説明

生体情報測定便器

【課題】生体情報測定のために形成される溜水の測定開始水位を、設定された所定水位に正確に形成し、維持することにより、使用する便器が便器としての機能を保ちながら、最大限の測定機能を確保できる生体情報測定便器を提供する。
【解決手段】生体情報測定便器10は、洋式便器11のボール16内に貯留された溜水水位を溢流水位Hより低い測定開始水位に形成した後、使用者の排尿による測定開始水位からの水位の変化量を溜水水位測定手段27で計測して少なくとも尿量を含む生体情報を測定する。生体情報測定便器10を施工する場合、洋式便器11を施工現場に設置した後、試運転で設定された測定開始水位を溜水水位測定手段27で計測して得られる実測値と、設定値との偏差を求め、測定開始水位の形成動作の制御条件を、偏差相当分の制御パラメータを補正した新たな制御条件に更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式便器を利用して被験者の排尿量や尿量率などの各種生体情報を測定することのできる生体情報測定便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生体情報測定便器としては、洋式便器を利用し、そのボール内へ排泄された排泄物による溜水水位の変化を計測して、排尿量などの生体情報を測定するものがある。このような生体情報測定便器においては、排泄された排泄物による溜水の増加分をボール内に貯留する必要があるため、予めボール内の溜水水位を、使用する便器によって決められている最高水位より低い測定を開始する水位(以下、測定開始水位と呼ぶ)まで下げた後、測定を開始している(例えば、特許文献1,2,3参照。)。
【0003】
即ち、特許文献1,2記載の排尿量測定装置の場合、ボール内の貯留された溜水を特別に設けた排水口からボール外に排出することによって測定開始水位を形成している。
【0004】
一方、特許文献3記載の排尿量測定装置の場合は、ボール内の貯留された溜水を、サイホン現象を利用して下水配管に排出した後、ボール内に給水して、溜水の水位を測定開始水位に設定している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−94537号公報
【特許文献2】特開平10−82783号公報
【特許文献3】国際公開2004/13630号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洋式便器のボール内の溜水水位を測定開始水位に形成した後、排泄物による水位変化を計測して測定を行う生体情報測定便器の場合、溜水水位変化を計測するために利用する水位の範囲は、使用する便器が通常便器としての機能、動作を保障できる水位範囲(以下、「溜水水位設定許容範囲」という。)以内でなければならない。しかしながら、その溜水水位設定許容範囲は、以下に述べるように、使用される便器の種類に関係付けて決められている。
【0007】
まず、溜水水位設定許容範囲の上限の水位(以下、「最高設定水位」という。)は、便器洗浄時の一時的な高水位を除くと排便待機時の水位(以下、「排便待機水位」という。)である。この排便待機水位は、排便による溜水跳ね返りとボール面への便付着という、溜水水位に関して互いに相反する現象を考慮して決定されるため、その最適設定位置は便器リムの上面から便器の種類に対応した一定の距離の位置に限定される。
【0008】
ところが、通常の洋式便器の場合、一般的な体格の使用者が楽に着座したり、起立したりできる高さは、ある程度の範囲内に限られているため、床面からこの便器リム上面までの高さには上限がある。従って、この便器リム上面から最適な距離に限定される前記の最高設定水位は、使用する便器に関連付けられて据付床面からの位置には上限があることになる。
【0009】
一方、前記の最低設定水位も、使用する便器に関連付けられて下限位置が存在する。即ち、通常の洋式便器のボール底面の下部には排泄物が通過するための排水路等の構造を設ける必要があるため、ボール底面の据付床面からの距離には下限が存在する。このため、ボールが空の状態で測定を開始する場合は、ボール底面の位置が前記最低設定水位となる。また、生体情報測定時に、大便の排泄が行われる可能性を考慮して、ボール内に溜水を貯留した状態から測定を開始する装置構成とした場合においては、このボール底面より最適な溜水の深さ分だけ上方の位置が前記最低設定水位となる。
【0010】
このように、前記最高設定水位および前記最低設定水位は、便器に関連付けられてそれぞれの位置が限定されるため、実際に使用する便器の種類に応じて前記溜水水位設定許容範囲が決まることとなる。そして、使用する便器の種類や測定する排泄物の種類の組み合わせによっては、前記した溜水水位設定許容範囲に相当する溜水量は、使用者の最大排泄量に対してそれほど余裕がない場合がある。このような場合、使用する便器に対して実際に測定に使用する測定範囲を最大にするためには、測定に使用する水位範囲を前記の溜水水位設定許容範囲と一致させれば良い。しかしながら、測定時の水位の上限となる測定終了時の水位は被験者の排泄量によって決まるものであり、装置側では制御できないものである。このため、測定時の水位の下限となる測定を開始する水位(以下、「測定開始水位」と呼ぶ)を前記最低設定水位に出来る限り近く設定する必要がある。
