説明

生体分子を測定するための蛍光検出システム、方法、およびデバイス

【課題】特異的生体分子を検出し、多くの時間を要せずその後の結果を手早く供給する、高感度、高正確度、コンパクトで、低コストのバイオセンサーを提供すること。
【解決手段】蛍光検出デバイス、光源、サンプル装填ユニット、および分析読み取りデバイスを含む、生体分子を測定するための蛍光検出システムが開示される。この蛍光検出シデバイスは、基板、および該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを有し、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、該エミッタと該コレクタの間にベースを含む。ベース-コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能する。光源は、生体分子サンプル中に含まれる蛍光染料を励起するのに使用される。励起された該生体分子サンプルを、該蛍光検出デバイスの感受性ゾーンに装填または同ゾーンに輸送するために、サンプル装填ユニットが使用される。分析読み取りデバイスは、蛍光検出デバイスからの光電流出力をバイアス下に測定すべきものである。したがって、本蛍光検出システムによって、生体分子含量を簡単に定量することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子を測定するための蛍光検出システム、方法、およびデバイスに関し、より詳細には、生体分子を測定するために、光電子半導体と組み合わせた、蛍光検出システム、方法、およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床医学では、人体の各器官は、対応する生体分子、例えば、血液および尿における糖およびタンパク質の変化を検出することによって、その医学的状況をあらかじめ推定することが可能である。例えば、腎症の臨床的検出では、糸球体が適正に機能しているかどうかは、尿タンパクを定量化することによって調べることが可能である。
【0003】
尿タンパクの従来の測定における一つの定性分析法は、指示ペーパーの使用である。しかしながら、指示ペーパーでは、疑似陽性または陰性が示される場合があり、これは、誤った特定をもたらす。その外、定量分析のために利用が可能な他の方法として、比濁イムノアッセイ、高速液体クロマトグラフィー、および蛍光検出がある。前の二方法は、タンパク量を正確に測定することが可能であるが、複雑な操作、および高価な装置および試薬を必要とする。同様に、最後の方法は、複雑な光学器具だけでなく、光学信号分析ソフトウェアを用いて実行する必要がある。したがって、前述の三つの方法は、あまりにも多くの時間と金を消費するので、検出のための全体プロセスにとって都合のよいものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、特異的生体分子を検出し、多くの時間を要せずその後の結果を手早く供給する、高感度、高正確度、コンパクトで、低コストのバイオセンサーの開発が求められている。このようにすれば、患者は、病院において精しい検査のために時間を消費する必要がなく、その標的とする医学的状態の予防を実現するよう、あらかじめ自分自身で試験することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一局面では、生体分子を測定するための蛍光検出システムであって、基板、および該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含む蛍光検出デバイスにおいて、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、該エミッタと該コレクタの間にベースを含み、ベース-コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能する、蛍光検出デバイス;生体分子サンプル中に含まれる蛍光染料を励起する光源;該励起蛍光染料を含む生体分子サンプルを、該蛍光検出デバイスの感受性ゾーンに装填するか、または同ゾーンに輸送するサンプル装填ユニット;および、蛍光検出デバイスからの光電流出力をバイアス下に測定する分析読み取りデバイスを含む、蛍光検出システムが提供される。この蛍光検出デバイスでは、分析読み取りデバイスはさらに、光電流から生体分子サンプルの生体分子含量を計算する計算モジュールを含むことも可能である。分析読み取りデバイスはさらに、蛍光検出デバイスの感受性ゾーンの中を通って生体分子サンプルを輸送するトランスポーターとして機能することが可能である。
