説明

生体内部温度測定装置及び方法、生体内部温度測定装置のためのコンピュータプログラム並びにMRI装置

【課題】DWIを用い、生体内の温度を非侵襲的に短時間で測定可能な生体内温度測定装置を提供する。
【解決手段】生体内部温度測定装置42は、DWIから、測定対象となる領域を抽出し、拡散係数から水分子の温度を推定する変換式にしたがって、温度マップ94を作成する対象領域抽出部52と、温度マップ94において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定するヒストグラム算出部56及び関数近似部58と、近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、DWIのうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定する2次導関数演算部60及び微分関数最大値・最小値算出部62と、温度マップ94のうち、推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力するボクセル選択部76及び平均値算出部64とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は生体内で、温度の測定が直接には難しい部位の温度を非侵襲で測定するための装置に関し、特に、生体内の水分子の拡散係数と温度との関係を用い、短時間で生体内の特定部位の温度を測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
もやもや病は両側末梢性内頸動脈の進行性狭窄−閉塞性疾患であって、患者の血管イベントの素因となる。症状は様々であって、一過性脳虚血発作、けいれん、頭痛などである。もやもや病のこれらの兆候と症状は、両側ICA狭窄から生じる血流の変化に起因すると考えられる。
【0003】
内頸動脈は脳に栄養素の主要な部分を運ぶ最大の頭蓋血管である。脳は人の体重のわずか2%であるが、心拍出量の10%を受け、総酸素消費量の20%を占める。したがって、脳は最もエネルギを要求する器官の1つである。脳内の代謝に用いられるエネルギは最終的には熱に変わる。発生した熱は主に頭蓋血管を介する血流によって除去される。熱の生成と除去とのバランスが脳の温度を一定に保つ。この熱バランスが、狭窄−閉塞性疾患の患者では乱れてくるが、これはおそらく、熱を奪う脳への血流が少なくなるからと思われる。一般的に、何らかの疾患が脳に存在する場合、脳血流の乱れにより患者の脳室温度に異常が生じるのではないかと思われる。例えばもやもや病の場合には、脳血流の減少により脳内から除去される熱が少なく、対照群と比較して脳室の温度が高くなると予想される。
【0004】
脳の温度を評価するにはいくつかの異なる方法がある。頭蓋手術を受けた患者では直接測定を行なうことも可能である。しかし、一般に温度測定のためだけに手術を行なうのは現実的ではない。一方、磁気共鳴(magnetic resonance:MR)画像技術を用いた非侵襲的方法も複数個が提案されている。例えば後掲の特許文献1に記載の方法がある。特許文献1に記載された方法では、生体内の水分子中の水素核の拡散係数と温度変化との関係式を用い、MR法により得た拡散係数から生体内部の温度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−14911号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mills R, Self-Diffusion in Normal and Heavy-Water in Range 1-45 Degrees,Journal of Physical Chemistry, 1973; 77: 685-688.
【非特許文献2】Z. Nagy, L. R. Kozak, .M. Szabo, R. Gabor, and Z. Vidnyanszki, Measuring the Cerebro-Spinal Fluid Temperature Using Diffusion MRI, Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 17(2009), p.2700.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法も含め、MR法を用いる従来の非侵襲的方法では、測定に長い時間がかかるという問題がある。測定に長時間かかると、患者に負担がかかるだけでなく、脳内温度も時間によって変化する可能性があり、測定結果の信頼性が低くなる。したがって、非侵襲的で、かつ短時間で高い精度で脳の温度を評価することができれば好ましい。
【0008】
MR法のなかでも、最も臨床的応用が可能と思われるのが、拡散強調画像(Diffusion Weighted Image:DWI)の後処理によって得られる脳室温度推定である。適用は脳内の自由水(例えば脳脊髄液:CSF)に限られるが、この方法は、患者の脳の評価にも有用であると考えられる。
【0009】
動力学理論では、絶対温度(T)と拡散係数(D)との間には直接の関係がある。自由水分子の拡散係数は、MRを用いて信頼性高く測定することが可能であることが知られている。非特許文献1及び非特許文献2等の最近の研究のいくつかでは、この関係を用いてCSFの温度を推定できることが示されている。非特許文献1は、純水拡散と拡散率との関係を示している。非特許文献2は非特許文献1の著者(Mills)の著作に基づき、CSFの温度測定に関するDWIの可能性を示している。
【0010】
非特許文献2によれば、DWIから次の式(1)により拡散定数Dを計算できる。
【0011】
【数1】

ここでDは拡散定数(mm/b)であり、bは所与の拡散重み(s/mm2)であり、S及びSはそれぞれ、基準画像と拡散強調画像とのボクセル値である。非特許文献2によればさらに、拡散係数Dは次の式(2)を用いて対応の温度に変換できる。
【0012】
【数2】


ここでTは温度(℃)である。この方法が適用可能なのは自由水のみである。
