説明

生体分子検出装置および生体分子検出方法

【課題】高感度な測定が可能な生体分子検出装置を提供する。
【解決手段】配向制御光117の振動方向の切り替えにより、血漿16の内部に含まれる第3の複合体22の配向方向を切り替える。第3の複合体22の配向方向は、表面プラズモン共鳴により第3の複合体22が有する2つの銀ナノ粒子8の間に発生する電場の強度が大きく異なる2つの方向の間で切り替える。そのため、第3の複合体22の配向方向の変化により、第3の複合体22から発生する蛍光の強度は大きく変化する。そして、第3の複合体22の配向方向を周期的に変化させながら表面プラズモン共鳴を起こさせ、血漿16から発生した全蛍光量から第3の複合体の配向方向が変化する周期と同期する成分を検出するため、検出対象物質を含む第3の複合体に付随した蛍光の寄与分を算出することができ、簡便な構成で検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の検出対象物質を検出する技術に係り、特に、血液や尿等の検体内の生体分子、ウイルス、DNA、蛋白質、細菌等を検出することが可能な生体分子検出装置および生体分子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医師や技師等が診療の現場で生体分子検出を行い、その場で測定結果を得て診断や治療に役立てる生体分子検出法が注目されている。生体分子検出法は、抗原抗体反応等の特異的な反応を利用した高い選択性により、血液、尿、汗といった複数成分を有する体液の中から、検出対象物質だけを選択的に検出する方法である。特に、ウイルス、DNA、蛋白質、細菌等の生体分子の微量検出、検査、定量、分析などに広く用いられている。
【0003】
近年、生体分子を高感度に検出する方法として、金属微粒子のプラズモンと光の相互作用を利用したプラズモンセンサの研究が進められている。
【0004】
特許文献1には、基板に固定した金属微粒子(金ナノロッド)の局在表面プラズモン共鳴の吸収波長が特異的結合によりシフトする現象をセンシング技術に応用した分析チップが開示されている。
【0005】
特許文献2には、金ナノロッドを配向させて基板に固定することにより、検出感度を向上させる検知素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−265062号公報
【特許文献2】特開2007−248284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2のような金属微粒子を固定した基板を利用した検知素子は、金属微粒子を固定する際の加工コストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属微粒子を基板に固定することなく高感度で測定可能な生体分子検出装置および生体分子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る生体分子検出装置は、生体分子上の特定部位に特異的に結合し得る第1の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第1の複合体、および上記特定部位と異なる上記生体分子上の部位に特異的に結合し得る第2の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第2の複合体を含む溶液を保持する容器と、上記第1の複合体が上記第1の物質を介して上記生体分子に結合し、上記第2の複合体が上記第2の物質を介して上記生体分子に結合した第3の複合体を上記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる配向制御手段と、特定方向の直線偏光成分を有し、上記第1の複合体および上記第2の複合体の金属粒子に表面プラズモン共鳴を引き起こす光を上記溶液に照射する光源と、上記第1の複合体および上記第2の複合体の金属粒子の表面プラズモン共鳴により発生する電場により上記第1の複合体および上記第2の複合体の蛍光分子から発せられた蛍光を検出する受光部と、上記受光部が検出した蛍光の内、上記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出する同期成分抽出手段と、を具備する。
【0010】
このような構成にすると、簡便な構成で検出対象物質を高感度に測定することができる。また、上記第1の複合体および上記第2の複合体が固定されていないため、溶液中での生体分子との反応が早い。
【0011】
また、上記配向制御手段は、上記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を上記溶液に照射する配向制御偏光光源と、該配向制御偏光光源から照射される光の偏光軸を回動させることにより、上記第3の複合体を上記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる偏光軸回動手段と、を具備することが好ましい。
【0012】
配向制御手段が光を用いて第3の複合体を配向させると、第3の複合体に対して配向のための前処理が不要となる。例えば、磁気を用いて配向制御を行う場合には、第3の複合体に磁性粒子等を結合させる必要があるが、光を用いて配向させると、そのような前処理が不要である。また、光の偏光軸を回動させることにより第3の複合体を溶液中で配向させると、複数の方向から光を照射して第3の複合体の配向方向を切り替える必要がないため、配向制御手段の光学系をコンパクトにすることができる。
【0013】
また、上記配向制御光源は、上記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を上記溶液に対して複数の位置から照射することが好ましい。
【0014】
溶液に対して複数の位置から光を照射して第3の複合体を配向させると、溶液内の様々な位置に存在する第3の複合体の配向方向を制御しやすくなる。
【0015】
また、上記配向制御手段は、上記光源から照射される光と異なる光を上記溶液に照射する配向制御光源と、該配向制御光源から照射される光の照射方向を切り替えることにより、上記第3の複合体を上記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる切替手段と、を具備してもよい。また、上記配向制御光源は、上記光源から照射される光と異なる光を上記溶液の複数の位置に照射することが好ましい。
【0016】
また、上記配向制御手段は、上記第3の複合体の長軸方向と上記光源から照射される光の振動方向とが平行となる第1の方向、および、上記第3の複合体の長軸方向と上記光源から照射される光の振動方向とが垂直となる第2の方向、へ上記第3の複合体を配向させることが好ましい。
【0017】
このように分子の配向を制御すると、上記第3の複合体の配向方向の切り替えに伴う蛍光強度の変化が最大となる。そのため、第3の複合体の配向方向の切り替えに伴う蛍光強度の変化をより高精度に測定することができる。
【0018】
また、上記配向制御手段は、上記第3の複合体の配向方向を所定の時間間隔で変化させ、上記同期成分抽出手段は、上記第3の複合体が含まれる溶液から発生する蛍光の強度を複数回測定して上記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出することが望ましい。
【0019】
このように上記第3の複合体の配向方向を所定の時間間隔で変化させながら、蛍光の強度を複数回測定し、測定した複数の蛍光強度を加算平均等すれば、ノイズ等による測定毎の減光量のばらつきによる測定精度への影響を減少させることができる。
【0020】
さらに、上記所定の時間間隔は、上記溶液中に存在する全ての上記第3の複合体の配向が完了する時間間隔であることが好ましい。
【0021】
このように所定の時間間隔を決定すると、全ての上記第3の複合体の配向が完了した後まで測定を行うことがないため、最短の時間で測定を行うことができる。
【0022】
また、上記光源から照射される光の波長は、上記蛍光分子により吸収されない波長であることが好ましい。光源から照射される光の波長が蛍光分子により吸収されない波長であれば、蛍光分子は表面プラズモン共鳴によって発生する電場によってのみ励起されるため、電場の強度変化が蛍光の強度変化に的確に反映される。
【0023】
また、上記同期成分抽出手段は、上記第3の複合体の配向方向の変化により、上記第3の複合体から発生する蛍光量が変化することを利用して、記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出することが好ましい。
【0024】
また、上記溶液は、少なくとも一部に平面を有する容器保持部に保持されることが好ましい。さらに、上記配向制御偏光光源は、上記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を、前記溶液を通って前記容器保持部の平面から出射する方向に照射し、かつ、前記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を、前記溶液と前記平面との界面において焦点を結ばせることが好ましい。また、上記配向制御光源は、上記光源から照射される光と異なる光を、前記溶液を通って前記容器保持部の平面から出射する方向に照射し、かつ、前記光源から照射される光と異なる光を、前記溶液と前記平面との界面において焦点を結ばせることが好ましい。
【0025】
このように配向制御偏光光源または上記配向制御光源が容器保持部から出射する位置において焦点を結ぶように光を照射すると、第3の複合体を容器保持部の壁面に押しつけながら回動させることができるため、配向制御しやすくなる。
【0026】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る生体分子検出方法は、検体に含まれる生体分子上の特定部位に特異的に結合し得る第1の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第1の複合体、および上記特定部位と異なる上記生体分子上の部位に特異的に結合し得る第2の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第2の複合体を含む溶液と検体とを混合するステップと、上記第1の複合体が上記第1の物質を介して上記生体分子に結合し、上記第2の複合体が上記第2の物質を介して上記生体分子に結合した第3の複合体を上記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させるステップと、特定方向の直線偏光成分を有し、上記第1の複合体および上記第2の複合体の金属粒子に表面プラズモン共鳴を引き起こす光を上記溶液に照射するステップと、上記第1の複合体および上記第2の複合体の金属粒子の表面プラズモン共鳴により発生する電場により上記第1の複合体および上記第2の複合体の蛍光分子から発せられた蛍光を検出するステップと、上記受光部が検出した蛍光の内、上記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出するステップと、を具備する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、固相を用いないため抗原抗体反応が早く、表面プラズモン共鳴によって発生した電場を利用して蛍光検出を行うため、高感度な生体分子検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)は実施の形態1において使用する第1の複合体の模式図、(B)は実施の形態1において使用する第2の複合体の模式図、(C)は、第1の複合体および第2の複合体が抗原と結合した状態を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る生体分子検出装置の抗原抗体反応の概要を示した模式図である。
【図3A】単独で存在する第1の複合体に励起光を照射した際に金ナノ粒子の周囲に発生する電場の強さを表した図である。
【図3B】Y軸方向に長軸を向けた第3の複合体に励起光を照射した際に金ナノ粒子の周囲に発生する電場の強さを濃淡画像によって表した図である。
【図3C】X軸方向に長軸を向けた第3の複合体に励起光を照射した際に金ナノ粒子の周囲に発生する電場の強さを濃淡画像によって表した図である。
