説明

生体吸収性支持部材を備えた組織修復器具

【課題】複合体医療器具を提供する。
【解決手段】本発明は、非生体吸収性で移植可能な組織修復又は再構築要素と、手術部位にてその移植可能な要素の展開及び配置を補助する弾性生体吸収性支持部材要素とを有する、複合体医療器具である。展開した後、その支持部材要素は速やかに生体吸収されて移植可能な要素から除去される。本発明は腹腔鏡、内視鏡、及び他の外科手術に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移植可能な医療器具に関する。詳しくは、本発明は、移植可能な組織修復要素と、その組織修復要素を手術部位に展開することを補助し、続いて生体吸収により除去される要素と備えた、移植可能な複合体医療器具を対象とする。
【背景技術】
【0002】
損傷した組織の修復を補助するように設計された移植可能な医療器具が、長年うまく使用されてきた。これら器具のいくつかは、損傷した組織にパッチを当て、治癒中にその組織に機械的支持を提供するために使用される。これら器具の簡単な形状は柔軟なパッチ状シートである。シートの組成及び形態は、特定手術の要求に応えるように調整されるのが普通である。いくつかの場合、強化要素を柔軟なシート内部に組み込むことが望ましい。機械的支持に加えて、強化要素は取り扱いや移植可能なシート器具の展開を補助することが多い。取り扱いや柔軟なシート器具の展開の容易さは、腹腔鏡手術器械及び処置を器具の移植に使用する場合に特に望ましい。
【0003】
これら器具の一例は、de la Torreの米国特許第5368602号に開示されている。de la Torreは、外科手術用メッシュ材料の縁の全て又は部分に沿ってそのメッシュ材料に取り外せないように固定された、1つ以上の半剛性の骨組み状の支持要素を有するメッシュ材料で作られたパッチを記載している。半剛性支持部材は、従来の腹腔鏡手術器械を用いて全体のメッシュ領域を操作及び配置することを可能にすると言われている。
【0004】
Mulhauserらに発行された米国特許第5695525号は、平面メッシュ材料の片側に取り外せないように取り付けられた環状の半剛性骨組みを開示している。支持環は、異常部位を横断して拡張した形状にメッシュ材料を維持することによって、組織内の窪み状の異常部の内に平面メッシュ材料が崩れて入らないように設計されている。
【0005】
Mulhauserらの器具と同様の修復パッチが、Brownに発行された米国特許第5824082号に開示されている。Brownのパッチは金属支持ワイヤで作られた骨組みを利用する。支持ワイヤは形状記憶特性を有する。支持ワイヤは予備成形されたパッチ材料の周縁に沿ってその材料に取り外せないように取り付けられる。支持ワイヤの形状記憶特性によって、室温で修復パッチを小さい円筒形状に巻き、体温でパッチ材料を拡張し平らにするためにその形状を変化させることが可能になる。修復パッチは修復部位で組織の層間に留まり、縫合又はステープルを必要としないと言われている。
【0006】
Kugelらに発行された米国特許第6280453号には、積層体の層間に取り外せないように配置した弾性のモノフィラメントスプリングから作られた骨組みを用いた、積層メッシュ材料の形状のヘルニア修復パッチが開示されている。一旦パッチがヘルニア患者の切開部位を通って配置されると、スプリング要素はパッチを平面形態へと開いて拡張するのを補助する。ヘルニアを横断してパッチを配置するために外科医が指を置くことのできる小袋をパッチは備えており、パッチを配置するために腹腔鏡手術器械を使用する必要はない。
【0007】
取り外せないように取り付けられた強化骨組みを備えた、移植可能な組織修復器具を主題とする変形が、Gianturcoの米国特許第5258000号に開示されている。Gianturcoの器具は最初に内部空間を有する未支持の柔軟なバッグとして移植され、次いでその中に伸縮性補強ワイヤが通される。補強ワイヤによりバッグは扁平形状となる。補強ワイヤを備えた扁平修復器具は、縫合又はステープルを用いて修復部位を取り囲む組織に取り外せないように固定される。
【0008】
補強要素を備えた組織修復材料を用いる外科手術においては、修復材料が少なくとも部分的に修復部位の組織に付着した後で、その修復材料から補強要素を取り除くことが望ましい場合がある。Toveyらに発行された米国特許第5370650号には、生体組織に隣接して組織修復メッシュを配置するための装置が開示されている。その装置には、組織修復メッシュを手術部位内に配置するために延長する腕を備えた送達器具が含まれる。その腕はその遠位端に取り付けられた組織修復メッシュのための補強要素を備えている。組織修復メッシュは、補強要素の周囲でそのメッシュの穴を通して縫われた縫合により補強要素に固定されている。縫合は、展開後に組織修復メッシュから抜糸できるような方法で縫うことができる。メッシュ材料から抜糸する前に、縫合又はステープルを用いてメッシュ材料の少なくとも一部を手術部位の組織に固定できる。組織修復メッシュを所定位置に置いた後、メッシュを補強要素に保持している縫合が取り除かれる。その後送達器具は組織修復メッシュと分離し、手術部位から引き抜かれる。
