説明

球状体製造装置および球状体の製造方法

【課題】溶融物を均一重量で分断し、重量や形状精度の高い球状体を製造すること。
【解決手段】溶融物を落下させることにより球状体に変化させる球状体製造装置であって、溶融物を保持する保持容器と、前記保持容器と接続され、溶融物を流出させるための流路と、振動方向が前記溶融物の落下方向と平行になるように、前記流路に接続されている加振器とを有し、前記流路が一つ以上の屈曲部を有する製造装置であり、前記屈曲部の曲率半径の最小値が800mm以下であり、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径が2mm〜100mmであることによって、溶融物を均一重量で分断し、重量や形状精度の高い球状体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状体の製造方法および球状体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DVD、CD、光磁気ディスク等の光ピックアップレンズ、カメラ付携帯電話用レンズ、光通信用レンズや光学機器等に用いられるレンズ等は、球状のプリフォームから成形されることが多くなり、用途に応じて大小様々な直径を有する球状のガラスを製造する技術が急速に求められている。
【0003】
また、半導体装置等で行われるマイクロソルダリング用のはんだボール、熱間静水圧プレス成形等による焼結合金製造用の金属粉、マイクロマシン等に用いられる微細ボールベアリング用のボール、ハロゲン化金属ランプ用の封入発光粒子、スクリーン印刷や浸漬塗布、その他の一般塗布機用のペースト、クリームあるいはペイントに用いられる粉体等、非常に多くの分野で狭い粒度分布と高い真球度が要求される微細金属球のニーズが高まっている。
【0004】
このような微細な球状体の製造方法として、例えば、特許文献1には、保持容器内に保持した溶融ガラスを、振動を付与しながら保持容器の一部に設けたオリフィスにより気相中に排出してガラス液滴を形成し、ガラス液滴を気相中または液相中を落下させながら凝固する球体ガラスの製造技術が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の製造方法は、保持容器内の溶融ガラスに振動を付与することにより、排出口から連続する柱状のガラス流の側面において、柱状のガラス流の断面半径を小さくするように、振動に連動する窪みを形成し、窪みを形成した柱状のガラス流は、落下速度の増加にしたがって振動により形成を制御された窪み部分で分断され、体積の制御された液滴を形成する。
【0006】
このような方法で球状体の質量を一定にするためには、ノズルからの溶融物の単位時間あたりの流出量をある値以上とし、かつその値を一定にする必要がある。そのためにはノズル先端の溶融物に作用する圧力(本明細書ではヘッド圧という)を一定以上確保することが求められる。特許文献1では溶融物の保持容器内部を加圧することにより一定以上のヘッド圧を得て、さらに加圧を制御することにより溶融物の流量を制御している。しかしながら、高温の保持容器に加圧装置を設置することは装置の複雑化を招き、設備コストも高くなる。
【特許文献1】特開2003−104744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するため、株式会社オハラの開発者は溶融物の保持容器から流路先端部までの溶融物の流路の垂直距離を長くすることにより一定以上のヘッド圧を得て、溶融物の単位時間あたりの流出量の制御は流路内の溶融物の粘度を制御することにより行うとするという手段を試みた。この時、流路に使用する、例えば白金等の高価な材料の使用量を少なくするために、また流路中での圧力損失を出来るだけ少なくするために流路を直線状とした。この態様は加圧装置等の煩雑の設備が必要でないという点および流路に使用する材料コストの点で有利である。
【0008】
一方で、株式会社オハラの開発者は流路の先端部を溶融物流出方向に振動させることによって、溶融物を一定の質量で正確に分断することも見いだしている。しかし鉛直方向に伸びる直線状の流路を上下方向に振動させるために加振器を接続しても、加振器から発生する振動が効率的に流路の先端部に伝わらず、振動の効果を充分に得られない場合があるという新たな問題が生じた。