【0006】
本発明の別局面では、蛍光検出法であって、下記の工程:蛍光染料を含む生体分子サンプルを、光源によって光照射すること;該生体分子サンプルを蛍光検出デバイスによってバイアス下に検出すること、その際、該蛍光検出デバイスは、基板、および該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含み、各フォトトランジスタは、エミッタ、基板の上に位置するコレクタ、および、エミッタとコレクタの間にベースを含み、ベース−コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能し;および、該蛍光検出デバイスからの光電流出力を測定すること、を含む蛍光検出法が提供される。この蛍光検出法はさらに、下記の工程:光電流を、電流−含量標準曲線に基づいて、生体分子サンプルの生体分子含量に変換することを含むことが可能である。
【0007】
本発明のさらに別の局面では、生体分子を測定するための蛍光検出デバイスであって、基板、および、該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含み、その際、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、エミッタとコレクタの間にベースを含み、ベース−コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能することを特徴とする、蛍光検出デバイスが提供される。実際には、消費者が、自宅で生体分子を測定するためにこの蛍光検出デバイスを使用する場合、自然の、または、室内のどのような光でも、蛍光染料を励起するための光源として直接使用することが可能である。一旦蛍光が励起蛍光染料から発射されたならば、検出デバイスは、この蛍光を検出し、次いで、測定結果を出力することが可能である。したがって、本発明の検出デバイスは、低価格の利点を有し、その中に特定の励起光源を設けずとも簡単に操作することが可能である。
【0008】
蛍光検出デバイスに印可されるバイアスは、該蛍光検出デバイスにおいて使用される試料、およびフォトトランジスタの総数にしたがって変動することが可能である。したがって、バイアスは、蛍光検出デバイスによる測定可能な光電流出力が分析読み取りデバイスによって検出可能であるかぎり、特に限定されない。好ましくは、印可されるバイアスは、生体分子含量が、その光電流に比例する範囲内である。例えば、バイアスは、0.5から50Vの範囲、好ましくは1から10Vの範囲内である。
【0009】
前述の蛍光検出デバイスでは、もしも、各フォトトランジスタにおけるエミッタの面積がベースのそれよりも小さいと、そのフォトトランジスタは、蛍光吸収のために有利な、より大きなベースを持つことになる。フォトトランジスタを部分的または全体的に並列接続することによって、光電流を増強することが可能である。さらに、フォトトランジスタは、レイアウトフォーカスを創出し、コンパクトサイズに集積するために、マトリックス状に配置することが可能である。フォトトランジスタにおけるエミッタ、コレクタ、およびベースの材料システムは限定されない。例えば、材料システムとして、AlGaAs/GaAs, InGaP/GaAs, AlInAs/InGaAs/InP, InP/InGaAs, InP/GaAsSb/InP, AlInAs/GaAsSb/InP, Si/SiGe, および、GaN/SiCの内の少なくとも一つの使用が可能である。
【0010】
光源は、励起光の供給体として機能する。励起光は、生体分子に結合する蛍光染料を励起して励起状態に変える。したがって、光源の種類は、蛍光染料の種類にしたがって選ぶ必要がある。例えば、蛍光染料IR-783が利用される場合、IR-783を励起状態に励起するには、赤色、白色、または赤外LEDを適用することが可能である。生体分子サンプルの光照射時間については、蛍光染料の種類、蛍光検出デバイス、光源の波長および強度の全てが関係する。基本的には、光照射時間は、生体分子の測定に消費される時間が最短に短縮されるよう、できるだけ短くすることが考えられる。例えば、IR-783を適用するのであれば、白色LEDによって光照射される時間は、30秒から30分の範囲、好ましくは5分から15分の範囲にあることができる。
【0011】
