生体分子のクロマトグラフィー精製プロセスの最適化方法
【課題】本発明は生体分子のクロマトグラフィー精製の適切なパラメーターを見出すことに関する。
【解決手段】方法は平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程からなり、この一連の工程は部分的バッチ法で行う。小規模で、好ましくは複数の並行バッチで決定されたパラメーターは、得られた生体分子をカラムクロマトグラフィーにより適切に精製する、比較的大規模である場合にも適したクロマトグラフィー条件の情報を提供する。
【解決手段】方法は平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程からなり、この一連の工程は部分的バッチ法で行う。小規模で、好ましくは複数の並行バッチで決定されたパラメーターは、得られた生体分子をカラムクロマトグラフィーにより適切に精製する、比較的大規模である場合にも適したクロマトグラフィー条件の情報を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大規模で行うことが出来る生体分子のクロマトグラフィー精製プロセスの開発及び最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク、ポリヌクレオチド、多糖類等のような生体分子は、医薬、診断薬、食品添加物、洗剤等、多くの他の適用の為の研究試薬として商業的重要性が増してきている。前記生体分子の需要は一般的には天然資源からの分子の分離では満たすことができず(例えば蛋白の場合)生物工学的生産方法の使用が必要とされる。
【0003】
タンパクの生物学的製造は典型的には、所望のタンパクをコードするDNAの同定及び適切な発現ベクターにクローニングすることからはじめる。発現ベクターを適切な原核生物の又は真核生物の発現細胞にトランスフェクションし、続いてトランスフェクトされた細胞を選択し、後者を発酵槽中で培養し所望のタンパクを発現させる。続いて細胞又は培養上清を集めそこに含まれるタンパクを処理し、精製する。
【0004】
真核生物の発現系、すなわちCHO又はNS0細胞のような哺乳類の細胞培養の場合は、この15年の間に発現工程において細胞培養又は細胞培養上清中に得られる所望のタンパク濃度は100倍の増加が達成された。同じ時期において、後続するタンパクの精製において使用されるクロマトグラフィー材料の結合許容性は3倍しか改良されていない。この理由から、大規模な工業的規模での生体分子、特にたんぱく質の改良、最適化された精製プロセスが緊急に必要とされている。
【0005】
医薬として使用されるタンパク(例えば、治療用抗体)のような、生物製剤の場合は、製品の収率に加えて不純物の除去もまた非常に重要である。プロセス-依存性不純物及び製品-依存性不純物の間の区別が可能である。プロセス-依存性不純物にはタンパク及び核酸のような宿主細胞由来及び細胞培養由来(培地の内容物等)又は処理(塩又は脱離したクロマトグラフィー リガンド等)の成分を含む。製品-依存性不純物は異なる特性を有する製品の分子変異体である。これらは前躯体及び加水分解性の分解生成物のような短縮形態又は例えば脱アミノ化、不正確な糖修飾又は間違って結合したジスルフィド架橋によって製造された修飾された形態を含む。製品-依存性変異体はポリマー及び凝集体を含む。混入物という用語は直接製造工程に属しないすべての他の化学的、生物学的または微生物学的状態を意味するものとして使用する。混入物の例には細胞培養において望ましくなく起こるウィルスが含まれる。
【0006】
不純物及び混入物は、生物製剤の場合は安全性の懸念につながる。生物製剤の場合に良くあることであるが、治療用タンパクが直接血流の中に注射又は輸液により投与される場合に強調される。従って、宿主細胞成分はアレルギー反応又は免疫病理学的効果につながる場合がある。さらに、不純物は望ましくないタンパク投与の免疫原性につながることがあり、すなわちそれらは望ましくない免疫反応の引き金となり、治療薬を患者に投与することにより生命の危険のあるアナフィラキシーショックを起こす可能性がある。
従って、すべての望ましくない物質を取るに足らない濃度まで減少させる適切な精製プロセスの必要性がある。
【0007】
一方、経済的側面も生物製剤の場合は無視できない。従って、使用する製造及び精製方法は製造される生物製剤の経済的価値を危険にさらしてはいけない。さらに、新しい精製方法を確立することができる期間は重要な役割を果たす: その費用上の影響は別として、プロセス開発は薬物の前臨床及び臨床開発と調和していなければならない 。従って、例えば、一部の前臨床及びすべての臨床試験は十分な純度の十分な量の生物製剤の量が利用可能な時にのみ始めなければならない。
【0008】
以下の4つの基本的な工程を含む標準的な方法は大規模で行うことができる抗体の精製プロセスの開発の為の出発点として提供される。: 第1の工程において標的タンパクを分離され、濃縮され、安定化する(「捕獲」)。第2の工程においてウィルスは消失し、第3の工程において精製が行われ、核酸、他のタンパク及びエンドトキシンのような大部分の不純物は消失する。最後の工程においていかなる残存する不純物及び混入物も消失した(「ポリッシング」)。
【0009】
ろ過及び沈殿工程に加え(カラム)クロマトグラフィー法が非常に重要である。従って、捕獲はしばしばアフィニティークロマトグラフィーによる精製プロセスを含む。従って、使用可能な多数の公知のカラムクロマトグラフィー法及びクロマトグラフィー材料が存在する。しかしながら精製効果、収率、生物学的活性、時間、経費等に関して最適な材料及び方法を決定するために選択肢の増加と共にかつてない大量の予備試験を行わなければならない。
【0010】
精製プロセスを確立し、最適化する際には、精製する特定の分子(標的分子、標的タンパク)の生化学的及び生物物理学的特性及び生物学的出発物質が得られる条件に非常に個々に合わせなければならないという点にも留意しなければならない。標的物質を得ようとする生物学的出発物質は一般的に物質の非常に複雑な混合物から分離しなければならない。標的分子を分離し濃縮するために形、大きさ、溶解性、表面電荷、表面疎水性及び結合する相手への生体分子特異的親和性のようなその特定の特性が利用される。それぞれ新しい標的分子については、先行する工程のうちの1つが異なる(例えば、発酵のための培地の組成のが異なる)同じ標的分子であっても、新しい条件のもとでは上記観点からの可能な限り良い結果がもはや獲得されない可能性もあるので、プロセスを新たに調整しなければならない。
【0011】
同時に、多数の理論的に考え得る工程における代替物は、上記列挙した多数のパラメーターによって増強される。カラムクロマトグラフィーにおいては、例えば、クロマトグラフィー工程の全体の工程における順番、カラム材料、pH塩成分及び使用する溶出バッファーの様々な性質、カラムに負荷する際のタンパク濃度及び他の多くの条件を最適化しなければならない。このことは工業規模で安価な経費で妥当な時間枠内で最適化カラムクロマトグラフィー工程を開発することを実質的に不可能にしている。一方で他方、経済的実現性及び設備に関連する制限(生成物含有画分の体積を可能な限り小さく維持する為に、可能な限り少ない異なる種類のバッファーを可能な限り少ないバッファー及びクロマトグラフィー材料体積で使用する必要性及び工程時間及び排水の体積を最小化する必要性のように)はプロセスのそれぞれの独特の工程のための前記最適化を要求する。
【0012】
従来は、この問題は、限られた数のプロセスパラメータを変えながら連続的に行うことによって「試行錯誤」の原則に基づく多少系統的に行われた予備的試験でアプローチし、基本的に「機能している」プロセスを見つけることができるとすぐに、これらのトライアルを終わることにしている。従って、多くの観点(すなわち不純物の減少、同時に生物学的完成のロスが少ない高い生産収率等)から可能性のある工程の全ての重要なパラメーターの系統的な最適化は実質的に無いか又は非常に限られている。その結果、一般に、そのような方法で確立されたプロセスはあまり理想的ではない。
【0013】
あるいはまた、実験室規模の小さなカラム(例えば、約1mlのクロマトグラフィー材料を含む小さいカラム)を使用することで上記最適化を行うことを試みた。しかしながら、非常に限られた数のパラメーターしか手頃な経費で変化させることができず、負荷、洗浄及び溶出工程はこのより小さい規模においても非常に時間がかかった。
【0014】
縮小したスケールにおいて工程を最適化させる他のアプローチはWO2004/028658に見られる。生物学的サンプルのクロマトグラフィー材料への結合は、マルチウェルプレート上の並行バッチにおいてバッチ法で試験する。実際、この方法はこの結合工程の為の最適条件を迅速に費用効果的に決定することができる。しかしながら、こうして特定された条件下で最適な結果を、工業規模の条件下で使用することが必要とされるカラムクロマトグラフィー法においても達成することができるどうかを述べることは不可能である。また、この工程の最適化はクロマトグラフィー材料の負荷工程のみ、すなわち全体のプロセスのうちほんの少しの部分についての最適化である。
【0015】
従って、迅速及び安価に確立及び最適化しうるカラムクロマトグラフィー法による生体分子の精製プロセスについて緊急な必要性がまだあり、これらの工程はまた大規模な工業的生産及び精製条件下で満足な結果をもたらさなければならない。本発明の目的はそのようなプロセスを提供することである。
【発明の概要】
【0016】
上述した問題は請求項に列挙した方法で解決される。
特に、本発明は、生体分子の分離又は精製のためのクロマトグラフィー工程の為の適切なパラメーターを見いだす方法を提供し、前記方法は、小規模、例えばクロマトグラフィー材料のゲル床の体積が0.01〜2mlである、部分的バッチ法(クロマトグラフィー材料の懸濁を伴う又は伴わない工程)で平衡、負荷、洗浄及び溶出工程の系列を完備する。この方法において、1以上のパラメーターを多数の試験中に変化させることができ、これらの試験の結果からクロマトグラフィープロセスを行うことができる最適条件を導き出すことができる。こうして決定された最適化条件はクロマトグラフィー法、特により大きい規模で行うことができるカラムクロマトグラフィー法に適用することができる。
【0017】
「部分的バッチ法」という語は1以上の特定の工程(しかし全ての工程ではない)においてクロマトグラフィー材料が懸濁され、すなわちバッチプロセスにおいて加工することを意味する。クロマトグラフィー材料の懸濁が行われない工程は「従来の」カラムクロマトグラフィーの方法で特定のバッファー溶液、例えば溶出バッファーを堆積したゲル床に、ゲル床の懸濁を起こさずに適用し、例えば重力、遠心、圧力勾配の負荷等によりバッファーをカラム材料に流過させることにより行った。
【0018】
本発明において、上記問題を解決する為に、「部分的バッチ法」を行うこと、負荷工程中にクロマトグラフィー材料を懸濁するが、溶出工程(又は、数回の溶出工程中の複数の工程)においてはクロマトグラフィー材料の懸濁は避け、代わりに溶出溶液を堆積したゲル床を通じて直接移動させることが特に有用であることが証明された。
【0019】
