説明

環境の変化に応答して体積が膨潤するヒドロゲルならびにそれらの製造法および利用法

【課題】pH感受性のプロトン化および脱プロトン化に応答して体積が膨張するヒドロゲルポリマーを含んでなる組成物を提供する。
【解決手段】該ヒドロゲルポリマーは、(a)少なくとも一部がpHの変化に感受性であるモノマーおよび/またはポリマー、(b)架橋剤、ならびに(c)重合開始剤を含有する液体反応混合物から製造される。所望なら、該液体反応混合物に造孔剤を組み込んで細孔を形成してもよい。ヒドロゲル形成後、造孔剤を除去してヒドロゲルに気孔を形成する。ヒドロゲルは、さらに、pHの変化によって膨張するまで非膨張体積を維持するように処理し得る。これらのヒドロゲルは、ペレット、フィラメントおよび粒子を含めた多くの形態で製造し得る。これらのヒドロゲルの生物医学的用途には、ヒドロゲルを患者の体内に移植し、移植部位の環境条件によってヒドロゲルをイン・シトゥで膨張させる用途が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、特定のヒドロゲル組成物、そのようなヒドロゲル組成物の製造法およびそのようなヒドロゲル組成物の利用法に関する。より具体的に言えば、本発明は、環境の変化に応答して制御された膨張速度を示すヒドロゲル、そのようなヒドロゲルの製造法およびそのようなヒドロゲルの生物医学的用途(例えば、動脈瘤、フィステル、動静脈奇形の治療、および血管または他の内腔解剖学的構造の塞栓形成または閉鎖用)における利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、用語「ヒドロゲル」とは、概して、水中で膨潤し得る高分子材料を指す。水中でのヒドロゲルの膨潤は、ガラス状ポリマー中に水が拡散し、それによってポリマー鎖がほどけて、ポリマー網目構造が膨潤することから生じる。先行技術のヒドロゲルは、典型的には、モノマーおよび/もしくはポリマーを放射線、熱、酸化還元または求核攻撃により架橋結合させて調製されている。エチレン性不飽和モノマーを架橋結合させるものの例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレートからのコンタクトレンズの作製およびアクリル酸からの吸収剤製品の製造がある。ポリマーを架橋結合させるものの例としては、イオン化放射線を用いた親水性ポリマー水溶液の架橋結合による創傷包帯およびエチレン性不飽和成分で修飾した親水性ポリマー水溶液の架橋結合による手術用シーラント材が挙げられる。
【0003】
1968年頃、クラウフ(Krauch)およびザンナー(Sanner)は、結晶マトリックスの周囲にモノマーを重合させた後、結晶マトリックスを除去して相互連絡多孔質ポリマー網目構造を形成する方法を記載した。そのとき以来、多孔質ヒドロゲルは、造孔剤(porosigen)として塩、スクロースおよび氷結晶を用いて調製されている。これらの先行技術の多孔質ヒドロゲルは、アフィニティークロマトグラフィー用の膜として、また組織を多孔質ヒドロゲル網目構造内に内方成長させる組織再生用基材として用いられている。これらの多孔質ヒドロゲルの例は、「Method And Device For Reconstruction of Articular Cartilage」と題される米国特許第6,005,161号(ブレック(Brekke)ら)、「Implantable Polymer Hydrogel For Therapeutic Use」と題される米国特許第5,863,551号(ワォアリー(Woerly))、および「Super Absorbent Hydrogel Foams」と題される米国特許第5,750,585号(パーク(Park)ら)に見出される。
【0004】