【0009】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであり、加振器の振動を効果的に流路へ伝達させることにより、ガラス流を均一重量で分断し、重量や形状精度の高い球状体を製造する球状体製造装置およびこの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、流路に少なくとも一つの屈曲部を設け、その屈曲部形状を特定の形状とすることで、加振器による振動を効果的に流路に伝達させることができ、溶融物を均一重量で分断し、重量や形状精度の高い球状体を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 溶融物を落下させることにより球状体に変化させる球状体製造装置であって、溶融物を保持する保持容器と、前記保持容器と接続され、溶融物を流出させるための流路と、振動方向が前記溶融物の落下方向と平行になるように、前記流路に接続されている加振器とを有し、前記流路が一つ以上の屈曲部を有し、前記屈曲部の曲率半径の最小値が800mm以下であり、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径が2mm〜100mmである球状体製造装置。
【0012】
なお、屈曲部の曲率半径は、流路の中心から測定したものであり、本明細書において、「流路の中心」とは、流路における溶融物の流出方向に垂直な断面の重心を結ぶ線のことをいう。
【0013】
また、「屈曲部の曲率半径の最小値」とは流路全体にわたって、流路の中心上の点Pを移動させた時、点Pにおける曲率半径の最小値を意味する。
【0014】
本明細書において流路とは、保持容器と溶融物の流出部とを結ぶいわゆるパイプ、およびパイプの先端に接続され流出部を形成するいわゆるノズルやオリフィスを含むものである。
【0015】
(2) 前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路断面の最大肉厚が0.5mm〜10mmである(1)に記載の球状体製造装置。
【0016】
(3) 前記流路において、前記屈曲部の曲率半径の最小値Dと、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径Dの比D/Dの値が2以上である(1)または(2)に記載の球状体製造装置。
【0017】
(4) 前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置より下流側に、前記加振器が接続される(1)から(3)のいずれかに記載の球状体製造装置。
【0018】
(5) 溶融物を落下させることにより球状体に変化させる球状体の製造方法であって、溶融物を保持する保持容器から、前記溶融物を前記保持容器と接続されている流路に
流出させる工程と、振動方向が前記溶融物の落下方向と平行になるように、前記流路を加振器によって振動させる工程を有し、前記流路に一つ以上の屈曲部を設け、前記屈曲部の曲率半径の最小値を800mm以下として、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径を2mm〜100mmとする球状体の製造方法。
【0019】
(6) 前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路断面の最大肉厚が0.5mm〜10mmである(5)に記載の球状体の製造方法。
【0020】
(7) 前記流路において、前記屈曲部の曲率半径の最小値Dと、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径Dの比D/Dの値が2以上である(5)または(6)に記載の球状体の製造方法。
【0021】
(8) 前記流路を加振器によって振動させる工程において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置より下流側に前記加振器を接続し、前記流路を振動させる(5)に記載の球状体の製造方法。
【0022】
(9) 前記流路を加振器によって振動させる工程において、前記加振器の振動周波数は1〜500Hzである(5)から(8)のいずれかに記載の球状体の製造方法。
【0023】
