説明

生体内留置物可視化装置

【課題】生体内における生体内留置物を高解像度で可視化する。
【解決手段】生体内留置物可視化装置Aは、指向性を有するX線を発生して患者Pt(生体)に射出するX線射出装置1と、患者Ptを透過したX線を検出し、検出結果に基づいて画像データを生成して出力する高感度カメラ2と、高感度カメラ2から入力された検出結果に基づく画像データに基づいて患者Ptの内部映像を表示することにより生体内留置物を可視化する表示装置3とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内留置物可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、外科手術を施術される患者においては、開頭や開腹等における切開の範囲が広くなる程、身体的負担が大きくなってしまう。そのため、最近においては、患者の身体的負担の少ない血管内手術が行なわれている。これはカテーテルやガイドワイヤーを用いて管状器官内から所要の患部にアプローチして治療するカテーテル手術である。特に、心臓における冠動脈の動脈硬化や脳動脈瘤等の血管疾患の治療には、狭窄した血管を内側から拡張するステントや、血管を閉塞させる塞栓物質(例えば、コイル、液体塞栓物質等)等の生体内留置物を患部に留置する血管内手術が行われる。しかしながら、血管内等の患部に留置されるこれらの生体内留置物は、一旦不適切な位置に留置あるいは放出された場合には、その回収や位置の修正がほとんど不可能である。
【0003】
生体内留置物の不適切な配置を防ぐために、外科手術において、術者は、X線透視装置によりリアルタイムで写し出された患部における生体内留置物を視認しながら、該生体内留置物を適切な位置や状態に調整する。上記X線透視装置は、X線管を用いてX線を発生、つまり、高エネルギー状態の電子線をタングステン等の金属から成るターゲットに衝突させることによりX線を発生させ、該X線を用いて生体内を映像化する。例えば、下記非特許文献1には、上述したX線透視装置が開示されている。また、下記非特許文献2には、X線透視装置により撮影されたステントが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Allura Xper FD10のホームページ”(平成23年8月24日検索,URL:http://www.innervision.co.jp/expo/angio/philips/fd10/index.html)
【非特許文献2】ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,パンフレット”Codman enterpriseTM vascular reconstruction device”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、X線管内のターゲットからX線が発生する方向は一定方向ではなく、電子線が衝突する金属における電子の位置等に応じて複数方向にX線が発生する。つまり、上記従来技術においては、散乱線が多いX線が発生する。上記従来技術においては、このような散乱線の多いX線を用いて生体内の生体内留置物を撮影するので、カメラにより散乱線が捉えられてしまうために画像の解像度が低くなる。例えば、上記従来技術においては、解像度が約200μmであり、脳の血管手術に使用されるステントを撮影する場合には、該ステントを構成するワイヤーの太さが40μm程度であるので、該ステントを鮮明に写し出すことができない。そのため、例えば、ステントにおけるワイヤーの一部を太くし、該部位をマーカーとして写し出すことによりステントの位置を特定している。
【0006】
また、上記従来技術においては、塞栓物質の一つであるコイルも鮮明に写し出すことができない。そのため、コイルが留置された血管の瘤においてコイルと瘤との隙間等を正確に把握することができない。さらに、上記従来技術においては、塞栓物質の一つである液体塞栓物質の流れを鮮明に写し出すことができないので、液体塞栓物質にはその流れを確認し易くするための金属粉を混入しなければならない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、生体内における生体内留置物を高解像度で可視化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第1の解決手段として、指向性を有するX線を発生して生体に射出するX線射出手段と、生体を透過したX線を検出するX線検出手段と、X線検出手段による検出結果に基づいて生体内の生体内留置物を可視化する可視化手段とを具備するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、X線射出手段は、シンクロトロン放射現象を利用してX線を発生させるという手段を採用する。
