説明

生体模倣細胞足場

本発明は、それらの環境により誘導され拡散性因子の勾配を生成する、哺乳動物細胞を含有する生体模倣インプラントに関する。このことは、インプラントに隣接する組織における血管新生および血行再建を刺激する生理学的前-血管新生反応を引き起こす際に、例えば血管新生および/または脈管形成の増加が必要な治療用途において、有用でありうる。このことは、細胞培養および分化のための生体模倣哺乳動物細胞のニッチを提供する際に有用でもありうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生、脈管形成、分化および増殖などの細胞活動を促進する三次元インプラントおよび組織足場に関する。
【背景技術】
【0002】
組織低酸素症は、血管内皮増殖因子(VEGF)を含めた血管新生タンパク質により引き起こされるin vivoでの迅速な血管新生を生じる。組織生存性についての現在の観点は、深部細胞が、通常の活動そして究極的には生存のための十分な栄養素および酸素を受け取っているかどうかに基づいている。無傷組織に関しては、そのような必須栄養素レベルは、微小血管灌流により支配されている。しかしながら、マトリクスと細胞密度との相互作用または相互依存、そしてin vitroでの酸素消費に対する経路拡散を試験することができる、定量的に規定された有効な3Dモデルはほとんど存在しなかった。その結果、細胞応答の性質とともに、低酸素レベルに対する細胞脆弱性についての概念は、あまり規定されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の発明者らは、3次元生体模倣インプラントのコア領域での細胞が、迅速な細胞死を受けず、そして低酸素条件下であっても長期間にわたって生存したままである可能性があることを認識した。栄養素および/または代謝産物勾配は、3次元生体模倣インプラント中で生成され、それは哺乳動物細胞成長および増殖を調節する際に有用である可能性がある。これらの勾配は、細胞が生理学的な前-血管新生反応を生成するように誘導することもできる。これらの反応を生成するインプラントが、血管新生の増加および/または脈管形成の増加が必要とされる治療用適用において、有用である可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の側面は、生体模倣空間構造中で栄養素および/代謝産物勾配を使用して、哺乳動物細胞成長および増殖を調節することに関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の側面は、表面上に、哺乳動物細胞を含有するポケットを有するゲルを含む、哺乳動物細胞培養のための足場を提供する。
【0006】
適切な哺乳動物細胞には、内皮細胞、線維芽細胞(ヒト皮膚または腱の線維芽細胞など)、間質細胞(骨髄由来間質細胞および平滑筋細胞など)、および幹細胞が含まれる。
【0007】
適切な幹細胞には、角膜(輪部)幹細胞;皮膚表皮幹細胞;腸管(intestinal)幹細胞;泌尿器生殖腺(orogenital)幹細胞;気管支上皮幹細胞およびその他の上皮幹細胞;骨髄間質幹細胞;および成長板幹細胞;が含まれる。
【0008】
ポケットは、ゲルの表面中の凹部または陰窩である。ポケットは、細胞の進入を可能にするゲルの表面上に開口部、そしてゲル中のポケットの境界を規定する出口および壁を含む。好ましくは、ポケットの壁は、ポケットの崩壊を阻害するために十分硬い。
【0009】
ポケットは、哺乳動物細胞の集団に適合するために適切なサイズのものである。ポケットの寸法は、ポケット中の細胞の数および低酸素勾配の程度を決定し、そして足場の具体的な用途に従って、変動しうるものである。
【0010】
適切なポケットは、少なくとも50μmの深さ、少なくとも100μmの深さ、または少なくとも150μmの深さであってもよい。適切なポケットは、500μmまでの深さ、1000μmまでの深さ、または1500μmまでの深さのものであってもよい。
【0011】
適切なポケットは、少なくとも50μmの直径、少なくとも100μmの直径、または少なくとも150μmの直径であってもよい。
【0012】
いくつかの態様において、ポケットは、50μm〜2000μmの直径、より好ましくは100μm〜500μmの直径であってもよく、そして100μm〜5000μmの深さ、好ましくは200μm〜5000μmの深さであってもよい。
【0013】
足場の壁は、追加の接着タンパク質、例えばフィブロネクチン、ビトロネクチンおよびフィブリンなどの細胞外マトリクスタンパク質、を含んでもよい。
【0014】
ポケット中の幹細胞などの哺乳動物細胞の集団は、天然の哺乳動物細胞ニッチを模倣する、細胞-表面接着および細胞-細胞接着の3種の異なる極性を形成する。ポケットの壁に接する哺乳動物細胞は、ある面では細胞-コラーゲン接触を有し、そして反対の面では細胞-細胞接触を有する。ポケットの壁に接していない哺乳動物細胞(すなわち、ポケットのコア中の細胞)は、その他の細胞により取り囲まれており、そして全体的に細胞-細胞接触を有する。ポケットの開口部に接する哺乳動物細胞は、反対の面に細胞-細胞接触および細胞-流体接触を有する。
【0015】
ポケットに位置する哺乳動物細胞の代謝活性は、細胞分裂そして細胞密度の増加を伴う可能性があるが、拡散性因子、栄養素、酸素、およびグルコースを消費し、そして排出代謝産物を生成する。拡散性因子は、ゲルを介して拡散することによりポケットに進入するため、ゲルに接する幹細胞などの哺乳動物細胞は、高レベルのこれらの因子に対して曝露される。さらに、排出代謝産物は、ゲルを介して拡散することによりポケットから外に出て、そしてそのためこれらの細胞は低レベルの細胞代謝産物に曝露される。
【0016】
それらは酸素などの拡散性因子を消費するその他の哺乳動物細胞に囲まれているため、ゲルに接していない哺乳動物細胞は低レベルのこれらの因子に曝露される。さらに、これらの細胞は、全ての表面上で高レベルの細胞代謝産物に対して曝露される。
【0017】
この様に、足場は、天然の哺乳動物細胞ニッチを模倣するポケット内部における、拡散性因子(栄養素、酸素およびグルコースなど)や排出代謝産物(CO2、乳酸およびアンモニアなど)の濃度勾配の生成および維持を可能にする。
【0018】
ポケット中における拡散性因子の勾配は、ポケット中での哺乳動物細胞(幹細胞など)の分化および増殖を刺激する。ポケット中での哺乳動物細胞の分化および増殖は、哺乳動物細胞の濃度勾配および極性を修飾することにより調節することができる。このことは、ポケットの形状、細胞密度、ゲル特性、または因子の外部濃度を変化させることにより達成することができる。
【0019】
ポケット中で達成することができる拡散性因子(栄養素、酸素およびグルコースなど)の最小レベルは、ポケット中の細胞の量により決定することができる。好ましくは、ポケットは、細胞のみで満たされる。ポケット中に播種される細胞の数が多ければ多いほど、このことはより早く達成される。例えば、ポケットは、1 mlあたり500万個よりも多い細胞、1 mlあたり1500万個よりも多い細胞、または1 mlあたり5000万個よりも多い細胞を播種することができる。
【0020】
哺乳動物細胞が増殖してそしてポケット内部の細胞数が増加するにつれて、ポケットの開口部を通じた細胞の遊走および脱出(egress)が増加する。さらには、ポケットから出現する細胞(幹細胞など)は、分化するために既に刺激されていてもよい。ポケットからの細胞脱出の速度は、増殖の速度およびポケットおよびポケット開口部の寸法により決定される。
【0021】
哺乳動物細胞を培養する方法は、
表面上にポケットを有するゲルを提供する工程、
ポケットに哺乳動物細胞を播種する工程、そして
ゲルを培養液中でインキュベーションする工程;
を含み、ここでポケット内部での細胞の代謝が、栄養素量の、ポケットの側面から内部への段階的な減少を引き起こす。
【0022】
哺乳動物細胞成長および増殖の調節のための適切な足場を、例えば、ゲル表面上にポケットを浮き出させるための塑性圧縮製作により、作製することができる。塑性圧縮製作は、WO2006/003442中にさらに詳細に記載されている。
【0023】
ゲル中のポケットの必要とされるパターニングに対応する、微細構造の‘型押し機(die)’または鋳型を製作することができる。次いで、型押し機(die)とゲルとの接触は、ゲル中のポケットのパターンを浮き出させる。言い換えると、1またはそれ以上の突起は、型押し機(die)の接触表面上に存在し、そして型押し機(die)とゲルとの接触は、これらの突起がゲル表面中のポケットを浮き出させる。ゲル中のポケットの寸法および配置は、型押し機(die)上の突起の寸法および配置に対応しており、そして哺乳動物細胞の成長のために適切である。例えば、コラーゲンゲルを、型押し機(die)により塑性的に圧縮して、上述した様に50〜2000μmの直径×200μm〜5000μmの深さの陰窩-様ポケットを生成することができる。ポケットを浮き出させたコラーゲンゲルを含む足場の事例は、図16に示される。
【0024】
型押し機(die)または鋳型表面上に突起およびその他の微小構造を作製するための適切な技術は、当該技術分野において周知である。例えば、突起またはその他の微小構造を、標準的なエッチング技術によりガラスまたはシリコン型押し機(die)に対して適用するか、または放電加工技術により金属型押し機(die)に対して適用することができる。
【0025】
いくつかの態様において、多孔性鋳型または型押し機(die)を使用することができる。このことにより、本明細書中で記載するように、ゲルを塑性的に圧縮するため、液体をゲルから取り除くことができる。例えば、足場のゲル中にポケットを浮き出させるための突起またはその他の微小構造を含有する様に形成された焼結材料(金属、プラスチックまたはセラミック)を使用して、多孔性型押し機(die)を作製することができる。
【0026】
本明細書中で記載される哺乳動物細胞培養のための足場は、in vivoでの細胞成長においてそして生体模倣インプラント中で、有用であってもよい。
【0027】
3D構造物中の拡散性因子(例えば酸素)の勾配に対して曝露される哺乳動物細胞は、血管新生因子(例えばVEGF)を生成することができる。本発明の観点は、血管新生を誘導しまたは促進する際に、例えば治療用途において、有用である可能性がある、インプラント中での血管新生因子の生成に関する。
【0028】
血管新生因子の勾配を、埋め込み後にin situで全体的にまたは部分的に生成することができる。血管新生を誘導しまたは促進する方法は、
脈管化または灌流を必要としている組織と接触させた状態で、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
細胞に呼吸させる工程;
を含んでもよく、
ここで細胞の呼吸はインプラント中の酸素圧を低下させ、そして;
酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす。
【0029】
いくつかの態様において、哺乳動物細胞を含むインプラントを、組織と接触させた状態で配置する前にin vitroで培養して、それによりin vitro培養における細胞の呼吸が、インプラント中の酸素圧を低下させ、そしてインプラントをin vivoに配置する前に細胞に1またはそれ以上の血管新生因子を発現させる。埋め込みの後、細胞は、宿主内で血管新生因子を発現し続ける。
【0030】
その他の態様において、哺乳動物細胞を含むインプラントを、組織と接触させた状態で配置する前にin vitroで培養しない。
【0031】
インプラントは、液体懸濁物中に哺乳動物細胞の高密度のボーラスを含んでいてもよく、または哺乳動物細胞を包含するゲルを含んでもよい。
