説明

生体情報処理装置及び生体情報処理方法

【課題】算出した脈拍数の適否を判定するための新しい手法の提案。
【解決手段】脈拍計1において、被検者の脈拍数が脈拍数算出部120によって算出される。そして、脈拍数算出部120によって算出された算出脈拍数が所与のウィンドウに含まれるか否かに基づいて算出脈拍数の適否が脈拍数適否判定部160によって判定される。この際、ウィンドウの幅でなるウィンドウ幅が所与の基準脈拍数に基づいてウィンドウ幅設定部140によって設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置及び生体情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検者の運動管理や健康管理に供する生体情報処理装置として、被検者の身体の一部に装着し、被検者の脈拍数を測定する脈拍計が知られている。脈拍計は、装置を装着した被検者の血流量の変化を検知して被検者の脈拍数を算出し、算出した脈拍数(以下、「算出脈拍数」と称す。)を測定結果として被検者に報知するものである。脈拍計としては、光を利用するものや、超音波を利用するもの、心電を利用するものなどが知られている。
【0003】
脈拍数を正しく算出することができるかどうかは、被検者の血流量の変化を検知する精度に依るところが大きい。しかし、外気温の変化といった外乱による影響や、脈拍計の装着位置及び当該装着位置のズレといった物理的な影響等に起因して、血流量の変化を検知する精度が低下する場合がある。そこで、算出脈拍数に対する変動許容範囲を設定して、算出脈拍数の適否を判定する手法が考案されている(例えば特許文献1や特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−113309号公報
【特許文献2】特開平9−154825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献2の技術では、被検者の体動に基づいて、変動許容範囲(以下、「ウィンドウ」と称して説明する。)の幅でなるウィンドウ幅を設定している。具体的には、被検者の体動が大きくなったことを検出した場合は、脈拍数が上昇する方向(高方向)に対するウィンドウ幅を広くする。逆に、被検者の体動が小さくなったことを検出した場合は、脈拍数が下降する方向(低方向)に対するウィンドウ幅を広くする。
【0006】
この手法では、被検者の体動にのみ着目してウィンドウ幅を設定している。そのため、被検者の脈拍数の状態如何によっては、必ずしも適切なウィンドウの設定が実現されるとは限らない。例えば、脈拍数がある程度高くなっている状態から運動を開始したような場面である。具体的には、クールダウン後に運動を再開する場面や、一度走って脈拍数が高くなった状態で一旦立ち止まり、その後に歩き始めたような場面が想定される。
【0007】
上記の場合、被検者の脈拍数は既にある程度高くなっているため、脈拍数の上昇はそれほど考えられない。しかし、被検者の体動にのみ着目してウィンドウ幅を設定すると、高方向に対するウィンドウ幅を必要以上に広く設定してしまう。この場合、異常値をウィンドウで捕捉してしまう可能性が高まる。逆に、脈拍数が低くなっている状態で被検者が動作を停止した場合にも、低方向に対するウィンドウ幅を必要以上に広く設定してしまうため、上記と同様の問題が生ずる。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、算出した脈拍数の適否を判定するための新しい手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、被検者の脈拍数を算出する脈拍数算出部と、前記脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数が所与の変動許容範囲に含まれるか否かに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する脈拍数適否判定部と、前記変動許容範囲の幅でなる変動許容幅を所与の基準脈拍数に基づいて設定する変動許容幅設定部と、を備えた生体情報処理装置である。
【0010】
また、他の形態として、被検者の脈拍数を算出することと、前記算出された算出脈拍数が所与の変動許容範囲に含まれるか否かに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定することと、前記変動許容範囲の幅でなる変動許容幅を所与の基準脈拍数に基づいて設定することと、を含む生体情報処理方法を構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、被検者の脈拍数が脈拍数算出部によって算出される。そして、脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数が所与の変動許容範囲に含まれるか否かに基づいて算出脈拍数の適否が脈拍数適否判定部によって判定される。この場合において、変動許容範囲の幅でなる変動許容幅が所与の基準脈拍数に基づいて変動許容幅設定部によって設定される。
【0012】
基準脈拍数は、変動許容範囲の基準とする脈拍数であり、例えば適否判定において適切と判定された最新の算出脈拍数を設定することが考えられる。変動許容幅を固定的にするのではなく、この基準脈拍数に基づいて設定することで、変動許容幅を適正化することができる。そして、設定した変動許容幅を有する変動許容範囲を用いることで、算出脈拍数の適否を正しく判定することが可能となる。
【0013】
また、第2の形態として、第1の形態の生体情報処理装置において、前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が低いほど、前記基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させる、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0014】
この第2の形態によれば、基準脈拍数が低いほど、基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させる。脈拍数が低い状態では、脈拍数は下がりにくく、上がりやすい傾向がある。そこで、基準脈拍数が低いほど高方向変動許容幅を増大させることで、人間の脈拍数の傾向に見合った変動許容幅を設定することができる。
【0015】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の生体情報処理装置において、前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が高いほど、前記基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させる、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0016】
この第3の形態によれば、基準脈拍数が高いほど、基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させる。脈拍数が高い状態では、脈拍数は上がりにくく、下がりやすい傾向がある。そこで、基準脈拍数が高いほど低方向変動許容幅を増大させることで、人間の脈拍数の傾向に見合った変動許容幅を設定することができる。