(10) 前記流路を加振器によって振動させる工程において、前記流路の先端から10mm上部の位置の溶融物落下方向の振幅が0.1〜1000μmである(5)から(9)のいずれかに記載の球状体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、流路にある特定範囲の曲率半径を有する少なくとも一つの屈曲部を設け、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径を特定の範囲とすることにより加振器による振動を効果的に流路に伝達させることができるようになった。このため、溶融物流を均一重量で分断し、重量や形状精度の高い球状体を効果的に得ることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の球状体製造装置は、溶融物を保持する保持容器と、前記保持容器と接続され、溶融物を流出させるための流路と、振動方向が溶融物の落下方向と平行になるように、流路に接続されている加振器とを有し、流路が一つ以上の屈曲部を有し、屈曲部の曲率半径の最小値が800mm以下であり、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径が2mm〜100mmであることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の球状体の製造方法は、溶融物を保持する保持容器から、前記溶融物を前記保持容器と接続されている流路に流出させる工程と、振動方向が溶融物の落下方向と平行になるように、流路を加振器によって振動させる工程を有し、流路に一つ以上の屈曲部を設け、屈曲部の曲率半径の最小値を800mm以下として、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径を2mm〜100mmとすることを特徴とする。
【0027】
以下、本発明の球状体製造装置および球状体の製造方法の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
[球状体製造装置]
本発明の球状体製造装置1は、図1に示したように球状体製造装置1を使用して球状体を製造する。球状体製造装置1は、ガラスや金属、樹脂等からなる溶融物Aを保持する保持容器11と、保持容器11を加熱し、保持容器11を接続(支持)する炉体12を備える。また、保持容器11の下部には、溶融物Aを流出させるための少なくとも一つの屈曲部131を備えた流路13が接続されており、溶融物Aは、保持容器11から流路13を経て、流路13の一部であるノズル14から柱状またはほぼ柱状に流出される。流路13には、加振器17が接続されており、ノズル14から流出する溶融物Aに規則正しいくびれを生じさせる。流出された溶融物Aは、空中を落下し、落下している間に表面張力により、加振器17によって生じたくびれから分離し、球状に形成される。成形された溶融物Aは、必要に応じて軌道を変更させる軌道変更手段(図示せず)により軌道を変更させられ、回収手段16中の溶媒161中に落下する。
【0029】
溶融物Aは、球状体を製造したいものであれば特に限定されず、樹脂、溶融ガラス、シリコン、溶融金属等であってもよいが、本発明は特に溶融ガラスに適している。
【0030】
保持容器11は、保持容器11内の溶融物Aを攪拌するための攪拌機111と、加熱装置(図示せず)とを備えていてもよい。保持容器11は、溶融物Aを保持できればよく、例えば、耐火物容器、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝、イリジウム坩堝等公知の保持容器を使用することができる。他の溶融手段によって原料を溶融し溶融物Aとしたものを保持容器11に移し替えてもよいし、保持容器11中で原料を溶融してもよい。
【0031】
保持容器11は、例えば、溶融物Aが溶融ガラスの場合、ガラスを溶融、清澄することができるとともに、例えばヒータ(図示せず)等周知のものを使用して、溶融物Aの温度を所定の温度に保つことができるようにしてもよい。また、攪拌機111は、水平方向に回転して攪拌翼(図示せず)により溶融物Aを攪拌して均質化するが、必要に応じて省略してもよい。
【0032】
また、保持容器11は、原料投入口(図示せず)が設けられていてもよい。原料投入口が閉じられた場合は密閉状態となるような構造をとるようにしてもよい。
【0033】
保持容器11の周囲を覆う耐火レンガ等の耐熱材からなる炉体12は、保持容器11の温度に耐えることができれば、材質等特に限定されない。なお、炉体12および/または保持容器11の下部に振動抑制手段(図示せず)を設けてもよい。振動抑制手段を設けることにより、外乱による振動を抑制することができ、球状体の質量を精度よく調整することができる。
【0034】
流路13は、保持容器11と接続されており、流路13の一部であるノズル14へ溶融物Aを流出させる。本発明では、例えば図1〜図5に示すように流路13には少なくとも一つの屈曲部131が設けられている。屈曲部131を設けることで、加振器17の振動を効果的に流路13の先端部(ノズル14)へ伝達させることができる。なお、流路13の材質等は特に限定されないが、溶融物Aが溶融ガラスである場合、流路13の材質はガラスに対して化学的に安定している点、耐熱温度が高い点で、白金または白金合金が好ましい。