【0032】
血管新生因子の勾配を、埋め込みの前にin vitroで完全に生成することができる。血管新生を誘導しまたは促進する方法は、
哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを、in vitroで培養する工程;そして
細胞に呼吸させ、それにより細胞の呼吸が酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす工程;
を含み、
哺乳動物細胞を殺傷する工程;そして
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で血管新生インプラントを配置する工程;
を含む。
【0033】
表面からの灌流による酸素の供給を、呼吸する細胞からの酸素の需要が上回るため、酸素圧が低下する。インプラント表面からの距離が増加するにつれて、インプラント内部の酸素圧を、インプラントの表面から内部へ段階的に減少することができる。この酸素圧の段階的な減少は、インプラントの表面から内部へ、インプラント中の細胞により発現されるべき血管新生因子の量の段階的な増加を引き起こす可能性があり、すなわち、表面からの距離が増加するにつれて、酸素圧は減少しそして血管新生因子の発現量は増加する。
【0034】
インプラント内部の酸素圧を、インプラントのコア部(すなわち、表面から最も遠いインプラントの部分)で最小値となるように段階的に減少させることができる。あるいは、例えば細胞がインプラント全体に均等に分布していない場合など、最小酸素圧をコア以外のインプラントの部分で生じさせることができる。
【0035】
インプラント中の最小酸素圧は、インプラント中の細胞密度に依存し、そして細胞の代謝活性に依存する。高代謝活性を有する細胞は、同一密度で低代謝活性を有する細胞と比較して、インプラント中より低い酸素圧を生成する。
【0036】
いくつかの態様において、インプラント中の最小酸素圧は、非-病理学的であり、すなわち、細胞生存率を低下させまたは細胞死を誘導するには十分ではない。非-病理学的最小酸素圧は、8 mmHgより高くてもよい(1.1 kPaよりも高いか、または1%よりも高い酸素)。例えば、インプラントのコア部での酸素圧は、8〜60 mmHgであってもよい。
【0037】
その他の態様において、インプラント中の最小酸素圧は、病理学的であってもよく、そして血管新生因子の生成後にインプラント中で細胞死が生じてもよい。
【0038】
生きている哺乳動物細胞を含むインプラントは、宿主への埋め込み後に、1またはそれ以上の血管新生因子をin vivoで生成することができる。インプラント中の細胞は、埋め込み後のインプラント中の酸素圧の低下に応答して、1またはそれ以上の血管新生因子を生成する。細胞により発現される1またはそれ以上の血管新生因子は、インプラントに隣接する組織中に拡散し、そして組織内で血管新生を誘導しまたは促進する。細胞による生理学的濃度での血管新生因子の生理学的組合せの生成は、組織中の生理学的血管新生応答の刺激を引き起こし、組織の脈管化の増加を引き起こす。
【0039】
インプラントは、宿主への埋め込みの前に、1またはそれ以上の血管新生因子をin vitroで生成することができる。インプラント中の細胞は、標準的培養液中でのin vitro培養のあいだ、インプラント中での酸素圧の低下に応答して、1またはそれ以上の血管新生因子を生成する。哺乳動物細胞の培養のための適切な条件は、当該技術分野において周知である。いくつかの状況下において、in vitro培養に対する酸素供給を低下させて、インプラント内部での酸素圧の低下を増大させまたは加速すること(すなわち、低酸素状態の開始)が好ましい場合がある。インプラント中の酸素圧が低下するにつれて、細胞により発現される1またはそれ以上の血管新生因子が、細胞に隣接するインプラント中に拡散する。in vitroでの前処理(preconditioning)の後、次いで、哺乳動物細胞を含むインプラントをin vivoに移植することができ、それにより細胞は宿主中で1またはそれ以上の血管新生因子を発現し続ける。あるいは、インプラント中の哺乳動物細胞を、in vitro培養の後、例えば凍結により、殺傷することができる。次いで、インプラントを、埋め込みの前に保存することができる。埋め込みの後、in vitro培養のあいだインプラント中で発現される1またはそれ以上の血管新生因子は、インプラントに隣接する組織中に拡散し、そして組織内の血管新生を誘導しまたは促進する。
【0040】
生理学的濃度での血管新生因子の生理学的組合せの、本明細書中で記載されるインプラントからの拡散は、周囲組織中の生理学的血管新生応答の刺激を引き起こし、組織の脈管化の増加を引き起こす。
【0041】
生理学的血管新生応答は、指向性のものであってもよい。例えば、血管新生因子の濃度勾配の生成は、濃度勾配の上へ(例えば、インプラントのコア部に向けて)血管新生を促進する。
【0042】
血管新生インプラント中の細胞により発現される血管新生因子は、内皮細胞の分化を促進することもできる。適切な内皮細胞を、血管新生インプラントに取り込むこともでき、またはインプラントに隣接して配置することもできる。
【0043】
本明細書中で記載される血管新生インプラントは、血管新生を促進する際、そして例えば天然組織、移植片、自家移植片(autographs)、移植物、または組織に対応する構造物などの、脈管化または灌流を必要とする組織または構造物へ血管を呼び込む際、有用である。
【0044】
本明細書中で記載される血管新生インプラントは、血管新生促進性因子の供給源を提供し、そして血管新生のため組織または構造物中に焦点を形成する。血管新生インプラントは、脈管化または灌流の増加が必要とされるいずれの部位に配置することができ、そして幅広い治療用途を有することができる。
【0045】
血管新生インプラントは、例えば、大型の(mmスケール)組織工学的な構造物;臨床移植片(例えば、皮膚または腱移植片)、天然自家移植片(autographs)、移植物、創傷部位;ホルモンインプラント;難治性骨折(偽関節)(non-union fractures);および心筋梗塞の部位における、脈管化を促進する際に有用であり得る。
【0046】
血管新生インプラントは、例えば、持続放出薬物デポー;創傷部位;ホルモンインプラント;難治性骨折(non-union fractures);および心筋梗塞の部位において、例えば灌流を促進する際に有用であり得る。
【0047】
本明細書中で記載した方法において、インプラントを、天然組織中または天然組織と接触して配置することができ、好ましくは脈管化または灌流を必要とする領域に配置することができる。必要であれば、いずれかの便利な技術により、インプラントの位置を固定してもよい。例えば、それを縫合してもまたは糊付けして固定してもよい。いくつかの態様において、液体懸濁物中の細胞の高密度のボーラスを、適切な深部組織点に注入して、限局性のデポーを形成することができる。適切な深部組織点には、組織ポケットおよび組織層の間が含まれてもよい。
【0048】
哺乳動物細胞を含有するインプラントを宿主中に配置した後、インプラント中の細胞は呼吸をし、そして酸素を消費する。これにより、血管新生インプラント中の酸素圧が下がり、そして細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす。
【0049】
埋め込みの前に発現されるか、埋め込みの後に発現されるかに関わらず、インプラント中の血管新生因子は、インプラントから隣接する組織または組織に対応する構造物中に拡散し、天然組織中の血管新生を促進する。脈管化または灌流を必要とする天然組織には、修復不全部位、慢性創傷、難治性骨折(non-union fracture)部位、および心筋梗塞部位、または薬物投与またはホルモン投与の亢進が必要な部位が含まれてもよい。
【0050】
本明細書中に記載される方法において、血管新生インプラントを、外部インプラント中に配置することができる。配置後、血管新生インプラント中の細胞は呼吸をし、そして酸素を消費する。上述したように、これにより、血管新生インプラントから外部インプラント中への血管新生因子の生成および拡散が引き起こされ、外部インプラント中での血管新生が促進される。外部インプラントは、天然のインプラントまたは工学的なインプラント、組織に対応する構造物、再建移植片または整形移植片、そして移植物であってもよい。いくつかの態様において、外部インプラントは、無細胞性コラーゲンゲルであってもよい。
【0051】
本発明のその他の観点は、本明細書中で記載するように、血管新生を促進する方法において有用でありうる、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントに関連する。
【0052】
本明細書中で記載される哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを、以下の工程:
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
細胞に呼吸させる工程、
を含む血管新生を促進する方法において使用することができ、
ここで、細胞の呼吸がゲル中の酸素圧を低下させ、そして;
酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす。
【0053】
本明細書中で記載される哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを、以下の工程:
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを配置させる工程、そして
細胞に呼吸させる工程、
を含む、血管新生を促進する方法において使用するための医薬の製造において使用することができ、
ここで、細胞の呼吸が酸素圧を低下させ、そして
酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす。
【0054】
血管新生を促進する適切な方法は、以下にさらに詳細に記載される。
【0055】
本発明のその他の観点は、本明細書中で記載するように、血管新生を促進する方法において有用であり得る、1またはそれ以上の血管新生因子を含む、血管新生インプラントに関連する。
【0056】
血管新生インプラントを、以下の工程:
哺乳動物細胞を含むインプラントをin vitroで培養する工程;
細胞に呼吸させて、その結果、細胞の呼吸が酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子を引き起こす工程、そして;
哺乳動物細胞を殺傷する工程;
を含む方法により作製することができる。
【0057】
1またはそれ以上の血管新生因子の発現の後、インプラントは、その中の哺乳動物細胞を殺傷する様に処理することができる。いずれの便利な方法を使用してもよい。いくつかの態様において、インプラントを、例えば液体窒素中に浸すことにより、凍結することができる。
【0058】
いったん哺乳動物細胞を殺傷したら、インプラントは、埋め込みまで保存することができる。便利なことに、インプラントを、通常の技術に従って、4℃、-20℃または-70℃で保存することができる。
【0059】
1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを、以下の工程:
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
1またはそれ以上の血管新生因子をインプラントから組織に拡散させる工程;
を含む、血管新生を促進する方法において使用することができる。