先行技術には、溶媒組成物、pH、電場、イオン強度および温度の変化などの外部刺激に応答して体積が変化する特定のヒドロゲルも含まれている。種々の刺激に対するヒドロゲルの応答性はモノマー単位の慎重な選択に帰因する。例えば、感温性が求められる場合には、N−イソプロピルアクリルアミドが頻繁に用いられる。pH感受性が求められる場合には、アミン基またはカルボン酸を有するモノマーがしばしば用いられる。刺激応答性ヒドロゲルは、主として、放出制御薬剤送達担体として用いられている。これらの刺激応答性ヒドロゲルの例は、「pH−Sensitive Polymer Containing Sulfonamide And Its Synthesis Method」と題される米国特許第6,103,865号(ベー(Bae)ら)、「Pulsatile Drug Delivery Device Using Stimuli Sensitive Hydrogel」と題される米国特許第5,226,902号(ベーら)、および「Colonic−Targeted Oral Drug−Dosage

Forms Based On Crosslinked Hydrogels Containing Azobonds And Exhibiting pH−Dependent Swelling」と題される米国特許第5,415,864号(コペックら(Kopeck)ら)に見出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにヒドロゲル材料の能力が向上したにも拘わらず、非水性溶媒またはコーティングを必要とすることなく細胞の内方成長を可能にし、かつマイクロカテーテルまたはカテーテルを介して送出するのに最適化された制御膨張速度を有するヒドロゲル材料は未だ開発されていない。したがって、当業においては、ヒドロゲルが、動脈瘤、フィステル、動静脈奇形、および血管閉鎖時に、またはそれらに関連して用いられる医療用移植材料用途を含むがそれには限定されない種々の用途に使用できるようなヒドロゲルの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、環境の変化、例えば、pHまたは温度の変化に応答して制御された体積膨脹を遂げる(すなわち、「刺激膨張性」である)ヒドロゲルを提供する。1つの実施形態において、本発明のヒドロゲルは、細胞を内方成長させ得るほど多孔質である。本発明のヒドロゲルは、(a)少なくとも一部が環境の変化(例えば、pHまたは温度の変化)に感受性であるモノマーおよび/またはポリマーと、(b)架橋剤と、(c)重合開始剤とを含有する液体反応混合物を生成することにより製造される。所望により、前記液体反応混合物に、造孔剤(例えば、塩化ナトリウム、氷結晶およびスクロース)を加えてもよい。多孔性は、その後で、得られた固体ヒドロゲルから(例えば、繰返し洗浄して)造孔剤を除去することにより形成される。典型的には、固体モノマーおよび/またはポリマーを溶解させるのに溶媒も用いられるであろう。しかし、液体モノマーのみを用いる場合、溶媒を使う必要がないこともある。一般に、本発明の制御された膨張速度は、イオン性官能基(例えば、アミン、カルボン酸)を有するエチレン性不飽和モノマーを組み込むことによって得られる。例えば、架橋網目構造にアクリル酸が組み込まれている場合、ヒドロゲルを低pH溶液中でインキュベートしてカルボン酸をプロトン化する。そのヒドロゲルは、過剰な低pH溶液をすすぎ落され、乾燥された後、生理的pHの生理食塩水または血液を充填したマイクロカテーテルを介して導入され得る。ヒドロゲルはカルボン酸基が脱プロトン化するまで膨張し得ない。反対に、架橋網目構造にアミン含有モノマーが組み込まれている場合、ヒドロゲルを高pH溶液中でインキュベートしてアミンを脱プロトン化する。ヒドロゲルは、過剰な高pH溶液をすすぎ落され、乾燥された後、生理的pHの生理食塩水または血液を充填したマイクロカテーテルを介して導入され得る。ヒドロゲルはアミン基がプロトン化するまで膨張し得ない。
【0007】
場合により、本発明の刺激膨張性ヒドロゲル材料は、X線撮像下で視覚化するために放射線不透過性にされ得る。液体反応混合物に放射線不透過性粒子(例えば、タンタル、金、白金など)を組み込むと、ヒドロゲル全体が放射線不透過性になるであろう。あるいは、液体反応混合物に放射線不透過性モノマーを組み込んでヒドロゲル全体を放射線不透過性にしてもよい。
【0008】
