説明

環状オレフィンの製造方法

【課題】テトラシクロドデセン、ノルボルネン等の環状オレフィンを重質油の副生を抑制して安定して、効率的に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】温度35℃未満、酸素濃度10ppm以下、安定剤20ppm〜10,000ppm含む条件で保存されたジシクロペンタジエンを、蒸留により前記安定剤を10ppm以下に低減させ、エチレン及び必要によりノルボルネンを加えて加熱反応させることを特徴とするテトラシクロドデセンまたはノルボルネンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラシクロドデセン、ノルボルネン等の環状オレフィンの製造方法に関する。さらに詳しくは、塗料やポリマー等の原材料として有用なテトラシクロドデセンを安定してしかも効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料やポリマー等の原材料として有用な化合物であるアルキルテトラシクロドデセンは、従来、オレフィンと、シクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンと、ノルボルネンとを加熱して、ディールズ・アルダー反応(Diels-Alder反応)により製造されている。
【0003】
特公平1−60011号公報には、炭素数2〜22のオレフィン1〜20モル、シクロペンタジエン1〜5モルまたはジシクロペンタジエン0.5〜2.5モル、およびノルボルネン1〜5モルを、100〜400℃、100〜5,000psiおよび0.1〜5時間、反応器内に加熱・保持し、そして生成物からノルボルネン/テトラシクロドデセンのモル比が5/95〜95/5の混合物を製造する方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
この方法は、オレフィンとしてエチレンを用いた場合、沸点がテトラシクロドデセン以上の重質油を大量に副生する。この重質油の副生は、目的物であるテトラシクロドデセンの収率を著しく低下させる。しかしながらテトラシクロドデセンの製造上、重質油の効果的な抑制は現在のところ実現できていない。
【0005】
また、特開平3−128333号公報には、エチレン、シクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエン、およびノルボルネンを、芳香族系溶剤と一緒に加熱反応させ、得られた反応混合物を精製塔より分離して塔底からテトラシクロドデセンを含む反応生成物を回収しそして塔頂から未反応のノルボルネン、シクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエン、および芳香族系溶剤を回収して循環再使用するテトラシクロドデセンの製造法が開示されている(特許文献2)。
【0006】
特開昭57−154133号公報、特開平6−9437号公報ではエチレンとジシクロペンタジエンとの熱反応によるテトラシクロドデセンの製造方法が開示されている(特許文献3,4)。
【0007】
しかし、これらの技術では原料であるジシクロペンタジエンの保管方法やジシクロペンタジエンとエチレンとの熱反応の前におけるジシクロペンタジエンの予備処理については全く考慮されておらず、ジシクロペンタジエンの保管状態によってテトラシクロドデセンの製造における品質、収率などの点で大きく影響を受ける問題があった。
【特許文献1】特公平1−60011号公報
【特許文献2】特開平3−128333号
【特許文献3】特開昭57−154133号公報
【特許文献4】特開平6−9437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、テトラシクロドデセン、ノルボルネン等の環状オレフィンを安定して、効率的に製造する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、重質油の副生を抑制してテトラシクロドデセンまたはノルボルネンを効率良く製造する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、工業的に取扱いが容易でありさらに経済性にも優れたテトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンの製造法を提供することにある。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、温度35℃未満、酸素濃度10ppm以下、安定剤20ppm〜10,000ppm含む条件で保存されたジシクロペンタジエンを、蒸留により前記安定剤を10ppm以下に低減させ、エチレン及び必要によりノルボルネンを加えて加熱反応させることにより、安定的かつ効率的に高品質のテトラシクロドデセンまたはノルボルネンが得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンを安定して、効率的に製造することができる。また本発明で得られるテトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンは副生物が少なくポリマー製造において高収率、高品質の重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ジシクロペンタジエンの保存方法