【0060】
1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを、以下の工程:
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
1またはそれ以上の血管新生因子を、インプラントから組織に拡散させる工程;
を含む、血管新生を促進する方法において使用するための医薬の製造において、使用することができる。
【0061】
血管新生因子には、組織中における新規血管の形成、発生および成長を刺激しまたは促進するケモカインおよびサイトカインなどのタンパク質が含まれる。血管新生インプラント中の細胞により発現される1またはそれ以上の血管新生因子には、酸性および塩基性の線維芽細胞成長因子(FGF)、形質転換成長因子α(TGF-α)およびβ(TGF-β)、腫瘍壊死因子(TNF)、血小板-由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、HIF-1aおよびアンギオジェニンの1またはそれ以上のものが含まれていてもよい。いくつかの態様において、1またはそれ以上の血管新生因子には、VEGFが含まれてもよい。
【0062】
本明細書中で記載されるインプラントおよび足場において使用するための適切なゲルは、足場ファイバーのマトリクスおよび間質液を含んでもよい。もともとはモノマーを保持した水性間質液周囲に、フィブリルが連続的なネットワークを形成するため、ゲルは、足場フィブリルの癒着および伸長により形成される。例えば、三重らせんコラーゲンモノマーを、最初は希酸中に溶解し、そして次いで、重合(凝集)してフィブリルを形成するよう誘導することができる(例えば、37℃、中性pH)。フィブリルが重合化するにつれて、相変化が生じ、そしてフィブリルの強固なネットワークが、およそ同一の体積および形状中の残りの間質液を‘支持する’−すなわち、それはゲル化する。可溶性モノマーから固体ポリマーへの相転移は、ゲルの特徴である。
【0063】
天然に生じるポリマー、例えばシルク、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチンまたはコラーゲン(例えば、I型コラーゲン)などのタンパク質、フィブロネクチンなどの糖タンパク質、またはキチン、またはセルロースなどの多糖を含む、いずれの水和ポリマー材料であっても本明細書中で記載されるゲルにおいて使用するために適切でありうる。いくつかの好ましい態様において、マトリクス繊維はコラーゲンから構成される。コラーゲンタイプがI型、II型、III型、V型、VI型、IX型およびXI型、およびこれらの組合せ(例えば、I型、III型、V型、またはII型、IX型、XI型)を含む、天然のフィブリル形成性コラーゲンタイプが好ましい。例えば、I型コラーゲンを、ゲルまたは足場材料として使用することができる。いくつかの好ましい態様において、ゲルは、5〜25%のI型コラーゲン(乾/湿重量比)、より好ましくは約10%を含んでもよい。いくつかの好ましい態様において、ゲルは、15〜20%のI型コラーゲン(乾/湿重量比)、より好ましくは約10%を含んでもよい。
【0064】
その他の適切な繊維性足場材料には、合成ポリマー、すなわち、ヒト生体または動物生体中に天然には存在しないポリマーが含まれる。適切なポリマーには、有機ポリマー(ポリラクトン、ポリグリコンおよびポリカプリオラクトンなど)、無機ポリマー(リン酸塩ガラスおよび合成のゲル形成性ポリペプチドゲルなど)が含まれる。
【0065】
いくつかの態様において、繊維性足場材料は、2またはそれ以上の異なる種類の繊維を含む複合材料であってもよい。例えば、足場は、フィブロネクチンおよびコラーゲン、コラーゲンおよびポリラクチド、フィブリンおよびコラーゲン、コラーゲン繊維およびカーボン-ナノチューブ、またはフィブリン、コラーゲンおよびフィブロネクチン、を含んでもよい。
【0066】
間質液は、典型的には、ゲル中に含有される細胞の成長および増殖を支持する、水性液体である。適切な液体には、哺乳動物細胞培養液(Eagles MEM溶液など)が含まれる。生体材料として使用するためのゲルを形成しそして成形するための技術は、当該技術分野において周知である(例えば、WO2006/003442;WO2007/060459;Marenzana et al 2006 Exp Cell Res 312 423-433;Tomasek et al (2002) Nat Rev Mol Cell Biol. 3 349-363;Harris et al Nature 290 (1981) 249-251;Elsdale et al 1972 J Cell Biol. 54 626-637;Kolodney et al J Cell Biol. (1992) 117 73-82;Eastwood et al Biochem Biophys Acta 1201 (1994) 186-192)を参照。
【0067】
一般には、高密度ゲルが、酸素などの拡散性因子の勾配の生成を促進するために好ましい。
【0068】
本明細書中で記載されるインプラント中で使用するために適切なゲルは、>70%(乾/湿重量比)の液相、>75%の液相、>80%の液相、>85%の液相、>90%の液相を有してもよい。例えば、適切なゲルは、75%(乾/湿重量比)〜95%の液相、典型的には約88%の液相を有してもよい。
【0069】
本明細書中で記載される適切なゲルは、1〜10×10-6 cm2/s-1の酸素拡散係数、より好ましくは4〜5×10-6 cm2/s-1の酸素拡散係数を有してもよい。
【0070】
ゲル浸透性を、例えば亜硫酸ナトリウムまたはN2飽和を使用して、枯渇の後のO2再-平衡化速度を測定することにより、測定することもできる。いくつかの態様において、ゲルは、O2枯渇の後、1 mmの最短拡散経路にわたり、空気飽和溶液中、2〜4 mmHg/分、好ましくは約3 mmHg/分のO2再-平衡化速度を有してもよい。
【0071】
インプラント中で使用するために適切なゲルの浸透性は、5%〜25%のコラーゲン、好ましくは約10%のコラーゲン(乾/湿重量比)を含有するゲルに相当してもよい。いくつかの態様において、15%〜20%コラーゲンを含有するゲルに相当する浸透性を有する濃縮ゲルを、使用することができる。
【0072】
ゲルは、インプラント全体にわたり均質であってもよく、そして細胞により生成された血管新生因子は、全ての方向に均質にゲル全体に拡散してもよい。
【0073】
あるいは、細胞により生成された血管新生因子が、特定の方向にゲル全体により迅速に拡散し、そして血管新生因子の指向性の勾配、すなわち、生成細胞から離れる特異的な方向への勾配、を提供するように、ゲルを構築することができる。例えば、ゲルは、複数の層を含んでもよい。血管新生因子の拡散は、ゲル層を通過するよりも、ゲル層間で、より迅速である可能性があり、血管新生因子の指向性勾配を提供する。
【0074】
例えば、複数の層を含むゲルを、平坦なゲルを、円筒形状のインプラント(すなわち、横断面を有する円筒)に巻き上げることにより形成することができる。ゲルを介した血管新生因子の拡散速度は、ゲル層を通して放射状方向(すなわち、渦巻きの軸に対して鉛直方向)にはゆっくりと、そしてゲル層間の縦方向(すなわち、渦巻きの軸に対して平行方向)には速い。
【0075】
この方向付けられた拡散は、例えば腱、神経、皮膚、および骨などの指向性の脈管化が重要な組織において、血管新生を促進する際に有用であり得る。
【0076】
本明細書中で記載される血管新生を促進する方法において、ゲルは、生きている哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞を取り込む。ゲル中で達成することができる最小酸素圧を、ゲル中の細胞の密度により決定する。好ましくは、ゲル中の細胞の密度は、O2レベルを60 mmHg未満、50 mmHg未満、40 mmHg未満、30 mmHg未満、20 mmHg未満、10 mmHg未満、5 mmHgまたは1 mmHg未満にまで減少させるために十分である。ゲル中の細胞の密度は、O2レベルを8〜60 mmHg、好ましくは20〜60 mmHgにまで減少させるために十分であってもよい。例えば、ゲルには、1200万細胞/mlよりも多く、1500万細胞/mlよりも多く、または2000万細胞/mlよりも多く、まくことができる。
【0077】
いくつかの態様において、細胞は、線維芽細胞、例えばヒト皮膚または腱線維芽細胞、である。
【0078】
細胞外マトリクスの生成に加えて、線維芽細胞は、低酸素圧に耐えることができ、そしてその他の細胞型と比較して、低い代謝速度を有しそして従って低酸素要求性を有する。結果として、酸素圧は、その他の細胞型と比較して、線維芽細胞の呼吸により、よりゆっくりと減少することができる。さらに、その他の細胞型を包含するインプラントと比較して、線維芽細胞を包含するインプラント中にて、血管新生因子の生成を減少させまたは遅延させることができる。
【0079】
いくつかの好ましい態様において、血管新生インプラント中で使用するための細胞は、線維芽細胞ではない。好ましい細胞は、高い代謝活性を有することができ、そして従って迅速に勾配を生成することができるか、または低いO2に対して感受性であってもよく、そしてそのため線維芽細胞と比較して迅速に血管新生因子を生成することができる。適切な細胞を、骨髄由来間質細胞、平滑筋細胞および幹細胞(例えば角膜(輪部)幹細胞、皮膚表皮幹細胞、腸管(intestinal)幹細胞、泌尿器生殖腺(orogenital)幹細胞、気管支およびその他の上皮幹細胞、骨髄幹細胞、成長板幹細胞)などの間質細胞からなる群から選択することができる。代謝活性の増加により、低酸素症の生成および血管新生因子の生成のための時間が減少される。
【0080】
いくつかの好ましい態様において、適切な細胞には、同種異系GMP産生性細胞(例えば、ヒト新生児線維芽細胞)、同種異系血液細胞または自己血液細胞、または骨髄またはその他の供給源由来の同種異系間質幹細胞/前駆細胞または自己間質幹細胞/前駆細胞、が含まれ、これらの全てはGMPグレードで臨床用途のために利用可能である。
【0081】
細胞の型は、血管新生インプラントを使用すべき組織または用途を反映してもよい。
【0082】
適切な細胞には、アレルギー誘発性老廃物ヒト細胞(時間が経過してしまった骨髄細胞または血液細胞など);事前培養した線維芽細胞;そして動物細胞(例えばトランスジェニックブタまたはトランスジェニックヒツジなど由来のヒト化細胞)が含まれてもよい。
【0083】
細胞は、脈管化される組織と同一の組織に由来していてもよく、または脈管化される組織とは異なる組織に由来していてもよい。
【0084】
本明細書中で示される結果は、細胞が、長期間経過後の血管新生インプラントのコア領域において、依然として生存している可能性があることを示す。例えば、いくつかの態様において、24時間のin situの後、細胞生存率は、インプラントのコアにおいて、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%であってもよい。5日間のin situの後、細胞生存率は、インプラントのコアにおいて、少なくとも70%、少なくとも65%または少なくとも80%であってもよく、そしてインプラントの表面では、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%であってもよい。
【0085】
その他の態様において、細胞は生存したままではないが、細胞死が生じる前に1またはそれ以上の血管新生因子を生成する。上述した様に、いくつかの態様において、血管新生インプラントを、1またはそれ以上の血管新生因子を生成した後に、細胞を殺傷するように処理することができる。
