説明

生体物質検出装置

【課題】微小間隔でスポットされた検体を解析する際もスポット間の干渉による測定誤差を低減できる生体物質検出装置を提供する。
【解決手段】隣り合う第1および第2のサンプルスポット211,212が異なる発光スペクトルで発光するように複数種類の標識酵素で標識した検体をアレイ状に定着したスライド101を対象とし、スライド101の画像を取得するカラー画像取得部102と、カラー画像取得部102からのカラー画像情報111から標識酵素の種類毎に対応した画像情報を抽出し、抽出した複数の抽出画像情報112,113を出力する画像抽出回路103と、複数の抽出画像情報112,113の各々に対応して設けられていて、各抽出画像情報112,113間で定量的な評価が可能となるように各抽出画像情報112,113を補正し、補正画像情報114,115を出力する第1および第2の画像補正回路104,105とを備えた生体物質検出装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質検出装置に関し、詳細には、発光もしくは蛍光性質を有する検体を定着した複数のスポットを有する検査基盤の画像を取得して解析を行う生体物質検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生化学・分子生物学分野においては、従来より、発光もしくは蛍光標識酵素で標識され検査基盤等の複数のスポット領域に分布された検体の画像を取得し、取得した画像から各スポット領域の検体を解析する生体物質検出装置がある。
【0003】
たとえば特許文献1に、モノクロのCCDカメラで撮影した画像から、検体のスポットを含み且つそれぞれの面積が等しくなるような円形領域にて、スポットおよびその周辺の画素の輝度値を積算して、スポットの値とする方法が開示されている。
【0004】
しかしこの方法は、互いのスポットからの光が干渉しない場合には有効であるものの、スポット間の距離が近い場合にスポット間の光が干渉して誤差が生じる。図10は隣り合って定着された2つの検体A,検体Bのスポットのモノクロ画像情報における輝度分布を2次元で示したものである。検体A,検体Bは同じ発光スペクトルを持った標識酵素で標識され、同等の強度で発光するものである。図中、1005及び1006は各々、検体A及び検体Bのスポット中心位置である。1001及び1002は各々、検体A、検体Bについての、干渉を受けない理想的な輝度分布を示している。1003は、実際に取得される輝度分布を示しており、2つの検体A,Bが互いに干渉を起こしていることが表れている。検体Aを実際に解析するときは、輝度分布1003を用いて、解析領域1004の輝度値を積算して行うので、輝度分布1002の干渉の影響によって誤差を生じることとなる。検体Bについても同様である。
【0005】
このようなスポット間の干渉を低減するために、例えば特許文献2に、マイクロタイタープレートの複数のスポット領域(ウェル)の画像を取得する際に、CCDカメラ等の画像取得手段とマイクロタイタープレートとの間に各ウェルに対応した開口部を有する遮光プレートを配設して、隣り合うウェルからの発光もしくは蛍光を遮光するようにした装置が提案されている。
【特許文献1】国際公開WO2002/001477公報
【特許文献2】特開2005−274355公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の装置は、上述のようにマイクロタイタープレートに対して遮光プレートを用いているもので、検体のスポット間隔が微小となるマイクロアレイなどの検査基盤に対しては、遮光プレートの開口部の微小化と位置決めが非常に困難であり、適用し難い。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するもので、微小間隔でスポットされた検体を解析する際のスポット間の干渉による測定誤差を低減できる生体物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の生体物質検出装置は、発光もしくは蛍光性質を有する検体を定着した複数のスポットを有する検査基盤の画像を取得して生体物質の解析を行う生体物質検出装置であって、隣り合うスポットが異なる発光スペクトルで発光するように複数種類の標識酵素で標識した検体をアレイ状に定着した検査基盤を対象とし、前記検査基盤の画像をカラー画像情報として取得するカラー画像取得部と、前記カラー画像情報から前記標識酵素の種類毎に対応した画像情報を抽出し、抽出した複数の抽出画像情報を出力する画像抽出回路と、前記複数の抽出画像情報の各々に対応して設けられていて、各抽出画像情報間で定量的な評価が可能となるように各抽出画像情報を補正し、補正画像情報を出力する画像補正回路とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、標識酵素の種類毎に対応した画像情報を抽出し、補正するようにしたことにより、隣接するスポット間の発光による干渉を低減することができる。