もし、特定のクロマトグラフィー材料及び精製する生体分子の為の最適な付加、洗浄及び/又は溶出条件 が小規模、例えば約50μl〜2mlのクロマトグラフィー材料を用いて、上述の部分的バッチ法(例えばそれぞれの溶液のpH及び/又はイオン強度、タンパク濃度等のパラメーターを変化させることで、精製効果、収量及び生体分子の生物学的活性に関する最適な結果を決定する)で決定されたならば、たとえ大規模であっても、後者が部分的バッチ法で行われず、純粋なカラムクロマトグラフィー法のような従来の方法で、すなわち工業的な量に拡大できるような方法で行われたとしても、これらの条件は驚くべきことに高い再現性でカラムクロマトグラフィー法に移行することができる。言い換えると、縮小規模で行う部分的バッチ法はカラムクロマトグラフィー法の「モデル」として使用することができる。縮小化により従来の最適化プロセスと比べて実質的により安価で、より速い操作が可能となる。さらに、好ましい態様において、縮小化試験バッチは適切なサンプル容器(例えばマルチウェルフィルタープレートのような)及び装置(マルチ-チャンネルピペット、ピペッティングロボット)を用いて並行して多数行うことができ、同時に多数のパラメーターを変化させることができる。結果として精製する特定の生体分子のためのカラムクロマトグラフィー条件を決定することができる大量のデータを得、すべての重要なパラメーターに関して同時に最適化することができる。この種の最適化プロセスは従って安価で迅速でありクロマトグラフ分離方法のために適切なパラメーターの最適な選択において重要な進歩を構成する。従ってこの方法は、生体分子を精製するプロセス、かくして、この種の生体分子が使用される製品の品質と経済的価値を改良することにも主な貢献をする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の特に好ましい実施態様の部分的バッチ法を図示するフロー図を示す。
【図2】図2はロボットを用いた試験配置を図式的に示す。エタノール溶液を含むトラフ(1)、タンパク溶液を含むサンプル容器(2)、クロマトグラフィー材料の懸濁液を含むサンプル容器(3)、平衡化、洗浄及び溶出バッファーを入れたマイクロタイタープレート(4)、マイクロタイターフィルタープレート(5)及びピペットチップの供給(6)。
【図3】図3は実施例3において記載される実験結果をグラフで示す。図3.1〜図3.8の8つの図は、8つの異なるクロマトグラフィー材料を用いた「結合スクリーニング」の結果を示し、 図3.9〜図3.12の4つの図は4つの異なるクロマトグラフィー材料を用いた「溶出スクリーニング」の結果を示す。負荷工程(「流過」)、洗浄工程(「Wash1」)、3つの溶出工程「Elu1」〜「Elu3」における流過又は溶出液のキャビティあたり使用するタンパクの全量の%比率及び回収されたタンパクの全量(全タンパク量)が示される。図中に示された4つのバーの各群において、個々のバーはキャプション中に示された異なるpH及び塩濃度における結果を示す。
【図4】図4は実施例4で得られたタンパクmAb1(実線:タンパク濃度; 点線: 伝導率)のカラム-クロマトグラフィー精製及び対応する条件下のマルチウェルフィルタープレート内のふるい中のmAb1濃度の溶出プロファイルの比較を示す。
【図5】図5は実施例5に記載された実験の結果をグラフで示し、図5.1〜図5.4は4つの異なるクロマトグラフィー材料を用いたスクリーニングの結果を示す。負荷工程(「流過」)、洗浄工程(「Wash1」)、3つの溶出工程「Elu1」〜「Elu3」における流過又は溶出液のキャビティあたり使用するタンパクの全量の%比率及び回収されたタンパクの全量(全タンパク量)が示される。8つのバーの各群の中で個々のバーはキャプション中に示された異なる塩濃度における結果を示す。
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明においては、(1以上の)平衡化工程、(1以上の)負荷工程、(1以上の)洗浄工程及び(1以上の)溶出工程を含む生体分子の分離(精製)のクロマトグラフィー法のための適切なパラメーターが提供され、一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を部分的バッチ法で行うことに特徴を有する。好ましくは、負荷工程は少なくともクロマトグラフィー材料の懸濁を含み、クロマトグラフィー材料の懸濁は少なくとも1つの溶出工程中で省略する。本発明の1実施態様において、クロマトグラフィー材料を平衡化工程中再懸濁する(又は平衡化工程)。本発明の他の実施例において、クロマトグラフィー材料は洗浄工程又は複数の洗浄工程において懸濁され又は懸濁されない。全てのこれらの実施態様において、以下の工程、少なくともクロマトグラフィー材料(すなわちバッチ法により)の懸濁を伴う負荷工程、他の部分において少なくとも生体分子の溶出中に、クロマトグラフィー材料は懸濁されず、しかし代わりに溶出バッファーを非懸濁ゲル床にアプライするカラムクロマトグラフィーの工程、続いて溶出液を遠心、圧力勾配等により回収する工程、を行うことより成る部分的バッチ法を使用する。
【0022】
「クロマトグラフィー材料」はカラムクロマトグラフィーに従来法で使用されるすべての材料を意味する。
これらは以下の材料に分類される:
-アフィニティークロマトグラフィー、
-イオン交換クロマトグラフィー、特にアニオン-イオン交換及びカチオン交換クロマトグラフィー、
-疎水性相互作用クロマトグラフィー、
-「逆相」クロマトグラフィー、
-ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、
-「疎水性電荷誘導」クロマトグラフィー及び
-「混合モード」クロマトグラフィー、
しかしながら発明はこれらの群又は後述の材料に制限されない。
【0023】
アフィニティークロマトグラフィー用材料は、精製する生体分子に対し選択的及び特異的な結合性をクロマトグラフィー材料にもたらす担体材料に結合したリガンドを含む。抗体の生成に頻繁に使用するリガンドはStaphylococcus aureus由来の細胞壁タンパクであるプロテインA及び多数の変異体及びそれらの誘導体である。
【0024】
イオン交換 クロマトグラフィーに適切なクロマトグラフィー材料上の官能基の例としては、第4級ヒドロキシプロピルジエチルアミノエチル基、第4級トリメチルアミノエチル基又はジエチルアミノエチル基が挙げられる。カチオン交換クロマトグラフィーに適した基には、例えばスルホメチル基、スルホプロピル基及びカルボキシメチル基が含まれる。
【0025】
疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて、例えばエーテル及びメチルリガンド (タンパクとの弱い相互作用)又はブチル、フェニル及びオクチルリガンド(強力な相互作用)のようなアルキル及びアリールリガンドを使用しても良い。
【0026】
逆相クロマトグラフィーにおいて、アルキル又はアリールリガンドも使用されるが、リガンド密度は典型的に疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるよりも高い。
【0027】
「混合モード」及び「疎水性電荷誘導」クロマトグラフィーにおいては特に、それらのpHによって、生体分子との異なった相互作用を起こすリガンドが使用される。(たとえばBioSepra社製のMBI ハイパーセル(登録商標)吸着剤及び MEP ハイパーセル(登録商標)吸着剤)。
【0028】
平衡化バッファー溶液、試験溶液、洗浄溶液及び溶出溶液 (以下通常「バッファー溶液」と言う)例えばリン酸、Tris、酢酸、クエン酸又はグリシンバッファーに基づく溶液であっても良い。
【0029】
クロマトグラフィー材料の懸濁は例えば試料容器を(高周波)振とうすることにより(例えば振とう機を用いて)又はクロマトグラフィー材料をピペッティングすることにより行う。
【0030】
負荷工程においては特に、生体分子を含む試験溶液をクロマトグラフィー材料に加えた後にインキュベーション工程を行うことが必要である。もしクロマトグラフィー材料を試験溶液と共にあまりにも短い時間インキュベートする場合は 試験溶液を洗浄溶液で置換する前に生体分子がクロマトグラフィー材料に完全には結合しないと言う問題が生じるかもしれない。もしインキュベーション時間が長すぎれば、多くの生体分子にとって生体分子の変性が始まる危険性がある。生体分子のタイプ、試験バッファー及びクロマトグラフィー材料に依存して、それ故インキュベーション時間は上記の極値から選択しなければならない。しばしば、最適なインキュベーション時間は120分未満である。好ましくはインキュベーションは60分未満である。30分未満のインキュベーション時間が特に好ましい。
【0031】
本発明の「洗浄工程」はクロマトグラフィー材料の生体分子による負荷に続く工程である。遭遇する特定の問題に依存して、生体分子をこの工程間に溶出する意図であっても良い。この場合洗浄工程は溶出工程を構成し、すなわち洗浄及び溶出工程が同時である。
【0032】
特定の問題に依存して、試験溶液は負荷工程の間特定された生体分子又は生体分子の混合物を含んでいても良い。特定の問題に依存して特定された生体分子は、例えば確立又は最適化するべき工程において大規模で精製するタンパク又は例えば、精製するべきタンパクの凝集体又はプロテインA(前の精製プロセスにおいて任意にプロテインAカラムから放出される「浸出プロテインA」の除去性を評価するため)のような特定された不純物であっても良い。混合物は、例えば過剰-発現標的タンパクを含む宿主細胞タンパク混合物(HCP)のような、後の段階における大規模な精製の為の出発物質として使用する任意に予備的な遠心及び/又はろ過工程後の細胞溶解物であっても良い。
【0033】
先に説明したように、上記バッチ法で小規模で行う方法は、対応する大規模で行うカラムクロマトグラフィー精製プロセスのためのクロマトグラフィー条件を決定する為に使用され、最適な結果を得る。クロマトグラフィー材料の性質、バッファーの種類、イオン強度/伝導率、pH等のような選択された条件がより良い又はより悪い結果をもたらしたとしても、通常の方法で、少なくとも溶出工程の流過を分析することにより又は溶出された生体分子の量及び質(例えば、まだ存在している生物学的活性)の為の工程により決定することができる。さらに負荷工程及び洗浄工程(又は複数の洗浄工程)からの流過を集めて、好ましくは、選択した条件下におけるこれらの工程における生体分子の結合特性の全体像を得るために同様に分析する。流過及び溶出液の処理及び分析の性質はクロマトグラフィーの性質及び試料物質、すなわち生体分子又は生体分子の混合物に依存する。プロテインA アフィニティー クロマトグラフィーの場合であって、HCPs 及び過剰-発現標的タンパク(イムノグロブリン)の混合物によりカラムを負荷する場合は、例えば、試験溶液の負荷工程においてどれだけの比率のイムノグロブリンがクロマトグラフィー材料に結合するか (すなわち負荷工程からの流過に検出されないか)、洗浄工程又は複数の洗浄工程からの流過に現れるイムノグロブリンの量及び不純物、溶出工程又は複数の工程からの溶出液中に検出することができるイムノグロブリンの量及び純度及びどれだけの比率がまだ所望の生物学的活性を有しているかを検討することが興味深い。これらの知見は従来の方法、例えば分光法及び他のタンパク測定法で得ることができる。不純物の量は例えば、SDS-ゲル電気泳動又等電点電気泳動法(isoelectric focusing methods)を用いて検出及び定量することができる。
【0034】
本発明の特定の実施例において、イオン交換 クロマトグラフィーにおいて、負荷及び溶出条件は別の実験(結合及び溶出スクリーニング)において最適化され、いくつかの溶出工程は各場合における溶出スクリーニングで提供され、塩濃度は例えば各工程において段階的に変化させる。
【0035】
