説明

生体物質を識別するシステム及び方法

生体物質を識別する方法を提供する。この方法は、2以上の細胞の1以上の分割画像を形成するステップと、コンフルエント細胞の1以上の分割画像に距離変換を施すステップと、領域成長画像を形成するように、1以上の分割画像の距離変換に領域成長法を施すステップであって、複数の領域が1以上の分割画像において形成される、領域成長法を施すステップと、コンフルエント細胞の1以上の分割画像の複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当てるステップと、複数の領域の少なくとも2つが隣接領域であると決定された場合には、複数の領域の少なくとも2つに合併法を施すステップと、隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定するステップと、ラベルが変化させられた場合には少なくとも1個の細胞の1以上の画像を形成するように領域成長画像の隣接領域を合併させるステップとを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンフルエント(集密的)細胞同士を識別するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、殆どの遺伝子、細胞及びウィルスが人体その他の生物において作用するときの詳細な機序は、ゲノム配列プログラムその他の広範なゲノム機能解析研究の成功にも拘わらず比較的知られていない。そのため、適当な生理学的環境での遺伝子機能のハイスループットの検査及び解明を可能にするスクリーニングアプローチが必要とされている。
【0003】
ハイスループットの自動式蛍光顕微鏡検査法は、細胞の環境での何十万もの遺伝子産物の機能をスクリーニングして解析することを可能にする。顕微鏡検査法は、他の検出方法よりも著しく多い細胞レベル下情報を与える可能性を有するため、自動式撮像プラットフォームを用いて検出されて定量化されるスクリーニング及びアッセイを記述するために「ハイコンテンツ」との用語が用いられている。画像取得及び画像解析の両方を自動化し、次いでハイコンテンツ解析システムでのスループットを最大化するように最適化することができる。自動式画像解析に必要とされるコンピュータ計算ツールの中核となる2つの構成要素が、セグメンテーション(分割)及び個々の細胞の位置追尾である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運動及び分裂は、腫瘍学、免疫学、及び発生生物学を含めた多くの研究分野において極めて重要な2つの基本的な細胞の挙動である。これらの挙動は独自の解析要件を有するが、また解析における幾つかの重大な問題を共有している。これらの挙動の検査には微速度撮影が必要である。大規模実験での微速度撮影の実装には、具体的なデータ集合として表わされる広範な処理条件及び行動表現型にわたって最適となるアッセイパラメータ、撮像パラメータ及び解析パラメータを求めることに関する問題がある。別の問題は、顕微鏡検査法画像ではコンフルエント細胞/核が広く観察されることである。これらの画像の分割時には、コンフルエント細胞は図3Aに示すように背景からは正確に分離されるが、図3Bに示すように互いに分離されない。これらの凝集細胞は単一の単位に見えるため、面積及び細胞の個数等のように細胞に対して行なわれる測定に誤差を招き得る。
【0005】
細胞の面積及び個数等のように細胞に対して行なわれる測定に誤差を招かないようにコンフルエント細胞を互いに分離することができるシステム並びに方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の技術的背景に鑑みて為されたものであり、本発明の目的は、生体物質を識別するシステム並びに方法を提供することにある。
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、生体物質を識別する方法が提供される。この方法は、2以上の細胞の1以上の分割画像を形成するステップと、コンフルエント細胞の1以上の分割画像に距離変換を施すステップと、領域成長画像を形成するように1以上の分割画像の距離変換に領域成長法を施すステップであって、複数の領域が1以上の分割画像において形成される、領域成長法を施すステップと、コンフルエント細胞の1以上の分割画像の複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当てるステップと、複数の領域の少なくとも2つが隣接領域であると決定された場合には複数の領域の少なくとも2つに合併法を施すステップと、隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定するステップと、ラベルが変化させられた場合には少なくとも1個の細胞の1以上の画像を形成するように領域成長画像の隣接領域を合併させるステップとを提供する。
【0008】