【図4】(A)は実施の形態1に係る生体分子検出装置の外観斜視図、(B)は実施の形態1に係る生体分子検出装置の開閉カバーを開けた図である。
【図5】実施の形態1に係る生体分子検出装置の主要な構成を示す機能ブロック図である。
【図6A】偏光方向制御部が配向制御光を素通りさせた場合における第3の複合体の配向方向を示す図である。
【図6B】配向制御光の振動方向を90度切り替えた場合における第3の複合体の挙動を示す図である。
【図6C】配向制御光の振動方向を90度切り替えた場合における第3の複合体の配向方向を示す図である。
【図7】配向制御光の焦点の位置を示す図である。
【図8】(A)は偏光方向制御部が配向制御光を素通りさせた場合における第3の複合体の配向方向と励起光の振動方向との関係を示す図、(B)は配向制御光の振動方向を90度切り替えた場合における第3の複合体の配向方向と励起光の振動方向との関係を示す図である。
【図9】測定の際にFGが出力する配向制御信号、受光部が出力する受光部出力およびロックインアンプが出力するロックインアンプ出力を描いたグラフである。
【図10】(A)は第1の複合体の別の構造を示す模式図、(B)は第2の複合体の別の構造を示す模式図、(C)は第3の複合体の別の構造を示す模式図である。
【図11】(A)は第1の複合体のさらに別の構造を示す模式図、(B)は第2の複合体のさらに別の構造を示す模式図、(C)は第3の複合体のさらに別の構造を示す模式図である。
【図12】(A)は実施の形態2において使用する第4の複合体の模式図、(B)は本発明の実施の形態2において使用する第5の複合体の模式図、(C)は第4の複合体および第5の複合体が抗原と結合した状態を示す図である。
【図13】実施の形態2に係る生体分子検出装置の抗原抗体反応の概要を示した模式図である。
【図14】実施の形態2に係る生体分子検出装置の主要な構成を示すブロック図である。
【図15】実施の形態2に係る生体分子検出装置における受光部の詳細な構成を表した模式図である。
【図16A】実施の形態2に係る生体分子検出装置において第3の複合体を測定する場合における数周期の配向制御信号、受光部出力およびロックインアンプ出力を示したグラフである。
【図16B】実施の形態2に係る生体分子検出装置において第6の複合体を測定する場合における数周期の配向制御信号、受光部出力およびロックインアンプ出力を示したグラフである。
【図17】試薬容器の多点に配向制御光を照射する場合を示す図である。
【図18】配向制御光を多点に入射させるための配向制御用光源部の構造を示す図である。
【図19】配向制御光を多点に入射させるための光学系の一例を示す図である。
【図20】配向制御光を多点に入射させるための光学系の別の例を示す図である。
【図21】マイクロレンズアレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1では、溶液中に存在する抗原を検出するために、この抗原の特定の2箇所に特異的に結合し得る2種類の蛍光標識20a、20bを別途合成する。図1(A)は蛍光標識20aの模式図、図1(B)は蛍光標識20bの模式図である。蛍光標識20a、20bは、金属粒子が含まれるように合成されるので、表面プラズモン共鳴が起こると蛍光を発する。本実施の形態では、これら2種類の蛍光標識を均一溶液中に導入して抗原と結合させることにより、検出対象物質である特定の1種類の抗原を検出する。
【0031】
図1(A)に示した蛍光標識を以下第1の複合体20aと呼ぶこととする。第1の複合体20aは、直径が20nmの略球形の金ナノ粒子8の表面全体をSiO2からなる厚み10nmの金属消光防止膜で覆い、金属消光防止膜の表面に複数の第1の抗体12aと複数の蛍光分子14と複数のBSA(Bovine serum albumin)24とが結合した複合体である。金ナノ粒子8は、AuをコアとしてSiO2のシェルを有するコアシェル粒子である。金属消光防止膜は、金ナノ粒子8と蛍光分子14とが近接して蛍光分子14が励起されたエネルギーが金ナノ粒子8に奪われる、いわゆる金属消光を防止するために設けられている。なお、金属消光防止膜は特に明確には図示しておらず、以降の図においても特に明確には図示しない。第1の抗体12a、蛍光分子14およびBSA24は、金属消光防止膜の表面全体に偏りなく配置される。BSA24は、非特異吸着防止のために結合されており、検出対象物質と抗体12aの結合以外の非特異的な吸着を防いでいる。
図1(B)に示した蛍光標識を以下第2の複合体20bと呼ぶこととする。第2の複合体20bは、直径が20nmの金ナノ粒子8の表面全体をSiO2からなる厚み10nmの金属消光防止膜で覆い、金属消光防止膜の表面に複数の第2の抗体12bと複数の蛍光分子14と複数のBSA24とが結合した複合体である。第2の抗体12b、蛍光分子14およびBSA24は、金属消光防止膜の表面全体に偏りなく配置される。このように、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状的に等方的な構成を採る。
【0032】
第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは、検出対象物質である抗原の特定部位と反応し、それぞれ異なる位置に結合する抗体である。本実施の形態においては、第1の抗体12aとしてR&DSYSTEMS社のMAB1129(Human ErbB2/Her2 Antibody)を用い、第2の抗体12bとして同社のBAF1129(Human ErbB2/Her2 Biotinylated Antibody)を用いた。本実施の形態では、検出対象物質として血漿中のErbB2/Her2タンパク質を検出する。検出対象物質であるErbB2/Her2タンパク質を以下では抗原18と呼ぶ。
【0033】
蛍光分子14には、Alexa Fluor 568(Molecular Probes社の商品名)を用いた。Alexa Fluor 568は、波長600nm程度にピークを有し、550nm−700nm程度の波長を持った蛍光を発光する。第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは同種の蛍光分子14を有する。
【0034】
第1の複合体20aの作成方法について説明する。まず、第1の抗体12aのビオチン化を行う。具体的には、Miltenyi Biotec社のOne-Step Antibody Biotinylation Kitを使用する。例えば、金ナノ粒子8として、田中貴金属製のAuコロイド溶液−SC 粒径20nmを用いて、マイクロミキサー法によりAuをコアとしたSiO2シェルを有する粒子を製造する。このようにして、金ナノ粒子8の表面全体がSiO2膜で覆われたコアシェル粒子を作成することができる。SiO2へのアビジンの固定は、公知の任意の方法を用いることができる。そして、アビジンービオチン結合を介して金属消光防止膜上に第1の抗体12aを固定する。具体的には、粒子と抗体とのモル濃度を等しい割合で混合し、1時間放置する。続いて、金属消光防止膜上に蛍光分子を固定する。蛍光分子の固定方法は、Molecular Probes社のサクシニミジルエステル反応基色素キットに付属しているプロトコルに従ってを用いて行う。BSA24は、SIGMA−ALDRICH社のA9418−10Gを用いる。まず、A9418−10GをMillQで金ナノ粒子8のモル濃度の100倍になる濃度とし、A9418−10Gと金ナノ粒子8とを混合し、1時間放置することでBSA24によって金属消光防止膜の表面がブロッキングされて第1の複合体20aは完成する。第2の複合体20bも同様の手順で作成する。本実施例では、SiO2のシェルを有する金ナノ粒子の表面に蛍光色素を固定する方法を示したが、シェルであるSiO2の膜厚を20nm程度に厚くして膜内に蛍光色素を含有する方法もある。また、金属消光防止膜を設けない場合は、アビジン標識された金ナノ粒子を用いれば良い。
【0035】
本実施の形態で用いた第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは、いわゆるサンドイッチ法を行って抗原18を検出するための抗体である。従って、これらの抗体は、抗原18をそれぞれ異なるエピトープで認識して結合する。すなわち、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは、抗原18のそれぞれ異なる位置に特異的に結合する。また、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは、互いに立体障害とならないように抗原18の立体構造上の遠い位置に結合する。なお、図1(A)および図1(B)における第1の抗体12aと第2の抗体12bの図は、それぞれ異なる凹形状で図示することにより、抗原18の異なる位置に結合することを表している。そのため、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは必ずしもこのような形状ではない。
【0036】
図1(C)は、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bの双方が抗原18と結合した場合を示す図である。以下、この図のように第1の複合体20aおよび第2の複合体20bの双方が抗原18に結合した複合体を第3の複合体22と呼ぶ。図1(C)においては、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bが抗原18のそれぞれ異なる位置に特異的に結合することをわかり易く示すために、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bのそれぞれの凹形状と適合した凸形状を有する図により抗原18を示している。実際の抗原18がこのような形状を有しているわけではない。
【0037】
第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは抗原18に対してサンドイッチ法を行うための抗体であるため、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bの双方が抗原18と結合した場合には、図1(C)のように第1の複合体20aと第2の複合体20bが抗原18を挟んで向かい合った位置に結合する。すなわち、第3の複合体22においては、第1の複合体20a、抗原18および第2の複合体20bが一直線上に並んだ構造となる。このように、第3の複合体22は、形状に異方性を有する複合体となる。以下、第3の複合体22において、第1の複合体20a、抗原18および第2の複合体20bが並んだ方向を長軸方向といい、長軸方向に垂直な方向を短軸方向という。第3の複合体22において、第1の複合体22aが有する金ナノ粒子8と第2の複合体22bが有する金ナノ粒子8との距離は、約30nmとなる。
【0038】
図2(A)および図2(B)は、本実施の形態に係る生体分子検出装置における抗原抗体反応の概要を示した模式図である。図2(A)は抗原抗体反応前の状態を表す。試薬容器10は、四角柱状の外形を有し、上面が開口した四角柱状の凹部からなる試薬保持部を内部に有する。図2(A)および図2(B)においては、外部に露出していない試薬保持部を破線によって示してある。試薬保持部の中には、乾燥した複数の第1の複合体20aおよび第2の複合体20bが入れられている。
【0039】
本実施の形態においては、検体は全血から分離した血漿16である。試薬容器10に血漿16を分注して撹拌すると、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bと特異的に結合する抗原18が血漿16中に存在する場合は、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bと抗原18との間で抗原抗体反応が起こり、図2(B)に示すように第3の複合体22が形成される。
【0040】
第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは抗原18に対して十分に多い量が入れられているため、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bの一部は、抗原抗体反応をしないまま血漿16内に残る。すなわち、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bと混合された血漿16内には第1の複合体20a、第2の複合体20bおよび第3の複合体22が混在している。
