説明

生体吸収性ステントおよびそれを含む医療用デバイス

【課題】 吻合部における狭窄が発生しやすい期間中、形態を維持可能な、耐分解性に優れる生体吸収性ステントを提供する。
【解決手段】 本発明の生体吸収性ステントは、生体吸収性材料から形成されたステントであって、前記生体吸収性材料が、L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを含み、前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、70モル%以上である。前記L−ラクチド含有率を前述の範囲に設定することにより、本発明の生体吸収性ステントは、耐分解性に優れる。このため、本発明によれば、例えば、吻合部において狭窄が発生しやすい期間中、形態を維持でき、吻合部における狭窄を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性ステントおよびそれを含む医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、末期肝不全および肝癌等に対する治療法として、肝移植が行われている。肝移植手術は、ドナーの肝臓から導出する胆管と、レシピエントの胆管とを吻合するが、吻合部における胆管狭窄が問題となっている。このような問題は、胆管に限らず、例えば、膵管と十二指腸等の消化管との吻合においても生じている。
【0003】
このような管腔臓器の吻合が原因となる狭窄を防止するため、例えば、前記管腔臓器の吻合部における内部空間を維持するためのステントが提案されている。前記ステントは、その一端を一方の管腔臓器の内部に挿入し、その他端を他方の管腔臓器の内部に挿入する。そして、両管腔臓器の端部同士を吻合すれば、前記ステントにより、吻合部およびその周囲における内部空間を維持できる。前記ステントとしては、例えば、メタルステント等が開発されている(特許文献1、非特許文献1等)。前記メタルステントは、一般に、網目の筒状体であり、金属から形成されているため、体内に挿入後、半永久的に物理的強度を確保できる。このため、狭窄防止効果は高いが、体内に残ることにより、再狭窄の原因となる可能性がある。また、前記メタルステントの除去には、再度、手術が必要となるため、患者の負担が大きい。また、前記メタルステントの他に、一般に、血液、消化液、空気等の除去を目的に体内に留置する排液用チューブを、前記ステントとして利用する方法も提案されている。しかし、前記チューブは、通常、ポリ塩化ビニル等の樹脂製であるため、前記メタルステントと同様、狭窄防止効果は高いが、前記チューブの抜去後、再狭窄の可能性がある。
【0004】
このような問題を解決するため、前記ステントを、例えば、一定期間経過後に、生体内で分解、吸収される生体吸収性材料から形成することが考えられている(非特許文献2および3、特許文献2〜5等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−196642号公報
【特許文献2】特表2005−517062号公報
【特許文献3】特開2001−333975号公報
【特許文献4】特表2004−500153号公報
【特許文献5】特表2004−536929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Role of endoscopic endoprostheses in proximal malignant obstruction.」,J hepatobiliary Pancreat Surg.,2001年;Vol.8:p.118-123
【非特許文献2】「Clinical use of synthetic absorbable cuff material for peripheralvascular anastomosis.」,Surg. Gynecol. Obstet.1992年,Vol.175:p.421-427.
【非特許文献3】「Synthetic Bioabsorbable Stent Material for Duct-to-Duct BiliaryReconstruction.」,Journal of Surgical Research,2009年,Vol.151,p.85-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記生体吸収性ステントを管腔臓器内部に挿入した場合、狭窄が発生しやすい期間内に、前記ステントが分解されてしまうという問題がある。そこで、本発明は、吻合部における狭窄が発生しやすい期間中、形態を維持可能な、耐分解性に優れる生体吸収性ステントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体吸収性ステントは、生体吸収性材料から形成されたステントであって、前記生体吸収性材料が、L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを含み、前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、70モル%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の医療用デバイスは、本発明の生体吸収性ステントを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体吸収性ステントは、耐分解性に優れるため、例えば、吻合部において狭窄が発生しやすい期間中、形態を維持できる。このため、本発明の生体吸収性ステントによれば、吻合部における狭窄を防止できる。このように、本発明は、医療分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1および比較例1における浸漬試験の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1および比較例1における浸漬試験(浸漬開始39週後)の結果を示す写真である。
