理美容鋏
【課題】理美容鋏において開閉時の摩擦抵抗を軽減し、かつ毛髪を刃元から逃がさず切断する構造を提供する。
【解決手段】数1の数学的解析方法により導出された刃線を有する理美容鋏において、要部にネジ切り加工部3が、下刃体2に対してある適当な角度でネジ加工され、軸4の異径段差部6が、上刃体1・下刃体2との間に作用することで、両刃体間に間隔21を有する鋏。 並びに、軸部にすきま調整スリーブを軸4に螺設し、両刃体間に適当な間隔21を作り、軸傾斜調整板を上刃体1とナット8の間に装着することで、ナット8の締め具合により、両刃体の滑らかな噛み合わせを実現した鋏。 加えて、間隔調整ナットを軸4に螺設し、そのナット8の回動により、両刃体間に適当な間隔21を作り、軸傾斜調整板とナット8との相互位置関係により、両刃体の滑らかな噛み合せを実現した鋏。
【解決手段】数1の数学的解析方法により導出された刃線を有する理美容鋏において、要部にネジ切り加工部3が、下刃体2に対してある適当な角度でネジ加工され、軸4の異径段差部6が、上刃体1・下刃体2との間に作用することで、両刃体間に間隔21を有する鋏。 並びに、軸部にすきま調整スリーブを軸4に螺設し、両刃体間に適当な間隔21を作り、軸傾斜調整板を上刃体1とナット8の間に装着することで、ナット8の締め具合により、両刃体の滑らかな噛み合わせを実現した鋏。 加えて、間隔調整ナットを軸4に螺設し、そのナット8の回動により、両刃体間に適当な間隔21を作り、軸傾斜調整板とナット8との相互位置関係により、両刃体の滑らかな噛み合せを実現した鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来の理美容鋏を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
従来の理美容鋏(主に毛髪を切断する為に使用する鋏をいう)は、要部(通常ネジ部分をさし、支点ともいう)と柄部との間に両刃体が接触する接点部(以下触点という)が存し、鋏の開閉時においては絶えず、接触、接圧しながら、触点を力点とし、要部を支点とし、作用点としての両刃体が毛髪を切断する構造であった。
【0003】
また両刃体を開いた折、刃元においては両刃体が作る刃線の挟み角度は90°に近く、鋏を閉じる手前の挟み角度は15°〜20°となるのが普通であった。つまり鋏を開いて刃元での切り始めは90°から、そして順次刃先への切り終わりの付近では15°〜20°の挟み角度へと変化しつつ、毛髪を切断する刃線曲線であった。当然、挟み角度が90°に近いあたりでは、毛髪を切断する際に生じる両刃体の剪断力の合力が毛髪を刃先の方へ押し出す力となって働き、両刃体に挟み込んだ毛髪を逃がしてしまう(理容師、美容師の通常使用する言葉では「毛がすべる」)という構造上の欠点があった。実際その類の鋏では、刃渡り(刃元から刃先の間)部分の2分の1の辺りで、漸く毛髪を切断することができるというのが多くの使用者の証言である。そこで、毛髪を切り始める時点、すなわち鋏を全開したときにも、挟み込んだ毛髪を逃がさない程度の挟み角度の刃線の鋏はあることはあったが、その刃線曲線は鋏造り職人達の長年の経験と勘に頼る所が大であったし、真に正確に挟み角度が一定の刃線曲線を製作することは不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理美容鋏の使用に際して、使用者への負担を与え、鋏を長時間使用する者(理容師、美容師など)の疲労の増大となっていた欠点をなくするために、両刃体の開閉時において、触点の摩擦抵抗を無くすること。
【0005】
鋏の刃元では、両刃体に挟み込んだ毛髪を逃がしてしまい、従って理美容鋏の使用者が意のままに切断しようとしても困難であった問題点。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋏の両刃体の開閉時における摩擦抵抗を軽減する課題を解決するため、鋏の要部の上刃体にベアリングを1個ないし数個固着し、下刃体に、1°〜3°の角度でネジ加工を施し、軸部の異径段差部が一方のベアリングの内輪を押し上げ、両刃体の間に間隔をつくることで触点の摩擦抵抗を無くした構造をなすことを特徴としている。
【0007】
