説明

理美容はさみ

【課題】はさみを逆手に握った状態で、刃を開閉し、尚かつ刃の向きを変更する一連の動作を楽に行うことができる理美容はさみを提供する。
【解決手段】互いにすりあわせ可能な第1の刃13および第2の刃23と、第1の刃13及び第2の刃23とを回転可能に軸支している支点部3と、指を挿入して第1の刃13及び第2の刃23の開閉を操作するための第1の指環11及び第2の指環21と、を有する理美容はさみであって、第1の指環11は使用者の親指を掛けられるように成形されており、第1の指環11と第1の刃13との間に第2の刃23が位置し、第1の指環11及び第2の指環21のそれぞれの形状面における略中心同士を結ぶ線L1が、第1の刃13及び第2の刃23の回転面H2と交差するように構成されている。これにより、はさみの機械的な動作と手の運動姿勢とを類似させて、使用者の負担を著しく低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理美容はさみに関するものであって、特に逆手用の理髪ばさみに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の理美容界では、ファッションの移ろいに応じて種々のヘアスタイルが創造されており、また個人の嗜好も多様であるため要求されるヘアスタイルは幅広い。これに応じてヘアカット技術を向上すべくその追求も盛んである。加えてヘアスタイルの完成過程をショー的に公開して、カット技術自体を芸術的に見せる工夫もなされている。例えば、従来のはさみの握り方を変え、はさみの刃を素早く開閉してカットのスピードを早めたり、或いは毛に対する刃の切り込み角度を様々に変化させるなど、斬新なカット法も公開されている。
【0003】
ところで図16に示す理美容はさみは、一般的な理髪用の理美容はさみ100であって、動刃101及び静刃102からなる一対の刃のすり合わせにより髪を切る道具である。それぞれの刃101、102には柄101A、102Aが連結されており、さらに柄の先端域には、指を挿入できる指環101a、102aが形成されている。理美容はさみ100は、一対の刃101、102が開閉自由となるよう、ねじ103により組み合わされている。そして、X字状に刃が開いた状態の理美容はさみ100の、一端側に位置する指環101a、102a同士を近接させると、ねじ103が支点となって、他端側に位置する一対の二枚の刃101、102がかむようにすりあわさり、この結果髪を切ることができる。
【0004】
また、図16の理美容はさみ100は、右利き用の理美容はさみであり、動刃101を図の手前、静刃102を奥にした姿勢で表記されている。従来の通常の持ち方では、右手の親指を動刃101側の指環101aに、静刃102側から(図16の奥から手前側へ)挿入すると共に、薬指を静刃102側の指環102aに、親指と同様の向きに入れて、理美容はさみ100を握る。このはさみの握り方を順手という。
【0005】
一方、図17に、逆手と呼ばれるはさみの持ち方を示す。図17において使用する理美容はさみは、図16と同様の理美容はさみ100であり、図16の理美容はさみを180度回転した向き、すなわち、刃先が下方に向く姿勢で図示されている。この右利き用の理美容はさみ100を右利きの人が逆手で握る場合、順手の握り方と比較して、指を指環に挿入する方向は同じであるが、指を挿入する指環が逆になる。すなわち、右手の親指を静刃102側の指環102aに、静刃102側から動刃101側へ(図17の奥から手前側へ)挿入すると共に、薬指を動刃101側の指環101aに、奥から手前側に入れて理美容はさみ100を握る。
【0006】
このように一のはさみを順手及び逆手に握ることで、頭部に対する刃先の角度を自在に変化させて、多様なカット法を施せる。しかしながら、本来、順手用に設計されたはさみを逆手に持って作業すると、手首や腕、肩等を痛める虞があった。これは、順手と逆手とでは、指環に挿入する指が異なるため、元来、順手での使用を考慮したはさみでは、指環の位置や角度が逆手の場合の指の装着角度に適応していないことに起因している。この結果、不安定な握り方となり負傷や疲労の原因となっていた。
【0007】
この問題を解消するため、順手及び逆手での使用に応じて、はさみの柄の角度や指環の位置を調節できるはさみが開発されている(例えば特許文献1)。図18に示す理美容はさみ200は、静刃211を有する第1のはさみ体210と、動刃221を有する第2のはさみ体220とを、支点軸ボルト230により回動自在に軸支している。さらに、第1のはさみ体210には、薬指を固定する指環216を備えた柄体213を有する。この柄体213は、静刃211とヒンジ体214を介して連結されており、この構造によって、柄体213が、直交する2方向において自在に回動して、角度を調節することができる。具体的に、ヒンジ体214の両端には固定ボルト215a、215bが装着されている。まず、ヒンジ体214の一端側、すなわち静刃211側に装着される固定ボルト215aを調節することで、柄体213は、静刃211と動刃221との開閉方向に回動できる。また、ヒンジ体214の他端側、すなわち柄体213側に装着された固定ボルト215bを調節することで、柄体213は、静刃211と動刃221との開閉方向と直交方向に回動できる。
【0008】
また、第2のはさみ体220では動刃221と柄体223が一体に形成されており、柄体223の一端には親指を挿入できる指環224が設けられている。この指環224は、柄体223の、刃先と反対側に位置する一端側と固定ボルト215cでもって連結されており、この固定ボルト215cでもって調節することで、指環224の角度を自在に調整できる。この構造により、各々の固定ボルト215a、215b、215cを調節することで、順手及び逆手に応じて相違する指の挿入角度に対応した理美容はさみとできる。
【特許文献1】特開2004−84282号公報
【特許文献2】特開2007−185405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図18の理美容はさみ200の調節機能は、はさみを静止の状態で把持したときの姿勢を助けるにすぎず、使用に際しては使いづらい。これは、実際のカットの動作では、はさみを握り、かつはさみの刃を開閉しつつ、カットの対象体に対する刃の当接角度を変化させるために、はさみにひねりを加える必要があるからである。この一連の動作によって、はさみと手との相対位置が複雑に変化するため、静止状態のみの調節だけでは疲労の払拭には至らない。
【0010】
例えば、図18の理美容はさみを使用し頭部の所定領域に対してカットをする際、或いは、頭部から引き出した一束の毛に対して、種々の角度でもってはさみの刃を当てようとすると、はさみの刃の面や対象体に対して刃が当接する角度を種々に変化させる必要があり、この結果、手首を過度にひねる必要が生じてしまう。特に、手の構造上、手首を外側方向へひねるのは難しく腱鞘炎を誘発する虞があった。
【0011】
本発明は、従来のこのような問題点を解消するためになされたものである。本発明の主な目的は、はさみを逆手に握った状態で、刃を開閉し、尚かつ刃の向きを変更する一連の動作を容易に行うことができる理美容はさみを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の理美容はさみは、互いにすりあわせ可能な第1の刃13および第2の刃23と、第1の刃13及び第2の刃23とを回転可能に軸支している支点部3と、指を挿入して第1の刃13及び第2の刃23の開閉を操作するための第1の指環11及び第2の指環21と、を有する理美容はさみであって、第1の指環11は使用者の親指を掛けられるように成形されており、第1の指環11と第1の刃13との間に第2の刃23が位置し、第1の指環11及び第2の指環21のそれぞれの形状面における略中心同士を結ぶ線L1が、第1の刃13及び第2の刃23の回転面H2と交差していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第2の理美容はさみは、第1の刃13の下側に第2の刃23が重ね合わされており、さらに第1の刃13及び第2の刃23の回転面H2よりも下側に第1の指環11が位置しており、かつ回転面H2よりも上側に第2の指環21が位置していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第3の理美容はさみは、第1の指環11及び第2の指環21におけるそれぞれの形状面の中心軸15、25が、互いにねじれの位置にあることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第4の理美容はさみは、第2の指環21は、人差し指、