なお、「発光スペクトル」は、発光、蛍光の双方のスペクトルを意味することとする。「標識酵素で標識した検体」は、検体、すなわち複数の生体物質を含む検査対象物に、発光の標識化処理を酵素で行ったものを指し、検体の例はヒトの血液である。生体物質は、生体を構成する基本材料である生体高分子(核酸、タンパク質、多糖)や、これらの構成要素であるヌクレオチド、ヌクレオシド、アミノ酸、各種の糖など、ならびに脂質やビタミン、ホルモンなどを指す。
【0010】
複数の補正画像情報を1つに合成して合成画像情報を出力する画像合成回路をさらに備えることができる。
画像補正回路は、標識酵素の発光スペクトルとカラー画像取得部の視感度特性とから補正係数を算出し、算出した補正係数を用いて各抽出画像情報を補正するように構成することができる。
【0011】
検査基盤に、標識酵素の種類毎に発光量を定量化するための基準スポットを設けたときには、画像補正回路は、標識酵素の種類毎の抽出画像情報から前記基準スポットを抽出し、その発光量を算出し、発光量値より補正係数を算出し、算出した補正係数を用いて、前記標識酵素の種類毎の基準スポットの発光量が等しくなるように、前記標識酵素の種類毎の抽出画像情報を補正するように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生体物質検出装置によれば、検査基盤にスポットされた各検体を解析する際に、隣接するスポット間の発光による干渉を低減し、測定誤差を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の生体物質検出装置およびそれによる解析方法について図1から図6を用いて説明する。
【0014】
図1は生体物質検出装置のシステム構成を示す。102はカラー画像取得部、103は画像抽出回路、104は第1の画像補正回路、105は第2の画像補正回路である。101は検査対象のスライドである。
【0015】
スライド101は、生化学反応によって発光する検体が小基盤上にアレイ状に定着されているもので、一般にマイクロアレイ、DNAチップと呼ばれるものである。検体は、隣り合う一方の検体ともう一方の検体とが異なる発光スペクトルで発光するように、複数種類の標識酵素で標識されアレイ状に定着(スポット)されている。ここでは、2種類の検体であって、異なる発光スペクトルを持つ標識酵素で標識された検体が用いられており、その一方の検体が第1のサンプルスポット211を形成し、もう一方の検体が第2のサンプルスポット212を形成している。これら第1のサンプルスポット211と第2のサンプルスポット212は、互いに隣り合わないように、縦方向・横方向に交互に配置されている。
【0016】
カラー画像取得部102はスライド101を撮像して、カラー画像情報111を取得し、出力する。画像抽出回路103は、カラー画像情報111から、特定の波長領域の画像情報である第1の抽出画像情報112と、それとは異なる波長領域の画像情報である第2の抽出画像情報113とを抽出し、出力する。第1の画像補正回路104は、第1の抽出画像情報112を第2の抽出画像情報113と定量評価する為に補正を行い、第1の補正画像情報114を出力する。第2の画像補正回路105は、第1の画像補正回路104と同様に補正を行い、第2の補正画像情報115を出力する。
【0017】
この生体物質検出装置は、検体の発光スペクトルを2種類とした上述のスライド101に対応したシステム構成であるが、発光スペクトルが3種類以上の場合には、その波長領域の種類の数だけ抽出画像情報を出力することとし、それぞれの抽出画像情報に対して画像補正回路を備えるシステム構成とする。
【0018】
以下、図1の生体物質検出装置による解析方法を説明する。
まず、図2に拡大して示す検査対象のスライド101を準備する。つまり、ガラス製(シリコン製でもよい)の小基盤上に、隣り合う第1のサンプルスポット211と第2のサンプルスポット212とが異なる発光スペクトルで発光するように、複数種類の標識酵素で標識した検体をアレイ状に定着する。