【0017】
また、第4の形態として、第1の形態の生体情報処理装置において、前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が低いほど、前記基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させ、且つ、前記基準脈拍数が高いほど、前記基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させ、前記高方向変動許容幅の増大度合を前記低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0018】
この第4の形態によれば、基準脈拍数が低いほど、基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させ、且つ、基準脈拍数が高いほど、基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させる。この際、高方向変動許容幅の増大度合を低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。脈拍数が上昇する場面では、低下する場面と比べて変化の度合が大きくなる傾向がある。簡単に言うと、脈拍数は下がるよりも上がりやすい傾向がある。そこで、高方向変動許容幅の増大度合を低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくすることで、人間の脈拍数の特性を考慮した変動許容幅の設定を実現できる。
【0019】
また、第5の形態として、第2又は第4の形態の生体情報処理装置において、前記被検者の運動状況を判定する運動状況判定部を更に備え、前記変動許容幅設定部は、前記運動状況の判定結果が運動開始である場合の前記高方向変動許容幅の増大度合を、定常時における前記高方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0020】
この第5の形態によれば、被検者の運動状況の判定結果が運動開始である場合の高方向変動許容幅の増大度合を、定常時における高方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。人間が運動を開始する際には、脈拍数が急激に上昇する傾向がある。そこで、運動開始時には定常時と比べて高方向変動許容幅を相対的に広くすることで、脈拍数の急激な上昇に変動許容範囲を追従させることが可能となる。
【0021】
また、第6の形態として、第3又は第4の形態の生体情報処理装置において、前記被検者の運動状況を判定する運動状況判定部を更に備え、前記変動許容幅設定部は、前記運動状況の判定結果が運動停止である場合の前記低方向変動許容幅の増大度合を、定常時における前記低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0022】
この第6の形態によれば、被検者の運動状況の判定結果が運動停止である場合の低方向変動許容幅の増大度合を、定常時における低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。人間が運動を停止する際には、脈拍数が急激に低下する傾向がある。そこで、運動停止時には定常時と比べて低方向変動許容幅を相対的に広くすることで、脈拍数の急激な低下に変動許容範囲を追従させることが可能となる。
【0023】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の生体情報処理装置において、前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が所定の脈拍数上限設定値を上回っている場合、又は、前記基準脈拍数が所定の脈拍数下限設定値を下回っている場合に、前記変動許容幅を予め定められた最小変動許容幅とする、生体情報処理装置を構成することとしてもよい。
【0024】
この第7の形態によれば、基準脈拍数が所定の脈拍数上限設定値を上回っている場合、又は、基準脈拍数が所定の脈拍数下限設定値を下回っている場合に、変動許容幅を予め定められた最小変動許容幅とする。基準脈拍数が過度に高い場合や、基準脈拍数が過度に低い場合は、変動許容幅が微小となり、変動許容範囲が過度に狭小となる可能性がある。そこで、変動許容幅の下限値を定めておき、変動許容幅がそれよりも狭くならないように調整すると効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】脈拍計の正面図。
【図2】(A)脈拍計の背面図。(B)脈拍計の使用状態図。
【図3】脈波センサーの動作の説明図。
【図4】(A)高方向ウィンドウ幅モデル。(B)低方向ウィンドウ幅モデル。
【図5】(A)運動開始時のウィンドウ幅設定方法。(B)クールダウン→運動再開時のウィンドウ幅設定方法。(C)運動停止時のウィンドウ幅設定方法。
【図6】脈拍計の機能構成を示すブロック図。
【図7】脈拍数測定処理の流れを示すフローチャート。
【図8】(A)変形例における高方向ウィンドウ幅モデル。(B)変形例における低方向ウィンドウ幅モデル。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、本発明の生体情報処理装置を腕時計型の脈拍計に適用した実施形態である。なお、本発明を適用可能な形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0027】
1.外観構成
図1は、本実施形態における脈拍計1の正面図である。脈拍計1は、リストバンド2を備え、ケース3には、時刻や脈拍計1の動作状態、各種生体情報(脈拍数、運動強度、カロリー消費量等)を文字や数字、アイコン等によって表示するための液晶表示器4が配置されている。
【0028】
また、ケース3の周部(側面)には脈拍計1を操作するための操作ボタン5が配設されている。脈拍計1は、例えば内蔵する二次電池を電源として動作する。ケース3の側面には、外部の充電器と接続されて、内蔵二次電池を充電するための充電端子6が配設されている。
【0029】
図2(A)は脈拍計1の背面図であり、ケース3の背面から脈拍計1を見たときの外観図を示している。また、図2(B)は脈拍計1の使用状態図であり、被検者の手首WRに装着された状態の脈拍計1の側面図を示している。
【0030】
ケース3の背面には、被検者の脈波を検出して脈波信号を出力する脈波センサー10が配設されている。脈波センサー10は、ケース3の背面に接触している被検者の手首WRにおいて脈波を検出する。本実施形態において、脈波センサー10は光電脈波センサーであり、脈波を光学的に検出するための機構を備えている。
【0031】
図3は、脈波センサー10の内部構造をケース3の側面から見たときの拡大図である。脈波センサー10は、ケース3の背面側に形成された円形底面を有する半球状の収納空間内に設置されている。そして、この収納空間内に、LED(Light Emitting Diode)などの光源12と、フォトトランジスターなどの受光素子13とが内蔵されている。半球の内面は鏡面とした反射面11であり、半球の底面側を下方とすると、受光素子13及び光源12は、それぞれ基板14の上面及び下面に実装されている。