【図3】図3は、実施例1における浸漬試験(浸漬開始80週後)の結果を示す写真である。
【図4】図4は、実施例2および比較例2における引張試験の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例3における引張強度の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例3における3点曲げ強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の生体吸収性ステントは、前述のように、生体吸収性材料から形成されたステントであって、前記生体吸収性材料が、L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマー(以下、「P(LA/CL)」という)を含み、前記P(LA/CL)におけるL−ラクチドの含有率が、70モル%以上であることを特徴とする。
【0013】
前記P(LA/CL)におけるL−ラクチドの含有率は、前述のように、70モル%以上であり、好ましくは、75モル%以上である。前記P(LA/CL)におけるL−ラクチドの含有率の上限は、特に制限されないが、例えば、85モル%以下であり、好ましくは、80モル%以下である。前記上限値を前述の値以下に設定することで、例えば、より柔軟で、取扱性に優れるステントを提供できる。このようなステントは、例えば、管腔臓器との縫合、管腔臓器内の目的部位への移動等がより容易になるため、さらに、手術時の操作性に優れる。また、前記P(LA/CL)におけるカプロラクトンの含有率は、30モル%以下であり、好ましくは、25モル%以下である。前記P(LA/CL)におけるカプロラクトンの含有率の下限は、特に制限されないが、例えば、15モル%以上であり、好ましくは、20モル%以上である。前記生体吸収性材料は、異なるL−ラクチド含有率の前記P(LA/CL)を2種類以上含んでもよい。
【0014】
前記P(LA/CL)の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、5,000〜2,000,000であり、好ましくは、10,000〜1,500,000であり、より好ましくは、100,000〜1,000,000である。前記P(LA/CL)は、例えば、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマーのいずれであってもよい。
【0015】
前記P(LA/CL)の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。具体的には、例えば、L−ラクチドとカプロラクトンとを開環重合により共重合させてもよいし、乳酸からL−ラクチドを合成して、これをカプロラクトンと共重合させてもよい。なお、前記乳酸からL−ラクチドを合成する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。このように、出発原料として乳酸を使用した場合、一量体の乳酸を二量体のL−ラクチドに換算し、換算したL−ラクチドとカプロラクトンとの合計モル数に対するL−ラクチドのモル数の割合が、前述の範囲であることが好ましい。
【0016】
前記乳酸としては、特に制限されず、例えば、L−乳酸を使用できる。前記カプロラクトンとしては、特に制限されず、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等があげられ、好ましくは、ε−カプロラクトンである。
【0017】
前記生体吸収性材料は、例えば、前記P(LA/CL)のみを含んでもよいし、本発明に影響を与えない範囲で、さらにその他のポリマー等を含んでもよい。前記その他のポリマーは、特に制限されず、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエーテル等の生体吸収性ポリマーがあげられる。前記ポリマーを構成するモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、乳酸、ラクチド、ブチルラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、グリコリド、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、エチレンオキサイド、パラジオキサノン等があげられ、前記ポリマーは、例えば、これらのホモポリマーでもよいし、これらを組み合わせたコポリマーでもよい。前記ポリマーがコポリマーの場合、前記モノマーの組み合わせおよび割合は、特に制限されない。また、前記ポリマーは、例えば、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、セルロース等の天然高分子であってもよい。前記天然高分子は、例えば、生体の組織や細胞等からの抽出物でもよいし、形質転換体による産生物でもよいし、合成物でもよく、特に制限されない。前記天然高分子は、例えば、前記抽出物、産出物または合成物を、さらに、修飾または誘導体化したものでもよい。
【0018】