【0019】
ここでは、標識酵素で標識した検体は、解析対象の生体物質(抗原)と、それに特異的に結合する特異的反応物質(抗体)と、これら生体物質と特異的反応物質のいずれかに予め結合された標識酵素とを含むものとしており、生体物質と特異的反応物質と標識酵素との複合体の生成量に応じた発光量で、つまり解析対象の生体物質の量に応じた発光量で標識酵素が発光する。標識酵素としては、発光色が異なる2種類のルシフェラーゼを用い、第1のサンプルスポット211は緑色で発光するルシフェラーゼで標識化し、第2のサンプルスポット212は赤色で発光するルシフェラーゼで標識化する。
【0020】
使用する標識酵素(ルシフェラーゼ)による相対発光スペクトルを図3に示す。301は緑色に発光するルシフェラーゼの発光スペクトル(第1の発光スペクトルと呼ぶ)である。302は赤色に発光するルシフェラーゼの発光スペクトル(第2の発光スペクトルと呼ぶ)である。第1の発光スペクトル301を波長λに対する関数L1(λ)と定義し、第2の発光スペクトル302を同じく関数L2(λ)と定義することとする。図中では、L2(λ)のピークを1として、それに対する強度(相対強度)を示している。第1の発光スペクトル301と第2の発光スペクトル302は予め分光計等によってスペクトル分布を測定しておく。このような発光スペクトルを持つルシフェラーゼとして、例えば東洋ビーネット株式会社製のマルチカラールック(登録商標)Ultra−HTS発光試薬がある。
【0021】
準備したスライド101を所定の位置にセットし、システムをスタートさせると、カラー画像取得部102がスライド101を撮像してカラー画像情報111を取得し、出力する。
【0022】
カラー画像取得部102としては一般のカラーCCDカメラを用いることができるが、ここでは図4に示すようなRGBの視感度特性を持つカラーCCDを用いることとする。図中、401は撮影対象の波長に対する青色の感度を示す青色感度曲線であり、同じく、402は緑色の感度を示す緑色感度曲線、403は赤色の感度を示す赤色感度曲線である。
【0023】
青色感度曲線401を波長λに対する関数Fb(λ)、緑色感度曲線402を同じく関数Fg(λ)、赤色感度曲線403を同じく関数Fr(λ)と定義することとする。図中では、Fr(λ)のピークを1として、それに対する感度(相対感度)を示している。青色感度曲線401と緑色感度曲線402と赤色感度曲線403は、予め分光計等によってスペクトル分布を測定しておく。
【0024】
また、青色感度で取得された画像情報をIB、その輝度値をIB(m,n)、緑色感度で取得された画像情報をIG、その輝度値をIG(m,n)、赤色感度で取得された画像情報の輝度値をIR、その輝度値をIR(m,n)と定義することとする。mは横軸方向の画素位置、nは縦軸方向の画素位置である。カラー画像情報111の大きさは縦480画素、横640画素であり、mは0から639、nは0から479の画素位置をとる。
【0025】
図5(a)(b)(c)は上述のように取得した画像情報における検体の輝度分布を示したものである。
説明を簡単にするために、検体のスポットを2個として、また両スポットにルシフェラーゼが同量結合しているとして、輝度分布を2次元で(つまり両スポットの中心位置を通るライン上の輝度値を)、示している。両スポットを、先と同様に、第1のサンプルスポット211,第2のサンプルスポット212と呼ぶ。
【0026】
501は画像情報IRの輝度分布、502は画像情報IGの輝度分布、503は画像情報IBの輝度分布である。504は第1のサンプルスポット211の中心位置であり、502は第1のサンプルスポット212の中心位置である。両スポットのルシフェラーゼの結合量が等しくても、前述したようにルシフェラーゼの発光スペクトル分布とカラーCCDカメラの各色の感度曲線が異なるため、同等の発光強度とはならない。
【0027】
カラー画像取得部102からの出力を受けて、画像抽出回路103は、カラー画像情報111から、第1のサンプルスポット211の発光と第2のサンプルスポット212の発光とを分離して抽出する。
【0028】
第1のサンプルスポット211について抽出する画像情報の輝度値をI1(m,n)、第2のサンプルスポット212について抽出する画像情報の輝度値をI2(m,n)とすると、各々、以下に示す計算式(1)(2)で算出される。