【0009】
組織修復メッシュ用の空気圧で操作する展開器具が、Rousseauに発行された米国特許第6302897号に開示されている。Rousseauの器具は、膨張性浮嚢の外部表面に単純に配置された組織修復メッシュを備えたアプリケータである。その浮嚢は2つの部分を有する。第1の部分は空気で満たされる。第2の部分は最初は空であるが、外部の機械的圧力が第1の部分に付与されたときに、第1の部分からの空気で満たすことができる。第2の部分が膨脹するにつれ、アプリケータ及び組織修復メッシュは開かれて、修復メッシュは患者の組織に対して押し付けられる。メッシュの展開後、浮嚢は手動で手術部位から取り除かれる。
【0010】
Farnsworthらの米国特許出願公開第2004/0019360号には、除去可能な支持部材で強化された組織移植物が開示されている。除去可能な支持部材は組織移植物を移植部位に配置及び展開するのを補助する。組織移植物および除去可能な支持部材は、両方とも非生体吸収性材料で作られている。
【0011】
いくつかの用途では、強化部材を組織修復器具又は材料から取り除く必要がなくなると有益な場合がある。Melicanらの米国特許第6599323号には、骨盤底の修復に使用するための、生体吸収可能な構成要素を用いて強化した生体吸収性組織移植物が開示されている。組織移植物は、連続気泡構造の気孔を有する生体吸収性ポリマーフォームの1以上の層を含む。組織移植物は多孔質フォーム材料の形状である。フォーム要素の気孔が強化要素のメッシュを貫通して強化要素と絡まり合うように、フォーム要素は強化要素と一体化される。しかしながら、非生体吸収性材料から作られたパッチのような、Melicanらの教示する移植物は望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これら器具のいずれについても、非生体吸収性移植可能シート材料に生体吸収性の弾性支持部材を付与する利点が認識されていない。そのような器具であれば、移植可能なシート材料内に配置するのに耐える十分な強度でもって、弾性支持部材を移植可能なシート材料の所定位置に最初に保持し、かつ腹腔鏡又は同様の外科手術器械から展開することを可能にする接着の仕組みを備えているはずである。さらに、弾性支持部材は生体吸収過程を通じて移植可能なシート材料から除去され、手術部位から支持部材を取り除くためのさらなる外科手術を必要としないはずである。
【0013】
生体吸収可能な弾性支持部材は、移植可能なシート材料が圧縮形状からより平面的形状へと変化するのを補助するであろう。また支持部材は、非生体吸収性修復材料を包む完全な一組の縫合又はステープルを所定位置に配置し及び試験可能な、遮られていない境界領域をも提供しうる。そのような器具は必要に応じて、手術部位にて触覚的及び視覚的な器具位置決めを補助する特徴部を含むであろう。生体吸収性支持部材は、独立して又は支持部材の生体吸収と組み合わせて、移植部位にて放出されるであろう生理活性化合物と組み合わせうる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、損傷した組織の修復又は再構成に加えて他の外科手術にも使用される医療器具を対象とする。この器具は、修復部位にパッチ状の材料を外科的に配置及び固定する必要のある、ヘルニア及び同様の組織損傷の修復に特に適している。生体吸収性支持部材はパッチ状器具に取り付けられて、外部から付与された力又は支持部材物質の温度転移を必要とせずに、移植部位で巻いた器具を解く又は自己拡張させることを可能にする。
【0015】
本発明は2つの主な構成要素を有する。一方の構成要素は、好ましくは平面形状の非生体吸収性材料で作られた移植可能器具である。他方の構成要素は、移植可能な器具を手術部位にて展開及び配置するのを補助するように設計された、生体吸収性材料で作られた弾性ポリマー支持部材である。生体吸収性弾性支持部材は、移植者の体が支持部材を生体吸収できるような方法で移植可能な器具に取り付けられる。弾性支持部材は、移植者の生理学的過程を通じて、酵素作用及び/又は支持部材を含むポリマー材料の加水分解によって生体吸収される。その結果、移植可能な器具からの支持部材の除去にさらなる外科的工程又は手術を必要としない。生体吸収性弾性支持部材もまた平面形状であることが好ましい。
【0016】
