説明

生体光計測装置およびそれに用いる被検体装着具

【課題】光による計測装置で、被検体の広い領域を計測し、かつ、被検体毎に形状の差異がある場合においても容易に対応可能な光計測装置を提供する。
【解決手段】被検体頭部に光を照射する送光ファイバと、前記被検体頭部に照射された光を受光する受光ファイバと、当該送光ファイバと受光ファイバとの間の距離が一定となるように、辺の長さが一定である複数の四角形から構成され、当該四角形の辺の端部に前記送光ファイバまたは前記受光ファイバを保持する保持部を有する生体光計測装置において、前記保持部22により各辺23が回転可能な構造をもっており、前記四角形を変形させることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱体内部の情報、特に生体内部の情報を光を用いて画像計測する光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内部の血液循環・血行動態及び酸素代謝を、簡便に、被検体(被験者)に対して低拘束で生体に害を与えずに(無侵襲)計測する装置が臨床医学及び脳科学などの分野で大いに望まれている。例えば、頭部を計測対象とすると、脳梗塞・脳内出血・痴呆症などの脳疾患、さらには思考・言語・運動などの高次脳機能の計測などが具体的なニーズとして挙げられる。また、このような計測対象は頭部に限らず、胸部では心筋梗塞などの心臓疾患、腹部では腎臓・肝臓などの内臓疾患に対する予防診断が、さらには手足の筋肉における酸素代謝計測なども挙げることができる。
【0003】
ここで、計測対象を頭部として考えた場合、脳内の疾患もしくは高次脳機能の計測において、疾患部または脳機能領域を明確に特定する必要がある。そのためには、頭部の画像計測が重要となる。もちろん、この画像計測の重要性は、頭部だけに限らず胸部、腹部等についても言えることである。
【0004】
この重要性を示す例としては、脳機能の画像計測装置として、ポジトロンエミッション断層像撮影装置(PET)および機能的核磁気共鳴断層像撮影装置(fMRI)および脳磁場計測装置(MEG)が現在広く用いられている状況を挙げることができる。これらの装置は、脳内の活動領域を画像として計測可能であるが、一方、装置が大型でその扱いが非常に煩雑になる。例えば、これらの装置の設置には専用の大きな部屋が必要となり、もちろん装置を他の部屋に頻繁に移動させることは現実的に困難である。さらに、計測中、被験者は装置内部で固定姿勢を長時間強いられるため、被験者に対する拘束性は非常に高い。また、装置の保守管理を行う専任者も必要になる。
【0005】
一方、生体内部の血液循環・血行動態及び酸素代謝を、簡便に、被験者に対して低拘束で生体に害を与えずに(無侵襲)計測する方法として、光計測は非常に有効な手段である。その第1の理由は、生体の血液循環と酸素代謝は、生体中の特定色素(ヘモグロビン、チトクローム、ミオグロビン等)の濃度及び濃度変化に対応し、これらの色素濃度は、可視から赤外領域の波長の光吸収量から求められることが挙げられる。この血液循環及び酸素代謝は、生体内器官の正常及び異常、さらには高次脳機能に関する脳の活性化に対応している。
【0006】
また、光計測が有効である第2の理由としては、半導体レーザ・発光ダイオード及びフォトダイオード関連技術により、装置の小型・簡便化が実現できることが挙げられる。さらに、柔軟性の高い光ファイバを計測に利用することで、計測中における頭部固定が不要となり、被験者への拘束性が非常に小さくなる。さらに第3の理由として、安全基準範囲内の光強度により生体に害を与えないことが挙げられる。また、これらの特徴以外にも、実時間計測及び生体中の色素濃度定量化など、前述のPET、fMRI、MEGには無い利点を光計測は有している。
【0007】
このような光計測の利点を利用して、可視から赤外領域の波長の光を生体に照射し、生体から反射された光を検出することで生体内部を計測する装置が、例えば、特開昭57−115232号公報、あるいは特開昭63−275323号公報に記載されている。さらに、光計測により生体を画像化する装置が、特開平7−79935号公報、特開平9−19408号公報、及び特開平9−149903号公報に記載されている。
【0008】