蛍光染料に言及すると、生体分子の種類に基づいて、その生体分子に特異的に結合する蛍光染料を選ぶことが可能である。例えば、ヒトの血清アルブミン(HSA)が検出標的である場合、IR-783を、それがヒトの血清アルブミンに対して特異的あるという理由で使用することが可能である。
【0012】
上述の、蛍光検出デバイス、システム、および方法では、生体分子は、適切な蛍光染料および光電子材料システムが見出される限り、ある特定の種類に限定されない。したがって、どのような核酸、炭水化物、タンパク質、脂質、リン脂質、糖脂質、ステロール、ビタミン、ホルモン、アミノ酸、ヌクレオチド、ペプチドなどであっても、適切な検出標的となることができる。
【0013】
以上まとめると、本発明は、試験サンプルに対して特異的に結合する蛍光染料を使用し、次に、その蛍光染料にしたがって光源を選択する。例えば、IR-783を用いる場合は、IR-783の励起を実現するように可視光が選ばれる。一旦蛍光染料が、光源からの光エネルギーを吸収し、フォトトランジスタによって吸収可能な範囲の波長を持つ光を発射したならば、フォトトランジスタは、その吸収光を光電流に変換することが可能である。したがって、試験サンプルの生体分子含量を認識することが可能となる。言い換えると、本発明では、生体分子を測定するための蛍光検出システム、方法、およびデバイスを提供するために、二つの技術、フォトトランジスタ、および蛍光反応が組み合わされる。特に、本発明は、低濃度の生体分子に対し優れた感度を持つので、生体分子の濃度変化をリアルタイムに、速やかに監視することが可能である。複雑な指示の下に作動する従来の蛍光検出と違って、本発明は、生体分子を速やかに検出するという利点を有する。
【0014】
本発明の、他の目的、利点、および新規特色は、下記の詳細な説明を、添付の図面と組み合わせて読むことによりさらに明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1のフォトトランジスタの断面図である。
【図2】本発明の実施例1において並列に接続される二つのフォトトランジスタのレイアウトを示す。
【図3】本発明の実施例2における、電流・対・HSA濃度の標準曲線である。
【図4】本発明の実施例3における蛍光検出システムの構成を示す。
【図5】本発明の実施例3における、電流・対・HSA濃度の標準曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において開示される、生体分子を測定するための、蛍光検出システム、方法、およびデバイスは、蛍光反応を有する複数のフォトトランジスタを組み合わせ、次いで、生体分子サンプルによって誘発される光電流を検出し、素早く該生体分子の含量を特定する。
【0017】
本発明の蛍光検出デバイスは、複数のフォトトランジスタを含む。しかしながら、フォトトランジスタの総数は限定されず、クライアントの要求にしたがって決定することが可能である。例えば、10個、20、40、80、200、400、800、1000個、さらにそれを超える数のフォトトランジスタが総数であってもよい。さらに、これらのフォトトランジスタは、部分的に、または全体的に並列に接続されてもよいし、アレイとして配置することも可能である。
【0018】
本発明においては、適切な蛍光染料は、試験される生体分子の種類、フォトトランジスタの材料システムなどに基づいて選ぶことが可能である。例えば、DNA検出に関しては、蛍光染料として臭化エチジウム(EtBr)を使用することが可能である。EtBrがDNAに挿入されると、EtBrは、紫外線による励起後、蛍光を発することが可能である。他の蛍光染料、例えば、SYTOXブルー、SYTOXグリーン、SYTOXオレンジ、アクリジンオレンジ、およびLDS 751もDNAに結合し、それぞれある特定の範囲に波長を持つ光源による励起後、蛍光を発することが可能である。HSAなどのタンパク質検出について述べると、特異的蛍光染料IR-783の使用が可能である。その外、糖または他の生体分子に関しても、本発明の当該技術に熟達する当業者であれば、生体分子のために適切な蛍光染料をどのようにして選んだらよいか簡単に理解することが可能である。
【0019】
フォトトランジスタの、種々の材料システムは、吸収光波長について、それぞれ特有の範囲、および対応吸光係数を持つのであるから、蛍光染料の種類は、生体分子の種類だけでなく、蛍光染料から発射される蛍光が、フォトトランジスタの材料システムによって吸収可能かどうか、それによって、光電流に変換することが可能かどうかを考察して選ばなければならない。したがって、本発明の各フォトトランジスタのベースおよびコレクタの材料システムは、適切な蛍光染料と共に一緒に適用しなければならない。