【0010】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、X線射出手段は、レーザーコンプトン散乱現象を利用してX線を発生させるという手段を採用する。
【0011】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの一つの解決手段において、X線検出手段は、アモルファスセレン光電変換膜を有するHARP撮像管を備え、生体を透過したX線をHARP撮像管により検出するという手段を採用する。
【0012】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの一つの解決手段において、生体を透過したX線を反射させてX線検出手段に入射させる反射手段を具備するという手段を採用する。
【0013】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第6の解決手段として、上記第5の解決手段において、反射手段及びX線検出手段は、位置または角度の少なくとも一方が変更可能であるという手段を採用する。
【0014】
本発明では、生体内留置物可視化装置に係る第7の解決手段として、上記第1〜第6のいずれか一つの解決手段において、生体内留置物は、管状器官内に留置される生体材料であるという手段を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、指向性を有するX線を発生して生体に射出するX線射出手段と、生体を透過したX線を検出するX線検出手段と、X線検出手段による検出結果に基づいて生体内の生体内留置物を可視化する可視化手段とを具備する。このように、本発明によれば、指向性を有するX線、すなわち散乱線の少ないX線を用いて生体内における生体内留置物を可視化するので、該生体内留置物を高解像度で可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る生体内留置物可視化装置Aの概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態により撮影された映像を示す図である。
【図3】従来において撮影された映像を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る生体内留置物可視化装置Bの概略構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態により撮影された映像を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る生体内留置物可視化装置Cの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に第1実施形態について説明する。
第1実施形態に係る生体内留置物可視化装置Aは、心臓における冠動脈の動脈硬化や脳動脈瘤等の血管疾患の血管内手術において、施術される患者Pt(生体)にX線を射出し、該患者Ptを透過したX線に基づいて患者Ptの内部映像を表示することにより血管内の患部に留置されるステントや塞栓物質(例えば、コイル、液体塞栓物質等)等の生体材料である生体内留置物を可視化するものである。
【0018】
このような生体内留置物可視化装置Aは、図1に示すように、患者PtにX線を射出するX線射出装置1と、X線射出装置1により射出され患者Ptを透過したX線を検出し、該検出結果に基づいて画像データを生成する高感度カメラ2と、高感度カメラ2から入力された画像データに基づいて患者Ptの内部映像を表示する表示装置3とを備えている。なお、X線射出装置1は、本実施形態におけるX線射出手段であり、高感度カメラ2は、本実施形態におけるX線検出手段であり、表示装置3は、本実施形態における可視化手段である。
【0019】
上記X線射出装置1は、シンクロトロン放射現象により発生させた白色のシンクロトロン放射光からX線を分光し、該X線を患者Ptに射出するものであり、シンクロトロン放射現象を利用してX線を発生させることにより、指向性を有するX線、つまり散乱線が少ないX線を発生することができる。このようなX線射出装置1は、図1に示すように、電子銃11、線型加速器12、静電インフレクター13、周回部14、偏向電磁石15、ビームライン16、分光器17及び主加速器18を備えている。