請求項2による鋏は、下刃体の要部にベアリングを固着し、すきま調整スリーブを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、触点の摩擦抵抗を無くし、さらに両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に装着する構造をなす。
【0008】
請求項3による鋏は、下刃体の要部にベアリングを固着し、その上部に間隔調整ナットを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、触点の摩擦抵抗を無くし、さらに両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に装着する構造をなす。
【0009】
さらに課題を解決するため、鋏の両刃体が毛髪を挟み込み、切断しようとする時点の両刃体の開き角度が、刃元から刃先まで常に一定である刃線に加工する数値制御技術を用いて、挟み込んだ毛髪を意のままに切断できる構造をなす手段を講じた。
【発明の効果】
【0010】
本発明による鋏の構造においては、鋏の触点の金属間摺動摩擦抵抗が発生しないため、開閉が従来の鋏と比べて格段に滑らかになる。すなわち、この鋏の使用者達の肉体的負担を大幅に低減せしむる効果がある。
【0011】
また、この鋏の刃線の性質上、刃渡り全体のどの位置においても挟み角度が一定であるため、両刃体に挟み込んだ毛髪を効果的に切断することが可能となる。よって、この鋏の使用者達にとっては、肉体的負担を大幅に低減させるという効果と同時に、作業性の向上が図れるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
なるべく小さな力で鋏の開閉を可能とするために、要部に若干の工夫を加え、簡単な構造で実現した。
【実施例1】
【0013】
図1の実施例を示す要部拡大図に基づいて説明する。
要部16の下刃体2のネジ切り加工部3に、軸4の縦方向に対し、1°〜3°の角度を付けて、ネジ切り加工を施し、要部16の上刃体1に1個ないし数個のベアリング5を固着する。それによって生じる、軸部の異径段差部6が、ベアリング5の内輪7を押し上げ、両刃体の間に適当な間隔を作ることで、触点の金属間摺動摩擦抵抗を無くしたものである。
そして、ナット8の締まり具合を調整することで、ナット8と上刃体1との間に装着した皿バネ9の弾性力が、両刃体の刃と刃が適当な接触圧を作ることができることを特徴としている。
【0014】
また、別な方法として請求項2及び請求項4にあるように、図2に基づいて説明する。
鋏の要部16の下刃体2にベアリング5を固着し、すきま調整スリーブ11を軸4に螺設することで、すきま調整スリーブ11の一端面が上刃体1を押し上げ、両刃体間に間隔21を作ることで、触点の金属間摩擦抵抗を無くす。その際、すきま調整スリーブ11を微小に回動させることで、両刃体間の間隔21を微小に調整することが出来る。また軸4の縦方向に対する角度の微調整のため、上刃体1とナット8の間に軸傾斜調整板12を装着する。軸傾斜調整板12は、ナット8と接合する部分がナット8の底面の一方を押し上げるので、必然的に軸4が傾斜することになる。その時、上刃体1と軸4との嵌め合いを十分考慮する必要があり、軸4は0°〜3°傾斜する程度のテーパ20を有する穴加工を施してある。テーパ角度は、軸4の傾斜0°〜3°の最大値3°に設定すれば、ナット8による微調整が可能となる。すなわち、ナット8の締め具合を使用者が自在に調整することで、軸4の傾斜を微妙に制御することが可能となり、その結果、両刃体の刃と刃が適当な接触圧をもって開閉され、毛髪が切断されることを特徴としている。
【0015】
さらに、別な方法として請求項3及び請求項4に示した様に、図3に基づいて説明する。
鋏の要部16の下刃体2にベアリング5を固着し、その上部に、間隔調整ナット13を軸4に螺設する。その場合、間隔調整ナット13の軸方向の長さが両刃体の間隔21よりも大きいため、上刃体1の裏側から、間隔調整ナット13の直径よりも大きい寸法で座ぐり10を施してある。間隔調整ナット13の締め具合を調節することで、間隔調整ナット13の上部が上刃体1を押し上げる。すなわち、微小な精度で連続的に両刃体間の間隔21を調節することができ、触点の金属間摺動摩擦抵抗を無くすことができる。しかる後に、上刃体1の上面とナット8との間の軸傾斜調整板12の作用により、ナット8を適当に締めることで、軸4をある適当な角度に傾斜させ、下刃体2の刃が上刃体1の方向へ移動し接圧され、両刃体を滑らかに接触させることが可能となる。その時、上刃体1と軸4との嵌め合いを考慮して、軸4が0°〜3°傾斜するように、3°のテーパ角度を有した穴加工を施してある。その結果、両刃体の滑らかな開閉を実現させることを可能とする技術である。