【0020】
本発明において使用される光源は、制限無く、どのような電力および波長を持つことも可能である。適切な光源は、蛍光染料の使用される種類に基づいて選択することが可能である。例えば、-32から-50 dBmの電力、790から900 nmの波長を持つ赤外線LED、-35から-70 dBmの電力、605から735 nmの波長を持つ赤色LED、および、-33から-65 dBmの電力、400から850 nmの波長を持つ白色LEDも、それぞれ、本発明において適用することが可能である。
【0021】
本発明の実施を例示する具体的実施態様のために、当業者であれば、本発明において開示される内容から、本発明の、他の利点および効力を簡単に認識することが可能である。本発明はさらに、他の変異実施態様によって実施または適用することが可能である。本明細書中のいずれの細部についても、異なる外見および用途に基づいて、他に、多くの可能な改変および変異を、本発明の精神から逸脱することなく実行することが可能である。
【0022】
本発明の実施態様の図面は、いずれも単純化チャートまたは局面図であり、単に、本発明に関して相対的に要素を明らかにするものであるにすぎない。図面の中に表される要素は、必ずしも実施の外観ではなく、その量および形状も最適に設計されたものではない。さらに、要素の設計外観は、もっと複雑であってもよい。
【実施例1】
【0023】
蛍光検出デバイス
先ず、主にAlGaAs/GaAsから製造され、KOPINから購入されたウェーハを準備した。このウェーハを洗浄後、フォトリソグラフィーおよびウェットエッチングによって繰り返し処理し、エミッタ、ベース、およびコレクタのメサ面積、およびエミッタおよびコレクタ回路領域を定め、蒸着によって、エミッタおよびコレクタ金属電極、およびその金属回路(Ni、Ge、Au、Ti、Al、またはそれらの組み合わせから製造される)を形成した。さらに、金属と半導体の間の良好なオーム接触を可能とするために、高温アニーリングを実行した。最後に、このようにして得られるNPNヘテロ接合物を持つフォトトランジスタを保護するために、パッシベーション層を堆積させた。上述のようにして得られた60個のフォトトランジスタをアレイに配置し、蒸着と組み合わせたフォトリソグラフィーによって製造した金属回路を通じて並列接続して、蛍光検出デバイスを得た。
【0024】
図1は、前述のように製造されるフォトトランジスタの断面図を示す。図1に示すように、サブコレクタ11は、基板10の上に位置する。コレクタ12およびコレクタ金属回路121は共にサブコレクタ11の上に位置する。コレクタ金属回路121は、コレクタ12を取り囲み、サブコレクタ11に電気的に接続される。さらに、ベース13は、コレクタ12の上に位置する。ベース13には、本発明では、蛍光から変換される電流が供給されるので、ベース13のために金属電極を構築する必要は無い。さらに、エミッタ14は、ベース13の上に位置するが、ベース13よりも小さい面積を持つ。したがって、このフォトトランジスタは、蛍光吸収に有利な広いベース13を持つので、その感度を増す。エミッタキャップ15は、エミッタとエミッタ金属電極140の間に位置し、エミッタ金属回路141は、エミッタ金属電極140に接続される。エミッタ金属回路141は、パッシベーション層16の中に埋設される。パッシベーション層16は、このフォトトランジスタの絶縁的保護のために、コレクタ金属回路121をコレクタ12から隔離し、露出したコレクタ金属回路121、コレクタ12、ベース13、エミッタ14、エミッタキャップ15、およびエミッタ金属電極140を被覆する。
【0025】
図2は、アレイに配置された60個のフォトランジスタの内の、並列に接続される2個のフォトランジスタの回路レイアウトを示す。図2に示すように、二つの隣接フォトランジスタは、コレクタ金属回路121およびエミッタ金属回路141を介して並列に接続され、これらエミッタおよびコレクタ金属回路の並列接続の集電部位は、それぞれ、コレクタ電極パッド122、およびエミッタ電極パッド142として定められる。コレクタおよびエミッタ電極パッド122、142は、それぞれ、電源の正および負電極を接続するのに使用される。したがって、それぞれ、コレクタ12およびエミッタ14に対し適切なバイアスを印可することが可能である。ゾーンAは、フォトランジスタが、サンプルの蛍光を検出する区域である。