また、この光を用いた生体の画像計測の有用性は、例えば、アツシ・マキ(Atsushi Maki)他による「無侵襲近赤外光トポグラフィによるヒト脳活動の時空間解析(Spatial and temporal analysis of human motor activity using noninvasive NIR topography)」、1995年、メディカルフィジックス、第22巻、第1997〜2005頁(Medical physics、22、1997(1995))に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−115232号公報
【特許文献2】特開昭63−275323号公報
【特許文献3】特開平7−79935号公報
【特許文献4】特開平9−19408号公報
【特許文献5】特開平9−149903号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】アツシ・マキ(Atsushi Maki)他;「無侵襲近赤外光トポグラフィによるヒト脳活動の時空間解析(Spatial and temporal analysis of human motor activity using noninvasive NIR topography)」、1995年、メディカルフィジックス、第22巻、第1997〜2005頁(Medical physics、22、1997(1995))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光による生体の無侵襲画像計測では、被検体の複数部位での光照射及び複数部位からの光検出が不可欠である。このような計測を現実的に可能にするためには、多数の光ファイバによる光照射および光検出が有効である。
【0012】
この計測については、前述した、特開平9−19408号公報、特開平9−149903号公報、及びメディカルフィジックス引用文献において、光を用いて生体を無侵襲に画像化するために、被検体における光ファイバの効率的かつ具体的な配置方法が開示されている。この方法によれば、図2に示されるように、例えば、頭部において一辺が6cmの正方形面の計測には、4個所の照射位置(図中、●印で示す。)それぞれに照射用の光ファイバが4本、5個所の検出位置(図中、○印で示す。)それぞれに検出用の光ファイバが5本、合計9本の光ファイバが用いられている。
【0013】
成人頭部の場合、隣接する照射及び検出位置間隔を3cmに設定すると、各検出位置で検出された光は、皮膚、頭蓋骨を通過して大脳の情報を有していることが、例えば、ピィー・ダブル・マコーミック(P. W. McCormic)他による「赤外光の大脳内部の浸透(Intracerebral penetration of infrared light)」、1992年、ジャーナルオブニューロサージェリ、第76巻、第315〜318頁(J. Neurosurg.、33、315(1992))により報告されている。
【0014】
また、照射・検出位置の中点直下の近傍で、頭の深部、例えば、頭皮や頭蓋骨の内側に位置する大脳皮質の計測感度が最大になることが、例えば、エヌ・シー・ブルース(N. C. Bruce)による「高散乱媒体中の吸収透過含有物による効果の実験的研究(Experimental study of the effect of absorbing and transmitting inclusions in highly scattering media)」、1994年、アプライドオプティクス、第33巻、第6692〜6698頁(Appl. Opt.、33、6692(1994))に報告されている。
【0015】
そのため、ここでは隣接する照射・検出位置の中点を計測位置としており、従って、合計12箇所の計測位置(図2中、□印で示す。)が設定されている。
【0016】
臨床医学や脳科学などでは、大脳の広い領域において脳の活動を計測することが望まれている。例えば、図2に示されている照射位置および検出位置の配置方法を応用して、さらに一辺が12cmの正方形面を計測には、図3に示すように照射位置が12個所(照射光ファイバ12本)、検出位置が13個所(検出光ファイバ13本)、合計25の光照射・検出位置において25本の光ファイバが必要となる。さらに計測領域を拡大し、頭部の広い領域を計測しようとすれば、光照射・検出位置が合計100個所以上になることが予想される。