【0032】
光源12により、利用者の手首WRの皮膚SKに向けて光Leが照射されると、その照射光Leが皮下の血管BVに反射して半球内に反射光Lrとして戻ってくる。その反射光Lrは、半球状の反射面11においてさらに反射して、受光素子13に上方から入射する。
【0033】
この血管BVからの反射光Lrは、血液中のヘモグロビンの吸光作用により、血流の変動を反映してその強度が変動する。脈波センサー10は、拍動よりも早い周期で光源12を所定の周期で点滅させる。そして、受光素子13は、光源12の点灯機会毎に受光強度に応じた脈波信号を光電変換によって出力する。脈波センサー10は、例えば128Hzの周波数で光源12を点滅させる。
【0034】
また、図2(A)に示すように、脈拍計1は、被検者の体動を検出するための体動センサー20を内蔵している。本実施形態では、体動センサー20は、加速度センサーを有して構成される。加速度センサーは、図1に示すように、例えば、ケース3のカバーガラス面の法線方向であって表示面側を正とするZ軸、時計の12時方向を正とする上下方向をY軸、時計の3時方向を正とする左右方向をX軸とする3軸の加速度センサーである。
【0035】
脈拍計1を装着した状態において、X軸は、被検者の肘から手首に向かう方向と一致する。体動センサー20は、X軸,Y軸及びZ軸の3軸の加速度を検出し、その結果を体動信号として出力する。脈拍計1は、体動センサー20によって検出された体動信号に基づいて、歩行やジョギングなどに伴う被検者の周期的な体動(例えば、腕の動きや体の上下動)を検出する。
【0036】
2.原理
脈拍計1は、脈波センサー10によって検出された脈波信号を利用して被検者の脈拍数を算出する。具体的には、脈波信号に対して所定の周波数分解処理を行い、周波数帯毎の信号強度値(スペクトル値)を抽出する。周波数分解処理は、例えば高速フーリエ変換FFT(Fast Fourier Transform)を適用した処理とすることができる。そして、抽出した信号強度値から被検者の脈波に相当する周波数スペクトルを特定し、その周波数(或いは周期)に基づいて脈拍数を算出する。脈拍計1は、所定時間間隔(例えば1〜5秒間隔)で脈拍数を算出する。本実施形態では、上記のようにして算出した被検者の脈拍数のことを「算出脈拍数」と呼称する。
【0037】
脈拍計1は、算出脈拍数を測定結果の脈拍数(測定脈拍数)として液晶表示器4に表示させるなどして、被検者に報知する。しかし、外気温の変化といった外乱による影響や、脈拍計の装着位置及び当該装着位置のズレといった影響等に起因して、被検者の実際の脈拍数から大きく乖離した算出脈拍数が測定結果として得られてしまう場合がある。この場合に得られる算出脈拍数は異常値であり、その値を被検者に報知することは適切ではない。そこで、本実施形態では、以下説明する手順に従って算出脈拍数の適否を判定する。
【0038】
本実施形態では、所与の基準脈拍数を基準とするウィンドウを設定する。基準脈拍数は、脈拍数の算出時刻(算出タイミング)における脈拍数の基準値である。本実施形態では、適否判定によって適切と判定された最新の算出脈拍数を基準脈拍数として設定する。具体的には、算出脈拍数が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数で基準脈拍数を更新する処理を算出時刻毎に繰り返す。
【0039】
各々の算出時刻について、算出脈拍数がウィンドウに含まれるか否かを判定する。そして、算出脈拍数がウィンドウに含まれる場合は、算出脈拍数を適切と判定する。一方、算出脈拍数がウィンドウに含まれない場合は、算出脈拍数を不適と判定する。ウィンドウは、所与の基準脈拍数を基準として算出された算出脈拍数の変動を許容する範囲(以下、「変動許容範囲」と称す。)である。
【0040】
基準脈拍数に対して脈拍数が高い方向に対するウィンドウ幅のことを「高方向ウィンドウ幅」と称する。また、基準脈拍数に対して脈拍数が低い方向に対するウィンドウ幅のことを「低方向ウィンドウ幅」と称する。基準脈拍数に高方向ウィンドウ幅を加算した脈拍数を、ウィンドウの上限値という意味で「ウィンドウ上限値」と称する。また、基準脈拍数から低方向ウィンドウ幅を減算した脈拍数を、ウィンドウの下限値という意味で「ウィンドウ下限値」と称する。ウィンドウは、ウィンドウ下限値からウィンドウ上限値までの範囲として定められる。
【0041】
本実施形態の特徴は、基準脈拍数に基づいてウィンドウ幅を設定することにある。基準脈拍数が低いのであれば、脈拍数は下がりにくく、上がりやすい傾向がある。逆に、基準脈拍数が高いのであれば、脈拍数は上がりにくく、下がりやすい傾向がある。この脈拍数の特性に着目し、基準脈拍数が低いほど、高方向ウィンドウ幅を増大させ、低方向ウィンドウ幅を減少させる。また、基準脈拍数が高いほど、低方向ウィンドウ幅を増大させ、高方向ウィンドウ幅を減少させる。
【0042】
2−1.ウィンドウ幅の設定の基本
図4は、本実施形態における基本的なウィンドウ幅の設定方法の説明図である。図4(A)は、高方向ウィンドウ幅の設定方法の説明図であり、高方向ウィンドウ幅を設定するためのモデルである高方向ウィンドウ幅モデルを図示したものである。図4(B)は、低方向ウィンドウ幅の設定方法の説明図であり、低方向ウィンドウ幅を設定するためのモデルである低方向ウィンドウ幅モデルを図示したものである。
【0043】
図4(A)において、横軸は基準脈拍数“HRc”であり、縦軸は高方向ウィンドウ幅“Wup”である。また、図4(B)において、横軸は基準脈拍数“HRc”であり、縦軸は低方向ウィンドウ幅“Wdown”である。
【0044】
図4(A)に示すように、高方向ウィンドウ幅モデルは、例えば、基準脈拍数“HRc”が増大するにつれて線形的に減少するような関数としてモデル化されている。つまり、基準脈拍数“HRc=0”で高方向ウィンドウ幅“Wup”が最大値をとり、基準脈拍数“HRc”の増加に伴い高方向ウィンドウ幅“Wup”が線形的に減少するような一次関数で近似している。
【0045】
但し、予め定められた最小ウィンドウ幅“Wmin”を基準脈拍数“HRc”に加算した場合に、得られた脈拍数が被検者の最大脈拍数“HRmax”を超える場合は、高方向ウィンドウ幅“Wup”を最小ウィンドウ幅“Wmin”とする。つまり、基準脈拍数“HRc”が所定の脈拍数上限設定値“HRmax−Wmin”を上回っている場合は、高方向ウィンドウ幅を予め定められた最小ウィンドウ幅とする(Wup=Wmin)。
【0046】
最大脈拍数“HRmax”は被検者の最大の脈拍数であり、例えば次式(1)に従って算出することができる。
HRmax=220−被検者の年齢・・・(1)
【0047】
最小ウィンドウ幅“Wmin”は、高方向ウィンドウ幅“Wup”の最小値であり、予め適切な値を選択して設定しておくことが可能である。例えば、「5以下」の値とし、「3」や「5」といった値を設定してもよい。
【0048】
図4(B)に示すように、低方向ウィンドウ幅“Wdown”は、例えば、基準脈拍数“HRc”の増加に伴い線形的に増大するような関数(一次関数)としてモデル化されている。
【0049】
