説明

環境γ線モニタ

【課題】 放射線検出信号を処理する電子部品からなる回路中の湿度の影響により電流の漏洩が生じ、微小電流を正確に測定することが難しくなるという問題があった。
【解決手段】 検出信号を処理する電子部品が装着された信号処理手段と、前記電離箱から導出され前記信号処理手段に接続される信号線と、前記信号処理手段を収納するケースと、前記電離箱を絶縁材を介して支持すると共に前記信号線を内部に収納する支持体と、前記ケース内に設けられ前記電子部品の温度を所定範囲内に維持する冷却手段とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力発電所、加速器利用施設、核燃料再処理施設などの周辺環境の環境γ線を測定するための環境γ線モニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、加速器利用施設、核燃料再処理施設などの施設周辺には、環境放射線レベルを監視するために環境γ線モニタが設置されている。環境γ線モニタは、放射線を検出するための放射線検出器を内包する検出部が前記施設の天井に設置され、測定部が前記施設内に設置される場合と、検出部が地表または建屋のポール上に設置され、測定部が建屋内に設置される場合などがある。
【0003】
検出部が施設の天井に設置される施設空間線量率モニタの場合は、施設の天井に設けた開口部にフランジ付きの短管を設け、この短管のフランジに放射線を検出する検出部を載せる形で設置し、一方、測定部は空調の効いた施設内部に設置される。検出部は、直接環境に曝されるため、夏場の直射日光を受ける時は内部が高温になり、冬場の積雪時は低温になる。
【0004】
このため、施設の空調空気を専用のブロアで送風し、年間を通して検出部の温度を一定に保ち装置が安定に動作するようにしている。送風で熱量が不足する低温時には検出部内に設置したヒータで昇温して、それでも不足する時はブロアに設置したヒータを動作させて加熱した空気を送風している。検出部内に設置したヒータだけでまかなおうとしてその容量を大きくすると検出器がローカルヒートするため、加熱空気の送風を併用している。
【0005】
このように、検出部の温度調整は施設の空調空気の送風を基本としているために、検出部温度は環境から検出部への熱の出入りと空調空気温度に依存する。一般に年間の外気温度は−10〜40℃の範囲で変化することがあり、空調は冷却のみであるため、施設内温度は5〜30℃程度で、検出部の内部温度は15〜35℃程度に調整される。
【0006】
なお、検出部が地表または建屋のポール上に設置されるポール型空間線量率モニタの場合は、温度調節は検出部の内部に設置された小容量のヒータのみとなるため、検出部の内部の温度は5〜45℃となる。
【0007】
放射線検出部や電子機器を冷却する従来例として、放射線検出部を冷却装置と共に真空容器に封入して冷却するもの(例えば、特許文献1参照)や、電子機器を収容した容器内に設けた冷却装置により冷却と除湿を行うようにしたもの(例えば、特許文献2参照)、或いは放射線検出素子をペルチェ効果を利用した冷却器により冷却するようにしたもの(例えば、特許文献3参照)などがある。
【特許文献1】特開平10−232285号公報(図1、図2、段落番号[0007])
【特許文献2】特開平11−142558号公報(図1、図2、段落番号[0010])
【特許文献3】特開昭60−161579号公報(図3、第2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
環境γ線モニタでは電離箱を使用しており、微小電流を増幅して出力信号として検出するために、温度が5〜45℃と大きく変化すると、電子部品の温度特性(入力バイアス電流)が影響して微小電流を正確に測定することが難しくなるという問題があった。また、放射線検出信号を処理する電子部品からなる回路中の湿度の影響により電流の漏洩が生じ、微小電流を正確に測定することが難しくなるという問題があった。湿度対策として、検出器をその周辺回路を含めて全体を密閉容器の中に封入し、吸湿剤を密閉容器に入れるなどにより除湿しているが、密閉容器は大型で高度の気密性が必要なために価格が高くなるという問題があった。これらの問題は、放射線検出部や電子機器を冷却する従来の技術では解決し得ない課題であった。