本発明の別の好ましい実施形態では、生体物質を識別するシステムが開示される。イメージングシステムが、事前のフレームにおいて少なくとも1個の細胞の画像を受け取るように構成されており、このイメージングシステムは受像装置に接続されている。受像装置は、2以上のコンフルエント細胞の1以上の分割画像を形成し、1以上の分割画像に距離変換を施し、領域成長画像を形成するように1以上の分割画像の距離変換に領域成長法を施し、複数の領域が1以上の分割画像において形成され、分割画像の複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当て、複数の領域の少なくとも2つが隣接領域であると決定された場合には複数の領域の少なくとも2つに合併法を施し、隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定し、領域成長画像についてラベルが変化させられた場合には隣接領域を少なくとも1個の細胞の1つの画像として合併させるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による典型的なイメージングシステムのブロック図である。
【図2】本発明による図1の受像装置の概略図である。
【図3】コンフルエント細胞を有する未処理画像及び本発明による分割後の出力の説明図である。
【図4】分水式解凝集アルゴリズムが本発明に従って如何に動作するかを示す流れ図である。
【図5】領域成長法が本発明に従って如何に動作するかを示す流れ図である。
【図6】本発明による領域間交差境界についての彎曲情報の説明図である。
【図7】本発明による領域内交差境界についての彎曲情報の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して本発明の現状で好適な実施形態について記載する。図面では類似の構成要素は同じ参照番号によって表わされる。これらの好ましい実施形態の記載は、例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0011】
図1は、典型的なディジタル顕微鏡システムの本質的な構成要素のブロック図を示す。この自動式ディジタル顕微鏡システム100は、以下の構成要素すなわち光源101、コリメータ102、選択随意の非球面光学系104(線走査顕微鏡検査法の場合)、ビーム折り曲げ光学系105、対物レンズ107、標本109、標本保定器111、載物台113、結像レンズ115、光検出器117、選択随意の通信リンク119及び選択随意のコンピュータ121を含んでいる。
【0012】
光源101は、ランプ、レーザ、複数のレーザ、発光ダイオード(LED)、複数のLED又は光ビーム101aを発生する当業者に公知の任意の形式の光源であってよい。光ビーム101aは、光源101、コリメータ102、選択随意の非球面光学系104、ビーム折り曲げ光学系105及び対物レンズ107によって送られて、標本109を照射する。標本109は、生きた生体物質/生物、生体細胞又は生体以外の標本等であってよい。非球面光学系104は典型的なパウエルレンズである。ビーム折り曲げ光学系105は典型的な走査鏡又はダイクロイック鏡である。標本109から放出される光は対物レンズ107によって集光され、次いで標本109の画像が光検出器117の典型的な結像レンズ115によって形成される。光検出器117は電荷結合素子(CCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)画像検出器又は当業者によって用いられている任意の2Dアレイ光検出器であってよい。光検出器117は選択随意で、通信リンク119によってコンピュータ121に電気的に又は無線式で接続される。別の実施形態では、光検出器117を対物レンズ107と共に作用する典型的な顕微鏡接眼レンズ又は接眼鏡によって置き換えて、試料の細部が観察され得るように中間画像をさらに拡大してもよい。また、光検出器117の代わりに2、3又はこれよりも多い光検出器117が用いられてもよい。標本109は、典型的なマイクロタイタープレートとも呼ばれる標本保定器111、顕微鏡スライドガラス、チップ、ガラス板、ペトリ皿又は任意の形式の標本保定器に装着される。
【0013】
別の実施形態では、顕微鏡システム100は選択随意で、通信リンク119によって従来のコンピュータ121に電気的に又は無線式で接続されてもよい。通信リンク119は、自動式顕微鏡システム100とコンピュータ121との間でのデータ転送を容易にすることができるローカルエリアネットワーク(LAN)、無線LAN、広域ネットワーク(WAN)、ユニバーサルサービスバス(USB)、イーサネット(登録商標)リンク又は光ファイバ等のような任意のネットワークであってよい。
【0014】
顕微鏡システム100を画像伝送装置、撮像装置又はイメージングシステムとも呼ぶことができ、かかるシステムは、光検出器117又は典型的な顕微鏡接眼レンズを用いることにより載物台113に載置されている標本109又は任意の形式の物体の画像を捉えることが可能である。また、顕微鏡システム100は、例えばGE Healthcare社(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)製INCELL ANALYZER(商標)1000又は3000であってもよい。顕微鏡システム100は、典型的な共焦型顕微鏡、蛍光顕微鏡、落射型蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡又は当業者に公知の任意の形式の顕微鏡であってよい。別の実施形態では、顕微鏡システム100は、典型的なハイスループット及びハイコンテンツの細胞レベル下の撮像解析装置であってよく、生物等の画像を高速に検出し、解析して、形成することが可能である。また、顕微鏡システム100は、自動式細胞イメージングシステム及び細胞レベル下イメージングシステムであってよい。