【0020】
電子銃11は、固体中の電子を高熱や高電界により空間に放出させ、該電子を高電圧で加速すると共にビーム状に収束させることにより電子ビームを線形加速器2に射出するものである。
線型加速器12は、周回部14に電子ビームが入射される前段において電子ビームを加速する前段加速器であり、電子銃11から入射された電子ビームを直線状に並ぶ加速電場により加速し、輸送管を介して静電インフレクター3に射出する。
【0021】
静電インフレクター13は、周回部14内における電子ビームの周回軌道上に電子ビームが入射されるように線型加速器2から入射された電子ビームの軌道を静電偏向により偏向するものである。
周回部14は、直線部と湾曲部とが設けられることにより環状に形成された真空ダクトであり、加速された電子ビームが内部を周回する。なお、周回部14内を周回する電子ビームには、後述する主加速器18により加速されることにより電子バンチと呼ばれるいくつかに区切られた電子集団が形成されている。
【0022】
偏向電磁石15は、図1に示すように、周回部14における各湾曲部に配置されており、電子ビームの軌道を磁場によって偏向することにより電子ビームの周回軌道を制御する。この際、偏向電磁石15は、図示しない制御部から入力される制御信号に基づいて電子ビームが同じ円軌道を周回するように電子の加速に合わせて磁場を強くする。
【0023】
ビームライン16は、偏向電磁石15に設けられており、所定の運動エネルギーを持つ電子ビームが偏向される際に、シンクロトロン放射現象により発生する白色のシンクロトロン放射光を分光器17まで導くよう配設されている。
分光器17は、ビームライン16を介して入射された白色のシンクロトロン放射光からX線を分光し、分光されたX線を患者Ptに射出するものである。
【0024】
主加速器18は、ビームライン16が設けられた偏向電磁石15に対して電子ビームの進行方向後段に設けられた電子ビームの加速装置であり、内部に有する加速空洞内にあらかじめ形成した高周波電場により電子ビームを一定の運動エネルギーに保つように制御する。つまり、主加速器18は、加速空洞18a内の高周波電場により電子ビームが周回軌道を回る際に失われる運動エネルギー(シンクロトロン放射現象により失われるエネルギー)を電子ビームに与えて加速するものである。
【0025】
高感度カメラ2は、アモルファスセレン光電変換膜を有し、該アモルファスセレン光電変換膜に発生する電子なだれ現象を利用して可視光、X線を高感度で検出するHARP(High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)撮像管を備え、X線射出装置1により射出され患者Ptを透過したX線をHARP撮像管により検出し、検出したX線(検出結果)に基づく画像データを生成し、表示装置3に出力する。
表示装置3は、例えば液晶モニタまたは有機ELモニタ等であり、高感度カメラ2から出力された検出結果に基づく画像データに基づいて映像を表示、すなわち患者Ptの内部映像を表示することにより患者Pt内の生体内留置物を可視化するものである。
【0026】
次に、このように構成された生体内留置物可視化装置Aの動作について説明する。
最初に本生体内留置物可視化装置Aの全体動作を説明する。
生体内留置物可視化装置Aにおいて、図示しない操作部が操縦者により操作されることにより患者Ptの撮影開始が指示されると、X線射出装置1は、指向性を有するX線、つまり散乱線の少ないX線を患者Ptに射出する。
【0027】
すなわち、X線射出装置1における電子銃11は、電子を発生させ、該電子から成る電子ビームを線型加速器12に射出する。そして、線型加速器12は、電子銃11から入射される電子ビームを加速し、静電インフレクター3に射出する。静電インフレクター13は、周回部14内における電子ビームの周回軌道上に電子ビームが入射されるように線型加速器12から入射される電子ビームの軌道を静電偏向を用いて偏向する。
【0028】
周回部14内においては、周回軌道上に入射された電子ビームが、偏向電磁石15による磁場により周回軌道が制御されながら、主加速器18により加速される。そして、電子ビームは、所定の運動エネルギーまで加速されると、偏向電磁石15の磁場によって偏向される際に、シンクロトロン放射現象により白色のシンクロトロン放射光を発生する。該シンクロトロン放射光は、ビームライン16により分光器17に導かれる。分光器17は、ビームライン16から入射されたシンクロトロン放射光からX線を分光すると共に分光されたX線を患者Ptに向けて射出する。
【0029】