【0041】
なお、血漿16中には抗原18以外の成分も存在するが、説明を簡単にするため、図2(A)および(B)においては抗原18以外の成分は省略して示してある。
【0042】
本実施の形態に係る生体分子検出装置100は、液相であることにより第1の複合体20a、第2の複合体20bおよび第3の複合体22が混在している血漿16に対して励起光を照射し、励起光と金ナノ粒子8との間で表面プラズモン共鳴を発生させ、表面プラズモン共鳴により発生する電場によって蛍光分子14を発光させ、当該血漿16内から発生する蛍光を測定することにより抗原18の検出および定量を行う。
従って、抗原18を含む第3の複合体22から発生する蛍光のみを検出することが望ましいが、第1の複合体20a、第2の複合体20bおよび第3の複合体22は血漿16内に混在しているため、血漿16に励起光を照射すると、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bに付随している蛍光分子14も蛍光を発生して不要成分となる。そこで、生体分子検出装置100は、第3の複合体22の配向方向を光により切り替えつつ蛍光を検出し、配向の切り替えに伴う蛍光強度の変化に基づいて全蛍光データの中から第3の複合体22に付随する蛍光分子から発生する蛍光の寄与分を算出する。
【0043】
生体分子検出装置100において、第3の複合体22に付随する蛍光分子14から発生する蛍光の寄与分と、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bに付随する蛍光分子14から発生する蛍光の寄与分とを算出する原理を図3A〜図3Cを用いて説明する。図3A〜図3Cは、励起光119と金ナノ粒子8との表面プラズモン共鳴により発生する電場の強さを濃淡画像により表した図である。図3A〜図3CにおいてX軸およびY軸は位置を表す。また、濃度は電場の強さを表し、濃度が濃いほどその位置における電場が強いことを表す。
【0044】
図3Aは、単独で存在する第1の複合体20aに対してX軸方向に振動しながらY軸方向に進行する励起光119を照射した際、金ナノ粒子8の周囲に発生する電場の強さを濃淡画像によって表した図である。濃淡画像の中心には第1の複合体20aが存在する。この場合、金ナノ粒子8を中心としてX軸方向に電場が発生する。つまり、表面プラズモン共鳴を発生させる励起光119の振動方向と同方向に電場が発生する。この電場は、金ナノ粒子8の表面近傍において最も強く、金ナノ粒子8から離れるほど弱くなる。金ナノ粒子8表面に存在する蛍光分子14は発生した電場によって励起され蛍光を発生する。
【0045】
単独で存在する第1の複合体20aについては、形状に異方性がなく、蛍光分子14は金属消光防止膜の表面全体に偏りなく結合しているため、向きが変わっても発生する蛍光の量に大きな変化はない。なお、第2の複合体20bの表面プラズモン共鳴による強度分布は図示しないが、第1の複合体20aと同様の強度分布となる。
【0046】
一方、形状に異方性を有する第3の複合体22は、配向を制御することが可能である。図3Bは、Y軸方向に長軸方向を向けた第3の複合体22に対してX軸方向に振動しながらY軸方向に進行する励起光119を照射した際、金ナノ粒子8の周囲に発生する電場の強さを濃淡画像によって表した図である。この場合においても、金ナノ粒子8を中心としてX軸方向に電場が発生する。それぞれの電場の強さは、第1の複合体20aまたは第2の複合体20bが単独で存在する場合とほぼ同じである。従って、第1の複合体20aまたは第2の複合体20bが発生する蛍光の量も第1の複合体20aまたは第2の複合体20bが単独で存在する場合とほぼ同じとなる。
【0047】
図3Cは、X軸方向に長軸方向を向けた第3の複合体22に対してX軸方向に振動しながらY軸方向に進行する励起光119を照射した際、金ナノ粒子8の周囲に発生する電場の強さを濃淡画像によって表した図である。この場合、第1の複合体20aが有する金ナノ粒子8と第2の複合体20bが有する金ナノ粒子8との間の領域において、それぞれが有する金ナノ粒子8により発生した表面プラズモン共鳴による電場が重なり、非常に強い電場を発生する。この電場の強度は、図3Bの場合と比べて約20倍程である。そのため、金属消光防止膜の表面かつ第1の複合体20aが有する金ナノ粒子8と第2の複合体20bが有する金ナノ粒子8との間に存在する蛍光分子14は非常に強い電場により励起され、強い蛍光を発生する。従って、第3の複合体22が発生する蛍光の量は、図3Bの場合と比べて増加する。つまり、X軸方向に振動しながらY軸方向に進行する励起光119を照射した場合、第3の複合体22の長軸方向がY軸方向からX軸方向に変化すると、第3の複合体22から発生する蛍光の量が増加する。
【0048】
そこで、本実施の形態に係る生体分子検出装置100は、光により第3の分子の配向方向を周期的に変化させ、この周期に同期した蛍光信号のみを検出することにより、第3の複合体22から発生する蛍光の量の算出を行う。一方、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状に異方性がないため光を照射しても配向しない。第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、ブラウン運動により回転運動するが、向きが変化しても発光する蛍光の量は変化しないため、第3の分子の配向方向を変化させる周期に同期した蛍光を発生しない。従って、第1の複合体20a、第2の複合体20bおよび第3の複合体22が混在している血漿16においても、第3の複合体22から発生する蛍光の寄与分を算出することができる。
【0049】
このような処理を行う生体分子検出装置100の構成について説明する。図4(A)は、生体分子検出装置100の外観斜視図である。生体分子検出装置100の側面には、表示部102、ユーザー入力部104および開閉カバー106がある。表示部102は、測定結果等を表示する。ユーザー入力部104は、モードの設定および検体情報の入力等を行う。開閉カバー106は、開閉が可能な構成となっており、検体のセット時には開け、測定時には閉じる。この構成により、外部の光が測定に影響を与えることを防いでいる。
【0050】
図4(B)は、開閉カバー106を開いた場合における生体分子検出装置100の外観斜視図である。開閉カバー106を開くと、中には試薬容器10および保持台110がある。試薬容器10は、保持台110に保持されており、保持台110から着脱可能となっている。試薬容器10は、溶液を入れる四角柱状の容器である。ユーザーは、試薬容器10に検体を分注し、上蓋を閉じて測定を行う。図示しないが、生体分子検出装置100内には試薬タンクおよび分注部があり、測定が開始されると、分注部は試薬タンク内から試薬を吸い上げて試薬容器10内に分注する。
【0051】
図5は、生体分子検出装置100の主要な構成を説明するための機能ブロック図である。生体分子検出装置100は、表示部102、ユーザー入力部104、試薬容器10、試薬タンク112、分注部114、配向制御用光源部116、励起光源部118、偏光方向制御部120、FG(Function Generator)122、受光部124、増幅部126、ロックインアンプ127、A/D変換部128、サンプリングクロック発生部130、およびCPU132を有する。
【0052】
試薬容器10は、試薬タンク112に保存してある試薬と患者等から採取した検体とを反応させる容器である。試薬容器10は、生体分子検出装置100から着脱可能となっている。試薬容器10の容量は、約120μLである。
【0053】
試薬タンク112は複数種類の試薬を貯めておくタンクである。第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは試薬タンク112中に試薬として保存されている。
【0054】
分注部114は、着脱可能なピペットや吸引器によって構成される。分注部114は、CPU132からの命令に従い、測定に使用する試薬を試薬タンク112からピペットで吸い上げ、試薬容器10へ分注する。
【0055】
配向制御用光源部116は、内部の偏光子により直線偏光した配向制御光117を偏光方向制御部120に向けて照射する光源である。ここで、直線偏光とは、光の振動方向が一定であり、偏光面が変化しない光を指す。直線偏光した光の進行方向および振動方向が存在する面を偏光面といい、直線偏光した光の振動方向を偏光軸という。配向制御用光源部116は、配向制御光117により試薬容器10内の溶液中に存在する第3の複合体22に外力を加えて第3の複合体22を配向させる。配向制御光117には、例えば、波長909nm、出力700mWのレーザーを用いる。配向制御光117は、蛍光分子14が吸収しない波長のレーザーであり、蛍光分子14の色素が壊れる等の影響を与えない。配向制御光117は、試薬容器10の溶液全体を照らす程度の幅を有している。
【0056】
配向制御光117による外力は、配向制御光117が第3の複合体22に当たって散乱する際の反作用として生じるものである。第3の複合体22は、図1(C)に示したように、形状に異方性を有した複合体となっている。従って、配向制御光117第3の複合体22に当たった場合、配向制御光117に対する反作用がより小さくなるように第3の複合体22は回動する。その結果、第3の複合体22の長軸方向と配向制御光117の振動方向とが平行となる。この平行関係となったときがエネルギー的に最も安定した状態であるため、第3の複合体22の回動はここで停止する。換言すると、第3の複合体22は、配向制御光117が照射されていないときは溶液中でランダムな方向を向いて分散しているが、配向制御光117が照射されると回動し、長軸方向が配向制御光117の振動方向と平行になる位置で停止する。一方、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状に異方性を有しないため、配向されない。
【0057】
偏光方向制御部120は、配向制御光117の振動方向を切り替えることで、第3の複合体22の配向方向を切り替える。偏光方向制御部120は、λ/2波長板を有する。λ/2波長板は、垂直な方向に振動する偏光の光路差を1/2波長変化させる機能を有する位相板であり、光の偏光面を回転操作するために用いられる。λ/2波長板の光学軸方向と平行な方向に直線偏光した光はλ/2波長板を素通りするが、λ/2波長板の光学軸方向と45度の角度をなす方向に直線偏光した光は振動方向が90度変化する。つまり、直線偏光した光に対するλ/2波長板の角度を切り替えることで、光を素通りさせる場合と、光の振動方向を90度変化させる場合とを切り替えることができる。偏光方向制御部120は、FG122からの信号を受けてλ/2波長板を回転し、配向制御光117の振動方向を90度切り替える。換言すれば、配向制御光117の振動方向は、FG122が発生する電圧信号によって決まる。偏光方向制御部120は、FG122から0Vの信号が出力されている場合は配向制御光117を素通りさせ、FG122から5Vの信号が出力されている場合は配向制御光117の振動方向を90度切り替える。以下、FG122から配向制御部120へ出力される信号を配向制御信号という。
【0058】
励起光源部118は、内部に備えた偏光子により直線偏光した励起光119を、試薬容器10の底面から上方に向けて照射する光源である。励起光源部118は、励起光119を照射して励起光119と金ナノ粒子8との間で表面プラズモン共鳴を発生させる。励起光119には、波長635nm、出力10mWの光を用いる。
【0059】
FG122は、様々な周波数と波形をもった電圧信号を発生させることのできる装置である。FG122は、CPU132から出力される命令を受けて、偏光方向制御部120、ロックインアンプ127およびサンプリングクロック発生部130へ電圧信号を出力する。
【0060】
CPU132は、FG122に対して出力する配向制御信号を指定することで、偏光方向制御部120が配向制御光117の進行方向を切り替えるタイミングを制御する。
【0061】
受光部124は、フィルタやフォトダイオード等によって構成される。受光部124は、試薬容器10の下部に設けられ、試薬容器10内の蛍光分子14から発生する蛍光123を試薬容器10の下部で受光し、アナログ電気信号に変換して増幅部126へ出力する。受光部124の内部のフィルタは、蛍光分子14から発生する蛍光以外の波長の光をカットするフィルタである。