【0035】
屈曲部131は、流路13内に少なくとも一つ設けられていればよく、流路13内に設けられていれば位置等は特に限定されない。また、屈曲部131の形状は、例えば、図1、図2、図4および図5に示した弓形であってもよく、図3に示したように螺旋状であってもよい。
【0036】
屈曲部131の曲率半径は、製造しようとする球状体の形状等に応じて適宜変更することができるが、前記屈曲部131の曲率半径の最小値、すなわち流路13全体にわたって、流路の中心上の点Pを移動させた時、点Pにおける曲率半径が最小となる位置の曲率半径が10mm以上800mm以下であることが好ましい。曲率半径の最小値が10mm未満であると、加振器17によって流路13に振動を付与した場合、流路13の一部に応力が集中し、金属疲労等の原因となる。このため、最小値の下限が10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、40mm以上であることが最も好ましい。一方、曲率半径の最小値が800mmを超えると、振動しても屈曲部131がたわみにくく、効率的に振動を伝達させることができなくなる。この状態で振動させようとすると、流路長を長くしなければならず、重量が大きくなり、加振器17の負担が増大するとともにコストがかかる。このため、最小値の上限が800mm以下であることが好ましく、600mm以下であることが好ましく、500mm以下であることが最も好ましい。
【0037】
流路13の外径は、保持容器11に接続されている箇所からノズル14付近まで同一であってもよいが、加振器17による振動を効率的に伝達させるために屈曲部131の曲率半径が最小となる位置の外径を小さくすることが好ましい。
【0038】
曲率半径が最小となる位置の屈曲部131の流路13の外径は、製造しようとする球状体の形状等に応じて適宜変更することができるが、流路13の外径は2〜100mmであることが好ましい。外径が2mm未満であると、所望とする流量が得難く、所望の大きさの球状体を得ることが困難になる。また、流路13の強度も得難く、流路13の製作が困難となる場合がある。このため、外径の下限が2mm以上であることが好ましく、2.5mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることが最も好ましい。一方、外径が100mmを超えると、流路13がたわみにくくなり、加振器17の振動が効果的に流路へ伝達され難く、加振器17の負担が増大しやすい。また、所望の流量を超えた流量となりやすく、所望の大きさの球状体を得ることができ難くなる。このため、流路13の外径の上限が100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることが最も好ましい。
【0039】
また、流路13の肉厚は、保持容器11に接続されている箇所からノズル14付近まで同一であってもよいが、加振器17による振動を効率的に伝達させるために屈曲部131の曲率半径が最小となる位置の肉厚を小さくすることが好ましい。
【0040】
曲率半径が最小となる位置の屈曲部131の肉厚は、製造しようとする球状体の形状等に応じて適宜変更することができるが、0.5〜10mmであることが好ましい。肉厚が0.5mm未満であると、加振器17の振動により、流路13が破損しやすくなる。このため、肉厚の下限は0.5mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましく、0.7mm以上であることが最も好ましい。一方、肉厚が10mmを超えると、加振器17の振動を効率的に伝達させにくくなる。このため、肉厚の上限は、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることが最も好ましい。
【0041】
屈曲部131の曲率半径の最小値をD(mm)とし、屈曲部131の曲率半径が最小となる位置での外径をD(mm)とした場合、D/Dが2以上となるように曲率半径および外径を調整することが好ましい。D/Dが2未満であると、流路13の径に対して曲率半径が小さくなり、溶融物Aが淀みなく流れる流路13の作製が困難となりやすい。このため、D/Dの下限は2以上となるように曲率半径および外径を調整することが好ましく、5以上となるようにすることがより好ましく、7以上となるようにすることが最も好ましい。