但し、基準脈拍数“HRc”から最小ウィンドウ幅“Wmin”を減算した場合に、算出される脈拍数が被検者の最小脈拍数“HRmin”に満たない場合は、低方向ウィンドウ幅“Wdown”を最小ウィンドウ幅“Wmin”とする。つまり、基準脈拍数“HRc”が所定の脈拍数下限設定値“HRmin+Wmin”を下回っている場合は、低方向ウィンドウ幅を予め定められた最小ウィンドウ幅“Wmin”とする(Wdown=Wmin)。
【0050】
最小脈拍数“HRmin”は被検者の最小の脈拍数である。一般的な成人の安静時脈拍数の平均値は「60〜70」程度であることが知られている。そのため、例えば、この範囲の中から選択した値を最小脈拍数“HRmin”として定めておくことができる。
【0051】
2−2.ウィンドウ幅の増大度合
本実施形態では、高方向ウィンドウ幅の増大度合を低方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。脈拍数が上昇する場面では、低下する場面と比べて変化の度合が大きくなる傾向がある。つまり、人間の脈拍数が下がるよりも上がりやすい特性に着目し、高方向と低方向とで増大度合を変えてウィンドウ幅を設定する。
【0052】
図4(A)において、定常時における高方向ウィンドウ幅モデルの傾きの大きさを“α”とする。また、図4(B)において、定常時における低方向ウィンドウ幅モデルの傾きの大きさを“β”とする。この場合、“α>β”となるように高方向ウィンドウ幅モデル及び低方向ウィンドウ幅モデルを定めておく。これにより、高方向ウィンドウ幅を低方向ウィンドウ幅と比べて相対的に広く設定することができる。
【0053】
2−3.運動状況を考慮したウィンドウ幅の設定
本実施形態では、上記のウィンドウ幅の設定方法に加えて、被検者の運動状況を考慮したウィンドウ幅の設定を行う。「運動状況」とは、被検者の身体動作状態の時間変化から判定することのできる被検者の運動の状況のことを意味する。例えば、「運動開始」や「運動継続」、「運動停止」といった状況がこれに含まれる。
【0054】
また、「身体動作状態」とは、体動センサー20の検出結果から判定することのできる被検者の身体の動作状態のことを意味する。例えば、「平静状態」や「運動状態」といった状態がこれに含まれる。つまり、体動センサー20の検出結果から被検者の身体動作状態を判定し、その時間変化に基づいて被検者の運動状況を判定するのである。
【0055】
図4には、被検者の運動開始時、定常時、運動停止時それぞれにおけるウィンドウ幅の設定モデルを個別に図示している。図4(A)では、定常時モデル、運動開始時モデル及び運動停止時モデルの傾きを、それぞれ“α1”、“α2”及び“α3”として図示している。また、図4(B)では、定常時モデル、運動開始時モデル及び運動停止時モデルの傾きを、それぞれ“β1”、“β2”及び“β3”として図示している。
【0056】
運動開始時には、被検者の脈拍数は急激に上昇する傾向がある。そこで、運動状況の判定結果が運動開始である場合の高方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における高方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。また、運動停止時において、被検者の脈拍数は上昇する状況は稀である。そこで、運動状況の判定結果が運動停止である場合の高方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における高方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に小さくする。この場合、図4(A)の高方向ウィンドウ幅モデルの傾きの大きさの大小関係が“α3<α1<α2”となるようにモデルを定める。但し、ここでは傾きの絶対値によって大小関係を定めている。
【0057】
運動停止時には、脈拍数が急激に低下する傾向がある。そこで、運動状況の判定結果が運動停止である場合の低方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における低方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。また、運動開始時において、被検者の脈拍数が低下する状況は稀である。そこで、運動状況の判定結果が運動開始である場合の低方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における高方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に小さくする。この場合、図4(B)の低方向ウィンドウ幅モデルの傾きの大きさの大小関係が“β2<β1<β3”となるようにモデルを定める。
【0058】
2−4.具体例
図5は、具体例の説明図である。実際の脈拍数の時間変化の傾向を参照して、本実施形態におけるウィンドウ幅の設定方法について説明する。図5において、横軸は時間軸であり、脈拍数の算出時刻“t”を時間軸の下に示している。また、縦軸は脈拍数である。算出脈拍数を三角形のプロットで示し、基準脈拍数を矩形のプロットで示している。
【0059】
基準脈拍数を基準として上側に設けた上向き矢印と下側に設けた下向き矢印とは、それぞれ高方向側に所与の幅を介して設けた上限及び低方向側に所与の幅を介して設けた下限を示す。基準脈拍数を基準とする上側の上向き矢印が示す上限値と基準脈拍数を基準とする下側の下向き矢印が示す下限値との差がウィンドウ幅であり、このウィンドウ幅によって定まる範囲が変動許容範囲となる。また、定常時モデルを適用して設定したウィンドウを細実線で示し、運動開始時モデル/運動停止時モデルを適用して設定したウィンドウを太実線で示している。
【0060】
(1)運動開始時
図5(A)は、運動開始時におけるウィンドウ幅の設定方法の説明図である。
算出時刻t0は運動開始前であり、算出脈拍数は最小脈拍数“HRmin”よりもやや高い値であり、ウィンドウの範囲内の値となっている。この場合、算出時刻t1では、この算出脈拍数を基準脈拍数としてウィンドウが設定される。すなわち、基準脈拍数が低い状態であるため、高方向ウィンドウ幅が広く、低方向ウィンドウ幅が狭いウィンドウが設定されている。
【0061】
その後、被検者が算出時刻t1とt2との間に運動を開始したことで、被検者の脈拍数は急激に上昇している。この場合、被検者の運動状況の判定結果が運動開始となるため、運動開始時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。この場合、ある程度の時間幅をもって運動開始時モデルを適用すると効果的である。例えば、算出時刻t2〜t4までの3時刻分の期間を運動開始時モデル適用期間とする。そして、この運動開始時モデル適用期間には、運動開始時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。
【0062】
運動開始時モデルを適用した結果、算出時刻t2では、高方向ウィンドウ幅が算出時刻t1と比べて相対的に広く設定され、低方向ウィンドウ幅が算出時刻t1と比べて相対的に狭く設定されている。算出時刻t3及びt4では、被検者の脈拍数が上昇し、それに伴い基準脈拍数が増加したことで、高方向ウィンドウ幅は徐々に狭くなり、低方向ウィンドウ幅は徐々に広くなっている。その結果、算出時刻t2〜t4では、脈拍数の急激な上昇にウィンドウが追従し、算出脈拍数が適切に捕捉されていることがわかる。