【0016】
また鋏の刃元部17での、毛髪を逃がしてしまうという問題点を解決するためには、請求項5にあるように、両刃体が毛髪を挟み込む時点の開き角度を刃元部17から刃先部18まで常に一定にすればよい。そこで本発明は、数1に示したように刃線の曲線を、要部16を原点とした極座標R=f(θ)・・・(1)となる関数を定義し、数学的解析的解法によって刃線を決定することを特徴としている。すなわちR=f(θ)・・・(1)(R:求める刃線14、θ:要部16を原点として、原点から刃線14の各点を結んだ時のX軸とのなす角度)の解を解析的解法により解けば、その解はR=A*exp(θ/C)となる。ここで、R:求める刃線14、A:要部16の中心から刃先までの距離、exp:自然対数の底、θ:要部16を原点として、原点から刃線上の点を結んだ時のX軸となす角度、C:刃線14を原点プラス方向へ回転させた時、刃線14とX軸とがなす角度の正接(tan)。それ故、以上のように設定された鋏の刃線14が、CADシステム(Computer−aideddesign)及びNC(Numerical control)プログラムを利用した数値制御によって、挟み角度一定の刃線曲線として製作されることを特徴としている。
【0017】
【数1】
【実施例2】
【0018】
本発明により、両刃体間の触点の金属間摺動摩擦を無くしたため、両刃体の開閉時における摩擦抵抗が軽減されたものとなる。摩擦抵抗の客観的測定値のグラフを表1に示す。尚、測定方法は、旧JISの医療用はさみ類の切味試験方法(T0202)に示されているように、医療用鋏類の切味試験方法に基づいて行った。すなわち、通常理美容師達が普通に使用する状態で、従来の鋏と本発明による鋏とを比較したグラフである。両方のグラフともに、鋏を開いた状態から静かに閉じ、順次、その時々の荷重(N)を縦軸に示した。
【0019】
グラフ1は、従来の触点を有する当社の鋏。グラフ2は本発明による金属間摺動摩擦抵抗を取り除いた鋏である。
【0020】
【表1】
【0021】
表1より試験結果は、明らかにグラフ2の荷重が小さいことを示している。グラフ1の荷重が大きいという事実は、金属間摺動摩擦抵抗によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
鋏の触点の摩擦抵抗を無くした構造であるからして、例えば、植木等の剪定に使われる園芸用鋏に応用すれば、多くの植木職人達の使用時における疲労、負担を軽減させることが期待できる。また、使用後に洗浄・滅菌作業が必要とされる医療用具の鋏や鉗子等に応用すれば、二枚の刃体に間隔を有する構造であるため、洗浄液等が容易に鋏の間に入り込み、洗浄・滅菌作業が効果的に行えることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】請求項1の2°のネジ加工を施した実施例の要部拡大断面図である。
【図2】請求項2と請求項4の実施例を示す要部拡大断面図である。
【図3】請求項3と請求項4の実施例を示す要部拡大断面図である。
【図4】本考案の全体構成の実施例を示す簡略平面図である。
【符号の説明】
1 上刃体
2 下刃体
3 ネジ切り加工部
4 軸
5 ベアリング
6 軸異径段差部
7 内輪
8 ナット
9 皿バネ
10 座ぐり
11 すきま調整スリーブ
12 軸傾斜調整板
13 間隔調整ナット
14 刃線
15 柄部
16 要部
17 刃元部
18 刃先部
19 刃渡り
20 テーパ
21 間隔
【技術分野】
【0001】
本発明は従来の理美容鋏を改良したものである。
【背景技術】
【0002】
従来の理美容鋏(主に毛髪を切断する為に使用する鋏をいう)は、要部(通常ネジ部分をさし、支点ともいう)と柄部との間に両刃体が接触する接点部(以下触点という)が存し、鋏の開閉時においては絶えず、接触、接圧しながら、触点を力点とし、要部を支点とし、作用点としての両刃体が毛髪を切断する構造であった。
【0003】
