説明

環状ホルマール化合物の製造方法

【課題】アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体から得られる環状ホルマール化合物を精製し、より一層副成分の少ない高純度の環状ホルマール化合物を製造すること。
【解決手段】本発明の環状ホルマール化合物の製造方法は、蒸留塔(III)の塔底から留出する混合物(D)を蒸留塔(I)にフィードする工程(4)と、蒸留塔(III)の塔底から排出するアルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を蒸留塔(II)にフィードする工程(5)等、特定の工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホルマール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ホルマール化合物とは、例えば、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,3,5−トリオキセパン等である。これら環状ホルマール化合物は、例えば、アルキレングリコールとアルデヒドとの環化反応により製造することができる。環状ホルマール化合物(代表例、1,3−ジオキソラン)の製造方法としては、例えば、特許文献1〜5に記載の製造方法が提案されている。具体的には、例えば、特許文献1に記載されている方法によると、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体との反応によって得られた環状ホルマール合物を、蒸留塔において、希釈液(純水等)に向流接触させることにより、未反応のホルムアルデヒド誘導体を吸収させ、環状ホルマール化合物を精製することができ、また、別の蒸留塔において、アルキレングリコールをフィードすることにより、環状ホルマール化合物中に存在する水を吸収させ分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4245921号
【特許文献2】特許第3098300号
【特許文献3】特開平8−012667号公報
【特許文献4】特開平9−048774号公報
【特許文献5】特許第3474252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜5には、環状ホルマール化合物から分離したアルキレングリコールを用いた水の除去方法等、効率的な副成分の低減方法に関しての記載はなく、従来技術の環状ホルマール化合物の製造方法は、副成分を効率的に低減することができない場合があり、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、副成分をより一層効率的に低減し、高純度の環状ホルマール化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、副成分をより一層効率的に低減し、高純度の環状ホルマール化合物を効率的に製造する方法について鋭意検討した結果、環状ホルマール化合物の製造過程で、残留するアルキレングリコールを分離回収し、該分離回収したアルキレングリコールを環状ホルマール化合物に含まれる水の吸収除去に用い、さらに、前記アルキレングリコールの分離回収した後の残分を、環状ホルマール化合物の蒸留分離工程に送り精製することにより、副成分をより一層効率的に低減し、高純度の環状ホルマール化合物が得られることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、以下の通りである。
【0007】
[1]
アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させて、環状ホルマール化合物を含む混合物(A)を得る工程(0)と、
工程(0)で得られた混合物(A)を蒸留塔(I)にフィードする工程(1)と、
蒸留塔(I)の塔頂から留出する低沸点混合物(B)を蒸留塔(II)にフィードする工程(2)と、
蒸留塔(II)の塔底から排出する高沸点混合物(C)を蒸留塔(III)にフィードする工程(3)と、
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(I)にフィードする工程(4)と、
蒸留塔(III)の塔底から排出するアルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を蒸留塔(II)にフィードする工程(5)と、
蒸留塔(II)の塔頂から環状ホルマール化合物を含む成分を取出す工程(6)と、
蒸留塔(I)の塔底から高沸点混合物(F)を取出す工程(7)と
を含むことを特徴とする環状ホルマール化合物の製造方法。
【0008】
[2]
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)において、ホルムアルデヒドの含有量が5000ppm以下であることを特徴とする[1]に記載の環状ホルマール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環状ホルマール化合物の製造方法によれば、副成分をより一層効率的に低減し、高純度の環状ホルマール化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本実施形態で用いる環状ホルマール化合物の製造装置の一例の概略図である。