【0086】
細胞を液体足場マトリクスと混合し、そしてその後に液体マトリクスをゲルに固形化させることにより、細胞を、マトリクス中にまくことができる。マトリクスの播種は、好ましくは温度、pH、イオン強度の適切な条件の下で行うことができ、そしてゲル形成の前に生存率を維持するために完全なものである。ゲル中の初期細胞密度は、約1×104〜1×107細胞/ml、より好ましくは約5×105〜1×106細胞/mlであってもよい。
【0087】
いくつかの態様において、本明細書中で記載される血管新生インプラントまたは哺乳動物細胞足場を、細胞をまいたゲルを塑性的に圧縮することを含む方法により、生成することができる。これにより、ゲル中の細胞密度が上昇する。塑性的圧縮には、物体(例えばゲル)を変形させてその体積を減少させ、それにより物体は圧縮の原因が取り除かれた後であっても、その新しい体積を実質的に保持することが関与する。塑性的圧縮は、ゲルを物理的な処理(例えば外部からの力または圧力)に供し、それによりゲルから間質液を追い出すことから生じる、迅速で細胞-非依存性のプロセスであり、それにより負荷が取り除かれた際にもとには戻らない:すなわち、ゲルは塑性的圧縮される。
【0088】
例えば、塑性的圧縮は、細胞を含むシートを形成することができ、それを巻くかまたは畳んで、多層構造のインプラントを生成することができる。細胞をまいたゲルを含む、ゲルの塑性的圧縮は、WO2006/003442中により詳細に記載されている。
【0089】
塑性的圧縮は、ゲルの機械的特性を向上させることができる。ゲルの非拘束性圧縮は、間質液を押し出し、それは負荷を取り除いた時にももとには戻らない:すなわち、ゲルは塑性的圧縮される。非処理ゲルにおいて、足場マトリクスは、一般的に全体として、水和された形態である。この足場構造は、構造的な要素を失うことなく塑性的圧縮のあいだに崩壊し、ゲル中の足場を脱水し、そして密度および強度の増加を引き起こす。
【0090】
塑性的圧縮プロセスを、標準的な開始ゲルから繊維と細胞との所望の最終比率を達成するように最適化することができる。標準的なゲルは、例えば、1〜4%コラーゲンおよび0.2〜10×106細胞/mlを含んでもよい。
【0091】
ゲル環境は、好ましくは、細胞が生存するための生理学的条件(例えば、温度、pH、水和およびイオン強度)で維持される。塑性的圧縮は、ゲル液体のイオン特性を、生理学的条件から顕著には変化させないことが好ましい。
【0092】
圧縮の後、ゲルを、一軸引張負荷の繰り返しサイクルに供して、その機械的特性を向上することができる。適切なサイクルは、WO2007/060459中に記載される。圧縮されたコラーゲンゲル中において、負荷の繰り返しのサイクルは、コラーゲンフィブリルの融合を増加させ、向上した材料強度(すなわち、破壊応力の増加、破断歪みの増加および/または弾性係数の増加)を有する生体材料を生成する。
【0093】
ゲルまたは生体材料のさらなるプロセシングを、血管新生の促進のための、組織に対応するインプラントを生成するために行うことができる。ゲルまたは生体材料は、例えば、組織に対応するインプラントを生成するように、形作るかおよび/または成形することができる。ゲルまたは生体材料について、予め決められた形状に形作ることができ、および/または対称性または非対称性であってもよい塑性的圧縮に供してもよい。
【0094】
細胞を含むゲルまたは生体材料を、いずれかの使いやすいインプラント形状、例えば、パッチ、ブロック、チューブ、テープ、ストリップ、リング、トロイド、キャピラリ、ロール、シート、またはスレッドに、成形し、切断し、または形作ることができる。組織に対応するインプラントの最終的な形状は、使用されるべき特定の事情に依存する。いくつかの態様において、組織に対応するインプラントは、さらなる成形のために適切な柔軟な形状を有してもよい。
【0095】
埋め込みと血管新生因子の生成との間の時間は、細胞密度、経路の長さ、そしてインプラントの細胞代謝活性に依存する。血管新生インプラントの特性は、特定の用途、部位または組織について、これらのパラメータを変更することにより、最適化することができる。上述した様に、埋め込み前に血管新生因子を生成するため、インプラントは、in vitroで事前に調製することができる。例えば、インプラントに少数の細胞(例えば、2×107細胞/ml以上、1×107細胞/ml以上、または5×106細胞/ml以上)をまく場合、このことは有用である可能性がある。
【0096】
いったん形成されると、本明細書中で記載される細胞を含むインプラントは、隣接する組織における生理学的血管新生応答を刺激するために適切な割合および比率で、血管新生因子により徐々に満たされる。
【0097】
いくつかの態様において、生存哺乳動物細胞を含むインプラントは、直接的に、または血管新生の駆動物質としてin vitroで事前調整した後に、使用することができる。
【0098】
その他の態様において、in vitro培養の後、インプラントを、全体として、またはその後のセクショニングまたはその他の制御された断片化および/または分割と組み合わせて、凍結させまたは凍結乾燥させることができる。生細胞をもはや含有していないとしても、得られたインプラントは血管新生因子を含み、それがインプラントから外に拡散して、周囲組織の血管新生を促進する。拡散の方向性は、もともとのゲルマトリクスの構造(ナノ-マイクロ-スケール)により調製することができる。
【0099】
血管新生因子を含むが生細胞を含まないインプラントは、長期間の寿命を有する非常に安定なものであり、そして血管新生を促進するための臨床的用途または獣医的用途において、在庫的(off-the-shelf)な使用のために有用である可能性がある。インプラントは、例えば、外科手術の間、いずれの臨床的に必要な位置に対しても直接的に送達することができ;標準的な針を使用して注入することができ、または標準的な内視鏡を使用してその他の治療の一部として投与することができる。これにより、臨床医による局所組織灌流の制御が可能になる。
【0100】
本明細書中で記載される方法は、脈管化または灌流を必要とする組織、例えば脈管化が不十分な組織、における血管新生を促進する際に有用でありうる。脈管化が不十分な組織には、血管新生の刺激、血流の増加、および/または脈管化の増加から利益を得られるいずれの組織でも含まれうる。
【0101】
例えば、本明細書中で記載される方法は、創傷または潰瘍の治癒、皮膚移植片の脈管化、筋皮弁の脈管化またはその他の外科的に移植される組織(例えば、再接着された四肢)の脈管化を促進しまたは亢進させるために血管新生を促進して、それにより機能および生存率を維持する際に有用であり;外科的に生成される吻合部(例えば、胃腸管手術の後の腸管の再結合部分の吻合部)の治癒または皮膚の増殖を向上させることができる。
【0102】
本明細書中で記載される方法は、脈管化が低下しまたは損なわれたことに関連する疾患および症状の治療の際の、または血管新生の刺激、血流の増加、および/または脈管化の増加から利益を受ける疾患および症状の治療の際の、血管新生を促進する際にも有用である。治療することができる症状の例には、血管(動脈、静脈、または毛細血管など)の閉塞と関連するいずれの症状も含まれる。症状の例には、冠動脈閉塞症、頸動脈閉塞症および動脈閉塞性疾患などの動脈閉塞疾患;末梢動脈疾患;アテローム性動脈硬化症;筋内膜過形成(例えば、血管手術またはバルーン血管形成術または血管ステントによる);閉塞性血栓性血管炎;血栓疾患;腸間膜虚血または肢虚血;狭窄症;血流量低下に関連する脈管炎、心筋梗塞または脳梗塞またはその他の血管死、発作、四肢の喪失;が含まれる。
【0103】
本発明の様々なさらなる側面および態様は、本明細書の開示を参照した当業者には明らかであろう。
【0104】
本明細書中で使用する場合の“および/または”は、2つの特定の特徴または成分のいずれかの、その他のものを含む場合または含まない場合の特定の開示として記載される。例えば“Aおよび/またはB”は、(i)A、(ii)Bおよび(iii)AおよびB、のいずれかの特定の開示として、それぞれがまさに本明細書中に個別に記載されるかのように、記載される。
【0105】
事情をそれ以外に解釈しなければ、上述した特徴の記載および定義は、本発明のいずれかの特定の観点または態様に限定されず、そして記載される全ての観点および態様に等しく適用される。
【0106】
本発明の特定の観点および態様を、例としてそして以下に記載される図面および表を参照して、ここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、渦巻き状塑性圧縮構造物の中心で酸素プローブを用いた実験設定のスキームを示す。構造物を50 mlの培養液中で培養した。
【図2】図2は、無細胞性塑性圧縮構造物の中心での酸素レベルを示す。
【図3】図3は、亜硫酸ナトリウムを用いた無細胞性塑性圧縮構造物の脱酸素、その後DMEM培養液中の酸素化(4.5±0.5および3.2±0.5 mmHg/分の値)を示す。勾配(脱-酸素化速度および再-酸素化速度に対応する)を、軌跡のおよそ直線的な部分を使用して推定した。
【図4】図4は、細胞をまいた塑性圧縮構造物の中心での酸素レベルを示す。異なる細胞密度での酸素レベルを、5.8×106〜23.2×106細胞/ml、拡大率バー50 mm(0.5×106〜2×106細胞/構造物)、* p<0.0001と決定した。各データセットについてn=3の平均をここでは示す。時間‘ゼロ’は、プローブを構造物中に設置した時点として取っている。
【図5】図5は、5.8×106(上)、11.6×106(中)そして23.2×106細胞/ml(下)をまいた塑性圧縮構造物の中央部領域および外側領域の共焦点像を示す。
【図6】図6は、構造物中2×106細胞(23.2×106細胞/ml)で細胞をまいた構造物の中心の、10日間の期間にわたる酸素レベルを示す。構造物の中心および表面からのday 5における細胞生存率を支持した。グラフは、n=3の平均を示す。拡大率バーは、顕微鏡写真について100 mmである。
【図7】図7は、24時間での様々な細胞密度の構造物中のVEGFレベルを示す。異なる細胞密度間でのVEGFレベルに、顕著な差異は見られなかった。
【図8】図8は、10日の期間にわたる、200万細胞/構造物を含有する構造物中のVEGFのレベルを示し(GAPDHに対して正規化、day 1は設定較正として)、統計的に有意な増加がday 8に測定され、その後day 10までに低下した(** p<0.001、* p<0.05)。
【図9】図9は、2×106細胞をまいた渦巻き状構造物を示し、8日間培養し(VEGF発現のピーク)、そして展開して構造物の3つの領域でのVEGFを研究した(それぞれおよそ7層、5層および3層の、もともとの構造物のコア、中間、そして表面の3つの不均衡な厚さに対応したこれらの領域を巻くため)。VEGF発現を、GAPDHに対して正規化し、day 1は設定較正として用い、24時間で23.2×106細胞/mlであった。有意に高いレベルのVEGFが、ゲルの中心で見出された(* p<0.001)。
【図10】図10は、本明細書中で記載するような、生体模倣幹細胞ニッチの例を示す。
【図11】図11は、2×106のHDFをまき、そしてin vitroで5日および10日間インキュベーションした、コラーゲン構造物中のELISAで決定されたHIF-1aレベルを示す。
【図12】図12は、2×106のHDFをまき、そしてin vitroで5日および10日間インキュベーションした、コラーゲン構造物中のELISAで決定されたVEGFレベルを示す。