本発明により、ヒト患者または患畜の種々の疾患、症状、奇形または障害を治療する方法が提供され、この方法は、患者の体内の移植部位で第1体積を占め、移植部位条件(例えば、pH、温度)によって第1体積より大きい第2体積に膨張する本発明の刺激膨張性ヒドロゲル材料を移植すること(例えば、注入、点滴注入、外科的移植、あるいは、カニューレ、カテーテル、マイクロカテーテル、針もしくは他の導入装置を介して導入または
配置すること)によって治療する。具体的に言えば、本発明のヒドロゲルは、創傷内、腫瘍もしくは腫瘍に血液を供給する血管内、臓器内、異常な血管もしくは脈管構造内、組織もしくは解剖学的構造間に位置する腔内、または外科的に形成されたポケットもしくは空間内に皮下移植され得る。このようにして、本発明の制御可能な膨張速度を有するヒドロゲルは、動脈瘤、フィステル、動静脈奇形の治療、血管閉鎖、および他の医学的用途に使用可能である。
【0009】
本発明のさらなる態様は、以下に記載されている典型的な実施形態の詳細な説明を読めば当業者には明らかなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の環境感受性膨潤性ヒドロゲルを製造する一般的な方法を示す流れ図。
【図2】本発明のpH応答性膨潤性ヒドロゲルペレットを製造する特定の方法を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な説明および実施例は、本発明のすべての実施可能な実施形態を包括的に説明するためではなく、本発明の典型的な実施形態を例示するという限定された目的で提供されている。
【0012】
A.モノマー溶液からpH応答性膨潤性ヒドロゲルを製造するための好ましい方法
本発明のpH応答性膨潤性ヒドロゲルの1つの製造法を以下に説明する。
モノマーの選択および添加
この実施形態において、モノマー溶液は、エチレン性不飽和モノマー、エチレン性不飽和架橋剤、造孔剤、および溶媒からなる。選択されたモノマーの少なくとも一部、好ましくは10〜15%、より好ましくは10〜30%は、pH感受性でなければならない。好ましいpH感受性モノマーはアクリル酸である。メタクリル酸や、メタクリル酸およびアクリル酸の誘導体もpH感受性を提供するであろう。これらの酸のみで製造されたヒドロゲルの機械的特性は不十分なものであるので、さらなる機械的特性を提供するモノマーを選択しなければならない。機械的特性を提供するのに好ましいモノマーはアクリルアミドである。アクリルアミドは、さらなる圧縮強さまたは他の機械的特性を提供するために1種以上の上記pH感受性モノマーと組合わせて用いられ得る。溶媒中のモノマーの好ましい濃度は20〜30w/w%の範囲である。
【0013】
架橋剤の選択および添加
架橋剤は任意の多官能エチレン性不飽和化合物であってよい。N,N−メチレンビスアクリルアミドが好ましい架橋剤である。ヒドロゲル材料の生分解性が求められる場合には、生分解性架橋剤を選択する必要がある。溶媒中の架橋剤の好ましい濃度は、1w/w%未満、より好ましくは0.1w/w%未満の範囲である。
【0014】
造孔剤の選択および添加
ヒドロゲル材料の多孔性は、モノマー溶液中に造孔剤を過飽和懸濁することによって得られる。モノマー溶液には不溶であるが洗浄溶液には可溶である造孔剤を用いてもよい。塩化ナトリウムが好ましい造孔剤であるが、塩化カリウム、氷、スクロースおよび重炭酸ナトリウムを用いてもよい。造孔剤の粒径は、好ましくは25ミクロン未満、より好ましくは10ミクロン未満に制御される。粒径が小さいと溶媒中の造孔剤の懸濁が促進される。造孔剤の好ましい濃度は、モノマー溶液中5〜50w/w%、より好ましくは10〜20w/w%の範囲である。これに代わって、造孔剤を省いてもよく、そうすると、非孔質
ヒドロゲルを製造することができる。
【0015】
溶媒(必要な場合)の選択および添加
溶媒が必要な場合、溶媒は、モノマー、架橋剤、および造孔剤の溶解度に基づいて選択される。液体モノマー(例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート)を用いる場合、溶媒は不要である。好ましい溶媒は水であるが、エチルアルコールを用いてもよい。溶媒の好ましい濃度は20〜80w/w%、より好ましくは50〜80w/w%の範囲である。
【0016】