【図2】図2は、比較例で用いた環状ホルマール化合物の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本実施形態の環状ホルマール化合物の製造方法は、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させて、環状ホルマール化合物を含む混合物(A)を得る工程(0)と、工程(0)で得られた混合物(A)を蒸留塔(I)にフィードする工程(1)と、蒸留塔(I)の塔頂から留出する低沸点混合物(B)を蒸留塔(II)にフィードする工程(2)と、蒸留塔(II)の塔底から排出する高沸点混合物(C)を蒸留塔(III)にフィードする工程(3)と、蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(I)にフィードする工程(4)と、蒸留塔(III)の塔底から排出するアルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を蒸留塔(II)にフィードする工程(5)と、蒸留塔(II)の塔頂から環状ホルマール化合物を含む成分を取出す工程(6)と、蒸留塔(I)の塔底から高沸点混合物(F)を取出す工程(7)とを含む。
【0013】
なお、本実施形態において、低沸点混合物とは、蒸留塔の塔頂から留出する低沸点の成分を含む混合物のことを意味し、高沸点混合物とは、蒸留塔の塔底から排出する高沸点の成分を含む混合物のことを意味する。また、これらの混合物は、一成分だけであってもよい。
【0014】
本実施形態において、環状ホルマール化合物とは、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とから合成される環状ホルマール化合物である。このような環状ホルマール化合物の具体例としては、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,3,5−トリオキセパンが挙げられる。これら環状ホルマール化合物は、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させ、製造することができる。
【0015】
本実施形態に用いるアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールが挙げられる。
【0016】
本実施形態に用いるホルムアルデヒド誘導体としては、例えば、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン、メチラール、ポリアセタール等やこれらの混合物が挙げられる。これらホルムアルデヒド誘導体の中でホルムアルデヒド(ホルマリン)、トリオキサンが好適に使用される。
【0017】
本実施形態に用いる酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等の鉱酸;スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;強酸性イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカ、アルミナ等の固体酸触媒;リンモリブデン酸、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸等が挙げられる。中でも、硫酸、強酸性イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸が好適に使用できる。
【0018】
上記のアルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させて合成される環状ホルマール化合物としては、例えば、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキセパン、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,3,5−トリオキセパンが挙げられる。
【0019】
本実施形態の製造方法において、工程(0)は、上述したような、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させて、環状ホルマール化合物を含む混合物(A)を得る工程である。該混合物(A)は、例えば、未反応のホルムアルデヒド誘導体や、反応によって副生した水を含んでいる。
【0020】
したがって、高純度の環状ホルマール化合物を得るためには、合成反応後、環状ホルマール化合物を含む混合物(A)から未反応のホルムアルデヒド誘導体や、反応によって生成した水を分離除去する必要がある。
【0021】