組み合わせた平面材料は、本発明物(図4A)を巻き、折り畳み、あるいはある形状(図4B)に圧縮し、かつ腹腔鏡手術器械又は他の従来の外科技術により展開することが可能なほど十分に成形しやすい。本発明物を手術部位に展開した後、生体吸収性弾性支持部材は圧縮形状から速やかに回復して元の平面形状へとほぼ戻る。支持部材が元の平面形状に戻るとき、支持部材の弾性によって、取り付けられた移植可能な器具が圧縮形状から元の平面形態へと速やかに変化する。本発明物は手術部位にて平面形状(図4C)を取るため、生体吸収性支持部材は移植可能なシート材料を容易に操作、配置、及び手術用固定具を用いて手術部位の組織に固定することを可能にする(図4D)。移植可能な器具が固定されると手術は完了する。
【0017】
好ましい実施態様の生体吸収性支持部材は、非生体吸収性の移植可能なシート材料を完全に覆うような大きさにされる(図3)。他の実施態様の生体吸収性支持部材は、移植可能な器具の表面積の一部のみを覆う(図2、2A、2B、5〜7他)。このことにより、露出しており、縫合、ステープル、鋲、又は他の手術用固定具を用いた固定に利用できる、移植可能な器具の境界領域が残される。これら及び他の実施態様の本発明物は、外科的修復部位に関して本発明物の視覚的な位置決めを補助する、文字、数字、及び他の記号又は特徴部を有してもよい。特に好ましい視覚的補助には、移植可能な器具及び支持部材について異なる色を用いることが含まれる。視覚的補助に追加して、支持部材を、本発明物の異なる面の間での触覚的識別に加えて、移植可能な器具と支持部材との間の触覚的識別を提供するよう構成してもよい。
【0018】
本発明の実施態様の1つは、弾性生体吸収性支持部材と、その弾性生体吸収性支持部材に取り付けられた移植可能な非生体吸収性器具とを含む医療器具であって、移植処置の間、外部から与えられた力を必要とせずに、その弾性生体吸収性支持部材はその移植可能な非生体吸収性器具の展開及び配置を補助する。加えて、生体吸収性支持部材のポリマー材料は医療器具を展開する(すなわち拡張する、巻きを解くなど)間に温度転移しない。
【0019】
一般に平面シート材料が本発明に好ましいが、メッシュ、織物又は不織物形状のフィラメント状材料もまた本発明で想定され、加えてそれらの複合体も想定される。生体吸収性支持部材が組織移植材料の1つ以上の表面に配置されるように、複合体を構成してもよい。また、生体吸収性支持部材を組織移植材料の2つ以上の層間に配置してもよい。組織移植材料の(複数の)層を、同じ又は異なる材料で作ってもよい。これら材料の構造は、支持部材のポリマー材料の生体吸収速度に影響するように選択できる。例えば多孔質材料は、化合物がその材料の気孔内部へ及びそこを通過して移動可能である速度を制限する。多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)のような疎水性多孔質材料もまた、その材料を通って支持部材の加水分解性ポリマー材料へと水性流体が進入することを遅延する。水性流体の支持部材との接触を遅延すると、支持部材の生体吸収が遅延する。これら材料の組成、構造及び相互関係に加えて、材料の寸法も所望の生体吸収プロファイルを達成するよう様々であってよい。
【0020】
支持部材の特定部分の形状を変化させることにより、支持部材のポリマー材料の生体吸収速度にさらに影響を及ぼしてもよい。例えば、支持部材の少なくとも1つの部分の寸法を、支持部材のある位置のポリマー質量が他の位置より少ない質量であるように先細にしてもよい。支持部材のポリマー質量の少ない部分は、支持部材のポリマー質量の多い部分よりも容易かつ速やかに吸収される。
【0021】
支持部材の特定部分の化学組成もまた、ポリマー材料の生体吸収速度に影響するように様々であってよい。本発明に使用するのに適した非混合加水分解性コポリマーの生体吸収速度は、ポリマー鎖のコポリマー中のあるポリマーと他のポリマーとの比率及び配置に影響されうる。異なる非混合加水分解性コポリマーを支持部材の異なる部分に使用できる。ある実施態様では、それぞれが異なる非混合加水分解性共重合組成を有する複数のシートから作られる。各シート片を切り抜き一緒に配置して、異なる生体吸収速度を示す領域又は区域を有する本発明の支持部材を形成する。
【0022】
さらに注目すべきは、被覆材、幾何学的設計、及び異なるコポリマー比の区域を同じ器具内で組み合わせて、所望の生体吸収速度及び生物学的性能を達成してもよい。
【0023】
本発明の各実施態様では、その実施態様に関連する抗菌剤を有してもよい。
【0024】
本発明の他の特徴は、添付図面と関連させて理解したときに、本発明の以下の詳細な記載から明らかとなる。当然のことながら、これら図面は説明の目的で描かれたに過ぎず、本発明の範囲の定義とすることを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明物の等角投影図を図示したものである。