好ましい実施例において、平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程は平衡の多数の並行試験バッチで行う。最適なクロマトグラフィー条件を決定する為に、これらの条件は並行実験の結果において到達することのできる精製結果から特定の生体分子及び/又はクロマトグラフィー材料の為の最適なクロマトグラフィー条件を導き出すことができるように個々のテストバッチで適切に変動させる。並行実験のランニングはクロマトグラフィー材料及びバッファー溶液(平衡化バッファー溶液、任意に生体分子を含む試験溶液、洗浄溶液及び溶出溶液のような)を入れる複数のサンプル容器が提供されるマルチウェルフィルタープレートを使用することで可能となり、これらの容器は底の部分で、バッファー溶液を通すがクロマトグラフィー材料は通さないフィルター特性を有する材料で閉じられる。この種のマルチウェル又はマイクロタイターフィルタープレートは、例えばVarian(登録商標)社のキャプティバ(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.45μm)、Milipore(登録商標)社のマルチスクリーン(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.22μm、0.45μm及び0.65μm)及びNunc(登録商標)社のサイレントスクリーン(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.45μm)の商品名で購入可能である。クロマトグラフィー溶液及びバッファー溶液をプレートのサンプル容器に従来のマルチチャンネルピペット又はピペッティングロボット (例えば、Tecan(登録商標)社のフリーダム エボ 150(登録商標))を用いて入れることができる。
【0036】
ウェルにピペットで入れるクロマトグラフィー材料及びバッファー溶液の体積は変化しても良く、上記96ウェルのフィルタープレートのうちの1つを使用する場合は、好ましくは0.01〜2mlであり、より好ましくは0.05〜2mlである。クロマトグラフィー材料を最初にフィルタープレートに負荷する間、最初にフィルタープレートを例えば20% 又は10% エタノール溶液ですすぎ、その後、クロマトグラフィー材料を20%又は10% エタノール溶液による1〜60%(w/v)懸濁液として加えるのが好ましい。
【0037】
本発明のプロセスを並行試験バッチで行うことにより多数のカラムクロマトグラフィーパラメーターを同時に最適化することができ、かくして非常に短い期間と少ない材料で、決定された条件下、工業規模においても優れた精製の結果をもたらすカラムクロマトグラフィープロセスを開発することができる可能性を開く。このような方法でよりよいプロセスを達成することができ、費用的に開発時間や高価な材料(クロマトグラフィー材料、生体分子等)を節約することができる。
【0038】
最も特に好ましい実施態様に置いて、プロセスは以下の工程の順序で行った(図1も参照のこと):
(a) クロマトグラフィー材料の懸濁液をマルチウェルフィルタープレートの複数のウェル(サンプル容器)内に入れ、
(b) クロマトグラフィー材料の上の上清を遠心又は圧力差の適用により取り除くことで懸濁液を含むウェルの中に湿性ゲル床を作成し、
(c) ウェル内のクロマトグラフィー材料を平衡化するために平衡化溶液を湿性ゲル床 に加えゲル床を懸濁し任意に溶液と特定の時間インキュベートし(平衡化工程)、
(d) 湿性ゲル床を工程(b)に従って作製し、
(e) 任意に工程(c)及び(d)を数回、特に1、2又は3回繰り返し、
(f) クロマトグラフィー材料を負荷する為に、少なくとも1つの生体分子を含む試験溶液をゲル床に加え、ゲル床を懸濁し、任意に負荷溶液と共にインキュベートする(負荷工程)
(g) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造し、
(h) クロマトグラフィー材料を洗浄するために、洗浄溶液をゲル床に加え、ゲル床は任意に懸濁し任意に再びインキュベートし(洗浄工程)、
(i) 湿性ゲル床を工程(b)に従って作製し、
(k) 任意に工程(h)及び(i)を数回、特に1、2、又は3回繰り返し、使用する洗浄溶液は同じ又は異なる成分を含んで良く、任意にゲル床は懸濁しても懸濁しなくても良く、
(l) 生体分子を溶出する為に、ゲル床の懸濁を起こすことなく溶出溶液をゲル床に加え(溶出工程)、
(m) 工程(b)に従って湿性ゲル床を作製し溶出液を集め、
(n) 任意に工程(l)及び(m)を数回、特に1、2又は3回繰り返し、使用する洗浄溶液は同じ又は異なる成分を含んで良く、
(o) 溶出液を集め、分析する。
集めた溶出液及び他の流過を従来の方法を使用して濃度及び生物学的活性(特異的結合特性)の分析した後、当業者はどの試験バッチが最良の結果を出し、最適な結果を得るためにどの条件下で個々の工程を行うべきか判断することができるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、実施例を参照し以下により完全に記載されるが、発明の対象はこれらの実施例に限定されない。
【0040】
実施例
実施例1:本発明の1実施態様におけるプロセスを行うための一般的方法(並行試験バッチにおける自動化方法)
マルチウェルフィルタープレートは第1の工程において20%エタノール溶液ですすいだ。このために、溶液をプレートに注ぎこれを遠心し、エタノール溶液を遠心して取り除き下方に設置したマイクロタイタープレートで受け、続いて廃棄した。続いてフィルタープレートに各クロマトグラフィー材料の懸濁液を入れる。必要であれば、さらに20%エタノール溶液を懸濁液に加えることができる。遠心により材料が堆積され、液体は材料が全く乾いているというわけではない点まで排除する。流過もまた廃棄した。次にクロマトグラフィー材料の平衡化を行う(図1も参照のこと)。この目的のために、平衡化条件に対応するバッファーをクロマトグラフィー材料に加える。続いてバッファーと材料を混合するためにプレートをマイクロタイタープレート振とう機で最大速度でインキュベートし、次に再びバッファーを遠心して取り除き廃棄する。この工程は例として図1に図解した概略に従ってもう一度繰り返す。
【0041】
後続の負荷工程において、あらかじめ平衡化におけるものと同じpHレベル及び塩内容量に調節したタンパク溶液をクロマトグラフィー材料に加え、マイクロタイタープレート振とう機でインキュベートした。ろ過は流過(FT)を形成する。後続の洗浄及び溶出工程において、対応する調節されたバッファー(例えば実施例3及び5を参照)をクロマトグラフィー材料に加える。洗浄工程において任意にさらに振とう及びインキュベートを行うことができるが、一方溶出中はそのような振とうは行わない(「部分的バッチ法」)。各場合において液体層を遠心で取り除く。洗浄工程由来のろ液は「W」又は「Wash」及び連番で示され、溶出工程由来の物は同様に「E」又は「Elu」及び連番で示される。最後に、150μlの全ての廃棄しなかったろ液を適切なマイクロタイタープレートに280nmにおける光度を測定する為に移す。
【0042】
好ましくは、平衡化、負荷及び洗浄中、混合物を振とう及びインキュベートする。典型的にはpH及び/又は塩内容物を変化させて行う(例えば実施例3及び5を参照)溶出中は、溶出バッファーは対照的に慎重にクロマトグラフィー材料に加え混合及びインキュベートせずにすぐに完全に遠心する。
【0043】
表1は、典型的なインキュベーション時間に一例として提供されたデータを含む上記工程の典型的な系列を示す。洗浄バッファーはそのpH及び塩成分において平衡バッファーに対応する。体積及び遠心設定はこの場合Nunc(登録商標)社製のサイレントスクリーン(登録商標)マルチウェルフィルタープレートに調整している。2200rpm (毎分回転数:revolutions per minute)は1012gの相対加速度に対応し、1200rpm は301gに対応する。インキュベーションは最大スピード、すなわち約1400rpmでマイクロタイタープレートシェーカー上で行った。:
【0044】
表1:
【0045】
多数の並行試験を自動的に行う為に、ピペッティングロボットを好ましくは使用する。図2はこの種の方法において使用する典型的な配列を示す。トラフ(1)は上記エタノール溶液を含む。試験容器(2)及び(3)は生体分子を含む適切なpH値及び塩濃度に調整した試験溶液及びクロマトグラフィー材料の懸濁液を保持する。位置(4)において、平衡化、洗浄及び溶出バッファーを含むマイクロタイタープレート/DWPsが提供される。それらに続いてマルチウェルフィルタープレート(5)が提供される。
【0046】
実施例2:「部分的バッチ法」とバッチ法(全体)の2つの実施例の比較
部分的バッチ法をバッチ法と比較する。後者において振とう及びインキュベーションはすべての工程において行う。本発明の部分的バッチ法においては対照的に、混合物は平衡化及び負荷工程において振とうし、インキュベートし、遠心する(又は上清を他の方法でクロマトグラフィー材料から取り除く)が、溶出工程においては直ちに遠心を行う (又は上清を他の方法でクロマトグラフィー材料から取り除く)。本発明の1実施態様において振とう及びインキュベートも洗浄工程中行い、一方第2の実施態様において洗浄工程中に洗浄バッファーを注意深くアプライし、遠心又は他の方法によって急速に消失させる。
【0047】
どちらの方法が適切なクロマトグラフィー条件の最良な結果を示すか判断する為に、上述のプロセスについて疎水性相互作用クロマトグラフィーによって抗体の純度を試験する。フェニルセファロース 6 FFをクロマトグラフィー材料として使用する。使用した抗体はpH6.5の50mM TRISバッファーの伝導率が硫酸アンモニウムにより120mS・cm-1まで増加すると結合する。従って、平衡化及び洗浄バッファー及びタンパク-含有負荷溶液はこれらの条件に調整する。溶出バッファーはより少ない硫酸アンモニウムを含みその伝導率は50mS・cm-1であった。平衡化のためのインキュベーション時間は各場合において5分間、適用可能であれば負荷に21分間、洗浄に9分間であった。集めた画分(負荷における流過: FT; 洗浄工程: W1〜W3、溶出工程: E1〜E4)の回収率を表2に示す。
【0048】
表2:
【0049】
表2から明らかなように部分的バッチ法の83.2%又は78.2%の回収率は、約2/3しか回収することができなかったバッチ法におけるより少し高かった。さらに、この実験はバッチ法において、特に溶出工程において部分的バッチ法に比べて再現性が有意に悪いことを示した。この点において洗浄工程中懸濁する実施態様に従った部分的バッチ法は特に良好な結果を残した。結果の信頼できる再現性は最適なクロマトグラフィー条件の移行可能性にとって、かくしてより大規模で行うカラムクロマトグラフィープロセス工程を決定する重要な必要条件である。
【0050】
実施例3:モノクロナール抗体の生成における適切なカチオン交換材料及び適切なクロマトグラフィー条件のスクリーニングのための本発明の加工の使用
真核生物の細胞培養における抗体の調製において、標的タンパクは典型的に培養液中に分泌された他の生体分子との複雑な混合物タンパクとして存在する。モノクロナール抗体 mAb1のためにはカチオン交換を用いた抗体の濃縮のための最適条件を決定するために、以下のスクリーニングを行う:
【0051】
結合スクリーニング:
2つのスクリーニングランが最適なクロマトグラフィー材料及び理想的な結合条件(結合スクリーニング)を決定するために使用された。以下のクロマトグラフィー材料が試験された:
【0052】
第1ラン: SPセファロース(登録商標)、トーヨーパール(登録商標)SP650M、トーヨーパール(登録商標)SP550C、EMDフラクトゲル(登録商標)SO3;
第2ラン: CMセラミックハイパーDLS(登録商標)、SセラミックハイパーDF(登録商標)、ポロス50HS(登録商標)、CMセファロースFF
【0053】
本明細書のSP及びHSは、の基礎マトリックスに共有結合的に結合した官能基としてのスルホプロピル基を意味し、SO3はスルホイソブチル基を意味し、CMはカルボキシメチル基を意味しSはスルホン酸基を意味する。
【0054】
使用したタンパク溶液、すなわち発現細胞を発酵させた後に遠心及びろ過することにより得た細胞培養上清は表3.1に示される条件に調整した。:
【0055】
表3.1: 第1及び第2ランにおける負荷プール(mAb1を含む試験溶液)の条件