【0042】
流路13の一部であるノズル14は、流路13内の溶融物Aの流路とノズル14内の流路とは連通している。ノズル14は、先端に向かうにつれて細くなる円錐状となっていると外径の小さい球状体を成形しやすくなるため好ましい。
【0043】
また、流路13には、ヒータ(図示せず)が設けられていてもよく、流路13の先端から流出される溶融物Aの温度を制御できるようになっている。または流路13に直接通電することにより溶融物Aの温度を制御してもよい。また、直径0.8〜5mm程度の球状体を得やすくするためにはノズル14はその先端の内径が例えば0.1〜5.0mmであることが好ましく、ノズル14の先端の内径を必要に応じて適宜変更し、併せて流路13の温度を制御することにより、溶融物Aの流量、流速の調整と、連続流が液滴状に変化した球状体の粒径(質量)を変更することができるようになっている。
【0044】
加振器17は、流路13にロッド等を介して接続されており、前記ロッド等により振動を流路13に伝達させる。加振器17による振動は、球状体の質量または形状を一定にしやすくするために、流路の流出部(ノズル14の先端部)が溶融物の落下方向に振動するように振動させることが好ましい。すなわち、流路13の流出部(ノズル14の先端部)が、溶融物Aが放出される直線(垂直)方向に振動するよう振動させることが好ましい。例えば、溶融物Aを鉛直方向下向きに落下させる場合、流路13を鉛直方向に上下に振動させればよい。
【0045】
加振器17を流路13に接続する位置は、屈曲部131の曲率半径が最小となる位置と流路13の先端部(ノズル14の先端)との間(曲率半径が最小となる位置より下流側)に加振器17を接続することが好ましい。このように加振器17を接続することによって加振器17の振動を効果的に流路の流出部(ノズル14の先端部)へ伝達させやすくなる。なお、加振器17をノズル14に接続しても所望の効果が得られる。
【0046】
加振器17による振動周波数(加振周波数)は、製造しようとする球状体の形状等に応じて適宜変更することができるが、1〜500Hzであることが好ましい。加振器17による振動周波数が1Hz未満であると、流路13に十分な振動を伝達しにくくなり、一定の形状、重量を有する球状体を得にくくなる。このため、振動周波数の下限は1Hz以上であることが好ましく、5Hz以上であることがより好ましく、10Hz以上であることが最も好ましい。一方、加振器17による振動周波数が500Hzを超えると溶融物Aの粘度によっては一定の形状、重量を有する球状体を得にくくなる。このため、振動周波数の上限は500Hz以下であることが好ましく、250Hz以下であることがより好ましく、200Hz以下であることが最も好ましい。
【0047】
本発明は、広範囲の直径の球状体の製造において上述したような効果を有するものであり、特に球状体の直径が数mm程度、さらに好ましくは4mm以下の微細な球状体を製造する際に顕著な効果を有する。
【0048】
また、流路13の振幅は、0.1〜1000μmであることが好ましい。振幅の下限が0.1μm未満であると、振幅が小さく一定の形状、重量を有する球状体を得にくくなる。一定の形状、重量を有する球状体を得やすくするためには振幅の下限が0.1μm以上であることが好ましく、50μm以上であるとより好ましく、100μm以上であると最も好ましい。また、振幅の上限が1000μmを超えると、流路13や加振器17の負担が大きくなり、振動を発生させることが困難となりやすい。一定の形状、重量を有する球状体を得やすくするためには振幅の上限は1000μm以下であることが好ましく、900μm以下がより好ましく、800μmが最も好ましい。なお、前記振幅は流路13の流出部(ノズル14の先端部)から10mm上部(ノズル14が鉛直方向に設置されていない場合は10mm上流側)の位置を基準とする。測定は、振動計測装置を用いて行う。具体的には、例えばIMV社製 Card Vibro Neo VM−2004Neoを使用することができる。
【0049】
加振器17の振幅(入力振幅)は下限が0.1μm未満であると、流路13が十分に振動せず、一定の形状、重量を有する球状体を得にくくなる。一定の形状、重量を有する球状体を得やすくするためには加振器17の振幅の下限が0.1μm以上であることが好ましく、50μm以上であるとより好ましく、100μm以上であると最も好ましい。また、加振器17の振幅の上限が1500μmを超えると、流路13や加振器17の負担が大きくなり、振動を発生させることが困難となりやすい。一定の形状、重量を有する球状体を得やすくするためには振幅の上限は1500μm以下であることが好ましく、1200μm以下がより好ましく、1000μmが最も好ましい。