【0017】
しかし、このように頭部の広い領域を光で画像計測する場合は、従来の技術では、多数の光照射・検出位置配置すなわち光ファイバ配置について課題が生じる。
【0018】
この課題の困難さは、脳機能を画像化する類似技術である脳磁場計測装置(MEG)と比較すると容易に理解できる。このMEGでは、頭部の広い表面状に多数の磁場センサを配置することで頭部を画像計測している。このMEGの場合、100本以上の多くのセンサが頭部に配置されることがあるが、これらセンサはすべて脳の内部から生じる磁場信号の検出用のセンサである。そのため、基本的には1種類のセンサを、頭部に多数密度高く配置することで対応できるため、比較的簡単に広い領域の計測が実現される。
【0019】
一方、光計測では、光を照射する位置に照射用光ファイバを、光を検出する位置に検出用光ファイバを配置する。そのため、上記のMEGと異なり、照射・検出の2種類の、それぞれに役割の異なる光ファイバを配置する必要がある。さらに、効率的に光ファイバを被検体に配置するために、これら照射・検出光ファイバを格子状に交互配置することが必要である。さらに、成人で頭皮上から大脳を計測する場合、照射と検出位置が前述のように30mm程度離れていることも必要とされる。
【0020】
この照射と検出位置の距離にバラツキがある場合、複数の計測位置ごとに検出信号感度が変化することになる。これは、照射位置に対して検出位置の距離が変化すると生体内での光伝播特性が異なり、その結果、脳内での光伝播の分布などが異なるためである。従って、各計測位置で、脳内の検出感度を全ての計測位置においてある一定範囲にするためには、複数の照射・検出光ファイバを頭部に配置する際に照射・検出位置間の距離を一定にする必要がある。
【0021】
このように、光計測では照射・検出位置の配置について上記の条件が課せられていることになる。
【0022】
さらに、生体表面、例えば、頭部表面は、円柱や球や回転楕円体でも無く、複雑な形状をしており、複雑な三次元形状を有しているといえる。また、個人によってその形状が幾分異なっている。このような複雑な形状により、頭部全域に格子配置を実現することは困難となる。
【0023】
この困難と従来技術との関係について述べると、例えば、特開平9−149903号公報に記載されている方法では、頭部全域を計測するヘルメット形状のプローブ(光ファイバの被検体装着具)に、あらかじめ光照射および光検出用の光ファイバを配置する位置を近似的に格子状に設定している。この位置に、光ファイバを保持して被検体に光を照射する光ファイバ保持部を設定している。
【0024】
しかし、ある被検体に対してこのプローブ全体の装着フィット感が実現されていても、同じプローブを他の被検体に用いた場合、形状の個人差により、フィット感が乏しくなることがある。その場合、プローブと被検体との間に広い隙間が生じれば、実際に光ファイバが被検体に接触する部位が、プローブ上の光ファイバ位置と異なり、その結果、照射・検出位置のバラツキが生じてしまうことになる。
【0025】
また、一方、プローブが被検体に対して小さい場合、プローブの装着自体が困難となる。このように、この従来技術では、異なる被検体間で使用可能な格子形状のプローブの柔軟性は考慮されていない。
【0026】
また、特開平9−28696号に記載されているプローブ構造では、格子を形成する一つの基本的な単位でプローブがモジュール化されている。このモジュールを組み合わし、複数のモジュールを頭部に配置することで、複雑な形状に対しても比較的適応可能となっている。この方法を例えるなら、タイルを頭部表面に複数個配置することの類推と言える。しかし、この場合では正確な格子形状を基本単位としており、この単位的な格子形状自体の柔軟な対応は考慮されていない。このひとつのモジュールの大きさは、現実的には一辺が40〜50cm程度になるため、頭部表面の広い領域を正確な格子形状でカバーすることは、現実的には難しい。
【0027】
そこで、本発明の目的は、光による画像計測装置で、生体の広い領域を計測し、かつ、被検体の個人差による形状の差異においても容易に対応可能で、より正確な画像計測が可能となる光計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上述のように従来の技術では、被検体に光を照射し、また被検体から光を検出する光ファイバを、被検体表面に比較的正確な格子形状で配置している。さらに、この格子形状は固定化されている。