当該分離除去する方法は、例えば、環状ホルマール化合物、ホルムアルデヒド誘導体及び水を含む混合物(A)を、蒸留塔(I)に送り、環状ホルマール化合物及び水を含む混合物(B)とホルムアルデヒド誘導体とを分離する。次に、環状ホルマール化合物及び水を含む混合物(B)を、蒸留塔(II)に送り、別途蒸留によって分離回収したアルキレングリコールを用いて、混合物(B)に含まれる水を分離除去し、高純度の環状ホルマール化合物を精製する。
【0022】
従来の環状ホルマール化合物の製造方法は、環状ホルマール化合物に含まれる水の吸収除去に使用するアルキレングリコールは、蒸留塔にフィードするのみであり、蒸留によって分離したアルキレングリコールを回収方法については何ら検討されていない。
【0023】
一方、本実施形態の製造方法は、環状ホルマール化合物に含まれる水を除去するために、別途蒸留によって分離回収したアルキレングリコール使用しており、副成分が少ない高純度の環状ホルマール化合物をより一層効率的に製造することができる。
【0024】
以下、本実施形態の製造方法を、図1を用いて例示し説明する。なお、図1は主要設備のみ示し、付属設備を省略している。
【0025】
環状ホルマール化合物に含まれる水の除去方法は、一般的に蒸留等の精製工程が必要である。その際、副生する水は環状ホルマール化合物と共沸しやすく、蒸留による精製は困難である。よって、副生する水をアルキレングリコールで吸収させ蒸留する方法を採用することが好ましい。
【0026】
具体的には、環状ホルマール化合物、副生する水、及びホルムアルデヒド誘導体混合物(A)を、蒸留塔(I)に供給する(工程(1))。さらに水を蒸留塔(I)に供給してもよい。蒸留塔(I)において、ホルムアルデヒド誘導体及び水を含む高沸点混合物(F)を塔底から排出し(工程(7))、環状ホルマール化合物と副生する水とを含む混合物(B)を塔頂から留出させる。
【0027】
塔頂から留出する環状ホルマール化合物と副生する水とを含む低沸点混合物(B)を、蒸留塔(II)に供給する(工程(2))。蒸留塔(II)は、後述の蒸留塔(III)で分離回収したアルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を供給することができる構造を有する。蒸留塔(II)の塔頂から、環状ホルマール化合物を含む混合物(G)を取出す(工程(6))。蒸留塔(II)の塔底から、アルキレングリコールと水とを含む高沸点混合物(C)を排出する。
【0028】
この高沸点混合物(C)を蒸留塔(III)に供給し(工程(3))、アルキレングリコールを分離する。蒸留塔(III)の塔底から、アルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を排出し、蒸留塔(II)に供給する(工程(5))。蒸留塔(III)の塔頂から、水を含む低沸点混合物(D)を留出させる。
【0029】
低沸点混合物(D)を、蒸留塔(I)に供給し(工程(4))、更に環状ホルマール化合物を蒸留し回収する。
【0030】
なお、本実施形態の製造方法において、各混合物の組成は、後述の実施例に記載の方法により分析することができる。
【0031】
本実施形態の製造方法において、重要な工程は、蒸留塔(III)でアルキレングリコールと水とを分離し、塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(I)に供給する工程(4)と、蒸留塔(III)の塔底から排出するアルキレングリコールを蒸留塔(II)に供給する工程(5)である。一方、蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(II)に供給し蒸留精製した場合、副成分である2−メチル環状ホルマール化合物の含有量を減らすことが難しく、高純度の環状ホルマール化合物を製造することが難しい。
【0032】
本実施形態の製造方法は、前記2つ工程(工程(4)及び(5))を含むことにより、アルキレングリコールを再利用でき、且つ、副成分が少なく、より高純度の環状ホルマール化合物を一層効率的に製造することができる。このような高純度の環状ホルマール化合物を用いることにより、熱安定性に優れるポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0033】
環状ホルマール化合物を製造する工程で副生する不純物としては、例えば、2−メチル環状ホルマール化合物が挙げられる。この2―メチル環状ホルマール化合物が環状ホルマール化合物に含まれると、ポリアセタール樹脂の副原料として使用するケースでは、高重合収率で、且つ、高熱安定性に優れるポリアセタール樹脂を製造することができない傾向にある。
【0034】
本実施形態で使用する蒸留塔(I)、(II)及び(III)は、シーブトレー式蒸留塔であることが好ましい。蒸留塔(I)、(II)及び(III)としてシーブトレー式蒸留塔を使用することにより、より一層副生物が少ない環状ホルマール化合物を製造することができる。
【0035】
蒸留塔の段数としては、例えば、蒸留塔(I)の段数が25〜50段であり、蒸留塔(II)の段数が30〜60段であり、蒸留塔(III)の段数が10〜30段である。中でも好ましは、蒸留塔(I)の段数が20〜40段であり、蒸留塔(II)の段数が30〜50段であり、蒸留塔(III)の段数が15〜30段である。より好ましい蒸留塔の段数としては、蒸留塔(I)の段数が25〜40段であり、蒸留塔(II)の段数が35〜50段であり、蒸留塔(III)の段数が15〜25段である。