【0009】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、検出器の温度特性を顕著に表す部分、即ち検出器の検出信号を処理する電子部品の温度の変動が小さく、年間を通して安定した測定ができる高感度の環境γ線モニタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、環境中の放射線を検出する電離箱から出力される検出信号に基づいて環境の放射線量を測定する環境γ線モニタにおいて、前記検出信号を処理する電子部品が装着された信号処理手段と、前記電離箱から導出され前記信号処理手段に接続される信号線と、前記信号処理手段を収納するケースと、前記電離箱を絶縁材を介して支持すると共に前記信号線を内部に収納する支持体と、前記ケース内に設けられ前記電子部品を冷却する冷却手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、信号処理手段を収納するケース内に設けられ、信号処理手段の電子部品の温度を所定範囲内に維持する冷却手段を備えたので、外部の温度変化があった時も、信号処理カード内の電子部品の温度を恒温に保つことが出来るので、測定された放射線量は、温度に依存しない正確な値を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1
以下、この発明の実施の形態1に係る環境γ線モニタを、図に基づいて説明する。図1において、加圧球形の電離箱1は、絶縁材2と支持体3を介してカードケース9に固定されている。電離箱1と電子部品を備えた信号処理手段である信号処理カード4とは、電気的に信号線としての信号ケーブル14により接続されている。絶縁材2はその下部にフランジを有し、円筒形に形成されている。支持体3は両端部にフランジを有し、円筒形に形成され、その上端部が絶縁材に固定され、下端部はカードケース9に固定されている。
【0013】
電離箱1にγ線が入射すると、電離箱1の内部で充填ガスの電離が起こり、電子とイオンの対が形成される。電子は電離箱1内にかけられた電界により電離箱1内部の集電極101に集められ、電流導入端子102と信号ケーブル14を介して外部の信号処理カード4に移動する。吸湿剤16は、電流導入端子102部分の湿度上昇による、漏洩電流を防止するために、絶縁材2の内部に設置されている。
【0014】
電流は、電子の移動方向とは逆方向、すなわち信号処理カード4から、信号ケーブル14、電流導入端子102を経て、集電極101への方向に流れる。信号処理カード4では、電離箱1から運ばれてきた微小電荷を蓄積し、電荷量に応じたパルス率のパルス列を生成し、このパルス列を後段の計数回路で計数もしくは、計数率計でパルス率を計測し、線量率に換算して環境γ線を計測する。
【0015】
ペルチェ素子などからなる冷却手段としての電子冷却モジュール5は、信号処理カード4に熱的に接するよう取り付けられ、放熱フィン6がカードケース9から外部に露出して外気に接するようにして配置してあり、冷却ファン7による空気の流通により放熱フィン6を冷却する構造としている。冷却の温度として2℃〜8℃を想定しているので、環境の最低温度が冷却温度以下になる場合には、電子冷却モジュール5の電流を止めて、ヒーター15に通電することにより、信号処理カード付近の温度を一定に保つようにする。温度は、信号処理カード4の近くに設置された温度センサー12により測定する。
【0016】
以上のように構成したこの発明の実施の形態1による環境γ線モニタによれば、信号処理カード4の恒温化、低温化により電子部品の温度特性を抑制することができ、年間を通して安定した測定を行うことができるとともに高感度の環境γ線モニタを得ることができる。また、カードケース9と支持体3の内部は区分されているので、カードケース9内のみを温度制御すればよく、ヒーター及び電子制御モジュールを小型化することができ、かつその消費電力も小さくてよい。また、電子部品を低温に保つことにより、アンプの入力バイアス電流を小さくすることができるので、測定可能な最小電流をより小さくすることができ、放射線量の測定感度を向上することができる。
【0017】
実施の形態2
次に、この発明の実施の形態2に係る環境γ線モニタについて、図2に基づいて説明する。図2において、支持体付きカードケース11は、図1の実施の形態1における支持体3とカードケース9を一体にして構成したものであり、絶縁材2と直接機械的に接続されている。電流導入端子102に繋がる信号ケーブル14は、絶縁材2の中を通って支持体付きカードケース11の中に設けられた信号処理カード4の方へ、配線用の穴を設けること無しに直接引き入れられ、この信号処理カード4に接続されている。
【0018】
信号ケーブル14の両端の電流導入端部分と信号処理カード4の入力部分は、微小電流の漏洩の最も起こり易い箇所であり、この部分に結露を起こさないようにするなどの温度制御が必要であるが、電離箱1から出力される微小電流を流す信号ケーブル14の通る空間を1つの区画にしたことにより、信号処理カード4の電子部品の温度特性を一定に保つことを目的とした恒温化と、漏洩電流を減らすことを目的とした結露防止用の恒温化を同一の空間でできるようにした。