【0062】
増幅部126は、受光部124から出力されるアナログ蛍光データを増幅してロックインアンプ127へ出力する。
【0063】
ロックインアンプ127は、アナログ蛍光データを直流に周波数変換する。ロックインアンプ127には、FG122から参照信号である方形波が入力される。ロックインアンプ127は、増幅部126から出力されたアナログ蛍光データから、参照信号と等しい周波数成分の検出を行う。具体的には、ロックインアンプ127は、参照信号と等しい周波数成分のみを同期検波により直流信号に変換し、内部に設けられたローパスフィルタにより直流信号のみを通過させる。ロックインアンプ127は、直流信号をA/D変換部128へ出力する。
【0064】
サンプリングクロック発生部130は、FG122から入力される電圧信号に基づいて、A/D変換部128がアナログ蛍光データをサンプリングするタイミングを指定するサンプリングクロックをA/D変換部128に入力する。
【0065】
A/D変換部128は、サンプリングクロック発生部130から出力されるサンプリングクロックに基づいて、ロックインアンプ127から出力されたアナログ蛍光データのサンプリングを行い、デジタルデータに変換してCPU132へ出力する。
【0066】
CPU132は、A/D変換部128から出力されたデジタルデータの演算を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU132は、ユーザー入力部104から入力を受けて、配向制御用光源部116、励起光源部118、分注部114およびFG122の動作の指示命令を行う。具体的には、配向制御用光源部116および励起光源部118のON、OFF命令、分注部114に対して、使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令、FG122に対して、出力する信号波形の指示命令および出力命令を行う。
【0067】
図6A〜図6Cは、配向制御光117の振動方向に対する第3の複合体22の配向方向を表した図である。これらの図を用いて配向制御光117の振動方向が変化した場合における第3の複合体22の配向方向の変化について説明する。なお、図6A〜図6Cにおいては、第1の複合体20aを省略して描いてある。
【0068】
図6Aは、偏光方向制御部120が配向制御光117を素通りさせた場合における第3の複合体22の配向方向を示す図である。配向制御信号が0Vであり、紙面上下方向に振動している配向制御光117が偏光方向制御部120を素通りして試薬容器10に入射すると、第3の複合体22は、長軸方向を配向制御光117の振動方向と同一方向に向けて配向する。一方、血漿16内に混在している第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状が等方的なため配向しない。
【0069】
図6Bは、配向制御光117の振動方向を90度切り替え、配向制御光117の振動方向が紙面に垂直な方向に変化した場合における第3の複合体22の挙動を示す図である。配向制御信号が0Vから5Vに変化すると、偏光方向制御部120は、配向制御光117の振動方向を紙面上下方向から紙面に垂直な方向に切り替える。紙面に垂直な方向に振動する配向制御光117が試薬容器10に入射すると、第3の複合体22は、長軸方向が配向制御光117の振動方向と平行となるように回転運動を行う。一方、血漿16内に混在している第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状が等方的なため回転運動も行わない。
【0070】
図6Cは、FG122から5Vの信号が出力され、偏光方向制御部120が配向制御光117の振動方向を90度変化させた場合における第3の複合体22の配向方向を示す図である。この場合においても、第3の複合体22は、長軸方向を配向制御光117の振動方向と同一方向に向けて配向する。一方、血漿16内に混在している第1の複合体20aおよび第2の複合体20bは、形状が等方的なため配向しない。
【0071】
このように生体分子検出装置100は、FG122から配向制御信号を出力することにより偏光方向制御部120が有するλ/2波長板の向きを切り替えることで、配向制御光117の振動方向、すなわち第3の複合体22の配向方向を、角度が90度異なる2つの方向に切り替えることができる。
【0072】
図7は、配向制御光117の焦点の位置を示す図である。配向制御光117は、レンズ108に入射し、血漿16と試薬容器10の内壁面10aとの界面において焦点117aを結ぶ。配向制御光の焦点の位置は、配向制御光が最も強い力で第3の複合体22を配向させる。従って、図6A〜図6Cのように配向制御光を入射させると、配向制御光117は、焦点117aの位置において第3の複合体を内壁面10aに押しつけつつ、より効率的に第3の複合体22を配向させることができる。配向制御光117の振動方向を回動させることで、第3の複合体22の配向方向を焦点117aの位置において変化させることができる。なお、図6A〜図6Cにおいては、説明を分かりやすくするために第2の複合体20bおよび第3の複合体22を内壁面10aと離れた位置において示した。なお、試薬保持部は必ずしも四角柱状の形状を有している必要はなく、少なくとも一部に平面を有していれば同様の効果が得られる。すなわち、その平面と溶液との界面において焦点を結ぶように配向制御光を照射すれば第3の複合体は横に移動して配向制御光の外に出ることがなく、平面に押しつけられて配向される。
【0073】
図8(A)および図8(B)は、第3の複合体22の配向方向に対する励起光119の振動方向を示す図である。
【0074】
図8(A)は偏光方向制御部が配向制御光を素通りさせた場合における第3の複合体の配向方向と励起光の振動方向との関係を示す図である。図8(A)に示す試薬容器10の側面図に対し、励起光119は紙面に垂直な方向に振動しながら紙面上方に向かって進行して血漿16中に入射する。図8(A)に示す試薬容器10の上面図に対しては、励起光119の振動方向は紙面の上下方向となる。この場合、励起光119の振動方向と第3の複合体22の配向方向との関係は、図3Bと同様になる。従って、励起光119と第3の複合体22との表面プラズモン共鳴により発生する電場の強度は図3Bと同様になる。
【0075】
図8(B)は、配向制御光の振動方向を90度切り替えた場合における第3の複合体の配向方向と励起光の振動方向との関係を示す図である。図8(B)においても、試薬容器10の側面図に対し、励起光119は紙面に垂直な方向に振動しながら紙面上方に向かって進行して血漿16中に入射する。図8(B)に示す試薬容器10の上面図に対しても、励起光119の振動方向は紙面の上下方向となる。この場合、励起光119の振動方向と第3の複合体22の配向方向との関係は、図3Cと同様になる。従って、励起光119と第3の複合体22との表面プラズモン共鳴により発生する電場の強度は図3Cと同様になる。そのため、配向制御信号が0Vから5Vに変化すると、第3の複合体22から発生する蛍光の量が増加する。一方、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bから発生する蛍光の量は、配向制御信号に依らず一定である。なお、図8(A)〜図8(B)においても、説明を分かりやすくするために第2の複合体20bおよび第3の複合体22を内壁面10aと離れた位置において示した。
【0076】
このように生体分子検出装置100は、第3の複合体22の配向方向を配向制御信号に同期して変化させ、第3の複合体22から発生する蛍光強度を配向制御信号に同期して変化させる。ロックインアンプ127に入力する参照信号の周期を配向制御信号と同一のものとすれば、血漿16全体から発生する蛍光から、第3の複合体22から発生する蛍光の寄与分を検出することができる。
【0077】
測定の際にFG122が出力する配向制御信号、測定の際に受光部124が出力する受光部出力および測定の際にロックインアンプ127が出力するロックインアンプ出力の例を図9に示す。なお、ここでは説明を容易にするため、受光部出力およびロックインアンプ出力については、グラフを模式的に示してある。
【0078】
FG122から出力される配向制御信号は、測定前は0Vとなっている。配向制御信号は、0〜T(秒)までの間は5Vの信号を出力し、T〜2T(秒)までの間は0Vの信号を出力する周期2Tの方形波である。
【0079】
生体分子検出装置100は、時刻T1で配向制御信号を5Vにすると共に、励起光を試薬容器10に向けて照射する。配向制御信号を5Vとすると、偏光方向制御部120が配向制御光117の振動方向を切り替える。
【0080】
時刻T1において励起光119が血漿16に照射されると受光部出力はizの値を出力する。受光部出力izは、血漿16中に含まれる第1の複合体20a、第2の複合体20bおよび第3の複合体22が有する蛍光分子14が発生する蛍光の総和である。
【0081】
時刻T1において配向制御光117の振動方向が切り替わったことに伴い、第3の複合体22の配向方向が切り替わり、第3の複合体22が有する2つの金ナノ粒子8の間の電場が増強される。第3の複合体22が有する2つの金ナノ粒子8の間の電場が増強されたことに伴い、受光部出力もizから増加していく。血漿16中の全ての第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了すると、受光部出力は値itで飽和する。
【0082】
配向制御信号は、5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。このT秒は、少なくとも全ての第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了する以上の期間、すなわち受光部出力が値itで飽和をする以上の期間を取る。全ての第3の複合体22の配向の切り替えが完了し、時刻T2になると配向制御信号が5Vから0Vに変わる。配向制御信号が5Vから0Vに変わると、第3の複合体22の配向方向が切り替わり、第3の複合体22が有する2つの金ナノ粒子8の間の電場が弱くなる。そのため、受光部出力は徐々に減少してizとなる。
【0083】
時刻T2から時間Tが経過し、時刻T3で再び配向制御信号が5Vとなると、受光部出力も増加して値itで飽和する。ここで、配向制御信号を0Vとする期間は、配向制御信号を5Vとしていた期間と同じT秒とした。これは、配向制御光117の出力が一定という条件下では、血漿16中の第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間は、配向制御信号を0Vから5Vとした場合と、配向制御信号を5Vから0Vにした場合とで、ほぼ同じ時間がかかるためである。
【0084】
時刻T3から時間Tが経過し、時刻T4で配向制御信号が0Vとなることに伴い、受光部出力も減少して値izとなる。なお、配向制御信号の1周期は2Tであるため、T4−T3=T3−T2=T2−T1=Tである。つまり、受光部出力は配向制御信号と同様に周期2Tで値の増減を繰り返す周期的な出力となる。
【0085】
ロックインアンプ127は、入力された信号から参照信号と同期して増減する成分を検出する。生体分子検出装置100では、配向制御信号と同じ周期を有する信号が参照信号としてロックインアンプ127に入力されている。すなわち、ロックインアンプ127は、受光部出力から配向制御信号に同期した成分を検出する。受光部出力は、配向制御信号と同様に周期2Tの周期的な信号であるが、受光部出力の周期的な成分に寄与しているものは、配向制御信号により配向される第3の複合体22に付随した蛍光分子14である。従って、ロックインアンプ127により、配向制御信号と同期した成分を検出すると、受光部出力の中から第3の複合体22による寄与分を検出することができる。ロックインアンプ出力は、当初は増減を繰り返す不安定な出力であるが、徐々に値Sに収束する。値Sは、血漿16中の全ての第3の複合体22に付随した蛍光分子14が発生した蛍光に基づく受光部出力である。
【0086】
CPU132は、ロックインアンプ出力Sから検出対象物質の濃度Cを算出する。具体的には、次式(1)によって求める。
C=f(S)・・・(1)
【0087】
ここで、f(S)は、検量線関数である。生体分子検出装置100は、あらかじめ測定項目ごとに異なる検量線関数を持っておき、測定値Sを診断値Cに変換する。CPU132は、得られた診断値Cを表示部102へ出力する。