【0050】
落下距離H(流路13(ノズル14)の先端から回収手段16中の溶媒161の最上面の距離)は、溶融物Aを球状体に変化させることができる距離であれば特に限定されず、溶融物Aの組成等に応じて適宜変更できるが、0.1〜100mであることが好ましい。溶融物Aを落下させる距離の下限が0.1m以上であれば、ノズル14から流出した溶融物Aが落下するまでの間に、表面張力によって球状体となりやすい。上述したような効果をより得やすくするためには、溶融物Aを落下させる距離の下限は、1m以上がより好ましく、5m以上が最も好ましい。また、溶融物を落下させる距離としては、100m以上でもかまわないが、設備費用が増大するだけとなるので、溶融物Aを落下させる距離の上限は100m以下が好ましく、50m以下がより好ましく、35m以下が最も好ましい。
【0051】
なお、必要に応じて、溶融物Aが落下する途中に軌道変更手段(図示せず)を設けて溶融物Aの落下軌道を変更させるようにしてもよい。軌道変更手段を設けることにより、複数の溶融物Aか重なったりすることを防止することができる。軌道変更手段は、落下している溶融物Aにエアーを吹き付けて溶融物Aの軌道を変更させるもの等公知の種々の軌道変更手段を使用することができ、これらは単独で使用してもよいが複数組み合わせて使用してもよい。
【0052】
回収手段16は必要に応じて備えられる。回収手段16内は、溶媒161が満たされている。回収手段16は、溶媒161内に球状に形成された溶融物Aを落下させることにより、回収時に溶融物Aに加わる衝撃を吸収するとともに球状に形成された溶融物Aを冷却して球状体として回収する。
【0053】
また、回収手段16内に回収される球状体の温度と溶媒161との温度差を減少させて温度差による影響を少なくするために加熱装置(図示せず)を設けて、回収手段16内の溶媒161を加熱するようにしてもよい。
【0054】
回収手段16中の溶媒161は、球状体と反応せず、落下した溶融物Aを冷却することができれば、種類等は特に限定されず、例えば、水、アルコール類、油等公知の種々の溶媒を使用することができる。これらは単独で使用してもよく、複数組み合わせて使用してもよい。なお溶媒161の代わりにスポンジ等の緩衝材を使用してもよい。
【0055】
なお、回収手段16中の溶媒161は、溶融物Aが放熱することによって低温の球状体を回収できることから、水またはアルコール類を用いることが好ましい。極めて低コストで、安全で取り扱いが非常に容易であり、環境負荷が小さいという観点からは水が好ましく、回収した球状体を洗浄することなく乾燥させ、あるいは、簡単に洗浄して乾燥させ、プリフォーム材またはレンズ等の光学素子として使用できる観点からはアルコール類を用いることが好ましい。また、球状体製造装置1全体の高さ等の制約から、落下距離を短くして比較的高温の球状体を回収しなければならない場合は、溶媒161はその沸点までしか加温できないので、落下する溶融物Aとの温度差を小さくするために、沸点の比較的高い溶媒で、取り扱いおよび回収後の洗浄が容易な溶媒を用いてもよい。
【0056】
[球状体の製造方法]
本発明の球状体の製造方法は、図1に示したように球状体製造装置1を使用して球状体を製造する。
【0057】
まず、出発材料である溶融物は周知の方法で調整され、清澄、攪拌によって均質化され、保持容器11内に蓄積されている。白金製の保持容器11の底部には流路13が接続されており、溶融物Aはその流路13の中を通り流路13の一部であるノズル14へと達する。
【0058】
保持容器11および流路13は、内部の溶融物Aの温度を適正に保つために温度制御されており、一定流量の溶融物Aが流路13から流出する。
【0059】
加振器17により流路13を溶融物Aの落下方向と平行となるように振動させながら、ノズル14から溶融物Aを流出し、回収手段16に向けて落下させる。流路13の振動により溶融物Aにくびれを生じさせ、溶融物Aを落下させながら、重力と表面張力により、一定重量の溶融物滴に分離させ溶融物Aを球状体にする。
【0060】
上記一定重量の溶融物の分離方法としては、流路13の温度を制御することにより、溶融物Aの粘性を制御して、溶融物Aの粘性の変化に伴って流速および流量も変化させ、溶融物Aをノズル14から連続流として流出させ、この連続流から一列に滴下する液滴状の溶融物塊に変化させてもよい。
【0061】