【図13】図13は、in vitroで5日間インキュベーションすることにより事前調整したか(上)または事前調整なしでの(下)、そしてウサギの皮下に1週間移植した、2×106のHDFをまいたコラーゲン構造物を示す。
【図14】図14は、(上パネル)2×106のHDFをまき、事前調整なしに液体窒素中で凍結させ、そしてウサギの皮下に1週間移植した対照コラーゲン構造物、そして(下パネル)細胞をまかずまたは凍結しないでウサギの皮下へ1週間埋め込んだ後の、対照無細胞性コラーゲン構造物、を示す。
【図15】図15は、2×106のHDFをまいたコラーゲン構造物を示し、そしてin vitroで10日間インキュベーションすることにより事前調整し、その後液体窒素中で凍結し、そしてウサギの皮下に1週間移植した。
【図16】図16は、協調的な哺乳動物細胞のための浮き出させたポケットを有するコラーゲン足場を示す。
【実施例】
【0108】
方法
細胞培養および発現
ヒト皮膚新生児線維芽細胞を、以前に記載したように[13]、新生児陰茎包皮(割礼のための手術の後、十分な倫理的承認を受けて、手術室から新鮮なまま得られた)から、外植した。細胞を、10%FCS(First Link, West Midlands, UK)、2 mMグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシン(1000 U/ml;100 mg/ml、Gibco Chemicals)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco, Paisley, UK)中で維持した。単層培養からの細胞の取り出しのため、細胞を含有したフラスコを、0.1 M PBSを用いて洗浄し、そしてトリプシン(5 mM EDTA中0.5%)とともに37℃にて5分間インキュベーションした。
【0109】
3D塑性圧縮されたコラーゲンゲル培養
いったん引き離されてから、細胞を計数し、そして3DのI型コラーゲンゲル中に包埋した。コラーゲンゲルを鋳型(2.2×3.3×1 cm3)中に配置した。コラーゲンゲルの調製のため、0.5 mlの10_イーグルMEM溶液(Gibco)を、0.1 M酢酸、タンパク質濃度2.035 mg/ml中に4 mlのラット尾I型コラーゲン(First Link)を添加し、黄色からピンク色(cirrus pink)への指示薬の色変化を使用して5 M NaOHを用いて中和した[14]。このゲル調製物を細胞懸濁物に対して添加した。設定およびインキュベーションの後、ゲルを、メッシュと紙シートの層を使用した圧縮とブロッティングの組合せにより、日常的に圧縮した[12]。簡略的には、165-mm-厚のステンレススチールメッシュとナイロンメッシュ層とを、二層の吸収用紙の上に配置した。コラーゲンゲルを、ナイロンメッシュ上に配置し、第2のナイロンメッシュで覆い、そして120-gの平坦な金属ブロック(スチール)で室温にて5分間負荷をかけ、2つのナイロンメッシュ間で保護された平坦なコラーゲンシート(50〜60 mm厚)を得た。次いで、これらのコラーゲンの高密度シートを巻き上げて、2.3 mmの直径および21 mmの長さのきつい渦巻き状の創傷棒状物を生成した。細胞密度は、ゲルの容量減少と正比例して、塑性圧縮により増加し、そして最終細胞密度は、初期細胞密度×容量変化倍率として計算された。このように、5 mlの典型的な初期ゲル容量について、コラーゲンの割合は0.2%であり、これは圧縮後には11%にまで増加したが(乾/湿重量比により測定)、これは58倍の増加に相当する。細胞密度は、全部で100 000細胞/ml(または50万細胞/構造物)〜最終密度580万細胞/ml;200000細胞/ml(または100万細胞/構造物)〜1160万細胞/ml;400000細胞/ml(または200万細胞/構造物)〜2320万細胞/ml;と同一の範囲で、変化することが予想された[15]。
【0110】
酸素モニタリング。
【0111】
光ファイバー酸素プローブ(Oxford Optronix, Oxford, UK)を、3Dの渦巻き状構造物の中心に挿入し、そしてその軸に沿って半分にまで配置した(図1)。次いで、構造物を、シアノアクリレート接着剤を使用して両端をシールした。このように、>1 mmの拡散長を研究したが、そして構造物の両端をシールしたため、主として側面拡散に言及する。センサプローブ(280 mm直径)の先端は、酸素-透過性マトリクス中の酸素-感受性発光プローブを含有する。発光は、分子酸素の存在下で消光され、それにより発光寿命は、周囲培養液中においてより低い酸素濃度ではより長くなる。正確に0.7 mmHgであるプローブの較正は、本質的には、発光寿命(強度ではなく)と酸素濃度との間の相関に依存する[16]。この方法は、例外的に安定な較正応答を生じ、その結果、最も遅いサンプリング速度で6日まで、それぞれのプローブを使用することができる。従って、6日よりも長く構造物をモニタリングするため、期限の切れたプローブを取り除き、そして新しいプローブをday 5に挿入した(以下を参照)。それぞれの実験の後、プローブ読み取りを、外部培養液中でチェックして、応答の際にドリフトが存在しなかったことを確認した。光ファイバープローブをA/D変換器(12ビット)と接続したOxyLabpO2 ETMシステムと組み合わせて使用して、そして結果をLabviewを用いてIBM PCコンピュータ上で記録した。結果は、部分圧力値、すなわち、pO2をmmHgで示す(例えば、7.6 mmHgは1%酸素に相当する)。サンプリング速度を、行われる実験に従って変更し、<10秒の全体の応答時間(脱酸素作用測定について、図2、図3)および図4および図5に示される長時間の研究については約30秒までの応答時間を得た。構造物を通じた酸素拡散速度の研究のため、本発明者らは、プローブを含有する構造物を、37℃の3%亜硫酸ナトリウムの無酸素溶液(anoxic solution)中に移した。脱酸素化速度および再酸素化速度を、図1〜図3に示されるように、軌跡の準線形部分を使用して推定した。サンプルを、7.5%CO2-濃縮インキュベータ中で維持しそしてモニタリングした。各実験の最後に、構造物を取り出し、そして培養液の周囲O2圧を試験したが、これはおよそ140 mmHgに維持された。
【0112】
細胞生存率
生/死生存率/細胞傷害性キット(Molecular Probes, L-3224)を用いて、定性的解析のため、カルセインAMおよびエチジウムホモダイマー(EthD-1)をそれぞれ用いて生細胞および死細胞を同時的に決定することに基づいて、細胞生存率を評価した。定量的解析を、生細胞/死細胞低バイオハザード生存率/細胞傷害性キット(Molecular Probes, L-7013)を製造者のプロトコルに従って使用して、行った。SYTO_10、緑色蛍光核酸染色およびDead Red(エチジウムホモダイマー-2)を使用し、そして、画像を取り込んだ後、生細胞の核/死細胞の核を、生存率を確認するためにカウントした。それぞれの構造物中の細胞の生存率は、酸素測定とは独立して行った。O2測定のための代表的な領域を、塑性圧縮構造物の2つの領域(コアおよび表面)において選択し、そして共焦点顕微鏡(Bio-Rad Radiance 2100、Carl Zeiss Ltd, Hertfordshire, UK)を用いてCell. Mol. Life Sci. Research Article 3のように可視化した。
【0113】
VEGF mRNAの定量的PCR解析
実験的構造物からのRNA抽出を、酸素測定とは独立して行った。RNAを、構造物全体、または渦巻き状構造物の特定の領域(コア、中間および表面)のいずれかから、抽出した。これらの領域を、渦巻き状物を展開しそしてコア、中間および表面に対応する3つのことなる領域に切り分けることにより、分離した。全細胞RNAを、細胞性3D塑性圧縮構造物からQiagen RNeasy法(Qiagen, UK)を用いて単離した。まず、構造物を液体窒素中で瞬間凍結し、そして2-メルカプトエタノールを含有する500 mlの溶解バッファーをそれぞれのサンプルに対して添加し、そして室温で40分間溶解させた(Qiagen, UK)。次いで、得られた溶液を21-Gの針を使用して吸引し、その後市販のアッセイプロトコルを行った(Qiagen,UK)。RNAをRNase-不含水中に溶出し、そして濃度を分光光度計により260 nmおよび280 nmで測定した(Genequant, Pharmacia Biotech, NJ, USA)。ファーストストランドcDNA合成を、Amplitaq逆転写酵素(Applied Biosystems, Roche)を用いて行った。全RNA(0.5 mg RNA)を、38.85 mlの水中に希釈した。さらに9.15 mlのマスターミックスを各チューブに対して添加し(dNTP、RNase阻害剤、MgCl2、Oligo DTランダムプライマー;Applied Biosystems, Roche)、そして70℃にて10分間加熱した;次に、2 mlの逆転写酵素を各チューブに対して添加し、そしてチューブを40℃にて1.5時間インキュベーションした後、90℃にて2分間加熱して、残っているいずれの酵素も変性させた。
【0114】
VEGFに対するリアルタイム定量的PCR
相対定量的PCRを、Applied Biosystems 7300リアルタイムPCRシステム(CA,USA)を、TaqmanユニバーサルPCRマスターミックス(Applied Biosystems)とともに使用して、行った。cDNA(9 ml/反応)を、Applied Biosystems 7300リアルタイムPCR装置(全20-ml反応容量)でのサイクリングおよび解析のための96-ウェルプレート中、1 mLの必要な遺伝子プローブ(VEGF、Applied BiosystemsアッセイID:Hs00900057_m1またはGAPDH、Applied BiosystemsアッセイID:Hs99999905_m1)および10 mlのマスターミックス(Applied Biosystems)とともに混合した。プライマー配列は、開示されておらず、Applied Biosystems(Roche)により秘密扱いされている。それぞれのプライマーセットは、7300リアルタイムPCR装置中で最適に機能する様に較正される。熱サイクルと増幅-特異的ソフトウェアの組合せにより、一つのチューブ反応中のサイクルごとの蓄積として、PCR生成物の検出が可能になる。各サンプルについての値は、対応するGAPDHの結果に対して正規化し、試験したいずれのサンプルにおいても、顕著には変化しなかった。相対的定量を、較正値と比較して各々のサンプル/GAPDH比を発現することにより行った。この較正値は、1日に構造物あたり200万細胞として設定した。この較正値は、試験しそして比較される各実行とともに実行された。
【0115】
相対的定量化に依存していた様に、これを行うことにより、実行間でのいずれかの小さな変化を説明することができる。この較正値を、各PCR実行において測定し(顕著な偏位なし)、そして常に単位元(unity)に対して設定し、そしてサンプルの変化を、これに対する増加倍率または減少倍率で表した。細胞密度、培養期間および領域実験の場合において、これは24時間において200万細胞/構造物として設定した。従って、遺伝子発現変化の全ての相対的な定量を、これに対して設定した。
【0116】
結果