【0029】
【数1】

式(1)(2)は、重み付けをした画像情報IB、IG、IRの輝度値を加算・減算することを表している。第1のサンプルスポット211にかかるI1(m,n)は、上述のように緑色で発光するルシフェラーゼで標識化しているため、つまりIG(m,n)のみの成分と仮定しているため、a1=0、b1=1、c1=0となり、式(1)′で表されることとなり、図5(b)と同じ輝度分布となる。同様に、第2のサンプルスポット212にかかるI2(m,n)は、IR(m,n)のみの成分と仮定しているため、a2=0、b2=0、c2=1となり、式(2)′で表されることとなり、図5(a)と同じ輝度分布となる。
【0030】
画像抽出回路103は、I1(m,n)の輝度値を持つ画像情報を第1の抽出画像情報112として、またI2(m,n)の輝度値を持つ画像情報を第2の抽出画像情報113として、出力する。
【0031】
(ステップ4)
画像抽出回路103からの出力を受けた第1の画像補正回路104,第2の画像補正回路105は、互いの第1の抽出画像情報112,第2の抽出画像情報113を定量評価できるように補正を行い、第1の補正画像情報114,第2の補正画像情報115を出力する。
【0032】
補正に際しては、上述の発光スペクトル分布(L1(λ),L2(λ))と、カラーCCDカメラの前記発光スペクトルに対応する色の色感度曲線(Fb(λ),Fg(λ),Fr(λ))とを用いて補正係数を算出し、算出した補正係数を用いる。
【0033】
詳細にはまず、第1の抽出画像情報112の補正係数R1および第2の抽出画像情報113の補正係数R2を、以下に示す式(3)(4)によって算出する。
【0034】
【数2】

式(3)(4)において、Fb(λ)、Fg(λ)、及びFr(λ)への重み付けa1,b1,c1,a2,b2,c2は、上述の式(1)(2)で各色の画像情報に付した重み付けと同じものを用いる。
【0035】
式(3)において、{a1×Fb(λ)+b1×Fg(λ)+c1×Fr(λ)}は、CCDカメラの各色の色感度曲線に式(1)に用いたのと同じ重み付けをして得られる輝度値を示している。従って、この輝度値を発光スペクトルL1(λ)と掛け合わせ、全波長領域において積算することにより、緑色で発光する一定量のルシフェラーゼの画像をカラーCCDカメラで取得して、式(1)で計算した時の輝度値を得ることができる。
【0036】
つまり、式(3)は、L1(λ)の発光スペクトルを持つルシフェラーゼをモノクロカメラで撮影した場合に取得される輝度値の理想値を計算によって求めるものである。L1(λ)×Fb(λ)は青色成分を輝度値に変換する項、L1(λ)×Fg(λ)は緑色成分を輝度値に変換する項、L1(λ)×Fr(λ)は赤色成分を輝度値に変換する項である。式(1)では青・緑・赤の輝度値を合成する際に各色に重み付けをしているので、式(3)でも同じ重み付けをする。これによって、L1(λ)の発光スペクトルを式(1)と同じ重み付けで取得した輝度値を計算によって求めることができる。これが第1の抽出画像情報112の補正係数R1である。
【0037】
式(4)は、L2(λ)の発光スペクトルを持つルシフェラーゼをモノクロカメラで撮影した場合に取得される輝度値の理想値を計算によって求めるものである。上記と同様にして、L2(λ)の発光スペクトルを式(2)と同じ重み付けで取得した輝度値を計算によって求めることができる。これが第2の抽出画像情報113の補正係数R2である。
λ_maxは積分の上限を示す。全波長領域において積算するため理論上は無限大であるが、本実施の形態では有限の値として1000nmを採用する。したがって、R1は、a1=0、b1=1、c1=0、および、λ_max=1000を用いた式(3)′で表され、算出される。またR2は、a2=0、b2=0、c2=1、および、λ_max=1000を用いた式(4)′で表され、算出される。
【0038】
ここで、第1のサンプルスポット211と第2のサンプルスポット212に上述したようにルシフェラーゼが同量結合して発光している場合、算出されるR1とR2との比は、第1の抽出画像情報112で取得される輝度値I1(m,n)と第2の抽出画像情報113で取得されるI2(m,n)との比を示す。したがって、以下の計算式(5)によって、I1(m,n)を補正することによって、I2(m,n)と直接比較できる画像情報の輝度値を求めることができる。
【0039】
