説明

環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法、及びその固定化触媒の製造方法、及びその固定化触媒に用いる触媒架橋剤、及びその固定化触媒

【課題】簡単に調製でき、低温・低圧条件下にて反応させることができ、溶媒不要で再利用性に優れ、触媒活性の高い非金属系触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法において、下記の式で表された三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基とされたリン化合物と3−ブロモプロピルトリエトキシシランとをアセトニトリル中で合成して単離したことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、二酸化炭素とエポキシ化合物(エポキシド)とから環状炭酸エステルを合成する際に用いられる固定化触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【非特許文献1】酒井貴志(他4名)、「二酸化炭素とエポキシドを用いた環状炭酸エステルの合成を目的とした固定化触媒の開発」、日本化学会第86春季年会 2006年 講演予稿集I、社団法人日本化学会、平成18年3月13日、p.140
【非特許文献2】府川伊三郎、「プラスチックでできた光記録媒体−旭化成非ホスゲン法ポリカーボネート(PC)製造法」、化学と教育、社団法人日本化学会、2006年1月20日、第54巻、第1号、p.39−42
【非特許文献3】府川伊三郎、「旭化成グループのグリーン・サステナブル・ケミストリー(GSC)の取り組み−ポリカーボネート(PC)の開発を中心に−」、化学と工業、社団法人日本化学会、2006年4月1日、第59巻、第4号、p.480−481
【非特許文献4】板倉俊康、「二酸化炭素からの環状および非環状カーボネート類の合成」、ファインケミカル、株式会社シーエムシー出版、2002年9月15日、第31巻、第16号、p.21−30
【非特許文献5】Toshikazu Takahashi(他4名)、「Synergistic hybrid catalyst for cyclic carbonate synthesis: Remarkable acceleration caused by immobilization of homogeneous catalyst on silica」、Chemical Communications(英国)、The Royal Society of Chemistry、2006年、Issue15、p.1664−1666
【0003】
近年、いわゆる「グリーンケミストリー」の観点から、二酸化炭素の化学的固定化、つまり二酸化炭素を有用な化合物に変換していくことが注目されている。二酸化炭素は安価で無毒、工場などから排ガスとして回収可能であることから、二酸化炭素の利用により炭素資源の循環利用が可能である。一方で、二酸化炭素は温室効果ガスであり、地球温暖化の原因の一つとして考えられている。このことから、この方法は二酸化炭素利用の有用な方法である。
【0004】
上記の二酸化炭素の化学的固定化法の一つに、二酸化炭素とエポキシドのカップリング反応による環状炭酸エステル(五員環環状炭酸エステル)の合成がある。
【0005】
環状炭酸エステルは、非プロトン性極性溶媒、ポリマー原料や有機合成試薬および中間体、プラスチックや化粧品の合成、リチウム二次電池等の素材として有用な化合物である。上記ポリマー原料とは、具体的には、広範囲な分野において広く用いられているポリカーボネート樹脂の合成中間体である。非特許文献2によると、このポリカーボネート樹脂の世界全体における生産量は約300万トンで、毎年7%ずつ増加し続けていると言われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、この環状炭酸エステルの合成はほとんど(世界中で90%)ホスゲン法で行われている。ところが、ホスゲンは猛毒の物質であるため取り扱いが危険であった。よって、ホスゲンを用いない安全な合成法が求められていた。
【0007】
この非ホスゲン法の一つとして、下記の式のように、二酸化炭素とエポキシドとのカップリング反応を用いる方法が注目されており、近年活発に研究され、すでに工業化もされている(非特許文献2〜4参照)。
【化4】