【0015】
標本からの反射光又は蛍光を受ける光検出器117は、光電子増倍管、電荷結合素子(CCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)画像検出器又は当業者によって用いられている任意の光検出器であってよい。光検出器117は、通信リンク119によってコンピュータ103に電気的に又は無線式で接続される。別の実施形態では、光検出器117を対物レンズ107と共に作用する典型的な顕微鏡接眼レンズ又は接眼鏡によって置き換えて、試料の細部が観察され得るように中間画像をさらに拡大してもよい。
【0016】
コンピュータ121を受像装置121又は画像検出装置121と呼ぶこともできる。本発明の別の実施形態では、受像装置121は画像伝送装置100の内部に位置していてもよい。受像装置121は典型的なコンピュータとして作用して、光検出器107から標本115の画像を受け取ることが可能であり、次いで受像装置103は標準的な画像処理ソフトウェアプログラム、アルゴリズム又は式を用いることにより画像を表示し、保存し又は処理することが可能である。また、コンピュータ121は、携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、ノートブックコンピュータ、携帯電話、ハードドライブ方式装置又は通信リンク119を介して情報を送受し記憶し得る任意の装置であってよい。本発明では1台のコンピュータ121を用いているが、コンピュータ121の代わりに複数のコンピュータを用いてもよい。
【0017】
図2は、図1の分水式解凝集(watershed de-clumping)アルゴリズムシステムの受像装置の概略図を示す。受像装置若しくは撮像受像装置121又は受像装置203は、従来のコンピュータに付設されている典型的な構成要素を含んでいる。受像装置203はまた、画像伝送システム100に内蔵されていてもよい。受像装置203は、プロセッサー203a、入出力(I/O)制御器203b、大容量記憶装置203c、メモリー203d、ビデオアダプター203e、接続インターフェイス203f、及び上述の各システム構成要素をプロセッサー203aに電気的に又は無線式で結合して動作させるシステムバス203gを含んでいる。また、システムバス203gは、典型的なコンピュータシステムの構成要素をプロセッサー203aに電気的に又は無線式で結合して動作させる。プロセッサー203aを処理ユニット、中央処理ユニット(CPU)、複数の処理ユニット又は並列処理ユニットとも呼ぶ。システムバス203gは、従来のコンピュータに付設されている典型的なバスであってよい。メモリー203dは、読み出し専用メモリー(ROM)及びランダムアクセスメモリー(RAM)を含んでいる。ROMは、起動時にコンピュータの構成要素同士の間で情報を伝達するのを支援する基本的なルーチンを含む典型的な入出力システムを含んでいる。
【0018】
入出力制御器203bはバス203gによってプロセッサー203aに接続されており、利用者がコンピュータに対し、分水式解凝集アルゴリズムのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)、並びにキーボード及びポインティングデバイスのような入力装置204を通して命令及び情報を入力することを可能にするインターフェイスとして作用する。用いられる典型的なポインティングデバイスは、ジョイスティック、マウス又はゲームパッド等である。表示器206がビデオアダプター203eによってシステムバス203gに電気的に又は無線式で接続される。表示器206は、典型的なコンピュータモニタ、プラズマテレビジョン、液晶ディスプレイ(LCD)又はコンピュータ203によって形成される文字及び/又は静止画像を表示することができる任意の装置であってよい。コンピュータ203のビデオアダプター203eに隣接して接続インターフェイス203fが位置している。接続インターフェイス203fはネットワークインターフェイスとも呼ばれ、上述のように通信リンク119によって光検出器117に接続される。また、受像装置203はネットワークアダプター又はモデムを含むことができ、受像装置203が他のコンピュータに結合されることを可能にする。
【0019】
メモリー203dの上方に大容量記憶装置203cが位置しており、1.ハードディスクに対して読み書きを行なうハードディスクドライブ構成要素(図示せず)及びハードディスクドライブインターフェイス(図示せず)、2.磁気ディスクドライブ(図示せず)及びハードディスクドライブインターフェイス(図示せず)、並びに3.CD−ROMのような着脱式光ディスク又は他の光媒体に対して読み書きを行なう光ディスクドライブ(図示せず)及び光ディスクドライブインターフェイス(図示せず)を含んでいる。上述の各ドライブ及び関連するコンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ読み取り可能な命令、データ構造、プログラムモジュールその他のコンピュータ103用データの不揮発性記憶を提供する。また、上述の各ドライブは、図4の流れ図に記載される本発明のコンフルエント細胞を識別しまた合併させるアルゴリズム、ソフトウェア又は式を提供するという技術的効果を含んでいる。