【0029】
そこで、本発明では、格子形状を基本としつつも、格子間隔すなわち光ファイバ間隔がある所定の範囲で伸縮性を有し、また、この格子自体がある所定の範囲で変形性すなわち歪みを生じる機構を手段として用いる。この機構は、被検体に応じて被検体表面における光ファイバなどの配置状態が変化することに等しい。
【0030】
この機構を実現するために、各光ファイバが保持されている保持部を、互いに所定の範囲内で伸縮性を示す機構を有する連結部で連結する。さらにこの連結部は、ある所定の角度内で回転可変性とする。
【0031】
この手段を用いることにより、光による画像計測装置で、生体の広い領域を計測し、なおかつ、被検体の個人差による形状の差異においても容易に対応可能で、より正確な画像計測が可能な装置が実現する。
【0032】
このように、本発明は、被検体の複数部位に光を照射する照射手段と、被検体内部を通過した光を被検体の複数部位で検出する検出手段とを具備するプローブを用いて、被検体内部を計測するようにした光計測装置において、前記プローブは、被検体の形状に応じて、被検体の複数部位における照射手段および検出手段の配置状態を変化し得る機構を具備してなることを特徴とする。
【0033】
また、本発明は、可視から赤外領域における波長の光を、三次元形状の被検体表面の複数部位に照射する照射手段と、被検体内部を通過した光を被検体表面の複数部位で検出する検出手段とを備えたプローブを用いて、被検体内部を計測する光計測装置において、前記プローブは、被検体の複数部位での照射手段および検出手段を伸縮性の機構で連結せしめることにより、被検体の表面形状に対応し得るよう構成されていることを特徴とする。
【0034】
また、本発明は、前記構成において、プローブは、被検体の複数部位での照射手段および検出手段間を連結する機構が所定の範囲内で回転可変性を有することを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、前記構成において、被検体の複数部位の照射手段と複数部位の検出手段とが格子状に配置されていることを特徴とする。
【0036】
さらに、本発明は、可視から赤外領域における波長の光を、三次元形状の被検体表面の複数部位に照射し、被検体内部を通過した光を被検体表面の複数部位で検出することで被検体の内部を計測し、計測した被検体内部を画像化してその画像を表示するようにした光計測装置において、前記複数照射部位からの光照射手段および前記複数検出部位からの光検出手段として複数の光ファイバを用いてなり、かつ、各光ファイバは、光ファイバを保持する光ファイバ保持部により前記被検体表面に配置され、各光ファイバ保持部は、互いに所定の範囲内で伸縮性と回転可変性を有する連結部で連結されてなることを特徴とする。
【0037】
さらにまた、本発明は、可視から赤外領域における波長の光を、三次元形状の被検体表面の複数部位に照射し、被検体内部を通過した光を被検体表面の複数部位で検出することで被検体の内部を計測し、計測した被検体内部を画像化してその画像を表示するようにした光計測装置において、前記複数照射部位からの光照射手段および前記複数検出部位からの光検出手段として複数の光ファイバを用いてなり、かつ、各光ファイバは、光ファイバを保持する光ファイバ保持部により前記被検体表面に配置され、各光ファイバ保持部は、伸縮性及び変形性を有するシートに配置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、光による画像計測装置で、生体の広い領域を計測し、なおかつ、被検体の個人差による形状の差異においても容易に対応可能で、より正確な画像計測が可能な装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例によるプローブ構造の例を示す図。
【図2】12チャンネル計測に対する照射位置および検出位置の配置例を示す図。
【図3】40チャンネル計測に対する照射位置および検出位置の配置例を示す図。
【図4】本発明の第1の実施例における光計測装置の基本構成を示すブロック図。
【図5】第1の実施例における光モジュール内の構成例を示す図。