【0008】
この反応に用いる触媒としては、下記の各式に示すように、従来から種々のものが開発されている。
【化5】

【0009】
従来から存在した多くの触媒は、触媒活性は優れているが、高温、高圧などの厳しい条件下で反応を行わなければならないものが多い。また、塩基などの共触媒と共に用いるもの、ジメチルホルムアミド(DMF)などの極性有機溶媒と共に用いるものが多く、これらは上記「グリーンケミストリー」の点から好ましくない。
【0010】
また、ホスホニウム塩を担体に固定化した固定化触媒がある(非特許文献5参照)。その一例として、シリカゲルにプロピル鎖で固定化されたハロゲン化(塩素、臭素、ヨウ素)トリブチルホスホニウムが挙げられる。これはシリカゲルの末端に塩素または臭素が結合したプロピル鎖が共有結合で固定された市販の担体を使用しており、その固定化の条件は過酷である。そして、トリブチルホスフィンは極めて酸化され易いため、アルゴン中で扱う必要があり、反応条件も110℃で7日間を要している。また、炭酸化の反応は、100気圧下で行っているが、ヨウ化ホスホニウムだけが良い収率を示しているため、最初に生成した塩素化トリブチルホスホニウムを対応するヨウ素化物へKIを用いてイオン交換する必要があった。
【0011】
本願の発明者は、上記従来の問題に鑑み、簡単に調製でき、従来よりも低温(具体的には100℃以下)・低圧(具体的には10気圧以下)の条件下にて反応させることが可能であり、溶媒と共に用いる必要がなく、再利用性に優れ(具体的には10回以上)、非金属系であるという条件を満たす触媒について、ホスホニウム塩に着目して鋭意開発を行ってきた(非特許文献1参照)。具体的には、様々な置換基を有するリン化合物と3−ブロモプロピルトリエトキシシランから臭化ホスホニウム部(ホスホニウムブロミド)を有する触媒架橋剤を合成し、それをシリカゲルやセラミックスなどの多孔質担体に架橋させて固定化した触媒である。
【0012】
本願発明は、上記条件を満たすものであって、しかも触媒活性の高い触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に係る発明は、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法において、下記の式で表された三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基とされたリン化合物と、3−ブロモプロピルトリエトキシシランと、をアセトニトリル中で合成して単離したことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【化1】

【0014】
また、本願の請求項2に係る発明は、上記のアルキル基が、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、から選択された一つであることを特徴とする、請求項1に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【0015】
また、本願の請求項3に係る発明は、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法において、下記の式で表された三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基とされ、当該フェニル基各々の4位に電子求引性あるいは電子供与性の置換基を有するリン化合物と、3−ブロモプロピルトリエトキシシランと、をアセトニトリル中で合成して単離したことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【化1】

【0016】
また、本願の請求項4に係る発明は、上記フェニル基各々の4位に存在する、電子求引性あるいは電子供与性の置換基が、水素原子、フッ素原子、メチル基、から選択された一つであることを特徴とする、請求項3に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法を提供する。
【0017】
また、本願の請求項5に係る発明は、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法において、請求項1〜4のいずれかに記載された製造方法で得た触媒架橋剤を多孔質担体に架橋させ、下記の式で表されるように固定することを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法を提供する。
【化2】

【0018】
また、本願の請求項6に係る発明は、上記多孔質担体が、セラミックス、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ゼオライト、から選択された一つであることを特徴とする、請求項5に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法を提供する。
【0019】
また、本願の請求項7に係る発明は、下記の式で表された、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤であって、臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基であることを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤を提供する。
【化3】

【0020】
また、本願の請求項8に係る発明は、上記のアルキル基が、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、から選択された一つであることを特徴とする、請求項7に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤を提供する。
【0021】
また、本願の請求項9に係る発明は、下記の式で表された、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤であって、臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基であって、当該フェニル基各々の4位がフッ素原子あるいはメチル基に置換されたことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤を提供する。
【化3】

【0022】
また、本願の請求項10に係る発明は、下記の式で表された、多孔質担体に臭化ホスホニウム部を架橋させてなる、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒であって、臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基であることを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒を提供する。
【化2】