【0011】
しかしながら、特許文献1,2記載の排尿量測定装置のように、排水口から溜水を排出して測定開始水位を形成する構成とした排尿量測定装置において、排水口から排出する溜水の量を制御して測定開始水位を所定の水位に設定する動作とした場合は、洋式便器のボール寸法、使用するポンプの排水能力等の各種のばらつき要因があるため、予め定められた制御条件で排出動作を制御するだけでは、予め定められた所定の水位と実際に形成される測定開始水位との差異である水位形成誤差の発生は避けられない。
【0012】
一方、特許文献3記載の大便器ユニットの場合も、洋式便器のボール寸法、施工場所の給水圧、給水弁の動作速度等の各種のばらつき要因があり、同じような水位形成誤差の発生は避けられない。
【0013】
従って、前述した特許文献1〜3に記載されている排水及び給水いずれのタイプの装置においても、測定開始水位を形成する動作の目標とする水位を前記最低設定水位として制御条件を設定した場合、実際に形成される測定開始水位は少なくとも前記水位形成誤差分だけずれることとなるが、その量によっては前述した理由により、便器として要求されている機能・動作に不具合が生じる可能性がある。また、測定開始水位が上方側へずれた場合は、ずれ分だけは実際に測定できる範囲が狭くなるという不具合がさらに生じる。
【0014】
また、使用する便器がトラップ式便器である場合、測定開始水位の形成動作の制御には、さらに別な問題も加わる。即ち、トラップ式便器においては、トラップに連通されている下水配管内で発生する圧力変動による移動により、貯留されている溜水水面が下がり、トラップ口が溜水水面から露出する「封水切れ」現象が発生する可能性がある。そこで、この「封水切れ」の発生を防止するために、建築基準法においては、下水配管に接続される設備器具に対し、使用待機時にトラップ開口部の上端からの溜水の深さ(以下、「封水深」と呼ぶ。)を50mm以上確保することが求められている。従って、トラップ式便器を使用して測定開始水位で使用待機する仕様とする場合は、ボール底面より高い位置にあるトラップ開口部上端からさらに50mm上方の位置が、前記最低設定水位の下限位置となる。
【0015】
ところが、便器が陶器製である場合、製造工程におけるばらつきにより、ボール内におけるトラップ開口部上端の位置は、便器ごとに上下方向に異なっているのが実状である。従って、このトラップ開口部上端の上下位置のばらつきを考慮しながら、必要とする「封水深」を確保するためには、より上方の位置に測定開始水位を設定しなければならないので、さらに測定範囲が狭くなるという問題もある。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、生体情報測定のために形成される溜水の測定開始水位を、設定された所定水位に正確に形成し、それを維持することによって、使用する便器が便器としての機能を保ちながら、最大限の測定機能を確保できる生体情報測定便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の生体情報測定便器は、洋式便器のボール内に貯留された溜水の水位を予め定められた制御条件に基づいて測定開始時の水位である測定開始水位として予め定められた所定水位に形成する測定開始水位形成手段と、前記溜水の水位を測定する溜水水位測定手段と、を備え、
使用者の排泄物による前記測定開始水位からの溜水水位の変化量を前記溜水水位測定手段で計測し、少なくとも排尿量を含む生体情報を測定する生体情報測定便器において、
前記測定開始水位形成手段によって前記測定開始水位として形成される前記溜水の水位を計測する開始水位確認手段と、
前記開始水位確認手段によって計測された前記測定開始水位の計測値と前記所定水位との偏差に基づいて、前記測定開始水位形成手段の動作を制御する制御条件を新たな制御条件に更新する制御条件更新手段と、を設けたことを特徴とする。
【0018】
このような構成とすれば、施工現場に設置された洋式便器に対し、試運転により設定された測定開始水位を溜水水位測定手段で実際に測定し、この実測値と設定値との偏差を求め、この偏差に基づいて制御条件更新手段が、測定開始水位形成手段の制御条件を新たな制御条件に更新するので、当該洋式便器に即した制御条件が得られる。従って、溜水の測定開始水位を正確に設定することができる。
【0019】
ここで、前記測定開始水位形成手段は、前記ボール内に貯留された溜水の一部を排出することによって前記測定開始水位を形成するものとすることができる。このような構成とすれば、滞留している溜水の一部を排出する構成を設けるだけの簡単な装置構成で、高精度に狙いの測定開始水位を創成することができるという技術的効果が得られる。