【0036】
蒸留塔(I)の段数が30段であり、蒸留塔(II)の段数が45段であり、蒸留塔(III)の段数が20段である場合、蒸留塔(I)、(II)及び(III)における各混合物の供給段は、以下のとおりとすることが好ましい。
【0037】
蒸留塔(I)に供給する混合物(A)の供給段は、蒸留塔(I)の上段から数えて2段から20段目好ましく、より好ましくは3段から15段、更に好ましくは5段から15段である。また、さらに水を蒸留塔(I)に供給する場合、蒸留塔(I)に供給する水の供給段も重要であり、水の供給段は混合物(A)の供給段よりも上段とすることが好ましい。例えば、混合物(A)の供給段が上段から数えて15段である場合、水の供給段は12段よりも上段に供給することが好ましい。より好ましい供給段は、混合物(A)の供給段が上段から数えて10段であり、水の供給段が5段である。水の供給段を混合物(A)の供給段よりも上段とすることにより、蒸留塔(I)でのホルムアルデヒド誘導体の分離が容易となり、環状ホルマール化合物中の副生物量をより一層低減することができる。更に、蒸留塔(I)に供給する混合物(A)と水との供給量の質量比(R;混合物(A)/水)は、0.1〜10の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜5の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜3の範囲である。蒸留塔(I)に供給する混合物(A)と水との供給量の質量比(R;混合物(A)/水)の範囲が上記の範囲にあるとき、副生物量が少なく、より一層純度が高い環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0038】
蒸留塔(II)に供給する混合物(B)の供給段は、蒸留塔(II)の上段から数えて10〜40段が好ましく、より好ましくは20〜40段であり、更に好ましくは25〜35段である。蒸留塔(III)の混合物(C)の供給段は、蒸留塔(III)の上段から数えて好ましくは2〜10段であり、より好ましくは2〜8段であり、更に好ましくは、2〜5段である。蒸留塔(II)及び(III)に供給する混合物の供給段が上記の範囲にあるとき、副生物が少なく、より一層高純度の環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0039】
蒸留塔(III)に供給するアルキレングリコールの供給段は、好ましくは蒸留塔(III)の上段から数えて1〜20段であり、より好ましくは1〜15段である。さらに好ましい供給段は、5〜10段である。蒸留塔(III)に供給するアルキレングリコールの供給段が上記の範囲にあるとき、副生物が少なく、より一層高純度の環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0040】
蒸留塔(I)、(II)及び(III)の塔頂部の還流比は、蒸留塔(I)、(II)及び(III)の何れも0.1〜10の還流比が好ましく、中でもより好ましくは0.5〜8の還流比であり、0.5〜5の還流比が更に好ましい。
【0041】
蒸留塔(I)、(II)及び(III)の温度と圧力について、以下説明する。
【0042】
蒸留塔(I)の温度及び圧力は、好ましくは、蒸留塔(I)の塔底(BTM)において、温度が80〜130℃の範囲であり、圧力が1〜50kPaの範囲である。より好ましくは、塔底において、温度が90℃〜120℃、圧力が10〜40kPaの範囲である。更に好ましくは、塔底において、温度が90℃〜110℃、圧力が20〜40kPaの範囲である。蒸留塔(I)の塔底(ボトム)における温度及び圧力を上記の範囲で調整することにより、蒸留塔(I)の塔頂の温度を60〜90℃の範囲に調整することができ、副生物が少ない高純度の環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0043】
蒸留塔(II)の温度及び圧力は、好ましくは、塔底において、温度を130〜180℃、圧力を1〜50kPaの範囲で適宜選択し調整する。より好ましくは、塔底において、温度が140〜170℃、圧力が10〜40kPaの範囲である。更に好ましくは、塔底において、温度が150〜170℃、圧力が20〜40kPaの範囲である。蒸留塔(II)の塔底(ボトム)における温度及び圧力を上記の範囲で調整することにより、蒸留塔(II)の塔頂の温度を60〜90℃の範囲に調整することができ、副生物が少ない高純度の環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0044】
蒸留塔(III)の温度及び圧力は、好ましくは、塔底の温度が180℃以上であり、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは195℃以上である。蒸留塔(III)の塔底(ボトム)の温度が上記の範囲にあるとき、蒸留塔(III)の塔頂の温度を90℃以上に調整することができ、副生物が少ない高純度の環状ホルマール化合物を製造することができる傾向にある。