架橋結合密度はこれらのヒドロゲル材料の機械的特性に実質的に影響を与える。架橋結合密度(および、それによる機械的特性)は、モノマー濃度、架橋剤濃度、および溶媒濃度を変えることによって操作するのが最も適切である。
【0017】
モノマー溶液を架橋結合させる開始剤の選択および添加
モノマーの架橋結合は、酸化還元、放射線、および熱によって行なわれ得る。モノマー溶液の放射線架橋結合は、紫外光および可視光と共に適当な開始剤を用いるか、または開始剤を用いずにイオン化放射線(例えば、電子ビームもしくはガンマ線)を用いて行なうことができる。好ましいタイプの架橋開始剤は、酸化還元を介して作用するものである。本発明のこの実施形態に用い得るそのような酸化還元開始剤の特定の例は、過硫酸アンモニウムおよびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンである。
【0018】
造孔剤および過剰なモノマーを除去するための洗浄
重合完了後、ヒドロゲルを、水、アルコールまたは他の適当な洗浄溶液で洗浄して、造孔剤、未反応の残留モノマーおよび取り込まれていないオリゴマーを除去する。これは、先ずヒドロゲルを蒸留水で洗浄して行なうことが好ましい。
【0019】
ヒドロゲルの膨張速度を制御するためのヒドロゲルの処理
上述のように、ヒドロゲルの膨張速度の制御は、ヒドロゲル網目構造上に存在するイオン性多官能基をプロトン化/脱プロトン化することによって達成される。ヒドロゲルを調製し、過剰なモノマーおよび造孔剤を洗い流したら、膨張速度を制御するステップを実施し得る。
【0020】
ヒドロゲル網目構造にカルボン酸基を有するpH感受性モノマーが組み込まれている実施形態においては、ヒドロゲルを低pH溶液中でインキュベートする。この溶液中の遊離プロトンがヒドロゲル網目構造上のカルボン酸基をプロトン化する。インキュベーションの持続時間および温度と溶液のpHは膨張速度の制御量に影響を与える。一般に、インキュベーションの持続時間と温度は膨張制御量に正比例し、溶液のpHは反比例する。本出願人は、処理溶液の含水量も膨張制御に影響を与えると判断した。これに関して、本発明のヒドロゲルはこの処理溶液中でより膨張可能であり、したがって、より多数のカルボン酸基がプロトン化に利用可能であると推定される。膨張速度を最大限に制御するには、含水量およびpHを最適化することが必要である。インキュベーション完了後、ヒドロゲル材料から過剰な処理溶液を洗い流し、乾燥させる。低pH溶液で処理したヒドロゲルは、乾燥させると、非処理ヒドロゲルより寸法が小さくなることが観察された。これは望ましい結果である。というのは、これらのヒドロゲル材料はマイクロカテーテルを介して送出するのが望ましいからである。
【0021】
ヒドロゲル網目構造にアミン基を有するpH感受性モノマーが組み込まれている場合には、ヒドロゲルを高pH溶液中でインキュベートする。高pH下では、ヒドロゲル網目構造のアミン基上で脱プロトン化が生じる。インキュベーションの持続時間および温度と溶液のpHは膨張速度の制御量に影響を与える。一般に、インキュベーションの持続時間お
よび温度と溶液のpHは膨張制御量に正比例する。インキュベーション完了後、ヒドロゲル材料から過剰な処理溶液を洗い流し、乾燥させる。
【0022】
実施例1
(pH応答性膨潤性ヒドロゲルのペレットを製造する方法)
本発明のヒドロゲル材料は、例えば、シート、小塊、ボール、ペレット、フィラメントなどの種々の形態および形状で製造され、かつ使用され得る。図2は、本発明のpH応答性膨潤性ヒドロゲルを固体ペレットの形態に製造するのに用い得る好ましい手順の特定の実施例を示している。この手順では、エチレン性不飽和モノマー、エチレン性不飽和架橋剤、造孔剤および任意の溶媒を含有する初期反応混合物を適当な容器中で混合する。次いで、この混合物に開始剤を加え、まだ液状の反応混合物をさらに混ぜ合せ、注射器または他の適当な注入装置に吸引する。注射器または注入装置に、チューブ(例えば、約0.0381〜0.254センチメートル(0.015〜0.100インチ)、好ましくは約0.0635センチメートル(0.025インチ)の内径を有するポリエチレンチューブ(すなわち)脳または他の血管用に使用できる小ペレットを形成するためのチューブ)を取り付け、そのチューブに反応混合物を注入してチューブ内で重合させる。ヒドロゲルがチューブ内で完全に重合されたら、内部にヒドロゲルを含有した状態のチューブを所望の長さ(例えば、約5.08センチメートル(2インチ)断片)の個別断片に切断する。次いで、チューブの各断片の管腔からヒドロゲル断片を取り出し、一連の洗浄浴に入れて、造孔剤および残留モノマーを洗い流す。これらの洗浄浴は以下の通りであり得る。