詳述する。上述したように、L1(λ)とL2(λ)は、同量のルシフェラーゼ発光させた場合に得られる発光スペクトルであり、これらL1(λ)とL2(λ)は相対的な特性を示す。また式(3)は、L1(λ)の発光スペクトルを持つルシフェラーゼを発光させてモノクロカメラで撮影した場合の輝度値の計算値であり、式(4)は、L2(λ)の発光スペクトルを持つルシフェラーゼを同量発光させてモノクロカメラで撮影した場合の輝度値の計算値である。
【0040】
したがって、式(3)の値R1と式(4)の値R2の比をとると、同量のルシフェラーゼを発光させた場合にカメラで取得される輝度値の比となる。ルシフェラーゼの量を比較するためには、式(3)もしくは式(4)の値を用いて正規化する必要がある。
【0041】
ここで、I1(m,n)とI2(m,n)はそれぞれ、L1(λ)の成分、L2(λ)の成分を抽出した画像となっているが、抽出するという手法をとっているので、同量のルシフェラーゼが撮影されたとしても、式(3)と式(4)で示したように同じ輝度値にはならない。I1(m,n)中のL1(λ)成分のルシフェラーゼの量とI2(m,n)中
のL2(λ)成分のルシフェラーゼの量とを輝度値にて比較するためには、理想的な比率(つまり、式(3)と式(4))で正規化する必要がある。以下の式(5)は、式(3)、つまりR2を1として正規化するための計算を行っている。式(6)は、R2で正規化するため、そのままである。
【0042】
式(5)に示すC1(m,n)は、第1の抽出画像情報112を補正してできる、第1の補正画像情報114の輝度値である。式(6)に示すC2(m,n)は、第2の抽出画像情報113を補正してできる、第2の補正画像情報115の輝度値である。このC2(m,n)では、I2(m,n)をそのまま用いており、補正係数による補正を行っていない。上述の通り、I1(m,n)をI2(m,n)と同じ比較ができるように補正したためである。式(5)(6)より式(5)′(6)′を得る。なお、I2(m,n)をI1(m,n)と同じ比較できるように補正しても構わないし、I2(m,n)とI1(m,n)を両方補正しても構わない。
【0043】
【数3】

図6は、上述の式(5)′(6)′に基づいて、第1の抽出画像情報112(図5(b))と第2の抽出画像情報113(図5(a))を補正して得られた、第1の補正画像情報114と第2の補正画像情報115の輝度分布である。図6(a)において、601は第1の補正画像情報114の輝度分布であり、603は第2のサンプルスポット212の干渉を受けていない場合の、理想となる第1のサンプルスポット211の輝度分布を示す。図6(b)において、602は第2の補正画像情報115の輝度分布であり、604は第1のサンプルスポット211の干渉を受けていない場合の、理想となる第2のサンプルスポット212の輝度分布を示す。
【0044】
得られた第1の補正画像情報114と第2の補正画像情報115を用いて解析を行う際、第1のサンプルスポット211に関しては輝度分布601の所定の解析領域1004の輝度値の積算値を用いて解析する。同様に、第2のサンプルスポット212に関しては輝度分布602の所定の解析領域の輝度値の積算値を用いて解析する。
【0045】
解析領域1004は隣合ったスポットの間に設ける。領域を大きくすれば目的のスポットからの光を取る量が大きくなる一方、隣のスポットからの干渉の影響が大きくなるのであるが、前者であるシグナル成分(S)と、後者であるノイズ成分(N)とにつき、S/Nが最大となる領域を解析領域1004とする。実際には、予め、それぞれのルシフェラーゼをスポットしたスライドを用意しておき、互いが干渉を起さない状態で画像(IA,IB)を取得し、2つの画像を合成して合成画像(IC)を作成する。合成する際には、それぞれのスポットを測定する条件と同じ間隔となるようにする。IA中のルシフェラーゼのスポットを中心として円形の領域を広げていき、円形の領域中の総輝度値をS、ICの同領域中の総輝度値をS+Nとし、S/Nを求める。そして、このS/Nが最大となる領域を解析領域1004とする。
【0046】
以上のようにして第1のサンプルスポット211の検体を輝度分布601の解析領域1004の積算値を用いて解析する場合、輝度分布603の積算値との差は全積算値(図中の斜線部分)の3%以下となる。先の図10に示した解析領域1004(同じ発光スペクトルを持つ標識酵素を用いたもの)の積算値を用いる場合と比較すると3分の1程度の誤差となる。第1の補正画像情報114において、スポット領域外からの発光によるノイズ、つまり第2のサンプルスポット212での発光による影響がされるためである。同様に、第2のサンプルスポット212の検体を輝度分布602の所定の解析領域の積算値を用いて解析する場合も、第2の補正画像情報115において、第1のサンプルスポット211での発光による影響が低減されるため、誤差が低減される。