【0063】
その後、算出時刻t5において運動開始時モデルの適用を解除する。つまり、算出時刻t5以降は、定常時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。算出時刻t5では、被検者の脈拍数は既に高い状態となっている。基準脈拍数が高い状態であるため、低方向ウィンドウ幅が広く、高方向ウィンドウ幅が狭いウィンドウが設定されている。
【0064】
その後、算出時刻t8において基準脈拍数が脈拍数上限設定値“HRmax−Wmin”を上回った状態を図示している。その結果、算出時刻t8では、高方向ウィンドウ幅として最小ウィンドウ幅“Wmin”が設定されている。算出時刻t9,t10についても同様である。最終的には、低方向ウィンドウ幅が最大ウィンドウ幅となり、高方向ウィンドウ幅が最小ウィンドウ幅となっている。
【0065】
(2)クールダウン→運動再開時
図5(B)は、クールダウン→運動再開時におけるウィンドウ幅の設定方法の説明図である。ここでは、被検者が運動を行った後に、ストレッチやゆっくりとした歩行といったクールダウンを行い、その後に運動を再開する状況を示している。これは、脈拍数がある程度高くなっている状態から運動を開始するような場面を想定したものである。
【0066】
被検者は、算出時刻t51〜t56までの期間、クールダウンを行っている。クールダウン期間前に運動を行っていたため、クールダウン期間では、被検者の脈拍数はある程度高い状態が維持されている。その後、算出時刻t56とt57との間に被検者が運動を再開した状態を図示している。算出時刻t56では、算出脈拍数は既にある程度高い状態である。算出時刻t57では、この算出脈拍数を基準脈拍数としてウィンドウが設定される。すなわち、基準脈拍数がある程度高い状態であるため、低方向ウィンドウ幅が広く、高方向ウィンドウ幅が狭いウィンドウが設定されている。
【0067】
その後、被検者の脈拍数は徐々に上昇していく。ここで、算出時刻t58において、算出脈拍数として高方向に異常値が得られた状態を図示している。しかし、算出時刻t58では、高方向ウィンドウ幅が狭いウィンドウが設定されている。そのため、この異常値がウィンドウによって捕捉されることはなく、算出脈拍数は不適と判定される。つまり、基準脈拍数に基づいてウィンドウ幅を設定することで、異常値を正常値と誤判定することが防止される。
【0068】
(3)運動停止時
図5(C)は、運動停止時におけるウィンドウ幅の設定方法の説明図である。
算出時刻t89は運動中であり、算出脈拍数は最大脈拍数“HRmax”となっている。算出時刻t90では、この算出脈拍数を基準脈拍数としてウィンドウが設定される。すなわち、基準脈拍数が高い状態であるため、低方向ウィンドウ幅が広く、高方向ウィンドウ幅が狭いウィンドウが設定されている。
【0069】
その後、算出時刻t90とt91との間に運動を停止した状態を図示している。この場合、運動状況の判定結果が運動停止となるため、運動停止時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。この場合も、ある程度の時間幅をもって運動停止時モデルを適用すると効果的である。例えば、算出時刻t91〜t93までの3時刻分の期間を運動停止時モデル適用期間とする。そして、この運動停止時モデル適用期間には、運動停止時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。
【0070】
運動停止時モデルを適用した結果、算出時刻t91では、低方向ウィンドウ幅が算出時刻t90と比べて相対的に広く設定され、高方向ウィンドウ幅が算出時刻t90と比べて相対的に狭く設定されている。算出時刻t91〜t93では、脈拍数の急激な低下にウィンドウが追従し、算出脈拍数が適切に捕捉されていることがわかる。
【0071】
その後、算出時刻t94において運動停止時モデルの適用を解除する。つまり、算出時刻t94以降は、定常時モデルを適用してウィンドウ幅を設定する。被検者の脈拍数は、ある程度時間が経過すると緩やかに減少していく。
【0072】
その後、算出時刻t99において、基準脈拍数が脈拍数下限設定値“HRmin+Wmin”を下回った状態を図示している。その結果、算出時刻t99では、低方向ウィンドウ幅として最小ウィンドウ幅“Wmin”が設定されている。算出時刻t100についても同様である。最終的には、高方向ウィンドウ幅が最大ウィンドウ幅となっており、低方向ウィンドウ幅が最小ウィンドウ幅となっている。
【0073】
3.機能構成
図6は、脈拍計1の機能構成の一例を示すブロック図である。脈拍計1は、脈波センサー10と、体動センサー20と、脈波信号増幅回路部30と、脈波形整形回路部40と、体動信号増幅回路部50と、体動波形整形回路部60と、A/D(Analog/Digital)変換部70と、処理部100と、操作部200と、表示部300と、報知部400と、通信部500と、時計部600と、記憶部700とを備えて構成される。
【0074】
脈波センサー10は、脈拍計1が装着された被検者の脈波を計測するセンサーであり、例えば光電脈波センサーを有して構成される。脈波センサー10は、身体組織への血流の流入によって生じる容積変化を脈波信号として検出し、脈波信号増幅回路部30に出力する。
【0075】
脈波信号増幅回路部30は、脈波センサー10から入力した脈波信号を所定のゲインで増幅する増幅回路を有して構成される。脈波信号増幅回路部30は、増幅した脈波信号を脈波形整形回路部40及びA/D変換部70に出力する。
【0076】
脈波形整形回路部40は、脈波信号増幅回路部30によって増幅された脈波信号を整形する回路部であり、高周波のノイズ成分を除去する回路やクリッピング回路等を有して構成される。処理部100は、脈波形整形回路部40によって整形された脈波形に基づいて、脈波の検出有無を判定する。
【0077】
体動センサー20は、脈拍計1が装着された被検者の動きを捉えるためのセンサーであり、例えば加速度センサーを有して構成される。体動センサー20は、被検者の体動を検出する体動検出部に相当する。
【0078】
体動信号増幅回路部50は、体動センサー20から入力した体動信号を所定のゲインで増幅する増幅回路を有して構成される。体動信号増幅回路部50は、増幅した体動信号を体動波形整形回路部60及びA/D変換部70に出力する。
【0079】
体動波形整形回路部60は、体動信号増幅回路部50によって増幅された体動信号を整形する回路部であり、高周波のノイズ成分を除去する回路や、重力加速度成分とそれ以外の成分とを判定する回路、クリッピング回路等を有して構成される。処理部100は、体動波形整形回路部60によって整形された体動波形に基づいて、体動の検出有無を判定する。
【0080】
A/D変換部70は、脈波信号増幅回路部30によって増幅されたアナログ形式の脈波信号と、体動信号増幅回路部50によって増幅されたアナログ形式の体動信号とを、それぞれ所定のサンプリング時間間隔でサンプリング及び数値化して、デジタル信号に変換する。そして、変換したデジタル信号を処理部100に出力する。