【0023】
【表1】

【0024】
ヒドロゲル断片は、これらの浴中で水に暴露されている間に膨潤し得る。これらのヒドロゲルペレットの膨潤を停止させるために、ヒドロゲルペレットを、ヒドロゲルから水分の少なくとも一部を排出させる膨潤停止溶液に入れる。この膨潤停止溶液は、アルコール、膨潤を制御するのに十分なアルコールを含有するアルコール/水溶液、アセトン、または他の適当な非水性脱水剤であってよい。図2に示されている特定の実施例では、既にすすいだヒドロゲル断片を以下のような膨潤停止浴に入れる。
【0025】
【表2】

【0026】
膨潤停止溶液から取り出した後、ヒドロゲルの円筒断片をさらに小さい断片〔例えば、約0.254センチメートル(0.100インチ)の長さの断片〕に切断し得る。次いで、これらの個別断片を円筒ヒドロゲル断片のリング軸線に沿ってプラチナコイルおよび/またはプラチナワイヤに串刺しにし得る。串刺し後、これらの断片を真空下に55℃で少なくとも2時間乾燥させる。次いで、ヒドロゲル断片を、好ましくは、50%塩酸:50%水などの酸性化溶液に37℃で約70時間浸漬して酸性化処理する。次いで、過剰な酸性化溶液を洗い流す。これは、ヒドロゲル断片を以下のような一連の浴に入れることによって達成し得る。
【0027】
【表3】

【0028】
酸性化処理完了後(例えば、酸性化処理浴4から取り出した後)、ヒドロゲル断片(すなわち、「ペレット」)を真空オーブン中約60℃で約1〜2時間乾燥させる。これで、ペレットの製造が完了する。これらのペレットは、生理的pH(すなわち、約7.4のpH)の液体(例えば、血液)に接触すると実質的に膨張するであろう。
【0029】
以下の実施例2〜4は、本明細書に記載されているような制御膨張速度を有する多孔質ヒドロゲルの多くの生物医学的用途の一部に関する。これらの実施例は、ヒドロゲルがヒト患者または患畜の体内に移植されるいくつかの生物医学的用途に限定されているが、本発明のヒドロゲル材料は、以下に記載する特定の実施例に加えて、他の多くの医学的および非医学的用途に使用され得ることが理解されよう。
【0030】
実施例2
(動脈瘤の塞栓形成)
動脈瘤の塞栓形成のために、1.52g(0.021モル)のアクリルアミド、0.87g(0.009モル)のアクリル酸ナトリウム、0.005g(0.00003モル)のN,N−メチレンビスアクリルアミド、7.95gの水、および4.5gの塩化ナトリウム(<10ミクロンの粒径)をアンバージャー(amber jar)に加える。開始剤として、53マイクロリットルのN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンと65マイクロリットルの水中20w/w%過硫酸アンモニウムとを加え、溶液を3ccの注射器に吸引する。次いで、溶液を内径約0.0635センチメートル(0.025インチ)のチューブに注入し、2時間重合させる。チューブを約5.08センチメートル(2インチ)の断片に切断し、真空オーブン中で乾燥させる。マンドレルを用いてチューブから乾燥ヒドロゲルを取り出す。重合ヒドロゲルを蒸留水中で、それぞれ10〜12時間、少なくとも2時間、少なくとも2時間の3回洗浄して、造孔剤、未反応のモノマー、および組み込まれなかったモノマーを除去する。ヒドロゲルを長さ約0.254センチメートル(約0.100インチ)の断片(「ペレット」)に切断し、プラチナコイル/ワイヤ
アセンブリーで串刺しする。次いで、これらのペレットをアルコールで脱水し、真空下に約55℃で約2時間乾燥させる。
【0031】