【0088】
以上説明したように、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100によれば、配向制御光117の振動方向の切り替えにより、血漿16内に存在する第3の複合体22の配向方向を切り替えることが可能な構成とした。配向制御光117による第3の複合体22の配向方向は、表面プラズモン共鳴により第3の複合体22が有する2つの金ナノ粒子8の間に発生する電場の強度が大きく異なる2つの方向である。そのため、第3の複合体22の配向方向の変化により、第3の複合体22から発生する蛍光の強度は大きく異なる。そして、第3の複合体22の配向方向を周期的に変化させながら表面プラズモン共鳴を起こさせ、血漿16から発生した全蛍光量から第3の複合体の配向方向が変化する周期と同期する成分をロックインアンプ127によって検出するため、配向制御光117により配向される第3の複合体に付随した蛍光の寄与分を算出することができ、簡便な構成で検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
【0089】
また、以上の構成において、生体分子検出装置100は、配向制御光117による外力によって、第3の複合体22の配向を全て同一方向に制御するため、ブラウン運動というランダムな運動を利用して測定する場合に比べて、高感度な測定をすることができる。
【0090】
また、配向制御信号を5Vと0Vとの間で切り替える際の時間間隔は、第3の複合体22の質量や体積、溶媒の粘度、溶液の温度等に基づいて変化させることが望ましい。すなわち、配向制御光の振動方向の切り替わりにより第3の複合体22が配向方向が変化し始め、その変化が完了するまでに要する時間は、第3の複合体22の体積、溶媒の粘度、溶液の温度、溶液中における第3の複合体22の回転しやすさ等によって決まる。例えば、検体の粘度が高い場合等、第3の複合体22が溶液中で回転しにくい場合は、第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間が長くなるため、配向制御信号を5Vまたは0Vとする期間を、第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了する程度まで長くすることが望ましい。ここで、第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間は、受光部出力に基づいて決定することができる。例えば、図9においては、受光部出力が最大値となった時刻T2から初めに配向制御信号を5Vにした時刻T1を減算すること、すなわちT2−T1を行うことにより、第3の複合体22の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間を求めることができる。
【0091】
また、本実施の形態では、配向制御光117として波長909nm、出力700mWのレーザー用いたが、配向制御光117はこのレーザーに限られない。配向制御光117の波長および出力強度は、第3の複合体22の体積、質量等、これらに起因する溶液中での回転しやすさに基づいて決定することが望ましい。配向制御光117の波長は、第3の複合体22蛍光測定に影響を与えない波長であれば何でも良い。また、配向制御光117の出力は、第3の複合体22等の複合体に悪影響を与えない程度の出力とすることが望ましい。また、配向制御光117は、必ずしも第3の複合体を配向させる程度の出力である必要はない。第3の複合体および第6の複合体は、溶液中でブラウン運動をしており、配向方向を切り替えていない場合においても発生する蛍光の強度は変化している。第3の複合体または第6の複合体が配向しない程度の強度の配向制御光117を照射すると、第3の複合体または第6の複合体は、ブラウン運動を阻害される。
【0092】
また、本実施の形態では、励起光119として波長635nm、出力10mWの光を用いたが、励起光119に用いる光はこの光に限られない。励起光119の波長は、金ナノ粒子8との間で表面プラズモン共鳴を起こす波長であれば良いが、蛍光分子14を直接励起しない波長帯の光を用いることが望ましい。また、励起光119の出力は、金ナノ粒子8との間で表面プラズモン共鳴を起こし、発生した電場によって発生する蛍光が受光部124によって検出可能な程度の強度となる出力以上であれば何でも良い。一方、第3の複合体22等に悪影響を与えない程度の出力であることが望ましい。また、励起光源部118は、ランプと干渉フィルタの組み合わせによって構成しても良い。
【0093】
なお、実施の形態1においては、第1の複合体20aは、第1の抗体12a、蛍光分子14およびBSA24が金属消光防止膜の表面全体に偏りなく結合している構造であったが、第1の複合体は必ずしもこのような構造である必要はない。また、第2の複合体も必ずしも実施の形態1で説明したような構造である必要はない。同様に、第1の複合体および第2の複合体が検出対象物質と結合して生成される第3の複合体も必ずしも実施の形態1で説明したような構造である必要は無い。
【0094】
図10(A)は、第1の複合体の別の構造を示す模式図である。第1の複合体26aは、金ナノ粒子8全体に偏りなく結合したBSA24と、金ナノ粒子8に単独で結合された第1の抗体12aと、第1の抗体12aに結合された複数の蛍光分子14とによって構成される。このように蛍光分子が標識された抗体を蛍光色素標識抗体という。第1の複合体26aと第1の複合体20aとの違いは、金ナノ粒子8に結合されている第1の抗体12aが単数であること、蛍光分子14が第1の抗体12aに結合されていること、および金ナノ粒子8上に金属消光防止膜が設けられていないことである。抗体に蛍光色素を標識することで、金ナノ粒子と蛍光色素の間の距離を数nm〜15nm程度離すことができるため、抗体に標識されている蛍光色素の一部については金属消光が防止され、SiO2シェルのような特別な構造を有する粒子を用いる必要がないというメリットがある。
【0095】
このような構造を作成するため、金ナノ粒子8と蛍光色素標識抗体とを結合させる際は、金ナノ粒子8の数と蛍光色素標識抗体の数をほぼ同数混合する。すると、蛍光色素標識抗体は、金ナノ粒子8に単数のみ結合する。
【0096】
図10(B)は、第2の複合体の別の構造を示す模式図である。第2の複合体26bは、金ナノ粒子8と、金ナノ粒子8の表面全体に偏りなく結合したBSA24と、金ナノ粒子8に単独で結合された第2の抗体12bと、第2の抗体12bに結合された複数の蛍光分子14とによって構成される。第1の複合体26bと第1の複合体20bとの違いは、金ナノ粒子8に結合されている第2の抗体12bが単数であること、蛍光分子14が第2の抗体12bに結合されていること、および金ナノ粒子8上に金属消光防止膜が設けられていないことである。
【0097】
第1の複合体26aおよび第2の複合体26bは、通常の抗体の代わりに蛍光標識抗体を用いて、金ナノ粒子8として、アビジン標識された直径20nmの金ナノ粒子であるNanoparts社の20−PN―20を用いれば、第1の複合体20aと同様の手順により作成することができる。蛍光標識抗体は、Molecular Probes社のAlexaたんぱく質標識キットを用いて作成する。
【0098】
図10(C)は、第3の複合体の別の構造を示す模式図である。第1の複合体26aおよび第2の複合体26bが抗原18に結合すると、第3の複合体28が生成される。第1の複合体26aおよび第2の複合体26bの蛍光分子14は、それぞれ第1の抗体12aまたは第2の抗体12bに結合されているため、第3の複合体28においては、第1の複合体26aが有する金ナノ粒子8と第2の複合体26bが有する金ナノ粒子8との間にのみ蛍光分子14が存在することになる。
【0099】
このような構造の第3の複合体28は、第3の複合体22に比べ蛍光分子14の絶対量は減少する。そのため、単一の第3の複合体が発生する蛍光の量も減少する。しかし、表面プラズモン共鳴に伴って発生する電場は、図3B、図3Cに示したように第3の複合体の配向方向の変化により、主に第1の複合体が有する金ナノ粒子8と第2の複合体が有する金ナノ粒子8との間において強度が変化する。すなわち、第3の複合体28が有する蛍光分子14は、第3の複合体28の配向方向の変化に伴い電場の強度が変わる位置にのみ存在する。そのため、このような構成の第1の複合体26aおよび第2の複合体26bを用いて実施の形態1と同様の測定を行うと、第3の複合体28からは、表面プラズモン共鳴に伴って発生する電場の強度を反映した強さの蛍光のみが発生する。つまり、第3の複合体28の配向方向の変化が、より蛍光の強度に的確に反映されるため、測定の精度を向上させることができる。
【0100】
また、配向方向の変化に伴い電場の強度が変わる位置にのみ蛍光分子が存在する第3の複合体を形成する第1の複合体および第2の複合体の別の例を図11(A)および図11(B)に示す。図11(A)は、第1の複合体の別の構造を示す模式図である。第1の複合体32aは、金ナノロッド30と、金ナノロッド30の表面全体に偏りなく結合したBSA24と、金ナノロッド30に単独で結合された第1の抗体12aと、第1の抗体12aに結合された複数の蛍光分子14とによって構成される。第1の複合体32aと第1の複合体26aとの違いは、金ナノ粒子8の代わりに金ナノロッド30を用いたことである。金ナノロッド30は、柱状の形状を有する金ナノ粒子である。金ナノロッド30は、短軸10nm、長軸50nm程度の大きさのものを使用する。
【0101】
図11(B)は、第2の複合体の別の構造を示す模式図である。第2の複合体32bは、金ナノロッド30と、金ナノロッド30の表面全体に偏りなく結合したBSA24と、金ナノロッド30に単独で結合された第2の抗体12bと、第2の抗体12bに結合された複数の蛍光分子14とによって構成される。第2の複合体32bと第2の複合体26bとの違いは、金ナノ粒子8の代わりに金ナノロッド30を用いたことである。
【0102】
第1の複合体32aおよび第2の複合体32bは、通常の抗体の代わりに蛍光標識抗体を用いて、金ナノ粒子の代わりにアビジン標識された金ナノロッドを用いれば、第1の複合体20aと同様の手順により作成することができる。
【0103】
図11(C)は、第3の複合体の別の構造を示す模式図である。第1の複合体32aおよび第2の複合体32bが抗原18に結合すると、第3の複合体34が生成される。第1の複合体32aおよび第2の複合体32bの蛍光分子14は、それぞれ第1の抗体12aまたは第2の抗体12bに結合されているため、第3の複合体32においてに、第1の複合体32aが有する金ナノ粒子8と第2の複合体32bが有する金ナノ粒子8との間にのみ蛍光分子14が存在することになる。このような構成の第1の複合体32aおよび第2の複合体32bを用いて実施の形態1と同様の測定を行っても、第1の複合体28aおよび第2の複合体28bを用いて測定を行った場合と同様に、測定の精度を向上させることができる。また、このような構成の第1の複合体32aおよび第2の複合体32bを用いても、蛍光分子14が金ナノロッド30の表面から十分離れるため、金ナノロッド30に金属消光防止膜等をもうけることなく金属消光を防止することができる。
【0104】
(実施の形態2)
実施の形態2では、4種類の複合体を使用し、均一溶液中で検出対象物質である特定の2種類の抗原を検出する。4種類の複合体の内2種類は、実施の形態1で示した第1の複合体20aおよび第2の複合体20bと同一のものであるため説明を省略する。本実施の形態で使用する残りの2種類の複合体である第4の複合体および第5の複合体について説明する。
【0105】
図12(A)は、第4の複合体20cの模式図である。第4の複合体20cは、直径が20nmの略球形の金ナノ粒子8の表面全体をSiO2からなる厚み10nmの金属消光防止膜で覆い、金属消光防止膜の表面複数の第3の抗体12cと複数の蛍光分子36と複数のBSA24とが結合されている。第3の抗体12c、蛍光分子36およびBSA24は、第4の複合体20cが有する金属消光防止膜の表面全体に偏りなく結合している。すなわち、第4の複合体20cは、第1の複合体20aと比べ、抗体と蛍光分子の種類が異なる。
【0106】