【0081】
処理部100は、記憶部700に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って脈拍計1の各部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部100は、記憶部700に記憶された脈拍数測定プログラム710に従って脈拍数測定処理を行い、脈拍計1が装着された被検者の脈拍数を算出・測定して表示部300に表示させる制御を行う。
【0082】
処理部100は、例えば、脈拍数算出部120と、ウィンドウ設定部130と、運動状況判定部150と、脈拍数適否判定部160と、表示制御部170と、基準脈拍数更新部180とを機能部として有する。但し、これらの機能部はあくまでも一例であり、必ずしも全ての機能部を必須構成要件としなければならないわけではない。
【0083】
脈拍数算出部120は、A/D変換部70から入力した体動信号(体動データ)を用いて、脈波信号(脈波データ)から体動ノイズ成分を除去する処理を行う。そして、抽出した拍動成分(拍動データ)を利用して被検者の脈拍数を算出する。
【0084】
ウィンドウ設定部130は、脈拍数適否判定部160が算出脈拍数790の適否判定に利用するウィンドウを設定する。具体的には、ウィンドウ幅設定部140によって設定された低方向ウィンドウ幅740及び高方向ウィンドウ幅750と、最新の基準脈拍数780とを用いて、ウィンドウ下限値760及びウィンドウ上限値770を算出する。
【0085】
ウィンドウ幅設定部140は、記憶部700に記憶されているウィンドウ幅設定用データ720を用いて、上記の原理に従って低方向ウィンドウ幅740及び高方向ウィンドウ幅750を設定する。
【0086】
運動状況判定部150は、A/D変換部70から入力した体動信号(体動データ)の所定時間分の時間変化に基づいて、被検者の運動状況(運動開始、運動継続、運動停止等)を判定する。
【0087】
脈拍数適否判定部160は、ウィンドウ設定部130によって設定されたウィンドウを用いて、脈拍数算出部120によって算出された算出脈拍数790の適否を判定する。
【0088】
表示制御部170は、脈拍数適否判定部160の判定結果に基づいて脈拍数を表示部300に表示制御する。具体的には、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数790が適切と判定された場合は、当該算出脈拍数790を測定脈拍数(測定結果)として表示部300に表示制御する。他方、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数790が不適と判定された場合は、最新の基準脈拍数780を測定脈拍数(測定結果)として表示部300に表示制御する。
【0089】
基準脈拍数更新部180は、脈拍数適否判定部160によって算出脈拍数790が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数790で基準脈拍数780を更新する。
【0090】
操作部200は、ボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたボタンの信号を処理部100に出力する。この操作部200の操作により、脈拍数の測定指示等の各種指示入力がなされる。操作部200は、図1の操作ボタン5に相当する。
【0091】
表示部300は、LCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成され、処理部100から入力される表示信号に基づく各種表示を行う表示装置である。表示部300には、各種の生体情報(脈拍数、運動強度、カロリー消費量等)が表示される。表示部300は、図1の液晶表示器4に相当する。
【0092】
報知部400は、スピーカーや圧電振動子等を有して構成され、処理部100から入力される報知信号に基づく各種報知を行う報知装置である。例えば、アラーム音をスピーカーから出力させたり、圧電振動子を振動させることで、被検者への各種報知を行う。
【0093】
通信部500は、処理部100の制御に従って、装置内部で利用される情報をパソコン(PC(Personal Computer))等の外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。この通信部500の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレイドルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0094】
時計部600は、水晶振動子及び発振回路でなる水晶発振器等を有して構成され、時刻を計時する計時装置である。時計部600の計時時刻は、処理部100に随時出力される。
【0095】
記憶部700は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、脈拍計1のシステムプログラムや、脈拍数測定機能、運動強度測定機能、カロリー測定機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0096】
記憶部700には、プログラムとして、脈拍数測定処理(図7参照)として実行される脈拍数測定プログラム710が記憶されている。また、記憶部700には、データとして、ウィンドウ幅設定用データ720と、低方向ウィンドウ幅740と、高方向ウィンドウ幅750と、ウィンドウ下限値760と、ウィンドウ上限値770と、基準脈拍数780と、算出脈拍数790とが記憶される。
【0097】
ウィンドウ幅設定用データ720は、ウィンドウ幅設定部140がウィンドウ幅を設定するために用いるデータである。例えば、図4で説明したウィンドウ幅(上限及び下限)のモデル関数のデータや、基準脈拍数とウィンドウ幅(上限及び下限)とを対応付けたテーブルといったデータがこれに含まれる。
【0098】
4.処理の流れ
図7は、記憶部700に記憶されている脈拍数測定プログラム710が処理部100によって読み出されることで、脈拍計1において実行される脈拍数測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0099】
最初に、処理部100は、初期設定を行う(ステップA1)。具体的には、基準脈拍数780の初期値として所定値(例えば安静時脈拍数)を設定する。
【0100】
次いで、処理部100は、脈波センサー10及び体動センサー20の検出結果を取得する(ステップA3)。そして、脈拍数算出部120は、脈波センサー10の脈波信号の検出結果及び体動センサー20の検出結果を用いて被検者の脈拍数を算出し、その算出結果で記憶部700の算出脈拍数790を更新する(ステップA5)。
【0101】
その後、運動状況判定部150は、体動センサー20の検出結果に基づいて運動状況を判定する(ステップA6)。そして、ウィンドウ幅設定部140は、記憶部700に記憶された最新の基準脈拍数780と、ステップA6で判定した運動状況とに基づいて、低方向ウィンドウ幅740及び高方向ウィンドウ幅750を設定し、記憶部700に記憶させる(ステップA7)。
【0102】