【0020】
ソフトウェアは細胞識別又は分解用のグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)を有する。識別分解グラフィカルユーザインターフェイスは、コンピュータ利用者がコンピュータ203と容易に対話(相互作用)することを可能にするように設計されているソフトウェアプログラムである典型的なGUIと同じ作用範囲の一部を有する特殊にプログラムされたGUIである。識別分解GUIは、1.図4において議論するような合併方法を表示するスクリーンショットを含んでいる。
【0021】
図3(A)及び図3(B)は、コンフルエント細胞を有する典型的な未処理画像及び分割後の出力の説明図である。コンフルエント細胞/核は、図3(A)に示すような顕微鏡検査法画像において広く観察される。これらの画像の分割時には、コンフルエント細胞は未処理画像の背景から分離されるが、図3(B)に示すように互いからは分離されない。単一の単位のように見えるこれらの凝集細胞は、細胞の面積及び個数等のように細胞に対して行なわれる測定に誤差を招き得る。
【0022】
図4は、分水式解凝集アルゴリズムが如何に用いられるかの一実施形態の流れ図を示す。この記載は2個の凝集細胞の画像に関するものであるが、2以上の細胞又は多数の細胞が顕微鏡システム100によって検出される場合の複数の画像にも適用される。利用者が生体標本(例えば1又は複数の細胞)を顕微鏡システム100に挿入すると、標本の画像が光検出器107によって通信リンク119を通して接続インターフェイス203f(図2)まで転送され、ブロック501において生体標本又は細胞の画像が受像装置121において受け取られる。この画像は、図3(A)及び図3(B)について上で述べたように顕微鏡検査法画像において広く観察されるコンフルエント細胞/核についての画像であってよい。コンフルエント細胞は、互いに極く近接しており識別不能の細胞間特性を有し得る高密度で結集した細胞である。凝集細胞は、識別不能の特性を有する細胞である。ブロック503では、利用者は入力装置204を用いて分水式解凝集アルゴリズムのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)にアクセスし、コンフルエント細胞/核の挿入された画像又は分割画像に対して分水式解凝集アルゴリズムを適用する。コンフルエント細胞(confluent cells)という用語は、凝集細胞(clumped cells)という用語と同義である。分水式解凝集アルゴリズムがコンフルエント細胞/核の挿入された分割画像に適用されると、少なくとも1個のコンフルエント細胞又は凝集細胞の分割画像に対して典型的な距離変換もまた適用される。距離変換は、少なくとも1個のコンフルエント細胞の分割画像の個々のピクセルから最近接の背景ピクセルまでの距離として表わされる。このように、距離変換の適用の後には、コンフルエント細胞の挿入された分割画像の個々のピクセルの強度値は、当該ピクセルが属する物体の形状に正比例する。距離変換式又はアルゴリズムは、Intel社Open CVライブラリのDistTransform10−34第196頁を参照した。Open CVレファレンスマニュアル(Intel社、著作権2001年)はINTEL(登録商標)デベロッパセンターのウェブサイトに置かれている。
【0023】
ブロック505では、距離変換後の画像に領域成長法が施される。領域成長の手法は、細胞当たり一般に1よりも多い領域を成長させて、2以上のコンフルエント細胞/核の変換後画像又は分割された変換後画像に複数の領域が形成されるようにするものである。この背後にある動機は、細胞当たり1以上の領域を設けることである。領域成長法の流れ図を図5に開示する。ブロック505aでは、領域成長工程が開始される。ブロック505bでは、変換後の画像をシステムに入力する。次に、ブロック505cでは、画像を強度の降順ですなわち強度の最も大きいピクセルが先頭に来るように並べ替える等によって画像を強度レベルによってソートする。
【0024】
ブロック505dでは、隣接ピクセルの強度が現在の強度よりも大きくなるまで又は全てのピクセルが走査されるまでの何れかまで隣接ピクセルを走査するために最大強度ピクセルを開始点として用いる。次に、ブロック505eでは、異なるラベルの隣接ピクセルを有するピクセルが1個でも存在するか否かについて決定が行なわれる。ピクセルが異なるラベルの隣接ピクセルを有しないと決定された場合には、工程はブロック505dへ戻る。しかしながら、ピクセルが異なるラベルの隣接ピクセルを有する場合には、ピクセルはブロック505fにおいて不明ピクセルリストに記憶される。
【0025】