中指、薬指、小指よりなる群から選択される少なくとも一の指を掛けられるよう成形されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第5の理美容はさみは、第2の指環21と第2の刃23との間に、指の少なくとも一部を接触可能な指当て部6が単数または複数形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第6の理美容はさみは、第1の刃13と第1の指環11とに連結して第1の刃13と第1の指環11との相対位置を固定可能な第1の柄12と、第2の刃23と第2の指環21とに連結して第2の刃23と第2の指環21との相対位置を固定可能な第2の柄22と、を有しており、第2の柄22の一部が、掌または指腹と当接可能に形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第7の理美容はさみは、第1の柄12あるいは第1の指環11は、第2の柄22側へと突出した領域7を備えており、刃先を開放した状態の第1の刃13または第2の刃23が、互いに近接する方向に回転する際に、第1の刃13及び第2の刃23が略重なる位置で、突出領域7が第2の指環21あるいは第2の柄22と接触すると共に、第1の刃13及び第2の刃23の回転を阻止することを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の第8の理美容はさみは、第1の刃13及び第2の刃23を閉じた状態における支点部3を基準点Gとして、この基準点Gから刃先方向をz軸とし、かつ基準点Gを通過して回転面H2と直交する直線をx軸とし、さらに基準点Gを通過し回転面H2と平行かつx軸と直交する直線をy軸とした際のxy平面視において、第1の指環11を第1象限に配置させ、かつ第2の指環21を第3象限または第4象限に位置する姿勢に構成してなることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第9の理美容はさみは、第2の指環21の形状面の中心点Jと基準点Gを結ぶ直線が、y軸との成す角を0°〜90°に設定してなることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第10の理美容はさみは、指当て部16の少なくとも一部が円弧状に形成されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第11の理美容はさみは、第2の柄22が、一端側にある第2の刃23と対向する他端側に把持補助部14を備えており、この把持補助部14の先端が第2の指環21よりも刃先と逆方向に突出していることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の第12の理美容はさみは、第2の指環21に連結され、かつ第1の指環11側に突出した第2の把持補助部24を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の理美容はさみは、第1の指環及び第2の指環のそれぞれの形状面における略中心同士を結ぶ線が、第1の刃及び第2の刃の刃面を含む回転面と平行に配置されておらず、双方が交差する構造である。すなわち第1の指環とはさみの刃との相対位置を立体的に構成している。この立体的な構成により、刃の静動時における指環の軌跡を、理美容はさみを把持した状態の手の姿勢、および刃を開閉する際の手の運動姿勢と類似させている。これにより理美容はさみを使用する際の疲労を極減できる。加えて本発明の理美容はさみは、はさみを把持した状態における刃面の向きが、刃先方向を軸として小指側に回転させている。これにより、理美容はさみを使用する際、手首の構造上、負担の大きい側へのひねりを低減しつつ、かつ刃面の向きを広範囲にできる。すなわち作業者が理美容はさみを逆手に把持し、かつ刃を開閉しつつはさみの刃面の回転面を種々に変更させる動作において、手や手首、腕への負担を低減して楽に一連の動作を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、理美容はさみを例示するものであって、本発明は、理美容はさみを以下のものに特定しない。さらに、本明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」、及び「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【実施例1】
【0026】
実施例1に係る理美容はさみ(以下、単に「はさみ」と記載することがある。)において、図1は閉刃状態の理美容はさみの斜視図、図2は閉刃状態の理美容はさみの斜視図、また図3は正面図、図4は背面図、図5は右側面図、図6は左側面図、図7は平面図、図8は底面図をそれぞれ示す。また、これらの図における共通の符号は、同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。
【0027】
図1〜図8の理美容はさみ1は、互いにすりあわせ可能な第1の刃13および第2の刃23(以下、単に「刃」と表記することもある。)と、この第1の刃13及び第2の刃23とを回転可能に軸支している支点部3とから主に構成される。また、理美容はさみ1は、指を掛けることができる第1の指環11及び第2の指環21(以下、単に「指環」と表記することもある。)を有しており、それぞれの指環11、21は、柄12、22でもって個々の刃13、23と連結されている。この指環11、21に使用者が指を掛けて動かすことで、刃13、23は支点部3を中心に回転し、すなわち指環11、21でもって刃13、23同士の開閉具合を調整できる。また、本明細書において柄12、22は、連結される指環によって、第1の柄12、第2の柄22と便宜上区別されて表記されることもある。また、「指環の形状面」とは、指環の環状を構成する輪郭の少なくとも一部を実質的に含む面を指す。
【0028】
(刃の重なり具合)
実施例に係る理美容はさみ1において、第1の指環11は親指用であって、すなわち親指を掛けられるように第1の指環11を成形している。また、図1の理美容はさみ1は、第1の刃13と第2の刃23とをすりあわせた状態であり、第1の刃13の背面側、すなわち図1における奥側に、第2の刃23を重ね合わせている。この状態を理美容はさみ1の閉刃状態とする。この閉刃状態の理美容はさみ1を正面側(図1の左手前側)から見て、第1の刃13を時計回りに回動させ、又は/かつ第2の刃23を反時計回りに回動させて、両方の刃13、23の刃先を開放させたものが図2であり、この状態を理美容はさみ1の開刃状態とする。
【0029】
また、図1〜図8に示すように、柄12、22は適宜所望の方向へと屈曲して成形され、刃13、23と指環11、21との相対位置を所定の姿勢に固定する。図2の例では、第1の柄12の屈曲によって第1の指環11が刃13、23の回転面H2よりも図の奥側に、第2の指環21は回転面H2よりも図の手前側にそれぞれ位置している。すなわち、図1〜2、5〜6に示すように、第1の刃13と第1の指環11を連結する第1の柄12が、第2の刃23または第2の柄22をまたぐように屈曲されている。言い換えると、図1、図5〜6に示すように、第1の指環11と第1の刃13との間に第2の刃23が位置する姿勢に成形される。図2の例では、第1の柄12の屈曲によって、第1の指環11が刃13、23の回転面H2よりも図の奥側に、第2の指環21は回転面H2よりも図の手前側にそれぞれ位置している。これにより図2に示すように指環11、21の形状面の略中心同士を結ぶ線(指環の中心結線)L1が、刃13、23の回転面H2と平行にならず、交差するように構成される。したがって、理美容はさみ1において図1の双方の刃先が鉛直方向に略一致する姿勢を基本姿勢とした場合、図2に示すように刃の開閉により構成される刃の回転面H2は、指環の中心結線L1を含有する鉛直方向の面H1(以下、「指環面」と表記することがある)と一致せず交差する。
【0030】
(指環)
また、 図1〜図8に示す理美容はさみ1は、刃13、23の回転面H2と、第1の指環11の形状面と、第2の指環21の形状面とが、それぞれ別個の平面上に形成されており、同一平面状に位置しない。加えて、図1に示すように第1の指環11及び第2の指環におけるそれぞれの形状面の中心軸15、25を、互いにねじれの位置関係に位置させて、理美容はさみ1を立体的に構成している。さらに図1の例では第2の指環21の中心軸25が、第2の刃23の軸方向と略平行にある。
【0031】