【図2A】シート材料の片面の滑らかなテクスチャを示すために、移植可能なシート材料の角が折り曲げられている、本発明物の斜視図である。
【図2B】シート材料の片面の粗面化したテクスチャを示すために、移植可能なシート材料の角が折り曲げられている、本発明物の斜視図である。
【図2C】移植可能な器具の境界領域に参照文字を備えた、本発明物の斜視図である。
【図3】支持部材と移植可能なシート材料が本質的に同じ大きさである、本発明物の分解図である。
【図3A】本発明物の分解図である。
【図3B】支持部材と移植可能なシート材料との間に適用された接着剤を有する、本発明物の分解図である。
【図4A】本発明物である。
【図4B】圧縮された本発明物である。
【図4C】巻きが解かれた本発明物である。
【図4D】手術用固定具で固定された本発明物である。
【図4G】十分な厚さの支持部材を備えて触感段差を提供する、本発明物の横断面図である。
【図5】本発明の移植可能な材料に取り付けられた、生体吸収性支持部材の配置である。
【図6】本発明の移植可能な材料に取り付けられた、生体吸収性支持部材の配置である。
【図7】本発明の移植可能な材料に取り付けられた、生体吸収性支持部材の配置である。
【図8】本発明物を作るのに有用な真空積層プレス機の横断面図である。
【図8A】本発明物を作るのに有用な真空積層プレス機の横断面図である。
【図9】他の材料に埋め込まれた又は他の材料で被覆された、本発明の生体吸収性支持部材の2つの部分横断面図である。追加した材料は、支持部材の生体吸収速度及び/又は本発明物に組み込まれた生理活性化合物の放出速度に影響を及ぼしうる。
【図10】本発明物の生体吸収性支持部材の上面図である。
【図11】本発明物の生体吸収性支持部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好ましい医療器具は、組織修復材料としての使用に適した柔軟な非生体吸収性ポリマー材料の移植可能なシートに取り付けられた、弾性生体吸収性支持部材の複合体である。好ましい複合体の両方の構成要素とも平面形状である。
【0027】
図2に示すように、例えば本発明の好ましい移植可能な器具(140)は、柔軟で組織に適合し、非生体吸収性で生体適合性のポリマー材料(142)のほぼ平面のシートである。適したポリマー材料には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン及びポリテトラフルオロエチレンが含まれるがこれらに限られない。好ましいポリマー材料は、両方ともGoreに発行された米国特許第3953566号及び第4187390号に従って作られた、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンである。最も好ましい移植可能なシート材料は2種類ある。最も好ましい移植可能なシート材料の1つは、商品名GORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)Biomaterial、品番1DLMC04で、W.L. Gore & Associates, Inc., Medical Products Division, Flagstaff, AZから入手可能な、多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)で作られた組織修復パッチである。最も好ましい移植可能なシート材料のもう1つは、関係する抗菌剤が含まれる多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料である。抗菌処理は、例えばFox, Jr.らに発行された米国特許第5019096号により、移植可能なシート上に提供してもよい。最終製品は、商品名GORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)PLUS Biomaterial、品番1DLMCP04で、W.L. Gore & Associates, Inc., Medical Products Division, Flagstaff, AZから入手可能である。これら最も好ましい材料は、大きさが7.5cm×10.0cm〜26.0cm×34.0cmの範囲の楕円形状である。円形、四角形、三角形、及び特別に適合するように作られた形状のような、他の平面形状もまた本発明の使用に想定される。形状とは無関係に、適した移植可能なシート材料の大きさの範囲は小さくて1.0cm×1.0cmから大きくて50.0cm×50.0cmであり、5.0cm×5.0cm〜40.0cm×40.0cmの大きさの小片が好ましく、約7.0cm×7.0cm〜約20.0cm×20.0cmの範囲の小片が最も好ましい。