次いで、乾燥ペレットを50%塩酸/50%水中に入れ、37℃で約70時間インキュベートする。インキュベーション後、ペレットを連続的に、(a)70%イソプロピルアルコール:30%水で約5分、(b)100%イソプロピルアルコールで約15分、(c)100%イソプロピルで約15分、(d)100%イソプロピルアルコールで約15分洗浄して、過剰な塩酸溶液を洗い流す。次いで、ヒドロゲルを真空下に55℃で少なくとも2時間乾燥させる。
【0032】
この手順を用いて製造した処理済み乾燥ヒドロゲルペレットは、生理食塩水または血液を充填した内径約0.03556センチメートル(0.014インチ)または約0.04572センチメートル(0.018インチ)のマイクロカテーテルを介して送出するのに適した直径を有する。このヒドロゲル材料は、分離可能な搬送システム(ヒドロゲルに取り付けられているワイヤもしくはロープであって、カテーテルの管腔を通って所望の移植部位に進めることができ、所望移植部位で、手術者が分離させるまで、または移植部位におけるなんらかの環境条件がワイヤ/ロープとヒドロゲルとの間の結合を分解、破壊もしくは分断させるまで、典型的にはヒドロゲルが結合したままであろうワイヤもしくはロープ)を用いるか、そのような搬送システムに結合した状態で、(例えば、ヒドロゲルペレットまたは粒子と液体担体とを混合し、液体担体/ヒドロゲル混合物をカニューレまたはカテーテルを介して移植部位に注射または注入することにより)マイクロカテーテルを介して流動により注入することができる。分離可能な搬送システムを利用する場合、ヒドロゲルペレットは、典型的には、ワイヤもしくはロープが結合したままでいる間、したがって、ヒドロゲルの実質的な膨潤が生じる前の少なくとも15分間、マイクロカテーテルから前進させたり、マイクロカテーテル内に後退させたり(必要ならそれを繰返したり)することができる。ヒドロゲルペレットは、生理的pH(約7.4)下で約1時間後に、完全膨潤状態(約0.0889センチメートル(約0.035インチ)の直径)になる。
【0033】
実施例3
(動静脈奇形の塞栓形成)
材料を動静脈奇形の塞栓形成に適合させるために、アンバージャーに、1.52g(0.021モル)のアクリルアミド、0.87g(0.009モル)のアクリル酸ナトリウム、0.005g(0.00003モル)のN,N−メチレンビスアクリルアミド、7.95gの水、および4.5gの塩化ナトリウム(<10ミクロン粒径)を加える。開始剤として、53マイクロリットルのN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンと、65マイクロリットルの水中20w/w%過硫酸アンモニウムとを加え、溶液を3ccの注射器に吸引する。注射器内で2時間、溶液を重合させる。剃刀の刃を用いて注射器を取り外し、ヒドロゲルを真空オーブン中で乾燥させる。
【0034】
乾燥ヒドロゲルを蒸留水中で3回、それぞれ、10〜12時間、2時間、2時間洗浄して、造孔剤、未反応のモノマー、および組み込まれなかったオリゴマーを除去する。次いで、ヒドロゲルをエタノール中で脱水し、真空下に約55℃で約2時間乾燥させる。乾燥ヒドロゲルを、所望サイズ、典型的には直径100〜900ミクロンの粒子にばらす。次いで、乾燥粒子を、50%塩酸:50%水の酸性化溶液中約37℃で約22時間インキュベートする。インキュベーション後、(a)70%イソプロピルアルコール:30%水で約5分、(b)100%イソプロピルアルコールで約15分、(c)100%イソプロピルで約15分、および(d)100%イソプロピルアルコールで約15分連続洗浄して、ペレットから過剰な塩酸溶液を洗い流す。次いで処理済みヒドロゲル粒子を真空下に約55℃で約2時間乾燥させる。この手順で製造された処理済み乾燥ヒドロゲル粒子は、動静脈奇形の塞栓形成に適した直径を有し、標準的なマイクロカテーテルを介して流動により
注入することができる。これらのヒドロゲル粒子は、約7.4の生理的pH下で約15分後に完全膨張状態になる。
【0035】
実施例4
(血管または他の内腔解剖学的構造の閉鎖)