本発明のジシクロペンタジエンの保存とは融点以上の温度の融解状態から35℃未満の固体状態とした後、1日以上、通常7日〜5年程度の期間の保存をいう。本発明のジシクロペンタジエンの保存は35℃未満、好ましくは33℃以下、より好ましくは0℃〜30℃の温度で行われる。本発明のジシクロペンタジエンの保存は、ジシクロンペンタジエン中の酸素濃度が10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは3ppm以下で行われる。本発明のジシクロペンタジエンの保存は、安定剤を20ppm以上、好ましくは50〜10,000ppm、より好ましくは50〜1,000ppm含む状態で行われる。本発明のジシクロペンタジエンの保存において含まれる安定剤の種類に特に制限はないが、ハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール、4−メトキシフェノール、4−tert−ブチルカテコールなどのフェノール系化合物、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−ニトロソ−N−フェニルベンゾアミン、フェノチアジンなどのアミン化合物などが好適に添加される。
【0012】
テトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンの製造方法
本発明のテトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンの製造方法では、まず上記のように保存されたジシクロペンタジエンを35℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは40℃〜100℃の融解状態とした後、蒸留器において、好ましくは連続的に蒸留することで、ジシクロペンタジエン中に含まれる安定剤の濃度を10ppm以下に低減される。ジシクロペンタジエンの温度が35℃未満では固体が析出し、搬送などの点で好ましくない。またジシクロペンタジエンの温度が100℃を超えると、副反応などが進行し副生成物ができ易く好ましくない。上記のジシクロペンタジエンの蒸留は通常理論段数2〜50段、好ましくは5〜20段で行われる。蒸留時の圧力は、通常10〜100torr、好ましくは10〜50torrで行われる。
【0013】
ジシクロペンタジエンの蒸留は通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃で行われる。ジシクロペンタジエンの蒸留中、系内の酸素濃度は10ppm以下であるのが好ましい。
【0014】
本発明の方法では、エチレンと純度が95重量%を超える高純度のシクロペンタジエンとノルボルネンを加熱反応させる際には、主として
(A)シクロペンタジエンとエチレンとの反応によりノルボルネンを生成する下記反応(1)
【0015】
【化1】

(B)シクロペンタジエンとノルボルネンとの反応によりテトラシクロドデセンを生成する下記反応(2)
【0016】
【化2】

の反応が進行する。
【0017】
また、本発明に係るテトラシクロドデセンの製造方法において、高純度のシクロペンタジエンの代わりに高純度のジシクロペンタジエンを用いた場合には、さらに(C)ジシクロペンタジエンからシクロペンタジエンへの下記熱分解反応(3)
【0018】
【化3】

も同時に進行する。
【0019】
ここで反応(A)および反応(B)はディールズ・アルダー反応であり、反応(C)は逆ディールズ・アルダー反応である。本発明方法では、高純度のシクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンとして、5重量%未満の不純物がプロペニルノルボルネンおよび/またはイソプロペニルノルボルネン等を含むものが有利に用いられる。不純物の含量は、好ましくは3重量%未満、特に好ましくは1重量%未満である。
【0020】
不純物としては、その他ビニルノルボルネン、メチルビシクロノナジエンおよびメチルジシクロペンタジエン等がある。これらの不純物は、例えばプロペニルノルボルネン4重量%以下、イソプロペニルノルボルネン2重量%以下、ビニルノルボルネン1重量%以下、メチルビシクロノナジエン1重量%以下、メチルジシクロペンタジエン1重量%以下の少なくとも1種からなる。