【0028】
生体吸収性支持部材に適したポリマー材料には、ポリグリコール酸とトリメチレンカーボネートとのブロックコポリマー(PGA/TMC)、ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLA/PGA)、又は他のホモポリマー、コポリマー、もしくは他の生体適合性で生体吸収性のモノマー成分から派生するポリマーブレンドが含まれるが、これらに限られない。そのようなホモポリマー又はコポリマーは、様々な量の、1種以上の次に例示されるモノマーから構成されてもよい:グリコリド、d,l−ラクチド、l−ラクチド、d−ラクチド、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、及び1,5−ジオキセパン−2−オン。他の生体吸収性ポリマー成分には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、N−ビニルピロリドン、アミノ酸、無水物、オルトエステル、ホスファジン(phosphazines)、アミド、ウレタン、及びホスホエステルが含まれてもよい。またコポリマーが、全体的又は部分的に、ブロック、セグメント、ランダム、交互、又は統計ポリマー様の構造的特徴の組み合わせを有してもよい。
【0029】
好ましいポリマー材料は、PGA 67%:TMC 33%の半結晶セグメントブロックコポリマーである。PGA:TMCの構成比は、機械的強度、生体吸収速度、及びコポリマーの加工性を変化させる目的で合成中に調節できる。
【0030】
好ましいポリマー材料はPGA/TMCである。PGA/TMCの構成比は、機械的強度、生体吸収速度、及びコポリマーの加工性を変化させる目的で合成中に調節できる。本発明に関して特に重要なのは、PGA/TMCコポリマーが、圧縮された、又は巻かれた形態から、圧縮されていない、又は平らにされた形態へと、熱転移を経ることなく形状を変化させる能力を有することである。従って、通常の人間の体温以下で本発明の器具を導入し、自己拡張させ、又は解き、そして固定することができる。
【0031】
いくつかの実施態様では、弾性生体吸収性支持部材の表面積は移植可能なシート材料の表面積より小さくて、移植可能なシート材料の周辺より内側にある。この配置により、支持部材(100)を囲んでいる、移植可能なシート材料(142)上の遮られていない境界領域(144)が提供される。境界領域は縫合、ステープル、鋲、及び/又は他の手術用固定具に利用できる。有用な境界幅は0.3cm〜約3.0cmの範囲であり、好ましい範囲は0.5cm〜2.0cm、最も好ましい範囲は0.8cm〜1.2cmである。
【0032】
弾性生体吸収性支持部材は、好ましくは移植可能な非生体吸収性シート材料と同じ外寸である(図3)。最も好ましい実施態様では、図11に示すパターンを有する生体吸収性支持部材を、境界領域を作らずに非生体吸収性シート材料の全表面を覆うような大きさにする。
【0033】
厚さが約0.05mm〜約2.0mmの範囲の弾性生体吸収性支持部材を用いると、弾性生体吸収性支持部材のその厚さが本発明の重要な特徴を提供しうる。例えば腹腔鏡手術の最中に、手動操作の手術器械(160)を弾性生体吸収性支持部材の表面を横断して動かし、支持部材の端から移植可能なシート材料上へとその器械が落ちた時に、明確に知覚可能な触感変化が感じられる(図4G、矢印)。外科医は、移植可能なシート材料の境界領域を感触で検出するために、この「触感段差」を利用できる。移植可能なシート材料の境界領域の位置を知ることによって、外科医は手術用固定具の配置を境界領域に限定でき、生体吸収性支持部材を通って固定具を配置することを回避できる。
【0034】
触感段差に加えて、移植可能なシート材料と生体吸収性支持部材の材料との間の表面特性の違いもまた、外科医にさらなる触感的フィードバックを提供できる。これら触感特性には、表面テクスチャ、硬度、及び/又は滑らかさが含まれるがこれらに限られない。
【0035】
生体吸収性支持部材の移植可能なシート材料への接着は、好ましくは溶剤又は熱を適用して、器具と相面する生体吸収性支持部材の表面を軟化することによって行われる。
【0036】