20% エタノール溶液によるクロマトグラフィー材料の10% 懸濁液を使用し0.05 mlのゲル床を作製した。上記の部分的バッチ法でスクリーニングを行った (洗浄工程中の懸濁液を用いて)。2つの平衡工程の後タンパク溶液による負荷 (mAb1を含む試験溶液; 表3.1参照)及び洗浄工程を行った。続いて3つの工程で溶出を行った。バッファーを実施例1に記載された試験配置に従って、表3.2及び3.3に特定したように2つのディープウェルプレートに入れ(2 mlの容量のマルチウェルプレート;以降、DWPと言う)各条件について3回測定を行った。これらの測定値は、後続のrProtA-HPLC(マトリックスに結合したリコンビナントタンパクを用いた分析的アフィニティークロマトグラフィー)による抗体濃度の決定の間収集した。
【0056】
表 3.2:ディーププレート1におけるバッファー条件及び配置
【0057】
表3.3: ディープウェルプレート2におけるバッファー条件及び配置
流過又は各画分の溶出液中に見られるmAB1濃度を図3.1〜3.8に示す。選択された画分及び結合特性について回収物に基づきSDS-PAGE分析を行い、以下のクロマトグラフィー マトリックスを溶出スクリーニング用に選択した(最適な溶出条件の為のスクリーニング): SP セファロース(登録商標)FF、トーヨーパール(登録商標) SP 650 M、ポロス(登録商標) 50 HS、EMD フラクトゲル(登録商標)SO3。
【0058】
溶出スクリーニング:
溶出スクリーニングにおいてmAb1を含む細胞を含まない培養上清のpHを表3.4において示すように5.0及び6.5に調製する:
【0059】
表 3.4: 第1及び第2ランにおけるプール(mAb1を含む試験溶液)の負荷条件
【0060】
平衡、洗浄及び溶出工程の為、表3.5及び3.6に挙げたバッファーをディープウェルプレートに加えた。:
【0061】
表 3.5: バッファー条件及びディープウェルプレート1上の配置
【0062】
表3.6: バッファー条件及びディープウェルプレート2上の配置
【0063】
図3.9〜3.12はグラフで特定の条件下にそれぞれの工程でウェルあたりに適用したmAb1の全量に対する%量を示す。標的タンパクの回収及び有利な低塩濃度(工業規模にとって、例えば運搬費の経費を最小限に抑えるのに望ましい)に関しては、EMDフラクトゲル(登録商標)SO3にpH5で負荷し、pH6.5、0.05M塩濃度で溶出するのが適切な条件(図3.12、B10-B12参照)であることが確認された。
【0064】
実施例4:マイクロウェルフィルタープレートにおける本発明のスクリーニング方法の結果と従来のカラム実験の結果が相関する可能性
実施例3において決定した最適条件を使用して、カラム クロマトグラフィー 実験を1 mlの床体積を用いて行った。流速は0.5 ml/分であった。カラムの負荷は0 M NaClの塩濃度でpH 5で行った。洗浄工程は同じ条件下で行う。溶出には段階的な勾配0 / 0.05 / 0.1 / 0.2 M NaClを使用した。これはEMD フラクトゲル(登録商標) SO3を使用し 結合工程をpH 5で、溶出工程をpH 6.5で行うマイクロ-ウェルフィルタープレートにおけるスクリーン条件を模倣している。
【0065】
図4において、上記方法で行ったカラムクロマトグラフィーの溶出プロファイル(実線: タンパク濃度 ;点線:伝導率)、実施例3における対応する条件下でのマルチウェルフィルタープレート内における本発明のスクリーニングにおいて得た (bars) ウェルあたりアプライしたmAb1の全量に対する%量を重ねて示した。流過及び溶出液のSDS-PAGEによるさらなる分析は、ピーク内におけるmAb1生成物の分布がスクリーニングにおけるピークと一致する、すなわち濃縮したmAb1が対応する溶出液に存在することを示すことができた。本発明の方法によって見つけた最適化クロマトグラフィー条件をクロマトグラフィー カラムを使用する方法に適用することができることを示している。
【0066】
実施例5:異なるクロマトグラフィー条件下におけるモノクロナール抗体の疎水性相互作用マトリックスにおける動態のスクリーニング
この例のために、第一段階においてリコンビナントプロテインAアフィニティークロマトグラフィー抗体で濃縮した mAb2を使用した。スクリーニングの目的は次の工程においてmAb2抗体に関して結合又は流過状態かどうかを検討すべきであり、すなわち抗体をカラムに結合させ不純物をできるだけ流過させるか又は抗体を流過させ、それらをカラム材料に結合させることにより不純物を濃縮することによってさらなる精製効果が達成できるのかどうかを決定するためにクロマトグラフィー材料としての疎水性相互作用マトリックスに対するmAb2の動態を決定することである。
【0067】
以下のクロマトグラフィー材料を使用した:フェニルセファロース(登録商標)HP、フェニルセファロース(登録商標)FF、トーヨーパール(登録商標)フェニル及びトーヨーパール(登録商標)ブチル。使用するタンパクは表5.1に特定する条件に調整した:
【0068】
表 5.1: 第1及び第2ランにおける負荷プールの条件(mAb2を含む試験溶液)
【0069】
クロマトグラフィー材料の20% エタノール溶液による10% 懸濁液を使用し、0.05 mlのゲル床を作製した。部分的バッチ法を使用した。実施例3におけるように、2つの平衡化工程の後にタンパク-含有試験溶液による負荷を行い(表5.1参照)、続いて洗浄工程 (クロマトグラフィー材料の懸濁液を用いて)を行った。溶出は続いて3つの工程で行った。バッファーは実施例1に記載された試験配置に従って表5.2及び5.3に示すように2つのディープウェルプレートに入れた。各条件につき3回測定を行った。スクリーニングに用いたタンパク溶液には微量の不純物が存在するので、生成物の濃度は続いてマイクロタイタープレート光度計を用いて280nmにおける吸収で測定することができる。
【0070】
表5.2: バッファー条件及びディープウェルプレート1上の配置
表 5.3: バッファー条件及びディープウェルプレート2上の配置
【0071】
各画分の生成物濃度は図5.1〜5.4に示す。mAb2は、疎水性マトリックスに非常に高い塩濃度においてのみ結合することが示された。従ってmAb2の場合疎水性相互作用クロマトグラフィープロセス工程をスルーフロークロマトグラフィープロセスとして構成することがより好ましい。この為の最適条件は、本発明の方法を使用してさらにスクリーニングすることにより、容易に低い経費で決定することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は大規模で行うことが出来る生体分子のクロマトグラフィー精製プロセスの開発及び最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク、ポリヌクレオチド、多糖類等のような生体分子は、医薬、診断薬、食品添加物、洗剤等、多くの他の適用の為の研究試薬として商業的重要性が増してきている。前記生体分子の需要は一般的には天然資源からの分子の分離では満たすことができず(例えば蛋白の場合)生物工学的生産方法の使用が必要とされる。
【0003】
タンパクの生物学的製造は典型的には、所望のタンパクをコードするDNAの同定及び適切な発現ベクターにクローニングすることからはじめる。発現ベクターを適切な原核生物の又は真核生物の発現細胞にトランスフェクションし、続いてトランスフェクトされた細胞を選択し、後者を発酵槽中で培養し所望のタンパクを発現させる。続いて細胞又は培養上清を集めそこに含まれるタンパクを処理し、精製する。
【0004】
真核生物の発現系、すなわちCHO又はNS0細胞のような哺乳類の細胞培養の場合は、この15年の間に発現工程において細胞培養又は細胞培養上清中に得られる所望のタンパク濃度は100倍の増加が達成された。同じ時期において、後続するタンパクの精製において使用されるクロマトグラフィー材料の結合許容性は3倍しか改良されていない。この理由から、大規模な工業的規模での生体分子、特にたんぱく質の改良、最適化された精製プロセスが緊急に必要とされている。
【0005】
医薬として使用されるタンパク(例えば、治療用抗体)のような、生物製剤の場合は、製品の収率に加えて不純物の除去もまた非常に重要である。プロセス-依存性不純物及び製品-依存性不純物の間の区別が可能である。プロセス-依存性不純物にはタンパク及び核酸のような宿主細胞由来及び細胞培養由来(培地の内容物等)又は処理(塩又は脱離したクロマトグラフィー リガンド等)の成分を含む。製品-依存性不純物は異なる特性を有する製品の分子変異体である。これらは前躯体及び加水分解性の分解生成物のような短縮形態又は例えば脱アミノ化、不正確な糖修飾又は間違って結合したジスルフィド架橋によって製造された修飾された形態を含む。製品-依存性変異体はポリマー及び凝集体を含む。混入物という用語は直接製造工程に属しないすべての他の化学的、生物学的または微生物学的状態を意味するものとして使用する。混入物の例には細胞培養において望ましくなく起こるウィルスが含まれる。
【0006】
不純物及び混入物は、生物製剤の場合は安全性の懸念につながる。生物製剤の場合に良くあることであるが、治療用タンパクが直接血流の中に注射又は輸液により投与される場合に強調される。従って、宿主細胞成分はアレルギー反応又は免疫病理学的効果につながる場合がある。さらに、不純物は望ましくないタンパク投与の免疫原性につながることがあり、すなわちそれらは望ましくない免疫反応の引き金となり、治療薬を患者に投与することにより生命の危険のあるアナフィラキシーショックを起こす可能性がある。
従って、すべての望ましくない物質を取るに足らない濃度まで減少させる適切な精製プロセスの必要性がある。
【0007】
一方、経済的側面も生物製剤の場合は無視できない。従って、使用する製造及び精製方法は製造される生物製剤の経済的価値を危険にさらしてはいけない。さらに、新しい精製方法を確立することができる期間は重要な役割を果たす: その費用上の影響は別として、プロセス開発は薬物の前臨床及び臨床開発と調和していなければならない 。従って、例えば、一部の前臨床及びすべての臨床試験は十分な純度の十分な量の生物製剤の量が利用可能な時にのみ始めなければならない。
【0008】
以下の4つの基本的な工程を含む標準的な方法は大規模で行うことができる抗体の精製プロセスの開発の為の出発点として提供される。: 第1の工程において標的タンパクを分離され、濃縮され、安定化する(「捕獲」)。第2の工程においてウィルスは消失し、第3の工程において精製が行われ、核酸、他のタンパク及びエンドトキシンのような大部分の不純物は消失する。最後の工程においていかなる残存する不純物及び混入物も消失した(「ポリッシング」)。
【0009】
ろ過及び沈殿工程に加え(カラム)クロマトグラフィー法が非常に重要である。従って、捕獲はしばしばアフィニティークロマトグラフィーによる精製プロセスを含む。従って、使用可能な多数の公知のカラムクロマトグラフィー法及びクロマトグラフィー材料が存在する。しかしながら精製効果、収率、生物学的活性、時間、経費等に関して最適な材料及び方法を決定するために選択肢の増加と共にかつてない大量の予備試験を行わなければならない。
【0010】
精製プロセスを確立し、最適化する際には、精製する特定の分子(標的分子、標的タンパク)の生化学的及び生物物理学的特性及び生物学的出発物質が得られる条件に非常に個々に合わせなければならないという点にも留意しなければならない。標的物質を得ようとする生物学的出発物質は一般的に物質の非常に複雑な混合物から分離しなければならない。標的分子を分離し濃縮するために形、大きさ、溶解性、表面電荷、表面疎水性及び結合する相手への生体分子特異的親和性のようなその特定の特性が利用される。それぞれ新しい標的分子については、先行する工程のうちの1つが異なる(例えば、発酵のための培地の組成のが異なる)同じ標的分子であっても、新しい条件のもとでは上記観点からの可能な限り良い結果がもはや獲得されない可能性もあるので、プロセスを新たに調整しなければならない。