【0021】
不純物含量が5重量%以上のシクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンを用いた場合には、出発原料であるシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよびノルボルネンの少なくとも1種あるいは目的物であるテトラシクロドデセンと上記の如き不純物との間にディールズ・アルダー反応が起こり副生物が生成し易くなる。それ故、不純物含量が5重量%以上の場合には、シクロペンタジエンあるいはジシクロペンタジエンの反応利用効率が著しく低下するようになる。
【0022】
本発明方法の反応を行なうに際しては、シクロペンタジエンは常温、常圧条件下では2量体のジシクロペンタジエンとして存在しており、このジシクロペンタジエンは反応条件下で分解してシクロペンタジエンを生成するため、通常、反応にはジシクロペンタジエンが用いられる。この際、未反応のノルボルネンは、蒸溜により回収してリサイクルされる。このため反応前後におけるノルボルネンの変化量(ΔNB)は、ΔNB=0であることが好ましい。
【0023】
本発明のテトラシクロドデセンまたはノルボルネンの製造方法において用いられるジシクロペンタジエンの純度は99%以上、好ましくは99.8%以上であることが望ましい。
【0024】
また、本発明に係るテトラシクロドデセンの製造方法において用いられる反応装置は、通常、アルキルテトラシクロドデセンの製造に使用されている装置をそのまま用いることができる。装置の概略は例えば特開平6−9437に開示されている。本発明において用いられる典型的な装置の概略図を図1に示す。
【0025】
このような反応装置を用いてテトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンを製造する際には、反応系に供給されるジシクロペンタジエンとノルボルネンは、混合機で所定の比率で混合される。エチレンと、この混合液はコンプレッサーあるいはポンプにより700〜4,000kPaまで昇圧されたのち、エチレンと所定の比率で混合される。混合物は、150〜180℃に加熱された予熱室へ送られて、反応温度付近まで予熱され、反応器へ供給される。この場合、供給される原料の量は、ジシクロペンタジエン1モルに対してノルボルネンが1.5〜6.0モル、エチレンが0.4〜2.0モルの範囲であることが好ましい。本発明に係るテトラシクロドデセンの製造方法では、反応は、反応温度100〜400℃、好ましくは200〜300℃、より好ましくは200〜280℃、圧力700〜40,000kPa、好ましくは3000〜30,000kPa、反応器内での平均滞留時間は0.001〜5時間、好ましく0.1〜10分、より好ましくは0.2〜8分で行なわれる。上記の条件で反応を行うと、テトラシクロドデsンの収率の点で好ましく、また副生成物の生成も少なく好ましい。
【0026】
精製工程反応により得られた混合物は、後処理工程に送られ、そこで冷却、脱圧分離されたのち、第1精製塔に供給される。その塔頂部より未反応のノルボルネンと、少量のシクロペンタジエンあるいはジシクロペンタジエンとの混合物が回収され、塔底部より重質油を含む粗製のテトラシクロドデセンがそれぞれ回収される。回収されたノルボルネンと少量のシクロペンタジエンあるいはジシクロペンタジエンとの混合物は、ノルボルネンがリザーバータンク内で凝固しないように、リザーバータンクへ送られて保存され、再び反応に使用される。また塔底部より分離された重質油を含む粗製のテトラシクロドデセンは、精製塔に送られて、その塔頂部より高純度のテトラシクロドデセンが回収され、塔底部より重質油がそれぞれ回収される。このような蒸留塔における運転条件は、第1精製塔においては塔底部温度130〜180℃、塔底部圧力15〜75kPa 、塔頂部温度50〜130℃、塔頂部圧力13.3〜70kPaであることが好ましい。なお第2精製塔においては塔底部温度80〜150℃、塔底部圧力1.3〜20kPa、塔頂部温度60〜130℃、塔頂部圧力0.13〜12kPaであることが好ましい。
【0027】
本発明で製造されるテトラシクロドデセンまたはノルボルネン等の環状オレフィンは炭素数1〜20のアルキル基、アルキレン基や極性基などの置換基を含んでいても良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
安定剤として2,6−ジ−tert−ブチルクレゾールを100ppm含み、酸素濃度が10ppm以下、30℃以下の温度で1週間保存されたジシクロペンタジエンを60℃で融解、搬送し、理論段数10段、圧力20torr、缶底温度77℃、還流比3で蒸留した。蒸留後のジシクロペンタジエン中の安定剤の濃度は1ppm以下、純度は95%であった。