【図6】第1の実施例における光ファイバ先端の構造を示す図。
【図7】第1の実施例における光ファイバ保持部の構造を示す図。
【図8】第1の実施例における連結部の構造を示す図。
【図9】第1の実施例における光ファイバ保持部と連結部との結合状態を示す図。
【図10】第1の実施例における頭部光ファイバ保持部配置を示す図。
【図11】図10におけるプローブ展開の一例を示す図。
【図12】第1の実施例における計測画像表示の例を示す図。
【図13】本発明の第2の実施例におけるプローブ基盤の構造を示す図。
【図14】第2の実施例における光ファイバ保持部の構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(実施例1)
図4は、本発明の第1の実施例における光計測装置を示す構成図である。本実施例では、例えば、頭皮上から光を照射・検出することにより大脳内部を画像化する実施形態を示す。本発明は、計測対象として頭部に限らず、他の部位、さらには生体以外の液体、固体、気体などにも実施可能である。
【0041】
光源部1は、複数の光モジュール2−1から2−nで構成されている。各光モジュールは、可視から赤外の波長領域中で複数の波長、例えば、780nm及び830nmの2波長の光をそれぞれ放射する2個の半導体レーザから構成されている。これらの2波長の値は、780nmと830nmに限定されるものではなく、また、波長数も2波長に限定されるものではない。この光源部1については、半導体レーザの代わりに発光ダイオードを用いてもよい。この光源部1に含まれる全ての半導体レーザは、発振周波数の異なる複数の発振器で構成されている発振器アレイ25により、それぞれ発光する光強度が変調される。
【0042】
ここで、光モジュール内の構成を、光モジュール2−1を例にして図5で説明する。光モジュール2−1内には、半導体レーザ3−1(a)、3−1(b)、及びこれら半導体レーザの駆動回路4−1(a)、4−(b)、が含まれている。ここで、括弧内の文字のa、bはそれぞれ波長780nm、830nmを表す記号を示している。
【0043】
これらの半導体レーザ駆動回路4−1(a)、4−2(b)では、半導体レーザ3−1(a)、3−1(b)に対して直流バイアス電流を印加すると共に、発振器アレイ25によりそれぞれ異なる変調周波数f(1、a)、f(1、b)もそれぞれ印加することで、半導体レーザ3−1(a)、3−1(b)から放射される光に変調を与える。この変調として、本実施例では正弦波によるアナログ変調の場合を示すが、もちろん、それぞれ異なる時間間隔の矩形波によるデジタル変調を用いてもよい。
【0044】
これらの光は、それぞれの半導体レーザごとに集光レンズ5により光ファイバ6に個々に導入される。個々の光ファイバに導入された二波長の光は、各光モジュールごとに光ファイバ結合器7により1本の光ファイバ、例えば、照射用光ファイバ8−1内に導入される。各光モジュールごとに、二波長の光が照射用光ファイバ8−1から8−n内に導入される。
【0045】
これらの光ファイバの構造を、照射用光ファイバ8−1を例にして図6に示す。照射用光ファイバ8−1の先端には、光ファイバカバー31を取り付けている。これらの照射用光ファイバから被検体9へプローブ21を利用して光を照射する。被検体表面には、複数の照射用光ファイバ8−1から8−nが配置されており、被検体9の表面上の異なる照射位置から光が照射される。被検体から反射された光は、被検体表面上の検出位置にプローブ21を利用して配置されている検出用光ファイバ10−1〜10−mで捉えられる。これら検出用光ファイバの先端にも、照射用光ファイバと同様に、光ファイバカバーを取り付けている。
【0046】
それぞれの検出用光ファイバ10−1〜10−mで捉えられた反射光は、検出用光ファイバ毎に独立にm個の光検出器、例えば、フォトダイオード11−1〜11−mで検出する。このフォトダイオードとしては、高感度な光計測が実現できるアバランシェフォトダイオードが望ましい。もちろん、光検出器として光電子増倍管を用いてもよい。
【0047】