【0011】
同時に、多数の理論的に考え得る工程における代替物は、上記列挙した多数のパラメーターによって増強される。カラムクロマトグラフィーにおいては、例えば、クロマトグラフィー工程の全体の工程における順番、カラム材料、pH塩成分及び使用する溶出バッファーの様々な性質、カラムに負荷する際のタンパク濃度及び他の多くの条件を最適化しなければならない。このことは工業規模で安価な経費で妥当な時間枠内で最適化カラムクロマトグラフィー工程を開発することを実質的に不可能にしている。一方で他方、経済的実現性及び設備に関連する制限(生成物含有画分の体積を可能な限り小さく維持する為に、可能な限り少ない異なる種類のバッファーを可能な限り少ないバッファー及びクロマトグラフィー材料体積で使用する必要性及び工程時間及び排水の体積を最小化する必要性のように)はプロセスのそれぞれの独特の工程のための前記最適化を要求する。
【0012】
従来は、この問題は、限られた数のプロセスパラメータを変えながら連続的に行うことによって「試行錯誤」の原則に基づく多少系統的に行われた予備的試験でアプローチし、基本的に「機能している」プロセスを見つけることができるとすぐに、これらのトライアルを終わることにしている。従って、多くの観点(すなわち不純物の減少、同時に生物学的完成のロスが少ない高い生産収率等)から可能性のある工程の全ての重要なパラメーターの系統的な最適化は実質的に無いか又は非常に限られている。その結果、一般に、そのような方法で確立されたプロセスはあまり理想的ではない。
【0013】
あるいはまた、実験室規模の小さなカラム(例えば、約1mlのクロマトグラフィー材料を含む小さいカラム)を使用することで上記最適化を行うことを試みた。しかしながら、非常に限られた数のパラメーターしか手頃な経費で変化させることができず、負荷、洗浄及び溶出工程はこのより小さい規模においても非常に時間がかかった。
【0014】
縮小したスケールにおいて工程を最適化させる他のアプローチはWO2004/028658に見られる。生物学的サンプルのクロマトグラフィー材料への結合は、マルチウェルプレート上の並行バッチにおいてバッチ法で試験する。実際、この方法はこの結合工程の為の最適条件を迅速に費用効果的に決定することができる。しかしながら、こうして特定された条件下で最適な結果を、工業規模の条件下で使用することが必要とされるカラムクロマトグラフィー法においても達成することができるどうかを述べることは不可能である。また、この工程の最適化はクロマトグラフィー材料の負荷工程のみ、すなわち全体のプロセスのうちほんの少しの部分についての最適化である。
【0015】
従って、迅速及び安価に確立及び最適化しうるカラムクロマトグラフィー法による生体分子の精製プロセスについて緊急な必要性がまだあり、これらの工程はまた大規模な工業的生産及び精製条件下で満足な結果をもたらさなければならない。本発明の目的はそのようなプロセスを提供することである。
【発明の概要】
【0016】
上述した問題は請求項に列挙した方法で解決される。
特に、本発明は、生体分子の分離又は精製のためのクロマトグラフィー工程の為の適切なパラメーターを見いだす方法を提供し、前記方法は、小規模、例えばクロマトグラフィー材料のゲル床の体積が0.01〜2mlである、部分的バッチ法(クロマトグラフィー材料の懸濁を伴う又は伴わない工程)で平衡、負荷、洗浄及び溶出工程の系列を完備する。この方法において、1以上のパラメーターを多数の試験中に変化させることができ、これらの試験の結果からクロマトグラフィープロセスを行うことができる最適条件を導き出すことができる。こうして決定された最適化条件はクロマトグラフィー法、特により大きい規模で行うことができるカラムクロマトグラフィー法に適用することができる。
【0017】
「部分的バッチ法」という語は1以上の特定の工程(しかし全ての工程ではない)においてクロマトグラフィー材料が懸濁され、すなわちバッチプロセスにおいて加工することを意味する。クロマトグラフィー材料の懸濁が行われない工程は「従来の」カラムクロマトグラフィーの方法で特定のバッファー溶液、例えば溶出バッファーを堆積したゲル床に、ゲル床の懸濁を起こさずに適用し、例えば重力、遠心、圧力勾配の負荷等によりバッファーをカラム材料に流過させることにより行った。
【0018】
本発明において、上記問題を解決する為に、「部分的バッチ法」を行うこと、負荷工程中にクロマトグラフィー材料を懸濁するが、溶出工程(又は、数回の溶出工程中の複数の工程)においてはクロマトグラフィー材料の懸濁は避け、代わりに溶出溶液を堆積したゲル床を通じて直接移動させることが特に有用であることが証明された。
【0019】
もし、特定のクロマトグラフィー材料及び精製する生体分子の為の最適な付加、洗浄及び/又は溶出条件 が小規模、例えば約50μl〜2mlのクロマトグラフィー材料を用いて、上述の部分的バッチ法(例えばそれぞれの溶液のpH及び/又はイオン強度、タンパク濃度等のパラメーターを変化させることで、精製効果、収量及び生体分子の生物学的活性に関する最適な結果を決定する)で決定されたならば、たとえ大規模であっても、後者が部分的バッチ法で行われず、純粋なカラムクロマトグラフィー法のような従来の方法で、すなわち工業的な量に拡大できるような方法で行われたとしても、これらの条件は驚くべきことに高い再現性でカラムクロマトグラフィー法に移行することができる。言い換えると、縮小規模で行う部分的バッチ法はカラムクロマトグラフィー法の「モデル」として使用することができる。縮小化により従来の最適化プロセスと比べて実質的により安価で、より速い操作が可能となる。さらに、好ましい態様において、縮小化試験バッチは適切なサンプル容器(例えばマルチウェルフィルタープレートのような)及び装置(マルチ-チャンネルピペット、ピペッティングロボット)を用いて並行して多数行うことができ、同時に多数のパラメーターを変化させることができる。結果として精製する特定の生体分子のためのカラムクロマトグラフィー条件を決定することができる大量のデータを得、すべての重要なパラメーターに関して同時に最適化することができる。この種の最適化プロセスは従って安価で迅速でありクロマトグラフ分離方法のために適切なパラメーターの最適な選択において重要な進歩を構成する。従ってこの方法は、生体分子を精製するプロセス、かくして、この種の生体分子が使用される製品の品質と経済的価値を改良することにも主な貢献をする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の特に好ましい実施態様の部分的バッチ法を図示するフロー図を示す。
【図2】図2はロボットを用いた試験配置を図式的に示す。エタノール溶液を含むトラフ(1)、タンパク溶液を含むサンプル容器(2)、クロマトグラフィー材料の懸濁液を含むサンプル容器(3)、平衡化、洗浄及び溶出バッファーを入れたマイクロタイタープレート(4)、マイクロタイターフィルタープレート(5)及びピペットチップの供給(6)。
【図3】図3は実施例3において記載される実験結果をグラフで示す。図3.1〜図3.8の8つの図は、8つの異なるクロマトグラフィー材料を用いた「結合スクリーニング」の結果を示し、 図3.9〜図3.12の4つの図は4つの異なるクロマトグラフィー材料を用いた「溶出スクリーニング」の結果を示す。負荷工程(「流過」)、洗浄工程(「Wash1」)、3つの溶出工程「Elu1」〜「Elu3」における流過又は溶出液のキャビティあたり使用するタンパクの全量の%比率及び回収されたタンパクの全量(全タンパク量)が示される。図中に示された4つのバーの各群において、個々のバーはキャプション中に示された異なるpH及び塩濃度における結果を示す。
【図4】図4は実施例4で得られたタンパクmAb1(実線:タンパク濃度; 点線: 伝導率)のカラム-クロマトグラフィー精製及び対応する条件下のマルチウェルフィルタープレート内のふるい中のmAb1濃度の溶出プロファイルの比較を示す。
【図5】図5は実施例5に記載された実験の結果をグラフで示し、図5.1〜図5.4は4つの異なるクロマトグラフィー材料を用いたスクリーニングの結果を示す。負荷工程(「流過」)、洗浄工程(「Wash1」)、3つの溶出工程「Elu1」〜「Elu3」における流過又は溶出液のキャビティあたり使用するタンパクの全量の%比率及び回収されたタンパクの全量(全タンパク量)が示される。8つのバーの各群の中で個々のバーはキャプション中に示された異なる塩濃度における結果を示す。
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明においては、(1以上の)平衡化工程、(1以上の)負荷工程、(1以上の)洗浄工程及び(1以上の)溶出工程を含む生体分子の分離(精製)のクロマトグラフィー法のための適切なパラメーターが提供され、一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を部分的バッチ法で行うことに特徴を有する。好ましくは、負荷工程は少なくともクロマトグラフィー材料の懸濁を含み、クロマトグラフィー材料の懸濁は少なくとも1つの溶出工程中で省略する。本発明の1実施態様において、クロマトグラフィー材料を平衡化工程中再懸濁する(又は平衡化工程)。本発明の他の実施例において、クロマトグラフィー材料は洗浄工程又は複数の洗浄工程において懸濁され又は懸濁されない。全てのこれらの実施態様において、以下の工程、少なくともクロマトグラフィー材料(すなわちバッチ法により)の懸濁を伴う負荷工程、他の部分において少なくとも生体分子の溶出中に、クロマトグラフィー材料は懸濁されず、しかし代わりに溶出バッファーを非懸濁ゲル床にアプライするカラムクロマトグラフィーの工程、続いて溶出液を遠心、圧力勾配等により回収する工程、を行うことより成る部分的バッチ法を使用する。
【0022】
「クロマトグラフィー材料」はカラムクロマトグラフィーに従来法で使用されるすべての材料を意味する。
これらは以下の材料に分類される:
-アフィニティークロマトグラフィー、
-イオン交換クロマトグラフィー、特にアニオン-イオン交換及びカチオン交換クロマトグラフィー、
-疎水性相互作用クロマトグラフィー、
-「逆相」クロマトグラフィー、
-ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、
-「疎水性電荷誘導」クロマトグラフィー及び
-「混合モード」クロマトグラフィー、
しかしながら発明はこれらの群又は後述の材料に制限されない。
【0023】
アフィニティークロマトグラフィー用材料は、精製する生体分子に対し選択的及び特異的な結合性をクロマトグラフィー材料にもたらす担体材料に結合したリガンドを含む。抗体の生成に頻繁に使用するリガンドはStaphylococcus aureus由来の細胞壁タンパクであるプロテインA及び多数の変異体及びそれらの誘導体である。
【0024】
イオン交換 クロマトグラフィーに適切なクロマトグラフィー材料上の官能基の例としては、第4級ヒドロキシプロピルジエチルアミノエチル基、第4級トリメチルアミノエチル基又はジエチルアミノエチル基が挙げられる。カチオン交換クロマトグラフィーに適した基には、例えばスルホメチル基、スルホプロピル基及びカルボキシメチル基が含まれる。
【0025】
疎水性相互作用クロマトグラフィーにおいて、例えばエーテル及びメチルリガンド (タンパクとの弱い相互作用)又はブチル、フェニル及びオクチルリガンド(強力な相互作用)のようなアルキル及びアリールリガンドを使用しても良い。
【0026】
逆相クロマトグラフィーにおいて、アルキル又はアリールリガンドも使用されるが、リガンド密度は典型的に疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるよりも高い。