次に、ブロック505gでは、残った画像ピクセルが無ラベルであるか否かの決定が行なわれる。無ラベルの画像が1個でも存在している場合には、工程はブロック505dへ戻る。しかしながら、無ラベルの画像が存在しない場合には、工程はブロック505hへ進む。ブロック505hでは、8隣接ピクセルの間で過半のラベルを求めることにより不明ピクセルにラベル付けする。次に、ブロック505iでは、領域成長法は停止して、図4のブロック507へ戻る。領域成長は、距離変換後の画像全体に適用される。領域成長法の際には、ラベルが変換後の画像の各々の領域に割り当てられる。2つの領域例えば領域1及び領域2の間の交差境界に位置するピクセルを「不明(ambiguous)」ピクセルと呼ぶ。この理由は、これらのピクセルが領域1からラベルを割り当てられるべきであるか又は領域2から割り当てるべきであるかが不明であるからである。
【0026】
ブロック507では、判定論理アルゴリズムを用いて、不明ピクセルにラベルを割り当てる。この判定論理アルゴリズムは、変換後の画像の全8隣接ピクセルについて検査を行ない、全8個の中から最大のラベルを求める。このラベルが不明ピクセルに割り当てられる。この手法は、各領域の正確な形状を保つのに役立つ。この手法を以下で図式的に説明する。表1は、ラベル1及びラベル2を有する2つの隣接領域の仮設例を示す。数値「A」は不明ピクセルを示す。表2は、不明ピクセルに対するラベルの誤った割り当ての影響を示す仮設例である。表3は、不明ピクセルに対するラベルの正しい割り当てによって領域の形状を保持していることを示す。
【0027】
【表1】

次に、ブロック509では、領域合併(region merging)法を用いて、何れの領域が変換後画像の同じ細胞に属しているかを判定して合併させ、また異なる細胞に属する領域同士の間の領域境界を保持する。また、この合併法は隣接領域の間の形状情報を解析することに基づく。異なる細胞に属する領域すなわち領域間(inter region)では、隣接領域の間の境界は、図6に示すような何らかの彎曲情報を有する。同じ細胞に属する領域すなわち領域内(intra region)では、隣接領域の境界の間には図6に示すように彎曲情報が殆ど存在しない。この観察を活用して、領域が同じ細胞に属しているか否かの判定を下す。
【0028】
画像の全ての隣接領域を組毎に(組は一対の隣接領域から成る)解析し、合併させるか否かの判定を以下のステップに基づいて下す。
【0029】
1.各々の一対の隣接領域について、両領域の最大強度を求める(例えばP1及びP2)。これらの強度は画像強度値(距離変換を行なった後に形成される強度値)である。これらの値は領域の寸法に 比例し、領域が大きいほど値も大きい。P1、P2及びV値の例を下記に示す。
【0030】
【表2】

2.次に、2つの領域の交差境界に沿った最大強度を求める(例えばV)。この場合にもこの強度値は領域寸法に比例する。領域寸法が大きいほど値も大きい。
【0031】
3.交差境界に沿って2つの境界点を求め、次いでこれらの境界点の間のユークリッド距離を算出し、以後、距離「合併距離」と呼ぶ。境界点は、領域の一方の境界ピクセルを走査することにより選択される。当該ピクセルが、少なくとも1個の隣接ピクセルが背景ピクセルとなり、少なくとも1個の隣接ピクセルが現在のピクセルと同じラベルを有し、少なくとも1個の隣接ピクセルが異なるラベルを有するような隣接ピクセルを有するとの規準を満たすピクセルは、2つの領域の間の境界に位置すると考えられる。規準を満たす2よりも多いピクセルが存在する場合には、全ての可能なピクセル対の間でユークリッド距離を求める。
【0032】
【数1】

4.各領域は、次の場合に合併させられる。
【0033】
(P1−V)2+(P2−V)2≦合併距離 (式1)
領域を合併させた後に、領域ラベルを更新して次の組の隣接領域のために反映させる。更新とはすなわち、ラベル1及びラベル3を有する2つの隣接領域を合併させる必要があるとアルゴリズムが判定したときには、両領域の全ピクセルは同じラベルを有すべきであるということである。画像の観点からは、隣り合って位置していた2つの異なる領域が、以後単一の領域として合併させられることを意味する。但し、この更新はアルゴリズムの内部的なものであって、利用者には示されない。利用者には、全ての領域の処理が行なわれた後に更新された画像が示される。この更新された画像は、全ての領域内(同じ細胞に属する)が合併させられており、全ての領域間(異なる細胞に属する)が境界を保持されているものとして含んでいる。
【0034】
このように、領域内(図6)については、Vの値はP1及びP2の値と全く類似している。これらの値は距離変換画像の強度値であって、ピクセルの最近接境界からの距離によって判定されている。彎曲情報が殆どないため、全3つの値P1、P2及びVは境界から多かれ少なかれ類似した距離に位置する。従って、これらの値は類似した値を有する。これにより、式1の左辺は極く小さくなり、式1が満たされて領域は合併させられる。
【0035】
同様に、領域間の場合(図6)には、Vの値はP1及びP2の値に比較して極く小さい。この理由は、Vがピークの何れか一方よりも境界に近いからである。従って、式1において左辺の値が右辺の値よりも遥かに大きくなり、領域は合併させられない。上述の判定論理とは別に、分割又は合併を判定するために、実際の論理の前に他のヒューリスティックな方法を適用してアルゴリズムを高速化する。各々の一対の隣接領域について、両領域の面積を求める。領域の何れかの面積が1%未満である(最大の領域の面積の)場合には、両領域は直ちに合併させられる。このことは、画像における全ての細胞が一般的には類似した寸法を有するとの観察に基づく。領域が極端に小さい寸法を有している場合には、この領域を領域内として直ちに分類して合併させることができる。1%という値は経験的に決めた。