【0023】
また、本願の請求項11に係る発明は、上記のアルキル基が、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、から選択された一つであることを特徴とする、請求項10に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒を提供する。
【0024】
また、本願の請求項12に係る発明は、下記の式で表された、多孔質担体に臭化ホスホニウム部を架橋させてなる、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒であって、臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基であって、当該フェニル基各々の4位がフッ素原子あるいはメチル基に置換されたことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒を提供する。
【化2】

【0025】
また、本願の請求項13に係る発明は、上記多孔質担体が、セラミックス、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ゼオライト、から選択された一つであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本願発明は、簡単に調製でき、低温(100℃以下)・低圧(10気圧以下)の条件下にて反応させることが可能であり、溶媒を用いることがなく、再利用性に優れ(10回以上)、しかも触媒活性が高い非金属系の触媒を提供できたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本願発明に係る触媒の基本的な構造は、下記の式で表されたように、多孔質担体に臭化ホスホニウム部を架橋させてなるものである。臭化ホスホニウム部には三つの置換基(R〜R)が存在する。
【化2】

【0028】
下記の式に示されるようにして、ジメチルホルムアミド(DMF)あるいはアセトニトリル中で、上記三つの置換基(R〜R)を有するリン化合物と3−ブロモプロピルトリエトキシシランとから、触媒架橋剤を合成する。なお、この合成は、アセトニトリル中で行うと、単離した状態の触媒架橋剤が得られるため有利である。式中の記号「Et」はエチル基を意味している。また、式中の「TypeA」は下記の実施形態1a〜1eに対応し、同「TypeB」は下記の実施形態2a〜2cに対応している。
【0029】
このようして合成された触媒架橋剤は空気中でも安定しており、ホスホニウム塩への反応が容易である。よって、触媒の調製が従来よりも容易である。
【化6】

【0030】
なお、上記ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた触媒架橋剤の合成方法は、非特許文献1に係る学会(日本化学会第86春季年会)にて本願の発明者が発表したことにより既に公知になっている。しかしながらこの方法では、純粋に単離した状態の触媒架橋剤を得ることができず、DMFの溶媒中でスペクトルで確認し、そのまま担体への固定化を行っていた。これに対して本願では、アセトニトリルを用いて触媒架橋剤の合成をすることにより、不定形固体または粘性の高い液体として、純粋に単離した触媒架橋剤を得ることができるようになった。
【0031】
そして、多孔質担体に上記の触媒架橋剤を架橋させて固定化した。下記の実施形態においては、この多孔質担体として、東洋電化工業株式会社製のカオリナイト系多孔質セラミックス「トヨナイト」(登録商標)、あるいは多孔質シリカゲルを用いた。なお、この際の架橋率は担体1gに対して0.20mmolとした。
【0032】
この際に用いた各担体の構造を下記に示す。下記の実施形態1a〜1e、2a〜2cに用いた各担体の性状は、セラミックスについては粒径が155±15μmで細孔径が75
nm、シリカゲルについては粒径が110μmで細孔径が20nmである。そして固定化処理については、セラミックス担体については40℃のトルエン中で12時間の処理を行い、シリカゲル担体については80℃のトルエン中で48時間の処理を行った。
【化7】

【化8】

【0033】
このようにして担体に臭化ホスホニウム部を架橋させ、本願発明に係る触媒が調製される。なお、多孔質担体としては、上記に挙げたセラミックスやシリカゲルの他に、メソポーラスシリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ゼオライトが例示できる。
【0034】
臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基については、具体的に下記八つの実施形態が挙げられる。
【0035】
まず、リン上における三つの置換基のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基であるものとして下記五つの実施形態が挙げられる。
【0036】
実施形態1aは、下記の式に表されるように、上記アルキル基がイソプロピル基であるものである。
【化9】