3Dモニタリング設定は、図1に概略的に示される。細胞を含まない構造物に対するバリデーションおよび較正の研究は(図2)、細胞不含構造物のコア中の不変のベースラインレベルのO2圧を示し、24時間にわたる酸素の消費は無視できる程度であり(外部培養液とは顕著に異ならない)、最小値のプローブO2消費と一貫していた。細胞非依存的なコアO2レベルの枯渇および回復が、3%亜硫酸ナトリウム溶液を添加し、その後除去し、そして洗浄して、システムからO2を隔離することにより、示された(図3)。酸素レベルは、数分かけて段階的に低下し、およそ30分後にはゼロに達することが観察された。プローブの時間応答を、<10秒に設定したことに注目すべきである。空気-飽和pO2レベルへの回復を、プローブを依然として含有する構造物を、空気-飽和溶液中に戻すことにより測定したが、それはおよそ3.2×0.5 mmHg/分の速度で生じた。再平衡化についての匹敵する迅速な速度が、亜硫酸ナトリウム試薬の代わりに培養液のN2飽和を使用した場合に見られた。細胞構造物は、それらのコアにおいて時間-依存的酸素枯渇を示し、その場合、24時間の期間にわたりプローブを配置した(図4)。酸素レベルは、およその安定状態またはプラトー値にまで急速に低下し、これは細胞密度により変動した。従って、細胞消費は、構造物中の酸素レベルに影響を及ぼす唯一の因子であるようであった。細胞密度は、酸素枯渇応答の程度で重要な決定因子であり、より低いコアpO2がより高い細胞密度と相関し、それは0、580万、1160万〜2320万細胞/mlの範囲であった。この場合において、プラトーO2圧は、細胞密度がそれぞれ増加するとともに、顕著に減少した(p<0.001)。50万細胞(580万細胞/mlの最終密度)を播種した構造物の中心における酸素レベルは、約25 mmHgのレベルであった200万細胞(2320万細胞/mlの最終細胞密度)を播種した構造物と比較して、24時間後に80 mmHg程度であった。
【0117】
細胞をコアにおける低レベルの酸素に曝露することは、この24時間の期間にわたり、細胞生存率に対して影響を有した。構造物コアにおける細胞は、80 mmHgおよび25 mmHgの両方に対して曝露した後、95%以上の生存率であった(図5)。この様に、25 mmHg程度の酸素圧への細胞の曝露は、5日まで細胞死を増加させなかった。day 10には、表面で40%であったのと比較して、55%までの細胞死がコアにおいて観察された。この様な3Dモデルにおいて、重要なより高分子量の栄養素の拡散は、細胞の生存に対して限定的な因子でもある可能性がある。グルコース拡散係数は、以前に確立されており、そしてこのことは同一の3Dモデルにおいて細胞に対する限定的であることが見出されていない[17]。
【0118】
図6は、200万細胞の初期細胞密度(2320万細胞/ml)を播種した構造物のコアのO2プロファイルを、10日の期間にわたり示す。重要なことには、最初の24時間の約25 mmHgの最初の平行レベルへの低下の後、コアの酸素圧は、ほぼ60 mmHgの第2の上昇した安定状態へと上昇した。これは、材料特性の変化ではなく、細胞消費の変化の結果であるようである(図6)。10日間にわたり、増殖を通じて細胞数の大きな変化はなかった。5日後、コアの細胞生存率は依然として80%であり、そして表面では100%に近かった。この様に、30時間〜36時間の培養期間のあいだ、安定化したコアO2圧は、35 mmHg上昇し(>2倍以上の上昇)、およそ60 mmHgになった。このことは、6時間にわたり生じたが、これは線維芽細胞の代謝およびO2利用の変化と一貫していた。このレベルは、その後の24時間にわたりほぼ維持されており、そして次いでその後の72時間にわたり約20 mmHgまで徐々に低下した。
【0119】
VEGF mRNA発現のレベルを、研究を行った3種の細胞密度の構造物中、そして2320万細胞/ml構造物中、10日の培養にわたり測定した(図7および図8)。24時間の段階において、3種の細胞密度は、相対的なVEGF遺伝子発現レベルを有意差なくもたらし、これを最高の細胞密度に対してここでは示した(図7)。10日以上の期間にわたり、VEGF発現レベルは、2320万細胞/ml構造物中で劇的に変化した(図8)。day 1およびday 3のあいだ(2320万細胞/ml)、VEGF発現は5倍増加し(p<0.05)、その後day 3〜day 7にはわずかながら増加し、day 1レベルと比較して11倍の増加にまで到達した(p<0.05)。しかしながら、最大の変化は、day 7とday 8との間に見られた。発現は、140倍にまで飛躍的に上昇し、day 1よりも全体で151倍にまで到達した。この後ほぼ瞬間的に、発現の完全な崩壊が生じ(149倍)、それによりday 10までに発現はday 1レベルにまで戻った。増殖因子発現の一見すると一過的なスパイク状のこのパターンは、血管新生刺激に関して予想されるように、順々に操作する多数の異なる分子的要素に基づいて、調節システムに特徴的である。この様なスパイク状のVEGF発現は、このシステムにおけるように、連続的カクテルのただ一つの増殖因子をモニタリングする場合に予想された。10日間にわたるVEGF制御のこのパターンは、研究を行ったより低い細胞密度では観察されなかった。
【0120】
渦巻き状構造物(2320万細胞/ml)の厚さを介しそしてO2圧の勾配に沿ったVEGF発現のゾーン変化は、8日の培養段階において調べた(コア、中間および表面)。ゾーン変化を、培養後に渦巻き状構造物を展開することにより測定した(図9)。プローブによりサンプリングされたゾーンであるゲルのコア部分での細胞は、20〜60 mmHgのO2レベルに曝され、中間部分では60〜100 mmHgのO2レベルに曝され、そして通気した培養液にごく接近している外側部分では、培養期間のほとんどにわたり、100〜140 mmHgのO2レベルに曝されたことが前提とされた。顕著に高いVEGFレベルが、コア領域において見出され、ここでは細胞は最低レベルのO2に曝露された。図9は、これらの条件(すなわち、day 8の深部ゾーン不均質性)の下での、8日目のVEGF発現の勾配を示す(2320万細胞/ml)。重要なことに、表面領域における細胞は、メッセージレベルの増加(基準1日目VEGFレベルよりも4.7倍の増加)を依然として発現した。中間領域およびコア領域において、これは1日目レベルの発現と比較して7.1倍および10.1倍高い発現へと増加しており、O2圧とVEGF遺伝子発現との間の直接的な関連性と一貫している。しかしながら、表面ゾーンにおいて見出される高いO2圧を仮定すると、これは、細胞が利用可能なO2の非常に穏やかな減少に極めて感受性であるか、またはよりもっともらしくは、表面ゾーン細胞がコア細胞から生成されそして拡散されるより初期段階のサイトカインまたは代謝シグナル(ここでは測定していない)に対して反応したか、のいずれかの示唆を提供する。このことは、システムが、VEGF発現の増加のゾーンを増幅するために存在するとの示唆を提供する。
【0121】
組織生存率および3D細胞性構造物の最近の見解は、‘より深部’の細胞が正常な活性のためにそして究極的には生存のために十分な栄養素および酸素を受領する能力により、支配されている。無傷の組織において、そのような因子は、微小血管灌流の存在および速度により明確に調節される。このプロセスが存在しない場合、3D培養において、細胞は、構造物周辺からの単純な拡散に完全に依存している。しかしながら、マトリクス密度と細胞密度とのO2枯渇に対する相互作用を試験することができる効果的な定量的に規定された3Dモデルは、存在するとしても、ほとんど存在しない。結果として、低O2に対する細胞脆弱性についての概念、ならびにそれらの応答(細胞死を除く)の速度、程度そして性質は、単純である。重要なことには、多数のものが、細胞外マトリクス含有物をほとんど含まないかまたは全く含まない腫瘍塊またはその他の細胞塊に基づいている。本発明の研究は、最初の3D-モニタリングされた結合組織モデルを開発し、因子が優先するのか、そしてそれらがどの様に定住細胞の挙動および生存に影響を与えるのか、を正確に規定した。このモデルを使用して、酸素対VEGFの時間-依存性を、空間測定とともに、数日間にわたり研究した。
【0122】
このシステム中には、in vivoにおいて存在するように、3D構造物および組織の、コア(灌流点から最も遠い)における最小O2圧の実現レベルおよび実現速度に関して、いくつかの重要な決定因子が存在する:(1)均質的分布と仮定されるが、しかし帯状にそして時間とともに変化することができる、細胞密度(2)限定的な拡散構成成分(O2またはその他の栄養素)についてのマトリクス密度/浸透性、そして(3)細胞型または細胞活性(すなわち、好気性/嫌気性そして活性状態/静止状態に依存する、細胞のO2要求性;例えば、軟骨細胞、皮膚線維芽細胞、筋芽細胞)。3Dコラーゲン構造物に対する塑性圧縮プロセスは、全てのこれらの因子の調節を提供する。細胞およびマトリクス密度はともに、圧縮倍率(×58)を乗じた、初期接種材料および初期コラーゲン含量(それぞれ)により決定される。コラーゲンマトリクスは、ほぼ88%が水のナノ-線維状格子を有し、非常にO2に対して透過性となる。
【0123】
O2消費の初期速度は、実験の最初の10〜30分にわたり非-線形であったが、しかしその後はほぼ一定であった。このシステムにおいて、O2低下の速度およびO2の平衡消費は、完全に予測されたものであり、細胞密度に依存するものであった(図4)。相対的に高いマトリクス密度および構造物の中心部での結果的に生じるO2枯渇にも関わらず、細胞生存率は、24時間時点で影響を受けず、そして最高の細胞密度の5日後の時点にわずかに減少した(>80%の細胞生存率)(図6)。これを、低O2レベルに対する細胞応答に対するその他の作業に関連づけるため、病理学的低酸素症は、従来から、<1%または8 mmHgに設定される[6、18]。結果的に、ここで、高細胞密度構造物のコアにおけるpO2レベルは、18 mmHg以下には決して低下せず、そして従来は低酸素ではなかった(図6)。このことは、>1 mmの拡散勾配が、しばしば細胞に損傷を与えるという従来の印象に対して異議を申し立てるものであるが、高密度の繊維性コラーゲンが中程度の拡散バリアでしかないこと(すなわち、低分子に対しては非常に透過性であること)を示すという概念をサポートする。O2に対するこの高浸透性は、およそ88%が液体相であるマトリクスのナノ-繊維性メッシュ構造を考慮すると、合理的である。このことは、4.5×0.5 mmHg/分のO2再平衡速度(1-mmの最短拡散経路)により、ここで証明された。
【0124】
重要なことに、コアO2圧のより大幅な減少が、明らかに細胞数依存性であったことから、細胞応答に影響を及ぼすのが、それぞれがO2を枯渇させるものではあるものの、必ずしもマトリクス拡散経路長ではなく、覆っている細胞層の数であること、との示唆を提供する。このことは、細胞が豊富で、マトリクスが少ない構造(腫瘍、器官)のコアが、結合組織と比較して、コアでの細胞壊死について非常に脆弱である理由を理解する際の洞察をもたらす。異なる領域で測定されたVEGFの全体レベルは、day 8の全読み取り値と比較して、顕著に低かった。このことは、構造物のゆっくりとしたプロセッシングによるものである可能性がある。というのも、それらが注意深く展開されなければならず、その間(1時間まで)、展開の最終段階のあいだのコア領域を含め、全構造物中の細胞が正常酸素状態に曝露される様になったことから、VEGFの値が低下することになったかもしれないためである。低酸素圧に対して曝露された細胞は、TGF-bの発現、血小板由来成長因子(PDGF)の発現およびVEGFの発現の顕著な増加により応答する。従って、低レベルの酸素に対するいくらかの曝露は、実際、組織構造物の成熟を補完するものであるようであり、そして、実際、細胞の生存に有益であるようである。細胞の増殖および分化に対する様々なO2圧の影響は、生理学的微少環境がどの様にして細胞の挙動に影響を与えることができるかを理解する際に重要であり、そして低レベルの酸素が線維芽細胞[22、23]を含めた多数の細胞型の増殖を亢進することを示す業績が存在した。