また、実施例1の指環11、21は図1〜8に示すように環状であって、この環状の中空に指を挿入することで、指の周囲と指環の内面とを接触可能にする。これにより、指環11、21と指との密着度を増して、この指環11、21でもってしっかりと理美容はさみ1を固定し、刃の開閉具合や刃先方向を自在に制御できる。ただ、指環11、21の形状はこれに限定されず、指の周囲の少なくとも一部が接触可能なものであれば種々の形状とでき、例えば指環の環状の環状の一部を開放したもの、環状の径を調節可能なものなど適宜選択できる。
【0032】
実施例1の理美容はさみ1において、指環11、21と刃13、23の相対位置が重要であり、詳しくは後述するが、双方が所定の位置関係になるよう柄12、22でもって固定される。これは、指環の位置が使用者の作業のし易さ、疲れにくさを大きく左右するからである。はさみと手の関係において、指を指環に掛けてはさみを把持すれば、自ずと手とはさみの相対位置が決定する。つまり、はさみの把持スタイルは指環の位置に依存するところが大きい。加えてはさみの開閉時においても、指の動きは指環の動きに規定される。すなわち、はさみのような形状を固定された機器にあっては、はさみの機械的な構造に指の動きが強制されるため、手の動きとはさみの動きが大きく相違すれば疲労の原因となりうる。したがって閉刃状態における指環の位置を、自然な指の動きと一致するように配置することが好ましい。また、はさみの指環の変位の軌跡が、刃を開閉する際の指の動きと実質的に一致することが好ましい。これにより、指環の機械的動作と手の構造による動きとが相似するため、使用者の疲労を軽減し、ひいては作業の効率性が増す。
【0033】
(第1の指環)
以下に指環の形成位置について、それぞれの指環毎に説明する。まず実施例1に係る第1の指環11は、第1の柄12の一端に連結されており、指環11の形状面は図1に示すように、柄12の軸方向よりも上方に起きあがった姿勢に構成される。さらに、指環11の形状面を第1の刃13の回転方向にひねった姿勢に配置することが好ましい。具体的な指環11の形状面について図9を用いて説明する。図9は第1の指環11の形状面の向きを説明するための説明図であって、第1の刃13と第1の指環11との相対位置を示すために、理美容はさみ1の部材を空間座標に模擬的に配置した状態を示す。図9において空間座標の原点Cは第1の指環11と第1の柄12との連結位置であり、またz軸は刃の軸方向に相当する。第1の指環11の形状面は、第1の刃13に対して立体的に連結されているが、指環11の形状面は、柄12の軸方向D1とx軸とを含有する基本平面F1から2段階の配向変化を組み合わせたものと考えると分かり易く、ここでは各段階における配向の変化を個別に説明する。ただし、実際に第1の指環11を形成するときは、以下の2段階を順不同に経てもよく、あるいは最終的な相対位置を満足するよう直接的に成形することもできる。
【0034】
まず1段階目として、図9(a)に示すように、x軸を軸にして基本面F1をzx平面の正領域に近接する方へ回転させた面を第2面F2とする。基本面F1から第2面F2への回転量A1は0〜90°が好ましく、さらに5〜80°が一層好ましい。この第2面F2に、さらに2段階目の角度変化を加える。すなわち図9(b)に示すように、原点Cを通る第1の指環11の直径方向D2を軸として、第2面F2を、軸D2の正方向から見て反時計方向に回転させた面を第3面F3とする。第2面F2から第3面F3への回転量A2は0〜120°が好ましく、さらに5〜80°が一層好ましい。実施例1の第1の指環11においては、指環の原点Cを基準点として、指環の形状面が第3面F3に含有される位置および姿勢に形成されて、第1の刃13とを固定する。また、柄12の長さは1〜6cmが好ましく、これにより刃13と指環11とを好適に離間して、はさみと指の動きをスムーズにできる。
【0035】
(第2の指環)
一方、第2の刃23に対する第2の指環21の相対位置を図10を用いて説明する。図10は、背面側から見た理美容はさみ1の部材を空間座標に模擬的に配置した状態を示す説明図であって、第2の指環21と第2の柄22との連結位置を空間座標の原点C’とし、さらにz軸は第2の刃23の軸方向に相当する。第2の指環21の形状面は、原点C’を支点にして、第2の柄22の軸方向d1よりも下方側に傾斜し、さらに一あるいは複数回の回転移動を経た姿勢に構成される。実施例では指環21の形状面と刃23との相対位置について、第1の指環11と同様、基準面から3段階の配向変化を組み合わせて達成されたと仮定し、各段階の配向変化を以下に説明する。ただし、指環と刃との相対位置を構成する際には、上記の2段階を順不同に組み合わせて達成してもよく、あるいは最終的な相対位置を決定してから柄でもって固定するなど、その方法については限定しない。
【0036】
まず、図10に示すように、刃23と直交するxy平面を基本面f1とし、この基本面f1を、x軸を軸としx軸の正方向から見て時計側へと回転させたものを第2面f2とする。基本面f1から第2面f2への回転量a1は0〜90°が好ましく、さらに5〜80°が一層好ましい。この回転に加えて、図11に示すように、指環21を第2面f2の面上において、z軸の正方向から見て時計方向(図11に示す太線の矢印方向)へと、0〜120°の範囲、より好ましくは5°〜80°の範囲において回転させてもよい。続いて、第2面f2に、さらに2段階目の角度変化を加える。すなわち図12に示すように、原点C’を通る第2の指環21の直径方向d2を軸として、第2面f2を時計方向に回転させた面を第3面f3とする。第2面f2から第3面f3への回転量a2は0〜90°が好ましく、さらに5〜80°が一層好ましい。実施例1の第2の指環21は、指環の原点C’を基準点として、指環の形状面が第3面f3に含有される位置および姿勢に形成されて、第2の刃23とを固定する。
【0037】
また、図6に示すように、実施例1に係る第2の柄22は、その軸方向d1を正面方向(図6の右方向)へと傾斜している。具体的に第2の柄22の軸方向d1は、第2の刃23の軸方向に相当するz軸と0〜90°の範囲、より好ましくは5°〜80°の範囲で傾斜角度a3を構成する。この範囲の傾斜であれば、第2の指環に挿入される指の先端領域が、後述する指当て部6と接面しやすくでき、すなわちはさみの固定が一層安定化するため好ましい。ただ、傾斜を設けずに、すなわち第2の柄22を、第2の刃23から刃の軸方向へと延伸し、すなわち第2の柄22の軸方向d1を第2の刃23の軸と略同一としてもよい。これにより設計および製造が容易となる。
【0038】
また、柄12、22は、刃と指環との相対位置を上記のように所定の位置に固定するものであればその成形方法は特に限定されない。例えば、一体に成形されたはさみの柄の一部に研削盤等で切り込みを入れ、この切り込み部を加圧して柄を所定の方向に折曲させる方法や、あるいは刃と指環とを所定の位置に位置決めした後に、別個の柄部によって双方を連結させて刃と指環との相対位置を固定してもよい。さらに、刃面に対する指環の相対位置を固定し、刃の開閉運動にあってもその変形しない程度の強度を有するものであれば、柄12、22の材質は特に限定されない。例えば刃と同じ材質とできる他、熱可塑性等の樹脂や、刃と異なる金属材質などが利用できる。また、各部材同士をねじやピンなどの回動軸で連結することにより部材を回転式とすることもできる。例えば指環11、21と柄12、22との連結部や、柄12、22と刃13、23との連結部などを回動軸で連結する、あるいは柄12、22を複数に分割し、各小部材を回動軸で連結させることで、部材同士の連結角度を自在としてはさみを立体的に構成し、使用者の手の大きさや指の長さに応じて角度を調節することもできる。
【0039】
(指と指環の動き)
実施例1の理美容はさみ1は、刃と指環との相対位置を上記の範囲とすることで、使用者がはさみを把持した状態の指の軸方向と指環の中心軸の方向とを略一致させ、さらに第1の指環の中心軸15の軌跡を、刃の開閉動作における親指の軸の軌跡とを近似させることができる。以下に使用時の手の動きと理美容はさみの動きについて図13を用いて説明する。図13は理美容はさみの使用状態を示す説明図であり、(a)は閉刃状態における把持状態、(b)は開刃状態における把持状態をそれぞれ示す。ただし、図13(a)の説明図では、親指の支持位置を明確にするために、故意に人差し指と中指を上方に挙げて親指を露出させた状態を表記している。
【0040】
(使用状態)
作業者が理美容はさみ1を使用する際、図13に示すように、第1の指環11の中空に第1の指B1である親指を図13の背面側から挿入すると共に、第2の指環21に第2の指B2である薬指を上方から挿入する。そして、第1の指B1を外側へ動かすことで、図13(b)に示すように第1の指環11が外方へと変位し、これに連動してはさみの刃13、23が開く。理美容はさみ1は、刃13、23の開放時に第2の刃23でとらえた対象物を、第1の刃13が第2の刃23側へ近寄り、最終的に図13(a)に示すように第1の刃13と第2の刃23が摺り合わさることによって、対象物を切断できる。このような役割の差から、第1の刃を動刃13、第2の刃23を静刃とも呼ぶ。ただし、静刃とは二枚の刃の役割の差より命名したものであって、常に静止している訳ではない。