【0019】
この発明の実施の形態2による環境γ線モニタによれば、環境γ線モニタの恒温化を限られた限定した空間で実施することにより、冷却用電力、加熱用電力を極小化することができ、低コストの環境γ線モニタを得る効果がある。
【0020】
実施の形態3
図3は、この発明の実施の形態3に係る環境γ線モニタを示す。図3において、信号処理カード4の近くに設置された温度センサー12は、支持体付きカードケース11の外に設置された温度コントロールユニット13に接続されている。また、支持体付きカードケース11内に設置されたヒータ15は、温度コントロールユニット13に接続されている。支持体付きカードケース11内に設置された、電子冷却モジュール5も同様に温度コントロールユニット13に接続されている。
【0021】
次にその動作について、図4の説明図に基づいて説明する。温度センサー12によって測定された温度をTとする。予め、設定した信号処理カード4の周辺の温度をTとする。図4において、T>Tのとき、電子冷却モジュール5への通電をオンとし、ヒータ15には通電はしていない。
【0022】
T=Tとなった時、電子冷却モジュール5への通電をオフする。この時、外気の温度よりTが高いか、低いかによって温度Tの変化の仕方が変わる。外気温度がTより高い時、Tは上昇し次の制御周期ではT>Tの状態になるので、電子冷却モジュール5への通電がオンになり、図4に示すようにTの下降が繰返される。
【0023】
外気温度がTより低いとき、電子冷却モジュール5への通電がオフになると、Tは下降し次の制御周期では、T<Tの状態になる。この時、温度コントロールユニット13により、ヒータ15への通電をオンとし、電子冷却モジュール5への通電はオフとする。ヒータ15への通電は、T=Tcとなるまで継続し、T=TCとなった時点でヒータ15への通電をオフにする。
【0024】
以上のように温度制御することにより、信号処理カード4の周辺の温度を、(Tc−△T)と、(Tc+△Tp)との間の温度にコントロールすることができる。ここで△Tは、ヒータ通電するときのTCからの温度変化を表し、△Tpは、電子冷却モジュール5への通電時のTcからの温度変化を表している。(Tc−△T)の値が0℃を超える値であれば、支持体付きカードケース11内で結露が生じない。Tcを2℃〜8℃とする。
【0025】
以上の説明は、温度コントロールユニットによる、電子冷却モジュールとヒータの電流制御をオン/オフ制御の場合で説明したが、比例制御と積分制御及び微分制御を組み合わせて設定値に収束させるPID制御の方式でも同様の効果が得られる。
【0026】
この実施の形態によれば、温度コントロールユニット13を支持体付きカードケース11の外に配置したことにより、温度コントロールユニット13からの自己発熱により必要となる冷却電力を少なくすることができる。また、温度コントロールユニット13を支持体付きカードケース11の外に配置することにより、恒温化部分の体積を減らすことができ、温度コントロールユニット13自体の体積が大きい場合、特にその効果が顕著であり、装置全体の低コスト化につながる。
【0027】
実施の形態4
図5は、この発明の実施の形態4に係る環境γ線モニタを示す。図5において、カバー801は、球形の電離箱1の形状に沿うように球形に構成されている。このカバー801と電離箱1とは、絶縁材2を介して構造的に連結されているが、電気的には絶縁されている。
【0028】
カバー801は、この実施の形態では上半球部801aと下半球部801bの2分割構造になっており,上半球部801aが無い状態で、電離箱1を組み込み,最後に上半球部801aを下半球部801bに結合して組み立てる構造としている。上半球部801aと下半球部801bとの固定は、ネジ構造または嵌め合い構造とすることができる。
なお、その他の構成は、実施の形態2と同様である。
【0029】
恒温化する部分が信号処理カード4と信号ケーブル14、電流導入端子102が収納されている部分に限定されているので、この実施の形態4によれば、カバー801を電離箱1が存在する部分に限定することができ、環境γ線モニタのコストを低減する効果がある。また、斜め下方から電離箱に入射する放射線に対しても、上半球部801aの面と放射線遮蔽の面とで同等のカバーになっているので、検出器の方向特性を改善する効果がある。
【0030】
実施の形態5
図6は、この発明の実施の形態5に係る環境γ線モニタを示す。図6において、カバー802は、半球殻部802aと円筒部802bとを組み合わせた形状を有する。そのカバー802の円筒部802bの下側にフランジ部802cを有している。このフランジ部802cは、検出器下蓋803に結合され、カバー802内の気密性を保っている。検出器下蓋803は環状に構成され、放熱フィン6と冷却ファン7をカバー803の外側に露出させる構造としている。また、検出器下蓋803には、バルブ付きノズル17が設置されており、このバルブ付きノズル17に真空ポンプを接続してカバー802内を減圧することができるよう構成されている。