【0125】
低下したO2圧での細胞増殖は、必ずしも細胞死という結果にはならない。2%酸素(約15.2 mmHg)で培養した場合、栄養膜細胞増殖は刺激され、一方20%(152 mmHg)で培養した場合、細胞は実際に細胞周期を外れ、そして分化の増加を受ける[22]。本研究において測定された低下したO2圧(15 mmHg程度の低さまで低下させた)は、Maらによる研究において使用された条件と近く[22]、そして細胞型および細胞密度の差異のためにここでは直接的な外挿は危険ではあるものの、いくつかの類似点を導き出すことができる。例えば、組織培養中の低下したO2圧レベルが、細胞増殖を亢進することができ、そして実際に多数の天然の細胞環境を模倣することができることを示唆するデータとは対照的に、3D細胞/マトリクス培養複合材料が、酸素枯渇により中心部で細胞死を受ける可能性があるという、示唆のパラドクスを実際に目立たせる。従って、正確なそして3D局部的なO2圧測定は、所定の3D組織モデルのいずれかについての本発明者らの理解を確認する際には重要である。例えば、モデルの成熟のために、異なる段階で、高レベルの酸素および低レベルの酸素を両方とも操作して、細胞増殖および細胞分化を局所的に刺激することは必要である可能性がある。
【0126】
長期的な低O2圧に対する3種類の細胞応答の最初のもの(>24時間、高密度)は、23時間後のO2圧の相対的な増加により示された、嫌気的代謝への明白なシフトであった(図4)。このことの確認は、本研究の範囲を超えていたが、コアO2におけるこの上昇を説明することができる細胞数またはマトリクス浸透性の変化を、この事例において除外することができるならば、そのような優先的な解糖代謝へのシフトは、最も合理的な説明のようである。細胞代謝のそのような協調的なシフトは、驚くべきものではなかった。しかしながら、従来からの病理学的低酸素症よりも高い場合であってもそのような細胞が低O2応答を有し、そしてこのことがさらなる下流の応答を誘導することができる、という示唆を実際に提供する。ほとんどの組織修復および組織工学的融合プロセスは、VEGFを含む多数の血管新生タンパク質により誘導された迅速な血管新生に依存している。
【0127】
VEGF発現は、酸素感受性の変性ドメインを有する転写因子HIF-1aにより誘導される[24、25]。VEGF mRNAレベルの大幅な増加を、day 8まで細胞密度の高い構造物中で測定した。この上方制御の一つの誘因は、低レベルのO2であるかまたは解糖代謝の結果として生じる持続時間であってもよい[26]。VEGF応答が死につつある細胞に依存しなかったことが示されるため、細胞死がここでは顕著ではなかった(day 5において>80%の細胞生存率)ことを確認することは重要である。しかしながら、day 10までに、細胞生存率の低下を測定したが、このことはVEGFレベルがday 10に低下したことの主要な理由であった。さらに、VEGF応答の多く(全てではないが)が、構造物表面での100〜140 mmHgと比較して、レベルが20〜60 mmHgの範囲と考えられた構造物コアでの細胞によるものであったことが示される可能性があった。酸素測定の後に3D渦巻き状モデルを展開することができ、その後、空間的な位置に関してVEGF生成が上方制御された場所を、本発明者らが定量的にマッピングすることができたため、このことが達成できた。細胞のO2に対する曝露は、ゲル構造物中の位置した具体的な領域に依存しており、それに応じてVEGFレベルに影響を与えた。決定的には、構造物を異なる細胞密度でまいた場合(そして従って構造物中で異なるO2勾配に対して曝露された場合)に、VEGFの上方制御は、24時間までは観察されなかった。勾配は、82〜140 mmHg(50万)、66〜140 mmHg(100万)、そして23〜140 mmHg(200万)と変化した。この制御されたin vitroシステムは、O2-依存性VEGF制御を注意深くモニタリングすることを可能にした。O2レベルが15 mmHg以下には低下しなかったため、そして確かに7.6 mmHg(1%酸素)にまで低下しなかったため、VEGF上方制御についての誘因は、古典的な“病理学的低酸素状態”であると言うことができる。従って、VEGFを刺激するための細胞へのこの低レベルの(生理学的低酸素症範囲内での)O2のシグナリングは、その転写因子、HIF-Iaの初期上方制御を介しているようである。
【0128】
in vitro事前調整の血管新生インプラントに対する影響を評価するため、3Dコラーゲン構造物を上述する様に生成し、そして2×106のヒト皮膚線維芽細胞(HDFs)をまいた。in vitro培養における5日後および10日後の構造物中の血管新生因子HIF-1aおよびVEGFの量を、ELISAにより測定した。高レベルのHIF-1aおよびVEGFは、両方とも、in vitro培養の後に構造物中で観察された(図11および図12)。HIF-1aもVEGFも、in vitroで培養しなかった対照ゲル中、ELISAにより観察されなかった。
【0129】
生細胞を含有する血管新生インプラントのin vivoでの効果を評価するため、3Dコラーゲン構造物を上述した様に生成し、そして2×106のヒト皮膚線維芽細胞(HDFs)(23×106細胞/mlに相当)をまいた。構造物を5日間in vitroで事前調整するかまたは事前調整しなかった。次いで、構造物を無細胞性コラーゲンラップに包埋し、そしてウサギの皮下に移植した(皮下)。1週間後、構造物を回収した(図13を参照)。内部成長した脈管が、宿主から、事前調整された構造物および事前調整されなかった構造物の両方の内部に観察されたが、このことは、両方のタイプの構造物ともにウサギ宿主における血管新生応答を刺激したことを示す。脈管化は、事前調整されなかった構造物と比較して、事前調整された構造物において増加されることが観察された。
【0130】
次いで、上述した実験を、5×105のヒト皮膚線維芽細胞(HDFs)(5×106細胞/mlに相当)をまいた3Dコラーゲン構造物を用いて繰り返した。構造物を、5日間in vitroで事前調整したかまたは事前調整しなかった。次いで、構造物を、無細胞性コラーゲンラッピング中に包埋し、そしてウサギの皮下に移植した(皮下的)。1週間後、構造物を回収し、そして脈管化について評価した。in vitroで事前調整した構造物の脈管化が観察された。事前調整しなかった5×105細胞を含有する構造物中では、脈管化は生じない。
【0131】
対照実験において、細胞を含有しなかった3Dコラーゲン構造物を、ウサギの皮下に移植した。1週間後、細胞構造物を回収し、そして脈管化について評価した。脈管化は観察されなかった。
【0132】
生細胞を含まない血管新生インプラントの作用をin vivoで評価するため、3Dコラーゲン構造物を上述した様に生成し、そして2×106ヒト皮膚線維芽細胞(HDFs)(23×106細胞/mlに相当)をまいた。構造物を、事前調整しないか(対照)またはin vitroにて10日間培養することにより事前調整し、そしてその後、全ての構造物を液体窒素中で5分間凍結させ、無細胞性コラーゲンラッピング中に包埋し、そしてウサギの皮下に移植した(皮下的)。1週間後、構造物を回収した。事前調整しなかった対照構造物中では目に見える脈管化は観察されなかった(図14)。対照的に、凍結前に事前調整したコラーゲンインプラント中における宿主脈管構造の目に見える内部成長が観察された(図15)。
【0133】
従って、血管新生は、本明細書中で記載するように、細胞性血管新生インプラントおよび無細胞性血管新生インプラントの両方により、促進されることが示された。
【0134】
まとめると、本発明者らは、3Dコラーゲンマトリクス中のヒト皮膚線維芽細胞によるO2消費の研究のための基本的モデルを確立した。細胞生存率に対する悪影響は、より低いレベルの酸素曝露によっては観察されたなかったことは、明らかなことであった。同様に、VEGF制御のパターンは、低pO2下ではあるが非-低酸素条件下で調べられた。この研究は、天然に存在する血管新生シグナルを、埋め込み後のそのような3D組織工学的構造物中での、脈管化の誘導のために、操作することができることも示す。3D構造物コアにおいて、その他の細胞により生成された血管新生シグナルとともに、VEGFの生成は、表面から近づけば近づくほど細胞によりより生成されるレベルがより低くなり、これらのシグナルの勾配は、3D構造物の表面からコアに向けての脈管化を誘導し、潜在的には、in vivo状況で構造物の外側からの脈管化を誘導する。例えば、規定密度の細胞そして規定マトリクス中の細胞が、上方制御されるタイミングおよび場所を理解することにより、VEGF生成を使用してインプラントのin vivoでの融合を促進することができる。
【0135】
参考文献
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27. Mudera V. et al J Tissue Eng Regen Med 2007; 1: 192198.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に、哺乳動物細胞を含有するポケットを有するゲルを含む、細胞培養のための足場。
【請求項2】
ゲルがコラーゲンゲルである、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
ポケットが200μm〜5000μmの深さである、請求項1または2に記載の足場。
【請求項4】
ポケットが50〜2000μmの直径である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の足場。
【請求項5】
ポケットが1 mlあたり500万個より多い細胞を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の足場。
【請求項6】
哺乳動物細胞が幹細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の足場。
【請求項7】
幹細胞が、角膜幹細胞;皮膚表皮幹細胞;腸管幹細胞;泌尿器生殖系(orogenital)幹細胞;上皮幹細胞;骨髄間質幹細胞;そして成長板幹細胞からなる群から選択される、請求項6に記載の足場。
【請求項8】
ポケットが細胞のみを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の足場。
【請求項9】
哺乳動物細胞が、ポケット内部に、拡散性因子および排出代謝産物の濃度勾配を生成する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の足場。
【請求項10】
濃度勾配がポケット内部の細胞の分化および増殖を刺激する、請求項9に記載の足場。
【請求項11】
表面上にポケットを有するゲルを提供する工程、
ポケットに哺乳動物細胞を播種する工程、そして
ゲルを培養液中でインキュベーションする工程;
を含む、哺乳動物細胞を培養する方法であって、
ここでポケット内部での細胞の代謝が、栄養素量の、ポケット内部の側面からの段階的な減少を引き起こす、前記哺乳動物細胞を培養する方法。
【請求項12】
ゲルがコラーゲンゲルである、請求項11に記載の方法。。
【請求項13】
ポケットが200μm〜5000μmの深さである、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ポケットが50〜2000μの直径である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ポケットが1 mlあたり500万個よりも多い細胞を含有する、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物細胞が幹細胞である、請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。。