これらのフォトダイオードで光信号が電気信号に変換された後、変調信号の選択的な検出回路、例えば複数のロックインアンプから構成されるロックインアンプモジュール12で、照射位置かつ波長に対応した変調信号を選択的に検出する。この実施例では、アナログ変調の場合に対応する変調信号検出回路としてのロックインアンプを示しているが、デジタル変調を用いた場合、変調信号検出としてデジタルフィルターもしくはデジタルシグナルプロセッサを用いる。
【0048】
フォトダイオード11−1〜11−m、そして、ロックインアンプモジュール12の信号から、計測位置に関する変調信号の分離の具体例は、例えば、前述の特開平9−149903号公報、及びユウイチ・ヤマシタ(Yuichi Yamashita)他による「無侵襲ダイナミックオプティカルトポグラフィのための計測システム(Measurement system for noninvasive dynamic optical topography)」、1999年、ジャーナルオブバイオメディカルオプティクス、第4巻、第414〜417頁(J. Biomedical Optics、4、414(1999))に詳細に原理的な方法論が記載されている。
【0049】
この方法により、全ての計測位置及び波長に対する検出光量を同時に計測することが可能となる。これらロックインアンプモジュール12のアナログ出力信号は、アナログデジタル変換器16によりそれぞれデジタル信号に変換される。これらの計測は、制御部17により制御されている。さらに計測された信号は、記録部18で記録される。
【0050】
また、これら記録された信号は、処理部19において、各計測位置ごとに2波長の検出光量を用いて、脳活動に伴う酸素化ヘモグロビン濃度変化及び脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、さらにはこれらヘモグロビン濃度の総和としての全ヘモグロビン濃度変化を計測する。この計測方法および画像化方法としては、例えば、前述の特開平9−19408号公報、及び前述のアツシ・マキ(Atsushi Maki)他による「無侵襲近赤外光トポグラフィによるヒト脳活動の時空間解析(Spatial and temporal analysis of human motor activity using noninvasive NIR topography)」、1995年、メディカルフィジックス、第22巻、第1997〜2005頁(Medical physics、22、1997(1995))に記載されている方法を利用する。
【0051】
得られた画像は、表示部20において表示する。また、操作部24が接続され、操作部には種々の情報の入力および出力を実行したりデータの追加や削除を行うキーボードやマウス等を含む。
【0052】
ここで、この実施例におけるプローブ21としては、例えば、図1に示すような格子形状を有するものを利用する。このプローブは、光ファイバ保持部22と連結部23から基本的に構成されており、以下に示すように、形状が異なる被検体に対しても被検体表面における光ファイバ保持部の配置状態が変化する機構を有している。
【0053】
この光ファイバ保持部22の構造を図7を用いて説明する。この光ファイバ保持部22は、円筒状のホルダ本体51、固定ネジ52、連結部ジョイント53、回転ストッパー54から構成されている。このホルダ本体51の内部に光ファイバおよび光ファイバカバー31を挿入させて、被検体表面に光ファイバ端面を軽く接触させて、固定ネジ52で光ファイバカバーと光ファイバ保持部とを固定する。
【0054】
このプローブの連結部23の構造を図8に示す。この連結部は、光ファイバ保持部ジョイント61−1及び61−2、パイプ62、バネ63、伸縮ストッパー64から構成されている。光ファイバ保持部ジョイント61−1と61−2とは、このバネで結ばれている。また、光ファイバ保持部ジョイント61−1とパイプ62と伸縮ストッパー64とはお互いに接着されている。この伸縮ストッパー64は、例えば、ドーナツ状の形状で、その穴にバネ63が通過している。光ファイバ保持部ジョイント61−2は、バネ63で光ファイバ保持部ジョイント61−1と結ばれているが、光ファイバ保持部ジョイント61−1、パイプ62、伸縮ストッパー64のいずれとも接着されていない。
【0055】
また、伸縮ストッパー64は、光ファイバ保持部ジョイント61−2内部に含まれているが、光ファイバ保持部ジョイント61−2の他端には、パイプ62の外径よりは大きいが、伸縮ストッパー64の外径よりは小さい穴があいており、伸縮ストッパーが外部に外れないようにしている。