前記生体吸収性材料は、例えば、前記生体吸収性ポリマー以外に、他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分としては、特に制限されないが、例えば、バリウム等の造影剤、ヒドロキシアパタイト、チタン等があげられる。前記生体吸収性材料が、バリウム等の造影剤を生体吸収性ポリマーに練り込ませる等の方法により含有すれば、例えば、X線撮影により、逐次、外部から、前記生体吸収性ステントの分解程度を確認可能である。
【0019】
本発明の生体吸収性ステントの生体における適用部位は、何ら制限されないが、例えば、管腔臓器が好ましい。前記管腔臓器としては、特に制限されないが、例えば、胆管、膵管、十二指腸、血管、リンパ管、気管等があげられ、特に、胆管および膵管が好ましい。胆管を吻合した場合、狭窄は、通常、手術から1年以内に発生することが、本発明者らにより明らかとなった。しかし、本発明によれば、例えば、胆管用のステント(胆管ステント)として使用しても、手術から1年の間、十分に形態を維持して、胆管狭窄を回避することが可能である。また、膵管を吻合した場合、狭窄は、通常、手術から3ヵ月以内に発生することが、本発明者らにより明らかとなった。しかし、本発明によれば、例えば、膵管用のステント(膵管ステント)として使用しても、手術から3ヵ月の間、十分に形態を維持して、膵管狭窄を回避することが可能である。なお、胆管ステントと膵管ステントとでは、内部を通過する体液が、胆液と膵液とで異なり、同じ組成の生体吸収性材料であっても、膵管ステントの方が、分解されやすい。しかし、本発明によれば、前述のように、例えば、胆管ステントとして使用する場合でも、膵管ステントとして使用する場合でも、それぞれの管腔臓器において形態維持が必要とされる期間、分解を抑制できる。前記生体としては、特に制限されず、例えば、哺乳動物等があげられる。前記哺乳動物としては、特に制限されず、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等があげられる。
【0020】
前記生体吸収性ステントの形状は、特に制限されず、例えば、管状が好ましく、より好ましくは、断面形状が略円環の管状である。前記生体吸収性ステントの外径は、例えば、前記ステントを挿入する前記管腔臓器の種類に応じて適宜設定可能であり、特に制限されない。前記生体吸収性ステントの外径は、特に制限されないが、例えば、3〜10mmである。具体的に、本発明の生体吸収性ステントが胆管ステントの場合、前記外径は、例えば、4〜8mmである。また、本発明の生体吸収性ステントが膵管ステントの場合、前記外径は、例えば、2〜6mmである。前記生体吸収性ステントの厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1〜0.5mmであり、好ましくは、0.1〜0.3mmである。また、本発明の生体吸収性ステントが胆管ステントまたは膵管ステントの場合、前記厚みは、例えば、0.2〜0.5mmである。なお、本発明において、前記ステントの厚みとは、ステント側壁の厚みをいう。前記生体吸収性ステントの長さは、特に制限されないが、例えば、10〜15mmである。
【0021】
本発明の生体吸収性ステントは、例えば、以下のようにして製造できる。なお、以下の方法は、一例であり、本発明はこれに制限されない。
【0022】
まず、前記P(LA/CL)と溶媒とを混合して、混合溶液を調製する。前記溶媒としては、例えば、前記P(LA/CL)を溶解可能であるものが好ましく、例えば、クロロホルム、1,4−ジオキサン、アセトン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラヒドロフラン等の有機溶媒があげられる。前記溶媒は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上の混合溶媒であってもよい。前記混合溶媒において、組み合わせる溶媒の割合は、特に制限されない。前記混合溶液における前記P(LA/CL)の濃度は、特に制限されないが、例えば、1〜20w/v%であり、好ましくは、5〜10w/v%である。
【0023】
つぎに、円柱状の基材を準備する。前記円柱状の基材としては、例えば、シリコンチューブがあげられる。前記基材の外径は、例えば、製造するステントの内径、外径および厚みに応じて適宜設定できる。前記基材の長さは、特に制限されないが、例えば、製造するステントの長さに応じて適宜設定できる。
【0024】
そして、前記基材を、前記混合溶液中に浸漬する。前記浸漬時間は、特に制限されないが、例えば、1〜10秒間であり、好ましくは、1〜5秒間である。前記浸漬温度は、特に制限されないが、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬後、前記基材を、その軸方向が鉛直方向になるように、前記混合溶液から引き上げて、乾燥する。これにより、前記基材の外周に、前記生体吸収性材料のポリマー層が形成される。前記乾燥時間は、特に制限されないが、例えば、10〜60分間であり、好ましくは、20〜40分間である。前記乾燥温度は、特に制限されないが、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬および乾燥の工程は、例えば、1回でもよいし、所望の厚みとなるまで、数回繰り返してもよい。
【0025】
そして、前記ポリマー層を、前記基材から前記軸方向に引き抜くことにより、本発明の生体吸収性ステントが得られる。前記生体吸収性ステントは、例えば、長いポリマー層を作製後、所望の長さに切断して製造してもよいし、所望の長さのステントを直接製造してもよい。なお、本発明の生体吸収性ステントは、前述の浸漬成型法に限られず、例えば、押出成型、射出成型等の方法を用いて成型してもよい。また、前記生体吸収性ステントの製造方法は、例えば、さらに、滅菌工程等の他の工程を含んでもよい。