【0037】
実施形態1bは、下記の式に表されるように、上記アルキル基がノルマルブチル基であるものである。
【化10】

【0038】
実施形態1cは、下記の式に表されるように、上記アルキル基がイソブチル基であるものである。
【化11】

【0039】
実施形態1dは、下記の式に表されるように、上記アルキル基がシクロヘキル基であるものである。
【化12】

【0040】
実施形態1eは、下記の式に表されるように、上記アルキル基がノルマルオクチル基であるものである。
【化13】

【0041】
次に、リン上における三つの置換基が全てフェニル基であって、当該フェニル基各々の4位に電子求引性及び電気供与性を有する置換基を有するものとして下記三つの実施形態が挙げられる。
【0042】
実施形態2aは、下記の式に表されるように、フェニル基各々の4位が水素原子であるもの、言い換えると、フェニル基各々の4位が置換されていないものである。
【化14】

【0043】
実施形態2bは、下記の式に表されるように、フェニル基各々の4位がフッ素原子に置換されたものである。
【化15】

【0044】
実施形態2cは、下記の式に表されるように、フェニル基各々の4位がメチル基に置換されたものである。
【化16】

【0045】
ここで、本願発明に係る触媒の働くメカニズムについて表1及び表2と共に説明する。
【0046】
まず、セラミックス担体の触媒による反応機構では、担体上の水酸基の酸性度が低い(pKa値が大きい)ために、初めにリン陽イオン部位とエポキシド上の酸素原子が相互作用を及ぼし、エポキシドが捕捉および活性化される(表1の左端に図示)。続いて、エポキシドの立体障害の小さい方の炭素を臭素陰イオンが求核攻撃することでエポキシドが開環する。その結果、ブロモヒドリンが生成し、その酸素陰イオンは再びリン陽イオンによって捕捉される(表1の中央上側に図示)。次に、酸素陰イオンと二酸化炭素の反応により二酸化炭素の挿入反応が起こり、生成した中間体上の酸素陰イオンが求核攻撃をして臭素が脱離して環を巻くことで環状炭酸エステルが生成する(表1の右端に図示)。そして再びリン陽イオンが生成し触媒が再生する(表1の中央下側に図示)。
【表1】

【0047】
次に、シリカゲル担体の触媒による反応機構では、担体上の水酸基の酸性度が高い(pKa値が小さい)ので、担体上の水酸基の水素原子とエポキシドの酸素原子の水素結合によってエポキシドが捕捉され、同時に活性化される(表2の左端に図示)。続いて、エポキシドの立体障害の小さい方の炭素を臭素陰イオンが求核攻撃することでエポキシドが開環する。しかし、次の過程では上記セラミックス担体の場合と異なり、担体(シリカゲル)上の水酸基によって酸素陰イオンが捕捉される(表2の中央上側に図示)。その後は上記セラミックス担体の場合と同様に二酸化炭素の挿入反応が起こり、酸素陰イオンの求核攻撃、臭素の脱離による閉環反応を通じて環状炭酸エステルが生成し、同様に触媒も再生する(表2の中央下側に図示)。
【表2】

【0048】
なお、上記の「pKa値」とは、プロトン(水素イオン)の引き抜きやすさを示す指標値のことである。つまり、pKa値が小さい方がプロトンの酸性度が高く、pKaの値が大きい方がプロトンの酸性度が低い。セラミックスとシリカゲルでは、表面の水酸基の酸性度はシリカゲルのほうが高く、そのためエポキシの酸素と水素との水素結合によりエポキシ間が活性化されやすいと考えられる。pKa値が大きい方のセラミックスは酸性度が低く、水素結合による活性化が小さいため、リン陽イオンにより、エポキシが活性化されるものと考えられる。
【0049】
上記のようにして調製した各触媒を用いて、下記の式で表されるように二酸化炭素雰囲気中で実際にエポキシド(1,2−エポキシヘキサン)を反応させ、環状炭酸エステル(4−ブチル−1,3−ジオキソラン−2−オン)を得る実験を行なった。
【化17】