【0013】
この方法を用いれば、脳室内の温度をDWIから容易に推定できるように思われる。しかし実際には、拡散係数の誤差が大きいため温度が正しく推定できないという問題がある。この要因は、主としてCSFの脈動する動きである。これは、モンロー孔等の特定の場所で特に問題となる。この問題が解決されないと、DWIを使用して正確な脳室温度の測定はできない。
【0014】
こうした問題は、脳室に限らず、一般的に生体内で水分子が拡散以外の要因で移動するような場合には常に生じ得る。そうした場合でも、DWIを使用して非侵襲的に生体内の温度を測定できれば、例えば疾患の発見などに有用な情報が得られることが期待できる。MRI装置にこうした機能を組込むことができれば、MRI装置を新たな診断に適用でき、便利である。さらに、既存のMRI装置に対して、こうした機能を提供することができるコンピュータプログラムを組込むことにより、既存のMRI装置を有効に利用して、生体内温度に基づく新たな診断などを行なうことも期待できる。
【0015】
したがって本発明の目的は、DWIを用い、生体内の温度を非侵襲的に短時間で測定可能な生体内温度測定装置、そのためのコンピュータプログラム、及びMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の局面によれば、生体のDWIに基づいて生体内部の温度を測定する生体内部温度測定装置が提供される。この生体内部温度測定装置は、生体のDWIから、測定対象となる領域を抽出し、拡散係数から水分子の温度を推定するための所定の変換式にしたがって、温度マップ画像を作成するための温度マップ画像抽出手段と、温度マップ画像において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定するための関数近似手段と、近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、DWIのうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定するための温度範囲推定手段と、温度マップ画像抽出手段により抽出された温度マップ画像のうち、温度範囲推定手段により推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力するための平均値算出手段とを含む。
【0017】
DWIから温度マップへの変換には比較的正確な変換式が得られている。温度マップ画像は、DWIから、この変換式を用いて測定対象の領域の温度マップ画像を作成し、関数近似手段に与える。関数近似手段は、この温度マップ画像において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定し温度範囲推定手段に与える。温度範囲推定手段は、近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、DWIのうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定する。平均値算出手段は、温度マップ画像抽出手段により抽出された温度マップ画像のうち、温度範囲推定手段により推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力する。
【0018】
DWIのうち、水分子の拡散のみによる拡散係数が算出できれば、上記した変換式により生体内の温度をほぼ正確に推定できる。しかし、部位によっては拡散だけでなく、水分子の流れにより拡散係数が影響される場合がある。そうした場合には温度は正確には推定できない。しかし、対象となる領域の温度がほぼ一定であり、かつ水分子の流れの影響を受けない領域が大きいと仮定すると、ピーク温度付近にそうした領域から得られたボクセルが集中するものと考えられる。そこで、温度範囲推定手段は、近似関数のピークを中心とした温度範囲であって、水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定する。この温度範囲のボクセルの温度を平均することにより、水分子の流れの影響を受けない正確な温度を推定できる。こうした処理は、DWIのみから得ることができ、処理は短時間で完了する。その結果、DWIを用い、生体内の温度を非侵襲的に短時間で測定可能な生体内温度測定装置を提供できる。
【0019】
好ましくは、関数近似手段は、温度マップ画像抽出手段により作成された温度マップ画像において、各温度範囲に属するボクセルのヒストグラムを作成するためのヒストグラム作成手段と、ヒストグラム作成手段により作成されたヒストグラムを温度に関するN次多項式(Nは1以上の任意の整数)で近似するための多項式近似手段とを含む。
【0020】
ヒストグラムの多項式近似は、市販の数値処理プログラムにより容易に解決することができ、温度推定のために必要な処理が簡略に行なえる。
【0021】
より好ましくは、N次多項式は温度に関する9次多項式である。
【0022】
測定対象として脳内の領域を選択した場合、経験的に9次多項式を用いると良好な結果が得られることが分かった。
【0023】
さらに好ましくは、温度範囲推定手段は、関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、ピーク温度より低温側で、1次導関数の値が極大値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度を温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、ピーク温度より高温側で、近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度を温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含む。
【0024】
1次導関数の導出、並びに関数の極大値及び極小値の算出は容易に入手できる数値処理プログラムで実現できる。また、このようにして決定した温度範囲で脳内温度を推定したところ、良好な結果を得ることができた。