【0047】
以上は、第1のサンプルスポット211と第2のサンプルスポット212という2個のスポットにルシフェラーゼが同量結合して発光している場合について説明したが、同量でない場合や、3個以上のスポットを設ける場合も、同じ手法を用いることができる。
【0048】
以上説明したように、実施の形態1の生体物質検出装置によれば、異なる発光スペクトルの標識酵素で標識された2種類の検体がアレイ状にスポットされたスライド101の撮像画像から、第1の抽出画像情報112と第2の抽出画像情報113とを抽出し、発光スペクトルと撮像手段の感度曲線とを用いてそれぞれを補正するようにしたことにより、隣接するスポット間の発光による干渉で生じる測定誤差を低減させることができる。
(実施の形態2)
図7は本発明の実施の形態2の生体物質検出装置のシステム構成を示す。
【0049】
この実施の形態2の生体物質検出装置が実施の形態1のものと異なるところは、第1および第2の基準スポット803,804が設けられたスライド701を検査対象としており、それに対応して、第1の画像補正回路702及び第2の画像補正回路703がスライド701の第1および第2の基準スポット803,804の発光量を基に補正を行うように構成されている点、その補正画像情報からグレースケールの画像情報を合成する画像合成回路704が設けられている点である。
【0050】
図中、711は第1の画像補正回路702で補正された第1の補正画像情報、712は第2の画像補正回路703で補正された第2の補正画像情報、713は画像合成回路704で合成された合成画像情報(グレースケールの画像情報)である。実施の形態1と同様の構成あるいは動作を有する物は同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0051】
図8は検査対象のスライド701を拡大して示す。スライド701には、実施の形態1で説明した第1のサンプルスポット211及び第2のサンプルスポット212が形成されている。それぞれ、解析対象の生体物質の量に応じた発光量で発光する。第1の基準スポット803は第1の画像補正回路702での補正の基準となるものであり、第1のサンプルスポット211と同じ発光スペクトルを持つ。同様に、第2の基準スポット804は第2の画像補正回路703での補正の基準となるものであり、第2のサンプルスポット212と同じ発光スペクトルを持つ。
【0052】
第1の基準スポット803及び第2の基準スポット804は、図示したように第1のサンプルスポット211及び第2のサンプルスポット212を定着した領域とは別途の基準スポット領域801に形成してもよいし、同じ領域に設けてもよい。同じ領域に設ける場合は、第1の基準スポット803と第1のサンプルスポット211とが隣り合わないように、また第2の基準スポット804と第2のサンプルスポット212とが隣り合わないように配置する。
【0053】
第1の基準スポット803と第2の基準スポット804を形成する際には、それぞれルシフェラーゼを同量だけ結合させる。第1及び第2のサンプルスポット211,212、第1及び第2の基準スポット803,804においてルシフェラーゼが結合する量は、解析対象の生体物質の量に依存するので、第1及び第2の基準スポット803,804には、解析対象の生体物質と同等の結合能を有していて、含有量が既知のハウスキーピング遺伝子によって生成される蛋白質(例えば、GAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、β−アクチン、β2−マイクログロブリン)を供給してもよいし、あるいは、生体物質の含有量が予め分かっているサンプルから分取して供給してもよい。
【0054】
以下、図7の生体物質検出装置による解析方法を説明する。
実施の形態1と同様にして、カラー画像取得部102がスライド701のカラー画像情報111を取得し、出力し、画像抽出回路103が前記カラー画像情報111から第1の抽出画像情報112及び第2の抽出画像情報113を抽出する。これら第1の抽出画像情報112及び第2の抽出画像情報113の輝度値はI1(m,n)とI2(m,n)である。
【0055】