【0031】
この実施の形態5によれば、カバー802にフランジ部802cを設け、カバー802を密封構造とし、バルブ付きノズル17に真空ポンプを接続してカバー802内を減圧することができるよう構成したので、支持体付きカードケース11への熱進入を押さえることができ、支持体付きカードケース11内の保温特性、断熱効果が向上させることができ、その結果として、電子冷却モジュールとヒータを制御するための電力を極小化できるので、低コスト化につながる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施の形態1に係る環境ガンマ線モニタの構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る環境ガンマ線モニタの構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る環境ガンマ線モニタの構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る環境ガンマ線モニタの動作説明用の説明図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る環境ガンマ線モニタの構成図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る環境ガンマ線モニタの構成図である。
【0033】
1 電離箱
101 集電極
102 電流導入端子
2 絶縁材
3 支持体
4 信号処理カード
5 電子冷却モジュール
6 放熱フィン
7 冷却ファン
8、801、802 カバー
801a 上半球部
801b 下半球部
802c フランジ部
803 検出器下蓋
9 カードケース
10 電子部品
11 支持体付きカードケース
12 温度センサー
13 温度コントロールユニット
14 信号ケーブル
15 ヒータ
16 防湿剤
17 バルブ付きノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境中の放射線を検出する電離箱から出力される検出信号に基づいて環境の放射線量を測定する環境γ線モニタにおいて、前記検出信号を処理する電子部品が装着された信号処理手段と、前記電離箱から出て前記信号処理手段に接続される信号線と、前記信号処理手段を収納するケースと、前記電離箱を絶縁材を介して支持すると共に前記信号線を内部に収納する支持体と、前記ケース内に設けられ前記電子部品を冷却する冷却手段とを備えたことを特徴とする環境γ線モニタ。
【請求項2】
前記支持体の内部と前記ケースの内部とは区分されており、前記支持体の内部に吸湿手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の環境γ線モニタ。
【請求項3】
前記支持体の内部と前記ケースの内部とは相互に連通した同一雰囲気の空間よりなることを特徴とする請求項1に記載の環境γ線モニタ。
【請求項4】
前記ケースの内部に設けられたヒータと、前記ケースの内部の温度を計測する温度センサーと、前記温度センサーの出力に基づいて前記ヒータと前記冷却手段とを制御して前記ケース内の温度をコントロールする温度コントロール手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の環境γ線モニタ。
【請求項5】
前記支持体に直接または間接的に支持され、前記電離箱を覆う密封構造のカバーを備え、このカバーの内部は、前記支持体の内部及び前記ケースの内部とは区分されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の環境γ線モニタ。
【請求項6】
前記カバーはほぼ球形に形成され、その上部が下部から分離可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載の環境γ線モニタ。
【請求項7】
前記電離箱と前記ケースと前記支持体と前記絶縁材とを覆う密封構造のカバーを備え、前記カバーの内部は外気に対して減圧されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の環境γ線モニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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