【0027】
「混合モード」及び「疎水性電荷誘導」クロマトグラフィーにおいては特に、それらのpHによって、生体分子との異なった相互作用を起こすリガンドが使用される。(たとえばBioSepra社製のMBI ハイパーセル(登録商標)吸着剤及び MEP ハイパーセル(登録商標)吸着剤)。
【0028】
平衡化バッファー溶液、試験溶液、洗浄溶液及び溶出溶液 (以下通常「バッファー溶液」と言う)例えばリン酸、Tris、酢酸、クエン酸又はグリシンバッファーに基づく溶液であっても良い。
【0029】
クロマトグラフィー材料の懸濁は例えば試料容器を(高周波)振とうすることにより(例えば振とう機を用いて)又はクロマトグラフィー材料をピペッティングすることにより行う。
【0030】
負荷工程においては特に、生体分子を含む試験溶液をクロマトグラフィー材料に加えた後にインキュベーション工程を行うことが必要である。もしクロマトグラフィー材料を試験溶液と共にあまりにも短い時間インキュベートする場合は 試験溶液を洗浄溶液で置換する前に生体分子がクロマトグラフィー材料に完全には結合しないと言う問題が生じるかもしれない。もしインキュベーション時間が長すぎれば、多くの生体分子にとって生体分子の変性が始まる危険性がある。生体分子のタイプ、試験バッファー及びクロマトグラフィー材料に依存して、それ故インキュベーション時間は上記の極値から選択しなければならない。しばしば、最適なインキュベーション時間は120分未満である。好ましくはインキュベーションは60分未満である。30分未満のインキュベーション時間が特に好ましい。
【0031】
本発明の「洗浄工程」はクロマトグラフィー材料の生体分子による負荷に続く工程である。遭遇する特定の問題に依存して、生体分子をこの工程間に溶出する意図であっても良い。この場合洗浄工程は溶出工程を構成し、すなわち洗浄及び溶出工程が同時である。
【0032】
特定の問題に依存して、試験溶液は負荷工程の間特定された生体分子又は生体分子の混合物を含んでいても良い。特定の問題に依存して特定された生体分子は、例えば確立又は最適化するべき工程において大規模で精製するタンパク又は例えば、精製するべきタンパクの凝集体又はプロテインA(前の精製プロセスにおいて任意にプロテインAカラムから放出される「浸出プロテインA」の除去性を評価するため)のような特定された不純物であっても良い。混合物は、例えば過剰-発現標的タンパクを含む宿主細胞タンパク混合物(HCP)のような、後の段階における大規模な精製の為の出発物質として使用する任意に予備的な遠心及び/又はろ過工程後の細胞溶解物であっても良い。
【0033】
先に説明したように、上記バッチ法で小規模で行う方法は、対応する大規模で行うカラムクロマトグラフィー精製プロセスのためのクロマトグラフィー条件を決定する為に使用され、最適な結果を得る。クロマトグラフィー材料の性質、バッファーの種類、イオン強度/伝導率、pH等のような選択された条件がより良い又はより悪い結果をもたらしたとしても、通常の方法で、少なくとも溶出工程の流過を分析することにより又は溶出された生体分子の量及び質(例えば、まだ存在している生物学的活性)の為の工程により決定することができる。さらに負荷工程及び洗浄工程(又は複数の洗浄工程)からの流過を集めて、好ましくは、選択した条件下におけるこれらの工程における生体分子の結合特性の全体像を得るために同様に分析する。流過及び溶出液の処理及び分析の性質はクロマトグラフィーの性質及び試料物質、すなわち生体分子又は生体分子の混合物に依存する。プロテインA アフィニティー クロマトグラフィーの場合であって、HCPs 及び過剰-発現標的タンパク(イムノグロブリン)の混合物によりカラムを負荷する場合は、例えば、試験溶液の負荷工程においてどれだけの比率のイムノグロブリンがクロマトグラフィー材料に結合するか (すなわち負荷工程からの流過に検出されないか)、洗浄工程又は複数の洗浄工程からの流過に現れるイムノグロブリンの量及び不純物、溶出工程又は複数の工程からの溶出液中に検出することができるイムノグロブリンの量及び純度及びどれだけの比率がまだ所望の生物学的活性を有しているかを検討することが興味深い。これらの知見は従来の方法、例えば分光法及び他のタンパク測定法で得ることができる。不純物の量は例えば、SDS-ゲル電気泳動又等電点電気泳動法(isoelectric focusing methods)を用いて検出及び定量することができる。
【0034】
本発明の特定の実施例において、イオン交換 クロマトグラフィーにおいて、負荷及び溶出条件は別の実験(結合及び溶出スクリーニング)において最適化され、いくつかの溶出工程は各場合における溶出スクリーニングで提供され、塩濃度は例えば各工程において段階的に変化させる。
【0035】
好ましい実施例において、平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程は平衡の多数の並行試験バッチで行う。最適なクロマトグラフィー条件を決定する為に、これらの条件は並行実験の結果において到達することのできる精製結果から特定の生体分子及び/又はクロマトグラフィー材料の為の最適なクロマトグラフィー条件を導き出すことができるように個々のテストバッチで適切に変動させる。並行実験のランニングはクロマトグラフィー材料及びバッファー溶液(平衡化バッファー溶液、任意に生体分子を含む試験溶液、洗浄溶液及び溶出溶液のような)を入れる複数のサンプル容器が提供されるマルチウェルフィルタープレートを使用することで可能となり、これらの容器は底の部分で、バッファー溶液を通すがクロマトグラフィー材料は通さないフィルター特性を有する材料で閉じられる。この種のマルチウェル又はマイクロタイターフィルタープレートは、例えばVarian(登録商標)社のキャプティバ(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.45μm)、Milipore(登録商標)社のマルチスクリーン(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.22μm、0.45μm及び0.65μm)及びNunc(登録商標)社のサイレントスクリーン(登録商標)(96ウェル、ポアサイズ0.45μm)の商品名で購入可能である。クロマトグラフィー溶液及びバッファー溶液をプレートのサンプル容器に従来のマルチチャンネルピペット又はピペッティングロボット (例えば、Tecan(登録商標)社のフリーダム エボ 150(登録商標))を用いて入れることができる。
【0036】
ウェルにピペットで入れるクロマトグラフィー材料及びバッファー溶液の体積は変化しても良く、上記96ウェルのフィルタープレートのうちの1つを使用する場合は、好ましくは0.01〜2mlであり、より好ましくは0.05〜2mlである。クロマトグラフィー材料を最初にフィルタープレートに負荷する間、最初にフィルタープレートを例えば20% 又は10% エタノール溶液ですすぎ、その後、クロマトグラフィー材料を20%又は10% エタノール溶液による1〜60%(w/v)懸濁液として加えるのが好ましい。
【0037】
本発明のプロセスを並行試験バッチで行うことにより多数のカラムクロマトグラフィーパラメーターを同時に最適化することができ、かくして非常に短い期間と少ない材料で、決定された条件下、工業規模においても優れた精製の結果をもたらすカラムクロマトグラフィープロセスを開発することができる可能性を開く。このような方法でよりよいプロセスを達成することができ、費用的に開発時間や高価な材料(クロマトグラフィー材料、生体分子等)を節約することができる。
【0038】
最も特に好ましい実施態様に置いて、プロセスは以下の工程の順序で行った(図1も参照のこと):
(a) クロマトグラフィー材料の懸濁液をマルチウェルフィルタープレートの複数のウェル(サンプル容器)内に入れ、
(b) クロマトグラフィー材料の上の上清を遠心又は圧力差の適用により取り除くことで懸濁液を含むウェルの中に湿性ゲル床を作成し、
(c) ウェル内のクロマトグラフィー材料を平衡化するために平衡化溶液を湿性ゲル床 に加えゲル床を懸濁し任意に溶液と特定の時間インキュベートし(平衡化工程)、
(d) 湿性ゲル床を工程(b)に従って作製し、
(e) 任意に工程(c)及び(d)を数回、特に1、2又は3回繰り返し、
(f) クロマトグラフィー材料を負荷する為に、少なくとも1つの生体分子を含む試験溶液をゲル床に加え、ゲル床を懸濁し、任意に負荷溶液と共にインキュベートする(負荷工程)
(g) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造し、
(h) クロマトグラフィー材料を洗浄するために、洗浄溶液をゲル床に加え、ゲル床は任意に懸濁し任意に再びインキュベートし(洗浄工程)、
(i) 湿性ゲル床を工程(b)に従って作製し、
(k) 任意に工程(h)及び(i)を数回、特に1、2、又は3回繰り返し、使用する洗浄溶液は同じ又は異なる成分を含んで良く、任意にゲル床は懸濁しても懸濁しなくても良く、
(l) 生体分子を溶出する為に、ゲル床の懸濁を起こすことなく溶出溶液をゲル床に加え(溶出工程)、
(m) 工程(b)に従って湿性ゲル床を作製し溶出液を集め、
(n) 任意に工程(l)及び(m)を数回、特に1、2又は3回繰り返し、使用する洗浄溶液は同じ又は異なる成分を含んで良く、
(o) 溶出液を集め、分析する。
集めた溶出液及び他の流過を従来の方法を使用して濃度及び生物学的活性(特異的結合特性)の分析した後、当業者はどの試験バッチが最良の結果を出し、最適な結果を得るためにどの条件下で個々の工程を行うべきか判断することができるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、実施例を参照し以下により完全に記載されるが、発明の対象はこれらの実施例に限定されない。
【0040】
実施例
実施例1:本発明の1実施態様におけるプロセスを行うための一般的方法(並行試験バッチにおける自動化方法)
マルチウェルフィルタープレートは第1の工程において20%エタノール溶液ですすいだ。このために、溶液をプレートに注ぎこれを遠心し、エタノール溶液を遠心して取り除き下方に設置したマイクロタイタープレートで受け、続いて廃棄した。続いてフィルタープレートに各クロマトグラフィー材料の懸濁液を入れる。必要であれば、さらに20%エタノール溶液を懸濁液に加えることができる。遠心により材料が堆積され、液体は材料が全く乾いているというわけではない点まで排除する。流過もまた廃棄した。次にクロマトグラフィー材料の平衡化を行う(図1も参照のこと)。この目的のために、平衡化条件に対応するバッファーをクロマトグラフィー材料に加える。続いてバッファーと材料を混合するためにプレートをマイクロタイタープレート振とう機で最大速度でインキュベートし、次に再びバッファーを遠心して取り除き廃棄する。この工程は例として図1に図解した概略に従ってもう一度繰り返す。
【0041】
後続の負荷工程において、あらかじめ平衡化におけるものと同じpHレベル及び塩内容量に調節したタンパク溶液をクロマトグラフィー材料に加え、マイクロタイタープレート振とう機でインキュベートした。ろ過は流過(FT)を形成する。後続の洗浄及び溶出工程において、対応する調節されたバッファー(例えば実施例3及び5を参照)をクロマトグラフィー材料に加える。洗浄工程において任意にさらに振とう及びインキュベートを行うことができるが、一方溶出中はそのような振とうは行わない(「部分的バッチ法」)。各場合において液体層を遠心で取り除く。洗浄工程由来のろ液は「W」又は「Wash」及び連番で示され、溶出工程由来の物は同様に「E」又は「Elu」及び連番で示される。最後に、150μlの全ての廃棄しなかったろ液を適切なマイクロタイタープレートに280nmにおける光度を測定する為に移す。
【0042】