【実施例2】
【0026】
HSAアッセイ
Na2HPO4バッファー(10 mM)を準備し、そのpHを、リン酸によって7.4に調整した。HSA溶液は、Na2HPO4バッファーによって、0.01、0.03、0.05、および0.07 mg/mLの濃度となるように希釈した。
【0027】
Sigma Aldrichから購入した、赤外蛍光染料IR-783(下式に示す通りのC38H46CIN2NaO6S2)を少量のメタノールに溶解し、次いで、Na2HPO4バッファーで、0.02 mg/mLの濃度となるように希釈した。IR-783(HSAに対して特異的)がHSAに結合すると、IR-783は、化学的安定状態を実現する。この状態のIR-783を光によって一旦励起すると、IR-783はその光を吸収し、励起状態に変換され、次いで、750から850 nmのスペクトラムにおいて蛍光を発する。このスペクトラムは、実施例1の蛍光検出デバイスにおける各フォトトランジスタのベース(GaAs)によって吸収することが可能な光の波長と一致する。したがって、IR-783は、実施例1の蛍光検出デバイスに適用するのに好適である。

【化1】

【0028】
実施例1の蛍光検出デバイスが登載されるプローブステーションに、半導体デバイスアナライザー(B1500A、Agilent)が接続された。
【0029】
種々の濃度を持つHSA試験液を、それぞれ、上述のように準備した、等量のIR-783溶液と混ぜ合わせ、赤外LED(電力;-32から-50 dBm、照射波長;790から900 nm)によって5分間光照射した。次いで、各混合液1 μLを、実施例1の蛍光検出デバイス中のフォトランジスタのゾーンAにピペットで吸引し、どんな僅かな誤差も入りこまないように暗黒中で30秒間保持した。半導体デバイスアナライザーは、蛍光検出デバイスに対し1.0Vのバイアスを与え、一方、該蛍光検出デバイスからの光電流出力を収集した。
【0030】
図3は結果を示す。同図において、得られた直線は、光電流が、0.01と0.07 mg/mLの間においてHSA濃度に対して比例することを示し、直線の方程式はY = 7.13 × 10-8+ 5.72 × 10-10Xであり、式中、Yは、アンペア(A)単位で表した光電流を表し、Xは、μg/mL単位で表したHSA濃度を表す。この結果は、測定を実施例1の蛍光検出デバイスによって実行した場合、HSA濃度の0.01と0.07 mg/mLの間において、HSA濃度が1 μg/mL増す毎に光電流が0.572 nA増加することを示す。
【0031】
したがって、電流−濃度標準曲線が得られた後では、本発明の蛍光検出デバイスは、蛍光反応と協調して未知濃度のHSA溶液を特定することが可能である。蛍光検出デバイスからの光電流出力を用いることによって、電流−濃度標準曲線に基づいてHSA溶液の対応濃度を認識することが可能である。
【実施例3】
【0032】
蛍光検出システム
本実施例において使用されるフォトランジスタは、実施例1と同様にして準備した。本実施例の蛍光検出デバイスは、並列に接続され、プリント回路基板(PCB)上に登載される、808個のフォトランジスタから構成された。この蛍光検出デバイスの電極パッドは、ワイヤー結合マシーンによってPCBの金属回路に接続された。
【0033】
図4は、この蛍光検出デバイスの構成を示す。図4を参照すると、サンプル貯留槽40、ポンプ30 (BT-1002J, Baoding Longer Precision Pump Co., Ltd.)、光源70、廃液収集器50、および半導体デバイスアナライザー60が準備された。ポンプ30によって、HSA溶液を、サンプル貯留槽40から、チューブ(2 mm)を通じて、蛍光検出デバイス20の感受性ゾーンに、次いで、別のチューブ31'を通じて廃液収集器50に輸送した。その外、蛍光検出デバイス20は、固体ワイヤーによって半導体デバイスアナライザー60に接続した。ポンプ30、およびチューブ31および31'は、生体分子液を輸送または装填するためのサンプル装填ユニットとして機能した。
【0034】
HSA液測定の際は、実施例1で準備したHSA液を、等量のIR-783液と混ぜ合わせ、次いで、サンプル貯留槽40に注入した。本実施例では、サンプル貯留槽40中の溶液を光照射するために、光源70として赤外LEDを用い、次いで、光照射された液を、ポンプ30によってチューブ31を通じて、蛍光検出デバイス20の感受性ゾーンに輸送した。一方、半導体デバイスアナライザー60は、蛍光検出デバイス20に対し1Vのバイアスを供給し、蛍光検出デバイス20からの光電流信号出力を収集した。