【0020】
また、前記測定開始水位形成手段は、便器洗浄後のボール内に給水することによって前記測定開始水位を形成するものとすることもできる。このような構成とすれば、測定開始水位を形成する際に、ボール内に滞留している溜水を一旦排出するため、滞留している溜水にペーパー等の異物が混入していても、測定開始水位形成に影響を与えることがない。このため、動作信頼性の高い測定装置で高精度に狙いの測定開始水位を創成することができる。
【0021】
一方、前記制御条件更新手段は、制御条件の前記更新を、所定期間経過するごとに行うようにすることができる。このような構成とすれば、制御条件の更新が定期的に行われることとなるため、ポンプの給水能力や配管の流路抵抗などの溜水水位形成手段を構成する要素の経時的変化に起因する水位形成誤差を修正することが可能となり、溜水の測定開始水位を正確に保つことができる。
【0022】
この場合、制御条件の前記更新は、更新後の前記偏差が所定の範囲内になるまで必要な回数を反復することが望ましい。このような構成とすれば、前記反復により、制御条件を必要とする精度にすることができるため、所定水位を正確に設定することができる。
【0023】
次に、前記開始水位確認手段は前記溜水水位測定手段であることが望ましい。このような構成とすれば、形成された溜水の所定水位を、本来備えられている溜水水位測定手段によって測定するため、制御条件を更新するために特別な構成を必要としない。
【0024】
次に、前記偏差の修正指示を手動で入力するための偏差修正入力手段を設け、
前記開始水位確認手段は、前記洋式便器のトラップ開口部上端から溜水面までの距離と規定の距離との偏差を測定する測定治具とすることができる。このような構成とすれば、施工現場に設置された生体情報測定便器において、ボール内に形成された水位を施工作業者が目視で直接測定することができるため、センサ等を使用する測定と異なり、測定系自身の持つ誤差量等の配慮も必要なく、形成された水位における規定された封水深からの偏差を容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、溜水の測定開始水位を、設定された所定位置に正確に設定できるため、使用する便器によって決まる水位設定可能範囲を最大限に使用して測定を行うことが可能となり、測定範囲の広い生体情報測定便器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の第一実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図、図2は図1に示す生体情報測定便器のシステムブロック図、図3は図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定前における一部省略垂直断面図、図4は図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定中における一部省略垂直断面図、図5は図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定後における一部省略垂直断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の生体情報測定便器10は、使用者の排泄物を受けて下水配管へ排出する洋式便器11と、生体情報測定手段12および制御手段13などが内蔵されたキャビネット14と、洋式便器11の側方壁面に配置された操作・表示部20と、を備えている。洋式便器11は、使用者が着座するための便座15と、ボール16および便座15を開閉可能に覆う便蓋17と、採尿器18aおよび採尿アーム18bを有する採尿ユニット18とを備えている。
【0028】
また、操作・表示部20は、洋式便器11に設けられた衛生洗浄装置23を操作するためのリモコン19と、生体情報測定手段12を機能させるためのリモコン21と、排尿情報測定結果を印刷するためのプリンタ22と、を備えている。なお、採尿ユニット18および衛生洗浄装置23は、本発明に係る生体情報測定便器10を構成するための必須要件ではない。
【0029】
図2に示すように、洋式便器11は、使用者の尿を受けるボール16と、ボール16内の給水ノズル24に便器洗浄水等を給水する洗浄手段34と、大気と区画された接続室26を介してボール16と下水配管35とを連通するとともに、便器洗浄時以外は下水配管35との連通を遮断するための溜水を貯留するトラップ25と、を有している。
【0030】
図3に示すように、トラップ25は可撓性を有する管材で形成され、接続室26内に移動可能に配置された回動部25aを有し、回動部25aの端部は接続室26内に開放された自由端部25bとなっている。自由端部25bは位置検出手段37でその位置を検出しながら、トラップ回動手段28により昇降移動され、ボール16内の排泄物などを下水配管35へ排出したり、測定開始水位を形成したりする。また、接続室26は、下水配管35と接続するため、一般的に排水ソケットと称される部分と一体化しており、図2に示すように、接続室26と下水配管35とは直接接続されている。