流路13(ノズル14)より落下した溶融物Aは、回収手段16中の溶媒161に球状に形成された溶融物Aを落下させることにより、溶媒161により衝撃を吸収するとともに球状に形成された溶融物Aを冷却して球状体として回収する。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[ガラス球の形成への使用]
白金製の坩堝からなり、炉体で覆われている保持容器内に重ランタン・フリントガラス(株式会社オハラ製L−LAH53)を投入し、ガラス溶融物を調整、貯蔵した。
【0064】
ノズルの下方約25mの位置に液槽を配置するとともに、液槽内に水を入れた。この状態で、上記ガラス10kgを白金製ルツボに投入し、加熱溶融した。
【0065】
加熱溶融後の炉温を1050℃とし、白金パイプ後端部(ルツボ接続部)の温度を1050℃とし、白金パイプ先端部の温度を1100℃とし、ノズルの先端部の温度を1150℃に保持した。また、上記状態でのノズルからのガラス溶融物Aの流出量(流量)は、1.5kg/hr〜1.6kg/hrであった。
【0066】
流路にロッドを介してノズルの先端部から60mm上方に接続されている加振器(SL−0505 (有)旭製作所)により、流路をガラス溶融物Aの落下方向(鉛直方向)に100Hzで振動させながら、ノズルからガラス溶融物Aを滴下し、25m落下させた。なお、流路は、図1および図2に示したような形状で、屈曲部が3箇所であり、曲率半径の最小値が50mmであった。また、曲率半径の最小となる位置の外径は8mmであり、肉厚は3mmであった。
【0067】
以上のような条件でノズルから流出したガラス溶融物Aは、ノズル先端から約10mm下方まで連続流として流下し、それより下方においては、一列に連続して並んだ液滴状のガラス塊に変化し、ガラス塊として落下した。そして、上記ガラス塊は、さらに液槽内に落下し、液槽内の水により、衝撃を吸収されるとともに冷却され、液槽内に回収された。液槽から回収したガラス塊を洗浄し、ガラスからなる微小な球状体を得た。本実施例においては、形状精度および質量精度のよいガラスが取得することができた。
【0068】
また、加振器による振動周波数を30〜200Hzの間で適宜調整し、入力振幅(加振器の振幅)を変更しながら、流路の振幅を測定した。なお、流路の振幅の測定は、流路の一部であるノズルの先端から10mm上部にて振動検出器を取り付けて行った。結果(流路の振幅)を表1に示す。なお、実施例での振幅の単位は全てμmである。
【0069】
比較例として、屈曲部を有さない直線状の流路を用いた以外は実施例1と同様の方法で流路の振幅を測定した。結果を表1に示す。なお、比較例での振幅の単位は全てμmである。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、実施例および比較例の流路に加振器にて同一の振動周波数を伝達させた場合、実施例が比較例に比べて振幅が大きくなっていることがわかる。すなわち、流路に屈曲部を少なくとも一つ有し、屈曲部の形状を特定のものとすることにより、加振器の振動を流路に効果的に伝達することができることがわかる。このため、実施例では、ガラス溶融物を均一重量で分断し、重量や形状精度の高いガラス球を製造することができる。
【0072】
[半導体球の形成への使用]
溶融坩堝(保持容器)内にシリコン100gを入れ、溶解坩堝においてシリコン溶解温度である1420℃で溶解した。シリコンのメルトダウンが完了したところで、溶融ルツボ内にアルゴンまたはヘリウムにより圧力をかけ、流路にロッドを介してノズルの先端部から60mm上方に加振器(SL−0505 (有)旭製作所)を接続し、流路を溶融物Aの落下方向(鉛直方向)に100Hz、振幅150μmで振動させながら、ノズルからシリコンを滴下し、ノズルの先端部から25m下に設けられた回収容器の冷却油内で冷却してシリコン球状体を作製した。本実施例においては溶融シリコンの形状、重量が略一定であり、精度のよいシリコン球が得ることができた。なお、流路は、屈曲部が3箇所であり、曲率半径の最小値が50mmであった。また、曲率半径の最小となる位置の外径は8mmであり、肉厚は3mmであった。
【0073】
[金属球の形成への使用]