図12(B)は、本発明の実施の形態1において使用する第5の複合体20dの模式図である。第5の複合体20dは、直径が20nmの金ナノ粒子8の表面全体をSiO2からなる厚み10nmの金属消光防止膜で覆い、金属消光防止膜の表面に複数の第4の抗体12dと複数の蛍光分子36と複数のBSA24とが結合されている。第4の抗体12d蛍光分子36およびBSA24は、第5の複合体20dが有する金属消光防止膜の表面全体に偏りなく結合している。すなわち、第5の複合体20dは、第1の複合体20aと比べ、抗体と蛍光分子の種類が異なる。このように、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dは、第1の複合体20aおよび第2の複合体20bと同様に等方的な形状を有する。
【0107】
第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは、検出対象物質である抗原の特定部位と反応し、それぞれ異なる位置に結合する抗体である。本実施の形態においては、第3の抗体12cとしてR&DSYSTEMS社のMAB4128(Human CEACAM-5 Antibody)を用い、第4の抗体12dとしてR&DSYSTEMS社のMAB4128(Human CEACAM-5)を用いた。本実施の形態では、検出対象物質として血漿中のErbB2/Her2タンパク質およびCEAたんぱく質の2種類の抗原を検出する。以下では、検出対象物質であるErbB2/Her2タンパク質を以下では抗原18と呼び、検出対象物質であるCEAたんぱく質を抗原40と呼ぶ。本実施の形態で用いた第1の抗体12a、第2の抗体12b、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは、いわゆるサンドイッチ法を行って抗原を検出するための抗体である。従って、これらの抗体は、抗原をそれぞれ異なるエピトープで認識して結合する。すなわち、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bは、抗原18のそれぞれ異なる位置に特異的に結合する。第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは、抗原40のそれぞれ異なる位置に特異的に結合する。また、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bならびに第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは、互いに立体障害とならないように抗原の立体構造上の遠い位置に結合する。なお、図12(A)および図12(B)における第3の抗体12cと第4の抗体12dの図は、それぞれ異なる凹凸形状を示すことにより、抗原の異なる位置に結合することを表しているが、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは必ずしもこのような形状をしているわけではない。
【0108】
蛍光分子36には、Alexa Fluor 647(Molecular Probes社の商品名)を用いた。Alexa Fluor 647は、波長670nm程度にピークを持ち、620nm−750nm程度の波長を持った蛍光を発光する。第4の複合体20cおよび第5の複合体20dは同種の蛍光分子36を有する。第4の複合体20cおよび第5の複合体20dは、第1の複合体20aと同様の手順により作成する。
【0109】
図12(C)は、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dの双方が抗原40と結合した場合を示す図である。以下、この図のように第4の複合体20cおよび第5の複合体20dの双方が抗原40に結合した複合体を第6の複合体38と呼ぶ。図12(C)においては、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dが抗原40のそれぞれ異なる位置に特異的に結合することを示すため、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dのそれぞれの凹凸形状と合った凹凸形状を有する図により抗原40を示している。そのため、実際の抗原18は必ずしもこのような形状ではない。
第3の抗体12cおよび第4の抗体12dは抗原40に対してサンドイッチ法を行うための抗体であるため、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dの双方が抗原40と結合した場合には、図12(C)のように第4の複合体20cと第5の複合体20dが抗原40を挟んで向かい合った位置に結合する。すなわち、第6の複合体38においては、第4の複合体20c、抗原40および第5の複合体20dが直線上に並んだ構造となる。以下、第6の複合体38において、第4の複合体20c、抗原40および第5の複合体20dが並んだ方向を長軸方向といい、長軸方向に垂直な方向を短軸方向という。第6の複合体38において、第4の複合体22cが有する金ナノ粒子8と第5の複合体22dが有する金ナノ粒子8との距離は、約30nmとなる。
【0110】
図13(A)および図13(B)は、本実施の形態に係る生体分子検出装置における抗原抗体反応の概要を示した模式図である。図13(A)は抗原抗体反応前の状態を表す。図13(A)および図13(B)においては、外部に露出していない試薬保持部を破線によって示してある。試薬保持部の中には、乾燥した複数の第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dが入れられている。
【0111】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様に検体は全血から分離した血漿16である。試薬容器10に血漿16を分注して撹拌すると、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bと特異的に結合する抗原18が血漿16中に存在する場合は、第1の抗体12aおよび第2の抗体12bと抗原18との間で抗原抗体反応が起こり、図2(B)に示すように第3の複合体22が形成される。また、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dと特異的に結合する抗原40が血漿16中に存在する場合は、第3の抗体12cおよび第4の抗体12dと抗原40との間で抗原抗体反応が起こり、図2(B)に示すように第6の複合体38が形成される。
【0112】
図示しないが、第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dは抗原18および抗原40に対して十分に多い量が入れられているため、第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dの一部は、抗原抗体反応をしないまま血漿16内に残る。すなわち、第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dと混合された血漿16内には第1の複合体20a、第2の複合体20b、第3の複合体22、第4の複合体20c、第5の複合体20dおよび第6の複合体38が混在している。
なお、血漿16中には抗原18および抗原40以外の成分も存在するが、説明を簡単にするため、図13(A)および(B)においては抗原18および抗原40以外の成分は省略して示してある。
【0113】
本実施の形態に係る生体分子検出装置200は、液相であることにより第1の複合体20a、第2の複合体20b、第3の複合体22、第4の複合体20c、第5の複合体20dおよび第6の複合体38が混在している血漿16に対して励起光を照射し、励起光と金ナノ粒子8との間で表面プラズモン共鳴を発生させ、表面プラズモン共鳴により発生する電場によって蛍光分子14および蛍光分子36を発光させ、当該血漿16内から発生する蛍光を測定することにより抗原18または抗原40の検出および定量を行う。
【0114】
図14は、生体分子検出装置200の主要な構成を説明するための機能ブロック図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。生体分子検出装置200は、生体分子検出装置100の構成に対して、CPU202および受光部204が主に異なる。
【0115】
CPU202は、A/D変換部128から送られたデジタルデータの演算を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU202は、ユーザー入力部104から入力を受けて、配向制御用光源部116、励起光源部118、分注部114、FG122および受光部204の動作の指示命令を行う。具体的には、配向制御用光源部116および励起光源部118のON、OFF命令、分注部114に対して、使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令、FG122に対して、出力する信号波形の指示命令および出力命令、受光部204に対して、フィルタの切り替え命令を行う。
【0116】
受光部204は、試薬容器10内の蛍光分子から発生した蛍光を検出する受光部である。受光部204は、CPU208からの命令(S1)を受けて、蛍光分子14と蛍光分子36との蛍光を分離して受光できるように構成されている。
【0117】
受光部204の構成について、図15を用いて具体的に説明する。図15は、実施の形態2に係る生体分子検出装置200における受光部204の詳細な構成を表した模式図である。受光部204は、レンズ206、レンズ216、フィルタ切り替え部208および偏光子214を有する。試薬容器10内の蛍光分子14および蛍光分子36から発生した蛍光は、レンズ206によって集光され、フィルタ切り替え部208、偏光子214およびレンズ216を通ってフォトダイオード218へ入射する。
【0118】
フィルタ切替部208は、フィルタ210およびフィルタ212の2種類のフィルタを備えている。2種類のフィルタは可動式となっており、レンズ206によって集光された蛍光が通過するフィルタを切り替えることができる。フィルタ切替部208は、CPU202からの命令S1を受けて、蛍光が通過するフィルタを切り替える。
【0119】
フィルタ210は、蛍光分子14が発生する波長帯の光のみを透過するバンドパスフィルタである。フィルタ212は、蛍光分子36が発生する波長帯の光のみを透過するバンドパスフィルタである。フィルタ切り替え部208はCPU202からの命令S1に従い、抗原18の測定を行う際はフィルタ210を蛍光の光路に位置させて測定を行い、抗原40の測定を行う際はフィルタ212を蛍光の光路に位置させて測定を行う。このような構成により、受光部204は、検出対象物質を含む複合体以外から発生する光がフォトダイオード218に到達することを防いでいる。なお、必ずしもフィルタを用いる必要はなく、例えば回折格子等を用いて分光してもよい。
【0120】
偏光子214は、励起光119の偏光方向と同じ方向に偏光した光のみを透過する。試薬容器10内で散乱された励起光119や配向方向を切り替えている途中の蛍光分子14または蛍光分子36から発光した蛍光は、偏光方向が元々の励起光の偏光方向と異なっているため偏光子146を透過できない。
【0121】
PD218は、APD(Avalanche Photodiode)によって構成され、レンズ216によって集光された蛍光を受光し、蛍光の強度に応じた電荷を発生させて増幅部126へ出力する。
【0122】
続いて生体分子検出装置200の測定動作について説明する。生体分子検出装置200の測定動作は、基本的には実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の測定動作と同じであるが、細かな点で異なる。検出対象物質を含む複合体から発生する蛍光のみを分離可能な理由については実施の形態1で説明したため、ここでは2種類の検出対象物質をそれぞれ含む第3の複合体22と第6の複合体38とを分離して検出する方法を説明する。
【0123】