【0031】
また、キャビネット14に収納されている生体情報測定手段12には下水圧変動測定手段6が設けられ、制御手段13には、検量線記憶手段38、排尿情報演算手段39、情報記憶手段40及び制御条件更新手段43が設けられている。
【0032】
次に、図3〜図5を用いて本実施形態の生体情報測定動作について、以下、説明する。
生体情報測定便器10においては、測定待機状態時に回動部25aは図3に示す位置にあり、その時の溜水W1の水位は排便時水位W1Lとなっている。使用者の測定開始指示が行われると図4に示すように、トラップ回動手段28で自由端部25bを下降させ、自由端部25bの最下点25cより上の溜水W1の一部を排出して溜水W2とした後、図5に示すように、自由端部25bを元の待機状態の位置に戻すことによって、溢流水位Hより低い所定水位である測定開始水位W2Lと測定範囲上限となる溢流水位Hとを形成する。この場合、この自由端部最下点25cを元の待機状態の位置より高い位置まで上昇させることにより、溜水W1の溢流水位Hを上昇させて測定範囲を大きく確保する構成とすることもできる。
【0033】
このように生体情報測定便器10は、洋式便器11のボール16内に貯留された溜水W1の一部を、排出経路を構成するトラップ25の自由端部25bを経由して排出して溜水W2とすることにより、溜水水位を溢流水位Hより低い測定開始水位W2Lに設定した後、使用者の排尿による測定開始水位W2Lからの水位の変化量を溜水水位測定手段27で計測して少なくとも尿量を含む生体情報を測定する。なお、本実施形態では溜水水位測定手段27は、溜水W2の水圧を計測可能な圧力センサを使用している。また、接続室26には下水圧変動測定手段6が接続されており、溜水水位測定手段27による溜水水位測定値は下水圧変動測定手段6の測定値によって補正され、補正された溜水水位によって以降の排尿情報は演算されるようになっている。
【0034】
生体情報測定便器10を施工する場合、洋式便器11を施工現場に設置した後、試運転により溜水の水位を予め設定された測定開始水位にするために、トラップ回動手段28を予め定められた制御条件に基づいて動作させて、溜水W1の一部を下水配管35へ排出する。次に、測定開始水位として形成された前記水位を溜水水位測定手段27で計測し、得られる実測値の設定値からの偏差を求める。次に、制御条件更新手段43は測定開始水位W2Lを形成するためのトラップ回動手段28の動作を制御する制御条件の制御パラメータを、得られた偏差相当分だけ補正した新たな制御条件に更新する。本実施形態では、補正する制御パラメータはトラップ回動手段28の位置情報として、図4に示す位置の設定値からの偏差を求め制御条件を更新する。
【0035】
なお、制御条件の更新の際には、更新された新たな制御条件で形成される水位の偏差が目標とする公差内に入らなかった場合は、再度、同様な更新動作を公差内に入るまで反復するようにしている。従って、より正確な測定開始水位を効率的に設定することができる。
【0036】
このように、施工現場に設置された洋式便器11に対し、試運転によって予め設定されている制御条件に基づいて、実際に測定開始水位形成動作を行って形成された水位を測定し、この実測値と測定開始水位W2Lとして予め所定水位に設定されている設定値との偏差を求め、これに基づいて、制御条件更新手段43が測定開始水位W2Lの形成動作の制御条件を、偏差相当分の制御パラメータを修正した新たな制御条件に更新するので、ボール16の形状ばらつきやトラップ回動手段28の動作ばらつきを織り込んだ、当該洋式便器11に即した制御条件が得られる。従って、溜水W2の測定開始水位W2Lを正確に設定することができる。
【0037】
また、必要に応じて、この動作を定期的(例えば、1ヶ月毎)に行って制御条件を更新することにより、水位形成手段を構成する弁の応答速度や水路の流動抵抗等、経時的に変動する要因による水位形成動作の経時的変化に起因する測定開始水位の形成誤差の修正が行われるため、形成される測定開始水位W2Lを常に正確な設定値に維持することができる。
【0038】
図3〜図5で示した洋式便器11のように、便器洗浄時にトラップ25の自由端部25bを上下させる構成の便器は、一般的な固定トラップ方式の便器と比較して、トラップ構造の溢流水位を乗り越えるためにエネルギーを必要としないことから、溜水混じりの排泄物を下水配管に排出するための音が小さいという特徴を持っている。しかしながら、使用者が排泄を終えた後に、トラップ25の自由端部25bが排便待機水位を形成した位置にあるときに次の便器洗浄動作を開始すると、トラップ25の自由端部25bが下水配管35に向けて下がり始めるとともに、ボール16内の内容物の排出が開始されるが、溜水だけが先に排出され、溜水W1中で特に比重の大きな排泄物が溜水W1の流れに取り残されてボール16に残ってしまうことがある。
