれば、触媒や吸着材として用いた場合に、基質や吸着物質に対して高い選択性を発揮することができ、十分に高い触媒性能又は吸着性能を発揮することが可能な球状シリカ系メソ多孔体、並びに、それを用いた触媒及び吸着材を提供することが可能となる。
【0130】
したがって、本発明の球状シリカ系メソ多孔体は、酸性触媒、塩基性触媒あるいは各種色素の吸着材等の材料として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例1〜2及び比較例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例3で得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた球状シリカ系メソ多孔体を酸性触媒として用いた場合の反応時間とターンオーバー数との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3〜6及び比較例4で得られた球状シリカ系メソ多孔体を塩基性触媒として用いた場合の反応時間とp−ニトロフェノールの濃度との関係を示すグラフである。
【図6】実施例7〜8及び比較例5で得られた球状シリカ系メソ多孔体を塩基性触媒として用いた場合の反応時間とp−ニトロフェノールの濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.01〜3μmであり、中心細孔直径が1〜10nmの放射状細孔を有し、且つ、
スルホン酸基、カルボン酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する第一の有機基、並びに、脂肪族化合物系有機基及び環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種の第二の有機基が導入されていることを特徴とする球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項2】
前記第一の有機基が、炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい鎖式炭化水素基、又は炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式炭化水素基に、前記官能基が結合したものであることを特徴とする請求項1に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項3】
前記第一の有機基が、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基、ビニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基及びプリン基からなる群から選択される少なくとも1種の基に、前記官能基が結合したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項4】
前記第二の有機基が、炭素数が18以下の直鎖又は分岐鎖状のヘテロ原子を有していてもよい脂肪族化合物系有機基、及び炭素数が18以下のヘテロ原子を有していてもよい環式化合物系有機基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項5】
前記第二の有機基が、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐鎖状のプロピル基、直鎖又は分岐鎖状のブチル基、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキサデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基、アリル基、ビニル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、シクロヘキシル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾール基、インドール基、プリン基、並びに、
これらの基に、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトロ基、チオール基、アミド基、ウレイド基、エステル基及びエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基を有する有機基が結合した基、
からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とする触媒。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の球状シリカ系メソ多孔体からなることを特徴とする吸着材。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−127218(P2008−127218A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310378(P2006−310378)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】