そして、高感度カメラ2は、X線射出装置1により射出され患者Ptを透過したX線をHARP撮像管により検出し、検出結果に基づく画像データを生成し、表示装置3に出力する。そして、表示装置3は、高感度カメラ2から出力された画像データに基づいて患者Ptの内部映像を表示する。
【0030】
図2は、このような生体内留置物可視化装置Aにおいて撮影された映像である。図2(a)は、生体内留置物可視化装置Aにおいて撮影された太さ及び間隔の異なる(250〜20μm)並列なラインの映像であり、また、図2(b)〜(d)は、生体内留置物可視化装置Aにおいて撮影された脳血管手術において使用されるステントStの映像である。生体内留置物可視化装置Aについては、図2(a)に示すように、31〜25μm程度の解像度を実現することができる。
【0031】
さらに、生体内留置物可視化装置Aについては、図2(b)〜(d)に示すように、ステントStの構造、ステントStのワイヤーWr(太さ:約40μm)一本一本及びステントStのマーカーMKを鮮明に写し出すことができる。例えば、従来であれば、図3に示すように、ステントStのマーカーMkが辛うじて見える程度(約200μm)の解像度であるので、ステントStの構造及びステントStのワイヤーWrを可視化するができない。
【0032】
このように、生体内留置物可視化装置Aが高解像度を実現できるのは、X線射出装置1により射出されるX線に散乱光が少ないためである。つまり、従来においては、X線射出装置として使用されるX線管によって発生されるX線には多くの散乱光が含まれているため、該散乱光がノイズとなって高解像度を実現できなかった。しかしながら、生体内留置物可視化装置Aにおいては、X線射出装置1が、シンクロトロン放射現象を利用してX線を発生させることにより、指向性を有するX線、つまり散乱線が少ないX線を発生して患者Ptに射出することができる。そのため、従来のように、散乱光がノイズとなって解像度が低下しないので、高精細な解像度を実現して、ステントStを高解像度で可視化できる。
【0033】
特に、脳血管手術においては、脳の血管が体の血管に比べて微細であるために、ワイヤーWのrの太さが40μm程度の微細なステントStを使用しなければならない。生体内留置物可視化装置Aは、このような微細なステントStを精細に写し出すことができるので、術者は、ステントStを適切な位置や状態に調整することが従来よりも容易になる。
【0034】
また、生体内留置物可視化装置Aにおいては、高解像度を実現することにより血管を閉塞させるコイルや、液体塞栓物質の流れを精細に写し出すことが可能になる。これにより、術者は、コイルが留置された血管の瘤においてコイルと瘤との隙間等を正確に把握することが可能になる。また、液体塞栓物質の流れを鮮明に写し出すことが可能になることにより、液体塞栓物質には、その流れを確認し易くするための金属粉を混入しなくてもよくなる可能性がある。
【0035】
さらに、生体内留置物可視化装置Aにおいては、X線検出手段として、高感度カメラ2を使用することにより、少ないX線量で高解像の映像を撮影することができる。これによって、一般的に脳動脈瘤塞栓術における被爆線量が平均2.6Gy(最大5.4Gy)と言われているが、その被爆線量を低減することが可能になる。また、生体内留置物可視化装置Aにおいては、リアルタイムで生体内留置物を表示するものであり、撮影した画像データを解析処理しなければならないCT(Computed Tomography)とは構成が大幅に異なる。また、現在、血管を撮影する際には、血管の組織を強調するために一般的にヨード造影剤が使用されているが、該ヨード造影剤は、腎機能を低下させる副作用を有するので、腎機能が悪い人には使用できない。しかしながら、生体内留置物可視化装置Aにおいては、高解像度で血管を写し出すことが可能であるので、ヨードを含まない新たな造影剤を用いて血管の組織を強調できるようになる可能性がある。
【0036】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係る生体内留置物可視化装置Bは、第1実施形態に係る生体内留置物可視化装置Aと同様に、血管内手術において、施術される患者Pt(生体)にX線を射出し、患者Ptを透過したX線に基づいて患者Ptの内部画像を表示することにより血管内の患部に留置される生体材料である生体内留置物を可視化するものである。
【0037】
このような生体内留置物可視化装置Bは、図4に示すように、患者PtにX線を射出するX線射出装置4と、X線射出装置4により射出され患者Ptを透過したX線を検出し、該X線に基づいて画像を現像する感光板5とを備えている。なお、X線射出装置4は、本実施形態におけるX線射出手段であり、感光板5は、本実施形態におけるX線検出手段及び可視化手段である。