【0025】
温度範囲推定手段は、関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、ピーク温度より低温側で、近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度を温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、ピーク温度より高温側で、1次導関数の値が極小値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度を温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含んでもよい。
【0026】
1次導関数の導出、及び関数の極小値の検出は、容易に入手できる数値処理プログラムで実現できる。このようにして決定した温度範囲で脳内温度を推定すると、1次導関数の極大値及び近似関数の極小値で決まる温度範囲とは異なる温度範囲のボクセルを使用することになる。しかしこの場合でも、近似関数のグラフでピーク付近に集中したボクセルを使用することができるため、正確な温度推定が期待できる。
【0027】
好ましくは、温度範囲推定手段は、関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、ピーク温度より低温側において、1次導関数の値が極大値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度と、近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度との間の任意の温度を温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、ピーク温度より高温側において、近似関数の値が極小値をとる温度であってかつピーク温度に最も近い温度と、1次導関数演算手段により導出された1次導関数の値が極小値をとる温度であって、かつピーク温度に最も近い温度との間の任意の温度を温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含む。
【0028】
1次導関数の導出、並びに関数の極大値及び極小値の算出は、容易に入手できる数値処理プログラムで実現できる。このようにして決定した温度範囲で脳内温度を推定すると、1次導関数の極大値及び近似関数の極小値で決まる温度範囲とは異なる温度範囲のボクセルを使用することになる。しかしこの場合でも、近似関数のグラフにおいてピーク周辺に集中したボクセルから温度を推定することができるため、正確な温度推定が期待できる。
【0029】
本発明の第2の局面に係るMRI装置は、被験者の体内で、測定対象となる領域のDWIを作成し出力するためのMRI測定手段と、MRI測定手段の入力を受けるように接続され、被験者の測定対象となる領域の温度を測定するための、上記したいずれかの生体内部温度測定装置とを含む。
【0030】
本発明の第3の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されると、当該コンピュータを、上記したいずれかの生体内部温度測定装置として機能させる。
本発明の第4の局面に係る、生体の拡散強調画像に基づいて生体内部の温度を測定する生体内部温度測定方法は、生体の拡散強調画像から、測定対象となる領域を抽出し、拡散係数から水分子の温度を推定するための所定の変換式にしたがって、温度マップ画像を作成する温度マップ画像抽出ステップと、温度マップ画像において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定する関数近似ステップと、近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、拡散強調画像のうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定する温度範囲推定ステップと、温度マップ画像抽出ステップにおいて抽出された温度マップ画像のうち、温度範囲推定ステップにおいて推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力する平均値算出ステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係るMRI装置30、特にその側脳室内脊髄液温度推定装置42のブロック図である。
【図2】DWIから得られる温度マップの一例を示す図である。
【図3】マスク画像の一例を示す図である。
【図4】温度マップからマスク画像を使用して抽出された、温度測定の対象となる側脳室の部分の温度マップの一例を示す図である。
【図5】側脳室内の左右を対照して診断する時のマスク画像の例を示す図である。
【図6】側脳室内の前後を対照して診断する時のマスク画像の例を示す図である。
【図7】図4に示す温度マップにおける、温度に対するボクセル数の分布を示すヒストグラムの例を示す図である。
【図8】図7に示すヒストグラムを多項式関数で近似した近似関数140の例を示すグラフである。
【図9】微分関数最大値・最小値算出部62による温度範囲の決定方法を説明するためのグラフである。
【図10】側脳室内脊髄液温度推定装置42をコンピュータプログラムにより実現するためのプログラムのメインルーチンの制御構造を示すフローチャートである。
【図11】側脳室内脊髄液温度推定装置42を実現するためのコンピュータハードウェアの内部構成を示すハードウェアブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施の形態に係る、生体内温度測定機能を持つMRI装置について、図面を参照してその構造及び動作について説明する。以下の説明及び図面では、同一の部品には同一の参照番号が付してある。それらの機能及び名称も同一である。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0033】
[構造]