【0035】
4種の異なる濃度(0.01、0.03、0.05、および0.07 mg/mL)のHSA液を順番に測定し、2回の測定の間、チューブ類は純水で洗浄した。図5は、結果、すなわち、電流−時間曲線を示す。
【0036】
図5では、最初の数秒間暗黒電流が示される。これは、試験液がまだ蛍光検出システムに入っていないことを意味する。時間ゾーンT1は、0.01 mg/mLのHSA液が検出された期間である。時間ゾーンT1時、光電流はある範囲に安定に納まる。洗浄のために純水がチューブの中に装填されると、光電流は、急激に最初の暗黒電流まで下降する。次いで、0.03、0.05、および0.07 mg/mLの溶液が順次検出された。図5に示す時間ゾーンT2、T3、およびT4は、それぞれ、0.03、0.05、および0.07 mg/mLのHSA溶液が検出される期間を表す。さらに、2回の測定操作の間、チューブ類は純水で洗浄した。時間ゾーンT1、T2、T3、およびT4において得られた、HSA液(0.01、0.03、0.05、および0.07 mg/mL)の光電流値を、直線回帰によって分析した。図5に示すように、光電流は、装填サンプルの濃度が増すにつれて増加し、得られた方程式はY = 1.6 × 10-6+ 1.38 × 10-8Xである。式中、Yは、アンペア(A)単位で表した光電流を表し、Xは、μg/mL単位で表したHSA濃度を表す。この結果は、HSA濃度が1 μg/mL増す毎に光電流が13.8 nA増加することを示す。
【0037】
半導体デバイスアナライザー60が、直線回帰結果があらかじめ入力されている計算モジュールに接続される場合、計算モジュールは、検出時、濃度未知の試験サンプルの計算濃度を直接提示することが可能である。
【0038】
これまで本発明は、その好ましい実施態様に関連して説明されてきたわけであるが、他にも多くの可能な修飾および変更が、この後に請求される特許請求の範囲から逸脱することなく、実行可能であることを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を測定するための蛍光検出システムであって:
基板、および該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含む蛍光検出デバイスにおいて、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、該エミッタと該コレクタの間にベースを含み、ベース-コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能する、蛍光検出デバイス;
生体分子サンプル中に含まれる蛍光染料を励起する光源;
該励起蛍光染料を含む生体分子サンプルを、該蛍光検出デバイスの感受性ゾーンに装填するか、または、同ゾーンに向かって輸送するサンプル装填ユニット;および、
該蛍光検出デバイスからの光電流出力をバイアス下に測定する分析読み取りデバイス、
を含む、蛍光検出システム。
【請求項2】
前記分析読み取りデバイスが、前記光電流から前記生体分子サンプルの生体分子含量を計算する計算モジュールをさらに含む、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記蛍光検出デバイスのフォトトランジスタにおいては、エミッタの面積がベースの面積よりも小さい、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記蛍光検出デバイスにおいて、前記フォトランジスタが並列に接続される、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記蛍光検出デバイスの前記フォトトランジスタにおけるエミッタ、コレクタ、およびベースの材料システムが、AlGaAs/GaAs, InGaP/GaAs, AlInAs/InGaAs/InP, InP/InGaAs, InP/GaAsSb/InP, AlInAs/GaAsSb/InP, Si/SiGe, および、GaN/SiCから成る群の少なくとも一つから選ばれる、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
前記光源は、前記蛍光染料を励起状態に励起する、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項7】