支持部材を移植可能なシート材料に取り付けるために、支持部材の生体吸収性ポリマー材料を軟化することに加えて、生体吸収性接着剤を用いて生体吸収性支持部材を移植可能なシート材料に接着してもよい。生体吸収性接着剤の例には、フィブリン接着剤、コラーゲン、適当な溶剤に含まれており乾燥が可能なポリ乳酸−ポリグリコール酸(PLA:PGA)コポリマー溶液が含まれるが、これらに限られない。適した生体吸収性ポリマー材料には、PLA:PGAの不定形コポリマー、又は他のホモポリマー、コポリマー、もしくは他の生体適合性で生体吸収性のモノマー成分から派生するポリマーブレンドが含まれるが、これらに限られない。そのようなホモポリマー又はコポリマーは、様々な量の、1種以上の次に例示されるモノマーから構成されてもよい:グリコリド、d,l−ラクチド、l−ラクチド、d−ラクチド、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、及び1,5−ジオキセパン−2−オン。他の生体吸収性ポリマー成分には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、N−ビニルピロリドン、アミノ酸、無水物、オルトエステル、ホスファジン、アミド、ウレタン、及びホスホエステルが含まれてもよい。コポリマーが、全体的又は部分的に、ブロック、セグメント、ランダム、交互、又は統計ポリマー様の構造的特徴の組み合わせを有していてもよい。
【0037】
接着とは、ある所定の接着剤又は接着の仕組みを用いて、同時に作用する機械的現象と物理化学的現象との組み合わせが関与する複雑な主題である。従って接着を説明するのに適当な単一の理論はない。しかしながら一般的に言えば、接着剤は2つの機構のうちいずれかにより機能する。第1の機構は、Sharpe and Schonhorn (L.H. Sharpe and H. Schonhorn, Chem. Eng. News 15:67 (1963))による熱力学的モデルに基づく。このモデルは、基材と接着剤との間の界面に生じる原子間力及び分子間力が、接着剤を基材に接着する原因であるとの考えに基づく。最も一般的な界面力はファン・デル・ワールス及びルイス酸−塩基の相互作用から生じると考えられる。基材表面が接着剤で十分に濡れることは、接着を形成する上でもう一つの重要な側面である。本発明に関する剥離可能な接着には、生体吸収性支持部材、移植可能なシート材料、及び接着剤(又は接着剤自身の内部)の間に、移植処置の間、基材物質を保持しておくことが可能な、物理化学的接着を形成することが含まれる。
【0038】
他の接着機構は、基材物質の空洞、空孔、凹凸、又は他の表面トポグラフィとの接着物質の機械的なかみ合い、又は投錨である(J.W. MacBain and D.G. Hopkins, J. Phys. Chem. 29:88 (1925))。多孔質材料もまた、接着物質で充填されて接着剤とかみ合うことになる、開口部を表面下に有している場合がある。
【0039】
理論的には区別したが、程度は異なるにせよ、これら両方の機構が多くの接着を形成する上で作用しうる。
【0040】
本発明の支持部材要素(100)(図2を以下参照)はほぼ平面形状の弾性生体吸収性ポリマー材料で作られている。生体吸収性支持部材は、単一の材料又は複合体形状の複数の材料から作ることができる。生体吸収性支持部材の弾性は、ポリマー材料に固有の性質であってもよく、あるいは骨組み構造によってポリマー材料に付与してもよい。様々な骨組み構造物を組み合わせた支持部材100の部分横断面図を図9に示す。支持部材100の内部に埋め込まれている、円形に加工した骨組み構造物560が示されている。いずれも支持部材100に埋め込まれている、長方形骨組み構造物562及び正方形骨組み構造物564も示されているが、支持構造物560、562、564は支持部材に弾性を付与するために任意の横断面形状であってよい。例えば生体吸収性支持部材の横断面は、本質的に、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形又は他の多角形であってよい。また生体吸収性支持構造物は、複合体、積層体、織物(weaves)、糸条又は他の適当な形状から形成してもよい。
【0041】
弾性生体吸収性支持部材について様々な形状が想定されるが(図5〜7)、好ましい形状を図11に図示する。生体吸収性支持部材の好ましい他の形状を図10に図示する。生体吸収性支持部材の形状及び大きさに関係なく、支持部材を非生体吸収性シート材料の片面、又は両面に取り付けてもよい。
【0042】
本発明物の性能を変化させるために、付加的な材料を本発明物に追加してもよい。例えばePTFEのような非生分解性の多孔質疎水性材料の層を、水系流体に対するバリアとして生体吸収性支持部材上に配置してもよい。そのような疎水性バリアは、水系流体が生体吸収性支持部材に接触して加水分解することを遅延させるであろう。支持部材の生体吸収を遅延させると、生体吸収過程に起因して機械的強度が失われる前に、支持部材をより長期間支持体として機能させうると思われる。他の実施態様の生体吸収性支持材料は、支持材料の機械的強度及び/又は支持材料の吸収速度に影響を及ぼす他のポリマー材料で被覆される。
【0043】
移植後に放出させる目的で、生理活性化合物を、本発明の生体吸収性及び/又は非生体吸収性の構成要素に組み込んでもよい。生理活性化合物の放出速度及び/又は本発明物の吸収速度を制御するために、追加の材料層を用いてもよい。