図1に、本発明に係る生体内温度測定装置の一例である、側脳室内脊髄液温度推定装置を採用したMRI装置30の構成をブロック図形式で示す。なお、図1において、MRI装置30のうち、本発明と直接関係しない部品については、図面を簡単にし説明を分かりやすくするため、示していない。
【0034】
図1を参照して、このMRI装置30は、測定対象の被験者(図示せず)の頭部のDWIを出力するためのMRI測定部40と、MRI測定部40から出力されるDWIを受けるように接続され、このDWIに基づいて、被験者の側脳室内の脊髄液の平均温度を推定して表示(出力)ための側脳室内脊髄液温度推定装置42とを含む。
【0035】
側脳室内脊髄液温度推定装置42は、MRI測定部40から受けたDWIに対し、上記した式(1)による変換を行なうことにより側脳室内の温度マップ90を作成し出力するための温度マップ変換部50を含む。
【0036】
図2に、温度マップ90の例を示す。温度マップ変換部50により側脳室内の温度マップ90は一応作成できる。しかし、既に述べたとおり、この温度マップ90では、脊髄液の流れにより拡散係数に大きな誤差が生じている領域があり、温度マップ90をそのまま用いて温度の推定を行なうことはできない。また、脳室内の特定部位の温度を測定するためには、温度マップ90からその部位に応じた領域の画像を抽出する必要がある。
【0037】
側脳室内脊髄液温度推定装置42はさらに、温度マップ変換部50の出力する温度マップ90に対し、所定のマスキングを施して、温度測定の対象となる領域のみの温度マップからなる抽出画像94を出力するための対象領域抽出部52と、対象領域抽出部52が使用するマスク画像を、対象となる部位に応じて予め1又は複数個記憶しておくためのマスク画像記憶部70と、操作者による選択にしたがって、マスク画像記憶部70に記憶された1又は複数個のマスク画像のうち、選択されたマスク画像92を対象領域抽出部52に与え、マスキング処理を実行させるためのマスク画像選択部72とを含む。
【0038】
図3に、マスク画像92の一例を示す。このマスク画像92は、温度マップ90から側脳室の画像のみを抽出するためのものである。このマスク画像92を使用して温度マップ90からの抽出画像94の一例を図4に示す。図4において、マスク画像92によりマスクされた領域のボクセルの温度は全て0に変換されている。
【0039】
マスク画像記憶部70に記憶されるマスク画像は、図3に示すマスク画像92には限定されない。たとえば、脳疾患を持つ患者の場合、側脳室内の温度分布が左右又は前後で非対称となる場合のあることが知られている。そうした情報を得ることができれば、脳疾患の診断に非常に有効であると思われる。そのため、例えば側脳室の温度を左右別々に、又は前後別々に、測定できれば便利である。左右別々に温度測定をする場合に使用されるマスク画像の例を図5の2つの画像100及び102により示す。前後別々に測定する場合のマスク画像の例を図6の2つの画像110及び112に示す。操作者は、これら画像のうち、測定対象に応じたものをマスク画像選択部72により選択すればよい。
【0040】
再び図1を参照して、側脳室内脊髄液温度推定装置42はさらに、対象領域抽出部52から出力される抽出画像94を記憶するための対象領域画像記憶部54と、対象領域画像記憶部54に記憶された抽出画像94を構成する各ボクセルについて、そのボクセルの温度のヒストグラム130を作成し出力するためのヒストグラム算出部56と、ヒストグラム算出部56によるヒストグラム算出時のビン数を予め記憶し、ヒストグラム算出部56に与えるためのビン数記憶部78とを含む。ビン数記憶部78に記憶されたビン数は、一般的な入出力インタフェースを用いて操作者が変更できる。通常、ビン数としてはコンピュータ処理との親和性から、例えば256(=2)個など、2のべき乗個とすることが望ましい。
【0041】
図7に、ヒストグラム130の例を示す。図7において、横軸は温度(摂氏)であり、縦軸はボクセルの温度の度数である。図7を参照して、温度とボクセルの温度との関係は、例えば明確な分布にしたがっているとはいえない。しかし、対象領域の大部分においては脊髄液の流れが生じていないことを考えると、最も度数の多い部分は流れの生じていない領域から得られた値であり、それ以外の部分には脊髄液の流れの影響が反映された値であると考えられる。したがって、図7のヒストグラムにおいてピーク領域132を中心とした部分に属するボクセルのみを抽出すれば、脊髄液の流れが生じていない部分のみから側脳室内の脊髄液の温度が推定できると考えられる。本実施の形態に係る側脳室内脊髄液温度推定装置42では、次のような構成により、このピーク領域132の部分のボクセルを選択する。
【0042】
すなわち、側脳室内脊髄液温度推定装置42はさらに、ヒストグラム算出部56により作成されたヒストグラム130に対し、所定次数の多項式をフィッティングすることにより、ボクセルの温度の分布の、温度に対する近似関数140を出力するための関数近似部58と、関数近似部58による多項式近似の際の次数を予め記憶するための次数記憶部74とを含む。次数記憶部74に記憶される次数も、一般的な入出力インタフェースにより操作者が設定できる。この次数は、温度測定の対象となる部位にも依存するが、本実施の形態のように側脳室内の脊髄液温度を測定するためには、経験的にこの次数=9とすることが好ましいことが本発明者らの実験により分かっている。
【0043】
側脳室内脊髄液温度推定装置42はさらに、関数近似部58の出力する近似関数140を微分し、1次導関数142を出力するための1次導関数演算部60と、抽出された画像のうち、1次導関数演算部60により算出された1次導関数142の最大値と最小値とをそれぞれ与える温度T1及びT2を算出するための境界温度算出部62とを含む。図7に示すヒストグラム130に対する近似関数140の例を図8に示す。図8を参照して、ヒストグラムだけでは明確には分からなかったピーク144が明らかとなっている。
【0044】