【0041】
一方、親指は手の関節の構造により、他の指に比べて非常によく動く。また、親指を屈曲したときに、親指が他の四つの指と向かい合う。したがって、第1の指環に掛かる指を親指とし、この親指でもって理美容はさみ1の動刃13側の回転を調整することが指の構造から好ましい。
【0042】
また、上述したように、理美容はさみ1における指環11、21の各中心軸15、25(図1参照)が、はさみを把持した姿勢の手の指において、指環11、21に挿入する各指の付け根付近の軸方向に相当している。この結果、各指環11、21にそれぞれの指B1、B2を挿入して理美容はさみ1を逆手で把持すると、こぶしを作った姿勢の手の指に各指環が自然にフィットする。理美容はさみ1の把持状態では、図13(a)に示すように、指環11、21の下方に設けられた刃13、23の尖端が鉛直方向となり、すなわち、理美容はさみ1がこぶしの下にぶら下がった姿勢となる。つまり、理美容はさみ1の上方からはさみの重みを支持できるため、理美容はさみ1を横方向から支持する従来の場合と比較して、手首への負担が低減されて楽に持つことができる。この結果、理美容はさみ1の刃13、23の動きが自在となり、機敏な刃裁きができるとともに手も疲れない。
【0043】
さらに、刃が開閉する際の指環における法線の軌跡が、親指を開閉する際の親指の軸骨の軌跡に略等しくできる。詳しくは、閉刃状態から開刃状態への指環11の変位において、指環11の中心軸15の方向を、図13(a)、(b)に示す親指の軸Pの方向と略同一とできる。すなわち、はさみの機械的動作と指の動きとが実質的に一致するため、はさみの開閉作業による指の負担を低減して楽に操作を行うことができる。
【0044】
(指当て部)
また、実施例1に係る第2の柄22は、図1、図6、図13などに示すように、第2の刃23と第2の指環21との間に指当て部6を備える。第2の指B2が指環21に挿入されて、さらに指の腹を指当て部6に当接あるいは系止させることで、はさみの支持を一層安定化できる。したがって、指当て部6は、少なくとも指の腹が当接可能であれば特にその形状及び材質は特に限定されない。図13の例では、柄と同様の材質であって線状に構成され、さらに第2の柄22の軸方向に略直交して連結されている。また、摩擦力を増すために指当て部6の表面をシボ加工したり、あるいは摩擦係数の高いゴムなどの弾性材で被覆することもできる。
【0045】
また、指当て部6の指が当接される領域の外面形状を、指の腹の形状に合わせて密着度増加させることもできる。さらに図5、図6に示すように、指当て部6を前方へと突出させて柄22と段差を設けることにより、この段差の下側に指を掛けることが可能となってよりはさみを把持しやすくできる。特に、指当て部6に指を掛けることで、この指当て部6の下方側から上方へと持ち上げるように支持でき、すなわちはさみの重力を受けることができるため、逆手持ちの把持状態において指が指環から抜けて理美容はさみ1が下方へと落下するのを回避できる。特に、逆手用のはさみは下向きに構える、すなわち人差し指などが下方に向いた状態ではさみを把持する構造上、はさみの自重で下方に抜け落ちやすいという問題がある。このような構造にかんがみ、本実施例では上述のとおり指当て部などの形状を工夫することで、ずり落ちにくく把持しやすいはさみを実現している。
【0046】
さらに、指当て部6を複数設けて、それぞれの指当て部6に該当する指を当接、あるいは引っ掛けることで、はさみを支持する負担を分散することもできる。あるいは、一の指当て部でもって複数の指を当接させてもよい。例えば実施例1では、図13(a)に示すように、指当て部6の長手方向における長さを、当接される複数の指の腹の領域を含有する程度に延伸させている。使用に際しては、動刃13側の第1の指環11の中空に、背面側から親指を挿入する。これと同時に、第2の指環21に上方から薬指を第1間接付近まで挿入して、薬指の内側の側面領域を指当て部6に接面させる。さらに、中指の第1間接を曲げて指当て部6の下面側に中指の腹を当接させる。これにより、中指の腹でもって指当て部6を下面側から上方へ押し上げる姿勢とできる。この結果、静刃側を確実に固定し、動刃の迅速な回動運動が実現されて好ましい。加えて、指当て部6に指を引っかけて下側よりはさみを持ち上げることで刃先を上方へ配向でき、すなわち刃先の方向を広範囲に制御でき好ましい。このように指当て部6は、複数の指が当接できるように構成されることが好ましいが、一方、中指用あるいは薬指用など、いずれか一の指に対応した指当て部6が一つ設けられている構成でも良い。
【0047】
また、実施例1の理美容はさみは、刃の閉じ位置を決定可能なストッパーを備えてもよい。ストッパーとは、開刃状態の刃13、23が互いに近接する方向に回転する際に、双方の刃13、23が略重なる位置で刃の回転を阻止させ、刃の積層位置よりもさらに刃の回転が進行するのを抑止する役割を担う。図1〜図13の例では、第1の指環11の一部から、第2の指環21側へと突出した領域7をストッパーとし、刃13、23の閉刃状態ではストッパー7が第2の柄22の先端部と当接するよう構成されている。言い換えると、ストッパー7が第2の柄22と接触することで指環11の変位運動が停止するとともに刃の閉じ位置となる。ストッパー7の形状や形成位置および接触する部位については特に限定されず、ストッパー7の材質についても種々のものとできる。ただストッパーまたはストッパーが当接される部位においては、接触時の騒音や応力を吸収可能なゴムや樹脂などの弾性体が好ましい。
【0048】
さらに、第2の柄22は、掌と当接可能な把持補助部4を設けても良い。図1の例では、把持補助部4として、第2の柄22の先端領域、すなわち第2の指環22との連結位置から先端部にかけて上方へと湾曲させている。理美容はさみ1を把持した際、この湾曲部が掌における指の付け根近傍あるいは指腹と当接される。これにより指当て部6と湾曲部とを、中指と掌近傍とで挟む姿勢とでできるため、静刃側を一層安定して把持できる。さらに、湾曲部と当接された掌部を支点とし、指当て部6に中指あるいは他の指をかけて理美容はさみ1を下方から上方へと引き上げることで、刃先を上向きへと容易に起こすことができる。すなわち刃先の向きを容易に変更でき好ましい。ただ、把持補助部4の形状としては、第2の柄22の先端領域における湾曲状に限定されない。例えば掌との当接領域を増大させるため、面状など種々の形状とできる他、別個の部材を連結させてもよい。また、把持補助部4の形成箇所は第2の柄22に限定されないが、静刃側に連結された部材に形成されることが好ましい。これにより静刃側を確実に把持して、刃の開閉運動の制御がしやすくなる。実施例1に係る第2の柄22では、柄の一部を掌に接触できるよう成形することでこれを把持補助部4とし、さらに柄22の先端を弾性材のキャップで被覆することでストッパー7の当接部としても併用している。
【0049】
(刃の積層順)
また、実施例1の理美容はさみ1では、従来のはさみと比べて刃の重なり方が異なる。すなわち作業者がはさみを逆手で使用する場合、従来のはさみでは図17、図18に示すように、動刃102、221が静刃101、211の上側、すなわち作業者から離間側に重ねられる。一方、実施例1の理美容はさみ1では、図1〜図13に示すように、刃の積層順が相反しており、すなわち静刃23が動刃13の上方側であって、動刃13が作業者から遠隔側に位置する。これは、従来の順手用のはさみであって、かつ左利き用はさみの刃の重なり方に匹敵する。この構造により刃13、23をすりあわせる際に、作業者は第1の指環11を遠隔側へと押し気味に移動させればよく、手前に引く必要がない。これは、てこの原理に起因する。つまり、支点部3を支点とし、力点側である親指側の柄12を遠隔側へと押圧すれば、作用点側である動刃13を内方側、すなわち静刃23側に近接させて、双方の刃のすりあわせがより良くなる。
【0050】
従来のはさみであれば、刃のすりあわせを意識して、指環を手の甲側すなわち作業者側へと引き上げながら、かつ指環を人差し指側へと近接させる必要があり、この動作は親指の構造上容易でないため不自然な力が入って過労のひきがねとなる。あるいは、支点部3のねじをきつく締めて刃の良好なすりあわせを実現しようとすれば、刃同士の摩擦力が大きくなって刃の開閉に要する力が増す。この結果、使用者は疲れやすくなる。対して、実施例1の理美容はさみによる刃の積層順であれば、上述の通り親指の挿入方向が、良好な刃のすりあわせを実現するための力点側での押圧方向に一致する。したがって、特に意識せずに挿入方向へと指環を押圧することとなり、つまり親指の自然な動きで良好な刃のすりあわせを実現できる。これは指環を手前側に引き上げる動作と比較して、手に対する負担を著しく低減するとともに、刃の開閉運動の速度を精度良く制御できる。加えて、支点部3のねじをゆるくできるため軽い力での刃の開閉が可能となり、疲労を一層削減できる。