【0045】
上記条件で蒸留した蒸留塔(III)の塔頂から留出する留出液(低沸点混合物(D))は、蒸留塔(I)に供給する混合物(A)と同一の段数に供給することが好ましい。例えば、蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(II)に供給する低沸点混合物(B)と同一の段数に供給すると、低沸点混合物(D)に存在するホルムアルデヒドから蟻酸が生成し、この蟻酸がアセトアルデヒド類に変化し、アルキレングリコールとの反応によりアルキル化−環状ホルマール化合物(アセトアルデヒド類がアセトアルデヒドである場合、2−メチル−1,3−ジオキソランが生成)である副生物が生成する場合がある。
【0046】
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)において、ホルムアルデヒドの含有量は、5000ppm以下に調整することが好ましい。中でもより好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下である。低沸点混合物(D)におけるホルムアルデヒドの含有量は、低いほど好ましく、0ppmであることが特に好ましい。低沸点混合物(D)におけるホルムアルデヒドの含有量を5000ppm以下に調整することにより、2−メチル−1,3−ジオキソランのようなアルキル化された環状ホルマール化合物が少ない環状ホルマール化合物をより高純度で製造することができる傾向にある。
【0047】
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)において、ホルムアルデヒドの含有量を5000ppm以下に調整する方法は、前記蒸留塔(III)の蒸留条件で記載にした条件により調整する方法が挙げられる。より好ましい調整方法としては、蒸留塔(III)の塔底温度を200℃を超える温度とし、塔頂温度を90℃を超える温度とする方法が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の環状ホルマール化合物の製造方法について、実施例(1,3−ジオキソランの製造方法)により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の製造方法に限定されるものではない。
【0049】
(a)組成分析方法
各混合物の組成分析には、島津製作所製のガスクロマトグラフ(型式:GC−14A)を使用し、下記条件にて定量化した。
【0050】
1.分析方法:ガスクロマトグラフ
2.型式 :GC−14A
3.検出 :TCD
4.カラム :ポラパックT
【0051】
(b)環状ホルマール化合物の製造装置
実施例及び比較例で使用した環状ホルマール化合物の製造装置を図1及び図2に示す。
【0052】
[実施例1]
エチレングリコールとホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応させて、1,3−ジオキソランを含む混合物(A)を得た。酸触媒としては、硫酸用いた。
【0053】
表1記載の組成の混合物(A)を蒸留塔(I)に供給し、更に蒸留塔(III)の塔頂から留出した混合物(D)を蒸留塔(I)に供給した。更に混合物(A)及び混合物(D)の供給ラインとは別の供給ラインから混合物(A)と同量の水を260g/時間の割合で蒸留塔(I)に供給した。蒸留塔(I)の温度及び圧力は、塔底が100℃、圧力25kPaとして、塔頂が℃の温度になるように、更に蒸留塔(I)の塔頂の還流比(r)は2に調整した。蒸留塔(I)の塔頂から留出する低沸点混合物(B)の組成を表1に示した。また蒸留塔(I)の塔底から高沸点混合物(F)を取出した。尚、高沸点混合物(F)の組成は、ホルムアルデヒド及び水であった。
【0054】
次に、蒸留塔(I)の塔頂から留出した低沸点混合物(B)を蒸留塔(II)に供給し、1,3−ジオキソランと水とを分離した。蒸留塔(II)の蒸留条件は、塔底の温度が170℃、圧力が30kPaの条件とし、塔頂の温度が75℃になるように調整し、更に蒸留塔(II)の塔頂の還流比(r)4とした。蒸留塔(II)の塔頂からは、1,3−ジオキソランを主成分とする低沸点混合物(G)が留出した。この低沸点混合物(G)には、1,3−ジオキソラン以外の成分は検出されなかった。
【0055】
蒸留塔(II)の塔底から排出する高沸点混合物(C)を蒸留塔(III)の供給段の上から5段目に供給した。
【0056】
蒸留塔(III)の運転条件は、塔底温度を200℃、圧力を15kPaとし、塔頂温度が99℃になるように調整した。尚、塔頂の還流比(r)は1とした。蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)は、ホルムアルデヒド及び水を含んでいた。蒸留塔(III)の塔底から排出される高沸点混合物(E)は、エチレングリコールと水以外の成分は検出されなかった。これら低沸点混合物(D)と高沸点混合物(E)とは、蒸留塔(I)と蒸留塔(II)とに各々供給した。上記の各混合物の組成と蒸留塔への供給量とを、表1に示した。尚、蒸留塔(III)の塔底から蒸留塔(II)に供給する混合物(E)の一部を、蒸留塔(III)の塔底から排出した。