図9を参照して、近似関数140からどのような考えにより流れの存在していない領域の脊髄液の温度を推定するかについての基本的な考え方を説明する。前述したとおり、近似関数140のピーク144の部分が、所望の領域のボクセルにより形成されているものと考えられる。そこで、このピーク144をはさんで、温度の下限と上限とを境界として定め、この範囲内の温度を持つボクセルのみを抽出することで、ピーク144の形成に貢献しているボクセル、すなわち脊髄液の流れが生じていない領域から得られたボクセルを選択できる。
【0045】
この下限と上限との決め方には種々考えられるが、本実施の形態では、以下のように、近似関数140の解析幾何学的特徴を用いて定める。すなわち、ピーク144より左側(温度が低い側)に、近似関数140のグラフが下に突から上に突に変化する変曲点(近似関数140の2次導関数の符号がプラスからマイナスに変化する点)があり、ピーク144より右側(温度が高い側)に、近似関数140の極小点があることに鑑み、この2つの変曲点に対応する温度にはさまれた温度範囲に属するボクセルのみを選択することとする。具体的には、近似関数140の1次導関数142を求め、ピーク144より左側で1次導関数142の極大値を与える点のうち、ピーク144に最も近い点150(このときの温度をT1とする。)、及びピーク144より右側で近似関数140の極小値を与える点のうち、ピーク144に最も近い点152(このときの温度をT2とする。ただしT1<T2である。)を求め、温度範囲T1〜T2(両端を含む。)に属するボクセルのみを選択する。この演算には、市販の数値解析プログラムを使用することができる。なお、境界温度の算出方法としてはこれに限定されるわけではないが、何らかの明確な形で特定できるようにする必要がある。
【0046】
この目的のため、側脳室内脊髄液温度推定装置42はさらに、境界温度算出部62により得られた温度T1とT2との間の温度のボクセルを対象領域画像記憶部54に記憶された画像から選択するためのボクセル選択部76と、ボクセル選択部76により選択されたボクセルの温度の平均値を算出するための平均値算出部64と、平均値算出部64により算出された平均値をモニタ68等の出力デバイスに出力するための平均値出力部66とを含む。図には示していないが、ボクセル選択部76により選択されたボクセルを、温度により異なる色でモニタ68に表示することにより、側脳室内のうち、脊髄液の流れがなく拡散のみが存在する部分の温度分布を表示できることも明らかであろう。
【0047】
[コンピュータによる実現]
上記した側脳室内脊髄液温度推定装置42は、コンピュータハードウェアと、当該コンピュータハードウェアにより実行されるコンピュータプログラムにより実現できる。図10に、そのためのコンピュータプログラムの制御の流れの概略をフローチャート形式で示す。
【0048】
図10及び図1を参照して、このプログラムは、MRI測定部40からDWIを受信すると開始し、受信したDWIをそのボクセルの温度にしたがって温度マップ90に変換するステップ180と、ステップ180で作成された温度マップ90の画像を、温度測定の対象領域となる部分以外をマスクするマスク画像でマスキングすることにより、対象領域の抽出画像94を抽出するステップ182と、ステップ182で抽出された抽出画像94について、温度に対するボクセル数のヒストグラム130を作成するステップ184とを含む。
【0049】
このプログラムはさらに、ステップ184で作成されたヒストグラム130についてN次多項式で多項式近似し、近似関数140を出力するステップ186と、ステップ186で得られた近似関数140を微分して1次導関数142を導出するステップ188と、ステップ188で導出された1次導関数142のグラフにおいて、ピーク144の左側でピーク144に最も近い極大値を与える温度T1と、近似関数140において、ピーク144の右側でピーク144に最も近い極小値を与える温度T2とを算出するステップ190と、ステップ182で抽出された抽出画像94を構成するボクセルのうち、温度範囲T1〜T2に属するボクセルのみを選択し、それらの温度の平均値を算出するステップ192と、ステップ192で得られた温度の平均値を対象領域の温度測定結果として出力し、操作者が確認の処理をしたことに応答してこのプログラムの実行を終了するステップ194とを含む。なおこのとき、単に温度の測定結果だけでなく、診断に属する情報を表示するようにしてもよい。例えば、通常のMR画像では全く異常が見られないのにもかかわらず、本実施の形態に係る方法で測定した脳室温度が通常の被験者の温度よりも1度から2度高い患者がときどき存在する。こうした患者は、何らかの症状(認知機能の低下及び頭痛等)を訴えることが多い。一方、血流低下が発生すると、脳の温度上昇がもたらされることが分かっている。したがって、こうした症状を訴える患者について脳室の温度を測定し、通常の温度よりも1度以上高い脳室温度が得られた場合には、脳室の血流低下が生じていると診断してよいと思われる。したがって、単に温度を表示するだけでなく、そのような脳室の血流低下が生じているという結果を、診断情報の1つとして表示することが考えられる。
【0050】
[コンピュータハードウェア]
この実施の形態に係るMRI装置30の側脳室内脊髄液温度推定装置42は、コンピュータハードウェアと、そのコンピュータハードウェアにより実行されるプログラムと、コンピュータハードウェアに格納されるデータとにより実現できる。図11はこのコンピュータシステム330の内部構成を示す。なお、MRIでは強力な磁場が使用されるので、コンピュータシステム330の動作に悪影響が及ぼされる危険性がある。したがってコンピュータシステム330は磁気に対して十分にガードされている必要がある。
【0051】
図11を参照して、このコンピュータシステム330は、リムーバブルメモリの着脱部であるメモリポート370及びDVD(Digital Versatile Disc)ドライブ364を有するコンピュータ340と、キーボード346と、マウス348と、モニタ342とを含む。モニタ342は、MRI装置30に付属したものでもよい。
【0052】