【0044】
単一の器具にこれら様々な特徴を選択し及び組み合わせて、特定用途に最適な「プログラムされた」生体吸収速度及び生理活性化合物放出速度を提供してもよい(図9)。
【実施例】
【0045】
例1:この例では本発明の好ましい実施態様の構造物を記載する。非生体吸収性の移植可能なシート材料を形成した後に、以下のように生体吸収性支持部材を移植物に取り付けた。
【0046】
生体吸収性支持部材を、医療グレードでそれぞれの比率が67:33のポリグリコール酸−トリメチレンカーボネート(PGA/TMC)ブロックコポリマーの平面シートから作製した。PGA:TMCの共重合は、環状トリメチレンカーボネート及びグリコリドダイマーの単量体を逐次付加開環重合して行う。PGA:TMCの合成を行って、セグメント化した及び/又は単純なブロック形態のコポリマーを生成できる。PGA:TMCの合成方法は、Rosensaftらの米国特許第4243775号及び第4300565号、並びにCaseyらの米国特許第4429080号に記載されており、参照することによりそれぞれを本明細書の一部とする。
【0047】
他の望ましいコポリマー比及びブロック構造は、重合条件及び/又は方法における様々な変形の使用を必要とする場合がある。グリコリド及びトリメチレンカーボネートモノマーは両方とも、BI Chemicals, Petersburg, VA, USAから購入できる。TMCのPGAとの質量比が33%であるセグメント化トリブロックコポリマーは、Tyco Healthcare Group LP, Norwalk, CTの一部門であるUnited States Surgicalから入手できる。
【0048】
平面シートは、せん孔CO2レーザーシステム(Laserage Technology Corp, Waukegan, IL)を用いて図11に示すパターンに切り抜いた。生体吸収性支持部材は境界領域なしで移植可能なシート材料を覆う大きさにした。
【0049】
商品名がGORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)Biomaterial(品番1DLMC04)で、W.L. Gore & Associates, Inc.(Flagstaff, AZ)のMedical Products Divisionから入手可能な、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の15cm×19cmの楕円形ヘルニア修復パッチを入手した。図2Bから分かるように、GORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)Biomaterial製品(142)はシートの各面に異なるテクスチャ(203)を有している。片面(202)は、そこへの組織の接着又は他の組織の付着を防ぐ又は制限するように設計されている。他面(203)は、組織の付着、又はその内部での細胞成長もしくは細胞過程を促すように粗面化されている。
【0050】
ePTFEシートを入手して生体吸収性支持部材を作製した後、アセトンに溶解することによって液状にした、それぞれの比率が85:15のポリ乳酸−ポリグリコール酸(PLA:PGA)の溶液で界面を被覆して、2つを取り付けた。「組織接着バリア」面(202)が生体吸収性支持部材(530)に向かうようにして、GORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)Biomaterialを配置した。しかしながら、GORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)Biomaterialの組織非接着面の上に、生体吸収性支持部材を配置することもできた。表面を被覆した後、構成要素を圧着し、平坦なブロック上でアルミニウムシムの間で一緒に保持した(図8)。組立体を一晩放置して乾燥した。
【0051】
生体吸収性支持部材に取り付けられた非生体吸収性で移植可能なシート材料を含み、外部から与えられた力又は支持部材物質の熱転移を必要とせずにその場で自己拡張可能な、本発明の移植可能な医療器具が得られた。
【0052】
例2:この例では、抗菌処理を適用した非生体吸収性の移植可能なシート材料に取り付けた、弾性ポリマー生体吸収性支持部材の構造物を記載する。
【0053】
生体吸収性支持部材は、それぞれの質量パーセント比が85:15のポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー(PLA/PGA)から作った。抗菌処理を有する移植可能なePTFEシート材料は、商品名がGORE−TEX(登録商標)DUALMESH(登録商標)PLUS Biomaterial(品番1DLMCP04)で、W.L. Gore & Associates, Inc., Flagstaff, AZのMedical Products Divisionから入手した。両方の構成要素の寸法は同じであり、生体吸収性シート部材は移植可能なシート材料を覆った。