【表1】

【0057】
[実施例2]
蒸留塔(III)の塔底の温度を190℃とし、塔頂から留出する混合物(D)に含まれるホルムアルデヒド濃度を0.3%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示した。
【表2】

【0058】
[実施例3]
蒸留塔(III)の塔底の温度を185℃とし、塔頂から留出する混合物(D)に含まれるホルムアルデヒド濃度を0.5%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表3に示した。
【表3】

【0059】
[実施例4]
蒸留塔(III)の塔底の温度を180℃とし、塔頂から留出する混合物(D)に含まれるホルムアルデヒド濃度を0.6%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表4に示した。
【表4】

【0060】
[実施例5]
蒸留塔(III)の塔底の温度を200℃とし、塔頂から留出する混合物(D)に含まれるホルムアルデヒド濃度を0に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表5に示した。
【表5】

【0061】
[実施例6]
実施例1で得られた環状ホルマール化合物を用いて、ポリアセタール樹脂コポリマーを重合した。重合方法は、主モノマーにトリオキサンを使用し、重合触媒に三フッ化硼素を用いる方法とした。環状ホルマール化合物は、トリオキサン100モルに対して4モル%とし、重合触媒は0.2×10-2モルとした。得られた不安定末端基を有する粗ポリアセタール樹脂コポリマーをトリエチルアミン水溶液で重合触媒を失活化し、更に押出し機を用いて不安定末端基を除去した。この末端安定化されたポリアセタール樹脂コポリマーを、230℃で窒素環境下に30分間放置し、放出したホルムアルデヒド量を定量し、熱安定性を評価した。ホルムアルデヒド放出量は、15ppmであった。
【0062】
[比較例1]
図2に示す製造装置を用いて、蒸留塔(III)の塔頂から留出する混合物(D)を蒸留塔(II)にフィードした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表6に示した。
【表6】

【0063】
[比較例2]
比較例1で得られた環状ホルマール化合物を用いて、ポリアセタール樹脂コポリマーを重合した。重合方法及び熱安定性測定方法は、実施例6と同様の操作を行った。ホルムアルデヒド放出量は、109ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る製造方法で製造される高純度の環状ホルマール化合物は、油脂の溶剤、抽出剤、医療品の中間体、樹脂材料の原料としての産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0065】
1.蒸留塔(I)
2.蒸留塔(II)
3.蒸留塔(III)
4.混合物(A)
5.混合物(B)
6.混合物(C)
7.混合物(D)
8.混合物(E)
9.混合物(F)
10.混合物(G)
11.工程(1)
12.工程(2)
13.工程(3)
14.工程(4)
15.工程(5)
16.工程(6)
17.工程(7)
21.水
22.エチレングリコール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とを酸触媒の存在下で反応させて、環状ホルマール化合物を含む混合物(A)を得る工程(0)と、
工程(0)で得られた混合物(A)を蒸留塔(I)にフィードする工程(1)と、
蒸留塔(I)の塔頂から留出する低沸点混合物(B)を蒸留塔(II)にフィードする工程(2)と、
蒸留塔(II)の塔底から排出する高沸点混合物(C)を蒸留塔(III)にフィードする工程(3)と、
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)を蒸留塔(I)にフィードする工程(4)と、
蒸留塔(III)の塔底から排出するアルキレングリコールを含む高沸点混合物(E)を蒸留塔(II)にフィードする工程(5)と、
蒸留塔(II)の塔頂から環状ホルマール化合物を含む成分を取出す工程(6)と、
蒸留塔(I)の塔底から高沸点混合物(F)を取出す工程(7)と
を含むことを特徴とする環状ホルマール化合物の製造方法。
【請求項2】
蒸留塔(III)の塔頂から留出する低沸点混合物(D)において、ホルムアルデヒドの含有量が5000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の環状ホルマール化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53106(P2013−53106A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193054(P2011−193054)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】