【0056】
この構造により、図8に示されているように、この連結部に何も力が加わらなければ、光ファイバ保持部ジョイント61−1と61−2とは、図8の(a)に示すように、バネの縮小により最近接距離になり、それよりも距離が短くはならない。一方、これらジョイント間にお互いに両端を引き離す力が加われば、図8の(b)に示すように、光ファイバ保持部ジョイント61−1と61−2とはある最遠距離になり、それ以上は伸縮ストッパーの機構により距離が長くならない。従って、以上の構造により、この連結部の伸縮性がある所定の範囲内に収まるように設定される。
【0057】
この連結部と光ファイバ保持部とが結びついた状態を図9に示し、(a)は側面図、(b)は上面図である。この図9では、連結部が1個所だけ結びついた状態を例として示しているが、これに限らず、光ファイバ保持部の複数箇所で連結可能である。この実施例では正方格子形状を例としているため、この例に従うと最大4個所で連結することになる。
【0058】
連結部と光ファイバ保持部とを結び付けるために、連結部ジョイント53に、光ファイバ保持部ジョイント61−1もしくは61−2を結合させる。また、この連結部は、ある所定の範囲内で角度が変化するような構造、すなわち回転可変性を有している。この構造は、図9における光ファイバ保持部において、回転ストッパー54により、ある角度以上パイプ62が回転しないようになっていることで実現できる。
【0059】
以上で述べた、伸縮性、伸縮ストッパー、回転ストッパーの構造は、この実施例で記載した構造のみに限定されるものではない。例えば、他の例として、この連結部に伸縮性のゴムを用いても良い。このように、光ファイバ間の距離がある範囲で伸縮し、かつ、連結部がある範囲内で回転可変性を有することで、被検体表面に設定する計測のための格子形状がある範囲内で変形能を有することになる。その結果、被検体の形状変化に対して柔軟性の高いプローブ構造が実現可能となる。
【0060】
ここで、光ファイバ保持部間の伸縮範囲(すなわち照射・検出光ファイバ間距離)として、27mmから33mmの間、および回転可変性の範囲として0度から30度までの変化が、成人頭部を計測対象とした場合は実用上は好ましい。もちろん、これらの数字は、計測部位や計測対象などにより変化しうるため、これらの値に制限されるものでは無い。
【0061】
この伸縮性及び回転可変性を有する構造で、成人頭部での光ファイバ配置すなわち光ファイバ保持部の配置を実際に評価した。その結果を模擬的に示したものが図10であり、(a)は斜前頭部、(b)は斜後頭部を示す。この図10から、頭部の広い領域が柔軟性高くカバーされていることが確認できる。この場合、頭部の脳表に相当する大脳皮質の全表面に対して、90%以上の領域がカバーされている。
【0062】
この図10に示されている格子配置を平面に展開したものが、図11である。この場合に要する光ファイバの総本数は102本であり、また、隣接照射・検出位置の対で定義される計測位置は179個所設定されることになる。
【0063】
本発明は、照射・検出位置配置として、この実施例で記載した正方格子状に限定されるものではなく、六角格子や五角格子との組み合わせなどにしてもよい。さらに、隣接する照射及び検出位置間隔についても3cmに限定するものではない。このような配置形状および間隔は、計測部位等に応じて適宜変化させてよい。
【0064】
また、このプローブは、基本的な構造は図1に示されている構造としても、いくつかの部分をグループとして分離させてもよい。例えば、光ファイバ25本相当部分をひとつのグループとした場合、複数のグループを被検体表面に分散させて配置しても良い。
【0065】
計測された画像の一例として、被検体頭部における血液中のヘモグロビン濃度変化を、図12に示す。表示部20において、図12に示されているように、計測部位に相当する画像上に等高線図(Topographic image)として表示する。もちろん、この等高線表示の他に、白黒濃淡画像、色彩による識別画像、または、三次元的な鳥瞰図画像などを用いても良い。
【0066】
(実施例2)
本発明の第2の実施例として、プローブ構造が、第1の実施例と異なる例を図13に示す。
【0067】