コンピュータ340は、メモリポート370及びDVDドライブ364に加えて、CPU(中央処理装置)356と、CPU356、メモリポート370及びDVDドライブ364が接続されたバス366と、バス366に接続され、ブートアッププログラム等を記憶する読出専用メモリ(ROM)358と、バス366に接続され、プログラム命令、システムプログラム、及び作業データ等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)360と、バス366に接続され、大量のデータを記憶する不揮発性記憶装置であるハードディスク362と、バス366に接続され、MRI測定部40からの出力を受ける入出力インタフェース(I/F)368とを含む。
【0053】
コンピュータシステム330に側脳室内脊髄液温度推定装置42として機能させるためのコンピュータプログラムは、DVDドライブ364又はメモリポート370に挿入されるDVD390又はリムーバブルメモリ392に記憶され、さらにハードディスク362に転送される。又は、プログラムは図示しないネットワークを通じてコンピュータ340に送信されハードディスク362に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM360にロードされる。DVD390から、リムーバブルメモリ392から、又はネットワークを介して、直接にRAM360にプログラムをロードしてもよい。
【0054】
このプログラムは、コンピュータ340にこの実施の形態の側脳室内脊髄液温度推定装置42としての動作を行なわせる複数の命令を含む。この動作を行なわせるのに必要な基本的機能のいくつかはコンピュータ340上でオペレーティングシステム(OS)が動作しているときにはOSにより提供されることもある。それら機能はサードパーティのプログラム、又はコンピュータ340にインストールされる各種ツールキットのモジュールにより提供されることもある。特に、図10においてステップ182,184,186,188,190,及び192で実行される処理は、いずれも市販の数値処理プログラムに含まれる関数で実現できる。したがって、このプログラムはこの実施の形態のシステム及び方法を実現するのに必要な機能全てを必ずしも含まなくてよい。このプログラムは、命令のうち、所望の結果が得られるように制御されたやり方で適切な関数を呼出すことにより、上記した側脳室内脊髄液温度推定装置42としての動作を実行する命令のみを含んでいればよい。コンピュータシステム330の動作は周知であるので、ここでは繰返さない。
【0055】
[動作]
上に構造を述べたMRI装置30は、以下のように動作する。MRI測定部40は、被験者の対象部位(頭部)のDWIを作成し、温度マップ変換部50に与える。このとき、DWIのS/N比を高めるため、同一部位のDWIを複数個用いることが好ましい。
【0056】
温度マップ変換部50は、このDWIから、既に述べた式(2)を用いて温度マップ90を作成する(図10のステップ180)。温度マップ90は対象領域抽出部52に与えられる。
【0057】
マスク画像記憶部70には予め所定のマスク画像が記憶されており、かつ操作者により対象部位に対応するマスク画像が指定されているものとする。マスク画像選択部72は、マスク画像記憶部70に記憶されたマスク画像のうち、指定されたマスク画像92を選択して対象領域抽出部52に与える。対象領域抽出部52は、温度マップ90の画像に対し、マスク画像92を適用することで、対象領域の温度マップのみからなる抽出画像94を抽出し、対象領域画像記憶部54に記憶させる(ステップ182)。
【0058】
ヒストグラム算出部56は、ビン数記憶部78により指定されるビン数を用い、対象領域画像記憶部54に記憶されている抽出画像94のボクセル数のヒストグラム130を算出し関数近似部58に与える(ステップ184)。関数近似部58は、次数記憶部74に記憶された値により次数が規定される多項式(好ましくは9次多項式)をヒストグラム130にフィッティングすることでヒストグラムの近似関数140を定め、1次導関数演算部60に与える(ステップ186)。1次導関数演算部60は、この近似関数140を微分することにより近似関数140の1次導関数142を算出し境界温度算出部62に与える(ステップ188)。
【0059】
境界温度算出部62は、1次導関数142のうち、近似関数140のピーク144より温度が低い側でピーク144に最も近い極大値を与える点と、近似関数140のうち、ピーク144より温度が高い側でピーク144に最も近い極小値を与える点とを特定し、それらにそれぞれ対応する温度T1及びT2を決定しボクセル選択部76に与える(ステップ190)。ボクセル選択部76は、対象領域画像記憶部54に記憶された抽出画像94のうち、温度の値が温度範囲T1〜T2に属するボクセルを選択し、平均値算出部64に与える。平均値算出部64はこれらボクセルの温度の平均値を算出し、平均値出力部66に与える(ステップ192)。平均値出力部66は、この平均値を所定の出力形式にしたがってモニタ68などに出力する(ステップ194)。このとき、前述したとおり、通常の被験者について測定された平均的な温度よりも1度以上高い温度が測定されたときには、脳室に血流低下が生じているという診断情報を表示しても良い。
【0060】
[実施の形態の効果]
このようにして測定した結果を、被験者のうち脳に近い部位である鼓膜の温度を直接測定する温度計による測定結果と比較したところ、両者の差はほぼ常に一定であることが分かった。両者の差は、体表に近い部分と、体深部より0.3から0.5℃高いとされる脳質の温度との関係を考慮すれば互いによく一致していることが分かった。したがって、上記実施の形態に係るMRI装置30によれば、側脳室内脊髄液の温度を精度高く測定できる。しかもこの実施の形態では所定部位に応じたDWIを何枚か撮影できれば、後は画像処理により側脳室内の温度を推定できる。被験者に長時間のMRIの撮影を強いることもなく、被験者の負担を小さくできる。本実施の形態によれば、被験者の側脳室のような、生体内の部分であって通常は測ることが難しい部位の温度を非侵襲で測定することができる。温度測定の結果により、血流低下が生じていることを高い確率で予測することができる。血流低下等を測定するために、従来はSPECT(Single photon emission computed tomography:単一光子放射断層撮影)又はPET(positron emission tomography:ポジトロン断層法)を用いることもできるが、いずれの場合にも被験者はある程度の量の放射線を被爆することになる。診断のための検査において放射線を使用した場合、その被爆によるリスクは予想外に高く、そうした意味で放射線を用いる検査は非侵襲とはいえないとする見方もある。さらにこれら装置を使用する場合、そのコストも10万円近くかかることが知られている。したがって、放射線を使わず、比較的容易に実施できる本実施の形態のような方法で生体内の温度を測定できることにはかなり大きなメリットがあると思われる。