【請求項17】
幹細胞が、角膜幹細胞;皮膚表皮幹細胞;腸管幹細胞;泌尿器生殖腺(orogenital)幹細胞;上皮幹細胞;骨髄間質幹細胞;および成長板幹細胞からなる群から選択される、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ポケットが哺乳動物細胞のみを含有する、請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
栄養素の濃度の段階的減少が、ポケット内部の哺乳動物細胞の分化および増殖を刺激する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ゲルを提供する工程、
ゲルの表面を、表面上に1またはそれ以上の突起を有する型押し機(die)と接触させ、それにより突起がゲル表面のポケットを浮き出させる工程、そして
ポケットに哺乳動物細胞を播種する工程
を含む、哺乳動物細胞を培養するための足場の生成方法。
【請求項21】
脈管化または灌流を必要としている組織と接触させた状態で、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
細胞に呼吸させる工程;
を含む、血管新生を誘導しまたは促進する方法であって、
ここで細胞の呼吸は酸素圧を低下させ、そして;
酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす、前記血管新生を誘導しまたは促進する方法。
【請求項22】
哺乳動物細胞を含むインプラントを組織に接触させた状態で配置する前にin vitroで培養し、
in vitro培養における細胞の呼吸は、インプラント中の酸素圧を低下させ、そして細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物細胞を含むインプラントを、組織と接触させた状態で配置する前にin vitroで培養しない、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
インプラント中の哺乳動物細胞の生存率が、少なくとも24時間のあいだ少なくとも80%であり、その後組織と接触させた状態で組織に対応するインプラントを配置する、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントを、in vitroで培養する工程;そして
細胞に呼吸させ、それにより細胞の呼吸が酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす工程;
哺乳動物細胞を殺傷する工程;そして
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で血管新生インプラントを配置する工程;
を含む、血管新生を誘導しまたは促進する方法。
【請求項26】
哺乳動物細胞をインプラントを冷凍することにより殺傷する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
血管新生インプラントを、組織と接触させた状態で配置する前に保存する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
呼吸が、インプラント内部の酸素圧の、インプラント内部の表面からの段階的な減少を引き起こす、請求項21〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ゲル中の細胞が、インプラント内部の表面から、段階的に増加される量の、少なくとも1つの血管新生因子を発現する、請求項21〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
哺乳動物細胞が線維芽細胞である、請求項21〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
哺乳動物細胞が非-線維芽細胞である、請求項21〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
インプラント内部の酸素圧が、8〜60 mmHgのレベルに減少する、請求項21〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
インプラントが哺乳動物細胞を包含するゲルを含む、請求項21〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
ゲルがコラーゲンゲルである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ゲルが5%〜25%(乾/湿重量比)のコラーゲンを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ゲルが塑性的に圧縮されている、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
インプラントが1 mlあたり1200万個より多い哺乳動物細胞を含む、請求項21〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
1またはそれ以上の血管新生因子がインプラントから組織へと拡散する、請求項21〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
インプラントが複数の層を含み、そして1またはそれ以上の血管新生因子がそれらの層の面に選択的に拡散する、請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
インプラントが、哺乳動物細胞を播種されたゲルを提供する工程;そしてゲルを塑性的に圧縮する工程;により作製される、請求項21〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
組織が、皮膚または外科的に移植された組織である、請求項21〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
組織が1またはそれ以上の創傷または潰瘍を含み、そして組織内での血管新生応答が創傷または潰瘍の治癒を促進する、請求項21〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
組織が外科的に作られた吻合を含む、請求項21〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
脈管化の低下または障害と関連する症状を治療する際に、血管新生を促進する際に使用するための、請求項21〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
症状が、動脈閉塞疾患;末梢動脈疾患;アテローム性動脈硬化症;筋内膜過形成;閉塞性血栓性血管炎;血栓疾患;腸間膜虚血または肢虚血;狭窄症;脈管炎、心筋梗塞または脳梗塞またはその他の血管死、発作、および血流量低下と関連した四肢の喪失からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。。
【請求項46】
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、血管新生インプラントを配置する工程;そして
細胞に呼吸させる工程;
を含む、血管新生を誘導しまたは促進する方法において使用するための、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントであって、
ここで、細胞の呼吸がゲル中の酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす、前記血管新生インプラント。
【請求項47】
血管新生を誘導しまたは促進する請求項21〜45のいずれか1項に記載の方法において使用するための、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラント。
【請求項48】
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、血管新生インプラントを配置させる工程、そして;
インプラント中で細胞に呼吸させる工程;
を含む、血管新生を誘導しまたは促進する方法において使用するための医薬の製造における、哺乳動物細胞を含む血管新生インプラントの使用であって、
ここで、細胞の呼吸がインプラント中の酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子の発現を引き起こす、前記使用。
【請求項49】
血管新生を促進する方法が、請求項21〜45のいずれか1項に記載の方法である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
哺乳動物細胞を含むインプラントをin vitroで培養する工程;
細胞に呼吸させて、その結果、細胞の呼吸が酸素圧を低下させ、そして酸素圧の低下が細胞に1またはそれ以上の血管新生因子を引き起こす工程、そして;
哺乳動物細胞を殺傷する工程;
を含む方法により生成される、1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラント。
【請求項51】
細胞がインプラントを凍結することにより殺傷される、請求項50に記載の血管新生インプラント。
【請求項52】
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
1またはそれ以上の血管新生因子をインプラントから組織に拡散させる工程;
を含む、血管新生を促進するための方法において使用するための、請求項50または51に記載の1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラント。
【請求項53】
血管新生を促進する方法が、請求項21〜45のいずれか1項に記載の方法である、請求項50に記載の血管新生インプラント。
【請求項54】
脈管化または灌流を必要とする組織と接触させた状態で、1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントを配置する工程;そして
1またはそれ以上の血管新生因子を、インプラントから組織に拡散させる工程;
を含む、血管新生を促進する方法において使用するための医薬の製造における、請求項50または51に記載の1またはそれ以上の血管新生因子を含む血管新生インプラントの使用。
【請求項55】
血管新生を促進する方法が請求項21〜45のいずれか1項に記載の方法である、請求項54に記載の使用。

【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−523355(P2011−523355A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507990(P2011−507990)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001158
【国際公開番号】WO2009/136173
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(507153999)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (6)
【Fターム(参考)】