【0039】
そこで、本実施形態においては、便器洗浄開始時にまずトラップ25の自由端部25bを前記排便待機水位より高い位置に移動させた後に、便器洗浄時に実施されるボール16内面の洗浄のためのボール16への給水を行うことにより、トラップ25の自由端部25bが下降開始するときの溜水W1量を増やしているため、溜水の排出によって排出できる排出物量が大きくなっている。従って、比重の大きな排泄物が溜水W1の流れに取り残されて、ボール16に残ってしまう現象を防止することができるようになっている。
【0040】
なお、測定機能を持たない便器においても、トラップ25の自由端部25bを上げることで溜水量を増すことができるため、洋式便器11の洗浄能力向上を図ることもできる。また、トラップ25の自由端部25bを上昇させるタイミングは、排泄物の洗浄操作を受けて先ず実施されるボール16内面の洗浄動作に合せて実施するだけでなく、排便に先立って実施する構成としても良い。
【0041】
次に、図6〜図8に基づいて、本発明の第二実施形態について説明する。図6は本発明の第二実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図、図7は図6に示す生体情報測定便器のシステムブロック図、図8は図6に示す生体情報測定便器の一部省略垂直断面図である。なお、図6〜図8において、図1〜図5に示す符号と同じ符号を付している部分は、生体情報測定便器10の構成部分と同じ構造、機能を有する部分であり、説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態の生体情報測定便器90は、前述した本発明の第一実施形態における洋式便器11とその基本構成は同じで、衛生洗浄装置23が組み込まれた洋式便器11xと、生体情報測定手段12と制御手段13とが収納されたキャビネット14と、操作・表示部20と、を備えている。
【0043】
図7に示すように、洋式便器11xは下水配管との連通を遮断する溜水を貯めるトラップ25を有し、排水ソケット9を介して下水配管35と接続されている。また、その給水路は、市水が供給される止水栓3に分岐金具34を介して接続され、さらに水路切替手段4によって、リム吐水ノズル24aへの給水経路24Lと、ゼット吐水ノズル24bへの給水経路24Jと、に切替可能に分岐されている。
【0044】
生体情報測定手段12には、補水手段45、溜水水位測定手段47、検量線設定手段8、校正手段7および下水圧変動測定手段6が設けられている。制御手段13には、検量線記憶手段38、排尿情報演算手段39、情報記憶手段40および下水圧変動補正手段5が設けられている。
【0045】
図8に示すように、ゼット吐水ノズル24bへの給水経路24Jの途中に設けられた分岐金具36から分岐して生体情報測定手段12に向かって測定管路48が配設されている。測定管路48は、ゼット吐水ノズル24bから異物除去手段29および止水栓42などを経由して、補水手段45および溜水水位測定手段47などに連通されている。本実施形態では、異物除去手段29はストレーナ、溜水水位測定手段47は、ボール16内の溜水と連通する測定管路48を介して溜水の水圧を測定する圧力センサであるが、何れもこれらの部材に限定するものではない。
【0046】
生体情報測定便器90において生体情報の測定方法の概略を以下に記述する。まず、溢流水位Hより低い測定開始水位W3Lを形成するために、便器洗浄工程によってボール16内の溜水を全て排出した後に、2段階に分けてボール16内に給水する。即ち、まず第1段階の給水として、便器洗浄時の汚物排出後にリム吐水ノズル24aからの高速の給水を行って、ボール16内の溜水水位を短時間で測定開始水位W3Lよりも少し低い水位に形成する。この後、第2段階の給水として、給水タンク46とポンプP1によって構成される補水手段45によって給水タンク46内の水を、ゼット吐水ノズル24bを経由してボール16内へ比較的低速で給水することにより測定開始水位W3Lを予め定められた所定水位に正確に形成する。
【0047】
この状態で使用者がボール16へ排尿すると、溜水W3の水位が測定開始水位W3Lより上昇するので、そのときの水圧変化を溜水水位測定手段47で計測する。そして、溜水水位測定手段47による測定値と、予め入力された検量線記憶手段38の記録データと、に基づいて、排尿情報演算手段39が排尿量や尿量率などの各種生体情報を算出して、情報記憶手段40に記録するとともに、その測定結果が操作・表示部20に表示される。
【0048】
生体情報測定便器90を施工する場合、洋式便器11xを施工現場に設置して試運転を行い、形成された水位を溜水水位測定手段47で計測して得られる実測値と、測定開始水位W3Lとして予め設定されている設定値と、の偏差を求める。次に、予め記憶されている測定開始水位W3Lの形成動作の制御条件を、制御条件更新手段43によって偏差相当分の制御パラメータを補正した新たな制御条件に更新する。
【0049】