次に、第1の画像補正回路702及び第2の画像補正回路703が互いの画像情報を定量評価できるよう補正を行う。
このためにまず、標識酵素(ルシフェラーゼ)の種類毎の基準スポットの発光量を求める。つまり、第1の画像補正回路702は、第1の補正画像情報112から第1の基準スポット803を抽出し、発光量を計算する。この発光量は、第1の基準スポット803のピーク値としてもよいし、第1の基準スポット803中の輝度値を積算した値としてもよい。算出した値を補正係数R1とする。同様に、第2の画像補正回路703は、第2の補正画像情報113から第2の基準スポット804を抽出し、発光量を計算する。算出した値を補正係数R2とする。
【0056】
次に、標識酵素の種類毎の基準スポットの発光量が等しくなるように、前記標識酵素の種類毎の抽出画像情報を補正する。つまり、第1の画像補正回路702は、実施の形態1で説明した式(5)に補正係数R1とR2を当てはめることにより、取得画像を補正した第1の補正画像情報711(C1(m,n))を得る。同様に、第2の画像補正回路703は、実施の形態1で説明した式(6)に補正係数R1とR2を当てはめることにより、取得画像を補正した第2の補正画像情報712(C2(m,n))を得る。第1および第2の画像補正回路702,703は各々、第1の補正画像情報711,第2の補正画像情報712を出力する。
【0057】
その後に、画像合成回路704が、第1の補正画像情報711と第2の補正画像情報712を合成して合成画像情報713を作成する。つまり各座標の輝度値を求める際に、第1の補正画像情報711におけるその座標の輝度値と第2の補正画像情報712におけるその座標の輝度値とを比較し、より大きい輝度値をとって、合成画像情報713の輝度値とする。
【0058】
図9において、901は合成画像情報713の輝度分布である。603は、実施の形態1で説明した、第2のサンプルスポット212の干渉を受けていない場合の、理想となる第1のサンプルスポット211の輝度分布を示している。同様に、604は、第1のサンプルスポット211の干渉を受けていない場合の、理想となる第2のサンプルスポット212の輝度分布を示す。合成画像情報713は、第1のサンプルスポット211と第2のサンプルスポット212との干渉の量を低減させたグレースケールの画像情報となっている。
【0059】
1色のルシフェラーゼで発光する検体をスポットして通常のモノクロカメラで取得する従来法では、各スポット間が干渉した画像となるのに対し、本方法では、2枚の補正画像を作成するので、各補正画像は隣り合ったスポット間の干渉が低減されたものとなり、この2枚の補正画像を合成するので、従来と同様に全てのスポットが1枚の画像中に収まり、かつ、スポット間の干渉が低減されたグレースケールの画像となるのである。
【0060】
このため、この1つのグレースケールの画像情報によって、解析を行うことができる。第1のサンプルスポット211に関しては輝度分布603の解析領域1004の輝度値の積算値を用いて解析し、第2のサンプルスポット212に関しては輝度分布604の所定の解析領域1004の輝度値の積算値を用いて解析することができるのである。
【0061】
以上説明したように、実施の形態2の生体物質検出装置によれば、スライド701に第1の基準スポット802及び第2の基準スポット803を設けるようにしたことにより、予め標識酵素の発光スペクトルの詳細な情報とカラー画像取得部102の詳細な感度特性が得られなくても、隣接した第1及び第2のサンプルスポット211,212の発光による干渉、それによって生じる測定誤差を低減させることができる。
【0062】
また画像合成回路704によって合成画像情報713を作成するようにしたことにより、この1つの合成画像情報713のみによって、つまり2つ以上の画像情報を用いるのでなく、解析を行うことができる。このことは、これまでの1種類の酵素標識方式で用いて解析手段を使用できることを意味する。合成画像情報713というグレースケールの画像1枚にまとめることができ、かつスポット間の干渉は低減されるため、従来よりある、1枚の画像を解析する解析手段を用いることが可能なのである。上記の実施の形態1では、用いたルシフェラーゼの色数だけ画像を作成するため、実際の解析はそれぞれの画像毎に行う必要があり、各色毎に解析手段を設けなければならないのに較べて、有利である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明にかかる生体物質検出装置は、スポット間における互いの発光の干渉を低減させることができるので、検査基盤に高密度にスポットした検体の解析装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1における生体物質検出装置のシステム構成図