【0026】
前記生体吸収性ステントは、例えば、生体内に埋植して使用できる。前記埋植方法としては、特に制限されないが、例えば、前述のように、前記生体吸収性ステントの一端を、一方の管腔臓器の内部に挿入し、その他端を、他方の管腔臓器の内部に挿入し、両管腔臓器の端部同士を吻合してもよい。前記生体吸収性ステントは、例えば、前記両管腔臓器の端部同士を縫合する際、共に縫合してもよい。前記縫合により、例えば、前記生体吸収性ステントを、さらに確実に、吻合部に固定できる。また、前記生体吸収性ステントは、例えば、カテーテル等を用いて前記管腔臓器内の狭窄部位に配置してもよい。前記生体吸収性ステントは、例えば、所定期間、ステントの形態を維持可能であり、前記所定期間の経過後は、例えば、分解され、体外へ排出されるのが好ましい。
【0027】
本発明の医療用デバイスは、前述のように、本発明の生体吸収性ステントを含むことを特徴とする。前記医療用デバイスは、本発明の生体吸収性ステント以外に、例えば、カテーテル等を含んでもよい。
【0028】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本例では、下記表1に示す種々のP(LA/CL)を用いて、シート状のサンプルを作製し、ISO15814の試験方法に基づいて、分解率を測定した。
【0030】
【表1】

【0031】
本例において、以下、前記表1における、実施例1のNo.1〜4のP(LA/CL)を、「LA75%」、実施例1のNo.5〜9のP(LA/CL)を、「LA85%」、比較例1のNo.10〜13のP(LA/CL)を、「LA50%」ともいう。なお、これらのP(LA/CL)の原料であるラクチドは、L−ラクチドであり、カプロラクトンは、ε−カプロラクトンである。
【0032】
前記表1に示す各P(LA/CL)を、熱プレス機を用いて熱プレス加工し、フィルム状のサンプル(2cm×2cm、厚み約0.3mm)を作製した。
【0033】
得られたサンプルの重量(A)を測定した。つぎに、ポリスチレン製容器に、リン酸緩衝液(PBS)20mLを注ぎ、37℃に加温した後、前記サンプルを浸漬し、蓋をした。そして、所定期間(0、4、8、26、39、52、65および80週間)、37±1℃の温度条件下で保存した。所定期間後、前記サンプルを回収し、室温で、8時間以上乾燥し、各サンプルの重量(B)を測定した。下記式に、前記重量AおよびBを代入して、重量変化率(%)を算出した。また、各サンプルの写真を撮影し、形態を観察した。
重量変化率(%)={(A−B)/A}×100
A=浸漬前のサンプルの重量(mg)
B=浸漬後のサンプルの重量(mg)
【0034】
図1に、重量平均分子量約500,000のP(LA/CL)を用いた、実施例1(No.4および9)および比較例1(No.13)のサンプルにおける、重量変化率(%)の測定結果のグラフを示す。図1において、横軸は、浸漬期間(週)であり、縦軸は、重量変化率(%)である。また、黒四角(■)は、L−ラクチド含有率75モル%のP(LA/CL)(LA75%)を示し、黒三角は、L−ラクチド含有率85モル%のP(LA/CL)(LA85%)を示し、黒菱形(◆)は、L−ラクチド含有率50モル%のP(LA/CL)(LA50%)を示す。
【0035】
図1に示すように、浸漬開始52週後(約1年後)、比較例1のLA50%の重量は、約60%減少した。これに対して、浸漬開始52週後(約1年後)、実施例1のうちLA75%の重量は、約25%しか減少せず、LA85%の重量は、約10%しか減少しなかった。なお、図示しないが、他の重量平均分子量(約100,000〜約400,000)のP(LA/CL)を用いた実施例1および比較例1のサンプルについても、重量変化率の測定結果は、同様の傾向を示した。このように、実施例1のサンプルは、浸漬開始約1年後も分解率が低く、優れた耐分解性を示した。
【0036】
図2に、重量平均分子量約500,000のP(LA/CL)を用いた、実施例1(No.4および9)および比較例1(No.13)のサンプルの、浸漬開始39週後(約9ヵ月後)における写真を示す。また、図3に、前記重量平均分子量約500,000のP(LA/CL)を用いた、実施例1のサンプルの、浸漬開始80週後(約1年半後)における写真を示す。図2(A)および図3(A)は、LA75%の写真であり、図2(B)および図3(B)は、LA85%の写真であり、図2(C)は、LA50%の写真である。
【0037】
図2に示すように、浸漬開始39週後(約9ヵ月後)には、比較例1のLA50%のサンプルは、分解によって砕けているのに対し、実施例1のLA75%およびLA85%のサンプルは、分解が抑制され、形態性がほぼ維持されていた。そして、図3に示すように、浸漬開始80週後(約1年半後)には、実施例1のLA75%のサンプルは、分解され、消失し、実施例1のLA85%のサンプルは、分解によって砕けていた。なお、図示しないが、他の重量平均分子量(約100,000〜約400,000)のP(LA/CL)を用いた実施例1および比較例1のサンプルについても、浸漬開始39週後および80週後における形態変化は、同様であった。このように、実施例1のサンプルは、浸漬開始約9ヵ月後においては、十分に分解が抑制され、約1年半後においては分解されていた。
【0038】
(実施例2)
本例では、下記表2に示す種々のP(LA/CL)を用いて、フィルム状のダンベル型サンプルを作製し、引張試験による引張弾性率および引張強度を測定した。