本実施形態においては、補正する制御条件の制御パラメータを、前述した低速給水動作におけるポンプP1でボール16内へ給水する際の給水量としている。なお、制御条件の更新の際には、更新された新たな制御条件で形成される水位の偏差が目標公差内に入るまで、同様の更新動作を反復するようにしている。
【0050】
このように、施工現場に設置された洋式便器11xに対し、試運転により予め設定された制御条件で形成される水位を実際に測定した実測値と設定値との偏差を求め、その結果に基づいて、測定開始水位形成手段の制御条件を、偏差相当分の制御パラメータを補正した新たな制御条件に更新するので、当該洋式便器11xに即した制御条件が得られる。従って、溜水W3の測定開始水位W3Lを正確に設定することができる。
【0051】
本実施形態の場合は、前述したように測定開始水位形成手段を構成する水路切替手段4および補水手段45の2種類の給水手段のうち、低速で給水を行うポンプP1の制御条件のパラメータである給水量を試運転結果に合わせて修正するようにしている。即ち、個体間の動作ばらつきが、実施する給水量に対して比較的大きい水路切替手段4による給水量のばらつきを、動作ばらつきが比較的小さなポンプP1の動作制御条件の修正によって吸収する構成としているため、ボール16の形状ばらつきだけでなく水路切替手段4の動作ばらつきをも織り込んだ測定開始水位の形成動作の制御を行うことになり、形成動作が正確に且つ迅速になる。
【0052】
また、施工後も、必要に応じてこのような測定開始水位W3Lの制御条件を更新する動作を定期的(例えば、1ヶ月ごと)に行うことにより、給水動作速度等の経時的に変化する要因の影響を除去した正確な測定開始水位の形成動作を維持することができる。
【0053】
次に、図8,図9,図10および図11に基づいて、生体情報測定便器90を施工した後の測定開始水位の設定更新動作について説明する。図9は図8に示す生体情報測定便器を施工した後に測定開始水位を手動設定する場合の動作フローチャート、図10は図8に示す生体情報測定便器を施工した後に測定開始水位を自動設定する場合の動作フローチャート、図11は測定開始水位を手動設定する場合に使用する水位確認治具の一例を示す斜視図である。
【0054】
測定開始水位W2Lを手動設定する場合、図8,図9に示すように、排水ソケット9の施工が終わると(ステップ50)、洋式便器11が据付けられ(ステップ51)、キャビネット14が設置される(ステップ52)。そして、生体情報測定機能部がキャビネット14内に設置され(ステップ53)、この後、止水栓3を開放することにより生体情報測定便器10へ通水された後(ステップ54)、便器洗浄動作を行って機能部配管のエア抜きを行う(ステップ55)。この後、検量線設定が行われ(ステップ56)、検量線記憶手段38へ記録される。次に、測定開始水位設定操作を行うと(ステップ57)、制御手段13に記憶されている測定開始水位形成手段の動作を制御する制御条件の制御パラメータTnの読み出しが行われる(ステップ58)。
【0055】
次に、制御パラメータTnの制御条件で測定開始水位の形成動作が行われ(ステップ59)、溜水水位が測定開始水位W3Lに設定される。この後、作業者は洋式便器11xに対して、図11に示す封水深の水位確認治具50を組付け(ステップ60)、実測値と設定値との偏差を水位確認治具50に付された目盛り54aで目視確認する(ステップ61)。そして、偏差が所定公差内であるか否かの判断を行う(ステップ62)。
【0056】
このとき、前記偏差が所定公差外であったときは、+側偏差であるか否かの判断が行われる(ステップ63)。前記偏差が+側偏差であれば、水位低下スイッチを操作して偏差量を入力すると(ステップ64)、図7に示す制御条件更新手段43によって制御パラメータTnが、形成される水位が偏差分だけ下方の水位となる新しい制御パラメータTn+1に変更される(ステップ65)。一方、前記偏差が−側偏差であれば、水位上昇スイッチを操作して偏差量を入力すると(ステップ71)、制御条件更新手段43により、制御パラメータTnが形成される水位が偏差分だけ上方の水位となる新しい制御パラメータTn+1に変更される(ステップ72)。その後、制御パラメータTn+1に変更された新しい制御条件で前述した測定開始水位の形成動作が行われ(ステップ59)、偏差が所定公差内になるまで、測定開始水位形成(ステップ59)以降の動作が繰り返される。
【0057】
なお、前述のステップ64とステップ71において目標値との偏差量を入力する事例で説明したが、一回の操作で修正される偏差量を予め決めておき、偏差量が所定の公差内になるまで必要な回数を繰り返し行っても良い。この場合は、設定に時間がかかる反面、入力操作を簡略化できるという利点がある。
【0058】
以上のような手順で計測された偏差が所定公差内となれば、その時の制御条件が制御条件更新手段43(図7参照)によって最終的な制御条件として更新処理され(ステップ73)、便器の形状ばらつきを織り込んだ測定開始水位の形成動作の制御条件が確定する。
【0059】