【0050】
実験内容を、実施形態2c(フェニル基各々の4位がメチル基に置換されたもの)を例にとり具体的に説明する。まず、触媒架橋剤の合成手順について説明する。10ml二つ口反応にトリス(パラメトキシフェニル)ホスフィン1.00mmolを加えて予備乾燥、窒素置換を行った。続いて乾燥アセトニトリル2.0ml、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン1.00mmolを加えて24時間還流し、放冷後、1H、31P NMRで目的物を確認した。そして溶媒留去、真空乾燥して粗生成物を得た。続いて未反応物を除去するために30mlのナスフラスコに前記粗生成物とジエチルエーテルを加え、3時間撹拌した。これを吸引ろ過することで分離し、得られた固体を真空乾燥してそれを1H、31P NMR測定により、純粋であることを確認した。
【0051】
次に、触媒の固定化の手順について説明する。まず、200mlのスリ付きナスフラスコに担体5.00gを入れ、続いてトルエン40mlを加えた。次に、上記のようにして合成された触媒架橋剤1.00mmolをジメチルホルムアミド(DMF)2.0mlに溶かして反応器の中に入れ、セラミックス担体の場合では40 ℃で12時間、シリカゲル担体の場合は80℃で48時間撹拌することで固定化した。その後、固定化された触媒をアセトン及びジエチルエーテルでよく洗浄し、3時間以上真空乾燥させて以下の実験に供した。
【0052】
次に反応実験の手順について説明する。撹拌子を入れた50mlのスチール製オートクレーブに触媒を0.58g加え、次に1,2−エポキシヘキサンを1.2ml(10mmol)加えた。触媒の量は、触媒中の触媒活性部位である臭化ホスホニウム部(ホスホニウムブロミド)のエポキシドに対するmol%量で1.0mol%に相当する。その後、二酸化炭素の圧力を1.0MPa(10気圧) にしてあらかじめ加熱していたオイルバスにつけ、90℃で6時間、加熱・撹拌した。加熱・撹拌終了後、オートクレーブを氷浴下で30分冷却し、ジエチルエーテルを加えて反応物を溶出させ、続いて吸引ろ過を行い触媒を分離し、そのろ液を1H NMRまたはガスクロマトグラフィーで解析し、この物質中における各成分のピークの積分値の割合から生成物である環状炭酸エステルの量を割り出し、触媒活性(変換率)を算出した。実験は3回行い、平均値を触媒活性(変換率)と決定した。
【0053】
また、比較例として、下記の式で表されたものであり、実施形態2aに対応した、まだ固定化させていない状態(担体なし)の触媒架橋剤をそのまま用いて、上記と同条件で実験した。
【化18】

【0054】
上記の各実施形態に係る各触媒毎の触媒活性(変換率)は表3に示す通りであった。各実施形態の触媒活性(変換率)は、固定化していない状態の比較例に比べ高いものであった。
【表3】

【0055】
ここで、全体としては、シリカゲルを担体に用いた方が触媒活性が高い傾向にあり、6時間程度で反応が完結したことが確認できた。なお、セラミックスを担体に用いた場合は、下記表4に示すように、同一経過時における触媒活性がシリカゲル担体の場合よりも低く、6時間経過時点でも反応は完結していなかった。
【表4】

【0056】
また、セラミックスを担体に用いた場合における上記実施形態1a〜1eの中では、アルキル基の炭素数や立体障害が大きい実施形態1d及び1eの触媒活性が高い傾向にあった。
【0057】
また、上記の実施形態2a〜2cの中では、フェニル基各々の4位が水素原子である実施形態2aが最も触媒活性が高かった。
【0058】
次に、上記と異なるエポキシドについて、実施形態2aのうちシリカゲル担体のものを用いて、上記と反応時間以外の条件を同一にして行った。反応時間については制限を設けず、反応が完結するまで実験した。
【0059】
実験に供したエポキシドは、置換基(R)が電子供与性であるメチル基(表中のNo.2)、フェニル基(同No.3)、メトキシメチル基(同No.4)、電子求引性であるクロロメチル基(同No.5)、そして環状エポキシド(同No.6)とした。
【0060】
その結果、エポキシドの置換基(R)が電子供与性のものの方が短時間で高い収率を示した。逆に、置換基が電子吸引性のものや両端に置換基が付いているものは長い反応時間が必要だった。これはエポキシド上の酸素の電子密度が高いほうがホスホニウム塩との反応性が高いことを示している。そして、環状エポキシドを除いては有効な触媒活性を発揮することが確認できた。
【表5】