また両刃体を開いた折、刃元においては両刃体が作る刃線の挟み角度は90°に近く、鋏を閉じる手前の挟み角度は15°〜20°となるのが普通であった。つまり鋏を開いて刃元での切り始めは90°から、そして順次刃先への切り終わりの付近では15°〜20°の挟み角度へと変化しつつ、毛髪を切断する刃線曲線であった。当然、挟み角度が90°に近いあたりでは、毛髪を切断する際に生じる両刃体の剪断力の合力が毛髪を刃先の方へ押し出す力となって働き、両刃体に挟み込んだ毛髪を逃がしてしまう(理容師、美容師の通常使用する言葉では「毛がすべる」)という構造上の欠点があった。実際その類の鋏では、刃渡り(刃元から刃先の間)部分の2分の1の辺りで、漸く毛髪を切断することができるというのが多くの使用者の証言である。そこで、毛髪を切り始める時点、すなわち鋏を全開したときにも、挟み込んだ毛髪を逃がさない程度の挟み角度の刃線の鋏はあることはあったが、その刃線曲線は鋏造り職人達の長年の経験と勘に頼る所が大であったし、真に正確に挟み角度が一定の刃線曲線を製作することは不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理美容鋏の使用に際して、使用者への負担を与え、鋏を長時間使用する者(理容師、美容師など)の疲労の増大となっていた欠点をなくするために、両刃体の開閉時において、触点の摩擦抵抗を無くすること。
【0005】
鋏の刃元では、両刃体に挟み込んだ毛髪を逃がしてしまい、従って理美容鋏の使用者が意のままに切断しようとしても困難であった問題点。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋏の両刃体の開閉時における摩擦抵抗を軽減する課題を解決するため、鋏の要部の上刃体にベアリングを1個ないし数個固着し、下刃体に、1°〜3°の角度でネジ加工を施し、軸部の異径段差部が一方のベアリングの内輪を押し上げ、両刃体の間に間隔をつくることで触点の摩擦抵抗を無くした構造をなすことを特徴としている。
【0007】
請求項2による鋏は、下刃体の要部にベアリングを固着し、すきま調整スリーブを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、触点の摩擦抵抗を無くし、さらに両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に装着する構造をなす。
【0008】
請求項3による鋏は、下刃体の要部にベアリングを固着し、その上部に間隔調整ナットを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、触点の摩擦抵抗を無くし、さらに両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に装着する構造をなす。
【0009】
さらに課題を解決するため、鋏の両刃体が毛髪を挟み込み、切断しようとする時点の両刃体の開き角度が、刃元から刃先まで常に一定である刃線に加工する数値制御技術を用いて、挟み込んだ毛髪を意のままに切断できる構造をなす手段を講じた。
【発明の効果】
【0010】
本発明による鋏の構造においては、鋏の触点の金属間摺動摩擦抵抗が発生しないため、開閉が従来の鋏と比べて格段に滑らかになる。すなわち、この鋏の使用者達の肉体的負担を大幅に低減せしむる効果がある。
【0011】
また、この鋏の刃線の性質上、刃渡り全体のどの位置においても挟み角度が一定であるため、両刃体に挟み込んだ毛髪を効果的に切断することが可能となる。よって、この鋏の使用者達にとっては、肉体的負担を大幅に低減させるという効果と同時に、作業性の向上が図れるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
なるべく小さな力で鋏の開閉を可能とするために、要部に若干の工夫を加え、簡単な構造で実現した。
【実施例1】
【0013】
図1の実施例を示す要部拡大図に基づいて説明する。
要部16の下刃体2のネジ切り加工部3に、軸4の縦方向に対し、1°〜3°の角度を付けて、ネジ切り加工を施し、要部16の上刃体1に1個ないし数個のベアリング5を固着する。それによって生じる、軸部の異径段差部6が、ベアリング5の内輪7を押し上げ、両刃体の間に適当な間隔を作ることで、触点の金属間摺動摩擦抵抗を無くしたものである。