次いで、ウィンドウ設定部130は、ステップA7で設定した低方向ウィンドウ幅740及び高方向ウィンドウ幅750と基準脈拍数780とを用いて、ウィンドウ下限値760及びウィンドウ上限値770を算出し、記憶部700に記憶させる(ステップA9)。
【0103】
その後、脈拍数適否判定部160は、算出脈拍数790がウィンドウ下限値760以上であるか否かを判定し(ステップA11)、この条件を満たす場合は(ステップA11;Yes)、算出脈拍数790がウィンドウ上限値770以下であるか否かを判定する(ステップA13)。そして、この条件を満たす場合は(ステップA13;Yes)、脈拍数適否判定部160が、算出脈拍数790を適切と判定する(ステップA15)。
【0104】
そして、表示制御部170は、算出脈拍数790を測定脈拍数として表示部300に表示制御する(ステップA17)。また、基準脈拍数更新部180は、算出脈拍数790で記憶部700の基準脈拍数780を更新する(ステップA19)。
【0105】
一方、ステップA11又はステップA13において条件を満たさないと判定した場合は(ステップA11;No、又は、ステップA13;No)、脈拍数適否判定部160は、算出脈拍数790を不適と判定する(ステップA23)。そして、表示制御部170は、基準脈拍数780を測定脈拍数として表示部300に表示制御する(ステップA25)。
【0106】
ステップA19又はA25の後、処理部100は、脈拍数の測定を終了するか否かを判定する(ステップA29)。例えば、操作部200を介して被検者によって脈拍数の測定終了の指示操作がなされたか否かを判定する。まだ測定を終了しないと判定した場合は(ステップA29;No)、ステップA3に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA29;Yes)、脈拍数測定処理を終了する。
【0107】
5.作用効果
脈拍計1において、被検者の脈拍数が脈拍数算出部120によって算出される。そして、脈拍数算出部120によって算出された算出脈拍数が所与のウィンドウに含まれるか否かに基づいて算出脈拍数の適否が脈拍数適否判定部160によって判定される。この際、ウィンドウの幅でなるウィンドウ幅が所与の基準脈拍数に基づいてウィンドウ幅設定部140によって設定される。
【0108】
具体的には、ウィンドウ幅設定部140は、基準脈拍数が低いほど、基準脈拍数を基準として脈拍数が高い方向に対するウィンドウ幅でなる高方向ウィンドウ幅を増大させる。脈拍数が低い状態においては、脈拍数は下がりにくく、上がりやすい傾向がある。そこで、基準脈拍数が低いほど高方向ウィンドウ幅を増大させる。
【0109】
また、ウィンドウ幅設定部140は、基準脈拍数が高いほど、基準脈拍数を基準として脈拍数が低い方向に対するウィンドウ幅でなる低方向ウィンドウ幅を増大させる。脈拍数が高い状態においては、脈拍数は上がりにくく、下がりやすい傾向がある。そこで、基準脈拍数が高いほど低方向ウィンドウ幅を増大させる。
【0110】
また、脈拍数の増加の度合は、脈拍数の低下の度合と比べて大きくなる傾向がある。そこで、高方向ウィンドウ幅の増大度合を低方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に大きくすることで、人間の脈拍数の特性を考慮したウィンドウ幅の設定を実現できる。
【0111】
また、本実施形態では、被検者の運動状況を判定し、その判定結果が運動開始である場合の高方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における高方向ウィンドウ許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。また、運動状況の判定結果が運動停止である場合の低方向ウィンドウ幅の増大度合を、定常時における低方向ウィンドウ幅の増大度合と比べて相対的に大きくする。これにより、脈拍数の急激な増加/減少にウィンドウを追従させることが可能となり、算出脈拍数の適否判定の確度を向上させることができる。
【0112】
本実施形態におけるウィンドウ幅の設定方法では、ウィンドウ幅を基準脈拍数に基づいて設定している。そのため、クールダウン時のように、一度運動を行って脈拍数が高くなっている状態から算出を開始した場合や、被検者が走って脈拍数が高くなった状態で一旦立ち止まり、その後に歩き始めたような場合であっても、適切なウィンドウ幅を設定して算出脈拍数の適否判定を行うことができる。つまり、基準脈拍数が高い状態であれば、低方向ウィンドウ幅を広めに設定し、高方向ウィンドウ幅を狭めに設定する。そのため、高方向に対して異常値が算出された場合であっても、高方向ウィンドウ幅の部分で異常値を捉えてしまう事態が生じず、異常値を正常値と誤判定することが防止される。
【0113】
同様に、脈拍数が低くなっている状態で被検者が動作を停止したような場合であっても、適切なウィンドウ幅を設定して算出脈拍数の適否判定を行うことができる。つまり、基準脈拍数が低い状態であれば、高方向ウィンドウ幅を広めに設定し、低方向ウィンドウ幅を狭めに設定する。そのため、低方向に対して異常値が算出された場合であっても、低方向ウィンドウ幅の部分で異常値を捉えてしまう事態が生じず、異常値を正常値と誤判定することが防止される。
【0114】
6.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明する。
【0115】
6−1.生体情報処理装置
上記の実施形態では、生体情報処理装置として腕時計型の脈拍計を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な生体情報処理装置はこれに限られない。例えば、指先に装着して脈拍数を測定する指装着形の脈拍計に適用することも可能である。また、脈波信号の検出方法も光を用いた検出方法に限られず、超音波を用いた検出方法や、心電を用いた検出方法であってもよい。
【0116】
6−2.体動検出部
上記の実施形態では、体動検出部である体動センサーが加速度センサーを有して構成されるものとして説明したが、加速度センサーではなく他のセンサーを有して構成されることとしてもよい。例えば、体動センサーがジャイロセンサーを有して構成されることとし、ジャイロセンサーによって検出された角速度に基づいて被検者の体動を検出することとしてもよい。勿論、加速度センサー及びジャイロセンサーの両方を有して構成されることとし、これらのセンサーの検出結果を併用して被検者の体動を検出してもよい。
【0117】
6−3.ウィンドウ幅モデル
上記の実施形態では、一次関数で近似したウィンドウ幅のモデル関数を一例として説明した。しかし、本発明を適用可能なウィンドウ幅のモデル関数は、何もこれに限られるわけではない。例えば、基準脈拍数の増加に伴い対数関数的に減少する高方向ウィンドウ幅のモデル関数や、基準脈拍数の増加に伴い対数関数的に増加する低方向ウィンドウ幅モデル関数をウィンドウ幅モデルとして定めておくこととしてもよい。
【0118】
6−4.運動開始時/運動停止時におけるウィンドウ幅の設定方法
上記の実施形態では、運動開始時/運動停止時において、運動開始時モデル適用期間/運動停止時モデル適用期間を設定するものとして説明した。そして、これらの期間では、固定的な(同一の)運動開始時モデル/運動停止時モデルを適用してウィンドウ幅を設定するものとして説明した。しかし、これらの期間において、ウィンドウ幅モデルを固定的にするのではなく、適用するモデルを変えてウィンドウ幅を設定することも可能である。