生体分子検出装置200は、まず抗原18または抗原40のどちらを先に検出するか決定する。これは、ユーザーが、ユーザー入力部104を通して入力する等して任意に決定することができる。ここでは、抗原18を有する第3の複合体22から先に検出する。CPU202は、受光部204内のフィルタ切替部208に、フィルタ210の使用を指示する命令を出す。フィルタ切替部208は、CPU202からの命令を受け、レンズ206により集光された光が通る位置にフィルタ210を移動させる。配向制御信号が5Vに変わり、試薬容器10に向けて励起光119が照射されると、溶液内の蛍光分子14および蛍光分子36は、蛍光を発生する。蛍光分子14および蛍光分子36から発生した蛍光は、レンズ206によって集光され、フィルタ210へ入射する。フィルタ210は、蛍光分子14が発生するの波長帯の光のみを透過するため、蛍光分子36から発生した蛍光は、ほぼ全て遮断する。このようにして受光部204は、蛍光分子14から発生した蛍光のみを検出することができる。
【0124】
実施の形態1と同様に、生体分子検出装置200によって配向制御信号の数周期分の測定を行い、蛍光分子14から発生した蛍光の検出を行った結果の受光部出力を、図16Aに示す。受光部出力は、配向制御信号と同じ周期を有する信号を出力する。ロックインアンプは、受光部出力の中から配向制御信号に同期した成分を検出して、値S1を出力する。
【0125】
続いて、CPU202は、得られた値S1から、抗原18の濃度を算出する。具体的には、実施の形態1と同様に検量線関数f1(S)を用いて、測定値S1から濃度C1に変換する。CPU202は、得られた濃度C1を表示部102へ出力する。
【0126】
次に、生体分子検出装置200は、抗原40を有する第6の複合体38の測定を行う。CPU202は、受光部204内のフィルタ切替部208に、フィルタ212の使用を指示する命令を出す。フィルタ切替部208は、CPU202からの命令を受け、レンズ206で集光された光が通る位置にフィルタ212を移動させる。フィルタ212は、蛍光分子36が発生するの波長帯の光のみを透過するため、蛍光分子14から発生した蛍光は、ほぼ全て遮断する。このようにして、受光部204は、蛍光分子36から発生した蛍光のみを検出することができる。
【0127】
生体分子検出装置200によって配向制御信号の数周期分の測定を行い、蛍光分子36から発生した蛍光の検出を行った結果の受光部出力を、図16Bに示す。なお、図16Aおよび図16Bにおいては、計算を容易にするためグラフを模式的に示してある。受光部出力は、配向制御信号と同じ周期を有する信号を出力する。
【0128】
第6の複合体38を測定する場合の配向制御信号の切り替えタイミングは、第3の複合体22を測定する場合と異なる。これは、第3の複合体22および第6の複合体38の体積および質量が異なるため、それぞれの複合体が配向を完了するまでに要する時間が異なるためである。
【0129】
図16Aおよび図16Bに示したように、第3の複合体22を測定する場合と、第6の複合体38を測定する場合とでは、受光部出力の最大値および最小値は異なる。これは、第3の複合体22と第6の複合体38との溶液中での濃度の違いに起因する。
【0130】
続いて、CPU202は、得られた値S2から抗原40の濃度を求める。具体的には、検量線関数f2(S)を用いて、測定値S2から濃度C2に変換する。CPU202は、得られた濃度C2を表示部102へ出力する。
【0131】
以上説明したように、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置200によれば、実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の構成に加え、検出対象物質と特異的に結合する物質として4種類の複合体および2種類の蛍光分子を用い、フィルタ切替部208を2種類のフィルタの切り替えが可能な構成とした。そのため、検出対象物質を含む複合体に付随した蛍光分子に対応したフィルタを使用することで、検出対象物質を含む複合体に付随した蛍光分子から発生する蛍光のみを検出することができ、一の検体に含まれる2種類の検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
【0132】
なお、本実施の形態では、蛍光分子としてAlexa Fluor568およびAlexa Fluor647を使用したが、使用する蛍光分子はこれらに限られない。複数の検出対象物質のそれぞれ特異的に結合する複合体を、それぞれ異なった蛍光分子で標識し、フィルタで分離できる程度にそれぞれの蛍光波長、励起波長または蛍光寿命が離れている蛍光分子を用いれば良い。
【0133】
また、本実施の形態では検出対象物質が2種類の場合について説明したが、検出対象物質は、それより多くても良い。その場合においても、それぞれの検出対象物質と特異的に結合する2種類の複合体でサンドイッチ法を行い、それぞれ異なった蛍光分子で標識し、それぞれの蛍光分子から発生する蛍光を、それぞれの蛍光に対応したフィルタで分離して検出することで、それぞれの検出対象物質を分離して検出することができる。
【0134】
なお、検出対象物質が増えるほど蛍光分子の種類も増え、複数の蛍光分子から発生する蛍光が混在することになるため、より狭い通過帯域を持つバンドパスフィルタを用いることで、目的の蛍光分子が発生する蛍光を検出しやすくすることができる。
【0135】
なお、溶液中の第3の複合体22または第6の複合体38の配向の切り替えはレーザーによるものに限られず、それらの複合体を配向できれば、磁気的な方法や電気的な方法としても良い。
【0136】
光により分子の配向制御を行うと、磁力等によって分子の配向を制御する場合に比べ複雑な機構が必要ない。例えば、磁力を用いて分子の配向を制御するためには、それぞれの分子が磁性を持ったものであるか、磁性を持った分子を用意して、配向を制御したい分子に結合させる必要があり、測定にあたって準備が煩雑となる。
【0137】
また、第3の複合体22または第6の複合体38の配向方向は、必ずしもλ/2波長板によって切り替える必要はない。例えば、配向制御光117の振動方向を切り替える代わりに、配向制御光117の照射方向をAOD(Acousto Optic Deflector)により切り替えることで配向方向を切り替えても良い。また、配向制御光117の照射方向を切り替えることで配向方向を切り替える場合、配向制御光配向制御用光源部を複数設けて配向制御光を照射する方向を切り替えても良い。
【0138】
また、配向制御用光源部は必ずしも1つのみを設ける必要はなく、複数の配向制御用光源部を設けて、同一方向に複数の配向制御光を照射しても良い。例えば、図17(試薬容器10の側面図)に示すように、42a〜42iの9点にそれぞれ対応した9本の配向制御光を入射させるような態様でも良い。このように複数の位置から配向制御光を照射すると、配向制御光の偏光軸の中心に位置する第3の複合体22または第6の複合体38が増える。配向制御光の偏光軸の中心は、最も効率良く第3の複合体22または第6の複合体36を回動させることができる。なお、ここでは9点に配向制御光を入射させる例を示したが、配向制御光を入射させる点は9点に限られず、9点より多くても少なくても良い。配向制御光を細く絞るほど、多くの点に入射させることが望ましい。これにより、複数箇所で配向に同期して第3の複合体22または第6の複合体38を回動させることができる。その結果、突発的な蛍光強度の変動を低下させることができ、相対的な散らばりを表す指標である変動係数(Coefficient of Variation)を改善させることができる。この場合においても、それぞれの配向制御光は試薬容器10を出射する端面において焦点を結ぶように照射されることが望ましい。
【0139】
このように、配向制御光を多点に入射させるための配向制御用光源部の構造について図18に示す。配向制御用光源部230は、3×3の2次元レーザーアレイである。配向制御用光源部230は、発光点44a〜44iの9点が発光する。発光点の大きさは縦が1μmで横が100μmである。配向制御用光源部230を用いた光学系の例について図19に示す。なお、図19においては、配向制御光に係わる光学系以外は省略して示してある。
【0140】
配向制御用光源部230から照射された直線偏光した配向制御光240は、コリメータレンズ232を通って焦点において平行光線となる。コリメータレンズ232を通った配向制御光240は、ビームエキスパンダ234およびビームエキスパンダ236を通ってλ/2波長板を有する偏光方向制御部238へ入射する。ビームエキスパンダ234およびビームエキスパンダ236を通った配向制御光240は、特定の倍率の平行光束に広げられる。λ/2波長板は、回転ステージ上にあり回転可能となっている。これにより配向制御光240の偏光軸を回動することができる。λ/2波長板を透過した配向制御光240は、レンズ242により集光されて試薬容器10の側面へ入射する。
【0141】
図19に示す光学系において、コリメータレンズ232の焦点距離を3.1mm、レンズ242の焦点距離を4mmとすると、倍率は1.29倍となる。そのため、試薬容器10の側面において、配向制御光240の大きさは約1.3μm×130μmとなり、ピッチは約129μmとなる。
【0142】
配向制御光を多点に入射させる別の光学系の例について図20に示す。なお図20においても、配向制御光の光学系以外は省略して描いてある。また、図19と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0143】
図20に示す光学系において、配向制御用光源部116は実施の形態1と同様のものである。配向制御光246は、コリメータレンズ406、ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通り、マイクロレンズアレイ242へ入射する。マイクロレンズアレイ242は、図21に示すように、複数のマイクロレンズ248を格子状に並べたものである。マイクロレンズアレイ248を通った配向制御光246は、複数の光源から照射された光のように、異なる位置で焦点を結ぶ複数の光束となる。配向制御光246は、ピンホールアレイ244によって絞られ、偏光方向制御部238を通り、レンズ242により集光されて試薬容器10の側面へ入射する。このようにマイクロレンズアレイを用いても、配向制御光を多点に入射させることができる。
【0144】
また、実施の形態1のような配向制御光を照射する方向を変える光学系においては、配向光を多点に照射するために、光学系を複数段用意しても良い。例えば、同様の光学系を3段重ねれば、3つの配向制御用光源部から配向制御光が照射され、試薬容器10へ3点から入射させることができる。このようにしても、配向制御光を多点から照射することができ、複数箇所で第3の複合体22または第6の複合体38を回動させることができる。
【0145】
また、本発明に係る各実施の形態では、配向制御光117の振動方向を2つの直交する方向の間で切り替えたが、必ずしも2つの直交する方向の間で切り替える必要はない。例えば、検出対象物質の検出のみを行いたい場合は、第3の複合体22または第6の複合体38から発生する蛍光の強度が変わる程度だけ異なる方向に第3の複合体22または第6の複合体38を配向させれば良い。
【0146】
配向制御光117の振動方向を2つの直交する方向の間で切り替えれば、第3の複合体22または第6の複合体38の配向が完了するまでに要する時間が最大となって、最もS/Nが良くなる。一方で、例えば配向制御光117が進行する2つの方向の成す角度が60度であれば、配向制御光117の進行方向が直交する場合と比べ、第3の複合体22または第6の複合体38の配向の切り替えが完了するまでに要する時間が短くなり、測定に要する時間も短くなる。このように配向制御光117が進行する2つの方向の成す角度が90度より小さいほど、第3の複合体22または第6の複合体38の配向の切り替えが完了するまでに要する時間が短くなり、測定時間も短くなる。
【0147】
なお、上記各実施の形態では、生体分子検出装置内に試薬容器10を1つ設ける場合を説明したが、必ずしも試薬容器10は1つである必要はなく、装置内に複数の試薬容器を設けて複数の検体をセットできる構成としても良い。その場合は、装置が試薬容器を順に測定位置に移動させて測定を行う構成とすれば、自動で複数の検体を測定することができる。
【0148】
なお、上記各実施の形態では、既に生成された第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cまたは第5の複合体20dを用いて測定を行ったが、第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cまたは第5の複合体20dの生成を試薬容器10内で行っても良い。この場合、ユーザーは、金ナノ粒子、抗体および蛍光分子をそれぞれ別の試薬タンクに用意しておき、測定時に生体分子検出装置が、金ナノ粒子、抗体、蛍光分子および検体をそれぞれ試薬容器10へ分注して、反応させる。