好ましくは、平衡化、負荷及び洗浄中、混合物を振とう及びインキュベートする。典型的にはpH及び/又は塩内容物を変化させて行う(例えば実施例3及び5を参照)溶出中は、溶出バッファーは対照的に慎重にクロマトグラフィー材料に加え混合及びインキュベートせずにすぐに完全に遠心する。
【0043】
表1は、典型的なインキュベーション時間に一例として提供されたデータを含む上記工程の典型的な系列を示す。洗浄バッファーはそのpH及び塩成分において平衡バッファーに対応する。体積及び遠心設定はこの場合Nunc(登録商標)社製のサイレントスクリーン(登録商標)マルチウェルフィルタープレートに調整している。2200rpm (毎分回転数:revolutions per minute)は1012gの相対加速度に対応し、1200rpm は301gに対応する。インキュベーションは最大スピード、すなわち約1400rpmでマイクロタイタープレートシェーカー上で行った。:
【0044】
表1:
【0045】
多数の並行試験を自動的に行う為に、ピペッティングロボットを好ましくは使用する。図2はこの種の方法において使用する典型的な配列を示す。トラフ(1)は上記エタノール溶液を含む。試験容器(2)及び(3)は生体分子を含む適切なpH値及び塩濃度に調整した試験溶液及びクロマトグラフィー材料の懸濁液を保持する。位置(4)において、平衡化、洗浄及び溶出バッファーを含むマイクロタイタープレート/DWPsが提供される。それらに続いてマルチウェルフィルタープレート(5)が提供される。
【0046】
実施例2:「部分的バッチ法」とバッチ法(全体)の2つの実施例の比較
部分的バッチ法をバッチ法と比較する。後者において振とう及びインキュベーションはすべての工程において行う。本発明の部分的バッチ法においては対照的に、混合物は平衡化及び負荷工程において振とうし、インキュベートし、遠心する(又は上清を他の方法でクロマトグラフィー材料から取り除く)が、溶出工程においては直ちに遠心を行う (又は上清を他の方法でクロマトグラフィー材料から取り除く)。本発明の1実施態様において振とう及びインキュベートも洗浄工程中行い、一方第2の実施態様において洗浄工程中に洗浄バッファーを注意深くアプライし、遠心又は他の方法によって急速に消失させる。
【0047】
どちらの方法が適切なクロマトグラフィー条件の最良な結果を示すか判断する為に、上述のプロセスについて疎水性相互作用クロマトグラフィーによって抗体の純度を試験する。フェニルセファロース 6 FFをクロマトグラフィー材料として使用する。使用した抗体はpH6.5の50mM TRISバッファーの伝導率が硫酸アンモニウムにより120mS・cm-1まで増加すると結合する。従って、平衡化及び洗浄バッファー及びタンパク-含有負荷溶液はこれらの条件に調整する。溶出バッファーはより少ない硫酸アンモニウムを含みその伝導率は50mS・cm-1であった。平衡化のためのインキュベーション時間は各場合において5分間、適用可能であれば負荷に21分間、洗浄に9分間であった。集めた画分(負荷における流過: FT; 洗浄工程: W1〜W3、溶出工程: E1〜E4)の回収率を表2に示す。
【0048】
表2:
【0049】
表2から明らかなように部分的バッチ法の83.2%又は78.2%の回収率は、約2/3しか回収することができなかったバッチ法におけるより少し高かった。さらに、この実験はバッチ法において、特に溶出工程において部分的バッチ法に比べて再現性が有意に悪いことを示した。この点において洗浄工程中懸濁する実施態様に従った部分的バッチ法は特に良好な結果を残した。結果の信頼できる再現性は最適なクロマトグラフィー条件の移行可能性にとって、かくしてより大規模で行うカラムクロマトグラフィープロセス工程を決定する重要な必要条件である。
【0050】
実施例3:モノクロナール抗体の生成における適切なカチオン交換材料及び適切なクロマトグラフィー条件のスクリーニングのための本発明の加工の使用
真核生物の細胞培養における抗体の調製において、標的タンパクは典型的に培養液中に分泌された他の生体分子との複雑な混合物タンパクとして存在する。モノクロナール抗体 mAb1のためにはカチオン交換を用いた抗体の濃縮のための最適条件を決定するために、以下のスクリーニングを行う:
【0051】
結合スクリーニング:
2つのスクリーニングランが最適なクロマトグラフィー材料及び理想的な結合条件(結合スクリーニング)を決定するために使用された。以下のクロマトグラフィー材料が試験された:
【0052】
第1ラン: SPセファロース(登録商標)、トーヨーパール(登録商標)SP650M、トーヨーパール(登録商標)SP550C、EMDフラクトゲル(登録商標)SO3;
第2ラン: CMセラミックハイパーDLS(登録商標)、SセラミックハイパーDF(登録商標)、ポロス50HS(登録商標)、CMセファロースFF
【0053】
本明細書のSP及びHSは、の基礎マトリックスに共有結合的に結合した官能基としてのスルホプロピル基を意味し、SO3はスルホイソブチル基を意味し、CMはカルボキシメチル基を意味しSはスルホン酸基を意味する。
【0054】
使用したタンパク溶液、すなわち発現細胞を発酵させた後に遠心及びろ過することにより得た細胞培養上清は表3.1に示される条件に調整した。:
【0055】
表3.1: 第1及び第2ランにおける負荷プール(mAb1を含む試験溶液)の条件
20% エタノール溶液によるクロマトグラフィー材料の10% 懸濁液を使用し0.05 mlのゲル床を作製した。上記の部分的バッチ法でスクリーニングを行った (洗浄工程中の懸濁液を用いて)。2つの平衡工程の後タンパク溶液による負荷 (mAb1を含む試験溶液; 表3.1参照)及び洗浄工程を行った。続いて3つの工程で溶出を行った。バッファーを実施例1に記載された試験配置に従って、表3.2及び3.3に特定したように2つのディープウェルプレートに入れ(2 mlの容量のマルチウェルプレート;以降、DWPと言う)各条件について3回測定を行った。これらの測定値は、後続のrProtA-HPLC(マトリックスに結合したリコンビナントタンパクを用いた分析的アフィニティークロマトグラフィー)による抗体濃度の決定の間収集した。
【0056】
表 3.2:ディーププレート1におけるバッファー条件及び配置
【0057】
表3.3: ディープウェルプレート2におけるバッファー条件及び配置
流過又は各画分の溶出液中に見られるmAB1濃度を図3.1〜3.8に示す。選択された画分及び結合特性について回収物に基づきSDS-PAGE分析を行い、以下のクロマトグラフィー マトリックスを溶出スクリーニング用に選択した(最適な溶出条件の為のスクリーニング): SP セファロース(登録商標)FF、トーヨーパール(登録商標) SP 650 M、ポロス(登録商標) 50 HS、EMD フラクトゲル(登録商標)SO3。
【0058】
溶出スクリーニング:
溶出スクリーニングにおいてmAb1を含む細胞を含まない培養上清のpHを表3.4において示すように5.0及び6.5に調製する:
【0059】
表 3.4: 第1及び第2ランにおけるプール(mAb1を含む試験溶液)の負荷条件
【0060】
平衡、洗浄及び溶出工程の為、表3.5及び3.6に挙げたバッファーをディープウェルプレートに加えた。:
【0061】
表 3.5: バッファー条件及びディープウェルプレート1上の配置
【0062】
表3.6: バッファー条件及びディープウェルプレート2上の配置
【0063】
図3.9〜3.12はグラフで特定の条件下にそれぞれの工程でウェルあたりに適用したmAb1の全量に対する%量を示す。標的タンパクの回収及び有利な低塩濃度(工業規模にとって、例えば運搬費の経費を最小限に抑えるのに望ましい)に関しては、EMDフラクトゲル(登録商標)SO3にpH5で負荷し、pH6.5、0.05M塩濃度で溶出するのが適切な条件(図3.12、B10-B12参照)であることが確認された。
【0064】
実施例4:マイクロウェルフィルタープレートにおける本発明のスクリーニング方法の結果と従来のカラム実験の結果が相関する可能性
実施例3において決定した最適条件を使用して、カラム クロマトグラフィー 実験を1 mlの床体積を用いて行った。流速は0.5 ml/分であった。カラムの負荷は0 M NaClの塩濃度でpH 5で行った。洗浄工程は同じ条件下で行う。溶出には段階的な勾配0 / 0.05 / 0.1 / 0.2 M NaClを使用した。これはEMD フラクトゲル(登録商標) SO3を使用し 結合工程をpH 5で、溶出工程をpH 6.5で行うマイクロ-ウェルフィルタープレートにおけるスクリーン条件を模倣している。
【0065】
図4において、上記方法で行ったカラムクロマトグラフィーの溶出プロファイル(実線: タンパク濃度 ;点線:伝導率)、実施例3における対応する条件下でのマルチウェルフィルタープレート内における本発明のスクリーニングにおいて得た (bars) ウェルあたりアプライしたmAb1の全量に対する%量を重ねて示した。流過及び溶出液のSDS-PAGEによるさらなる分析は、ピーク内におけるmAb1生成物の分布がスクリーニングにおけるピークと一致する、すなわち濃縮したmAb1が対応する溶出液に存在することを示すことができた。本発明の方法によって見つけた最適化クロマトグラフィー条件をクロマトグラフィー カラムを使用する方法に適用することができることを示している。
【0066】
実施例5:異なるクロマトグラフィー条件下におけるモノクロナール抗体の疎水性相互作用マトリックスにおける動態のスクリーニング
この例のために、第一段階においてリコンビナントプロテインAアフィニティークロマトグラフィー抗体で濃縮した mAb2を使用した。スクリーニングの目的は次の工程においてmAb2抗体に関して結合又は流過状態かどうかを検討すべきであり、すなわち抗体をカラムに結合させ不純物をできるだけ流過させるか又は抗体を流過させ、それらをカラム材料に結合させることにより不純物を濃縮することによってさらなる精製効果が達成できるのかどうかを決定するためにクロマトグラフィー材料としての疎水性相互作用マトリックスに対するmAb2の動態を決定することである。
【0067】
以下のクロマトグラフィー材料を使用した:フェニルセファロース(登録商標)HP、フェニルセファロース(登録商標)FF、トーヨーパール(登録商標)フェニル及びトーヨーパール(登録商標)ブチル。使用するタンパクは表5.1に特定する条件に調整した:
【0068】
表 5.1: 第1及び第2ランにおける負荷プールの条件(mAb2を含む試験溶液)
【0069】
クロマトグラフィー材料の20% エタノール溶液による10% 懸濁液を使用し、0.05 mlのゲル床を作製した。部分的バッチ法を使用した。実施例3におけるように、2つの平衡化工程の後にタンパク-含有試験溶液による負荷を行い(表5.1参照)、続いて洗浄工程 (クロマトグラフィー材料の懸濁液を用いて)を行った。溶出は続いて3つの工程で行った。バッファーは実施例1に記載された試験配置に従って表5.2及び5.3に示すように2つのディープウェルプレートに入れた。各条件につき3回測定を行った。スクリーニングに用いたタンパク溶液には微量の不純物が存在するので、生成物の濃度は続いてマイクロタイタープレート光度計を用いて280nmにおける吸収で測定することができる。
【0070】
表5.2: バッファー条件及びディープウェルプレート1上の配置
表 5.3: バッファー条件及びディープウェルプレート2上の配置
【0071】
各画分の生成物濃度は図5.1〜5.4に示す。mAb2は、疎水性マトリックスに非常に高い塩濃度においてのみ結合することが示された。従ってmAb2の場合疎水性相互作用クロマトグラフィープロセス工程をスルーフロークロマトグラフィープロセスとして構成することがより好ましい。この為の最適条件は、本発明の方法を使用してさらにスクリーニングすることにより、容易に低い経費で決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子の分離の為のクロマトグラフィー工程の為の適切なパラメーターを見つける方法であって、