【0036】
次に、ブロック509において、異なる領域の間の区分境界を画像表示に描画する。区分工程は、背景ラベル以外である異なるラベルを有する少なくとも1個の隣接ピクセルを有するピクセルを求めて画像全体を走査することにより行なわれる。これらのピクセルは境界に位置しており、2つの領域の間の区分を形成する。このように、異なる領域又は極小領域の間の境界の合併を行なって、アルゴリズムによって要求される処理量を節減して時間を短縮する。従って、コンフルエント細胞/核の画像は、異なる細胞/核の間の境界を保存するように処理される。コンフルエント細胞の画像は、少なくとも1個の細胞として合併して見えるように又は異なる細胞として見えるように処理される。次いで、工程を終了する。
【0037】
本発明は、利用者がコンフルエント細胞/核を合併させることを可能にするシステム並びに方法を提供する。利用者は、細胞の面積及び個数等のように細胞に対して行なわれる測定に誤差を招く細胞を分離することが可能である。本発明を利用する者は、距離変換を適用することによりコンフルエント細胞/核を変換し、距離変換に領域成長法を適用した後に、画像において分割された細胞/核を合併させるために合併法を適用することが可能である。このように、本発明は利用者に対し、細胞の面積及び個数等のように細胞に対して行なわれる測定に誤差を招かないようにコンフルエント細胞/核を異なる細胞に変換することにより細胞の画像を容易に最適化する手段を提供する。
【0038】
以上、本発明を特定の実施形態に関して説明したが、当業者には明らかとなるように、特許請求の範囲に記載される要旨及び範囲から逸脱することなく本発明の多くの改変及び変形を施すことができる。
【符号の説明】
【0039】
100:自動式ディジタル顕微鏡システム
101:光源
101a:光ビーム
102:コリメータ
104:非球面光学系
105:ビーム折り曲げ光学系
107:対物レンズ
109:標本
111:標本保定器
113:載物台
115:結像レンズ
117:光検出器
119:通信リンク
121:コンピュータ
203:受像装置
203a:プロセッサー
203b:入出力(I/O)制御器
203c:大容量記憶装置
203d:メモリー
203e:ビデオアダプター
203f:接続インターフェイス
203g:システムバス
204:入力装置
206:表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を識別する方法であって、
2以上のコンフルエント細胞の1以上の分割画像を形成するステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像に距離変換を施すステップと、
領域成長画像を形成するように前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記距離変換に領域成長法を施すステップであって、複数の領域が前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像において形成される、領域成長法を施すステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当てるステップと、
前記複数の領域の少なくとも2つが隣接領域であると決定された場合には前記複数の領域の少なくとも2つに合併法を施すステップと、
前記隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定するステップと、
ラベルが変化させられた場合には少なくとも1個の細胞の1以上の画像を形成するように前記領域成長画像の前記隣接領域を合併させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記合併法は領域合併法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
判定論理アルゴリズムを用いて、前記分割画像の前記複数の領域に前記1以上のラベルを割り当てる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記合併法を施すステップは、前記隣接領域の各々の形状情報を解析することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
一対の前記隣接領域について最大強度を与えるステップをさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記一対の前記隣接領域の交差境界に沿って最大強度を与えるステップをさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記一対の前記隣接領域の前記交差境界に沿って複数の境界点を与える、請求項6記載の方法。
【請求項8】
合併距離を形成するように前記複数の境界点の間のユークリッド距離を算出するステップをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
次の組の前記隣接領域のために反映させるように前記領域ラベルを更新するステップをさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞を識別する装置であって、