【0061】
[変形例]
上記実施の形態の境界温度算出部62では、近似関数140のピーク144をはさむ位置で、1次導関数142の極大値及び近似関数140の極小値のうち、それぞれピーク144に最も近いものを検出し、それらを与える温度T1〜T2の範囲に属するボクセルのみを抽出している。しかし本発明は、そのような方法のみに限定されるわけではない。ピーク144をはさんで温度の低い側と高い側とでそれぞれ、何らかの形で明確に境界温度を特定でき、脊髄液の流れが生じていない可能性の高い領域のボクセルを選択できる基準であれば、どのような基準を採用してもよい。例えば、ピーク144より温度が低い側に近似関数140の極小値を探索していき、最初に見つかった極小値を温度範囲の下限とすることもできる。逆に、ピーク144より温度が高い側に1次導関数142の極小値を探索していき、最初に見つかった極小値を温度範囲の上限とすることもできる。このようにして定めた複数通りの下限のうちの最小のものと最大のものとの間の任意の位置で下限を定めることもできる。上限についても同様である。近似関数140の極小値及び極大値の探索には、近似関数140の1次導関数の符号がマイナスからプラスに転ずる点、及びプラスからマイナスに転ずる点をそれぞれ探せばよい。同様に、1次導関数144の極小値及び極大値の探索には、1次導関数の導関数(2次導関数)の符号がマイナスからプラスに転ずる点、及びプラスからマイナスに転ずる点をそれぞれ捜せばよい。こうした点は市販の数値処理プログラムを使用することで簡単に数値的に求めることができる。
【0062】
また、上記実施の形態に係るMRI装置30は、主として側脳室内脊髄液の温度を測定するために側脳室内脊髄液温度推定装置42を備えている。しかし、本発明は、側脳室内の脊髄液の温度を測定するだけではなく、生体のうち、通常は容易には測定できないような部位の温度を測定する際にも利用可能なことはいうまでもない。ただし、そうした測定が可能なのは、自由水が存在する部位に限られるという制限がある。
【0063】
さらに、上記実施の形態では、単に最終的に得られる平均値を出力しているだけだが、ボクセル選択部76で選択されたボクセルを、その温度に応じた色でモニタなどに表示することで、対象となる領域の温度分布を視覚的に確認できることも明らかである。
【0064】
上記実施の形態では、側脳室の全体だけではなく、マスク画像を切替えることで、左右の半分ずつ、及び前後の半分ずつに分割してそれぞれ温度を図ることができることは明らかである。同様の考え方により、測定したい領域が予め特定できている場合には、その領域に対応するマスク画像を準備することで任意の領域内の温度を測定できる。
【0065】
上記実施の形態では、最終的に抽出されたボクセルの平均値を表示している。この情報を、脳疾患の有無などの判定に有効に利用できる。しかし、本発明がそのような実施の形態に限定されるわけではないことは明らかである。例えば、上記したように対象領域を複数個の領域に分割してそれぞれ温度を測定する場合、各領域の温度を統計的に処理したり、予め準備された特定のパターンとの一致を見たりすることにより、より多彩な診断情報を得ることができる。仮に、特定の分割方法により測定した側脳室温度の分布がある一定のパターンに一致した場合には特定の疾病が存在している可能性が非常に高い、という統計的情報が予め準備できていれば、上記パターンとの比較により、疾病に関する診断結果を表示することも可能である。
【0066】
上記実施の形態では、近似関数140の近似関数として9次多項式が好ましいと記載した。この次数は、対象となる部位及び使用されるMRI測定装置によって変化する可能性があり、装置ごとに調整することが望ましい。
【0067】
また、上記実施の形態では式(2)を用いてDWIから温度マップへの変換を行なっている。しかし本発明は式(2)を用いる方法に限定されるわけではない。例えば、拡散係数から温度への変換式としてより正確なものと認められるものが得られれば、それを式(2)に代えて使用することができる。
【0068】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0069】
30 MRI装置
40 MRI測定部
42 側脳室内脊髄液温度推定装置
50 温度マップ変換部
52 対象領域抽出部
54 対象領域画像記憶部
56 ヒストグラム算出部
58 関数近似部
60 1次導関数演算部
62 境界温度算出部
64 平均値算出部
66 平均値出力部
76 ボクセル選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の拡散強調画像に基づいて生体内部の温度を測定する生体内部温度測定装置であって、
生体の拡散強調画像から、測定対象となる領域を抽出し、拡散係数から水分子の温度を推定するための所定の変換式にしたがって、温度マップ画像を作成するための温度マップ画像抽出手段と、
前記温度マップ画像において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定するための関数近似手段と、
前記近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、前記拡散強調画像のうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、前記近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定するための温度範囲推定手段と、