【図2】検査対象のスライドの拡大図
【図3】スライドに用いる標識酵素による相対発光スペクトル図
【図4】図1の生体物質検出装置におけるカラー画像取得部の相対感度特性図
【図5】図4に示す相対感度特性を持つカラー画像取得部で取得した画像情報の輝度分布を示す図
【図6】図1の生体物質検出装置での補正画像情報の輝度分布を示す図
【図7】本発明の実施の形態2における生体物質検出装置のシステム構成図
【図8】検査対象のスライドの拡大図
【図9】図7の生体物質検出装置での合成画像情報の輝度分布を示す図
【図10】従来より生体物質検出に用いられている標識酵素による輝度分布を示す図
【符号の説明】
【0065】
101 スライド
111 カラー画像情報
112 第1の抽出画像情報
113 第2の抽出画像情報
114 第1の補正画像情報
115 第2の補正画像情報
211 第1のサンプルスポット
212 第2のサンプルスポット
301 第1の発光スペクトル
302 第2の発光スペクトル
401 青色感度曲線
402 緑色感度曲線
403 赤色感度曲線
501 画像情報IRの輝度分布
502 画像情報IGの輝度分布
503 画像情報IBの輝度分布
504 検体Cのスポット中心位置
505 検体Dのスポット中心位置
601 第1の補正画像情報の輝度分布
602 第2の補正画像情報の輝度分布
603 輝度分布
604 輝度分布
701 スライド
702 第1の画像補正回路
703 第2の画像補正回路
704 画像合成回路
711 第1の補正画像情報
712 第2の補正画像情報
713 合成画像情報
801 基準スポット領域
803 第1の基準スポット
804 第2の基準スポット
901 合成画像情報の輝度分布
1001 輝度分布
1002 輝度分布
1003 取得輝度分布
1004 解析領域
1005 検体Aのスポット中心位置
1006 検体Bのスポット中心位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光もしくは蛍光性質を有する検体を定着した複数のスポットを有する検査基盤の画像を取得して解析を行う生体物質検出装置であって、
隣り合うスポットが異なる発光スペクトルで発光するように複数種類の標識酵素で標識した検体をアレイ状に定着した検査基盤を対象とし、前記検査基盤の画像をカラー画像情報として取得するカラー画像取得部と、
前記カラー画像情報から前記標識酵素の種類毎に対応した画像情報を抽出し、抽出した複数の抽出画像情報を出力する画像抽出回路と、
前記複数の抽出画像情報の各々に対応して設けられていて、各抽出画像情報間で定量的な評価が可能となるように各抽出画像情報を補正し、補正画像情報を出力する画像補正回路とを備えたことを特徴とする生体物質検出装置。
【請求項2】
複数の補正画像情報を1つに合成して合成画像情報を出力する画像合成回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出装置。
【請求項3】
画像補正回路が、標識酵素の発光スペクトルとカラー画像取得部の視感度特性とから補正係数を算出し、算出した補正係数を用いて各抽出画像情報を補正することを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出装置。
【請求項4】
検査基盤に標識酵素の種類毎に発光量を定量化するための基準スポットが設けられており、画像補正回路は、前記標識酵素の種類毎の抽出画像情報から前記基準スポットを抽出し、その発光量を算出し、発光量値より補正係数を算出し、算出した補正係数を用いて、前記標識酵素の種類毎の基準スポットの発光量が等しくなるように、前記標識酵素の種類毎の抽出画像情報を補正することを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−156715(P2009−156715A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335424(P2007−335424)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】