坩堝内に5Kgの無酸素銅を原料として仕込み、流路を塞ぎながら、アルゴン雰囲気中で坩堝内の加熱を開始して銅を溶融した。坩堝内の温度が1150℃になるように高周波誘導加熱器を設定した。流路に取り付けられたカーボンリングは、高周波誘導加熱器からの高周波を受けて加熱した。坩堝内に仕込んだ銅が完全に溶融した後に、を開けた。流路に接続した加振器を500Hzで振動させるとともに、坩堝内の圧力が0.03MPaになるようにアルゴンガスを注入して溶融物の噴出を開始した。流路の一部であるノズルから噴出した液滴は、焼き入れ油で冷却して凝固させ、その後に回収して脱脂洗浄して乾燥し、銅球状体を得ることができた。なお、流路は、屈曲部が3箇所であり、曲率半径の最小値が50mmであった。また、曲率半径の最小となる位置の外径は8mmであり、肉厚は3mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の球状体製造装置の断面図である。
【図2】流路の屈曲部の例示を示した図である。
【図3】流路の屈曲部の例示を示した図である。
【図4】流路の屈曲部の例示を示した図である。
【図5】流路の屈曲部の例示を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
1 球状体製造装置
11 保持容器
111 攪拌機
12 炉体
13 流路
131 屈曲部
14 ノズル
16 回収手段
161 溶媒
17 加振器
A 溶融物
H 落下距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融物を落下させることにより球状体に変化させる球状体製造装置であって、
溶融物を保持する保持容器と、
前記保持容器と接続され、溶融物を流出させるための流路と、
振動方向が前記溶融物の落下方向と平行になるように、前記流路に接続されている加振器とを有し、
前記流路が一つ以上の屈曲部を有し、前記屈曲部の曲率半径の最小値が800mm以下であり、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径が2mm〜100mmである球状体製造装置。
【請求項2】
前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路断面の最大肉厚が0.5mm〜10mmである請求項1に記載の球状体製造装置。
【請求項3】
前記流路において、前記屈曲部の曲率半径の最小値Dと、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径Dの比D/Dの値が2以上である請求項1または2に記載の球状体製造装置。
【請求項4】
前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置より下流側に、前記加振器が接続される請求項1から3のいずれかに記載の球状体製造装置。
【請求項5】
溶融物を落下させることにより球状体に変化させる球状体の製造方法であって、
溶融物を保持する保持容器から、前記溶融物を前記保持容器と接続されている流路に流出させる工程と、
振動方向が前記溶融物の落下方向と平行になるように、前記流路を加振器によって振動させる工程を有し、
前記流路に一つ以上の屈曲部を設け、前記屈曲部の曲率半径の最小値を800mm以下として、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径を2mm〜100mmとする球状体の製造方法。
【請求項6】
前記流路において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路断面の最大肉厚が0.5mm〜10mmである請求項5に記載の球状体の製造方法。
【請求項7】
前記流路において、前記屈曲部の曲率半径の最小値Dと、前記屈曲部の曲率半径が最小となる位置の流路の外径Dの比D/Dの値が2以上である請求項5または6に記載の球状体の製造方法。
【請求項8】
前記流路を加振器によって振動させる工程において、屈曲部の曲率半径が最小となる位置より下流側に前記加振器を接続し、前記流路を振動させる請求項5に記載の球状体の製造方法。
【請求項9】
前記流路を加振器によって振動させる工程において、前記加振器の振動周波数は1〜500Hzである請求項5から8のいずれかに記載の球状体の製造方法。
【請求項10】
前記流路を加振器によって振動させる工程において、前記流路の先端から10mm上部の位置の溶融物落下方向の振幅が0.1〜1000μmである請求項5から9のいずれかに記載の球状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−18217(P2009−18217A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180519(P2007−180519)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】