2以上のコンフルエント細胞の1以上の分割画像を形成し、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像に距離変換を施し、
領域成長画像を形成するように前記1以上の分割画像の前記距離変換に領域成長法を施し、複数の領域が前記1以上の分割画像において形成され、
前記1以上の分割画像の前記複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当て、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つが前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の隣接領域であると決定された場合には、前記コンフルエント細胞の前記分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つに合併法を施し、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定して、
前記領域成長画像についてラベルが変化させられた場合には前記隣接領域を少なくとも1個の細胞の1つの画像として合併させる
ように構成されている受像装置を備える装置。
【請求項11】
生体物質を識別するシステムであって、事前のフレームにおいて少なくとも1個の細胞の画像を受け取るように構成されているイメージングシステムを備えており、該イメージングシステムは、
2以上のコンフルエント細胞の1以上の分割画像を形成し、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像に距離変換を施し、
領域成長画像になるように前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記距離変換に領域成長法を施し、複数の領域が前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像において形成され、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当て、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つが前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の隣接領域であると決定された場合には、前記コンフルエント細胞の前記分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つに合併法を施し、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定して、
前記コンフルエント細胞の前記領域成長画像についてラベルが変化させられた場合には前記隣接領域を少なくとも1個の細胞の1つの画像として合併させる
ように構成されている受像装置に接続されている、システム。
【請求項12】
生体物質を識別するコンピュータ実装型の画像処理方法であって、
2以上のコンフルエント細胞の1以上の分割画像を形成するステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像に距離変換を施すステップと、
領域成長画像を形成するように前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記距離変換に領域成長法を施すステップであって、複数の領域が前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像において形成される、領域成長法を施すステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の1以上に1以上のラベルを割り当てるステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つが前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の隣接領域であると決定された場合には、前記コンフルエント細胞の前記分割画像の前記複数の領域の少なくとも2つに合併法を施すステップと、
前記コンフルエント細胞の前記1以上の分割画像の前記隣接領域に同じラベルを割り当てるか、既存のラベルを保つかを決定するステップと、
前記領域成長画像についてラベルが変化させられた場合には前記隣接領域を少なくとも1個の細胞の1以上の画像として合併させるステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−522312(P2012−522312A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503477(P2012−503477)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/027587
【国際公開番号】WO2010/114706
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【Fターム(参考)】