この場合、光ファイバ保持部は、プローブ基盤71、例えば、厚さ2mm程度のゴムシート上に配置される。このシートは、例えば、図13に示されているように、格子状のパターンに成型している。このシートの格子点において、光ファイバ保持部が配置される。
【0068】
この場合の光ファイバ保持部の構造は、例えば、図14に示されているように、ナットネジ81により、プローブ基盤71上に固定される。この構造により、ゴム自身の伸縮性および可塑性により、ある範囲内において、光ファイバ保持部間の伸縮性および格子形状の変形が実現できる。
【符号の説明】
【0069】
1:光源部、2−1〜2−n:光モジュール、3−1(a)〜3−1(b):半導体レーザ、4−1(a)〜4−1(b):駆動回路、5:集光レンズ、6:光ファイバ、7:光ファイバ結合器、8−1〜8−m:照射用光ファイバ、9:被検体、10−1〜10−m:検出用光ファイバ、11−1〜11−m:フォトダイオード、12:ロックインアンプモジュール、16:アナログデジタル変換器、17:制御部、18:記録部、19:処理部、20:表示部、21:プローブ、22:光ファイバ保持部、23:連結部、24:操作部、25:発振器アレイ、31:光ファイバカバー、51:ホルダ本体、52:ネジ、53:連結部ジョイント、54:回転ストッパー、61−1、61−2:光ファイバ保持部ジョイント、62:パイプ、63:バネ、64:伸縮ストッパー、71:プローブ基盤、81:ナットネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体頭部に光を照射する送光ファイバと、当該送光ファイバより前記被検体頭部に照射された光を受光する受光ファイバと、当該送光ファイバと受光ファイバとの間の距離が一定となるように、辺の長さが一定である複数の四角形から構成され、当該四角形の辺の端部に前記送光ファイバまたは前記受光ファイバを保持する保持部を有する生体光計測装置において、
前記保持部により各辺が回転可能な構造をもっており、前記四角形を変形させることが可能であることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
被検体頭部に光を照射する送光手段と、当該送光手段より前記被検体頭部に照射された光を受光する受光手段と、当該多角形の辺の各端部に前記送光手段または前記受光手段を保持する保持部を有する生体光計測装置において、
前記保持部により各辺が回転可能な構造をもっており、前記多角形を変形させることが可能であることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の生体光計測装置において、
前記四辺形の変形は、辺の可塑性によって四辺形が変形することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項4】
請求項2に記載の生体光計測装置において、
前記多角形の変形は、辺の可塑性によって多角形が変形することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項5】
被検体頭部に光を照射する送光ファイバと、当該送光ファイバより前記被検体頭部に照射された光を受光する受光ファイバと、を備える生体光計測装置に用いられる被検体装着具において、
前記送光ファイバと受光ファイバとの距離が一定となるように、辺の長さが一定である複数の四角形から構成され、当該四角形の辺の端部に前記光ファイバと受光ファイバを保持できる保持部を有し、
前記保持部により各辺が回転可能な構造をもっており、前記四角形を変形させることが可能であることを特徴とする被検体装着具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−188155(P2010−188155A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98718(P2010−98718)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【分割の表示】特願2007−25252(P2007−25252)の分割
【原出願日】平成12年11月7日(2000.11.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】