血管閉鎖栓を作製するために、アンバージャーに、1.52g(0.021モル)のアクリルアミド、0.87g(0.009モル)のアクリル酸ナトリウム、0.005g(0.00003モル)のN,N−メチレンビスアクリルアミド、7.95gの水、および4.5gの塩化ナトリウム(<10ミクロンの粒径)を加える。開始剤として、53マイクロリットルのN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンと、65マイクロリットルの水中20w/w%過硫酸アンモニウムとを加え、溶液を3ccの注射器に吸引する。次いで、溶液を種々のサイズのチューブに注入して2時間重合させる。種々のサイズの血管閉鎖栓を作製するためには種々のサイズのチューブが必要である。例えば、内径約0.0635センチメートル(0.025インチ)のチューブ中で重合させると、直径約0.0889センチメートル(約0.035インチ)の血管栓ができる。内径約0.04826センチメートル(約0.019インチ)のチューブ中で重合させると、直径約0.06604センチメートル(約0.026インチ)の血管栓ができる。チューブを約5.08センチメートル(2インチ)断片に切断し、真空オーブン中で乾燥させる。マンドレルを用いてチューブから乾燥ヒドロゲルを取り出す。重合ヒドロゲルを蒸留水中で3回、それぞれ、10〜12時間、少なくとも2時間、少なくとも2時間洗浄して、造孔剤、未反応のモノマー、および組み込まれなかったオリゴマーを除去する。次いで、ヒドロゲルを長さ約1.27センチメートル(約0.500インチ)の断片すなわちペレットに切断し、プラチナコイル/ワイヤアセンブリーで串刺しする。次いで、串刺しされたこれらのヒドロゲルペレットをエタノール中で脱水し、真空下に約55℃で約2時間乾燥させる。次いで、串刺しされた乾燥ペレットを50%塩酸/50%水の酸性化溶液中で約22時間、37℃でインキュベートする。インキュベーション後、(a)70%イソプロピルアルコール:30%水で約5分、(b)100%イソプロピルアルコールで約15分、(c)100%イソプロピルで約15分、および(d)100%イソプロピルアルコールで約15分連続洗浄して、ペレットから過剰な塩酸溶液を洗い流す。これらのアルコール洗浄完了後、処理済みヒドロゲルペレットを真空下に約55℃で約2時間乾燥させる。
【0036】
この手順を用いて製造した処理済み乾燥ヒドロゲルペレットは、生理食塩水または血液を充填した内径約0.03556センチメートル(0.014インチ)または約0.04572センチメートル(0.018インチ)のマイクロカテーテルを介して送出するのに適した直径を有する。この材料は、マイクロカテーテルを介して流動により注入するか、または分離可能な搬送システムに結合されたマイクロカテーテルを介して送出することができる。分離可能なシステムを利用する場合、ヒドロゲル材料は、有意な膨潤が生じる前の約5分間にわたって、マイクロカテーテル内外に再配置することができる。この材料は約15分後に完全に膨潤する。
【0037】
本発明のいずれの実施形態においても、ヒドロゲルに、薬剤(例えば、薬物、生物製剤、遺伝子、遺伝子療法製剤、診断薬、撮像可能物質、成長因子、他の生物因子、ペプチドまたは他の生物活性物質、治療物質または診断物質)をさらに含めるかまたは取り込んで、移植部位またはその近くに、所望の薬剤作用(治療、診断、薬理学的または他の生理学的作用)を及ぼし得る。本発明のヒドロゲルに組み込み得るタイプの薬剤の一部の例が、米国特許第5,891,192号(ムラヤマら)、同第5,958,428号(バトナーガル(Bhatnagar))および同第6,187,024号(ブロック(Block)ら)、ならびにPCT国際公開WO01/03607号(スレイクSlaikeu)ら)に記載されており、上記各文書はその全文が本明細書に文献援用される。
【0038】
本明細書において、本発明は特定の実施例および実施形態のみに関連して記載されており、本発明のすべての実施可能な実施例および実施形態を包括的に記載しようとはされていない。当業者には、特許請求の範囲に列挙されている本発明の意図する精神および範囲から逸脱することなく、上述の実施例および実施形態に、種々の付加、削除、改変および他の変更を加え得ることは当然理解されるであろう。そのような付加、削除、改変および他の変更はすべて以下のクレームの範囲内に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者または患畜の疾患、奇形または障害を、患者体内の移植部位にヒドロゲルポリマーを移植することにより治療するためのヒドロゲル組成物であって、