【0051】
(刃面の向き)
また、実施例1の理美容はさみ1は、作業者が理美容はさみ1を把持した際、理美容はさみ1の刃面が第2の指環21側すなわち作業者の小指側に向くよう構成されている。この刃面のひねりについて図2を用いて説明する。図2に示すように、指環11、21の中心結線L1が、刃13、23の回転面H2と交差している。 言い換えると、指環11、21の中心結線L1を含む指環面H1は、第1及び第2の刃の刃面を含む回転面H2と平行ではなく、交差する姿勢に構成されている。すなわち、指環面H1と刃面H2は、鉛直方向を軸にして0°より大きく90°以下、より好ましくは5°〜80°の回転角A3でもって交差している。
【0052】
一方、作業者が理美容はさみを把持した際の、手と刃面の関係について図14を用いて説明する。図14は把持状態における手とはさみによるカット方向との関係を示す説明図であって、ヘアカットを施す作業者Iと被理髪者Yを上方から見た簡略図である。まず、作業者Iのはさみの把持姿勢において、作業者が手首を略まっすぐにした状態であって、かつ指環面H1が自身あるいは対象物に対して略平行になる姿勢を基準の把持姿勢とする。言い換えると、基準の把持姿勢において、作業者Iあるいは被理髪者Yは指環面H1とは略平行であるが、刃面H2は作業者の小指側に配向している。すなわち、理美容はさみ1を作業者Iが握り、作業者Iがこの理美容はさみ1を上方から見た際、刃面H2は鉛直方向の軸を基準にして時計回り方向へA3の回転角だけ回転した状態、すなわち図14で示す右斜め下方向にひねった姿勢に構成されている。
【0053】
上記の刃面H2のひねりによって、作業者の手のひねりの負担が軽減されるとともに、刃面の実現可能な配向角度を増加させられる。これについて図14を用いて説明する。作業者Iが被理髪者Yの背後に立ってヘアカットをする際、利き手側と反対領域(右利きの作業者であれば被理髪者Iの左側領域)では、手首を外方側へひねった状態で刃の開閉動作を繰り返す必要がある。また頭部より引き出した髪の一束に対して、複数方向からの刃入れをする場合においても、手首でひねってはさみの刃面を種々に変更する必要があり、従来のはさみでは疲労の原因となっていた。例えばドライカットではまず作業者Iは、図14に示すように被理髪者Yの毛の一束8を頭部から引き出す。この毛束8の毛先の角をカットしてを鉛筆状に調髪する。カットした毛束8を開放する。再び別の毛の一束を頭部から引き出して毛先の角をカットし、この毛束を尖塔状に理髪する。これを繰り返す。
【0054】
具体的に、図14に示すように、任意の一束の毛束8における対称な2角を切り落とすため、刃を2方向C1、C2(図14の矢印方向)から入れる際、従来のはさみでこれを実現しようとすれば、手首を大きくひねる必要が生じる。なぜなら従来のはさみでは、指環面h1と刃面H2とが略同一であるため、刃面H2の配向角度と同等の配向角度だけ指環面h1をひねる必要があり手首の負担が大きい。特に手首の構造上、手首を外側方向へひねる動作は、内側方向へのひねりの動作と比較して困難であり、したがって可能なひねり角度も低減される。例えば図14の場合、C1方向の刃面を達成しようとすれば手首を右側にひねる必要があり、加えて、従来のはさみであれば動刃側の指環を引き上げながらの開閉運動が要求されるため一層の負担が生じる。
【0055】
一方、実施例1の理美容はさみ1であれば、手首の負担を低減させて刃面を外側に配向させることができる。具体的に、図14においてC1方向のカットを施そうとすれば、C1方向と平行な刃面H2を達成するのに必要な指環面H1は、刃面H2と同一ではなく、作業者側である手前に位置している。すなわち、上述したように基準の把持姿勢で既に刃面H2が外側方向(図14における右側方向)へと回転しているため、この刃面H2の回転具合を達成するのに必要な指環面H1のひねり具合は低減される。この結果、図示されるように実際の手首のひねりが低減されて著しく手首への負担が減少する。
【0056】
また、C2方向における刃面H2を達成しようとすれば、図14に示されるように指環面H1を構成する必要がある。このC2方向における刃面H2に関しては、手首を内側へひねることで達成できる。ただ図示するように、実施例1の理美容はさみであれば実際の指環面H1のひねり方向が刃面H2よりも大きいため、すなわち刃面と指環面が同一である従来の理美容はさみと比べて、指環面を構成する手首のひねり具合が大きくなる。しかしながら、上述したように、内側方向への手首のひねりは外側方向と比較して容易であるため、内側方向へのひねりの度合いが多少増加したとしても負担の大きさはさほど変化しない。
【0057】
上記のように、手首のひねりに関して負担の大きい外側方向へのひねりの必要性を低減させることで、刃面の実現可能な配向角度を増加させることができる。図15は刃面H2の配向可能な領域を示す説明図である。図15中、斜線領域は従来の理美容はさみでもって実現可能な領域R1を、一方、ドット領域は実施例1の理美容はさみでもって実現可能な領域R2を示す。ただし、手首のひねりの限度は個々のばらつきがあるため刃面配向の実現可能な領域にズレはあるが、ここでは従来の理美容はさみの実現可能な領域を基準にして、実施例1の理美容はさみの刃面領域を説明する。また、図15は、図14と同様、右利きの作業者Iと被理髪者Yを上方から見た簡略図である。
【0058】
上述の通り刃面H2と指環面h1とが同一である従来の理美容はさみでは、刃面H2と指環面h1の配向可能な領域が等しい。すなわち手首のひねりによって実現可能な指環面h2の領域が、刃面H2の配向可能な領域となる。したがって図15に示すように手首の負担の大きい側に相当する対象体の左半球側では、従来の理美容はさみの配向可能な領域R1が乏しい。一方、実施例1における理美容はさみの配向可能な領域R2は、あらかじめ刃面の向きが外側方向に配向されているため、これが助長されて、同じ手首のひねり具合であっても、より広範囲な領域でカットできる。
【0059】
また、被理髪者Yである対象体の右半球においては、手首のひねりを内側にして実現できる範囲に相当するが、上述の通り、手首のひねり角度の相違による負担がさほど影響がないため、R1とR2での領域にあまり差がない。つまり、従来の理美容はさみでは、負担の大きい左半球側と負担の少ない右半球側において、刃面の配向可能な領域のバランスが悪かったが、実施例1の理美容はさみではこれが解消されて、ほぼ対称な配向領域を実現できて好ましい。加えて、配向領域の増減に大きく影響を及ぼす左半球側での作業領域が増大するため、右半球側の配向領域がわずかながら減少しても、総合的な配向領域を増加できる。ただ、この配向領域は、従来のはさみであっても作業者Iの立ち位置を変更することで実現可能ではある。しかし、作業者Iが動く必要があり面倒である。実施例の理美容はさみ1であれば、同じ立ち位置でありながら手首のひねりを少なくして広範囲にカットをすることができる。また作業者の移動量も少なくできるため作業の効率性が高まる。
【0060】
以上のように、基準の把持姿勢による刃面のひねり具合は、指環面H1と刃面H2とで構成される角度A3(図2参照)に依存される。この指環面H1と刃面H2とにより構成される角度A3は0°より大きく90°以下でることが好ましく、特に5°〜80°であることが一層好ましい。この範囲であれば上記の効果を有効に得られる。角度A3が小さければ刃面のひねりの度合いが小さく、90°より大きければ、手首の内側方向へのひねりにおいて、従来の理美容はさみと実施例1の理美容はさみとの差が無視できないほどの負担となる。
また、第2の指環21に掛ける第2の指B2は薬指に限定されず、人差し指、中指、小指のいずれでもよい。親指と組み合わさる第2の指B2を択一とすることで、各指における理美容はさみの把持姿勢を変化できる。すなわち基準の把持状態における刃面のひねり角度A3を、選択される第2の指によって調整できる。言い換えると、第2の指環21への挿入指でもって刃面H2の方向を段階的に変化でき、刃面の方向性を広範囲にできる。