【0149】
なお、上記各実施の形態においては、励起光と表面プラズモン共鳴を起こす粒子として金のナノ粒子を用いたが、必ずしも金ナノ粒子である必要はない。例えば、銀ナノ粒子や、銅ナノ粒子を用いても良い。
【0150】
また、配向制御用光源部116や励起光源部118は、着脱可能な構成として、検出対象物質および蛍光分子等に応じて、適切なものに交換できるような構成としても良い。
【0151】
配向方向を切り替える時間間隔は、検出対象物質、第3の複合体22、第6の複合体38の質量または体積と、配向制御手段による外力の強度等に基づいて、全ての第3の複合体22または第6の複合体38が配向の切り替えを完了するまでに要する時間によって決定することが望ましい。すなわち、全ての第3の複合体22または第6の複合体38が配向の切り替えを完了するまでに要する時間毎に配向方向を切り替えることが望ましい。このように配向方向を切り替える時間を決定すれば、全ての第3の複合体22または第6の複合体38が配向を完了した後も同一方向に配向制御光117を照射することがなくなり、消費電力を削減することができる。また、不要な時まで測定を続けることがなくなり、測定時間を短くすることができる。
【0152】
全ての第3の複合体22または第6の複合体38が配向の切り替えを完了するまでに要する時間は、受光部出力やA/D変換部出力に基づいて求めてもよい。例えば、測定を何周期か繰り返せば、それぞれの出力が飽和するまでにどのくらいの時間を要するかおおよそ分かるため、それぞれの出力が飽和するまでに要する時間を加算平均等して、算出した時間を所定の時間間隔として決めれば良い。
【0153】
なお、本発明に係る各実施の形態では、検体として全血から分離した血漿を用いる場合を例にとって説明したが、検体は全血から分離した血漿に限られず、尿や唾液等、検出対象物質が溶液中に分散していれば検体とすることができる。
【0154】
なお、上記各実施の形態では、抗原抗体反応を利用する場合を例にとって説明したが、検出対象物質と、検出対象物質に特異的に結合する物質との組み合わせは、抗原、抗体に限られず、例えば、抗原を用いて抗体を検出する場合や、特定のDNAを用いて当該DNAとハイブリダイゼーションをするDNAを検出する場合、DNAを用いてDNA結合性たんぱく質を結合する場合、リガンドを用いてレセプターを検出する場合、糖を用いてレクチンを検出する場合、プロテアーゼ検出を利用する場合、高次構造変化を用いる場合等がある。検出対象物質と検出対象物質に特異的に結合する物質の組み合わせが、抗原と抗体以外の場合においても、検出対象物質の異なる部位に特異的に結合する2種類の物質と金属ナノ粒子とをそれぞれ結合させて第1の複合体および第2の複合体2を構成し、第1の複合体および第2の複合体と検出対象物質を結合させて第3の複合体を構成すれば、本実施の形態に係る生体分子検出装置により検出対象物質の濃度を測定することができる。
【0155】
また、本発明に係る各実施の形態では、抗原18、抗原40、第1の複合体20a、第2の複合体20b、第4の複合体20cおよび第5の複合体20dが液体中に分散している液相で測定ができるため、抗体等を反応層に固定して測定を行う固相での測定に比べ、前処理が簡単であるという利点がある。また、これらの抗原や複合体が溶液中を自由に動き回ることができ、固相に比べて反応が早いという利点もある。
【0156】
また、本発明に係る各実施の形態は、従来の蛍光偏光法のようにブラウン運動の変化による蛍光の偏光度の変化を調べるものではないため、検体の成分が蛍光分子の蛍光寿命に影響を与えたとしても測定に与える影響は少ない。
【0157】
なお、以上説明した本発明に係る各実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明に係る生体分子検出装置は、上記各実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
【0158】
また、上記各実施の形態では試薬容器10内の試薬保持部を四角柱状の形状としたが、試薬保持部は必ずしも四角柱状の形状とする必要は無く、円柱状の形状であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明に係る生体分子検出装置および生体分子検出方法は、例えば、検出対象物質と、その検出対象物質に特異的に結合する物質との相互作用を利用して、検出対象物質の検出又は定量を行う装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0160】
8 金ナノ粒子
12a 第1の抗体
12b 第2の抗体
14、36 蛍光分子
16 血漿
18、40 抗原
20a、26a、32a 第1の複合体
20b、26b、32b 第2の複合体
20c 第4の複合体
20d 第5の複合体
22、28、34 第3の複合体
24 BSA
30 金ナノロッド
38 第6の複合体
100、200 生体分子検出装置
116、230 配向制御用光源部
118 励起光源部
120、238 偏向方向制御部
124、204 受光部
208 フィルタ切替部
210、212 フィルタ
214 偏光子
218 フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子上の特定部位に特異的に結合し得る第1の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第1の複合体、および前記特定部位と異なる前記生体分子上の部位に特異的に結合し得る第2の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第2の複合体を含む溶液を保持する容器と、
前記第1の複合体が前記第1の物質を介して前記生体分子に結合し、前記第2の複合体が前記第2の物質を介して前記生体分子に結合した第3の複合体を前記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる配向制御手段と、
特定方向の直線偏光成分を有し、前記第1の複合体および前記第2の複合体の金属粒子に表面プラズモン共鳴を引き起こす光を前記溶液に照射する光源と、
前記第1の複合体および前記第2の複合体の金属粒子の表面プラズモン共鳴により発生する電場により前記第1の複合体および前記第2の複合体の蛍光分子から発せられた蛍光を検出する受光部と、
前記受光部が検出した蛍光の内、前記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出する同期成分抽出手段と、
を具備する生体分子検出装置。
【請求項2】
前記配向制御手段は、
前記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を前記溶液に照射する配向制御偏光光源と、
該配向制御偏光光源から照射される光の偏光軸を回動させることにより、前記第3の複合体を前記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる偏光軸回動手段と、
を具備する請求項1の生体分子検出装置。
【請求項3】
前記配向制御光源は、前記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を前記溶液に対して複数の位置から照射する請求項2の生体分子検出装置。
【請求項4】
前記配向制御手段は、
前記光源から照射される光と異なる光を前記溶液に照射する配向制御光源と、
該配向制御光源から照射される光の照射方向を切り替えることにより、前記第3の複合体を前記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させる切替手段と、
を具備する請求項1の生体分子検出装置。
【請求項5】
前記光源から照射される光と異なる光を前記溶液の複数の位置に照射する配向制御光源を具備する請求項4の生体分子検出装置。
【請求項6】
前記配向制御手段は、
前記第3の複合体の長軸方向と前記光源から照射される光の振動方向とが平行となる第1の方向、および、
前記第3の複合体の長軸方向と前記光源から照射される光の振動方向とが垂直となる第2の方向、
へ前記第3の複合体を配向させる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生体分子検出装置。
【請求項7】
前記配向制御手段は、前記第3の複合体の配向方向を所定の時間間隔で変化させ、
前記同期成分抽出手段は、前記第3の複合体が含まれる溶液から発生する蛍光の強度を複数回測定して前記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項の生体分子検出装置。
【請求項8】
前記所定の時間間隔は、前記溶液中に存在する全ての前記第3の複合体の配向が完了する時間間隔であることを特徴とする請求項7の生体分子検出装置。
【請求項9】
前記光源から照射される光の波長は、前記蛍光分子により吸収されない波長であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項の生体分子検出装置。
【請求項10】
前記同期成分抽出手段は、
前記第3の複合体の配向方向の変化により、前記第3の複合体から発生する蛍光量が変化することを利用して、記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出する請求項1乃至9のいずれか1項に記載の生体分子検出装置。
【請求項11】
前記溶液は、少なくとも一部に平面を有する容器保持部に保持されることを特徴とする請求項2または3に記載の生体分子検出装置。
【請求項12】
前記配向制御偏光光源は、
前記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を、前記溶液を通って前記容器保持部の平面から出射する方向に照射し、
かつ、前記光源から照射される光と異なる光であって直線偏光した光を、前記溶液と前記平面との界面において焦点を結ばせることを特徴とする請求項11の生体分子検出装置。
【請求項13】
前記溶液は、少なくとも一部に平面を有する容器保持部に保持されることを特徴とする請求項4または5に記載の生体分子検出装置。
【請求項14】
前記配向制御光源は、
前記光源から照射される光と異なる光を、前記溶液を通って前記容器保持部の平面から出射する方向に照射し、
かつ、前記光源から照射される光と異なる光を、前記溶液と前記平面との界面において焦点を結ばせることを特徴とする請求項13の生体分子検出装置。
【請求項15】
検体に含まれる生体分子上の特定部位に特異的に結合し得る第1の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第1の複合体、および前記特定部位と異なる前記生体分子上の部位に特異的に結合し得る第2の物質と金属粒子と蛍光分子とを有する第2の複合体を含む溶液と検体とを混合するステップと、
前記第1の複合体が前記第1の物質を介して前記生体分子に結合し、前記第2の複合体が前記第2の物質を介して前記生体分子に結合した第3の複合体を前記溶液中で少なくとも2つの方向へ配向させるステップと、
特定方向の直線偏光成分を有し、前記第1の複合体および前記第2の複合体の金属粒子に表面プラズモン共鳴を引き起こす光を前記溶液に照射するステップと、
前記第1の複合体および前記第2の複合体の金属粒子の表面プラズモン共鳴により発生する電場により前記第1の複合体および前記第2の複合体の蛍光分子から発せられた蛍光を検出するステップと、
前記受光部が検出した蛍光の内、前記第3の複合体が配向する周期に同期する成分を抽出するステップと、
を具備する生体分子検出方法。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図14】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−215472(P2012−215472A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81247(P2011−81247)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】