【0054】
2つの構成要素(生体吸収性支持部材、移植可能なシート材料)を一緒に拘束された状態に置き、その組合せに対して装置内(図8A)で適当な圧力(例えば20〜50psi)を掛けることによって、生体吸収性支持部材を移植可能なシート材料に取り付けた。その組合せを110℃〜125℃の温度でおよそ5分間加熱した。拘束された状態でその組合せを冷却し装置から取り外した。こうして、生体吸収性支持部材に取り付けられていて、抗菌特性を備えている非生体吸収性で移植可能なシート材料を含み、外部から与えられた力又は支持部材物質の熱転移を必要とせずにその場で自己拡張が可能な、本発明の移植可能な医療器具が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性生体吸収性支持部材と、
該弾性生体吸収性支持部材に取り付けられた移植可能な非生体吸収性器具と
を含み、移植処置の間、外部から与えられた力を必要とせずに、該弾性生体吸収性支持部材が該移植可能な非生体吸収性器具の展開及び配置を補助する、医療器具。
【請求項2】
前記移植可能な器具が抗菌剤をさらに含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記弾性生体吸収性支持部材が、熱転移を伴わずに、前記移植可能な非生体吸収性器具の展開を補助する、請求項1に記載の医療器具。
【請求項4】
前記移植可能な器具が、移植部位に関して前記医療器具の視覚的な位置決めを補助するように適合させた1つ以上の印を有する、請求項1に記載の医療器具。
【請求項5】
前記印が前記移植可能な器具の境界領域に位置している、請求項4に記載の医療器具。
【請求項6】
前記支持部材が、移植部位に関して前記医療器具の間接的なイメージングを補助するように適合させた1つ以上の印を有する、請求項4に記載の医療器具。
【請求項7】
前記移植可能な非生体吸収性器具が、多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン材料を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項8】
前記多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン材料が第1の層及び第2の層を含む、請求項7に記載の医療器具。
【請求項9】
前記第1の層が、その内部での細胞成長又は細胞過程を許容するのに十分な多孔質であって、前記第2の層が、そこへの組織の付着を支援しない、請求項8に記載の医療器具。
【請求項10】
前記弾性生体吸収性支持部材が、ポリグリコール酸とトリメチレンカーボネートとのブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項11】
前記弾性生体吸収性支持部材が、ポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー(PLA/PGA)を含む、請求項1に記載の医療器具。
【請求項12】
前記弾性生体吸収性支持部材の厚さが、触感段差を提供するのに十分である、請求項1に記載の医療器具。
【請求項13】
前記弾性生体吸収性支持部材が第1の部分を有し、その第1の部分の生体吸収速度が前記支持部材の第2の部分と異なる、請求項1に記載の医療器具。
【請求項14】
前記第1の部分の物理的寸法が前記第2の部分と異なる、請求項13に記載の医療器具。
【請求項15】
前記第1の部分の化学組成が前記第2の部分と異なる、請求項14に記載の医療器具。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4G】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図8A】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−36717(P2011−36717A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−237745(P2010−237745)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2007−524869(P2007−524869)の分割
【原出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】