【0119】
図8は、変形例におけるウィンドウ幅モデルの説明図である。図の見方は図4と同じである。図8(A)に示す高方向ウィンドウ幅“Wup”について、運動開始時モデル適用期間には、運動開始時モデルを定常時モデルに徐々に近づけるように、モデル関数の傾きを段階的に小さくしていく。また、運動停止時モデル適用期間には、運動停止時モデルを定常時モデルに徐々に近づけるように、モデル関数の傾きを段階的に大きくしていく。
【0120】
また、図8(B)に示す低方向ウィンドウ幅“Wdown”について、運動開始時モデル適用期間には、運動開始時モデルを定常時モデルに徐々に近づけるように、モデル関数の傾きを段階的に大きくしていく。また、運動停止時モデル適用期間には、運動停止時モデルを定常時モデルに徐々に近づけるように、モデル関数の傾きを段階的に小さくしていく。
【0121】
6−5.運動開始時モデル適用期間/運動停止時モデル適用期間
運動開始時といった脈拍数が上昇する状況では、脈拍数は比較的速やかに立ち上がり、その後、徐々に安定していく傾向がある。逆に、運動終了時といった脈拍数が低下する状況では、脈拍数は当初は比較的下がりにくく、一定時間経過後に急速に低下し、その後、緩やかに収束する傾向がある。
【0122】
この脈拍数の特性に着目して、運動開始時モデル適用期間と運動停止時モデル適用期間とを異なる長さの期間として設定してもよい。上記の脈拍数の特性に着目すると、運動停止時モデル適用期間を運動開始時モデル適用期間よりも長い期間にすると効果的である。例えば、運動開始を検知してから3時刻分の期間を運動開始時モデル適用期間とし、運動停止を検知してから6時刻分の期間を運動停止時モデル適用期間とする。
【0123】
6−6.基準脈拍数
上記の実施形態では、適否判定によって適切と判定された最新の算出脈拍数を基準脈拍数として設定することとして説明した。つまり、算出脈拍数が適切と判定された場合に、当該算出脈拍数で基準脈拍数を更新する処理を算出時刻毎に繰り返すものとして説明した。
【0124】
しかし、基準脈拍数として設定可能な脈拍数は何もこれに限られるわけではない。例えば、現在の算出時刻から過去所定期間(例えば過去5算出時刻分の期間)において適切と判定された算出脈拍数の平均値や中央値を求めて基準脈拍数として設定することとしてもよい。
【0125】
6−7.最大脈拍数及び最小脈拍数
最大脈拍数及び最小脈拍数の設定方法は、上記の実施形態に限られない。例えば、式(1)以外にも、被検者に負荷の高い運動を行わせて所定時間に亘って脈拍数を算出し、その平均値や中央値から最大脈拍数“HRmax”を求めてもよい。また、被検者を安静にさせた状態で所定時間に亘って脈拍数を算出し、その平均値や中央値から最小脈拍数“HRmin”を求めてもよい。被検者自身に最大脈拍数“HRmax”や最小脈拍数“HRmin”の値を手入力させることも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 脈拍計、 10 脈波センサー、 20 体動センサー、 30 脈波信号増幅回路部、 40 脈波形整形回路部、 50 体動信号増幅回路部、 60 体動波形整形回路部、 70 A/D変換部、 100 処理部、 200 操作部、 300 表示部、 400 報知部、 500 通信部、 600 時計部、 700 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脈拍数を算出する脈拍数算出部と、
前記脈拍数算出部によって算出された算出脈拍数が所与の変動許容範囲に含まれるか否かに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定する脈拍数適否判定部と、
前記変動許容範囲の幅でなる変動許容幅を所与の基準脈拍数に基づいて設定する変動許容幅設定部と、
を備えた生体情報処理装置。
【請求項2】
前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が低いほど、前記基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させる、
請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が高いほど、前記基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させる、
請求項1又は2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が低いほど、前記基準脈拍数を基準とする高方向に対する変動許容幅でなる高方向変動許容幅を増大させ、且つ、前記基準脈拍数が高いほど、前記基準脈拍数を基準とする低方向に対する変動許容幅でなる低方向変動許容幅を増大させ、前記高方向変動許容幅の増大度合を前記低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、
請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記被検者の運動状況を判定する運動状況判定部を更に備え、
前記変動許容幅設定部は、前記運動状況の判定結果が運動開始である場合の前記高方向変動許容幅の増大度合を、定常時における前記高方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、
請求項2又は4に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記被検者の運動状況を判定する運動状況判定部を更に備え、
前記変動許容幅設定部は、前記運動状況の判定結果が運動停止である場合の前記低方向変動許容幅の増大度合を、定常時における前記低方向変動許容幅の増大度合と比べて相対的に大きくする、
請求項3又は4に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記変動許容幅設定部は、前記基準脈拍数が所定の脈拍数上限設定値を上回っている場合、又は、前記基準脈拍数が所定の脈拍数下限設定値を下回っている場合に、前記変動許容幅を予め定められた最小変動許容幅とする、
請求項1〜6の何れか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
被検者の脈拍数を算出することと、
前記算出された算出脈拍数が所与の変動許容範囲に含まれるか否かに基づいて前記算出脈拍数の適否を判定することと、
前記変動許容範囲の幅でなる変動許容幅を所与の基準脈拍数に基づいて設定することと、
を含む生体情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−13645(P2013−13645A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149804(P2011−149804)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】