また、図1〜図13は右利き用の理美容はさみであり、すなわち右利きの作業者が第1の指環に親指をいれて使用するための理美容はさみである。この理美容はさみの構造を左利き用の理美容はさみに利用できることは言うまでもない。すなわち動刃側の第1の刃が、第2の刃の上に重ね合わされ、すなわち第1の刃が使用者から遠隔側に位置する。そして各指環の位置が利き手の指の位置に略一致するよう、刃に対する指環の相対位置が上記のように保持されていれば、理美容はさみの形状及び材質については特に限定されず種々のものとできる。
【実施例2】
【0061】
さらに理美容はさみの把持補助部は、上述の通り湾曲状の他、種々の形状とできる。例えば把持補助部を刃の延伸方向と実質上一致させて直線状とした理美容はさみ20を実施例2とし、この理美容はさみ20の正面図を図19に示す。また図19の理美容はさみ20を把持した様子を図21に示す。この実施例2の理美容はさみ20において、実施例1の理美容はさみ1と同一の部材や構造については同一の符号を付して図示しており、適宜詳細な説明を省略する。
【0062】
実施例2の理美容はさみ20は、図19、図21に示すように、実施例1と同様、第2の柄22の延長上に把持補助部14を備える。具体的に把持補助部14は、第2の柄22において一端側の第2の刃23と対向する他端側に備えられる。そして把持補助部14は第2の柄22から連続した直線状であって、端部は第2の指環21よりも上方(刃先と逆方向)に突出している。図19、図21の例では、第2の刃23、第2の柄22、把持補助部14が、長手方向に連続して一直線状に成形されている。ただ、これらの部材の延伸方向を精密に一致させる必要はない。例えば図23に示す理美容はさみは、実施例2の別の形態に係る理美容はさみの正面図であり、図19の理美容はさみと比較して、第2の柄22及び把持補助部14の延伸方向が異なる。すなわち第2の柄22が、第2の刃23との連結域から図23における左側、つまり第1の指環11から離間する方向へと傾斜している。さらに把持補助部14は、この傾斜した第2の柄22の延長上であって把持補助部14と連続して設けられている。つまり、把持補助部14の先端側につれて、第1の指環11から離間した形状となり、これにより第1の指環11と第2の指環21間の空間スペースを稼ぐことができる。この結果、使用者がはさみ20を把持した状態で、第1の指B1と第2の指B2との間の第3の指B3をこのスペース内に配置させて、第2の指と第3の指でもって把持補助部14を狭持しやすくできる。あるいは、第2の柄22における一端から他端までの中途位置を支点として、第2の柄22を外側(図23の左側)へと傾斜させることで、第1の柄12及び第2の柄22とを離間させ、第1の指環11及び第2の指環21間の空間スペースを確保する形態としてもよい。さらに第2の柄22の傾斜に合わせて、第1の刃13からの第1の柄12の延伸方向や、第1の柄12と第1の指環11との連結角度を適宜調節して、把持状態を調整することができる。また把持補助部14は、第2の柄22と同一の部材で構成できる他、把持補助部14と第2の柄22とを別個の部材としてこれらを連結させ、一体とする形態としてもよい。
【0063】
作業者が第1の指環11及び第2の指環21に、第1の指B1及び第2の指B2をそれぞれ挿入すると、図21に示すように第1の指B1と第2の指B2の間に位置する第3の指B3が、直線状把持補助部14に当接する。具体的に、第1の指環11に親指B1を挿入し、さらに第2の指環21に中指B2を挿入する形態では、人差し指が第3の指B3に相当し、この人差し指B3が直線状把持補助部14に接触した状態となる。そして、これとほぼ同時に第2の指環2に挿通した中指B2も直線状把持補助部14に当接し、したがって人差し指B2と中指B3とで直線状把持補助部材14を狭着する姿勢とできる。つまり把持補助部14を設けることで、複数の指で静刃23側を安定して支持することができ、はさみ20の使用における能率性、安全性を高められる。
【0064】
さらに理美容はさみ20は、静刃23側の安定した支持を図るため、種々の部材を追加、あるいは既出の部材の形状を変形してもよい。例えば図19に示すように、指当て部16を環状とできる。この指当て部16は、実施例1の指当て部6と同様に、第2の指環21と第2の刃との間に位置しており、指の少なくとも一部を接触可能に形成されている。さらに具体的に指当て部16は、第2の指環21と支点部3との間に固定される。そして指当て部16と第2の柄22との連結領域は、第2の指環21と第2の柄22との連結域の下方に位置する。また指当て部16の内面の少なくとも一部が、第2の指B2の外面に沿う形状に形成されることが好ましい。これにより第2の指B2を第2の指環21に掛けた状態で、第2の指B2の先端側を指当て部16にしっかりと当接させることができ、この結果はさみ20を安定して把持できる。
【0065】
また第2の指環21と指当て部16との離間距離は特に限定されない。例えば指当て部16を第2の指B2の関節に当接可能な位置に固定することで、関節の折曲部に指当て部16の枠を挟みこみ、かつ指の腹で指当て部16を下から上へ持ち上げる姿勢に支持できる。この結果、刃先を下方にしてはさみ20把持する際に、はさみ20が鉛直方向に落下することを回避でき好ましい。
【0066】
また、第2の指環21と第2の柄22との連結点及び第2の指環21の中心点との結線を第2の指環軸t2とし、同様に指当て部16と第2の柄22との連結点及び該指当て部16の中心点との結線を指当て部軸t4とする。そして第2の指環21の外形を含む形状面u1が、第2の柄22と直交する面から0°〜30°の範囲で下方に傾斜可能とする。すなわち図19、図23に示すように、第2の指環軸t2と刃先の延伸方向とのなす角度e1が60°〜90°になる姿勢でもって第2の柄22に固定されることが好ましい。さらにこれに加えて、第2の指環の形状面u1は、この第2の指環軸t2を中心とし回転可能とする。詳しくは図20に示すように、第2の指環軸t2と刃先方向とのなす角e1を上記の範囲(60°〜90°)に維持しながら、該第2の指環軸t2を軸として、この軸t2を含有する指環の形状面u1を、図面における手前あるいは奥方向に回転量vだけ回転させた面u1’とできる。つまり第2の指環21は図20で示すように、第2の柄22との連結点を中心として、図面における手前あるいは奥方向に回転した位置で固定される。この第2の指環21の形状面の回転量vは、平面u1を基準として、第2の柄を対称に0°から±10°の範囲とする。
【0067】
さらに指当て部16に関しても、上記の第2の指環21と同様の範囲で固定位置を変動できる。すなわち指当て部16は、刃先の延伸方向とのなす角度e2を60°〜90°に維持しながら、指当て部軸t4を軸として指当て部16の外形を含有する形状面u2を、図面における手前あるいは奥方向に上記の回転量vだけ回転させた面u2’とできる。指当て部16は、指当て部16の外形を含有する形状面u2の法線を、第2の指環21の中心軸と略同一として、指当て部16のこの法線が、第2の指環21と指当て部16との両方に掛けた第2の指B2の挿入方向と略一致するように配置されることが好ましい。言い換えると、第2の指環21の形状面u1、u1’と、指当て部16の外形を含む形状面u2、u2’とを略平行とすることが好ましい。第2の指環21及び指当て部16の配置位置または相対位置を上記の通りとすることで、手の作業姿勢に実質上整合した理美容はさみ20とできる。したがって理美容はさみ20を自然に把持でき、はさみの使用による疲労を極減できる。一方で図22に示すように、第2の指環21と指当て部16において、第2の柄22から遠方側で互いに接近する構造としてもよい。これにより第2の指環21と指当て部16における各形状面の法線方向が相違するため、挿入する指に対して係合しやすくなる。言い換えるとはさみ20が指から抜け落ちにくくなって使用の安全性が高まると同時に、刃先の動きを有効に制御できる。具体的に指当て部16は、第2の指環21と比較して刃先の延伸方向とのなす角度e2を大きくすることが好ましい(e2>e1)。つまり指当て部16の下方への傾斜具合を小さくすることが好ましい。なぜなら第2の指B2の外側面(爪を備える面)において、指当て部16の下方に指をしっかりと当接しやすくできるからである。この結果、刃先を上方に持ち上げる際に、指当て部16の下方側の該接触領域を中心として外方へと押圧しやすくできる。この押圧により指当て部16が前方へ移動するとともに刃先が容易に上昇し、かつこの姿勢を支持しやすくできる。詳細には、第2の指環軸t2と平行な位置t4を基準として、指当て部軸を上方に0°から5°の範囲で傾斜させた位置t4’とすることで、上記の効果を享受でき好ましい。すなわち第2の指環21と指当て部16とのなす角度sを0°〜5°の範囲とすることが好ましい。さらに指当て部16は、第2の指環21を縮小した形状、すなわち図19の例では径を小さくした環状とすることが好ましい。これにより第2の指B2と指当て部16との接触面積を稼いで、第2の指環21に掛かる第2の指B2からはさみ20が抜け落ちることを一層回避できる。