そして、ナット8の締まり具合を調整することで、ナット8と上刃体1との間に装着した皿バネ9の弾性力が、両刃体の刃と刃が適当な接触圧を作ることができることを特徴としている。
【0014】
また、別な方法として請求項2及び請求項4にあるように、図2に基づいて説明する。
鋏の要部16の下刃体2にベアリング5を固着し、すきま調整スリーブ11を軸4に螺設することで、すきま調整スリーブ11の一端面が上刃体1を押し上げ、両刃体間に間隔21を作ることで、触点の金属間摩擦抵抗を無くす。その際、すきま調整スリーブ11を微小に回動させることで、両刃体間の間隔21を微小に調整することが出来る。また軸4の縦方向に対する角度の微調整のため、上刃体1とナット8の間に軸傾斜調整板12を装着する。軸傾斜調整板12は、ナット8と接合する部分がナット8の底面の一方を押し上げるので、必然的に軸4が傾斜することになる。その時、上刃体1と軸4との嵌め合いを十分考慮する必要があり、軸4は0°〜3°傾斜する程度のテーパ20を有する穴加工を施してある。テーパ角度は、軸4の傾斜0°〜3°の最大値3°に設定すれば、ナット8による微調整が可能となる。すなわち、ナット8の締め具合を使用者が自在に調整することで、軸4の傾斜を微妙に制御することが可能となり、その結果、両刃体の刃と刃が適当な接触圧をもって開閉され、毛髪が切断されることを特徴としている。
【0015】
さらに、別な方法として請求項3及び請求項4に示した様に、図3に基づいて説明する。
鋏の要部16の下刃体2にベアリング5を固着し、その上部に、間隔調整ナット13を軸4に螺設する。その場合、間隔調整ナット13の軸方向の長さが両刃体の間隔21よりも大きいため、上刃体1の裏側から、間隔調整ナット13の直径よりも大きい寸法で座ぐり10を施してある。間隔調整ナット13の締め具合を調節することで、間隔調整ナット13の上部が上刃体1を押し上げる。すなわち、微小な精度で連続的に両刃体間の間隔21を調節することができ、触点の金属間摺動摩擦抵抗を無くすことができる。しかる後に、上刃体1の上面とナット8との間の軸傾斜調整板12の作用により、ナット8を適当に締めることで、軸4をある適当な角度に傾斜させ、下刃体2の刃が上刃体1の方向へ移動し接圧され、両刃体を滑らかに接触させることが可能となる。その時、上刃体1と軸4との嵌め合いを考慮して、軸4が0°〜3°傾斜するように、3°のテーパ角度を有した穴加工を施してある。その結果、両刃体の滑らかな開閉を実現させることを可能とする技術である。
【0016】
また鋏の刃元部17での、毛髪を逃がしてしまうという問題点を解決するためには、請求項5にあるように、両刃体が毛髪を挟み込む時点の開き角度を刃元部17から刃先部18まで常に一定にすればよい。そこで本発明は、数1に示したように刃線の曲線を、要部16を原点とした極座標R=f(θ)・・・(1)となる関数を定義し、数学的解析的解法によって刃線を決定することを特徴としている。すなわちR=f(θ)・・・(1)(R:求める刃線14、θ:要部16を原点として、原点から刃線14の各点を結んだ時のX軸とのなす角度)の解を解析的解法により解けば、その解はR=A*exp(θ/C)となる。ここで、R:求める刃線14、A:要部16の中心から刃先までの距離、exp:自然対数の底、θ:要部16を原点として、原点から刃線上の点を結んだ時のX軸となす角度、C:刃線14を原点プラス方向へ回転させた時、刃線14とX軸とがなす角度の正接(tan)。それ故、以上のように設定された鋏の刃線14が、CADシステム(Computer−aideddesign)及びNC(Numerical control)プログラムを利用した数値制御によって、挟み角度一定の刃線曲線として製作されることを特徴としている。
【0017】
【数1】
【実施例2】
【0018】
本発明により、両刃体間の触点の金属間摺動摩擦を無くしたため、両刃体の開閉時における摩擦抵抗が軽減されたものとなる。摩擦抵抗の客観的測定値のグラフを表1に示す。尚、測定方法は、旧JISの医療用はさみ類の切味試験方法(T0202)に示されているように、医療用鋏類の切味試験方法に基づいて行った。すなわち、通常理美容師達が普通に使用する状態で、従来の鋏と本発明による鋏とを比較したグラフである。両方のグラフともに、鋏を開いた状態から静かに閉じ、順次、その時々の荷重(N)を縦軸に示した。
【0019】