(i)移植部位において移植前には第1体積を占め、(ii)移植部位に存在するpH感受性の脱プロトン化に応答して前記第1体積より大きい第2体積に膨張する、ある量のプロトン化された多孔質ヒドロゲルポリマーを含んでなる組成物。
【請求項2】
ヒト患者または患畜の疾患、奇形または障害を、患者体内の移植部位にヒドロゲルポリマーを移植することにより治療するためのヒドロゲル組成物であって、
(i)移植部位において移植前には第1体積を占め、(ii)移植部位に存在するpH感受性のプロトン化に応答して前記第1体積より大きい第2体積に膨張する、ある量の脱プロトン化された多孔質ヒドロゲルポリマーを含んでなる組成物。
【請求項3】
前記ヒドロゲルポリマーは、イオン性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーをエチレン性不飽和架橋剤により架橋結合させることによって生成される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒドロゲルが非孔質である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
放射線不透過性粒子を組み込むことにより、ヒドロゲルが放射線不透過性となっている、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
放射線不透過性モノマーを組み込むことによりヒドロゲルが放射線不透過性となっている、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
移植部位に送出されるとき、ヒドロゲルがペレットの形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
移植部位に送出されるとき、ヒドロゲルが長尺状のフィラメントまたはチューブの形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項9】
移植部位に送出されるとき、ヒドロゲルが粒子の形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
カテーテルを介してヒドロゲルを移植部位に送出する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
カテーテルがマイクロカテーテルである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
マイクロカテーテルが0.0127〜0.127センチメートルの管腔を有し、この管腔を介してヒドロゲルが送出される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ヒドロゲルを液体担体と混合し、次いで、液体担体/ヒドロゲル混合物をカテーテルの管腔を介して注入する、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
ヒドロゲルを分離可能な搬送部材に結合させ、ヒドロゲルが結合している搬送部材を共に経管的に移植部位に進め、その後、搬送部材を後退させて抜出した後でヒドロゲルが移植部位に移植されたまま残るようにヒドロゲルを搬送部材から分離する、請求項10に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−22847(P2010−22847A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229839(P2009−229839)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【分割の表示】特願2002−570954(P2002−570954)の分割
【原出願日】平成14年2月28日(2002.2.28)
【出願人】(500285576)マイクロベンション インコーポレイテッド (26)
【Fターム(参考)】