前記温度マップ画像抽出手段により抽出された温度マップ画像のうち、前記温度範囲推定手段により推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力するための平均値算出手段とを含む、生体内部温度測定装置。
【請求項2】
前記関数近似手段は、
前記温度マップ画像抽出手段により作成された温度マップ画像において、各温度範囲に属するボクセルのヒストグラムを作成するためのヒストグラム作成手段と、
前記ヒストグラム作成手段により作成されたヒストグラムを温度に関するN次多項式(Nは1以上の任意の整数)で近似するための多項式近似手段とを含む、請求項1に記載の生体内部温度測定装置。
【請求項3】
前記N次多項式は温度に関する9次多項式である、請求項2に記載の生体内部温度測定装置。
【請求項4】
前記温度範囲推定手段は、
前記関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、
前記ピーク温度より低温側で、前記1次導関数の値が極大値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度を前記温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、
前記ピーク温度より高温側で、前記近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度を前記温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含む、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生体内部温度測定装置。
【請求項5】
前記温度範囲推定手段は、
前記関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、
前記ピーク温度より低温側で、前記近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度を前記温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、
前記ピーク温度より高温側で、前記1次導関数の値が極小値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度を前記温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含む、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生体内部温度測定装置。
【請求項6】
前記温度範囲推定手段は、
前記関数近似手段により推定された近似関数の1次導関数を導出するための1次導関数演算手段と、
前記ピーク温度より低温側において、前記1次導関数の値が極大値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度と、前記近似関数の値が極小値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度との間の任意の温度を前記温度範囲の低温側境界に定めるための低温側境界決定手段と、
前記ピーク温度より高温側において、前記近似関数の値が極小値をとる温度であってかつ前記ピーク温度に最も近い温度と、前記1次導関数演算手段により導出された前記1次導関数の値が極小値をとる温度であって、かつ前記ピーク温度に最も近い温度との間の任意の温度を前記温度範囲の高温側境界に定めるための高温側境界決定手段とを含む、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の生体内部温度測定装置。
【請求項7】
被験者の体内で、測定対象となる領域の拡散強調画像を作成し出力するためのMRI測定手段と、
前記MRI測定手段の入力を受けるように接続され、前記被験者の前記測定対象となる領域の温度を測定するための、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の生体内部温度測定装置とを含むMRI装置。
【請求項8】
コンピュータにより実行されると、当該コンピュータを、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の生体内部温度測定装置として機能させる、コンピュータプログラム。
【請求項9】
生体の拡散強調画像に基づいて生体内部の温度を測定する生体内部温度測定方法であって、
生体の拡散強調画像から、測定対象となる領域を抽出し、拡散係数から水分子の温度を推定するための所定の変換式にしたがって、温度マップ画像を作成する温度マップ画像抽出ステップと、
前記温度マップ画像において、温度に対するボクセル数の分布を近似する近似関数を推定する関数近似ステップと、
前記近似関数の値の最大値を与えるピーク温度を含む温度範囲であって、前記拡散強調画像のうちで水分子の運動が拡散のみにより生ずる温度範囲を、前記近似関数の解析幾何学的特徴に基づいて推定する温度範囲推定ステップと、
前記温度マップ画像抽出ステップにおいて抽出された温度マップ画像のうち、前記温度範囲推定ステップにおいて推定された温度範囲の温度を有するボクセルの温度の平均値を算出し出力する平均値算出ステップとを含む、生体内部温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−212154(P2011−212154A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82165(P2010−82165)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(509349141)京都府公立大学法人 (19)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】