【0068】
また指当て部16は一方で、連続した環状の他、環状の円周の少なくとも一部のみの形状、すなわち断片状としてもよい。この例を図24に示す。図24の指当て部26は、環状の一部を切り欠いた半環状であって、第2の柄22との連結部を中心として略対称な形状に形成されている。つまり指当て部26は、第2の柄22と近接する側にのみ半円状に形成し、これと対向する外側の半円状を欠いた円弧状としている。言い換えると指当て部26は、第2の指と第3の指とで把持補助部14を狭着する際に応力がかかる領域を中心に成形される。また指当て部16は、少なくとも指B2の腹と接触可能な領域を含有する円弧状とすることが好ましい。これにより第2の指B2の先端を指当て部16に引っかけやすくでき、指との接面領域を稼ぐことができる。
【0069】
このように静刃23側を固定するのに有効な領域に限定して、指当て部26を成形する形態では、指の全周ではなく、指の周囲の一部のみを把持補助部14に当接できる。この結果、作業者の指の太さに関わらず、常に第2の指B2と指当て部26とを密接に当接させることができる。つまり、第2の指環21に掛かる第2の指B2として選択される指の径の違いや、様々な作業者による指の太さの違いに依存せず、第2の指B2を指当て部26にしっかりと接触させて把持補助部14を固定することができる。
【0070】
また実施例2の理美容はさみ20は、さらに第2の把持補助部24を別個に設けて、把持状態を一層安定させることができる。例えば図19〜図24の例では、第1の指環11と第2の指環21との間に第2の把持補助部24を配置している。作業者が理美容はさみ20を把持すると、第3の指B3をこの第2の把持補助部24に当接させることができる。言い換えると第2の把持補助部24が第3の指B3を支持することで、第3の指B3の把持位置が位置決めされて、この結果、第3の指で第2の柄22をしっかりと静止状態に固定できる。具体的に、第2の把持補助部24は第2の指環21の一部に連結される。ただ、連結位置は第2の指環21に限定されず、例えば第2の柄22上とすることもできる。さらに第2の把持補助部24は、第2の指環21から第1の指環11側へと突出した直線状に成形される。そして図21に示すように、第1の指環11と第2の指環21に、親指B1及び中指B2をそれぞれ掛けた状態で、人差し指B3の腹側を第2の把持補助部24に接面させる。さらに詳しくは、人差し指B3の第1関節の折曲により、把持補助部24を巻き込むように狭んでしっかりと支持できる。このように第2の把持補助部24を設けることで、作業者が静刃23側の第2の柄22を安定して保持し、はさみの開刃あるいは閉刃状態においても第2の柄22を実質上静止するよう固定でき好ましい。
【0071】
(第2指環の位置)
また理美容はさみは、図11に示すようにz軸の正方向から見て時計回り(図11に示す太線の矢印方向)に第2の指環21を回転可能に固定できることについては上述の通りである。これにより、第1の指環11と第2の指環21との離間距離や構成角度など互いの相対位置を調節して、作業者がはさみ1を楽に把持したときの手の姿勢に、はさみの構造を適合させることができる。この第1の指環11の連結位置について以下に説明する。
【0072】
図25は、実施例2に係る理美容はさみ20の刃先側から観測した平面図である。ここで、支点部3を基準点Gとし、この基準点Gから閉刃状態の刃先方向(図25における奥から手前方向)をz軸とする。さらに基準点Gを通過して刃の回転面と直交する直線をx軸とする。加えて基準点Gを通過し刃の回転面と平行かつx軸と直交する直線をy軸とする。またx軸において第2の刃23側(図25の右方向)をx軸の正方向、図25の上方向をy軸の正方向とする。つまり図25は、実施例2の理美容はさみ20のx−y平面図である。そして基準点Gから、第2の指環21の形状面の中心点Jへの方向を第2の指環21の固定方向mと定義する。また第2の指環の固定方向mが、負のy軸方向と成す角を第2の指環の連結角度θと称する。
【0073】
理美容はさみ20は、図25のx−y平面視において、第1の指環11を第1象限に配置し、かつ第2の指環21を第3象限または第4象限に位置させる姿勢に構成している。具体的に第2の指環21の連結角度θを0°〜120°、好ましくは0°〜90°、一層好ましくは30°〜60°の範囲とする。この範囲であれば、第2の指B2が人差し指、中指、薬指、小指のいずれであっても、あるいは作業者によって指環に掛かる指B1、B2の長さや太さなどに多少の差があっても、これらのバラツキを許容して作業者が自然に把持できる理美容はさみ20とできる。つまり作業者の理美容はさみ20を握る格好は、作業者によって、第1の親指B1と第2の指B2との離間距離や、指の高低差、構成角度など手の姿勢に多少のズレが生じる。これは、第2の指B2として選択された指の形状の違いや、あるいは作業者固有の指の形状の差によって、第1の指と第2の指との相対位置が多少異なるからである。したがって刃面の水平方向を基準とした第2の指環21の連結角度θを上記の範囲とすれば、選択された指がいずれの場合であっても、作業者の作業格好に理美容はさみの動きを類似させることができるため、把持しやすいはさみとできる。
【0074】
さらに第2の指B2をいずれか一の指に特定してはさみ20を使用する場合は、第1の指環11と第2の指環21をより詳細に位置決めすることが好ましい。これにより第1の指B1と第2の指B2とで構成される把持姿勢に理美容はさみ20の構造を一層整合させることができる。例えば第2の指B2を中指とする場合は、第2の指環21の連結角度θを約45°とすることが好ましい。この結果、楽に把持でき作業しやすい理美容はさみとなり、安全性や能率を高めることができる。
【0075】
また、理美容はさみは、実施例1で記載したように刃の閉じ位置を決定可能な種々の形状のストッパーを適所に備えることができる。例えば図19〜図23の理美容はさみ20では、第2の柄22の一部から第1の柄12側へと突出した凸部を設けており、これをストッパー17としている。そして第1の指環11を回動させて開刃状態から閉刃状態に移る際に、第1の柄12を第2の柄22側に接近させ、さらに第1の柄12をストッパー17の先端に当接させる。この当接位置で指環11の変位が停止するとともに刃の回動も停止する。
【0076】
またストッパーと、このストッパーに当接される受容部とは、互いに嵌合する形状とできる。例えば図26に示す理美容はさみでは、第1の指環11の一部から角柱状に突出したストッパー7と、このストッパー7に当接されてストッパー7の移動を停止させる受容部18を備える。図26の受容部18は湾曲した第2の柄22の先端部にあり、ストッパー7側の突出形状に沿って切り欠いた形状としている。具体的に、ストッパー7側の直角を構成する外面が、受容部18の切り欠け部の内面に接面するよう受容部18を段差状としている。この受容部18の段差状の切り欠き部分にストッパー7の突出形状が嵌合して、理美容はさみが閉刃状態となる。このように当接部において、接触される互いの部材を嵌合形状に形成することで、当接位置を安定させることができ好ましい。また、上記の例では互いに嵌着する当接部の凸部側および凹部側を、ストッパー及び受容部に対応させたが、ストッパーを凹部側とするとともに受容部を凸部側としてもよいことは言うまでもない。さらに図26の理美容はさみにおいても、図23の例と同様に、第2の柄22の少なくとも一部を第1の指環11から離間する方向へ傾斜させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の理美容はさみは、理美容のはさみに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1に係る閉刃状態の理美容はさみの斜視図である。
【図2】実施例1に係る閉刃状態の理美容はさみの斜視図である。
【図3】実施例1に係る理美容はさみの正面図である。
【図4】実施例1に係る理美容はさみの背面図である。
【図5】実施例1に係る理美容はさみの右側面図である。
【図6】実施例1に係る理美容はさみの左側面図である。
【図7】実施例1に係る理美容はさみの平面図である。
【図8】実施例1に係る理美容はさみの底面図である。
【図9】実施例1に係る第1の指環の形状面の向きを説明するための説明図である。
【図10】実施例1に係る第2の指環の形状面の向きを説明するための説明図である。
【図11】実施例1に係る第2の指環の形状面の向きを説明するための説明図である。
【図12】実施例1に係る第2の指環の形状面の向きを説明するための説明図である。
【図13】実施例1に係る理美容はさみの使用状態を示す説明図である。