【0039】
【表2】

【0040】
前記表2に示す各P(LA/CL)を、熱プレス機で熱プレス加工後、ダンベル3号形試験片打抜刃を用いて打ち抜き、フィルム状のダンベル型サンプル(厚み約0.3mm)を得た。各サンプルについて、引張試験機(オートグラフAG−IS:島津製作所)を用いて、室温下、引張スピード50mm/分、チャック間距離30mmの条件で試験を行い、引張弾性率(MPa)および引張応力(MPa)を測定した。
【0041】
図4に、L−ラクチド含有率70モル%および80モル%のP(LA/CL)を用いた実施例2(No.14および15)、ならびにL−ラクチド含有率20モル%〜60モル%のP(LA/CL)を用いた比較例2(No.16〜20)のサンプルにおける、引張弾性率および引張強度の測定結果のグラフを示す。図4において、横軸は、L−ラクチド含有率(モル%)であり、左の縦軸は、引張弾性率(MPa)であり、右の縦軸は、引張強度(MPa)である。また、黒四角(■)は引張弾性率(MPa)を示し、黒菱形(◆)は引張強度(MPa)を示す。
【0042】
図4に示すように、比較例2のサンプル(LA20%〜LA60%)と比較して、実施例2のサンプル(LA70%およびLA80%)は、引張弾性率および引張強度が共に高く、ステントとして十分に使用可能であることがわかった。
【0043】
(実施例3)
本例では、L−ラクチドとε−カプロラクトンとのモル比が75.1:24.9(L−ラクチド含有率75.1モル%)であり、重量平均分子量が352,000のP(LA/CL)を用いた。前記P(LA/CL)を濃度0.05g/mLとなるようにクロロホルムに混合して、混合溶液を調製した。そして、直径5〜6mm、長さ20mmのシリコンチューブを、前記混合溶液に2秒間浸漬後、前記混合溶液から引き上げ、室温で30分間乾燥させた。この浸漬および乾燥を、合計20回繰り返し行い、前記シリコンチューブの表面にP(LA/CL)層を形成させた。そして、前記P(LA/CL)層を前記シリコンチューブから引き抜き、エチレンオキサイドを用いて滅菌した。これにより、外径5mmおよび6mm、所定の厚み(0.28〜0.66mm)のステントを作製した。各ステントについて、前記実施例2と同様にして、引張強度を測定した。また、各ステントについて、引張試験機(オートグラフAG−IS:島津製作所社製)を用いて、支点間距離20mm、圧縮スピード5mm/分、サンプル長50mmの条件で、3点曲げ試験を行い、曲げ強度(N)を測定した。
【0044】
図5に、実施例3のステントにおける、引張強度の測定結果のグラフを示す。図5において、横軸は、ステントの厚み(mm)であり、縦軸は、引張強度(N)である。また、黒菱形(◆)は外径5mmのステントを示し、黒四角(■)は外径6mmのステントを示す。図5に示すように、引張強度について、実施例3のステントは、厚みにかかわらず、いずれも、胆膵管用ステントのJIS規格試験(JIS T 3269)における基準値(4.9N)を超える値を示した。
【0045】
図6に、実施例3のステントにおける、3点曲げ強度の測定結果のグラフを示す。図6において、横軸は、ステントの厚み(mm)であり、縦軸は、曲げ強度(N)である。また、黒菱形(◆)は外径5mmのステントを示し、黒四角(■)は外径6mmのステントを示す。図6に示すように、曲げ強度について、実施例3のステントは、厚みにかかわらず、いずれも高い値を示した。
【0046】
このように、実施例3のステントは、いずれも引張強度および曲げ強度が高く、優れた物理的強度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明の生体吸収性ステントは、耐分解性に優れるため、例えば、吻合部において狭窄が発生しやすい期間中、形態性を維持できる。このため、本発明の生体吸収性ステントによれば、吻合部における狭窄を防止できる。このように、本発明は、医療分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料から形成されたステントであって、
前記生体吸収性材料が、L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを含み、
前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、70モル%以上である、生体吸収性ステント。
【請求項2】
前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、70〜85モル%である、請求項1記載の生体吸収性ステント。
【請求項3】
前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、70〜80モル%である、請求項2記載の生体吸収性ステント。
【請求項4】
前記コポリマーにおける前記L−ラクチドの含有率が、75〜80モル%である、請求項3記載の生体吸収性ステント。
【請求項5】
前記ステントが、胆管ステントまたは膵管ステントである、請求項1から4のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の生体吸収性ステントを含む医療用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−206114(P2011−206114A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74252(P2010−74252)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】