【0030】
図1に示した装置を用いてテトラシクロドデセンの生成反応を行なった。反応は、エチレンと、純度99.8%の高純度のジシクロペンタジエンと、ノルボルネンとを用いて行なった。この高純度ジシクロペンタジエンはプロペニルノルボルネン0.2重量%の不純物を含有していた。反応装置に供給されたこれら混合物のモル比は、エチレン22モル%、ジシクロペンタジエン26モル%、ノルボルネン52モル%であり、反応は、反応圧力4600kPa、反応温度260℃、滞留時間7.4分で行なわれた。得られた混合物は、後処理工程で処理されたのち、精製工程に送られた。この際、精製工程の運転条件は、第1精製塔においては塔底部温度168℃、塔底部圧力16.6kPa、塔頂部温度70℃、塔頂部圧力14.6kPaで行ない、精製塔においては塔底部温度115℃、塔底部圧力2.26kPa、塔頂部温度80℃、塔頂部圧力0.33kPaで行なった。成績は、シクロペンタジエン転化率82mol%、テトラシクロドデセン選択率84mol%であり高収率でテトラシクロドデセンを得ることができた。
【0031】
[比較例1]
安定剤として2,6−ジ−tert−ブチルクレゾールを100ppm含み、酸素濃度が10ppm以下、60℃の温度で融解状態で1週間保存されたジシクロペンタジエンを、搬送し、理論段数10段、圧力20torr、缶底温度77℃、還流比3で蒸留した。蒸留後のジシクロペンタジエン中の安定剤の濃度は1ppm以下、純度は92%であった。
【0032】
テトラシクロドデセン生成反応は、エチレンと、上記のジシクロペンタジエンと、ノルボルネンとを用いて行ない、それ以外は実施例1と同様の操作条件で行った。なお、本比較例で用いられたジシクロペンタジエンは、不純物としてプロペニルノルボルネン3重量%、イソプロペニルノルボルネン1重量%、ビニルノルボルネン0.5重量%、メチルビシクロノナジエン0.3重量%およびその他不明物0.2重量%を含有していた。その結果、シクロペンタジエン転化率82mol%、テトラシクロドデセン選択率69mol%でテトラシクロドデセンが得られた。
【0033】
[比較例2]
比較例1において安定剤を含まない事以外は比較例1と同様にジシクロペンタジエンを保存した後、比較例1と同様にテトラシクロドデセン生成反応に用いた。その結果、シクロペンタジエン転化率72mol%、テトラシクロドデセン選択率58mol%でテトラシクロドデセンが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るテトラシクロドデセンの製造方法では、従来技術に比較し安定して、効率的に且つ非常に経済的にテトラシクロドデセンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のテトラシクロドデセンの製造法に用いた装置の概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ノルボルネンのリザーバータンク
2 ジシクロペンタジエンのリザーバータンク
3 エチレン供給ライン
4 予熱器
5 反応器
6 第一精留塔
7 第二精留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度35℃未満、酸素濃度10ppm以下、安定剤20ppm〜10,000ppm含む条件で保存されたジシクロペンタジエンを、蒸留により前記安定剤を10ppm以下に低減させ、エチレン及び必要によりノルボルネンを加えて加熱反応させることを特徴とするテトラシクロドデセンまたはノルボルネンの製造方法。
【請求項2】
反応器に供給されるジシクロペンタジエンの反応器内での平均滞留時間が0.001〜5時間であり、ジシクロペンタジエンとエチレンおよびノルボルネンとを加熱反応させることを特徴とする請求項1記載のテトラシクロドデセンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法で得られたテトラシクロドデセンまたはノルボルネン。
【請求項4】
温度35℃未満、酸素濃度10ppm以下、安定剤20ppm〜10,000ppm含む条件で保存されたジシクロペンタジエンを、蒸留により前記安定剤を10ppm以下に低減させたジシクロペンタジエン。

【図1】
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【公開番号】特開2009−120569(P2009−120569A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298236(P2007−298236)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】