【図14】実施例1に係る把持状態における手と理美容はさみの切断方向との関係を示す説明図である。
【図15】実施例1に係る刃面の配向可能な領域を示す説明図である。
【図16】従来の理美容はさみにおける順手の握り方を示す説明図である。
【図17】従来の理美容はさみにおける逆手の握り方を示す説明図である。
【図18】従来の理美容はさみを用いて作業をする際の説明図である。
【図19】実施例2に係る理美容はさみの正面図である。
【図20】実施例2の別の形態に係る理美容はさみの説明図である。
【図21】実施例2に係る理美容はさみの使用例を示す。
【図22】実施例2の別の形態に係る理美容はさみの説明図である。
【図23】実施例2の別の形態に係る理美容はさみの正面図を示す。
【図24】実施例2に係る理美容はさみの他の例を示す。
【図25】実施例2に係る理美容はさみの平面図を示す。
【図26】ストッパーの別の形態を説明する理美容はさみの正面図を示す。
【符号の説明】
【0079】
1、200…理美容はさみ
3…支点部
4、14…把持補助部
6、16、26…指当て部
7、17…突出した領域(ストッパー)
8…毛束
11…第1の指環
12…第1の柄
13…第1の刃(動刃)
15…中心軸
18…受容部
21…第2の指環
22…第2の柄
23…第2の刃(静刃)
24…第2の把持補助部(直線状把持補助部)
25…中心軸
100…理美容はさみ
101…動刃
102…静刃
101A、102A…柄
101a、102a…指環
103…ねじ
20…理美容はさみ
211…静刃
210…第1のはさみ体
213…柄体
214…ヒンジ体
215a、215b、215c…固定ボルト
216…指環
221…動刃
220…第2のはさみ体
223…柄体
224…指環
230…支点軸ボルト
A1…基本面F1から第2面F2への回転量
a1…基本面f1から第2面f2への回転量
A2…第2面F2から第3面F3への回転量
a2…第2面f2から第3面f3への回転量
A3…指環面H1と刃面H2とで構成される回転角
a3…傾斜角度
B1…第1の指
B2…第2の指
B3…第3の指
C、C’…原点
C1、C2…カット方向
D1…第1の柄の軸方向
d1…第2の柄の軸方向
D2…原点を通る第1の指環の直径方向
d2…原点を通る第2の指環の直径方向
e1…第2の指環と刃先方向とのなす角度
e2…指当て部と刃先方向とのなす角度
F1、f1…基本面
F2、f2…第2面
F3、f3…第3面
G…基準点
H1、h1…指環の中心同士を含有する面(指環面)
H2…刃の回転面(刃面)
I…作業者
J…第2の指環の形状面の中心点
L1…指環の中心同士を結ぶ線(指環の中心結線)
m…第2の指環の固定方向
P…親指の軸
R1、R2…理美容はさみの刃面が配向可能な領域
s…第2の指環と指当て部とのなす角度
t2…第2の指環軸
t4、t4’…指当て部軸
u1、u1’…第2の指環の形状面
u2、u2’…指当て部の形状面
v…回転量
Y…被理髪者
θ…第2の指環の連結角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにすりあわせ可能な第1の刃(13)および第2の刃(23)と、
前記第1の刃(13)及び第2の刃(23)とを回転可能に軸支している支点部(3)と、
指を挿入して前記第1の刃(13)及び第2の刃(23)の開閉を操作するための第1の指環(11)及び第2の指環(21)と、
を有する理美容はさみであって、
前記第1の指環(11)は使用者の親指を掛けられるように成形されており、
前記第1の指環(11)と第1の刃(13)との間に前記第2の刃(23)が位置し、
前記第1の指環(11)及び第2の指環(21)のそれぞれの形状面における略中心同士を結ぶ線(L1)が、前記第1の刃(13)及び第2の刃(23)の回転面(H2)と交差していることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項2】
請求項1に記載の理美容はさみにおいて、
前記第1の刃(13)の下側に第2の刃(23)が重ね合わされており、
さらに前記第1の刃(13)及び第2の刃(23)の回転面(H2)よりも下側に前記第1の指環(11)が位置しており、かつ前記回転面(H2)よりも上側に前記第2の指環(21)が位置していることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項3】
請求項1または2の理美容はさみにおいて、
前記第1の指環(11)及び第2の指環(21)におけるそれぞれの形状面の中心軸(15,25)は、互いにねじれの位置にあることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第2の指環(21)は、人差し指、中指、薬指、小指よりなる群から選択される少なくとも一の指を掛けられるよう成形されていることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第2の指環(21)と第2の刃(23)との間に、指の少なくとも一部を接触可能な指当て部(6)が単数または複数形成されていることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第1の刃(13)と前記第1の指環(11)とに連結して該第1の刃(13)と該第1の指環(11)との相対位置を固定可能な第1の柄(12)と、
前記第2の刃(23)と前記第2の指環(21)とに連結して該前記第2の刃(23)と該第2の指環(21)との相対位置を固定可能な第2の柄(22)と、
を有しており、
該第2の柄(22)の一部が、掌または指腹と当接可能に成形されていることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項7】
請求項6に記載の理美容はさみにおいて、
前記第1の柄(12)あるいは前記第1の指環(11)は、第2の柄(22)側へと突出した領域(7)を備えており、
刃先を開放した状態の第1の刃(13)または第2の刃(23)が、互いに近接する方向に回転する際に、該第1の刃(13)及び該第2の刃(23)が略重なる位置で、前記突出領域(7)が前記第2の指環(21)あるいは前記第2の柄(22)と接触すると共に、該第1の刃(13)及び該第2の刃(23)の回転を阻止することを特徴とする理美容はさみ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第1の刃(13)及び第2の刃(23)を閉じた状態における前記支点部(3)を基準点(G)として、該基準点(G)から刃先方向をz軸とし、かつ該基準点(G)を通過して前記回転面(H2)と直交する直線をx軸とし、さらに前記基準点(G)を通過し前記回転面(H2)と平行かつ前記x軸と直交する直線をy軸とした際のxy平面視において、
前記第1の指環(11)を第1象限に配置させ、かつ第2の指環(21)を第3象限または第4象限に位置する姿勢に構成してなることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項9】
請求項8に記載の理美容はさみにおいて、
該第2の指環(21)の形状面の中心点(J)と前記基準点(G)を結ぶ直線が、前記y軸との成す角を0°〜90°に設定してなることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項10】
請求項5に記載の理美容はさみにおいて、
前記指当て部(16)の少なくとも一部が円弧状に形成されていることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第2の柄(22)は、一端側にある前記第2の刃(23)と対向する他端側に把持補助部(14)を備えており、
該把持補助部(14)の先端が前記第2の指環(21)よりも刃先と逆方向に突出していることを特徴とする理美容はさみ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一に記載の理美容はさみにおいて、
前記第2の指環(21)に連結され、かつ前記第1の指環(11)側に突出した第2の把持補助部(24)を備えることを特徴とする理美容はさみ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2009−160375(P2009−160375A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243316(P2008−243316)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(303052278)
【Fターム(参考)】