【0038】
上記X線射出装置4は、レーザーコンプトン散乱現象、つまり電子ビームとレーザー光とを衝突させることにより発生させたX線を患者Ptに射出するものであり、レーザーコンプトン散乱現象を利用してX線を発生させることにより、指向性を有するX線、つまり散乱線が少ないX線を発生することができる。このようなX線射出装置4は、図4に示すように、電子ビーム発生部41及びレーザー光発生部42を備えている。
【0039】
電子ビーム発生部41は、電子ビームを発生すると共に加速して、該電子ビームをレーザー光発生部42によって発生されるレーザー光との衝突点に向けて射出するものであり、図4に示すように、電子銃41a、線形加速器41b、入射偏向電磁石41c、出射偏向電磁石41d及び電子ビームダンプ41eを備えている。
【0040】
電子銃41aは、固体中の電子を高熱や高電界により空間に放出させ、該電子を高電圧で加速すると共にビーム状に収束させることにより電子ビームを線形加速器41bに射出するものである。
線型加速器41bは、電子銃11から入射された電子ビームを直線状に並ぶ加速電場により加速し、射出する。
【0041】
入射偏向電磁石41cは、線形加速器41bから射出された電子ビームを磁場によって偏向することによりレーザ光との衝突点に電子ビームを導くものである。
出射偏向電磁石41dは、所定の衝突点を通過した電子ビームを磁場によって衝突軌道外の電子ビームダンプ41eに向けて偏向するものである。
電子ビームダンプ41eは、レーザー光に衝突した後の電子ビームを捕捉して、放射線の漏洩を防止するものである。上記構成の電子ビーム発生部41は、電子ビームを発生し、該電子ビームを予め設定されているレーザー光との衝突点を通過させることができる。
【0042】
レーザー光発生部42は、レーザー光を発生し、該レーザー光を上記電子ビーム発生部41により発生される電子ビームとの衝突点に向けて射出するものである。上記構成のX線射出装置4においては、上記電子ビーム発生部41により発生される電子ビームと、上記レーザー光発生部42によって発生されるレーザー光とを衝突させることによりX線を発生、つまりレーザーコンプトン散乱現象によりX線を発生し、該X線を患者Ptに射出する。このようなレーザーコンプトン散乱現象に由来するX線は、指向性を有し、散乱線が少ないという特徴を有する。
【0043】
感光板5は、例えば、「Fuji Film FLA-7000(登録商標)」であり、X線射出装置4により射出され患者Ptを透過したX線を表示面において検出し、検出したX線(検出結果)に基づいて該表示面に患者Ptの内部画像を現像することにより患者Pt内の生体内留置物を可視化する。
【0044】
次に、このように構成された生体内留置物可視化装置Bの動作について説明する。
最初に本生体内留置物可視化装置Bの全体動作を説明する。
生体内留置物可視化装置Bにおいて、図示しない操作部が操縦者により操作されることにより患者Ptの撮影開始が指示されると、X線射出装置4は、指向性を有するX線、つまり散乱線の少ないX線を患者Ptに射出する。
【0045】
すなわち、X線射出装置4における電子銃41aは、電子を発生させ、該電子から成る電子ビームを線型加速器41bに射出する。そして、線型加速器41bは、電子銃41aから入射される電子ビームを加速し、入射偏向電磁石41cに射出する。入射偏向電磁石41cは、線形加速器41bから射出された電子ビームを磁場によって偏向することによりレーザー光との衝突点に電子ビームを導く。また、レーザー光発生部42は、レーザー光を発生し、該レーザー光を電子ビームとの衝突点に向けて射出する。そして、電子ビームとレーザー光とが衝突点において衝突することによりX線が発生し、患者Ptに射出される。
【0046】
図5は、このような生体内留置物可視化装置Bにおいて撮影された映像であり、脳血管手術において使用されるステントSt及びコイルClが撮影されている。生体内留置物可視化装置Bについては、図5に示すように、ステントStの構造、ステントStのワイヤーWr(太さ:約40μm)一本一本及びステントStのマーカーMKを鮮明に写し出すことができる。さらに、生体内留置物可視化装置Bは、図5に示すように、コイルCl(一次コイルの太さ:20〜25μm)の2次コイルをはっきり写し出すことができる。なお、コイルClの一次コイルまで精細に写し出すことができなかったのは、感光板6の解像度が約25μmであるからである。
【0047】