一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を含む試験を、多様な個々のパラメーターを用いて小規模で行い、及びこれらの試験結果から、最適なパラメーターを導くことを含み、一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を、部分的バッチ法(クロマトグラフィー材料の懸濁無し又はありの工程)で行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
少なくとも負荷工程がクロマトグラフィー材料を懸濁することを含み、少なくとも溶出工程の間にクロマトグラフィー材料の懸濁が無い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
平衡化工程が更にクロマトグラフィー材料を懸濁することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程が多数の並行試験において行われ、その試験のうち少なくとも2つの試験でクロマトグラフィー条件が異なり、各実験のクロマトグラフィーの結果を比較することにより、有利なクロマトグラフィー条件を導くことを含む、請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を並行試験においてマルチウェルフィルタープレート上で行う、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の方法であって、
(a) クロマトグラフィー材料の懸濁液をマルチウェルフィルタープレート内の複数のウェル内に置く工程、
(b) 懸濁液を含むウェル中で、遠心又は圧力差の適用によりクロマトグラフィー材料の上の上清を取り除くことによって湿性ゲル床を製造する工程、
(c) ウェルに含まれるクロマトグラフィー材料を平衡化するために、平衡化バッファー溶液を湿性ゲル床に加え、ゲル床を再懸濁する工程(平衡化工程)、
(d) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程
(e) 任意に (c)及び(d)工程を数回、特に1、2又は3回繰り返す工程
(f) クロマトグラフィー材料に負荷するために少なくとも1つの生体分子を含む試験溶液をゲル床に加え、ゲル床を再懸濁する工程(負荷工程)、
(g) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程、
(h) クロマトグラフィー材料を洗浄するために洗浄溶液をゲル床に加え、ゲル床を任意に再懸濁する工程(洗浄工程)、
(i) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程、
(k) 任意に工程(h)及び(i)が数回、特に1、2又は3回繰り返され、一方洗浄溶液が同じ又は異なる組成を有してもよく、及び任意にゲル床が懸濁され又は懸濁されない工程、
(l) 生体分子を溶出する為に、ゲル床を懸濁することなく溶出溶液をゲル床に加える工程(溶出工程)、
(m) 工程(b)に従って湿性ゲル床を製造し溶出液を得る工程、
(n) 任意に工程(l)及び(m)が数回、特に1、2又は3回繰り返され一方溶出溶液が同じ又は異なる組成を有しても良い工程、
(o) 溶出液を集め、分析する工程、
を含む前記工程。
【請求項7】
1以上の工程を、ピペッティングロボットを用いて行う、請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
イオン交換、疎水性相互作用、アフィニティー、ハイドロキシアパタイト、逆相、疎水性電荷誘導又は混合モードクロマトグラフィーをクロマトグラフィー材料として使用する、請求項1〜7いずれか1項記載の方法
【請求項9】
懸濁がクロマトグラフィー材料又はマルチウェルフィルタープレートを振とうすることにより又はクロマトグラフィー材料をピペッティングすることにより得られる請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
生体分子がタンパク、タンパク混合物又は宿主細胞タンパク混合物及び過剰発現標的タンパクである、請求項1〜9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
平衡化溶液及び/又は試験溶液及び/又は洗浄溶液及び/又は溶出溶液を加えた後にクロマトグラフィー材料を平衡化、試験、洗浄又は溶出溶液と共にインキュベーションする、請求項1〜10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
溶出工程又は複数の溶出工程の溶出液及び任意に負荷及び洗浄工程の流過を回収し分析する、請求項1〜11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
各混合物の為のクロマトグラフィー材料を、得られるゲル床を0.01ml〜2mlの体積を有するような量で使用する、請求項1〜12いずれか1項記載の方法。
【請求項1】
生体分子の分離の為のクロマトグラフィー工程の為の適切なパラメーターを見つける方法であって、
一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を含む試験を、多様な個々のパラメーターを用いて小規模で行い、及びこれらの試験結果から、最適なパラメーターを導くことを含み、一連の平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を、部分的バッチ法(クロマトグラフィー材料の懸濁無し又はありの工程)で行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
少なくとも負荷工程がクロマトグラフィー材料を懸濁することを含み、少なくとも溶出工程の間にクロマトグラフィー材料の懸濁が無い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
平衡化工程が更にクロマトグラフィー材料を懸濁することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程が多数の並行試験において行われ、その試験のうち少なくとも2つの試験でクロマトグラフィー条件が異なり、各実験のクロマトグラフィーの結果を比較することにより、有利なクロマトグラフィー条件を導くことを含む、請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
平衡化、負荷、洗浄及び溶出工程を並行試験においてマルチウェルフィルタープレート上で行う、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の方法であって、
(a) クロマトグラフィー材料の懸濁液をマルチウェルフィルタープレート内の複数のウェル内に置く工程、
(b) 懸濁液を含むウェル中で、遠心又は圧力差の適用によりクロマトグラフィー材料の上の上清を取り除くことによって湿性ゲル床を製造する工程、
(c) ウェルに含まれるクロマトグラフィー材料を平衡化するために、平衡化バッファー溶液を湿性ゲル床に加え、ゲル床を再懸濁する工程(平衡化工程)、
(d) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程
(e) 任意に (c)及び(d)工程を数回、特に1、2又は3回繰り返す工程
(f) クロマトグラフィー材料に負荷するために少なくとも1つの生体分子を含む試験溶液をゲル床に加え、ゲル床を再懸濁する工程(負荷工程)、
(g) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程、
(h) クロマトグラフィー材料を洗浄するために洗浄溶液をゲル床に加え、ゲル床を任意に再懸濁する工程(洗浄工程)、
(i) 湿性ゲル床を工程(b)に従って製造する工程、
(k) 任意に工程(h)及び(i)が数回、特に1、2又は3回繰り返され、一方洗浄溶液が同じ又は異なる組成を有してもよく、及び任意にゲル床が懸濁され又は懸濁されない工程、
(l) 生体分子を溶出する為に、ゲル床を懸濁することなく溶出溶液をゲル床に加える工程(溶出工程)、
(m) 工程(b)に従って湿性ゲル床を製造し溶出液を得る工程、
(n) 任意に工程(l)及び(m)が数回、特に1、2又は3回繰り返され一方溶出溶液が同じ又は異なる組成を有しても良い工程、
(o) 溶出液を集め、分析する工程、
を含む前記工程。
【請求項7】
1以上の工程を、ピペッティングロボットを用いて行う、請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
イオン交換、疎水性相互作用、アフィニティー、ハイドロキシアパタイト、逆相、疎水性電荷誘導又は混合モードクロマトグラフィーをクロマトグラフィー材料として使用する、請求項1〜7いずれか1項記載の方法
【請求項9】
懸濁がクロマトグラフィー材料又はマルチウェルフィルタープレートを振とうすることにより又はクロマトグラフィー材料をピペッティングすることにより得られる請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
生体分子がタンパク、タンパク混合物又は宿主細胞タンパク混合物及び過剰発現標的タンパクである、請求項1〜9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
平衡化溶液及び/又は試験溶液及び/又は洗浄溶液及び/又は溶出溶液を加えた後にクロマトグラフィー材料を平衡化、試験、洗浄又は溶出溶液と共にインキュベーションする、請求項1〜10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
溶出工程又は複数の溶出工程の溶出液及び任意に負荷及び洗浄工程の流過を回収し分析する、請求項1〜11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
各混合物の為のクロマトグラフィー材料を、得られるゲル床を0.01ml〜2mlの体積を有するような量で使用する、請求項1〜12いずれか1項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図3.4】
【図3.5】
【図3.6】
【図3.7】
【図3.8】
【図3.9】
【図3.10】
【図3.11】
【図3.12】
【図4】
【図5.1】
【図5.2】
【図5.3】
【図5.4】
【図2】
【図3.1】
【図3.2】
【図3.3】
【図3.4】
【図3.5】
【図3.6】
【図3.7】
【図3.8】
【図3.9】
【図3.10】
【図3.11】
【図3.12】
【図4】
【図5.1】
【図5.2】
【図5.3】
【図5.4】
【公表番号】特表2009−539931(P2009−539931A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514784(P2009−514784)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055776
【国際公開番号】WO2007/144353
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055776
【国際公開番号】WO2007/144353
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】
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