前記生体分子が、核酸、炭水化物、タンパク質、脂質、リン脂質、糖脂質、ステロール、ビタミン、ホルモン、アミノ酸、ヌクレオチド、およびペプチドから成る群から選ばれる、請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項8】
蛍光検出法であって、下記の工程:
蛍光染料を含む生体分子サンプルを光源によって光照射すること;
蛍光検出デバイスによってバイアス下に該生体分子サンプルを検出すること、その際、該蛍光検出デバイスは、基板、および該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含み、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、該エミッタと該コレクタの間にベースを含み、ベース−コレクタダイオード接合部は、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能し;および、
該蛍光検出デバイスからの光電流出力を測定すること、
を含む、蛍光検出法。
【請求項9】
下記の工程:前記光電流を、電流−含量標準曲線に基づいて前記生体分子サンプルの生体分子含量に変換すること、をさらに含む、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項10】
前記蛍光検出デバイスの前記フォトランジスタにおいては、エミッタの面積がベースの面積よりも小さい、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項11】
前記蛍光検出デバイスにおいて、前記フォトランジスタが並列に接続される、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項12】
前記蛍光検出デバイスの前記フォトトランジスタにおけるエミッタ、コレクタ、およびベースの材料システムが、AlGaAs/GaAs, InGaP/GaAs, AlInAs/InGaAs/InP, InP/InGaAs, InP/GaAsSb/InP, AlInAs/GaAsSb/InP, Si/SiGe, および、GaN/SiCから成る群の少なくとも一つから選ばれる、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項13】
前記光源は、前記蛍光染料を励起状態に励起する、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項14】
前記生体分子が、核酸、炭水化物、タンパク質、脂質、リン脂質、糖脂質、ステロール、ビタミン、ホルモン、アミノ酸、ヌクレオチド、およびペプチドから成る群から選ばれる、請求項8に記載の蛍光検出法。
【請求項15】
生体分子を測定するための蛍光検出デバイスであって:
基板;および、
該基板の上に配される複数のフォトトランジスタを含み、その際、各フォトトランジスタは、エミッタ、該基板の上に位置するコレクタ、および、該エミッタと該コレクタの間にベースを含み、ベース−コレクタダイオード接合部が、蛍光を光電流に変換する吸収体として機能する、蛍光検出デバイス。
【請求項16】
前記フォトランジスタにおいては、エミッタの面積がベースの面積よりも小さい、請求項15に記載の蛍光検出デバイス。
【請求項17】
前記フォトランジスタが並列に接続される、請求項15に記載の蛍光検出デバイス。
【請求項18】
前記フォトトランジスタにおけるエミッタ、コレクタ、およびベースの材料システムが、AlGaAs/GaAs, InGaP/GaAs, AlInAs/InGaAs/InP, InP/InGaAs, InP/GaAsSb/InP, AlInAs/GaAsSb/InP, Si/SiGe, および、GaN/SiCから成る群の少なくとも一つから選ばれる、請求項15に記載の蛍光検出デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−59115(P2011−59115A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199173(P2010−199173)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(510240642)ナショナル セントラル ユニヴァーシティー (1)
【Fターム(参考)】