このように、生体内留置物可視化装置Bが高解像度を実現できるのは、X線射出装置4により射出されるX線に散乱光が少ないためである。つまり、生体内留置物可視化装置Bにおいては、X線射出装置4が、レーザーコンプトン散乱現象を利用してX線を発生させることにより、指向性を有するX線、つまり散乱線が少ないX線を発生して患者Ptに射出することができる。そのため、従来のように、散乱光がノイズとなって解像度が低下しないので、高精細な解像度を実現して、ステントSt及びコイルClを高解像度で可視化できる。
【0048】
特に、脳血管手術においては、脳の血管が体の血管に比べて微細であるために、ワイヤーの太さが40μm程度のステントStや、コイルCl、つまり微細な生体内留置物を使用しなければならない。生体内留置物可視化装置Bはこれら生体内留置物を精細に写し出すことができるので、術者は、ステントStやコイルClを適切な位置や状態に調整することが従来よりも容易になる。また、高解像度を実現することにより液体塞栓物質の流れを精細に写し出すことも可能になるので、液体塞栓物質には、その流れを確認し易くするための金属粉を混入しなくてもよくなる可能性がある。
【0049】
また、現在、血管を撮影する際には、血管の組織を強調するために一般的にヨード造影剤が使用されているが、該ヨード造影剤は、腎機能を低下させる副作用を有するので、腎機能が悪い人には使用できない。しかしながら、生体内留置物可視化装置Bにおいては、高精細な解像度で血管を写し出すことが可能であるので、ヨードを含まない新たな造影剤を用いて血管の組織を強調できるようになる可能性がある。
【0050】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態について説明する。
第3実施形態に係る生体内留置物可視化装置Cは、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、血管内手術において、施術される患者Pt(生体)にX線を射出し、患者Ptを透過したX線に基づいて患者Ptの内部画像を表示することにより血管内の患部に留置されるの生体材料である生体内留置物を可視化するものである。
【0051】
このような生体内留置物可視化装置Cは、図6に示すように、シンクロトロン放射現象またはレーザーコンプトン散乱現象を利用してX線を発生し、該X線を患者Ptに射出するX線射出装置6と、X線射出装置4により射出され患者Ptを透過したX線を反射させるシリコン結晶板7と、シリコン結晶板7により反射されたX線を検出し、該検出結果に基づいて画像データを生成する高感度カメラ8と、高感度カメラ8から入力された検出結果に基づく画像データに基づいて患者Ptの内部映像を表示する表示装置9とを備えている。なお、X線射出装置6は、本実施形態におけるX線射出手段であり、シリコン結晶板7は、本実施形態における反射手段であり、高感度カメラ8は、本実施形態におけるX線検出手段であり、表示装置9は、本実施形態における可視化手段である。また、X線射出装置6、高感度カメラ8及び表示装置9については、上述した第1実施形態及び第2実施形態における構成要素と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0052】
シリコン結晶板7は、シリコン原子が等間隔に並ぶ平板状の結晶体であり、患者Ptを透過したX線を反射させて高感度カメラ8に入射させる。このように、患者Ptを透過したX線をシリコン結晶板7に反射させることにより、散乱線を低減することができる。X線は、患者Ptの体に衝突すると、その一部が散乱線となって放射される。この散乱線が高感度カメラ8に入射されると、該散乱線がノイズとなって解像度の低下を引き起こしてしまう。しかしながら、患者Ptを直進して透過したX線をシリコン結晶板7に反射させ、反射されたX線を高感度カメラ8に入射させるようにすることで散乱線を低減することができる。すなわち、散乱線は、直進するX線に比べてシリコン結晶板7に入射される角度が異なるので、直進するX線とは異なる方向に反射される。このように、直進するX線のみを高感度カメラ8に入射させることで、散乱線を低減して、高解像度を実現することができる。
【0053】
また、シリコン結晶板7及び高感度カメラ8は、その位置または角度の少なくとも一方が変更可能であるようにしてもよい。シリコン結晶板7及び高感度カメラ8の位置または角度の少なくとも一方を変更可能にすることにより、さらなる高解像度を実現することができる。つまり、外科手術において、術者は、シリコン結晶板7及び高感度カメラ8の位置または角度の少なくとも一方を適切に調整することにより、最も精細に映し出される環境を作り出すことが可能になる。
【0054】