グラフ1は、従来の触点を有する当社の鋏。グラフ2は本発明による金属間摺動摩擦抵抗を取り除いた鋏である。
【0020】
【表1】
【0021】
表1より試験結果は、明らかにグラフ2の荷重が小さいことを示している。グラフ1の荷重が大きいという事実は、金属間摺動摩擦抵抗によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
鋏の触点の摩擦抵抗を無くした構造であるからして、例えば、植木等の剪定に使われる園芸用鋏に応用すれば、多くの植木職人達の使用時における疲労、負担を軽減させることが期待できる。また、使用後に洗浄・滅菌作業が必要とされる医療用具の鋏や鉗子等に応用すれば、二枚の刃体に間隔を有する構造であるため、洗浄液等が容易に鋏の間に入り込み、洗浄・滅菌作業が効果的に行えることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】請求項1の2°のネジ加工を施した実施例の要部拡大断面図である。
【図2】請求項2と請求項4の実施例を示す要部拡大断面図である。
【図3】請求項3と請求項4の実施例を示す要部拡大断面図である。
【図4】本考案の全体構成の実施例を示す簡略平面図である。
【符号の説明】
1 上刃体
2 下刃体
3 ネジ切り加工部
4 軸
5 ベアリング
6 軸異径段差部
7 内輪
8 ナット
9 皿バネ
10 座ぐり
11 すきま調整スリーブ
12 軸傾斜調整板
13 間隔調整ナット
14 刃線
15 柄部
16 要部
17 刃元部
18 刃先部
19 刃渡り
20 テーパ
21 間隔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋏の要部の上刃体にベアリングを1個ないし数個固着し、下刃体に、1°〜3°の角度でネジ加工を施し、軸部の異径段差部が一方のベアリングの内輪を押し上げ、両刃体の間に間隔をつくることで接点部の摩擦抵抗を無くした構造。
【請求項2】
鋏の要部の下刃体にベアリングを固着し、すきま調整スリーブを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、接点部の摩擦抵抗を無くした構造。
【請求項3】
鋏の要部にベアリング挿入部を設け、その上部に、間隔調整ナットを軸に螺設すること。
【請求項4】
両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に固着する構造。
【請求項5】
鋏の両刃体が毛髪を挟み込み、切断しようとする時点の両刃の開き角度が、刃元から刃先まで常に一定である刃線に加工する数値制御技術を用いた鋏。
【請求項1】
鋏の要部の上刃体にベアリングを1個ないし数個固着し、下刃体に、1°〜3°の角度でネジ加工を施し、軸部の異径段差部が一方のベアリングの内輪を押し上げ、両刃体の間に間隔をつくることで接点部の摩擦抵抗を無くした構造。
【請求項2】
鋏の要部の下刃体にベアリングを固着し、すきま調整スリーブを軸に螺設することにより、両刃体間に適当な間隔を作ることで、接点部の摩擦抵抗を無くした構造。
【請求項3】
鋏の要部にベアリング挿入部を設け、その上部に、間隔調整ナットを軸に螺設すること。
【請求項4】
両刃体間の適当で滑らかな噛み合わせを調節するため、軸傾斜調整板をナットと刃体の間に固着する構造。
【請求項5】
鋏の両刃体が毛髪を挟み込み、切断しようとする時点の両刃の開き角度が、刃元から刃先まで常に一定である刃線に加工する数値制御技術を用いた鋏。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−314745(P2006−314745A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168829(P2005−168829)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(598138659)有限会社河島製鋏所 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(598138659)有限会社河島製鋏所 (3)
【Fターム(参考)】
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