次に、制御条件更新からの経過時間を更新履歴として記録するためのタイマーが起動して(ステップ74)、測定準備完了となり、生体情報測定便器90の動作モードが測定を行う運転モードとなる(ステップ75)。この後は、予め設定された所定時間が経過したか否かの判断が行われ(ステップ76)、所定時間が経過したことが確認されると制御条件更新がガイドされ(ステップ77)、測定開始水位形成手段の形成動作の確認の必要性が報知される。このため、生体情報測定便器90の設置者はメンテナンスの時期を的確に知ることができ、装置の機能を常に正常に保つことができる。
【0060】
次に、測定開始水位を自動設定する場合、図10に示すように、排水ソケット9の施工(ステップ50)から、測定開始水位の形成(ステップ59)に至るまでの過程は図9に示す手動設定の場合と同じある。
【0061】
図8,図10に示すように、測定開始水位W3Lの形成動作が終了すると(ステップ59)、開始水位確認手段としての溜水水位測定手段47(図7参照)によって水位の測定が行われ(ステップ80)、測定値と、測定開始水位として予め定められた設定値と、の偏差が演算される(ステップ81)。次に、偏差が所定公差内であるか否かの判断が行われ(ステップ82)、前記偏差が所定公差外であったときは、その偏差量に基づいて制御条件の制御パラメータの修正量演算が行われた後(ステップ83)、制御条件更新手段43(図7参照)によって制御パラメータTnが前記修正量相当分だけ修正された制御パラメータTn+1への更新が行われる(ステップ84)。その後、制御パラメータTn+1に変更された新しい制御条件で前述した測定開始水位の形成動作が行われ(ステップ59)、偏差が所定公差内になるまで、前述した測定開始水位形成動作(ステップ59)以降の動作が反復される。
【0062】
以上のような手順によって計測された偏差が所定公差内に入れば、その時の制御条件が制御条件更新手段43によって最終的な制御条件として更新処理され(ステップ85)、洋式便器11xの形状ばらつきを織り込んだ測定開始水位の形成動作の制御条件が確定する。
【0063】
この後は、前述した手動設定の場合と同じ手順で、経過時間記録タイマーの起動(ステップ86)、運転モードへのモード切替が行われ(ステップ87)、それ以降は、予め設定された所定時間が経過したか否かの判断が行われ(ステップ88)、所定時間経過する毎に制御条件の更新動作を行われる。本実施形態では、開始水位確認手段として生体情報測定に使用する溜水水位測定手段47を利用した構成で説明したが、溜水水位測定手段47とは別に設けた水位測定手段を使用する構成としても同じ効果を得ることができる。
【0064】
以上、本発明の第二実施形態である生体情報測定便器90を例にして制御条件の更新方法について説明したが、本発明の第一実施形態である生体情報測定便器10においても同じ方法を適用可能である。
【0065】
次に、図8および図11に基づいて、図9で示した測定開始水位を手動設定する場合に使用する水位確認治具50について説明する。図11に示すように、水位確認治具50は、図8に示す洋式便器11xのリム面Bに係止可能な平板状の肩部52と、この肩部52の片方の側縁部の略中央から垂下状に形成された弾性部53および目盛板54と、目盛板54の下縁部に肩部52と平行に配置された舌片部51と、を備えている。目盛板54には、溜水水位を確認するための目盛り54aおよび設定ライン54bがマーキングされている。
【0066】
水位確認治具50を使用する場合には、洋式便器11xのリム面Bに肩部52を載せ、ボール16内にある封水縁(トラップ開口部上端)Aに舌片部51を引っ掛ける。このとき、舌片部51と肩部52との間には、伸縮可能な弾性部53が設けられているため、弾性部53の収縮力により、水位確認治具50を洋式便器11xにガタつき無しで係止することができる。水位確認治具50の目盛板54表面には、所定封水深の位置を示す設定ライン54bがマーキングされているため、試運転時に、測定開始水位が設定ライン54bで示す所定封水深になっているかどうかを施工者が目視確認できる。従って、測定開始水位を手動設定する場合に水位確認治具50を使用すれば、実測値と設定値との偏差が所定公差内であるか否かの判断を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の生体情報測定便器は、尿量や尿量率などの生体情報測定を必要とする病院のトイレや一般家庭のトイレなどにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第一実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図である。
【図2】図1に示す生体情報測定便器のシステムブロック図である。
【図3】図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定前における一部省略垂直断面図である。