さらに、シリコン結晶板の角度を、直進するX線に対して平行に近づければ近づける程、シリコン結晶板7に入射される散乱線が少なくなるので、高感度カメラに入射される散乱線をさらに低減して、解像度をさらに向上させることができる。上述したように、高感度カメラに入射される散乱線をさらに低減することにより、さらなる高解像度を実現できるので、高感度カメラ8から表示装置9に入力された画像データを拡大表示しても、微細な箇所を精細に表示することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記第1実施形態においては、シンクロトロン放射現象を利用してX線を発生するX線射出装置1と、高感度カメラ2及び表示装置3とを組み合わせた構成であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2実施形態におけるレーザーコンプトン散乱現象を利用してX線を発生するX線射出装置4と、高感度カメラ2及び表示装置3とを組み合わせた構成にするようにしてもよい。
【0056】
(2)上記実施形態においては、生体内留置物としてステントSt、コイルCl及び液体塞栓物質の生体材料を可視化することに利用されているが、本発明はこれに限定されない。上記実施形態は、例えば、コイルCl及び液体塞栓物質以外の塞栓物質である粒子状塞栓物質等を可視化することに利用されてもよい。また、上記実施形態においては、生体内留置物として、血管内に留置される生体材料に限定されず、胆管等の血管以外の管状器官内に留置されるステント等の生体材料を可視化することに利用されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
A,B,C…生体内留置物可視化装置、1…X線射出装置(X線射出手段)、2…高感度カメラ(X線検出手段)、3…表示装置(可視化手段)、11…電子銃、12…線型加速器、13…静電インフレクター、14…周回部、15…偏向電磁石、16…ビームライン、17…分光器、18…主加速器、4…X線射出装置(X線射出手段)、5…感光板(X線検出手段,可視化手段)、41…電子ビーム発生部、42…レーザー光発生部、41a…電子銃、41b…線形加速器、41c…入射偏向電磁石、41d…出射偏向電磁石、41e…電子ビームダンプ、6…X線射出装置(X線射出手段)、7…シリコン結晶板(反射手段)、8…高感度カメラ(X線検出手段)、9…表示装置(可視化手段)、Pt…患者、St…ステント、Cl…コイル、Wr…ワイヤー、Mk…マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を有するX線を発生して生体に射出するX線射出手段と、
前記生体を透過した前記X線を検出するX線検出手段と、
前記X線検出手段による検出結果に基づいて前記生体内の生体内留置物を可視化する可視化手段とを具備することを特徴とする生体内留置物可視化装置。
【請求項2】
前記X線射出手段は、シンクロトロン放射現象を利用して前記X線を発生させることを特徴とする請求項1に記載の生体内留置物可視化装置。
【請求項3】
前記X線射出手段は、レーザーコンプトン散乱現象を利用して前記X線を発生させることを特徴とする請求項1に記載の生体内留置物可視化装置。
【請求項4】
前記X線検出手段は、アモルファスセレン光電変換膜を有するHARP撮像管を備え、前記生体を透過した前記X線を前記HARP撮像管により検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体内留置物可視化装置。
【請求項5】
前記生体を透過した前記X線を反射させて前記X線検出手段に入射させる反射手段を具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体内留置物可視化装置。
【請求項6】
前記反射手段及び前記X線検出手段は、位置または角度の少なくとも一方が変更可能であることを特徴とする請求項5に記載の生体内留置物可視化装置。
【請求項7】
前記生体内留置物は、管状器官内に留置される生体材料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の生体内留置物可視化装置。








【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−63164(P2013−63164A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203448(P2011−203448)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】