【0061】
また、この触媒の再利用性に関して、実施形態2aのうちシリカゲル担体のものを用いて、二酸化炭素雰囲気中で1,2−エポキシヘキサンを反応させる実験を行なった。この際における反応温度は90℃、二酸化炭素の圧力は1.0MPaとした。触媒の量は1.0
mol%とし、その条件下において7時間反応させる実験を繰り返し行なった。
【0062】
表6に示すように、10回繰り返して触媒を使用しても触媒活性97%以上を保つことが確認できた。また、途中でアルコール体のような副生成物もほとんど確認されなかった。10回以上使用してこれほどの活性を保っている触媒は従来ほとんどなく、本願発明に係る触媒が再利用性についても優れることが確認できた。
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法において、
下記の式で表された三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基とされたリン化合物と、
3−ブロモプロピルトリエトキシシランと、
をアセトニトリル中で合成して単離したことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法。
【化1】

【請求項2】
上記のアルキル基が、
イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項1に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法。
【請求項3】
二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法において、
下記の式で表された三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基とされ、当該フェニル基各々の4位に電子求引性あるいは電子供与性の置換基を有するリン化合物と、
3−ブロモプロピルトリエトキシシランと、
をアセトニトリル中で合成して単離したことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法。
【化1】

【請求項4】
上記フェニル基各々の4位に存在する、電子求引性あるいは電子供与性の置換基が、
水素原子、フッ素原子、メチル基、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項3に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤の製造方法。
【請求項5】
二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法において、
請求項1〜4のいずれかに記載された製造方法で得た触媒架橋剤を多孔質担体に架橋させ、下記の式で表されるように固定することを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法。
【化2】

【請求項6】
上記多孔質担体が、
セラミックス、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ゼオライト、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項5に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒の製造方法。
【請求項7】
下記の式で表された、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤であって、
臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基であることを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤。
【化3】

【請求項8】
上記のアルキル基が、
イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項7に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤。
【請求項9】
下記の式で表された、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤であって、
臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基であって、当該フェニル基各々の4位がフッ素原子あるいはメチル基に置換されたことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒に用いる触媒架橋剤。
【化3】

【請求項10】
下記の式で表された、多孔質担体に臭化ホスホニウム部を架橋させてなる、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒であって、
臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)のうち、二つがフェニル基で一つがアルキル基であることを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒。
【化2】

【請求項11】
上記のアルキル基が、
イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、シクロヘキル基、ノルマルオクチル基、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項10に記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒。
【請求項12】
下記の式で表された、多孔質担体に臭化ホスホニウム部を架橋させてなる、二酸化炭素とエポキシ化合物とのカップリング反応による環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒であって、
臭化ホスホニウム部のリン上における三つの置換基(R〜R)が全てフェニル基であって、当該フェニル基各々の4位がフッ素原子あるいはメチル基に置換されたことを特徴とする、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒。
【化2】

【請求項13】
上記多孔質担体が、
セラミックス、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、アルミナ、多孔質ガラス、ゼオライト、
から選択された一つであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の、環状炭酸エステルの合成のための固定化触媒。

【公開番号】特開2008−296066(P2008−296066A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141257(P2007−141257)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人 日本化学会 第87春季年会係発行の「日本化学会第87春季年会 2007年 講演予稿集1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月25日 社団法人 日本化学会主催の「日本化学会第87春季年会」に文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構 地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム『シーズ発掘試験』に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】