【図4】図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定中における一部省略垂直断面図である。
【図5】図1に示す生体情報測定便器の測定水位設定後における一部省略垂直断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図である。
【図7】図6に示す生体情報測定便器のシステムブロック図である。
【図8】図6に示す生体情報測定便器の一部省略垂直断面図である。
【図9】図6に示す生体情報測定便器を施工した後に測定開始水位を手動設定する場合の動作フローチャートである。
【図10】図6に示す生体情報測定便器を施工した後に測定開始水位を自動設定する場合の動作フローチャートである。
【図11】測定開始水位を手動設定する場合に使用する水位確認治具の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
3 止水栓
4 水路切替手段
5 下水圧変動補正手段
6 下水圧変動測定手段
7 校正手段
8 検量線設定手段
9 排水ソケット
10,90 生体情報測定便器
11,11x 洋式便器
12 生体情報測定手段
13 制御手段
14 キャビネット
15 便座
16 ボール
17 便蓋
18 採尿ユニット
18a 採尿器
18b 採尿アーム
19,21 リモコン
20 操作・表示部
22 プリンタ
23 衛生洗浄装置
24a リム吐水ノズル
24b ゼット吐水ノズル
24L,24J 給水経路
25 トラップ
25a 回動部
25b 自由端部
25c 自由端部最下点
26 接続室
27,47 溜水水位測定手段
28 トラップ回動手段
29 異物除去手段
34 洗浄手段
35 下水配管
34,36 分岐金具
37 位置検出手段
38 検量線記憶手段
39 排尿情報演算手段
40 情報記憶手段
42 止水栓
43 制御条件更新手段
45 補水手段
46 給水タンク
48 測定管路
50 水位確認治具
51 舌片部
52 肩部
53 弾性部
54 目盛板
54a 目盛り
54b 設定ライン
A 封水縁(トラップ開口部上端)
B リム面
H 溢流水位
P1,P2 ポンプ
W1,W2,W3 溜水
W1L 排便時水位
W2L,W3L 測定開始水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋式便器のボール内に貯留された溜水の水位を予め定められた制御条件に基づいて測定開始時の水位である測定開始水位として予め定められた所定水位に形成する測定開始水位形成手段と、前記溜水の水位を測定する溜水水位測定手段と、を備え、
使用者の排泄物による前記測定開始水位からの溜水水位の変化量を前記溜水水位測定手段で計測し、少なくとも排尿量を含む生体情報を測定する生体情報測定便器において、
前記測定開始水位形成手段によって前記測定開始水位として形成される前記溜水の水位を計測する開始水位確認手段と、
前記開始水位確認手段によって計測された前記測定開始水位の計測値と前記所定水位との偏差に基づいて、前記測定開始水位形成手段の動作を制御する制御条件を新たな制御条件に更新する制御条件更新手段と、を設けたことを特徴とする生体情報測定便器。
【請求項2】
前記測定開始水位形成手段は、前記ボール内に貯留された溜水の一部を排出することによって前記測定開始水位を形成することを特徴とする請求項1記載の生体情報測定便器。
【請求項3】
前記測定開始水位形成手段は、便器洗浄後のボール内に給水することによって前記測定開始水位を形成することを特徴とする請求項1記載の生体情報測定便器。
【請求項4】
前記制御条件更新手段は、制御条件の前記更新を所定期間経過するごとに行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報測定便器。
【請求項5】
制御条件の前記更新は、更新後の前記偏差が所定の範囲内になるまで必要な回数を反復することを特徴とする請求項4記載の生体情報測定便器。
【請求項6】
前記開始水位確認手段は前記溜水水位測定手段であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体情報測定便器。
【請求項7】
前記偏差の修正指示を手動で入力するための偏差修正入力手段を設け、
前記開始水位確認手段が、前記洋式便器のトラップ開口部上端から溜水面までの距離と規定の距離との偏差を測定する測定治具であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体情報測定便器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−327307(P2007−327307A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161600(P2006−161600)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】